博 士 ( 農 学 ) 鈴 木 伸 治
学 位 論 文 題 名
土壌の熱伝導機構に関する研究
一粗粒火山灰土の熱伝導特性と凍結・融解過程における凍土の熱伝導率―
学位論文内容の要旨
土 壌中 のエ ネル ギ一 移 動や 地温 変動 は, 地 域環境学的,農地工学的, 地盤工学的に重要な現 象 で あり ,こ の現 象を 解 析す るた めに は, 土 壌の熱伝導率を定量的に把 握し,その機構につい て 解 明す るこ とが 不可 欠 であ る. 土壌 の熱 伝 導特性は,土壌を構成する 要素それぞれの熱伝導 率 と それ らの 体積 割合 , およ び土 壌構 造に よ って特徴づけられる.北海 道に広く分布する火山 灰 土 のう ち, 粗粒 火山 灰 土に つい ては ,熱 伝 導特性と,それを特徴づけ る土壌構造の研究が十 分 で はな かっ た. また 土 壌の 凍結 ,凍 上を 解 析し,予測する際,凍土の 熱伝導率は重要な因子 とな るが,凍結・融解過程にお ける熱伝導率のヒステリシス 現象については未解明であ った,そ こ で 本論 文で は, まず 粗 粒火 山灰 土を 対象 に 熱伝導特性を調べ,土壌の 固相,液相,気相の体 積 割 合と それ ぞれ の熱 伝 導率 ,と くに 固相 の 熱伝導率およびその構造が 熱伝導におよぼす影響 に つ いて 検討 し た. 次に1固 相, 不凍 水, 氷 ,気 相の4相 系と なる 凍土 を 対象 に, 熱伝 導率 の ヒス テリシスが現れる条件と傾 向,およびその原因について ,凍結・融解過程における 凍土中の 不 凍 水 量 の 変 化 , お よ び 水 と 氷 の 熱 伝 導 率 の 違 い を 考 慮 す る こ と に よ っ て 解 析 し た . 1. 粗粒火山灰土の構造と熱伝導 特性
道央に分布する粗粒火山灰土の樽前‑d(Ta−d),恵庭‑a(En―a)を試料.として用い,非火山性の 粗 粒 土で ある 砂丘 未熟 土(Sand)と 火山 灰土 で ある黒ポク土(Kuroboku)と 比較することにより,
こ れ らの 粗粒 火 山灰 土の 熱伝 導特 性 の機 構を 明ら か にし た.Sandの熱 伝 導率 は, 水分 飽和 に 近 い 状態 で水 の熱 伝導 率の2倍以上の値を示 したのに対し,Ta―d,En−aの熱伝導率はKuroboku に 類 似 し , 水 分 飽 和 に 近 い 状 態 で も 水 の 熱 伝 導 率 に 近 い値 を示 レた . またSandとKuroboku で は ,熱 伝導 率の 水分 依 存性 が変 化す る土 壌 水分量が認められたのに対 し,Ta−d,En−aでは 熱 伝 導率 の水 分依 存性 が直線的であった.熱 伝導率が小さい原因として2っが明らかになった.
第1の 原因 は, 粗 粒火 山灰 土の 間 隙が 構成 粒子 であ る 軽石 の孔 隙特 性に 起因して多く,土壌の 構 成 要素 のう ち熱 伝導 率 が相 対的 に大 きい 固 相の割合が少ないことであ った.軽石の孔隙を,
表 面 孔隙 ,内 部に 存在 レ 外部 から 遮断 され た 閉塞孔隙,外部と連続する 活性孔隙に区分し,形 態 の 観 察 , 定 量 化 を 行 っ た とこ ろ,Ta―d,En一aで は, 直径20〜30肛mの表 面孔 隙や 直径10
〜50肛mの活 性孔 隙が 存 在し ,こ れら の孔 隙 は2種 の 粗粒 火山 灰土 では 異 なっ た形 態や 分布 を 有し ていた.軽石の孔隙量は, 軽石粒子の体積の75〜 85% を占め,固体部分はわずか15〜 25% で あ った .そ のた め粗 粒 火山 灰土 の自 然堆 積 状態 であ る不 撹 乱状 態に おける全間隙は,Ta−d で は90% ,En―aでは70% と著 し く多 く, 全間 隙の う ち, 閉塞 孔隙 はほ とんど存在しなかった
が,約50%は粒子内の活性孔隙によるものであった.第2の原因は,固相(軽石の固体部分)の 熱伝導率が非火山性の土壌に比べて小さいことである,固相の熱伝導率は,Sandの場合,3.20 Wm−1K−1であったのに対し,これらの粗粒火山灰土では1.4〜 1.5Wm−lK‑lとSandの半分以 下の値を示し,これはKuroboku(l.00Wm一lK―1)よりもわずかに大きい値であった.軽石の表 面孔隙や活性孔隙拭保水性に関与するため,粗粒火山灰土は不撹乱状態で多様な間隙組成を有 し,低いマトルックポテンシャルにおいても多量の水分を保持した.このことが熱伝導率の水 分依存性が低く,直線的となる原因であり,土壌水分が変化しても熱伝導経路が急激に変化し ないためであると結諭づけられた.
2.凍結・融解過程における凍土の熱伝導率
凍結・融解過程における凍土の熱伝導率の変化を調べ,ヒステリシスの有無,および傾向につ いて整理し,その原因を明らかにした,はじめに,熱伝導率の正確ぬ測定方法を検討したとこ ろ,ヒートプ口ープの温度上昇を1℃未満とする条件で測定する限り,凍土,未凍土ともに,
測定値は発熱量,熱供給時間の影響を受けなかった.次に,上記の条件で褐色低地土(Hokudai), 黒ポク土(Kuroboku),砂丘未熟土(Sand)について,‑10℃を境界とした凍結・融解過程の熱伝導 率を測定したところ,熱伝導率は,水分が多いものほど大きい値を示し,その傾向は未凍結状 態よりも凍結状態で顕著であった.凍結による熱伝導率の増加の程度や,凍結後の温度低下に 伴う熱伝導率の増加量もまた,水分が多い試料の方が大きかった.これは氷の割合が凍結前の 水分量が増えるほど増大し,温度低下に伴って氷の熱伝導率が増大するためである,さらに HokudaiとKurobokuでは,凍結・融解過程で熱伝導率のヒステリシスが認められ,融解過程 では凍結過程よりも大きい熱伝導率を示したが,Sandではヒステルシスは生じなかった,こ れらの土壌の不凍水量をTDR土壌水分計で測定したところ,同一温度における不凍水量はSand が最も少なく,凍結前の土壌水分量による違いは認められなかったが,HokudaiやKuroboku では,不凍水量が凍結前の土壌水分量の増加に伴って増加する傾向を示した,その傾向は,同 一 の土壌で あれば固 相率の 多い方が,またHokudaiとKurobokuでは,Kurobokuの方が固相 率が少ないにも拘らず大きかった.そのためSandでは,水分特性曲線や凝固点降下度による 熱力学的に求めた不凍水量の推定値が実測値とほぼ一致したが,HokudaiとKurobokuでは一 致しなかった.さらに,HokudaiとKurobokuでは,融解過程の不凍水量が凍結過程よりも少 なくなるヒステリシスを示し,Sandではヒステリシスは認められなかった.Hokudaiを対象 に,熱伝導率のヒステリシスの傾向として,同一温度における凍結・融解過程の熱伝導率の差を 検討したところ,水分量がゼロ付近ではその差はほぼゼ口に等しいが,土壌水分量の増加に伴 って大きくなった,熱伝導率の差は凍結過程の熱伝導率の2〜8%の値であった.不凍水量のヒ ステリシスの傾向として,同じくHokudaiを対象に,同一温度における凍結・融解過程の不凍 水量の差を検討したところ,不凍水量の差もまた土壌水分量の増加に伴って大きくなった.不 凍水量の差は凍結過程の不凍水量の3 ‑10%の値であった.熱伝導率のヒステリシスの要因に は不凍水量のヒステリシスが強く関与している.これは融解過程では不凍水量が少ない,っま り氷の体積割合が多く,氷の熱伝導率が水の4倍となるためである.熱伝導率のヒステリシス の 傾 向 は, 水 分 量の 増 加ととも に不凍 水量の差 が増大 すること から説明 づけら れた,
以上のように,本論文では粗粒火山灰土と凍結・融解過程における凍土を対象とし,これらの 熱伝導機構について,土壌の構成要素それぞれの熱伝導率とそれらの体積割合,および土壌構
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造の面から明らかにした.本論文で得られた成果は,土壌における熱移動現象の解明に大きく 貢献するものである,
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学位論文審査の要旨
主査 教授 長谷川周一 副査 教授 長澤徹明
副査 教授 粕渕辰昭(山形大学農学部生物生産学科)
副査 助教授 相馬尅之
学 位 論 文 題 名
土壌の熟伝導機構に関する研究
一粗粒火山灰土の熱伝導特性と凍結・融解過程における凍土の熱伝導率ー
本 論 文 は8章 か ら な る 頁 数114の 和 文 論 文 で , 図30, 写 真3, 表13, 引 用 文 献91を 含ん で いる.他に, 参考論文1編が添えられてい る.
土壌 中の エネ ル ギー 移動 や地 温変 動 を解 析する際, 土壌の熱伝導率を定量的に 把握し,その 機 構に つい て解 明 する こと が不 可欠 で ある .粗粒火山 灰土については,熱伝導特 性とそれを特 徴づける土壌 構造の研究が十分ではなかっ た.また凍土については, 凍結・融解過程における熱 伝 導率 のヒ ステ リ シス 現象 が未 解明 で あっ た,そこで 本論文では,粗粒火山灰土 の熱伝導特性 と 凍土 の熱 伝導 率 のヒ ステ リシ ス現 象 につ いて,土壌 の構成要素それぞれの熱伝 導率とそれら の体積割合, および土壌構造の面から明ら かにした.
1.粗粒火山灰 土の構造と熱伝導特性
粗粒火山灰 土の樽前一d(Ta―d),恵庭‑a(En−a)を試料として用い,非火山性の粗粒土である砂 丘未熟土(S and)と火山灰土である黒ポク 土(Kuroboku)と比較した,Ta−d,Enーaの熱伝導率は Sandよ り も小 さく ,Kurobokuに類 似し ,水 分飽 和 に近 い状 態で も 水の 熱伝 導率 に近 い 値を 示 し た. また 熱伝 導 率の水分 依存性が直線的であった. 熱伝導率が小さぃゝ第1の原 因は,構成粒 子 であ る軽 石の 孔 隙特 性に 起因 して 粗 粒火 山灰土の間 隙が多いことであった.軽 石の孔隙を,
表 面孔 隙, 内部 に 存在 し外 部か ら遮 断 され た閉塞孔隙 ,外部と連続する活性孔隙 に区分し,形 態 の 観 察 , 定 量 化 を 行 っ た と ころ ,Ta―d,En―aでは 直 径20〜30ロmの表 面孔 隙や 直 径10〜 50LLmの活 性孔 隙が 存 在し ,こ れら の 孔隙 は2種 の 粗粒 火山 灰土 で は異 なっ た形 態や 分 布を 有 し てい た. 孔隙 は 軽石 粒子 の体 積の75〜85%を占め, 固体部分は15〜 25%であ った.そのた ―96―
め粗粒火山灰土の自然堆積状態である不撹乱状態における全間隙は,Taーdでは90%,En−aで は70%と著しく多く,全間隙のうち閉塞孔隙はほとんど存在しなかったが,約50%は粒子内の 活性孔隙によるものであった,第2の原因は,固相(軽石の固体部分)の熱伝導率が小さいこと であった.固相の熱伝導率は,Sandの場合,3.20 Wm―1K−1であったのに対し,これらの粗粒 火 山 灰土 では1.4〜1.5Wm―lK一lとSandの 半分 以下 の値 を示 し, これ はKuroboku(l.00 W m‑l K‑1)よりもわずかに大きい値であった.軽石の表面孔隙や活性孔隙は保水性に関与する ため,粗粒火山灰土は不撹乱状態で多様な間隙組成を有し,低いマトリックポテンシャルにお いても多量の水分を保持した.このことが熱伝導率の水分依存性が低く,直線的となる原因で あ り,土壌水分が変化しても熱伝導経路が急激に変化しないためであると結諭づけられた.
2.凍結・融解過程における凍土の熱伝導率
はじめに,熱伝導率の正確顔測定方法を検討したところ,ヒートプローブの温度上昇を1℃ 未満とする条件で測定する限り,測定値は発熱量,熱供給時間の影響を受けなかった.次に,
上記の条件で褐色低地土(Hokudai),黒ボク土(Kuroboku),砂丘未熟土(Sand)について,凍結・
融解過程の熱伝導率を測定したところ,HokudaiとKニurobokuでは,凍結・融解過程で熱伝導 率のヒステリシスが認められ,融解過程では凍結過程よりも大きい熱伝導率を示したが,Sand で はヒステリシスは生じなかった.これらの土壌の不凍水量をTDR土壌水分計で測定したと こ ろ,Sandの不凍水量には凍結前の土壌水分量による違いが認められず,水分特性曲線や凝 固 点降下度から求めた推定値とほば一致したが,HokudaiやKurobokuでは,測定値が凍結前 の土壌水分量の増加に伴って増加する傾向を示し,推定値とは一致しなかった.さらにHokudai とKurobokuでは,融解過程の不凍水量が凍結過程よりも少なくなるヒステリシスを示し,Sand ではヒステルシスは認められなかった.同一温度における凍結・融解過程の熱伝導率の差を検討 したところ,水分量がゼロ付近ではその差はほぽゼロに等しいが,土壌水分量の増加に伴って 大きくなった.同一温度における凍結・融解過程の不凍水量の差を検討したところ,不凍水量の 差も土壌水分量の増加に伴って大きくなった.熱伝導率のヒステリシスの要因には,融解過程 では不凍水量が少ない,つまり氷の体積割合が多く,氷の熱伝導率が水の4倍となることが強 く関与し,熱伝導率のヒステリシスの傾向は,水分量の増加とともに不凍水量の差が増大する ことによるものと説明づけられた.
本論文で得られた成果は,土壌における熱移動現象の解明に大きく貢献するとともに,学術 的にも高く評価される,よって審査員一同は,鈴木伸治が博士(農学)の学位を受けるのに十分 な資格を有するものと認めた.
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