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山崎光子・小黒晴子  県立新潟女子短期大学被服研究室

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Academic year: 2021

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(1)

紫根染の発色に及ぼす灰の種類と染色温度の影響について

山崎光子・小黒晴子

 県立新潟女子短期大学被服研究室

Effects of Various Kind of Ashes and Changes of Temperature  upon the Development in Shikon‑Dyeing

Mitsuko Yamazaki and Seiko Oguro

The Clothing Institute, Niigata Women s College

         むらさき

 紫根染,すなわち茎墓(Lithospermum erythrhizon sieb. et Zucc.むらさき科,多年生宿根草)

の根による染色の歴史は非常に古く,中国では漢以前からと言われており,わが国についても日本 書紀などにその記録がみられる。紫色は高貴な色として服色のうちでも上位の人々に着用され,延 喜式1)などからもわかるように,深紫,浅紫,深滅紫,中滅紫,浅滅紫,葡萄などいろいろな色が あつたが,これらは色の濃淡や鮮かさだけでなく色相をも異にしているといわれている2)。しか

し,紫根染の紫色が槌色しやすい色のため,今確実に当時の色を知ることは困難である。

 紫根染は,鍵の減少や染色法が難しく,秘伝的であつたためか,その後次第に衰退し,今日で

は東北地方で・いわゆる鹿角紫がごくわずかに伝わつているにすぎない。しかし,紫根染の技術が 無形文化財に指定されていることでもわかるように,その紫色は,美しく貴重な色であるから,紫 根染の伝統ある技術が残つている現在,その染め方を科学的に確認しておく必要があるように考え

られる。

 植物染料の染色法については,江戸時代の文献3)4)にその要点が記されているが,そのうち紫根 の染め方のはつきり載つている中陵漫録,紺屋狩案内百品伝,日本染法,聞書秘伝抄等をみると,

その染色条件の上で特に注意をひく点がある。それは,他の一一rcの植物染料では何もふれていない のに紫根染の時だけは,媒染剤である灰をつくる植物が蜷かにしこ一りに指定され,染色温度が

「手引湯J 「ぬる湯」などに限定されていることである。古くは,万葉集の歌5)からも紫根染に椿 灰を使つたことが推測され,紫根染の技術保持者故栗山文治躯もにしこ一りで媒染すると語つて いた。にしこ一りは,はいの木科のさわふたぎで,にしつこり,にしごりとも呼ばれていた。灰の 鍾類や染色温度を定めた時は,他の場合に比べて紫色の発色にどのような差異があるのであろう か。それを究明したいと思いこの問題をとりあげた。

避の根の皮部に含まれている色素Shikonin Cユ6H1605の成分,構造は決定されており,加熱

によつて黒色の物質に変わることはすでに明かになつている6)。またその紫根を染色に使用した場 合,染色温度が高いと紫味が減じて青黒味になり,それが滅紫の色であることも実験的に知られて いる7)。 しかし,先にあげた媒染剤の種類による色の違いや,染色の処理温度が高くなるにつれて 紫の色の調子がどのように変化するか,についての具体的な実験報告はまだない。今回は,紫色の 発色の要因とみられる灰と温度の二つの染色条件が,紫根染の発色にどのような影響を及ぼすかを 明ちかにするため,灰には,椿灰,にしこ一り灰の他に古来から一般に使われている木灰を加えた 3毬類を用い,そして染色温度は,予備実験で染着可能とみとめた60°Cを最低温度とし,70。C,

一37一

(2)

80°C・90°Cの4点をとつて実験を行つた。その結果得られた12種類の染色布について測色をし

て,おのおのの差異を検討した。

実 験 方 法

  1.染液の調製

 本実験に使用した紫根(大韓民 国京城特別市産)は,0.6cm3程度

の大きさに切り,被染布の目方 の10倍量を,被染布のおよそ80

倍の水に入れて,湯煎器(20A,

2KW)で加熱し,染料成分を浸 出させ,浸出液が被染布の80倍

になるように配慮してこれをとり 分けた。染料浸出のための加熱条

件は図1に示したごとく4種類

である。

  2・ 媒染液の調製

渥度︵℃︾f

図1染液浸出の温度条件

一     

経  過 時  

問( m

in}

go土2℃

 媒染剤は,B1:木灰(長岡市で入手),B2:赫灰(新潟市産), B3:にしこ一り灰(秋田県鹿角郡

産)の瀬とし,被獅の肪の5龍とり,被染布の150倍の熱湯の中に入れ,よく脳・し,_

夜間おいて濾紙(東洋濾紙N◎・2)で濾過してその濾液を用いた。

  3・被染布の前処理

 被染布は,白縮緬(五泉市小出機業場製,56×25本/cm2,厚さ約0.42mm)を用いた。これを水

に入れて徐々に加熱して・沸騰を10分続けた後,遠心脱水機で5分脱水し,自然乾燥した。処理

後の被染布を,1g(約5。5×9.5cm)に切り分けた。なお,自然乾燥は,この前処理の場合に限ら ず・媒染・染色いずれの場合もガスストーブの上30。C内外の所で行つた。

  4.媒染,染色の方法

本実験では・先媒染とし・B・・B・・ B・の灰汁の中に被染布を常温で入れて後,徐々に加熱し,5 分ごとに撹搾しながら・沸騰後,10分間媒染した。次に洗濯機付属のPt・・一ラー絞り器で2回脱水し た後,乾燥した。以上の媒染過程

を同一の灰汁について3回繰返し         図2染液の温度条件

た。

 染色は,染液の入つた300m1

の三角フラスコ3本を湯煎羅にと

りつけ,それぞれにBコ,B2, B3

で媒染した布を入れて図2のよ

うな温度条件で染色し,その間5 分ごとに撹絆した。染色の温度条

件Aは,染料浸出の条件と同じ

で,A1:60°C, A2:70°C, A3;

80℃,A4:90°Cの4水準である。

染色後約10分間で常混まで冷却

し,上記のローラー絞り器で2回

混度︑℃︶

〉  経過時間(mh)

(3)

脱水後,乾燥した。これを3回繰返し染色して,一一試験布のできあがりとした。以上の染色手順 は,おのおのの媒染剤についてそれぞれ3回行つてある。

  5。染色布の測定法

 島津のボロシウム回折格子形光 電比色計NNスペクトPtニック20 により,標準酸化マグネシウムの 白板の反射率を100%として,波

長400〜700mμの間の10波長を

とつて,それらの反射率の違いを

測定した。そこからCE三色刺

激値XYZを求め, x, yを次の

ように算出した。

     X        Y

 x=

         y=

   X十Y十Z

      X十Y十Z

なおHardyの色度図8)により,

主波長と刺激純度も調べた。

  6・灰の分析法

 灰の分析は依頼して,島津の水

晶分光分析器ΩL170型を使い,

波長範囲2800〜57001nμ, spark

.放電2minという条件で3種類の

灰の定性分析を行つた。

実験結果および考察

 染色布について測定した反射率

曲線は図3の通りで,色度座標 x,yをCIE色度図上にしめすと 図4のように無彩色の標準光C

点の近くになる。さらに原表に基

づいて主波長λ,刺激純度Peお

よび朗度Yの分散分析をすると,

表1,図5,表2,図6,表3,

図7となる。すなわち,主波長

については,灰の種類闘と温度間 のいずれにも有意な差はみとめら れないが,刺激純度では,灰の錘 類聞,温度間とも有意差があり,

かつ交互作環があつた。また明度

では,温度闘にのみ有意差があ

り,灰の種類i醸こは差がみられな

かつた。

 主波長:紫根染の紫色は温疫

50

50

40

尋 0

  20

D

図3染色布の反射率曲線(繰返し3回の平均値)

Y

4t5    445    475     505    53…ド    5S5    595    625    555    685

   −一一一一一∋b 三窪   丑(r:μ,

図4染色布の色度図(繰返し3回の平均値)

O.8

0.7

O.6

o.5

o.4

0.3

O.2

o。1

d    O.肇   0.2   0.3   0b 4   0. S   Oし6   0.7   0.3

         x

一39一

(4)

図5.紫根染布の主波長に及ぼす灰の種類と温度の影響(95%信頼度)

主波鼓 ︑粋

S8 57

560 950 S40 53b 520 510 500 490 4eo 470

a木   灰

b楼灰 cにしニー t)灰

ドr_一_一_L駕》_一_』t

60   70   ごU   90        60   70  80   90

 −一一一一)染色混度(℃)

表1主波長の分散分析表 表2刺激純度の分散分析衷

温 度SA

灰の種類SB 交互作用SAXB

誤 差SE 全変動So

i変動

8581.06 3685.81 3473.13 37719.72 53459.72

1舳度1不騰

R︾2/0 4・FO

23

2860.35 1842.91 578.76 1571.66 6853.68

1

分敬比

   ロ へ FolFo

1.82 1.17 0.37

2.08 1.34

誤差S・

P41192・851・。1 1373・・9口

因1変動1舳度陣瑚分璽

温 度SA

灰の種類SB

交互作用SAxB

誤 差SE

全変動S。

42.65 5.16 9.39 7.47 64.67

3264・﹃ひ

209

14。22 2.58 1.57

0.31 26.02

45.87**

8.32**

5.06**

図6紫根染布の刺激純度に及ぼす灰の   種類と温度の影響(95%信頼度)

6

5

4

talJ  3

蓼 ・

↑、

a木   灰・

▲ーーるーー←▼ 

b椿   灰

cにLこ一η灰

禽周_→_→、》「一≒_,全義__』

   70   80   90        60   70   80   90        60   70   80   90

 60

 −一一一ラ築色;昌度(℃)

(5)

表3 明度の分散分析表

要 因

.温  度

 SA

灰の種類

 SB

交互作用

 SA×B

変動

196.1765 17.9765 21.7893

瞬ll:::1:

誤  差  SEt 97.5284

自由度

不偏分数

分 散比

F・[F・

365.,9221、。.74Y

2 8.9883 6 3.6316

24

3.1558

35 81.1679

30

3.2509 2.8482 1.1507

  ** 20.1157

2.7643

明度︵%︶

23 22 2

1

20 19

18

17

16

15 t4

13 12

図7紫根染布の明度に及ぼす灰の種類と   温度の影響(95%信頼度)

e木

60

b椿

0 9

c にしニ−qゆ

1・r.一一::

    80 9060  70

条件の違いによつて差があるといわれており,肉眼にも異なるようにみえるが,しかレ,それは主 波長の差によるものではないということが,今回の実験結果としてあらわれた。色の判別は現在の ところ測定器より人間の目の方が確かであるとも言われているので,この結果については,更に確 かめてみたい。

 刺激純度:図6からもわかるように,どの灰の場合でも共通していえることは,温度が低いほ

ど刺激純度は高い。しかし,特に低温度内で三種類の灰を比較すると,椿灰を用いた場合に最も刺 激純度の高いものが得られる。このように,高温において刺激純度の低いのは,染色過程でおきる 現象というよりも,染料浸出の際,すでに肉眼で認めることができるので,これは紫根中のいろい ろな爽雑物が高温のため浸出されたものとみられる。

 明度:図7にみられるように,高温になるほど明度はおちてきて,紫根の色素は高混で黒変す

るといわれていたことが裏づけされた。しかし,60°C,70°C間では有意な差はないとはいえ,い

ずれも60°Cの方が70°Cより明度が低いという一定の傾向になつたが,この理由ははつきりし

ない。

      表4 水晶分光分析器によるA1,

 灰の分析:紫根染には椿灰がよいとされて

      Mg, Caの有無の判定 きた原因については,椿灰の中にアルミニウム

塩が他のものより多く含まれていて,それが紫 の発色の要因ではないかとされている9)。それ

で3種類の灰の分析を行つてみた。結果は表4

となりアルミニウム塩についてのはつきりした 確認は得られなかつた。

 今回の染色布の色を,紫根染による紫色の目

1234・

木  灰

aaaaCCCC

椿  灰

Ca Al Ca Mg Ca Mg Ca Mg

にしこ一り灰

aaaaCCCC

標とした鹿角紫の色と比較してみると,主波長は,今回の染色布のほぼ中間520mμにあり,刺激 純度は本実験の中で最も刺激純度の高かつた低温処理のものより更に3〜4%高く,明度は逆に高

温処理のものより3%位低い。すなわち,今回の条件の低温の染色布を繰返し染めると刺激純度は 高くなり,明度は低下して目標の紫は得られることになる。

一41一

(6)

      総     括

蒐購禦灘雛鐵1鱒1讐1灘織韓馨騰繋

ち難謙灘晶欝の脚《汁には・他の搬嚇染料と同様菅こ普通の木灰を使

しかし,紫撒の染酬度につし・ては・すでに知られてい樋り,低〜胤処理のよいことが2。が

匿織雛陰篇繰返朧し染色することによつて・鵬て美しい紫恨染難が発

灘雛ll欝饗鰻先雛騰諾碧講易多繍霧あ

      引 用 文 献

1)延喜式・国史大系本,縫搬,・・9〜51・,19・・.経灘読.

2)上村六郎:上代文学に現われたる色絶彩並びに絶の研究.1・、,1954.織舎.

3)山川隆平・後醸一・rx.Sts}植物譜。193・.高尾酷.

4)徳川時代に於ける染色文献鰯題。工芸,64,81〜174,1962。

5)万鋼≦・昧古敷学大系6,・。・,196・.岩滋店.

6)黒田チカ・熱の㈱こつきて.Pt,:];1.T化学会誌,37,1。71−1。77,1918.

7)上村六郎,山崎勝弘:日本色名大鑑。67,1948.養徳社.

8)徽餓化学協会編・染色便覧.258〜281,19・8.繕.

9)上村六郎;万葉染色の研究。317〜319,1943.晃文社.【

参照

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