ソ連 自動車企業 力マズの組織構造
‑ マ トリ ックス組 織 の導 入 を中心 に ‑
小 田 福 男
目 次 1. は じめに
2.全般的組織構造 3.マ トリックス構造
4.個別技術 プログラム管理 システム 5. おわ りに
1.は じ め に
本稿の課題 は, ソ連邦の大型 トラック製造企業 力マズ (法律的には生産合同 形態 をとっている)の組織構造 を考察することである。その際,特 に注 目 した いのはいわゆるマ トリックス構造さぁる。マ トリックス構造 は,1950年代後半 にアメリカの航空宇宙産業 において導入 され,その後次第 に普及 していった組 織形態であると言われている。1ソ連邦 においてもこの組織形態が注 目され,一 部の企業や組織 において導入 された。従 ってこのことは,経営技術 の体制間移 転の一つの事例 と見 なす ことが出来 る。 この間題 は周知のように, レーニ ンに
よるテイラーの科学的管理法の批判的摂取の主張以来の長 い歴史 を有する,哩 論的 にも2実践的にも重要 な問題 である。今 日においてもソビエ トはアメ リカ の種 々の経営技術,管理技法 を導入 している。3そのような経営技術 の一つであ るマ トリックス組織 をとりあげ,その導入の経過 と実態等 を考察する。
原稿受領 日 1986年10月6日
1 〔13〕 p.120,邦訳の161頁,〔16〕97頁。
2 〔18〕102‑108頁。
3 〔13〕特 に第七章。
〔307〕
βOβ 商 学 討 究 第 37巻 第1・′2・3号
究 の一環 でもある。4っ ま りマ トリックス組織 の導入 に関 して具体的実態分析 を 行 う際,特 に自動車製造企業 力マズにおいてそれがどの ように導入 されたか を 検討す る。
そこでまず最初 に, このカマズの概略 を説明 しておこう。カマズは, タター ル 自治共和 国のブ レジネフ市 (モスクワの東方約900kmにある)に位置 し,約 100knfの単一工業用地 に立地 している。 トラック工場 と しては世界 で も最大級 のもので,その生産能力 は8トンジーゼル トラック15万台およびジーゼルエ ン ジン25万台 (自工場 で組立 てる トラ ックに搭載 される分 も含 む)である。5この 工場 はソ連邦政府の重点的建設 プロジェク トと して1969年12月 にその建設が開 始 され,1976年 2月 に第一期工事 が完了 し,6ヵマ製 トラ ック 「カマズー5320」
の第‑号車が工場か ら送 りだ された。その後1981年 に第二期工事分が完 了 し, それによって予定生産能力が実現 された。
この工場の建設 の際 に,西側企業 との技術協力がかな りの規模でお こなわれ た。例 えばこの工場の総工費30億 ルーブル (1970年の ドル換算 で33億 ドル)の うち約7.5億 ドル(約23%)が西側企業 か らの機械 ・設備等 の購入 に当て られた。
主 な事例 を挙 げると, フランスの諸企業 (ル ノー社等 )か らはエ ンジンプラン トの設計 およびその設備,塗装設備 ,溶接設備が導入 された。 アメ リカか らは 鋳造工場 の設計 (pullman‑Swindell社 ),お よびその設備 が導入 された。そ の際,1970年 頃までにアメリカが開発 した最新鋭 のもの (例 えば高度 の 自動化 鋳造 ライン)が導入 された。また西 ドイツか らは トランス ミッシ ョン組立て設 備や鍛造加工設備, イタリアか らはコンベ アシステム,そ して 日本か らはプ レ スライン, トランス ファーマ シンが導入 された。7ただ しこれ ら輸入 されたもの
4 最近の もの としては 〔19〕 がある。
5 カマズの この生産能力 は,乗用車 に換算すれば約200‑300万台 にあたると言 われて いる (〔9〕 p.169)。なお 〔20〕ではカマズの総面積 を300万m2と記 している (190 頁 )0
6 〔5〕 C.117, なお 〔3〕 で は1976年12月 に操業 が開始 され たと記 している (C・
129)0
7 〔20〕 C.190‑191・ なお 〔21〕 (上 )で はカマ ズの総建設 費 を50億 ルーブル (約 56億 ドル)以上 と している (9頁 )0
ソ連 自動車企業 力マズの組織構造 3()9
以 外 の設 備 類 (特 に第 二 期 工 事 分 )の供 給 な らび に プ ロ ジ ェ ク ト全体の設計や
建 設 の監 督 , トラ ックや ジーゼ ルエ ン ジ ンの設 計 は ソ連 邦 自身で行 った。8
組織的に は, 企 業 合 同 の一 形 態 で あ る生 産 合 同 と い う形 態 を当初か ら採 って いる。そ してその大規模性のために自動車工業省に直属している (二環管理 シ ステム)0
2.全般的組織構造
カマズの組織構造 は,[図1]9で示 されている。そ こで, この組織構造 を形 成 す る際 に考慮 された基 本原理 につ いて検討 しよう。10
第一 に考慮 されたの は, まず 目的 システムを決定 しそれ に基づ いて組織構造 を形成 す るとい う原理 である (「組織 は目的 に従 う」)。 カマズにおいて は, 冒 的 システムは多 目的 システムで あるとみなされ,四つの種類 の 目的すなわち科 学技術的,生産的,経済的,社会的な目的が設定 された。 それ らは [表 1] で 示 されて いる。11そ して これ らの 目的 がバ ラ ンス良 く,最 大 限 に達成 で きるよ
うに組織 が構成 された。
第二 に考慮 されたの は,戦略的,調整的機能 と日常業務的管理活動 との分離 原理 である。 ソビエ トにおいて も しば しば,組織 の中で トップの管理者 が 日常 業務的管理活動 をも引受 けその ため過重負担 にな り逆 に戦 略的,調整的機能の 遂行 が不十分 に しか出来 ないという事態が生 じる。それゆえ この原理 の 目的 は,
8 〔21〕 (上 )9頁,(下 )12頁。
9 出所 :〔2〕 C.292‑295.なお 〔1〕 にも同様 な組織図が示 されている。ただ しこ の方 は少 し簡略化 されている し,個 々の機関の名称 その他で若干の相違がある。
10 〔1〕 C.16‑26,〔2〕 C.286‑291, 〔7〕 C.61‑62,〔9〕p.174‑181.なおカ マズの組織構造の設計 に従事 したのは, ソ連邦科学 アカデ ミーか ら選抜 された研究 者チーム12名,被設計対象であるカマズを代表する専門家 グループ40名,それに30
名以上の設計専門家チームであった。そ して彼等が必要な文書 を仕上 げるのに約2 年かかった (〔9〕p.175)。またこの設計活動の リーダーの役割 を果た したのは
ミリネ)I,(6.3.MHJIhHeP)であった (〔12〕p.224)0
11 出所 :〔2〕 C.287‑289.なお 〔7〕 C.65‑66,にもほとんど同一の表が出ている が,外的な社会的目的の指標 として 「コンプ レックス地域の状態の発展」が追加 さ れている。
[図 1] カマズの 本部の管理機関の組織構造
モスクワ代表部
[理事会の委員会] 研究開発
I r l I r 拙 代理
社会 経済 技術 自動管理システム ・ 組織開発
[理事会の委員会のスタッフ機関]
総合的分析 ・ 展望的計画化
・独立採算制 諸プログラム 部 管理者
諸プログラム 管理者
諸プログラム 管理者
諸プログラム 管理者
対外関係局
技術担当理事 物的資源担当 執行担当 主任品質監督官 掛 斉・管理担当 人事 ・社会的発展 カマズの製 基本建頭担 テクノロジー 総裁代理 理事
過程管理 ・情 報計算システ
ム部 総合的技術的 ・ 組織的準備局 設備 ・用具保証 局
中央機械技師局 一般技術諸部 スペアパーツ中
納入 ・直接 結合分析部 金属補給局 材料補給局 関連作業所 局 倉庫 調達諸職場
・倉庫 央倉庫 ・機械組
立て職場 建築一工芸作業 節
実験作業所 ・倉
庫 生産管理局
発送職場
組織開発 ・ 情報計算シ ステム部
合同法務部 計画一経済 局 労働組織 ・ 賃金局 経理 ・報告
・統制局 財務一経済 局 組織開発 ・
自動管理シ ステム局 計算諸セン 中央度量 タ一 ・技術 販売管理局 衡部 サービス諸
部門 スペアパー ツ
センター
担当総裁代理 晶の利用 ・ 当総裁代理 サービス担
当総裁代理 社会一人事活動
組織化 ・情報計 算システム部 人事局 社会学的調査 センター 管理学校 技師技術者 ・職 貞の資格向上教 育一方法センタ 保健センター 福利一厚生 . 総務局 集団給食コン
ビナート
修理 .用具 鋳造工場 鍛造工場 ジ‑ゼル工場 プレスー枠工場 車輪工場 自動車組立て工場
合同 工場
管理組織 ‑悼 報計算システ ム導入部 技術サービス 所システムの 組織 ・開発部 利用 ・付属文 書部 技術サービス
ノルマチーフ
情報計算シ ステム導入 部 工業用 ・生 活用建設局 設備購入局 修理 ・建設 トラスト
・修理技術部 故障統計 ・分 析部
技術サービス 規則 ・事務 センター業務 担当総裁 的管理部 補佐 諸技術サービ
ス所 輸送合同
諸自動車修理工場
EiFS卦朝型冷却37勝報1・2・3亜
ソ連 自動車企業 力マズの組織構造
[表 1]大規模工業コンプレックスの目的 (カマズの実例で)
311
基本的 目的 目 的 の 諸 指 標
外 的 内 的
1.科学‑技術的 ;自動車の生産 と利 *貨物積載能力 と貨物品目との適合の確 *車の技術‑経済的,利用上の特性 用 およびコ ンプ レツ 煤 *産 出における新生産物 の割合 クスの全種類 の括動 *エ ンジンの能力 と輸送の特性 との適合 ‑*生産物の更新のテ ンポ
における加速 された の確保 *(研究‑仕上 げ‑導入)サ イクルの期間 科学‑技術進歩の確 *自動車の力学的特性 の改善 *過程の機械化 .自動化の水準 L
煤2.国家計画の諸課題生産的 ; 学‑技術的能力の向上*我が国の トラックの更新*自動車工業の全種類の活動 における科* トラックの利用上の信頼性 の向上*道路の開発 .質的向上の刺激*修理‑利用特性 の改善●積みおろ し作業特性の改善*環境の保全 と改善*大型 トラックの種 々の利用領域 を含 め *全種類の活動の組織化 と実施方法の科 ̀*環境保護 の諸指標*生産物 とサー ビスの販売量 に したがつた大型 ト た,我 が由の自動車の能力の強化 *生産品目
ラック, ジーゼルエ *国民経済 における自動車輸送の適用範 *生産 される生産物の品種
ンジン,車輪,スペ 園の拡大 *量 と期限 に関 して注文や契約の遂行
アパーツ,大衆消費 *自動車輸送の貨物流通量の増加 *生産総量 の増大*生産能力の導入 と習得の量 と期限 物 資,サ ‑ビスに対 ‑*大型 トラックのモデル数の増加 による
す る国民経済 的需要 貨物積載能力の利用効率の向上
の充足3.生産収益性 と全種経済的 ; *我 が国国民所得の向上*運転手の労働条件の改善
頬の活動の経済効率 *社会的労働生産性 の向上 声収益性
の最大限の増大4.社会主義社会の諸社会的 ; *生産 フ ォン ド利用効率 と基本投資効率 *利潤 と予算への支払いの額
の増加 *財務規律の厳守
*材料‑機械 の最良の利用 *労働生産性 の水準
*自動車工業 における全種類の活動の経 *賃金増大 よ りも労働生産性増大の方が
済効率の増加*社会主義社会の成員の物質的福祉の向 上回 ること当 りの効率*生産 フォン ド,基本投 資の 1ルーブル*材料一機嘩補給の リミッ トの厳守*貨幣所得の増加,社会的消費フォン ド
要求やカマズの働 き 上 を通 じて得 られる福祉の増大
手達の諸必要 に基 づ *社会主義的機構 の確立,社会主義的民 *労働 に対す る共産主義的態度の形成, く集団の計画的在社 主主義の発展,国の防衛 力の強化 勤労者の社会‑政治的積極性の発展 会的発展 *勤労者 の思想的‑政治的水準の向上, *勤労者の文化的要求の充足度
共産主義的関係の形成 *社会‑生活的要求の充足度,集 画員の
*勤労者 の普通教育的,職業的,文化的 肉体的発展
水準の増大*地域 の工業的,科学‑技術的,社会 確保*安全,合理的強度,衛生,労働美学の*集団の社会的構造の合理性の水準*働 き手の普通教育的,職業的水準の向
‑政治的能力の増大へのコ ンプレック 上
312 商 学 討 究 第 37巻 第1 ・2 ・3号
トップの管理者 を日常業務的管理活動か ら解放することである。 この原理か ら 派生する具体的形態を見てみよう。
(1)執行 (生産 )担当理事職の設置 ‑ これはソ連 において過去 に例 のな かった組織的決定 であると言 われている。12これは総裁 と日常業務的活動 を実 行するよ り下位の レベルとの間のいわば 「フィル ター」の役割 を果たす。日常 業務的活動に関する下か らの情報の流れは全てここを通過 し,ほとんどこの段 階で処理 される (重要 な生産関連的意思決定 をも含めて)。そのため総裁 は本 来の職能である戦略的,調整的機能の遂行 に集中 しうる。なおこの理事 は生産 管理のみならず販売管理 をも担当 している。(後述 )
(2)研究 ・開発担当理事職 の設置 ‑ ソビエ ト企業 においては通常,主任 技師が全 ての技術的領域 を自らの管轄下 に置 いている。 しか し今 日の急激な科 学技術的発展の もと幸はこの領域においても上述の原理が適用 されねばならな
い。そこで,製品や製造技術の将来展望的な研究 ・開発 を主な任務 とする研究 ・ 開発担当理事職が設置 された。他方,技術的領域のうち当面の日常業務的性格 の活動 (生産準備,用具等の保証,設備の修理 ・保全等 々)は技術担当理事が 担当する。
第三 に,通常の管理構造 に個別 プログラム管理の構造 を結合するという原理 (マ トリックス構造の原理 )が採用 された。これについては次節で詳述 するが, 要するに通常の垂直的な階層的 システムに,多数の下位単位が関係する総合的 課題の遂行のための 「水平的な」調整 システムを追加することによって管理 ・ 調整の簡素化 ・効率化 を狙 ったものである。同時 に,上級管理者 を経常的な管 理 ・調整活動か ら解放することをも目指 している。
第四に,関連性の強 い諸機能の統合化の原理が設定 された。通常,販売機能 は補給機能 と結 びつ けて管理 される。 しか しカマズではそれは生産機能 との関 連性がより強 いと考 られ,管理構造 においても生産 と販売が同一の理事 (執行 担当理事 )の もとに管理 される構造 になっている。これによって生産 と販売の 関係の調整が促進 され,消費者か らの生産への情報のフィー ドバ ックが強化 さ
12 〔9〕p 177
ソ連自動車企業力マズの組織構造 313
れる。同 じような意味で,技術的生産準備 と組織的生産準備が統合 されて総合 的技術的 ・組織的準備局が設置 された。また人事部門と社会的発展管理部門が しば しば分離 されているが,カマズでは両者が同一の管理者 (総裁代理 )のも とに配置 されている。
第五 に,予測 ・評価 。分析機能の強化の原理が設定 された。組織 の大規模化, 管理の複雑化 に伴 って これ らの機能 はます ます重要 になるにもかかわ らず,
ルーチ ンな仕事 に追われて管理者 はこれ らをおろそかに しがちである.そのた めカマズではこれ らの機能 を強化する組織的措置が採 られた。(例 :研究開発 部門の システム研究 ・総合的予測部,人事 ・社会的発展部門の社会学的調査セ
ンタ‑等々)
第六 に,生産 と管理の組織構造 に自動管理 システムを従属 させるという原理 が採用 された。それまでソ連 において一般的だったのは, 自動管理 システムの 設定や運用がその基本的利用者であるライン的および職能的管理者か ら切離 さ れて,一部の専門家 に委ね られて しまうことであった。カマズではそうではな くて,自動管理 システムの課題 の設定や利用の仕方の決定 においてこれ らの管 理者が主導的な役割 を果 たすことが決 め られた。それによって自動管理 システ ムと管理構造 との不整合 を防止 しようと した。そのための組織的措置 と して各 部門に自動管理 システムの導入,利用 に関する専門的部 を置 いた。 さらに自動 管理 システムの総括設計者代理 には経済 ・管理担当理事がなっている (総括設 計者 は総裁である)。
このように,カマズの管理構造 はこれまでの内外の経験 の一定の総括 と検討 に基づいて構成 された。特 にその生産の大規模性やそれに伴 う管理の複雑性の ために,従来のや り方 を紋切型 に踏襲するだけでは不十分 であった。それゆえ カマズの状況 は, ソ連 における経営組織論的思考の最 も今 日的な状況 をかな り 反映 していると考 え られる。
3.マ トリックス構造
前述のように, ソ連 において もマ トリックス構造が検討 され,実際に導入 さ
3ユ4 商 学 討 究 第 37巻 第1・2・3号
れは じめている。すなわち通常のラインー職能的管理構造 に水平的な 「個別 プ ログラム一目的管理構造」が組合わ された組織構造が導入 されは じめた。そこ でまず, このような組織構造 について積極的に研究 している, ミリネル(6.3.
MmILHeP)を中心 としたグループがそれに関 してどの様 に理解 しているかにつ いて見てみよう。13
管理 における分業 と協業の発展 に伴 って特定の職能 に専門化 した多数 の管理 機関が設置 されるようになった。さらに現代のような科学技術進歩の激 しい時 代 には,従来 には経験 しなかった新規の諸問題が多 く発生 して くる。その解決 のためには職能間の水平的な関連の強化,水平的な情報交換や調撃がますます 必要 になって くる。そ してその時々の問題解決のために組織内の諸力を臨機応 変 に動員 する弾力的でダイナ ミックなシステムが要求 される。 ミリネル達によ れば, この様 な条件の もとでは従来のライン‑職能的組織構造 だけでは不適当 にな り, これを補完する新 しい構造 すなわち 「個別 プログラム一目的構造」が 必要 になる。 これは,個別的 に設定 された目的およびそれの達成 プログラムに 基づいて,関係する諸下位単位 の水平的関連 を組織 し調整するシステムである。
そこにおいて水平的関連の組織 ・調整 を任務 とす る特別な機関‑プログラム管 理者が設定 される。そ してこのプログラム管理者 に与え られる権限と責任の違 lいに応 じてこの構造の若干のタイプを区別することができる。
第一の タイプ‑調整 タイプの構造では, プログラム管理者 はプログラム遂行 の さい補助的,調整的役割のみを果 た し,決定採択権 は与 え られていず,従 っ てプログラム遂行 に対 してただ部分的責任のみを負 う。
第二の タイプ‑純粋 プロジェク ト構造 においては, プログラム管理者 にプロ グラム遂行の全ての指揮権 と全責任 が付与 される。つ まりプログラムの実行者 はプログラム管理者への完全 な従属の下 に置かれる。
第三の タイプ‑混合的構造 は上記二者の中間的なもので,プログラム管理者 は職能的指導の権限は与え られるが実行者の直接的指揮権 は持 たない。つま り
13 〔2〕 C.107‑117.なおミリネルについては 〔22〕の訳者あとがきで若干紹介され ている。
ソ連 自動車企業 力マズの組織構造 315 プログラム実行活動の要点,遂行期限等 に関する全ての決定 はプログラム管理 者が行い, プログラム遂行の責任 を基本的に負 うが, この決定の実行の組織化 はラインー職能的管理構造 に従 って実行者の直接的管理者が基本的 に担当す る。(ただ し,専 らそのプログラム遂行のみに従事す る下位単位 や実行者 につ いてはプログラム管理者が直接的に指揮することもある。)
さてこのようなマ トリックス組織構造 はソ連 において1970年前後か ら意識的 に導入 されるようになった。例 えば化学工業 における研究開発管理 (グラフク∫
の全 ソ独立採算制合同への再編 に伴 って),電機工業 における研究開発管理, ウラル重電機生産合同における新製品 プロジェク ト管理 システム (この場合組 織形態 としては混合的 タイプの組織構造が採用 された)そ してここで取上 げて いる生産合同AvtoKamAZである。(この場合 も混合的 タイプの組織構造 であ る。)
要するに, ここで言 うところのマ トリックス構造 とは,通常のラインー職能 的管理構造 と水平的な 「個別 プログラム一目的管理構造」 とが結合 されたもの を意味する。そ してこの水平的構造の具体的形態 は,その存在期間 (一時的, 常設 ),権限 と責任の範囲, この活動 にのみ従事 する働 き手 の数等 々の違 いに よって様 々である。この様 なマ トリックス構造が採用 される理由は,主 と して, 生産 と管理の大規模性 と複雑性の増大 にある。つま りそのために職能間調整の 量的必要性 と複雑性 も増大する。これに対処するために,水平的管理構造が設 置 されるのである。それは具体的には,経営上の個別重要課題の重点的な,逮 やかな解決のための職能間調整構造 という形 をとっている。 [表 2]はカマズ の個別 目的 プログラムの例である。14
更 にマ トリックス組織の構造 をもう少 し具体的に明 らかにするためにカマズ における個別 プログラム管理構造 に含 まれている機関 (職務 )につ いて検討 し よう。15
(1)理事会の四つの専門委員会 (社会,経済,技術,自動管理 システム ・組 14 出所 :〔1〕 C.30‑31
15 〔1〕 C.33‑39.
316 商 学 討 究 第 37巻 第1 ・2 ・3号
[表2] カマ ズの管 理 シス テ ム にお け る個 別 目的 プ ロ グ ラムの例
経 済 的 プ ロ グ ラ ム ・技 術 的 (プログラム生 産 的) 社 会 的 プ ロ グ ラ ム 自動管理システム.プログラム組織開発 コンプ レックスの発展 トラックの新 しいモデ 一定 グループの働 き手 自動管理 システムの1
展望 の作成 ルの研究 と生産的習得 の再教育,資格向上 一定 グループの下位単つのサ ブシステムの研究 と導入 内部 ホズラスチ ヨ「 ト 全 てのシリーズ的モデ 管理機関 における下位
システムの研究 と導入
品質の劣化 を しのラック生産 当 りの支出1ト ルの一定 タイプの組立 単位 問の相互作用の改蓋人材移動の原因の解明にコ 部 品の技術的改善 (技
術 革新の導入)新 しい技術 の習得 (設 位の状態の研 究事務文書の規格統一化
の引下 げ
基本,流動 フォン ドの最良の利用のための予 とそれの縮小措置の実 と典型化の レベルの向
備群の更新) 施 上
一定の輸出用生産物 の 一定 グループの働 き手 新 しいコンピュータシ
備の解明 生産の編成 の住宅の確保 ステムの構築 と習得
不足原材料の節約
製品の広告,需要家 との関係の改善 標準化 .規格統一化 レ 保健衛生措置 の実施 と 職能的 ブロ ックの働 きベルの向上 医療サー ビスの改善 手 による自動管理 シス習得の確保テムのサ ブシステムの
生産物 の無欠点的生産の無 欠点的実施)(あ らゆる種類の活動
生産用施設の建設 集団給食の改善
管理者予備軍の形成, 婦人従業員の労働 .坐 一定種類 の活動の情報
管理者の資格の合 目的
的 を向上 活条件の改善未成年者対策地域 .地 区の整備 働 き手 によるマ シー ン的研究語の習得一定 タイプの課題 解決のためのソフ トウエ ア 需要家 との直接的結 び 生産能力の利用度の向
つ きの組織化 上
設備の余剰の解明 と販 科学技術協 力 (外国の 環境汚染の解消
織開発 )
この委員会 は重要な個別 プログラムの計画 ・遂行 ・統制 に関する調整 ・協議 機関であ り,議長 にはこの合同の総裁がな り,関係する理事 と局長 クラスが主 な構成員 となる。 この委員会の性格上,その決定や勧告 は通常,総裁 ない し担 当理事 (総裁代理 )の指令 という形式で公式のルー トにの り,実現 される。(な お各工場 にも協議 ・調整機関 として生産委員会が工場長のもとに設置 されてい
ソ連 自動車企業 力マズの組織構造 317 る。)16
(2)個別 プログラム管理者。 これは前述の ように個別 プログラムのいわば責 任管理者であ り,その遂行 のための諸部門間の水平的調整者 である。カマズの 場合 には,彼 はそのプログラムの責任実行者達 (後述 )を 「まず第一 に職能的 に (そ して幾分か はライン的 に)指導する」。17っ ま り責任実行者達 の直接 の ラ イン管理者 と並存 しつつ,個別 プログラム管理者 は主 に間接的な仕方で (ライ ン管理者の指令 に自らの意思 を反映 させた り,一定の物的資源や刺激 フォン ド の配分 を媒介 に して),責任実行者 や実行者連 に作用 する。 そのために,彼 は 担当 プログラムの遂行のための一定の資源 を分与 され, しか も広範 な意思決定 権 を与 え られている。即 ち,責任実行者の活動 や彼 によって作成 された文書 の 承認権,一定の資源や物質的刺激 フォン ドの配分権, プログラムに関する活動 結果 の評価権 を持 っている。 この管理者の地位 は,職能担当理事代理の地位 と 同格 である。18
(3)各個別 プログラム管理のスタッフ機関 (社会的発展計画化課 ,総合一的分 析 ・展望的計画化 ・独立採算制部, システム研究 ・総合的予測部,技術 ・経済 的課題設定部 )
これ らの機関 は個別 プログラムに関するス タッフ機 関 と して情報的,文書的, 分析 的サー ビスを提供す る。それによって各 プログラムの計画作成 ,調整,逮 行の統制 において重要 な役割 を果 たす。
(4)責任実行者
責任実行者 は,各 プログラムを実行 する各下位単位毎 に任命 され る。そ して 彼 は二人の上位管理者 (プログラム管理者 と各下位単位 の ライン管理者 )によっ て管理 され ることになる。この問題 (二重従属 問題 )はマ トリックス組織 にとっ て特徴的で しか も重要 な問題 である。 これに関 してカマズでは次の様 な原則が 決め られている。責任実行者が当該 プログラムの実行 に関する活動 を行 ってい
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318 商 学 討 究 第 37巻 第1・2・3号
る場合 には,彼 は実質的にプログラム管理者 に従属する。その際にプログラム 管理者 は前述の様 に主 に職能的,間接的に管理する。即 ち,責任実行者の活動 に対 してそのために必要な資材や機械 を供給 し,賃金やボーナスを支払 う。他 方,責任実行者がプログラムの枠外の活動 を行 う場合 には当然 ライン管理者 に 従属する。
次に以上の様 なカマズのマ トリックス組織の構造 を更 に具体的に考察するた めに,前述の四種類の個別 目的 プログラムのうち特 に個別技術 プログラムを敬 上 げてその管理 システムを見 てみよう。
4.個別技術プログラム管理システム
前述のように,自動車製造合同カマズにおいては重要 な技術的問題 (車やエ ンジンの新 しいモデルの設計,製造工程や製造設備の改善,研究成果の生産へ の迅速 な導入,品質の維持 ・向上等 々)を解決するために個別 プログラムが作 成 され実行 される。そ してこれの管理 システムに関する規程が定 め られている?
そこで この個別技術 プログラム管理 システムに関する規程 を中心 として具体的 に詳 しく見てみよう。なお個別技術 プログラムは二つの種類 に分 けられる。全 合同的技術 プログラムと局部的技術 プログラムである。前者 は,合同本部の三 つ以上の部門 (cJIy2R6a)の諸下位単位がその遂行 に参加するもので,その遂行 のためには著 しく多 くの資源 を必要 とし,合同全体 に与 える影響が大 きいもの である。それに対 して後者 は,通常二つの部門の諸下位単位が参加するもので, 従 ってそれの遂行の際の調整 は二部 門間の調整で足 りることになる。19そ して, 各々の個別技術 プログラムに応 じて異 なった組織形態が採 られる。 ここでは典 型的なプログラムである前者 を前提 として考察する。
まず この システムの設置の直接的 目的は次の点 にある。20
(1) 管理者 と実行者 との間の距離 を短 くすることによって管理の効率化 を計 る。
19 それぞれの具体例は,〔1〕 C.127‑128,に挙げられている。
20 〔1〕 C.126.
ソ連 自動車企業 力マズの組織構造 319
(2) プログラムの実行 に関わる全ての単位,部門の円滑 な協力体制の確保。
(3) プログラム管理者の任命 によって上級管理者 (総裁,その代理 )を日常 的な管理機能か ら解放する。
(4) 活動の結果や期限に対する管理機関や個人の責任意識 を高めること。
(5) プログラムで決め られた活動の遂行過程 に対する効果的統制の確保。
ここで明 らかなことは,資本主義企業 におけるマ トリックス組織の導入の際 見 られたような要因即 ち外部環境 (と りわけ市場環境 )の不確実性や変動性の 増大 に応 じた情報処理能力の強化 という要因は見 られず,直接的 にはもっぱら 組織の内部の要因が示 されていることである。
全合同的な規模 の技術 プログラムの管理 には次の機関や管理者が携わる。理 事会の技術委員会, システム研究 ・総合的予測部,プログラム管理者。 さらに 個別技術 プログラム管理 システム全体の総括的なライン管理者 として総裁がい る。そ してこれ らによって管理 されるものと して責任実行者がいる。 これ らの 関連 を図示 したのが, [図2] である。21
理事会 の技術委員会 は個別技術 プログラム管理 システムの中心的な協議 ・調 整機関として, このプログラムの目的や構造 を検討 し取 りまとめ,責任実行者 の指名案 と必要な資源量 を審議 し,遂行経過等 を評価する。具体的には次の様 な問題 を検討する。22
(1) カマズの将来の科学技術的予測
(2)科学技術的諸課題 の総合的解決 ‑ 科学的研究か らその成果の生産 で の利用 まで
(3) 国内外の組織 との科学技術協力
(4) カマズの諸工場の生産過程の技術,製造工程,組織 の改善 (5)製品の品質の維持 ・改善
(6)関係技術的諸部門の協力体制の組織化,等々
21 この図の うちの システム研究 ・総合 的 プログラム部 は, 〔図 1〕等 で はシステム研 究 ・総合的予測部 となっている。おそ らく両者 は同一の部門であろう。
22 ll] C.34.
320 商 学 討 究 第 37巻 第1 ・2 ・3号
[図2] 全合同的技術 プログラムの遂行の際のプログラム ・目的構造 と ライン ・職能的構造の諸機関の間の相互作用の図式
記号
(
出所 :〔1〕 C.1290 . > ラ イ ン 管 理
> 職 能 的 管 理 く > 聴能的相互作用
総裁 は合同の最高責任者 として上述の技術委員会の決定 を承認する。そ して それはプロプラムに関する活動計画,支出予算,技術的課題 と して,関係する 全ての働 き手 にとってその遂行が義務的なものとなる。
更 にプログラム管理者 については次の様 に規定 されている。23
(1) これの任命 は,研究開発担当総裁代理ない し関係管理局長 によってその 候補者が提起 され,技術委員会 によって審議 された上で総裁 によって承認 され る。プログラム管理者 に任命 された者 は, 30%以内で職務俸給が増額 される.
プログラム管理者 自身 は総裁 ない し関係総裁代理 にライン的に従属する。
(2) プログラム管理者の主 な職能 は, プログラムに関する活動計画案の作成 の取 りまとめと技術委員会への提案,活動計画遂行の定期的 コン トロールと逸 脱解消のための措置の作成 ・実施,必要な場合には計画変更案の取 りまとめ,
その他 プログラム遂行のための日常業務的管理 ・調整 である。
23 〔1〕 C.131‑137
ソ連 自動車企業 力マズの組織構造 321 (3) 上述の様 な職能 に対応 した権限が与え られる。例えば,責任実行者 を職 能的に指導する権限,責任実行者 に対するライン的指導 をその ライン管理者 に 提案する権利, プログラムの遂行 を阻害するような他の管理者の措置 に対する 異議申立 て権,プログラムの実行者連の活動評価権,新技術開発 ・習得 プレミ アム集中フォン ドの形成 ・配分案作成権等々を持つ し,プログラム遂行 のため に分与 された資金,物的資源 を直接的管理下 に置 く。
次に, プログラム遂行 に参加する下位単位毎 に任命 される責任実行者 にづい て規程 を見てみよう。24
(1) その候補者 は関係下位単位の管理者 によって提案 され,当該 プログラム 管理者 によって検討 され,総裁 によって承認 される。場合 によっては関係下位 単位の管理者 自身が責任実行者 を兼任することもある。
(2)責任実行者の課題 は,計画 において課せ られた活動 を適時に遂行するこ と, システム研究 ・総合的予測部 に計画遂行経過 に関する報告書 を提出するこ と,プログラム管理者の要求に応 じて計画か らの逸脱の原因について弁明書 を 提出すること,客観的原因に基づ く計画変更の必要性 を提案することである。
(3) ライン的および職能的従属関係 についていえば,責任実行者 はライン的 には直接の上位管理者 に従属するが (活動計画の完全な遂行,直接的報告義務, 賞罰,労働組織 の点で),職能的にはプログラム管理者 に従属する (意思決定 の内容 と性格,それの立案方法,利用 される情報の内容 と性格の点で)。ただ し責任実行者が一定期間に一つのプログラムのみを遂行する場合 には,彼がプ ログラム管理者へのライン的従属 に移 されることもある。
(4) 直接の上位管理者の決定がプログラムの適切 な遂行 を不可能 にする場合 には,プログラム管理者 をつ う じてそれに異議 を申立てる事ができる。
(5)責任実行者の解任 については, ライン管理者 とプログラム管理者の双方 にその解任 を提起する権利が与 え られている。
そ して関係管理機関に管理諸機能がどのように配分 されているかをまとめた のが,[表3]である。
24 〔1〕 C.137‑139
[表3] 全合同的個別技術 プログラムの管理 諸機能 の配分 出所〔1〕C.132‑133・
プログラムの作成と プロジェクトの遂行 プログラムの目的と 責任実行者の構成, 責任実行者の候補者, 資源配分,.活動期限 活動結果の協議,期 それの実施計酉の作 計画の承認 構造の作成 資源配分,活動の期 活動の量と期限の協 の協議 限と資源に関する諸
皮 隈と結果に関する提莱 請 提案
計画遂行の統制,行 計画変更の承認,部 計画変更の提案の審 計画遂行の分析,計 計画遂行の統制,秦 計画遂行の情報の収 計画遂行の報告,実 政管理的作用 門,下位単位の管理. 読 画遂行の確保に関す 任実行者に対する作 隻,諸変更の協議 行者に対する統制と.
者に対する作相 る提案 用,内部資源の提示 作 用
計画遂行の評恥 実 プロジキク卜参加者 プロジェクト,それ.計画遂行の報告の承 計画遂行の報告,莱 .計画遂行の報告の検 遂行された活動の報 行者の刺激 の道徳的,物質的報 の諸段階の遂行の質 認,活動の質の評価, 行者の刺激に関する 言寸と協議 告,実行者の刺激に
奨 の評価 実行者の刺激の提案 提案 関する提案
プログラム全体の遂
行と結びついた組織・技術的決定の採択 文書の承認 諸決定の作成と検討 諸決定の作成と協議 諸決定の作成と協議
7℃グラ刃こ参加して いる下位単位の相互
作用に関する組織 .技術的決定の採択 諸決定の検討と承認 諸決定の方法的指導,検討,協議 諸決定の作成と協議
卦朝型瀕湖37嚇却)・2・3亜
ソ連 自動車企業 力マズの組織構造 323
5.お わ り に
以上 において我 々は, ソビェ ト自動車製造企業 力マズの組織構造 そ して特 に そのマ トリックス構造 について考察 してきた。最後 に若干の論点 について検討
して結 びに代えたい。
第‑ に, この組織構造の生成 ない し導入の原因に関 して。一般 に資本主義企 業 においてはマ トリックス組織構造 は環境の多様性や不確実性の増大 に相応 し
た情報処理能力の増大のために導入 される。25その際,特 に市場環境の多様性 や不確夷性 への対応 とい うことが強調 される。そ して具体的な形態 としては 色 々あるが,基本的な形態 は製品 (プロジュク ト)一機能マ トリックスである。
そのためこの形態,すなわち職能別構造 に製品 (プロジェク ト)別構造 を組合 わせることによって,前者の利点 を維持 しつつ多種類の製品 を多様 な市場 に販 売するために有利 な体制 をつ くるのがマ トリックス組織であるとみなされるこ
ともある。26これに対 して ソ連企業の一つであるカマズの場合 に前面 に出て く るのは,主 として組織内部の要因である。すなわち組織の大規模化,複雑化 に 伴 う水平的関連の組織化 ・調整 の必要性 と重要性の増大が直接的には強調 され る。具体的には,企業の四種類の目的 (生産的,技術的,経済的,社会的)に ほぼ対応 した形で四種類の個別 プログラム管理 システム (技術,経済,社会, 自動管理 システム ・組織開発 )が設定 されている。つ ま り企業の種 々の目的を 効率的 に達成 するためにマ トリックス組織が採用 されているとい うことであ
る。 この点 に大 きな特徴 がある。27
第二に, しか し前述の ようにマ トリックス組織構造 が大規模組織 における管 理の複雑性 とくに水平的な職能間の調整の重要性の増大に対処する組織構造で
25 〔16〕97頁。
26 〔17〕232‑233頁。
27 ただ し日本 においてカマズの例 とかな り類似 した事例 がないわけではない。新 日本 電気の 「経営環境対策本部」の設置に基づ くマ トリックス組織化の例がそれである。
この場合,全社的な個別重要諸課題の解決のために, この本部のもとに七つの担当 (企画 ・人事 ・経費効率化,経理 ・資財 ・総合調整,市販営業,海外営業,情報 ・ 通信 ・照明,技術,生産 )が設 けられたO詳 しくは,〔16〕100‑101頁 を参照のこと.
324 商 学 討 究 第 37巻 第1・2・3号
あるという点では,また従来のラインー職能的組織構造では水平的な職能間調 整が しばしばインブォ‑マルにおこなわれていたがそれをフォーセルなものと
して認知 し管理 システムのなかに適切 に位置付 けるという点では両体制 におい て共通である。この点 について, ∫.C.Thompson達 は次のように述べている。
一般的にいって,社会体制 にかかわ りな く大規模生産単位の間に 「客観的類似 性」が存在する。そのため例 えば組織の設計の技術的,組織的側面 については
ソ連 はアメリカの経験 (概念 や教訓 )か ら学 びうる。そ してマ トリックス組織 構造がそれの一つの例 である。28
第三 に,責任実行者の二重従属問題 につ いて。森本三男教授 はこの点 を重視 されて,従来の組織の重要原理の一つである 「命令一元性の原理」 に反する原 哩 (二元的指揮系統 の原理 )がマ トリックス組織 に適用 されているとみな して
いる。29この点 についてはソ連の理解 は異 なる。すなわち ミリネル達 によれば,
「ラインー職能構造 と個別 プログラム ・目的構造 との相互作用 は‑・‑‑‑単独 管理の原理 と矛盾 しない」 。30っま りマ トリックス組織 において も,従来か ら適 用 されているこの原理 は維持 されるということである。確かに責任実行者 はプ
ログラム管理者 と通常のライン管理者 とに従属するが,両方の管理者が全 く対 等の管理権限 を持つとは考え られていない。カマズの例でも見 られるように, 責任実行者が当該 プログラム実行活動 に従事する場合 には実質的,内容的にプ ログラム管理者 に従属 し,そうでない場合 にはライン管理者 に従属す る。また 前者の場合で も形式的 にはライン管理者へのライン的従属 は存在する。つま り,
プログラム管理者 は基本的には職能的に指導 し,主 に開接的に作用するのに対 しライン管理者 はライン的に指導 し,直接的に作用する。 この ように両者の奮 理権限 を可能 なか ぎ り区別 し,31両権 限の 「正面衝突」 を回避 しようと してい
28 〔13〕 p.116‑117,邦訳の157頁。
29 〔15〕183頁,また 〔17〕 においても
,
「伝統的な管理原則の否定 というマ トリック ス組織の特徴が‑‑‑ ‑・」 と記述 されている (234頁 )030 lZ] C.114.
31 この区別 は次の様 に解釈 されることもある。すなわち,プログラム管理者 は 「何が, いつ」 に関する決定 を行い,ライン管理者 は 「誰が,どの ように」 に関する決定 を 行 う (〔13〕 p.121,邦訳の162頁 )0
ソ連 自動車企業 力マズの組織構造 325 るように思 える。またそれでも両者の決定が非両立的になる場合が起 こりうる。
例 えば直接の上位管理者の決定がプログラムの適切 な遂行 を不可能 にする場合 にはそれに異議 を申立てることが出来 ることになっている。
第四に, この組織構造 に対応する人間行動様式 ない し組織文化 について。二 重従属 をもた らすマ トリックス組織 においては,従来 とは異 なった人間行動様 式 (ない し組織文化 )を必要 とする。管理者 レベルでは,他系統の管理者 と協 議 ・調整 しつつあるいは少な くともその存在 を考慮 しつつ管理 しなければな ら
ないことが多 くなる。■また実行者 レベルでも,二人の異質な管理者 に従属する ので,適切 な判断能力や時に生 じうるコンフ リク トを解決する問題処理能力が 要求 される。総 じていわゆる 「成熟 した人間」の行動様式 (相互信頼 と協調, 自主的問題解決,革新指 向性 )を前提 とする。32こう した人間行動様式が生 じ ないな らば,当然色々な問題点,欠点が生 じることになる。33ヵマズの場合,
ミリネル連が指摘 しているように企業 そのものの創設 と同時にマ トリックス組 織構造 を導入 したので,既存企業 における導入 とくらべると, この新 しい組織 構造 の導入やこの組織構造 に合致 した行動様式の受容 に対する抵抗 や心理的障 害が相対的 に少ないとい うことは理解 しうるが,34企業内での人間行動様式 の 大 きな変革 は自動的には達成 されず,継続的な教育 ・訓練活動等が当然必要で あろう。どのように教育 ・訓練活動が行われ,どの程度人間行動様式の変革が 実現 されたかにつ いては今後の検討課題 としたい。35
最後 に,最初 に提起 した論点すなわち経営技術 の体制間移転の問題 について。
カマズの以上の分析 において明 らかなように,基本的に,マ トリックス組織が ソビエ ト企業のカマズに導入 された。つま り一つの経営疲術が体制間で移転 さ れた。その際,経営環境 とくに市場環境の相違 による具体的形態の違 いや この
32 〔15〕184‑185頁。
33 〔14〕 の第6章でマ トリックス組織の病理が検討 されている0 34 〔2〕 C,286.
35 この点で参考 になると思われるのは,同 じプロジェク ト組織 を導入 しようとした「ウ ラル重電機」 の場合,研究者達の提言 を完全 には実行 しなかったために1976年 に公 式 に批判 されたことである (〔13〕 p.181,邦訳の174頁 )0