九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
Gender in Japanese Sentence Final Particles: A case study in the natural conversation of
college students
陳, 一吟
九州大学大学院比較社会文化学府
https://doi.org/10.15017/4494703
出版情報:比較社会文化研究. 29, pp.61-69, 2011-03-01. Graduate School of Social and Cultural Studies, Kyushu University
バージョン:
権利関係:
『比較社会文化研究j第29号 (2010)61‑70 Social and Cultural Studies No.29 (2010). pp. 61‑70
H 本語終助詞におけるジェンダー
一大学生の自然会話に焦点を当てて一
和 陳
イ ー イ ン吟
1. はじめに
日本語には古くから「女性語」、「男性語」、「女性的表 現」、「男性的表現」といっだ性別に基づいた言葉の分類 法がある。特に終助詞ではこのような性別による使い 分けがよくなされている。例えば、「わ↑」は従来「女性 語」と呼ばれ、「丁寧」、「やわらかい」、「優しい」といっ た女性的なイメージと結びつけられている。同様に「ぜ」
という終助詞は「男性語」として認識されており、「乱暴」、
「一方的」、「力強い」という男性像が想起される。しか し、実際の日本語会話を見てみると、「わ↑」を使って いる女性はほんの一握り、もしくは限られた文脈でしか ない。また、場合によっては女性が男性語の「ぜ」を使っ ても違和感がないこともある。このように、「女性語」
であるのに女性が使うと不自然に聞こえたり、逆に「男 性語」を女性が使っても違和感がなかったりすることも しばしばある。本研究は20代の大学生の自然会話にお ける終助詞の使用実態に焦点を当て、男女それぞれの終 助詞の使用実態と従来の使い分けとを比較することで終 助詞におけるジェンダー構造を明らかにした。
ーロに終助詞と言っても研究目的によってその定義 は 様 々 で あ る が 、 本 研 究 は 松 村 (1971)に従う。松 村 (1971)によると、終助詞とは「文の終わりにあって、文 を完結させ、同時に感動・禁止・疑問・願望・強意等の意 味を表す助詞」のことである。ある特定の表現を終助詞 として認めるかどうかは研究者によって異なるが、終助 詞の機能としては「相手の存在を意識しながら自分の感 情を表出する」というところで意見が一致している。ま た、「だろ」「やろ」等、通常「助動詞」と呼ばれるものは 相手への意識および感情の表出において終助詞と似た働 きを持つ上にその使い方がジェンダーと関わっているこ とから、本研究では「だろ (でしょ」) と「やろ」も終助詞 として扱い、研究対象に入れることにした。
2
先行研究2. 1 終助詞の男女差の実態に関する研究
終助詞や文末表現の使用実態を調査した研究として小 川(1997、2004)、尾崎(1997)、遠藤(2002)、水本(2006) 等が挙げられる。これらの研究はいずれも性差の縮小を 報告している。
小川 (1997、2004)は、首都圏の大学生の会話を観察 した結果、終助詞を女性度が高いもの(のよ、の (疑問 文以外))、女性度がやや高いもの(よね、ね)、男性度 が高いもの(よな、ぜ、ぞ、な)、中性度が高いもの(よ、
の (疑問文)) に分類できるとした。また、中性度が高い ものがよく使われる傾向があるが、依然として、現代の 若者の話し言葉にも男女で違いがあるとした。
尾崎 (1997)は、職場における女性の文末表現の使用 実態に対する考察を行った。その結果、「わ」の使用は 衰退に向かい、「だわ」の使用は皆無に近いことが明ら かになった。同様に、遠藤 (2002)は、職場における男 性の文末表現の使用実態を考察した結果、「あら」「の ょ」「わ」等、従来女性専用と言われてきた語の男性によ る使用が観察されることを報告している。その一方で、
「な」「かな」等、従来は男性専用とされてきた語の女性 による使用例も多く、また、「ぞ」「ぜ」等、従来は男性 専用と言われた語旬の使用が減ってきていることが観察 され、文末用語の性差は極めて少なくなっていることを 報告している。
水本 (2006)は現実の若い女性達の言葉について調査 した結果、 20代から30代の女性達の話す文末における
「女性文末詞」の使用は皆無に近いという結果を得た。
2. 2 日本語のジェンダー構造に関する研究
従来の所謂「終助詞の使い分け」が現実の言葉遣いで はなく、 言語資源である とする研究として金水 (2000)、 中村 (2001)、因 (2003、2006)、松本 (2007)が挙げら れる。
金水(2000)は「女性語」 ・「男性語」を「役割語1」の一 種と位置づけ、人々が実際に使っている言葉ではないと
陳 指 摘 し た。同 様 に 、 中 村 (2001)は女ことばは「言語イ デオロギー"」 で あ る と し 、 彼 女 は 、 社 会 の 中 の 知 識 や 個人のアイデンティティーは厳然として存在しているの ではなく歴史的・社会 的 に 作 り 上 げ ら れ 、 そ の 過 程 に 言 語が大きく関わっているとしている。女ことばとは、女 が 実 際 に 使 っ て い る 言 葉 遣 い で は な く 、 抽 象 的 な 規 範 だ と 考 え る こ と が で き る (p201‑204)「女ことば」概念 とデイスコース実践との関係は、「女ことば」規範に従 うデイスコース実践を行い、男支配を再生産する一方、
「女ことば」概念を資源として利用することでアイデン ティティ ーを 作 り 上 げ 、 男 支 配 を 転 覆 す る 関 係 が あ る (p 221‑222)と指摘している。
因(2003、2006)はマンガ小説などフィクション作品 を使ってジェンダー形式と話し手のジェンダーが一致す る 場 合 と 一 致 し な い 場 合 の 機 能 を 以 下 の よ う に 分 析 し た。
(1)男性が男性形式を使う場合:(男性向き)連帯意識の 強化。(女性向き)保護者的な態度の表現。
(2)女性が女性形式を使う場合:強い攻撃的な意図の表 現 な ど。
(3)女性が男性形式を使う場合:冗談めかし、自己防衛 など。
(4)男性が女性形式を使う場合:アイデンティティーの 意図的偽装など。
(3)と(4)の異性語の使用を因(2003)は「他人格モー ド」を「実現する手段」としている。
松 本 (2007)は 、 東 京 に 在 住 す る 中 年 の 母 親 た ち の 実 際の会話データをもとに、文末表現を中心に「女性語」
(または「男性語」)の使われ方、混清と使い分けのパター ン、そしてその機能を考察した。その結果、それぞれの 話者が様々な表現を多岐にわたって使うことにより、そ れぞれの人物像、ペルソナを作り出していることが観察 された。
これらの研究は、所謂「女性語」 ・「男性語」は実際の 言葉遣いではなく 、人々の観念に存在し、 言語資源とし て利用されるという日本語とジェンダーを観察する新た な視点を示してくれた。しかし、具体的なデータに基づ いて「女性語」・「男性語」と実際の言葉遣いとの関係を 示した研究は管見の限りあまり見られない。そこで本研 究は終助詞に焦点を当て、大学生の自然会話データを基 に日本語における終助詞の使い分けと「女性語」・「男性 語」との関係を明らかにした。
一 吟
3 .
研究方法3. 1 会話データの概要
本 研 究 で は2007年12月から2008年 の8月 ま で 福 岡 県にある国立大学の学生自治寮にて大学生を対象に自然 会話のデータを収集した。会話データは調査対象者が日 常生活や寮が主催する地域のボランティア活動の準備会 議などの会話場面を無作為に記録したものである。被 験 者の属性について出身、学年、年齢、入寮期間で整理し たものを表1に示す。男性被験者をM、女性被験者をF で表示し、その後に番号をつける。
表1 被験者の属性及び発話数
対 象 者 出 身 学 年iii 年 齢 入寮期間 発 話 数 Ml 宮 崎 県 修 士2年 24 4年 2Q8iv M 2 福 岡 県 修 士1年 23 1年 345 M 3 広 島 県 学 部 卒 23 2年 444 M 4 広 島 県 修 士1年 24 6年 178 M 5 東 京 都 学 部4年 23 3年 285 M 6 大 阪 府 学 部3年 23 1年 82 M 7 岡 山 県 学 部5年 23 2年 259 M 8 静 岡 県 学 部4年 23 3年 87 M 9 長 野 県 修 士1年 27 3年 64 Mlo 静 岡 県 修 士2年 24 4年 30 Mll 宮 崎 県 修 士2年 24 1年 125 Ml2 埼 玉 県 学 部4年 23 3年 42 Ml3 兵 庫 県 学 部3年 21 1年 6 Ml4 鹿児島県 修 士2年 27 2年 42 Ml5 鹿児島県 修 士1年 24 1年 12 Ml6 愛 媛 県 学 部3年 21 1年 28 Fl 大 分 県 学 部4年 22 4年 405 F2 大 分 県 学 部4年 22 4年 117 F3 大 阪 府 学 部4年 24 3年 235 F4 宮 崎 県 学 部3年 22 2年 158 F5 福 岡 県 修 士1年 23 1年 62 F6 大 阪 府 学 部2年 20 1年 212 F7 福 岡 県 学 部4年 22 4年 50 F8 宮 崎 県 学 部3年 22 1年 65 F9 大 阪 府 学 部3年 22 1年 67
地域差、フォーマル度、会話する相手との上下関係・
親疎関係といった社会言語学的な要素がジェンダーと共 に言語使用に影響を与えるため、本研究は会話データを 分析する際、これらの要素を考慮に入れることにした。
日本語終助詞におけるジェンダー
地域差については、表lに示す通り、被験者の出身は 日本各地に広がっており、約半分が九州出身で、 4人が 大阪出身である。筆者が被験者の日常における言葉づか いを観察した結果、標準語は寮生間の交流における基調 言語であるが、九州および大阪出身の被験者は方言があ る程度言葉遣いに影響を与えている。その影響について も分析で記述する。
上下関係については、年齢、学年および入寮期間の3 つの要素が上下関係に影響を与える。この3つの要素か
ら被験者同士の上下関係が決まるといえる。ただし、こ れらの要素の属性の内実に異なりがある場合(例えば、 年上ではあるが、学年が下)は会話参加者に対する口頭 インタビューを行って上下関係の確認を行った。親疎関 係の確認も口頭インタビューの形を取った。
フォーマル度に関しては、本研究のデータを「低」「中」
「高」という 3つのフォーマル度に分けた。「低」のデー タは雑談などくだけた言葉遣いであり、「中」と「高」は 会議での言葉遣いであるが、「中」は会議参加者がある 個人、もしくは特定の数人向きの言葉遣いであるのに対 して、「高」は、会議参加者全員向きの言葉遣いである。 表2にそれぞれのフォーマル度における男女の発話数を 示す。
表2 フォーマル度ごとの総発話数
総発話数 男 女
低 1712 817 895 中 1231 872 359 高 660 547 113 総発話数 3603 2236 1367
3. 2 分析方法
終助詞使用の全体像を把握するため、それぞれの終助 詞の男女による使用率を示す量的な分析を行った。相 手 との上下関係・親疎関係および発話のフォーマル度が結 果にどれほど影響を与えるかを明らかにするため、会話 分 析 を 用 い て 文 脈 と 人 間関係を考慮した質的な分析を 行った。量的な結果で示される男女差に基づいて、その 男女差がどのような社会言語的な特徴を持って表れるの かを文脈を通して観察した。
従来の終助詞の男女の使い分けとの対照では、まず従 来の研究に基づいて、「女性語」・「男性語」とされてき た表現を整理した。それらの表現が今回のデータで男女 によってそれぞれどのように使われているかを明らかに した。
4.終助詞の従来の使い分け
国研(1951)、日本文法大辞典(1971)、広辞苑(1995)、 井出 (1983)、マグロイン ・花岡 (1997)、小川 (1997)、 Kawasaki & Mcdougall (2003)等の先行研究を参照し、
終助詞の従来の使い分けを以下のように整理した。「女 性語」と言われているものには「わ/v(わよ、わね、わ よね)」、「のね/」、「のよ/」、「体言+よ/よね/」、「も の(もん)」、「かしら」、「こと」等が挙げられる。その一方、
「男性語」と言われる表現には「ぞ」、「ぜ」、「さ」、「な(よな、
だな)」、「かよ」、「や」、「だ(だな、だよ、だろ)」、「い(かい、
だい)」、「とも」、「や」、「かよ」、「のか」等が挙げられる。
5
自然会話データの分析結果 5. 1 全体的な使用状況表3 データに現れた終助詞の男女による使用状況
終助詞 男 女 終助詞 男 女
使用数 14
゜
使用数 7 6だろ 使用率VI
0.63% 0.00% かね 使用率 0.31% 0 44%
使用数 19 14 使用数 79 21
でしょ の
使用率 0.85% 1 02% 使用率 3 53% 1 53% 使用数 24 4 使用数 7
゜
やろ のか
使用率
使用率 1.07% 0.29% 0 31 % 0.00% 使用数 172 97 使用数 4 3
ね のよ\
使用率 7.69% 7.09% 使用率 0 18% 0 22% ょV.II. 使用数 109 83 使用数 8 2
んよ\
使用率 4.87% 6 06% 使用率 0 36% 0.15% 使用数 79 93 使用数 1 1 よね 使用率 のね/
3.53% 6 79% 使用率 0.04% 0 07% 使用数 26 11 使用数 15 4
な わ\
使用率 116% 0 80% 使用率 0 67% 0.29% 使用数 13 5 使用数 1 1
さ ぜ
使用率 0.58% 0.37% 使用率 0.04% 0 07% 使用数 117 88 使用数 6
゜
か 使用率 ぞ
5.23% 6 43% 使用率 0.27% 0 00% 使用数 3 1 使用数 26 5
やな 使用率 や
0 13% 0 07% 使用率 1.16% 0.37% 使用数 45 26 使用数 16 8
かな 使用率 ゃん
2.01% 1.90% 使用率 0 72% 0.58% だよ 使用数 17 17
だよね 使用数 23 20 使用率 0.75% 1 24% 使用率 1.03% 1.45% 使用数 1 1 使用数
゜
3だな 使用率 0.04% 0 07% よな
使用率 0.00% 0 22%
陳 使用率の差に基づいて終助詞を以下の5つのグループ に分けた。
① 殆ど男性によって使われるもの:だろ、やろ、のか、
んよ、わ\、ぞ、や
② 女性より男性の使用率が高いもの :な、さ、の、ん よ、や、ね
③ 殆ど女性によって使われるもの:よな
④ 男性より女性に多く使われるもの:よね、よ、だよ、 だよね、か
⑤ 使用率がほぼ同じなもの(0.2%以内の差) :かね、
でしょ、のよ、のね、ぜ、やな、かな、だな、やん 表3に示される男女差は主に 2点ある。男性が女性よ り使用する終助詞の種類が多いこと、および使用が女性 に偏るものよりも、男性に偏るもののほうが遥かに多い ことである。5. 2にこの5つのグループに分類されて いる終助詞の特徴を述べる。
5. 2 男女差の特徴
5. 2. 1 「男性らしさ・女性らしさ」との関わり
グループ①の7つの表現には共通した特徴が見られ た。それは社会通念として言われてきた「男性らしさ」
と結び付けられることである。安田・小川 ・品川 (1999) では、日本人に「女性らしさ」と「男性らしさ」について、
アンケート調査を行った。その結果を表4に示す。
表4 日本人による「女性らしさ」と「男性らしさ」(安田・小 川・品川1999)
女性らしさの印象:
柔らかい、優しい、丁寧、あたたかい、力強さに欠け る、抑え気味、物静か、親しみを与える、主観的、の んびり、綺麗、丸い感じ、品がある
男性らしさの印象
乱雑、荒っぽい、力強い、素っ気ない、威圧的、粗野、
ぶっきらぼう、事務的、客観的、はきはきしている、
するどい、冷たい、野蛮、きつい
例えば「ぞ」は「主張をよ り強く響かせ、威張りを示す」
(井出 1983)という機能を持っている。それが社会的に 男性らしさと見なされる「荒っぽい、力強い、威圧的」
等の男性的特徴と合致する。①の他の 6つの表現も同じ ように、どちらかと言うと、男性らしさを想像させられ る表現である。
さらに、これらの表現が使われる場面と文脈を観察す ると、フォーマル度の最も低い「雑談」で、親しいもの 同士の間に使われることが最も多かった。上下関係から 見れば、目上から目下もしくは対等関係にある者同士に
ー 吟7
現れることが多かった。以下は「だろ」の使用例である。
会話例1 M 10がF4に 合 コ ン に 行 く よ う に 勧 め て い る。
MlO:合コン好きなんだろう?もう行けよ。
会話例1は、寮の食堂で女性同士の合コンについて の会話を近くで聞いているMlOの発話である。以上の 発話はF4が 合 コ ン に 誘 わ れ た の を 聞 い て そ ば に い た MlOが発したものである。MlOとF4とは親しい間柄 であり、ここでMlOは目下のF4に対して、「だろう」
と命令形を併せて使うことによって強引で荒っぽい口調 を出している。
また、グループ②においても「な」、「さ」、「やな」、「や」
など「男性らしさ」を想起させる表現が大部分を占めた。 ただしグループ①の表現よりはそのニュアンスはやや薄 いため、女性による使用も見られたと言えよう。
もう 1つの特徴として、「の」以外、グループ②の使 用が女性では殆どフォーマル度「低」、時には「中」の発 話にも現れたのに対して、男性の場合は「高」での使用 が数多く観察された。特に親しい間柄のくだけた会話に 現れやすいようである。つまり、グループ②の表現は女 性が使用する場合には男性よりも制限を受けると言えよ
っ 。
このように、その使用が男性に偏る表現のほとんどが
「男性らしさ」を想起させるものである。これとは対照 的に、その使用が女性に偏る表現を観察してみると、「女 性らしさ」を想起させられる表現は「よね」しか観察され なかった。特にフォーマル度「低」の会話では、「よね」 の女性による使用率が男性の2倍ほどであった。「よね」
は相手に確認を求めることを基本的な意味機能とし、相 手との共感を引き起こそうとする相手に配慮する表現と 言えよう。以下は女性同士による「よね」の使用例であ る。
会話例2 F2とF1は「今年の新入寮生が不思議」とい う考えにお互いに感嘆しあう。
F2:うん、やっぱ不思議だよね、今年の新入寮生。
F 1 :不思議系だよね。ほんと不思議だよ。 F2:ねえ。
4つの発話のうち、「よね」と「ね」が合わせて 3か所 使われている。まずF2は「やっぱ不思議だよね」で感 嘆しながらFlに同意を求める。それを察したFlも「不 思議系だよね」とFlに同感を示した。さらに自分の気 持ちの強さを強調するために「だよ」で同じ内容の発話
日本語終助詞におけるジェンダー を繰り返した。その気持ちに共感を示し、 F2は「ねえ」
と発話する。同じ内容を繰り返すことで 2人は同じ気持 ちを共用でき、連帯感を作り上げたのである。このよ うに、女性は親しい者同士、特に女性同士の間での連帯 感を求め、お互いの気持ちが通じ合うことを示すために
「よね」を頻繁に使うことが観察された。
一方、「女性らしさ」に関わる表現であるが、男性に よる使用が多かった表現に「の」と「ね」がある。同様に、
「男性らしさ」を想像しがちな表現であるが、女性によ る使用が多かったものに「よ」と「だよ」が観察された。
「の」は女性的な表現として扱われていることが多く(井 出1983)、「柔らかい」「親しみを与える」等「女性らしさ」
を想起させるが、今回の調査では、男性の方がその使 用率が高かった。それとは逆に「よ」(「だよ」を含めて)
は「自己主張を表す」(時枝1951,井出1983)機能を持ち、
どちらかと言えば「力強い」という「男性らしさ」を連想 させられるが、今回の調査では、使用率から見れば女性 の使用率がやや高かった。ただし、この 2種類の表現は 男女による使用率の差は大きくなかった。以下の会話例 3は男性による「の」の使用例で会話例 4は女性による
「だよ」の使用例である。
会話例3 同じ専攻のF1とM3が学校実習について話 している。
F 1 :けっこう時間長いですよね。
M3:そういう活動をし出したのは今年からやけん。 F 1 :あっそうなんですね。
M3:去年もやってたんだけど、だいぶ、こう活動のや り方を変えたの。だけえ、その、その経過をまと めみたいなことを言われてて、 (F1笑)えぇ。 F 1 :あらら。
学校実習についてM3が後輩のFlに自分の経験を話 している。「やけん」と「だけえ」のように方言の混じっ たざっくばらんな会話である。4列目の発話では「の」
をつけるのではなく、中性的な表現の「活動のやり方を 変えた」や男性的な表現と言われる「んだ」をつけて「活 動のやり方を変えたんだ」と言っても発話の意味は変わ らないが、「の」を使用したほうが発話の口調が柔らか い。ここではM3が後輩でしかも女性であるFlを相手 にし、親しみを表そうとして「の」をつけたと推察され る。
会話例4 女 子 寮 生 が 寮 祭 の 出 し 物 の衣装選びで話し 合っている。
F5:中学校こんなんだったから、あたしあっち。
F2:そっか、 F5ちゃん中高こうなんだよね。 F 1 :あたしもこうなんだよ。
この会話は親しい女性同士の間で行われたものであ る。中学校の制服についてのF5の発話に対してFlが 自分も同じだということを示す時「だよ」を用いた。「だ ょ」は新しい情報を提供して、相手の注目を引き付ける のに機能している。このような「だよ」の使用は女性同 士のフォーマル度の低い雑談で最も多く見られた。
5. 2. 2 方言、フォーマル度、親疎・上下関係の影響 グループ①の中で、「やろ」と「わ\」 は両方共女性に よって4回使われることが観察された。その8例のデー タを観察してみると「やろ」はすべて九州出身、「わ\」
はすべて大阪出身の調査対象者によるものであった。殆 ど女性によって使われるもの「よな」も 3例すべて大阪 出身の女性調査対象者によるものであった。つまり、標 準語では男性的と言われる表現であっても大阪と九州方 言においては、その許容度が上がると言えよう。大阪方 言について、金水(2003)は「関東のことばが標準語とし てヒーローの言葉となり、大阪弁はヒーローではなく、
おしゃべり、冗談好き、軽薄、お調子者等のイメージ と結びつく」と指摘している。大阪方言のこのようなイ メージを持つからこそ、大阪方言を喋るものとしては女 性であっても、若干荒っぽく、くだけた表現であっても 受け入れられやすいと考えられる。
フォーマル度については、図lにそれぞれのフォーマ ル度における終助詞の使用状況を示す。
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総使用率 男 女
図1.フォーマル度別の終助詞の使用率
殆どの表現はフォーマル度が上がるにつれてその使 用率が低くなる。つまり、フォーマル度の高い発話であ ればあるほど、終助詞を使用しなくなるという傾向があ る。ただし、「ね」だけは、フォーマル度「高」の場面で も「低」とほぽ同じ使用率を示している。特に男性の場 合は「高」が「低」 よりやや高い使用率を示した。また、
その使用が男性に偏るグループ①と②の表現は、男性に よる使用が他の表現と同じようにフォーマル度の上昇に
陳
よって使用率が減るが、 3つのフォーマル度の発話すべ てに見られた。それに対して、女性の場合は「な」を除 いて、殆どフォーマル度「低」の場面でしか使用されな かった。親疎・上下関係に関してもフォーマル度と似た 傾向が見られた。というのは、女性がグループ①と②の 表現を使う際、目上の人や疎遠な相手に対して使うケー スは殆ど見られず、同等もしくは目下で親しい者同士の 会話に限られることが明らかになった。つまり、「男性 らしさ」と関連する表現の使用は女性の方がより場面や 相手をわきまえて使用していると言えよう。
6 .
「男性語」・「女性語」の使用状況の分析今回の調査では、「男性語」の終助詞が頻繁に使われ ていること、「女性語」の終助詞は殆ど使われていない こと、そして女性による「男性語」の使用があることが 明らかになった。
6. 1 男性による「男性語」の使用
「男性語」は主に男性によって使われており、 「ぞ」、「だ ろ」、「のか」はすべて男性によって使用され、「さ」、「な」、
「や」は男女両方に使用されるが、男性の方は使用率が 高かった。また、「ぜ」と「だな」は男女に1例ずつ現れ、
「だよ」はわずかであるが女性の方がやや使用率が高かっ た。以下は男性による「男性語」の使用例である。
会話例5 寮生会議で、ある寮生が飼っている猫の鳴き 声が寮生に迷惑をかけているかどうかについ てみんなで意見を出し合っている。
Mll:ぼくも、正直、 M 5くんの音楽の方がより聞こえ る。隣やだ。
M5:ああそっか、うちからも猫の声がしよう? (笑) M7:うちからも猫。(笑)
M 5:俺、そんな聞こえる?
M4:てか、お前、駐車場からも丸聞こえだぞ。
猫がいる部屋の真正面に住んでいるMllが猫の鳴き 声がそんなに迷惑でもないと言うために隣部屋のM 5 が流した音楽のほうがより聞こえると発話した。それを 聞いたM 5が自分の音楽がそんなに聞こえるのかと皆 に聞いた。その場にいるもう 1人の寮生 M 4が「お前、
駐車場からも丸聞こえだぞ」と音量が大きいと言った。 ここの「ぞ」はM 5が知っているべきなのに、気づかな かったことをM 5に気づいてほしいという意図で強く 念を押したのである。「お前」という目下で親しい人に 対する呼びかけと一緒に使うことでM 4が M 5に対し
ー 吟7
て説教する意図が感じられる。
「ぞ」は従来「男性語」と呼ばれており、「荒っぽい」、「カ 強い」といった「男性らしさ」を感じさせる表現である。 今回の調査では、このような「男性語」の半分以上は殆
ど男性によって使われていることが確かめられた。
6. 2 「女性語」の使用
「女性語」においては、「のね」は男女それぞれl例ずつ 見られたに止まった。「のよ \」はそれぞれ4例と 3例 の使用例が現れたが、すべて下降調のものであり、上昇 調の女性語の「のよ/」とまた異なるニュアンスを持つも のであろう。同じように、下降調の「わ」の男性による 使用がいくつか見られたが、従来「女性語」の典型的な 表現である上昇調の「わ/」の使用が皆無だった。会話例
3は女性による唯一の「のね/」の使用例である。
会話例6. F2がM5に冗談を言っている。(場面7か ら抜粋)
F2:(前略)①やっぱ●●VI"ちゃんの存在がでかいのね、
00
だから。(笑)M 5 :あいつはどこが
00
だよ?どこが00
なん・・・ F2:え?みんなゆっているよね。●●ちゃんも言われているらしい。
F2が冗談でM 5に①で「のね」を使ってM 5に確認 をとる形で自分の見解を述べている。F2が「のね」を使 うことで命題の「●●ちゃんの存在がでかい」という情 報をまるでM 5との間の共通情報のように語り、 2人の 間の距離を縮めようとする。ここの「のね」は「よね」と 同じ機能を持っているが、「のね」のほうは響きがソフ トで発話者の優しい雰囲気が伝わる。このように「のね」
がもたらすソフ トなニュアンスが発話を和らげる機能を 持つ。このような効果を狙うときに男女両方によって使 われもはや「女性語」ではなくなったと言えよう。以下 は男性による使用例である。
会話例7 新入寮生募集の会議で、司会者M2がビラ配 りについて説明をしている。
M2:ビラは、その、なんか、そのでもちょっとちゃん と覚えていないんだけど、その要は在学生に、さ、
力をさ、かけるかどうかという話もあったじゃん。
(中略)その、あの、そこら辺をはっきりさせて、 また今日をみんなで話し合おうって言うふうに話 がこじれになってたのね。
日本語終助詞におけるジェンダー
6. 3 女性による「男性語」の使用
次に女性による「男性語」の使用例もわずかながら存 在したが、親しいもの同士の間にしか現れなかった。そ の1つの使用例を見てみよう。
会話例8 合コンについての話。
F3:高校?でもなんか、野球部の合コン?
F7:あ、とか、野球部の後輩とかも言ってた。 F3:じゃあ、私年齢さばよんでいい?
F7:(笑)よめるならなあ!
この場面は女性だけの会話である。男子寮生の高校時 代の野球部の後輩と合コンするということを聞いたらF
3が自分の年がきついと思って冗談で「私年齢さばよん でいい?」と発話し、それに対してF7は笑いながらふ ざけて「よめるならなあ!」と返した。「よめるならね」
に言いかえすこともできるが、 F7は「ね」よりそれより 断定的で荒っぽい表現「な」を選んだのは、わざと「なあ」
を付け加えて冗談の口調を強調したのである。ここでの
「な」は笑いと相まって冗談を伝えるための言語ストラ テジーと看倣すことができる。
7 .
まとめ以上、従来の「男性語」 ・「女性語」の使い分けと比較 しながら、大学生の自然会話における日本語の終助詞の 使用実態を見てきた。以下は本研究で明らかになった大 学生の終助詞の使用実態と伝統的な「女性語」 ・「男性語」
としての使い分けの概況を図 2に示してみた。
.. ・・ 女性語
図2 終助詞の使用実態と従来の使い分け
図2に示したように、実際の言葉遣いでは、女性の終 助詞の使用範囲は男性より狭い。女性の言葉遣いと男性 の言葉遣いは重なっている部分があるが、お互いに相手 と異なる独特な部分も存在する。具体的には、女性の場 合は「よね」を代表として相手に共感を呼びかけ、一体
感作りに機能する表現が目立つのに対して、男性の場合 は「ぞ」、「だろ」と言った「男性らしさ」と結びつける表 現の使用が目立つ。また、「女性語」・「男性語」の使用 現状については、「女性語」が使われているのはごくわ ずかな部分であるのに対して、「男性語」は半分以上が 主に男性によって使用されている。
話し手は終助詞を用いて、相 手 に 対 する配慮や自分 の気持ちや意志を相手に伝えることができる。選べる終 助詞の範囲が広ければ広いほど言葉遣いの自由度が高 く、自分の気持ちゃ意識をより豊富な形で表すことがで きる。今回の分析で得た結果では、男性の方が女性より も多様な終助詞を使っている。「ぞ」、「ぜ」、「な」、「や」
といった「男性らしさ」を想起させる表現が主に男性に よって使われるのに対して、「の」、「ね」、「よね」等「女 性らしさ」を想起させる表現はそれほど男女差は見られ なかった。女性が「男性らしさ」と関わる終助詞をあま り使わないのは、社会的制限を受けているためだと考え られる。一方、「女性らしさ」を連想させる表現で女性 が男性より多く使う表現は「よね」しか観察されなかっ た。「よね」は相手に配慮した表現であり、相手に対す る共感喚起や一体感作りに機能している。女性は「よね」
を好んで使うのも相手との一体感を重視した結果と考え られる。なお、「の」、「のよ」、「のね」等発話を和らげ、
相手に親しみをアピールする所謂「女性らしい」表現は、 今回の調査では男性にも違和感なく、しかも頻繁に使わ れているという結果となった。
従来「男性語」 ・「女性語」と言われてきた表現の使用 については、「女性語」の消滅と「男性語」の存続の傾向 が見られた。「のね」は男女の使用合わせて 2例あった 以外、「女性語」の使用があまりなかった。これに対して、
「男性語」は男性によって多く使われていることが示さ れた。女性が「わよ」、「わね」、「かしら」といった典型 的な「女性語」を使わないのは、このような「女性語」を 使ったしなやかで気品のある伝統的な女性像が現実な社 会とはかけ離れた存在であるからだと言えるだろう。一 方、男性は違和感なく多くの「男性語」を使っており、「男 性語」が表す荒っぽい、一方的、力強い男性像は実社会 でも受け入れられていると考えられる。
註
1「ある特定の言葉遣いを聞くと特定の人物像を思い浮 かべることができるとき、あるいはある特定の人物像 を提示されると、その人物がいかにも使用しそうな言 葉遣いを思い浮かべることができるとき、その言葉遣 いを『役割語」と呼ぶ」と「役割語」という概念を提出し ている。金水 (2003)でも「役割語」は漫画、小説など
陳 吟
のフ ィクションの中での登場人物の言葉遣いとなり、
描写のリソースとして使われることが多く、「さまざ まな作品に人物描写に活用される。」と述べられてい る。
"中村 (2002)によると、「言語イデオロギー」とは実際 の言語用法の裏にひそむ「抽象的規範であるだけでな く、特定の時代・集団の言語実践を支配する政治的働 きを持つ」(p.123)ものである。
l
"データ収集の期間中に学年が移り変わったため、録音 を開始した時点2007年の10月を基準に学年を記述す る。
IV宇佐美(2007)を参照し、「話者交替」と「間」という 2 つの要素を基準とし、発話文を規定した。
V上昇調を示す。
VI分母を性別ごとの総発話数にしてそれぞれの終助詞の 使用率を算出する。
V"接続を問わず「よ」で終わるすべての表現を含む。「な」、
「よね」も同様である。
VI"●と
0
で人名を伏せる。参考文献
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日本語終助詞におけるジェンダー
Gender i n J a p a n e s e S e n t e n c e F i n a l P a r t i c l e s :
A c a s e s t u d y i n t h e n a t u r a l c o n v e r s a t i o n o f c o l l e g e s t u d e n t s
Y i y i n CHEN
This is a report of the survey of the actual situation of the usage of Japanese Sentence Final Par‑ tides (SFPs) in the conversation of college students contrast with the traditionall classification by gen‑ der. For this survey I recorded the natural conversation of Japanese native speaker college students and carried out a quantitative as well as qualitative analysis on the data. The result being that the scope of males'SFPs use is broader as males'and most of the SFPs which are used by males are related to masculine feminine. On the contrary, the SFPs which are related to feminine are used by both males and females. From this I argue that females use SFPs with more of a social restriction based on gender. Concerning the use of SFPs which are consider to be women's language or men's language, I found that there is an extinction of women's language but a retainment of men's language. I infer that, compared with males, females use SFP's with less freedom. They resist using women's language while at the same time have a hesitancy to use men's language.