• 検索結果がありません。

IASB 公開草案「財務報告に関する 概念フレームワーク」に関する一考察

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "IASB 公開草案「財務報告に関する 概念フレームワーク」に関する一考察 "

Copied!
15
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

Ⅰ は じ め に

国際会計基準審議会(IASB)は,2015年5月28日に公開草案「財務報告 に関する概念フレームワーク」を公表している。そこで本稿では,公開草案 の概要と主な変更点を中心に検討を加えることにしたい。

現行の概念フレームワークは,測定,表示および開示に関するガイダンス を十分に提供しておらず,認識や測定に関する意思決定において測定がどの ような役割を果たすのかが不明瞭であり,資産や負債をいつ認識するべきか に関する現行のガイドラインは時代遅れであるとされていた。これらが概念 フレームワークが改訂されようとしている背景であるという。

公開草案「財務報告に関する概念フレームワーク」は,第1章 目的,第 2章 有用な財務諸表の質的特性,第3章 財務諸表と報告企業,第4章 財務諸表の構成要素,第5章 認識および認識の中止,第6章 測定,第7 章 表示および開示,第8章 資本および資本維持の概念の各章から構成さ れている。

IASB 公開草案「財務報告に関する 概念フレームワーク」に関する一考察

池 田 健 一

−675−

( 1 )

(2)

Ⅱ 公開草案の概要1)

1.一般目的財務報告の目的

第1章「一般目的財務報告の目的」は,2010年に改正された現行の概念フ レームワークを引き継いでおり,公開草案による変更の提案は限定的である。

ただし,財務報告の目的として企業への将来の正味キャッシュ・インフロー の見通しに関する評価に加えて,受託責任(stewardship)を評価するために 必要とされる情報の提供が提案されている(1.3項)。この受託責任の概念は 現行の概念フレームワークにはなかったものである。ここで受託責任とは,

企業の経営者や統治機関が企業の資源を利用する責任をどれだけ効率的に果 たしたのかに関する情報とされる(1.4項,1.22項)。

公開草案の文言では,企業への将来の正味キャッシュ・インフローの金額,

時期および不確実性(見通し)に関する情報と企業の資源に係る経営者の受 託責任を評価するために必要とされる情報が同等の扱いとされているという

(1.3項)。

2.有用な財務情報の質的特性

第2章「有用な財務情報の質的特性」は,2010年に改正された現行の概念 フレームワークで第3章とされていた2)。公開草案では以下の限定的な変更 を提案している。

①測定の不確実性は財務諸表の目的適合性に影響を与える1つの要因であ り,測定の不確実性のレベルと情報の目的適合性を高める他の要因との

1) 公開草案の第1章と第2章では,一般目的財務報告書を論じている。第3章から 7章では,一般目的財務報告書のうち最も重要な形態である財務諸表に焦点を当 てている(BC3.1項)。

2) 現行の概念フレームワークの第2章「報告企業」を公開草案で削除することが提 案されている(大雄[2015]91頁)。

−676−

( 2 )

(3)

間にトレードオフがある(2.12項)。

②忠実な表現は,単なる法的形式に関する情報ではなく,経済現象の実質 に関する情報を提供する(2.14項)。現行の概念フレームワークでは,

形式に対する実質の優先(substance over form)については明示的な言 及が記載されていないが,明示的な言及を行うべきであるという見解が 示された(BC2.19)。

③忠実な表現であるための3つの特性のうちの1つである中立性を支える 慎重性(prudence)が再導入された。ここで慎重性とは,不確実性の状 況下で判断を行う際に警戒心を行使することである(2.18項)。このよ うな慎重性の行使は,資産及び収益を過大表示せず,負債及び費用を過 小表示しないことを意味するとされている。

IASBは,慎重性は不確実性の状況下で判断を行う際に用心深くあること の必要性を指して使用している(「注意深さとしての慎重性」)ときと損失は 利得よりも早い段階で認識される(「非対称な慎重性」)ときがあるとする

(BC2.6項)。IASBはこのうち「注意深さとしての慎重性」は概念フレーム ワークに復活させるが「非対称な慎重性」は概念フレームワークに復活させ ない考えであるという。

3.財務諸表と報告企業

第3章「財務諸表と報告企業」は公開草案で新たに設けられた章である3) 本章では,財務諸表の目的について,企業の資産,負債,持分,収益および 費用に関して,財務諸表利用者が企業への将来の正味キャッシュ・インフ ローの見通しの評価および企業の資源に係る経営者の受託責任の評価を行う 際に有用な情報を提供することと提案されている(3.4項)。ここで財務諸表

3) 20155月に公表された公開草案のうち,第3章から第7章が新たに設けられ

た章である。

IASB公開草案 「財務報告に関する

概念フレームワーク」 に関する一考察(池田) −677−

( 3 )

(4)

は,投資者,融資者または他の債権者の特定の集団の視点からではなく,企 業全体の視点から作成される(3.9項)。

また,報告企業とは,一般目的財務諸表の作成を選択するかまたは要求さ れる企業であると提案されている(3.11項)。さらに,ある企業(親会社)

が他の企業(子会社)に対する支配を有している場合には,報告企業の境界 を①経済的資源に対する直接支配のみを境界の基礎としている報告企業の財 務諸表を非連結財務諸表4)と呼んでいるのに対し,②直接支配と間接支配の 両方を境界の基礎としている報告企業の財務諸表を,連結財務諸表と呼んで いる(3.14項および3.15項)。公開草案では,一般に,連結財務諸表は非連 結財務諸表よりも財務諸表利用者にとって有用な情報を提供する可能性が高 いとしている(3.23項)。なお,この規定についてEFRAGは同意しておら ず,ASBJでもこの規定の内容やこの規定を設けることに対して見解が分か れている。

4.財務諸表の構成要素

第4章「財務諸表の構成要素」は,報告企業の財政状態に関する要素であ る資産,負債および資本と,報告企業の財務業績に関する要素である収益お よび費用の定義をそれぞれ示している。このうち,資産と負債の定義が現行 の概念フレームワークから次のように変更されている。

資産とは,企業が過去の事象の結果として支配している現在の経済的資源 である(4.5項)。一方,負債とは,企業が過去の事象の結果として経済的資 源を移転する現在の義務である(4.24項)。そして資本とは,企業のすべて の負債を控除した後の資産に対する残余持分である(4.44項)。負債の定義 において,企業は①企業が移転を回避する実際上の能力を有していない,②

4) IAS27号「個別財務諸表」では,個別財務諸表とされていた。

−678−

( 4 )

(5)

義務が過去の事象から生じている,すなわち,企業は自らの義務の範囲を設 定する経済的便益の受取りまたは活動を行った,の両方に該当する場合には,

経済的資源を移転する現在の義務を有している(4.31項)。

また,収益とは,資本の増加を生じる資産の増加または負債の減少(持分 請求権の保有者からの拠出に関するものを除く)である(4.48項)。費用は,

資本の減少を生じる資産の減少または負債の増加(持分請求権の保有者への 分配を除く)である(4.49項)。

これらに加え,現行の概念フレームワークにはなかった経済的資源の定義 が次のように提案されている。つまり,経済的資源とは,経済的便益を生み 出す潜在能力を有する権利である(4.6項)。

米山[2015]は,資産や負債を経済的便益(economic benefits)に代えて 経済的資源(economic resource)に関連づけて定義するとともに,後者(資 源)を「前者(便益)を生み出す潜在的な能力を有する権利」と位置づけた こと,およびこれと併せて「経済的資源を移転させる現在の義務」と定義さ れた負債が生じているかどうかに関して,具体的なガイダンスが提供された ことが重要な改善点としている(68頁)。

5.認識および認識の中止

第5章「認識および認識の中止」では,まず,資産,負債または資本の定 義を満たす項目だけが財政状態計算書に認識され,収益または費用の定義を 満たす項目だけが財務業績の計算書に認識されるとしている(5.7項)。ここ で認識とは,財政状態計算書および財務業績の計算書への記載のために,構 成要素の定義を満たす項目を補足するプロセスである(5.2項)。これらの構 成要素を認識するのは,財務諸表利用者に①目的適合性のある情報,②忠実 な表現,③コストを上回る便益を提供する場合であると提案している(5. 項)。

IASB公開草案 「財務報告に関する

概念フレームワーク」 に関する一考察(池田) −679−

( 5 )

(6)

しかし,下記の要因のいずれかに当てはまる場合には,認識によって目的 適合性のある情報が提供されない可能性があるとされる(5.13項)。①資産 が存在するのかどうか若しくはのれんから分離可能なのかどうか,または負 債が存在するのかどうかが不確実である場合,②資産または負債が存在する が,経済的便益の流入または流出が生じる蓋然性が低いものでしかない場合,

③資産または負債の測定が利用可能である(または入手できる)が,測定の 不確実性のレベルが非常に高いため,もたらす情報にほとんど目的適合性が なく,他の目的適合性のある測定値が利用可能でなく入手可能でもない場合。

これらの要因や他の要因は認識基準を満たさない原因となりうる。

次に,認識の中止についての会計上の要求事項は,下記の両方を忠実に表 現することを目的としている(5.26項)。①認識の中止の原因となった取引 または他の事象の後に保持した資産および負債(当該取引または他の事象の 一部として取得,発生または創出された資産または負債を含む)。②当該取 引または他の事象の結果としての企業の資産および負債の変動。

なお,認識の中止とは,過去に認識した資産または負債の全部または一部 を企業の財政状態計算書から除去することである。資産については,これは 通常,企業が過去に認識した資産の全部または一部に対する支配を喪失する 場合に生じる。負債については,これは通常,企業が過去に認識した負債の 全部または一部について現在の義務をもはや有していない場合に生じる(5.

25項)。現行の概念フレームワークには認識の中止の規定がなく,公開草案 で上記のように提案されている。

6.測

現行の概念フレームワークにおいて,測定とは,貸借対照表および損益計 算書で認識され計上されるべき財務諸表の構成要素の金額を決定するプロセ スをいうと規定されており(4.54項),測定基礎として,取得原価,現在原

−680−

( 6 )

(7)

価,実現可能価額,現在価値の4つが示されている。しかし,このような測 定に関する規定は不十分であり再検討が必要であるとしばしば指摘されてい た。

これに対し,公開草案の第6章「測定」では,現行の概念フレームワーク の内容を大幅に拡充する次のような提案が行われている。

①測定基礎を歴史的原価または現在価額に区分した(6.4項)。このうち現 在価額には公正価値と資産についての使用価値および負債についての履 行価値が含まれる(6.20項)。ここで公正価値とは,測定日現在で,市 場参加者間の秩序ある取引において,資産を売却するために受け取るで あろう価格または負債を移転するために支払うであろう価格であるとさ れる(6.21項)。一方,使用価値とは,資産の継続的使用とその耐用年 数の最終時における処分から得られると見込まれるキャッシュ・フロー の現在価値であるとされ,履行価値とは,負債の履行時に生じると見積 られるキャッシュ・フローの現在価値であるとされる(6.34項)。

②測定基礎を選択する際に,当該測定基礎が財政状態計算書と財務業績の 計算書の両方においてどのような情報をもたらすのかを考慮することが 重要である(6.53項)。

③目的適合性のある情報を生み出すためには,資産または負債および関連 する収益および費用についての測定基礎を選択する際に,以下の要因を 考慮することが重要であるとされる(6.54項)。

!当該資産または負債が将来キャッシュ・フローにどのように寄与する のか。これは,部分的には,企業が行っている事業活動の性質に応じ て決まることになる。例えば,ある不動産が他の資産との組合せで財 およびサービスを生産するために使用される場合には,当該財および サービスの販売から生じるキャッシュ・フローを生み出すのに役立つ ことになる。

IASB公開草案 「財務報告に関する

概念フレームワーク」 に関する一考察(池田) −681−

( 7 )

(8)

!当該資産または負債の特徴(例えば,当該項目のキャッシュ・フロー の変動可能性の性質または程度,市場要因の変動または当該項目に固 有の他のリスクに対する当該項目の価値の感応度)。

④ほとんどの場合,資産,負債,収益または費用に関する目的適合性のあ る情報を提供する最も理解可能性の高い方法は,財政状態計算書におけ る資産または負債と,財務業績の計算書における関連する収益および費 用の両方について,単一の測定基礎を使用し,かつ,他の測定基礎を使 用した追加的な情報を財務諸表注記において開示することとされる(6.

75項)。

しかし,場合によっては,資産または負債が将来キャッシュ・フローに 寄与する方法(これは部分的には企業が行う事業活動の性質に応じて決 まる)あるいは資産または負債の特性により,下記の測定基礎を使用す ることによって,財政状態計算書および財務業績の計算書において提供 される情報の目的適合性が高まる(6.76項)。

!財政状態計算書における資産または負債について,現在価値の測定基 礎。

!純損益計算書における関連する収益または費用を決定するための上記 と異なる測定基礎。

米山[2015]は,財務諸表において認識することとされた資産や負債の測 定基礎と,複数の測定基礎を使い分ける際の判断規準が明確に示されたこと が主要な特徴であると指摘している(68頁)。

7.表示および開示5)

第7章「表示および開示」では,財務諸表の目的および範囲,財務業績に 関する情報などが提案されている。

まず,財務諸表の範囲は,その目的によって決定されるとする(7.2項)。

−682−

( 8 )

(9)

ここで財務諸表の目的とは,企業の資産,負債,持分,収益及び費用に関し て,財務諸表利用者が企業への将来の正味キャッシュ・インフローの見通し を評価し,企業の資源についての経営者の受託責任を評価するのに有用な情 報を提供することである。この情報は,①財政状態計算書および財務業績の 計算書において,構成要素の定義を満たす項目を認識することによって,② 財務諸表の他の部分(財務諸表注記を含む)において,構成要素の定義を満 たした認識した項目,構成要素の定義を満たすが,認識されていない項目,

キャッシュ・フロー,持分請求権の保有者からの拠出または持分請求権の保 有者への分配に関する情報を提供することによって提供される(7.2項)。

また,財務諸表注記で提供される情報には,次のものが含まれる(7.3項)。

①認識した構成要素と未認識の構成要素の両方の性質およびそれらから生 じるリスクに関する情報。

②表示または開示される金額に影響を与える方法,仮定および判断ならび に当該方法,仮定および判断の変更。

さらに,可能性が高いかまたは生じ得る将来の取引および事象に関する将 来予測的な情報を財務諸表に含めるのは,当該情報が,期末日現在または期 中に存在した企業の資産,負債および持分(たとえ未認識であっても),あ るいは当該期間に係る収益および費用に関する目的適合性のある情報を提供 する場合のみである(7.4項)。

これに加え,資産,負債,収益,費用または持分を,共通した特徴に基づ いて区分けすることである分類(7.10項)と,特徴を共有していて一緒に分 類される個々の項目を合算することである集約(7.14項)など,伝達ツール

5) 20137月に公表されたディスカッション・ペーパー「財務報告に関する概念

フレームワークの見直し」では,基本財務諸表および財務諸表注記について,それ ぞれ目的を示すことを提案していた。しかし,公開草案ではそのような定義および 目的は,業績報告プロジェクトおよび開示に関する取組みにおいて検討することと された(BC7.5項)。

IASB公開草案 「財務報告に関する

概念フレームワーク」 に関する一考察(池田) −683−

( 9 )

(10)

としての表示および開示について提案している。

続いて,第7章では,財務業績に関する情報が次のように提案されている。

財務業績に関する情報をより効率的かつ効果的に伝達するために,収益およ び費用は財務業績の計算書において,純損益計算書(これには純損益に係る 小計または合計が含まれる)とその他の包括利益(OCI)に分類される(7.

19項)。

ここで純損益計算書に含められる収益および費用は,企業の当期の財務業 績に関する情報の主要な源泉である(7.21項)。したがって,すべての収益 およびすべての費用が純損益計算書に含まれることになるという推定があり

(7.23項),当該推定は,収益または費用を純損益計算書から除外することが 当期の純損益計算書の中の情報の目的適合性を高める場合に反証できる(7.

24項)。つまり概念フレームワーク公開草案(2015)は,原則としてすべて の業績を(「その他の包括利益」を介在させることなく,最初から直接)当期 純利益に反映させる,という基本方針を示している(米山[2015(2)],69 頁)6)

なお,公開草案では,純損益の定義については特に与えられていない。IASB は,概念フレームワークにおいて,どのような場合に収益または費用の項目 を純損益計算書またはその他の包括利益(OCI)に含めるべきなのかを定義 するかまたは精密に記述することは,実行可能でもなく適切でもないと判断 した。その代わりに,IASBは,概念フレームワークに,このトピックおよ び事後的な分類変更に関するハイレベルのガイダンスを記載することを提案 している(BC7.36項)。

6) 原価ベースで把握された財務業績については,例外なくこの原則が適用される。

例外的対応(「その他の包括利益」の使用)が求められるのは現在価値による再評価 差額の一部だけであり,例外が適用されるのは,そのことによって損益計算書に記 載されている情報の有用性が高まる場合に限られる,としている(米山[2015(2)],

72頁)。

−684−

( 10 )

(11)

収益または費用がある期間においてOCIに含められる場合には,それが 将来のどこかの期間において純損益計算書に振り替えられることになる(リ サイクリング)という推定がある(7.26項)。こうした振替が行われるとい う推定が反証される可能性があるのは,例えば,振替が純損益計算書におけ る情報の目的適合性を高めることとなる期間を識別するための明確な基礎が ない場合である(7.27項)。

米山[2015]は,例外を許容しているものの,いったんOCIに含めた項 目をすべてリサイクリングの対象とする旨の基本原則を明示したこともまた,

「公開草案」に固有の重要な特徴の1つといえるであろうとしている(70頁)。

このように公開草案では,純損益を企業の当期の財務業績に関する情報の 主要な源泉であると規定しており,純損益とその他の包括利益(OCI)に分 けて財務業績を伝達する提案が行われている。

なお,公開草案では,財務業績の計算書を一計算書方式とするのか二計算 書方式とするのかについて定めていない。

米山[2015]は,当期純利益が「主要な業績指標」であることを明示した 点もまた,「公開草案」の最も大きな特徴の1つとしている(69頁)。さらに,

公開草案はOCI項目を使用することについて抑制的なスタンスを取ってお り,すべての業績を認識当初から当期純利益に直接反映させることを基本原 則としていることも「公開草案」の最も大きな特徴の1つとしている(米山

[2015],69頁)。

8.資本および資本維持の概念

第8章「資本および資本維持の概念」については,現行の概念フレームワー クの第4章から引き継いだ内容であり,ほとんど変更されていない。

IASB公開草案 「財務報告に関する

概念フレームワーク」 に関する一考察(池田) −685−

( 11 )

(12)

Ⅲ 現行の基準と改訂「概念フレームワーク」との間の不整合

2013年7月に公表されたディスカッション・ペーパー「財務報告に関する 概念フレームワークの見直し」に対するコメント提出者からの提案に基づき,

IASBは現行の基準および解釈指針をレビューして,改訂「概念フレームワー ク」の提案との間の不整合の識別を行った7)

この結果,!1主要な不整合,!2軽微な不整合,!3新たに提案された概念に よって解消される不整合が公開草案の結論の根拠で示されている。

! 主要な不整合

IAS第32号「金融商品:表示」の負債および持分の分類の要求事項の一部 は,負債および持分についての現行の「概念フレームワーク」の定義と提案 している定義の両方と不整合であるという。また,IFRIC第21号「賦課金」

での解釈によるIAS第37号「引当金,偶発負債および偶発資産」の要求事 項は,負債の識別に関する新たな概念と整合していない8)

! 軽微な不整

IAS第37号「引当金,偶発負債および偶発資産」が現行の負債の定義を,

IAS第38号「無形資産」が現行の資産の定義をそれぞれ引用している(BCE.

12項)。

次に,表示および開示について,①公開草案で具体的な目的を記載するこ

7) なお,①認識および測定の要求事項に関する判断,②以前の期間にOCIに含め た収益および費用の純損益計算書への振替についてどのような判断を行うことにな るのかについては検討していない。さらに,③現在提案されている概念と整合的で あるが,現時点では結論の根拠において異なる概念を用いて説明されている要求事 項,④コストと便益の考慮が決定要因となったように思われる要求事項については 対象としていない(BCE.4項,BCE.5項)。

8) BCE.7項,BCE.9項およびBCE.10項を参照。

−686−

( 12 )

(13)

との便益を述べているが,多くの古い基準ではそのような目的を記載してい ない。②公開草案で財務諸表に将来予測的な情報を含めるのは,当期末現在 または当期中に存在していた資産および負債に関する目的適合性のある情報 を提供する場合のみであると提案しているが,これが翌年次報告期間につい ての確定給付制度または確定拠出制度への予想される拠出を開示することを 企業に要求するIAS第19号「従業員給付」と整合しない9)

さらに,現行の会計基準では,「信頼性」という用語が①ある項目に関連 した測定の不確実のレベルが許容可能であること,②2010年以前の「フレー ムワーク」で誤謬がないこと,中立性,慎重性,完全性および形式に対する 実質の優先を含む,という2つの異なる意味で使用されている。しかし,

IASBは「信頼性」という用語を復活させないことを提案している10)

! 新たに提案された概念によって解消される不整合

基準と現行の「概念フレームワーク」との間の既存の不整合の一部は,公 開草案の提案によって解消されることになるとしている(BCE.22項)。

例えば,現行の「概念フレームワーク」では,資産または負債は,将来の 経済的便益が企業に流入するかまたは企業から流出する可能性が高い場合に のみ,認識すべきであると明示している。しかし,IASBは,一部の資産お よび負債(一部のデリバティブなど)の認識は,将来キャッシュ・フローの 可能性に関係なく,財務報告の目的を満たすと判断し,この認識基準をいく つかの基準では適用しなかったという(BCE.23項)。

公開草案では,「概念フレームワーク」の変更案の影響が検討されている。

現行の基準と改訂「概念フレームワーク」との間の不整合に関して,2つの 現行の基準(IAS第1号とIAS第8号)が,「概念フレームワーク」におけ

9) BCE.14項およびBCE.15項を参照。

10) BCE.17項およびBCE.18項を参照。

IASB公開草案 「財務報告に関する

概念フレームワーク」 に関する一考察(池田) −687−

( 13 )

(14)

るガイダンスに直接に依拠しており,基準と「概念フレームワーク」との間 の直接の連結環として機能しているとされる。

Ⅳ む す び

本稿では,公開草案「財務報告に関する概念フレームワーク」の概要と主 な変更点を中心に検討を加えた。周知のとおり,概念フレームワークはIASB が会計基準を開発したり,財務諸表作成者が首尾一貫した会計方針を採用し たり,IFRSを理解したり解釈するのに役立つ。また,概念フレームワーク IASBが会計基準を設定する際の前提であるため,IASBによって開発さ れる将来の会計基準に影響を及ぼす。

公開草案における主な変更点の多くが,現行の概念フレームワークに対し てこれまでに提起されていた問題点の修正であるとも考えられる。これらの 変更のうち,資産や負債の定義の変更による将来の個別の会計基準への影 11)や,測定に関する規定が設けられたことによる将来の会計基準へ影響や 会計実務への影響などについて,これから検討していくことが必要になると 考えられる。

参考文献

Brouwer, A., Hoogendoorn, M., and Naarding, E., Will the changes proposed to the Concep- tual framework’s definitions and recognition criteria provide a better basis for IASB standard setting?Accounting and Business Research, Vol.45, No.5, 547571.

International Accounting Standards Board, Exposure Draft : Conceptual Framework for Fi- nancial Reporting, May 2015.

大雄 信「IASB公開草案『財務報告に関する概念フレームワーク』の解説」会計基

11) Brouwer et al.[2015]は,IASBが現行の概念フレームワークの資産と負債に関す る定義と認識規準を首尾一貫して適用していないことを明らかにしている(p.568)。

また,Brouwer et al.[2015]は,資産や負債の定義や認識規準が最近のバランスシー トを重視する会計モデルの重要な基礎であることから,これらを重要視している。

−688−

( 14 )

(15)

準 第50巻,2015年。

米山正樹「問い直すべき概念フレームワークの存在意義−「概念フレームワーク」見 直しプロジェクトの成果と課題−」『会計・監査ジャーナル』第724巻,2015年。

――「概念フレームワークプロジェクト−純利益と「その他の包括利益」の分類規準 をめぐる通念の検証」辻山栄子編著『IFRSの会計思考』中央経済社,第2章所 収,2015年(2)。

付記

太田正博先生の福岡大学商学部における長年にわたる功績に敬意を表しま すとともに先生のご健康と今後一層のご活躍をお願い申し上げます。

IASB公開草案 「財務報告に関する

概念フレームワーク」 に関する一考察(池田) −689−

( 15 )

参照

関連したドキュメント

(3)財務諸表の表示区分

2019 年 6 月号 財務諸表論 つぶ問 1問目 【問題】 以下は,企業会計基準第

連結に おけ る外貨 表示 財 務諸表 の換 算と 測定 単位概 念V... 外貨表示 財務諸表 の換 算におけ る単一測 定単 位概念 と複数

0 連結手続の明確化 (連結調整勘定の償却期間(原則20年以内) の明記等)

当連結会計年度より「四半期財務諸表に関する会計基準」(企業会計基準第12号)及び「四半期財務諸表に関する

IFRS による連結財務諸表の作成が一部の企業に認められるようになったのは、2009 年 12

2001/453/EC annual reports of companies" IASC for the Preparation 1989: "Framework and Presentation 対訳「財 of Financial