岡山大学環境 理工学 部研 究報 告 第11巻,第1号,pp.89‑92,2006年3月
白神 山地の土壌熱伝導率の測定
繁津和佳子*諸泉利嗣… 佐々木長市…
M easurementofthermalconductivityinthesoilsorShirakamiM ountains
wakakoHANZAWA',ToshitsuguM OROIZU
M
I+',andChoichiSASAKI…(ReceivedDecember28.2005)
Thm
a l
conductivityofsoilsinShirakami MountainSthatwasregisteredonUNESCO'sWorldNatlml Heritagein 1993weremeastqedusinga仙iIlb'ansient‑statecylindrical‑probemethod.Thetypical resultswe陀 aSfollows:(1)Thm al conduc也vityofthesoilsinSirakami MountainSincreasedaccordingtoan
i
ncreaseofsouwatercontent,whichwasthesam etendencyastheothersons.(2)nethennalconductivityof t
hesoilswasbyaboutO・2‑0・3WmllK‑Ismauerthanvolcanicashsoils,弧dit血owedthesam etendencyas leafmold.
Kg lWrdi.・ShinAz7miMomぬL'ns,TheJ7mJconductivior,TTwin transient‑stateglindn'caL‑pyt)bemedlOd, VohLmetn‑cw terconte〃L
1 はじめに
青森 ・秋 田県境に 日本海 に面 して広がる白神 山地は, 1993年に屋久島とな らんで,日本で最初の世界 自然遺産 に登録 された.白神山地の地形,地質,動植物および人 間活動に関係す る調査等は行われているが,研究の歴史 は浅く,特に土壌に関する研究はそれほど多 くない (国 立公園協会 (財),1995).こうした状況の中で,佐々木 ら (2∝礼 2005)は,土壌の物理的な調査を中心に,土壌 の基本的な理化学特性や 自神 山地の土壌 を通過 し湧 き出 る湧水の水質などを調査検討 している.今回,我々は世 界 自然遺産である白神 山地の土壌の熱伝導率を測定する 機会を得たので,その結果をここで報告する.
土壌の熱伝導率は,地中の温度環境が形成 され る際の 重要な因子の一つである.また,土壌の熱伝導率は,土 壌の内部構造の情報を与えてくれる.本報告では, 自神 山地土壌の熱伝導率を測定することにより,その特徴を 明 らかに し,自神山地の土壌の特性 を熱伝導率の観点か
ら検討 した.
♯岡山大学大学院 自然科学研究科,
**岡山大学大学院環境学研究科,榊♯弘前大学農学生命科学部
89
2 土壌試料の採取 (佐々木 ら,2005)
土壌試料は,西津軽郡西 目屋村 高倉森 (通称 "白神'', 北緯 40032′25〝,東経14009′50〝,標高約600皿) 付近の勾配約 250の北側か ら南側 に向か う斜面か ら採 取 した.植生は,サワグル ミ,ブナ,ササ, ワサ ビ,シ ダ類か らなっていた.この採土地点は,図1に示す2004
図1 土壌採取地点 (佐々木 ら,2005)
9() 岡山大学環境理工学部研究報告.ll(1)2006年
年度の調査地点である川原沢扇状地の北東部 に位置す る.
採土は2004年9月27日に行 った.
また,高森地区 との比較のため,世界遺産核心地か ら 20km ほ ど北に位置す る鯵 ヶ沢町深谷町 (通称 "ミニ 白 神'',北緯 40040′20〝,東経 140011′20〝,標 高約 300m)の森の湧 きつぼ付近か らも土壌試料 を採取 した.
この地区は,藩政時代 よ り田園の水 を酒養す るための禁 伐採 として保護 されてきたブナ林である.
土壌試料 は,農地の土壌調査法 を適用 し調査深 を1m とし,第Ⅰ〜Ⅲ層 の各層 の中心か ら
l
00∝ サ ンプラーによる不撹乱土及 び撹乱土を採取 した.熱伝導率の測定に は,撹乱土 を用いた.
3 実験方法
3.1 測定原理
土壌熱伝導率の測定法 には,定常法 と非定常法がある.
定常法は,一定の温度勾配 を長時間試料 に与 えるの もで, 土壌 の場合,水や水蒸気 ,空気 の移動 を引き起 こすため, 正確 な測定値が得 られ ない.そのため土壌 の熱伝導率測 定 には,わずかな熱量 を短時間試料に与えるだけで測定 で きる非定常法が用い られ る.非定常法には,単一 プ ロ ー ブ法,双子型 プ ローブ法,双極熱パルス法 な どがある が,いずれの方法 も,無限大の試料 中に入れ た線熱源か ら一定時 間に一定の発熱 がある とき,線熱源 の周囲の熱 伝導率が大きい場合 は線熱源 自身の温度上昇 が′J、さく, 逆 に周囲の熱伝導率が小 さい場合 には線熱源 の温度上昇 が大きい ことを利用 してい る (ファイ トテ クノロジー研 究会,2002).
本研究では,双子型プ ローブ法 (粕淵,1982)に よっ て熱伝導率 を測定 した. この方法 は,2本の ヒー トプロ ーブを用いて,熱伝導率が既知 である試料 と未知である 試料 との温度変化の比か ら熱伝導率 を求めるものである.
温度 苑 の物質 中にある線熱源か ら単位時間,単位長 さ 当た りの一定の発熱がある場合 の線熱源 自身 の温度 は次 式 で表 され る.
T ‑T o‑蕊 ( d
・h(t・to)) (., ここで,T:時間 Jにおける線熱源 の温度.入 :固体 の熱 伝導率, d :定数,to:補正項である.発熱停止後の温度変化 は,同様 に次式で表 され る.
T
‑
To‑志 (d・1n(t・fo))一志 (d・1n(,‑tl・t o ) i
(2) ここで,Jl:発熱停止時間である.
次に,熱伝導率の異な る2つの物質 が同 じ温度 にある とき,両者の中にある線熱源 に同時に同量の熱が発生す る と,両者の温度変化の比は熱伝導率の逆比 にな る.
図2実験 システ ム
T a‑T o o̲左 T
b‑T b 。 ID
・ 10‑ l b
賢 覧 (3)ここで.a,bはそれぞれ熱伝導率が未知お よび既知 の物 質 を表 し,0はt=0の時 を示す.:和 3)によ り,温度変化 の比か ら簡単に熱伝導率が求め られ る.
実際の測定では,温度上昇お よび降下の両者 を測定 し, 得 られ た結果 を平均 して試料の熱伝導率 とす る.また, 基 準物 質 と して は 1%寒 天 ゲル を用 い,水 の熱伝 導率
(0.6WmlK1,ュo℃) を適 用す る.
3.2 実験 手順
双子型プ ロー ブ法の測定 システ ムは,直流安定化電源, デ ータ ロガー,パ ソコン,100cc土壌試料,基準物質 (約 1%の寒天ゲル),ヒー トプ ロー ブか らなる (図2).直流 定電圧電源 を用いて ヒー トプ ローブに勲 を供給す る.ヒ ー トプ ローブは,外径1.0m ,内径0.5m ,長 さ40m のステ ン レスパイ プの中に, ヒー ター としてエナ メル被 覆 の コンスタンタン線 と温度計 として銅 ・コンスタンタ ン線熱電対 を挿入 し,パ ラフ ィンで固めた もの を使用 し た.
実験手順 は以下の通 りである.
(訂土壌試料の水分量 を調整す る.
②
l
00ccサ ンプ ラーに乾燥密度が ほぼ等 しくなるよ うに 水分調整 した土壌試料 を充填す る.③ 土壌試料 と寒天 ゲル (基準物質)のほぼ 中央にそれぞ れ プ ローブを鉛直に挿入す る.
④温度測定開始か ら15秒後 に10V の電源電圧 を与 え, 150秒間通電す る.通電停止後 の温度変化 を150秒 間測 定す る.温度 はデー タ ロガー を用いて3秒 間隔 で測定す る.
⑤絶乾状態か ら飽和状態 まで① 〜④ の手順 を繰 り返す.
諸 泉 利嗣 ら / 自神山地の土壌熱伝導率の測定
実敦は室温25℃の恒温室で行った.
4 結果 と考察
4.1 熱伝導率の計算例
双子型プローブ法の測定結果の一例 として, 白神第Ⅲ 層の飽和土における土壌試料 と基準物質の温度変化の関 係 を図3に示す.式(3)で必要な両プ ローブの温度変化の 比は,横軸にTq‑IT,A,縦軸にTb‑Tb.をとって描かれ る 直線の傾 きで表す ことができる.この例の場合,最小二 乗法によって直線の傾 きを求めた ところ,温度上昇過程 では O.515,降下過程では0.511とな り,両者の平均は 0.513となった.したがって,熱伝導率は,寒天ゲルの熱 伝導率0.6Wm'lK‑.を用いて式(3)よ り0.308Wm )K1とな
る.
4,2 各層の熱伝導率
休耕含水率の変化に伴 う自神 (第Ⅰ〜Ⅲ層)の熱伝導 率を図4に, ミニ自神 (第Ⅰ〜Ⅲ層)の熱伝導率を図5 にそれぞれ示す.各土壌 とも体積含水率の増加 に伴い熱 伝導率は増加す るとい う一般的な傾向を示 した.
白神 とミニ 自神の熱伝導率は,体積含水率20%程度ま ではほぼ同 じ値であったが,それ以降は ミニ自神 の熱伝 導率が自神の熱伝導率よ りも大 きくなる傾 向を示 した.
飽和休耕含水率では, 白神 の熱伝 導率 が平均 で 0.311 wm'lK'1, ミニ白神が0.423Wm'1K'lとな り, ミニ 自神の 熱伝導率の方が 0.11WmーlKl程度大きくなった.また, 両地点の土壌 とも土層による熱伝導率の違いはみ られな かった.
自神お よび ミニ白神いずれの土壌の熱伝導率 も火 山灰 土 (粕淵, 1972;諸泉 ら,2004)よ り0.2‑0.3Wm'lK‑) 程度小 さくな り,腐葉土 と類似の傾 向を示 した (キャン ベル,1987).一般に,高水分領域では固相の熱伝導率の 効果が大きくなる (キャンベル, 1987)ことか ら,飽和 水分領域で自神土の熱伝導率が火 山灰土よ りも小 さくな った理由として,白神土では熱伝導率の小 さな有機物含 量が火 山灰 土 よ りも若干多かった こ とが考 え られ る.
佐々木 ら (2004)によると自神 山地の土壌は褐色森林土 の様相を呈 し,褐色森林土表層の腐植含量 より少ない も のの,表層で5.3%,第Ⅲ層で7.7%の腐植含量であるこ とが明 らかにされている.また, 自神の方が ミニ 自神 よ りも全体的に熱伝導率が小 さい (飽和土で 0.1Wm IK'] 程度小 さい) ことか ら,腐植含有量は ミニ白神 よ りも自 神の方が多かった と考えられ る. このよ うに,熱伝導率 を測定す ることによって,土壌の構成成分 をある程度推 察することが可能になる.
4(3.)Oq1‑q1
r
● Temperattwer近eO Temperatured,.p 芦
0
2 4Ta‑TaO(℃)
図3土壌試料 (自神第Ⅲ層飽和) と基準物質 (寒天)の 温度変化の関係
545つJ5251
.40..30..20.」O.0000
(7メyJh)を^tpnpu.3[euuaqL 545tJ525‑.40..30..20.」o0000
(.̲メyJVOht^[T3nPU
e
L。uuaqL○ 白
7 + Ⅰ
■ ● 白74ⅡJI A白a I Ⅱ ■
0 10 20 30 40 50
6 0
70 Watercontent(%)図4 熱伝導率 と土壌水分量の関係 (自神)
H j
LI Ⅱ
ⅢEia u
Ej自白白二二二lllヽlllミ○●△t)
△
△
A O
● +0△○ ●
0
10 20 30 40 506 0
70Watercontent(鶴)
図5 熱伝導率 と土壌水分量の関係 (ミニ白神) 91
92 岡山大学環境理工学部研究報告.ll (1)2006年
5 おわ りに
本報告では,双子型プローブ法を用いて世界 自然遺産 である白神 山地の土壌熱伝導率を測定 し,その特徴 を検 討 した.その結果,以下のことが明 らかになった.
(1)各土壌の熱伝導率は,体積含水率の増加に伴い大きく なるとい う一般的傾向を示 した.
(2)白神 とミニ白神の熱伝導率は,体積含水率20%程度 まではほぼ同 じ値であったが,それ以降は ミニ 白神の熱 伝導率が白神の熱伝導率 よ りも大きくなる傾向を示 した.
(3)白神お よび ミニ 白神 いずれの土壌の熱伝導率 も火 山 灰土 よ り0.2‑0.3WmlKl程度小 さくな り,腐葉土 と類 似の傾向であった.
(4)腐植含有量は ミニ 自神 よ りも白神 の方が多かった と 推察 された.
謝辞 :土壌試料の採取に際 しては,弘前大学 白神研究会 の協力を得ま した.ここに記 して感謝の意を表 します.
参考文献
ゲイ ロン S.キ ャ ンベ ル 著 , 中野 政 詩 ・東 山勇 監訳 (1987):パ ソコンで学ぶ土の物理学,鹿 島出版会,p.31 粕淵辰昭 (1972):土壌の熱伝導率におよぽす水分の影響
火 山灰 土壌,沖積 土壌 ,洪積 土壌 について,土肥誌 43(12),437‑441.
粕淵辰昭 (1982):土壌の熱伝導に関す る研究,農業技術 研究所報告B第33号, 10‑12.
諸泉利嗣 ・佐藤裕一 ・佐藤幸一 ・佐々木長市 (2004):土 壌熱伝導率の測定 と推定式の適用,岡山大学環境理工 学部研究報告9, 117‑120.
ファイ トテクノロジー研究会 (2002):フアイテク How toみ る ・きく・はかる一植物衆境計測・,養賢堂,1141115.
佐 々木長市 ・殿 内暁夫 ・野 田香織 ・松山信彦 ・槍垣大助 ・ 諸泉利嗣 (2004):白神 山地の土壌 に関す る研究(1),
白神研究創刊号,24・29.
佐 々木長市 ・殿 内暁夫 ・野 田香織 ・松山信彦 ・′ト関恭 ・ 諸泉利嗣 ・槍垣大助 (2005):自神 山地の土壌 に関す る研究(2), 自神研究第2号,2S・34.