氏 名 うちだ あい
打田 愛
学 位 の 種 類
博士(医学)
報 告 番 号
甲第
1810号
学位授与の日付
令和
2年
3月
16日
学位授与の要件
学位規則第
4条第
1項該当(課程博士)
学 位 論 文 題 目
Calprotectin Play a Role as a DAMP for Development of Tubulointerstitial Injury Accompanied with MPO-ANCA- Associated Glomerulonephritis
(カルプロテクチンの MPO-ANCA 関連糸球体腎炎の尿細管間質障 害における DAMP としての働き)
論 文 審 査 委 員 (主 査) 福岡大学 教授
田中 正利
(副 査) 福岡大学 教授
廣松 賢治
福岡大学 准教授
上杉 憲子
内 容 の 要 旨
【目的】
増殖性糸球体腎炎では、半月体形成により糸球体毛細血管からボウマン腔への炎症性 蛋白や障害細胞由来タンパクあるいは分子が漏出することで、尿細管の上皮の障害が進 展し、尿細管間質障害の増悪を助長すると考えられている。好中球細胞質抗体(ANCA)関 連糸球体腎炎(ANCAGN)は、代表的な半月体形成性糸球体腎炎ではあるが、その尿細管間 質障害は、他の半月体形成性糸球体腎炎に比して障害の程度が強く、その重症度は糸球 体障害のそれより高度に障害されることが知られており、このことが腎の予後の悪化に 繋がっていることが指摘されている。この事実は、ANCAGN には疾患特異的な尿細管間質 障害機序が存在することを示唆していると考えられる。ANCA により活性化された好中球 は、neutrophil extracellular trap (NETs)により、多くのタンパクや分子を放出し、
それらは DAMP(damage-associated molecular patterns)として機能している。これらの
DAMP がマクロファージや樹状細胞の細胞質に存在する Nod-like receptor family pyrin
domain–containing-3 ( NLRP3 ) inflammasome の構成を促し、その結果 IL-1βを産生そ
して分泌する自然免疫を作動させると考えられているからである。本研究では、ANCA に
よる好中球活性化で自然免疫が作動することが、尿細管間質障害が進展する大きな要因
であること明らかにするとともに、DAMP のひとつである好中球由来カルプロテクチンが
実際に inflammasome を活性化していることを明らかにすることを目的としている。
【対象と方法】
2015 年 1 月から 2018 年 12 月の福岡大学医学部腎臓・膠原病内科学教室で入院、精 査、治療を行った 35 例の MPO-ANCA 陽性患者であり、半月体形成性糸球体腎炎を呈した 症例(ANCAGN)と 25 例の半月体形成を呈した IgA 腎症症例(IgA nephropathy ; IgAN)
の腎生検標本を対象として解析を行った。さらに糸球体障害と尿細管間質性腎障害を免 疫組織学的にも評価した。それぞれの糸球体障害は、細胞性半月体形成性糸球体数を全 糸球体数で割った細胞性半月形成率(cCFR)によって評価した。尿細管間質障害は尿細 管間質で重複しない強拡大下の 5 箇所での浸潤細胞数の平均値(cTII)で評価した。腎 生検標本のカルプロテクチンの発現は、免疫組織学的に評価した。カルプロテクチン陽 性細胞を有する糸球体の 5 つを平均し、糸球体カルプロテクチン陽性スコア(GCP)とし た。尿細管間質では、重複しない強拡大視野の 5 箇所を平均し、尿細管間質カルプロテ クチン陽性スコア(TICP)とした。Inflamasome の活性化は腎生検組織から抽出した mRNA を鋳型として RT-PCR を行い、NLRP3 inflammasome 関連分子である Toll-like receptor 4 (TLR4), NLRP3, IL-1βの mRNA 発現量を評価した。
【結果】
ANCAGN では cCFR と cTII 値の有意な相関は認められなかった。一方、IgAN では、cGFR と cTII の値間に有意な相関を認めた。この結果は、ANCAGN では IgAN と異なる機序で尿細 管間質障害が進展することを示している。ANCAGN と IgAN の両群でカルプロテクチンの関 与を評価した。両群の細胞性糸球体半月体の周囲でカルプロテクチンの発現が認められた。
尿細管間質の小血管周囲には著明な数のカルプロテクチン陽性細胞が認められた。ANCAGN の TICP は、cTII の値と相関していた。cTII は TLR4、NLRP3、IL-1βと有意に相関してい た。しかし、TICP は TLR4 とは相関を見せたが、cTII と相関を認めた NLRP3、IL-1βとは 有意な相関が認められなかった。カルプロテクチンは DAMP のひとつとして機能している が、カルプロテクチン以外の多くの分子が DAMP として働いていることがこの結果の意味 するところだと示唆された。免疫組織化学的解析では、カルプロテクチンは、受容体であ る TLR4 や NRLP3 タンパク質とともに重症の炎症浸潤領域で陽性に染色されたが、共通し て染色が認められない場所も多かった。
【結論】
ANCA で活性化された好中球、また活性化されたマクロファージによって産生されるカ ルプロテクチンは、尿細管間質で樹状細胞やマクロファージに対して NLRP3
inflammasome を活性化する DAMP として働いていることが示唆された。この反応は尿細 管間質障害の発生と重症化に関与している。自然免疫の結果産生される NLRP3
inflammasome を抑制、あるいはは IL-1βの制御は尿細管間質障害の進行を抑制する可能
性があり、ANCAGN による慢性腎臓病の予後を改善することが期待される。
審査の結果の要旨