八戸工業大学紀要 第 25巻
表層地盤特性 と地震被害記録 に基づ く木造住宅の地震被害 に 関す る基礎的研究
矢 澤 一 樹
保有住宅数の 6割 強 を占める木造住宅 に対す る地震防災対策 は ,我 が国の重要な防災課題のひ と つである。特 に 1981年 に施行 された ,新 耐震基準以前 に建築 された木造住宅 については ,早 急な耐 震診断 と耐震補強が求め られている。平成 15年 度の総務省統計 によれば ,1980年 以前 に建築 された 木造戸建住宅 は約 1千 2百 万戸である。 この膨大 な戸数の木造住宅 の耐震化 を進 めるに当た り ,優
先地域 あるいは重点地域 を定 めるための研究 を進 める事の社会的意義 は大 きい。
本研究では ,始 めに既存木造住宅 の耐震性能 を把握す るために ,建 築調査資料
(平面構成 ,屋 根 及び外壁 の構成材料)に 基づ く耐震診断を行 い ,壁 率
(存在壁量 /必 要壁量 ;壁 充足率 )偏 心率 と合 わせて耐丁 氏 ‐
性能 を検討 している。 さらに ,地 震時の振動応答 を知 る手がか りとして ,木 造住宅の固 有周期の測定・解析手法の開発 を行 い ,そ の手法 を用いて ,青 森県の実存木造住宅 の ,固 有周期の 実態 を検討 している。次 に ,木 造住宅 における地震被害 と表層地盤特性 に注 目し ,い くつかの地域 の地震被害記録 に基づ く木造住宅の地震被害 と表層地盤特性 の関係 について検討 を行 っている。
本研究 は , これ らの手順 を踏 まえ ,木 造住宅 の耐震化の計画的実施 に当た り求 められ る優先地域 あるいは重点地域 の判定 に関連す る基礎的矢日見 を明 らかにす ることを目的 としている。
以下 に本論文の構成な らびに研究成果の概要 を示す。
第 1章 「序論」では ,研 究の背景 と目的 ,並 びに既往 の関連研究 について述べている。
第 2章 「東北地方 6都 市の木造住宅 の耐震性能」では ,東 北地方 6都 市 ,各 都市 60戸 前後 ,合 計 350戸 の在来木造住宅 についての実地調査資料
(平面構成 ,屋 根及び外壁 の構成材料 )に 基づ き耐下 庚 性能の評価 を行 っている。なお ,調 査住宅 のほ とん どは ,1975年 代以前 に建築 された住宅で ,古 い
もので明治 ,大 正 の ものがある。耐震診断の方法 は ,簡 易な診断である「わが家の耐震性能 と補強 方法」及び ,や や精密な診断である「密集市街地 における防災街 区の整備促進 に関する法律 におけ る既存木造住宅の耐震診断基準 の解説」の診断法 を採用 し ,壁 率
(存在壁量 /必 要壁量 ,壁 充足率
),偏心率 と合わせて耐震性能 を検討 した。 これ より以下の知見 を明 らかにしている。
東北地方 6都 市 における木造住宅 の耐震性 は
,「簡易診断」では耐震性 に疑いのあるものが約 45%
ある。 また ,「 密集法」による分析 により ,中 規模地震で 2%,大 規模地震で 20%が 倒壊の恐れがあ
ることを日 月らかにしている。さらに ,偏 心が大 きい住宅が約 30%に のぼること ,廷 三築基準法 に定 め る必要壁量 を満たさない住宅が約 60%を 占めることを明 らかにしている。
全体的に見 ると ,約 半数の住宅で耐震性能が疑われ る結果 となった。
第 3章 「実存木造住宅の固有周期 の実測」では ,建 物 の地震時の応答特性 を知 る上で重要な手が
学位記番号 と学位
:第 28号 ,博
士 (工学)授与年月 日
:平
成17年
3月 19日授与時の所属
:大
学院工学研究科建築工学専攻博士後期課程 要旨
か りの一 つ とな る住宅 の固有周期 を常時微動 よ り測定 。解析 す る手法 を提案 してい る。 この手法 に よる ,青 森 県 内 の実存 木造 住宅 39棟 を対 象 とす る実測調査 か ら ,北 東北 にお ける木造 住宅 の固有 周 期 につ いて以下 の知 見 を得 て い る。
青森 県 内 にお ける実存 住宅 の固有 周期 は ,平 均 が約 014秒
(最小 0.08秒 ,最 大 0̲24秒 )で あ る。
第 4章 「一部損壊被害記録 と表層地盤特性 の関係 ‑1994年 二 隆 は るか沖地 震 と 1993年 釧路 沖 地 震 ―」 で は ,木 造 住宅 の地 震被 害 の調 査 資料 を用 いて ,一 部 損壊被 害 を主 とした被 害 と軟 弱地盤 層 厚 と地盤 の卓越周期 の関係 に注 目して検討 してい る。
なお ,本 論文 にお け る「軟 弱地盤 層厚」 の定 義 は ,地 盤 ボー リングデー タの支持層 に成 りうる程 度 の N値
(おお よそ 30〜 40程 度以 上 で理想 的 には 50以 上 )分 布 とな る まで の軟 らか い地 層 の厚 さ
としてい る。
軟 弱地盤 層厚 を知 るた め に用 いた ボー リング資料 は八戸 の場合 は 240本 ,釧 路 で は 237本 の デー タ を用 いてい る。卓越周期 は八戸市 で は 430地 点 ,釧 路市 は 32地 点 で実測 した デー タを用 いてい る。
二 つの地 震 にお ける各地域 の木造住宅被害 と表層地盤特性 との関係 は ,以 下 の結果 として ま とめ ら れ る。
1̲軟 弱地盤 層厚 は約 10mか ら 20mの 地域 で一部損壊被 害率が大 きい地域 が あ る。
2.卓 越 周期 はおお よそ 03秒 か ら 0.4秒 の地域 で一部損壊被害率 が大 きい地域 が あ る。
3̲主 に台地部 で一部損壊被害率 が大 きい地域 が あ る。
なお ,用 いた被害 は主 に一部損壊 デー タで あ り ,被 害 内容 はか な り幅が あるが , これ らの分析 よ り ,表 層地盤 特性 は地震防災 のた めの重要 な基礎情報 とな る と考 え られ る。
第 5章 「全壊被害記録 と表層地盤特性 の関係 ‑1944年 東南海 地 震 と 1995年 兵庫 県南部地震―」で は ,全 壊 率 [(全 壊戸 数/全 戸数
)×100]デ ー タを基 に被 害 と軟 弱地盤層厚 と地盤 の卓越周期 の関係 を検討 してい る。「 1944年 東南海 地 震」の事例 分 析 で は,「 昭和 19年 東南海 地 震 の記録 」の町 内集落 被 害統計 資料 内の デー タ を基 に被 害 と軟 弱地盤 層厚 と地盤 の卓越 周期 の関係 を検 討 して い る。検 討 範 囲 内 の被 害 デー タ数 は ,477点 で あ る。軟 弱地盤 層厚 を知 るた め に用 いた ボー リング デー タ は
,1,486本 を用 いた。卓越周期 は袋井市周辺 51地 点 ,磐 田市周辺 42地 点 の計 93地 点 にお いて実測 し た デー タ を用 いてい る。
海 岸 に面 した磐 田市周辺 で は ,軟 弱地盤 層厚 10mの 地域 で全壊率が大 きい地域 が ある。
卓越 周期 04秒 の地域 で全壊率 が大 きい地域 が あ る。
河川 流域 の台地 に囲 まれ た袋 井市 周辺 の沖積 低地 で の被 害 は ,低 地 中央 に向か って全壊率 が大 き くな る傾 向が ある。軟弱地盤 層厚 10mか ら 30m程 度 の地域 で全壊 率 が大 きい地域 が あ る。卓越 周 期 06か ら 08秒 の地域 で全壊 率が大 きい地域 が あ る ことを明 らか に した。
「 1995年 兵庫 県南部地震」の事例分析 で は,「 平成 7年 兵 庫 県南部地震被害最終報告書」の被害分 布 図 と ,ボ ー リングデー タ 1,506本 を用 いて被害 と軟 弱地盤層厚 ,伝 達 関数 の 1次 周期 の関係 を検討
して い る。
神戸 市 の中で も平均 的 な被 害 が見 られた兵庫 区 と住宅被 害 が最 も多 か った東灘 区 を中心 に ,文 献 資料 を も とに ,被 害 と表 層地盤 特性 との関係 を検討 した。
軟 弱地盤 層厚約 Omか ら 16m付 近 の範 囲内 にあ る地域 で は ,被 害率が大 きい地域 が ある。
1次 周期 が約 006秒 か ら 045秒 付近 の範 囲 内で ,軟 弱地盤 層厚 が約 20m以 下 の地域 に ,被 害 率が 大 きい地域 が あ る こ とを明 らか に してい る。
第 6章 「結論 」で は ,本 研 究 の結論 と ,今 後 の課 題 につ いて述 べ て い る。
八戸工業大学紀要
第
25巻
結論 を要約すると次のようになる。人戸 ,釧 路 ,磐 田及 び神戸 を事例 とす る低平地の地形では住 宅被害 と表層地盤特性 との関係 は ,以 下のような共通点が有 つた。
1̲被 害率が大 き くなる地域 の軟弱地盤層厚 は ,約 10mか ら 20mで ある。
2 被害率が大 きくなる地域 の卓越周期 は ,お よそ 03秒 か ら 04秒 である。
3 被害率が大 き くなる地域 の地形的特徴 は ,主 に台地の地形である。
なお ,袋 井地域 のように低地が台地で拘束 されている地形
(盆地 )で は低地の中心で全壊率が大 きい。 このような例外 について今後検討 してい く必要がある。
以上の結果 は ,木 造住宅 の耐震化 の計画的実施 に当た り優先 あるいは重点地域の判定 に役立つ も の と考 えられる。
主指導教員 渡遇正朋
A Fundamental Study on SeisHlic Damage in Tilnbered House Based on Surface Subsoil Characteristic and
SelsHllc Damage Record
Kazuki YAZAWA
Abstract
The seis■
lic criterion of the building、vas revised one by one based on the experience of the
seis■
lic damage in recent years. New seis■ lic criterion''revised in 1981 is a present standard
ln a、vord,the til1lbered house in about 13■111lion households constructed before 1981 is rnade the building of an existing,suitable case about the seis■ lic criterion Therefore,an inllnediate diagnosis of antiseis■lic performance and the seis■lic retront are requested to be executed in premeditation in the municipality The aspect of the earthquake risk management is neces―
sary to execute the diagnosis of antiseis■ 五 c performance and the seisllic retront to the tirnbered house of these huge number of houses in premeditation̲ That is,the region where making to earthquake― proof is assumed to be priority or an emphasis is judged, and the diagnosis of antiseisalic performance and the seis■ lic retront are advanced
The ptirpose of this research is in the proposal of a basic technique of the judgment of the priority region needed to execute the diagnosis of antiseisrlic performance and the seisrnic retront in the tirnbered house that our country has. The characteristic of the subsurface layer has been given as a factor to expand the earthquake damage of the building. In this research, it pays attention to a specilic subsurface layer that becomes the expansion element of the earthquake damage lt aillas to propose the judgment technique in the priority region or the emphasized region by clarifying the relation betⅥ reen the damage record of the timbered house in a large earthquake in recent years and characteristics of the subsurface layer
The composition of this thesis and the outhne of the result of the research are sho耶 /n as
follo、
vs
Chapter l describes the background,the purpose of the research,and the research in the
past̲Chapter 2 describes the investigation done to understand the reahties of an earthquake―
proof performance of an existing tilnbered house The proper period、 、 ras investigated about
the tirnbered house in the Tohoku region city The proper period of the tirnbered house、 vas
investigated by using a measurement and an analytical technique by the■ licrotremor̲ The
mean value of the proper period lneasured in the real existence house in Aomori Prefecture was
about O.15 seconds ltヽパ /as 0 08 seconds in alinilnum value and O.24 seconds in the maxilnum
value, 0.25 seconds are not exceeded though the proper period tends to become long Ⅵ /hen an
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