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マイクロスコープを使用した根管治療

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クリニカル・テクノロジー

マイクロスコープを使用した根管治療

増 田 宜 子

Root Canal Treatment with the Surgical Microscope

Yoshiko Masuda

Department of Endodontics, Showa University School of Dentistry

 昭和大学歯学部歯内治療学教室  (2011年2月7日受理)

 要旨

 従来,見えない手探りの処置であった根管処置に際して,近年マイクロスコープが使用され 始め,歯内治療において治療の可視化と精密化が可能となり様々な困難な症例に対して積極的 に取り組めるようになった.根管の探索,根管内異物の発見・除去,歯根破折の発見,穿孔部 の発見と封鎖,外科的歯内療法などが可視化によってより正確に行われ過剰切削や穿孔等の偶 発症をなくし低侵襲な手術によって術後の痛みや腫れが減少した.その結果 治療の成功率も 向上している.また,拡大された治療画像を記録することによって,患者に対して現在の患歯 根管の正確な状態を示しながら説明することができ,信頼関係の構築にも役立っている.さら に拡大された根管治療映像を見ることによって今まではわからなかった根管治療の詳細なテク ニックや様々な根管の形態を臨床研修医や学生が学べるようになり教育においても重要な役割 を果たしている.

(2)

図1

図2

図3

図4

(a)

図5 図7 (b)

(b)

(a) (c)

(d)

(a)

(b)

図11 図12

図10 図9

(a)

(b)

図6

(a) (b)

(c)

図8

(3)

 緒言

 歯内治療では根管処置に際して,エックス線写真をも とに処置を進めることが一般的であった.しかし近年マ イクロスコープ(手術用実体顕微鏡)が使用され始め,

強力な照明と術野の拡大によって,歯内治療において 治療の可視化と精密化が可能となり様々な困難な症例に 対して積極的に取り組めるようになった.米国における 最近の歯内療法専門医を対象としたアンケート調査によ ると,90%の専門医がマイクロスコープを使用している との報告がなされている1).ルーペによる拡大観察より も照明が奥まで届くため根管のような奥行きのある対象 物の観察では,マイクロスコープのほうがはるかに有効 である.従来,見えない手探りの処置であった根管の探 索,根管内異物の発見・除去,歯根破折の発見,穿孔部 の発見と封鎖,外科的歯内療法などが見えることによっ てより正確に行われ治療の成功率の向上につながってい る2〜5).また,拡大された治療画像を記録することによっ て,患者に対して現在の患歯根管の正確な状態を示しな がら説明することができ,信頼関係の構築にも役立って いる.さらに今までは,見ることができなかった根管内 の様子を拡大された根管治療映像を見ることによって診 療補助者と情報を共有できるようになった.根管治療の 詳細なテクニックや様々な根管の形態を臨床研修歯科医 師や学生が学べるようになり教育においても重要な役割 を果たしていると言える.現在歯内治療科において行わ れているマイクロスコープを用いた根管治療についてそ の特徴と症例を紹介する.

 特徴

 現在歯内治療科では,DMS25ZC(マニー株式会社)(図

1),VH-6300(キーエンス株式会社),OMS-75(トプコ

ンメディカルジャパン株式会社)の3種類のマイクロス コープが設置されている.マイクロスコープを使用した 歯内治療の特徴として,拡大,照明,記録があげられる6)

 拡大:基本的には対物レンズで得られた情報をさらに 接眼レンズで拡大することによって強拡大像を得てお り,倍率は3〜20倍である.ほとんどの機種は,手動の 変倍機構(図2)によって自由に倍率を調整できる.顕 微鏡下での根管治療を効率的に行うための拡大率は,開 拡窩洞〜髄室の観察で約5〜10倍,根管口〜根管内上部

で10〜15倍,そして根管内深部での作業では15〜20倍,

歯根尖切除手術などの根管切断端の観察には15〜20倍 が適当といわれている6)

 照明:視野が拡大されてもそれに見合う照明がなけれ ば観察できない.マイクロスコープは,光軸(照明軸)

と観察視軸が近いため根管の中にも光が入り明視野で観 察できる.また,強力な落射照明が装備されており光源 として一般的にハロゲン光源が用いられている.光源に は大きく分けて2種類ありハロゲンの他にキセノンがあ る.ハロゲンは,コストパフォーマンスに優れ,比較的 眼に優しくコンポジットレジンやボンディング剤の硬化 が遅いため修復処置に適している.一方,キセノンは非 常に明るく太陽光に近い白さであり根管内を鮮明に見た い時には適している.また,写真撮影時の色再現に優れ ている.しかし患者・アシスタントはゴ−グルが必要で あり比較的コストが高い7)

 記録:マイクロスコープによって拡大された根管治療 を撮影し記録することによって術者の視界を公開でき る.CCDカメラ(図3)からの信号を静止画であれば デジタルカメラへ,動画で記録の場合はビデオで録画す る.マイクロスコープ下での映像を患者に提示あるいは,

臨床研修医・学生への教育に用いる場合は動画のほうが 有効である(図4)8)

 使用する器具

 歯科用ミラー:通常の歯科用ミラーには表面に傷がつ かないよう硝子が貼ってあり,マイクロスコープ下で観 察すると硝子に反射した虚像が認められ見づらい.拡大

図1 マイクロスコープ(DMS25ZC).

図2 手動の変倍機構.

図3 実体顕微鏡CCDカメラ.

図4  (a) 拡大された根管治療の画像を見ることによって臨床研修医・学生の理解が深まる.(b)患者に録画した映像

を示し根管内の状態の説明を行った.

図5 表面反射ミラー.

図6 (a) 超音波用エンドファイル(#25),(b) 超音波用ダイヤモンドファイル(3-F)(マニー).

図7 レトロミラー.

図8  (a) 下顎左側第二大臼歯の根尖部に透過像を認める.(b) 骨梁の添加と歯根膜腔が認められた.(c) 根管形態は

樋状根であった.破壊された根尖孔の石灰化が確認された.

図9 根尖の穿孔部より出血が認められる.

図10 上顎第一大臼歯MB2の検索が容易である.

図11  (a)下顎第二大臼歯遠心舌側根管根管口の石灰化が認められる.(b)注水下にてダイヤモンドファイルを用い て石灰化部の除去を行った.

図12  上顎左側中切歯の根尖切除術を行った.(a) レトロミラーを用い根管内の観察を行った.(b,c) 注水下にてダ イヤモンドファイルを用いて逆窩洞形成を行った.(d) EBAセメントにて逆根管充填を行った.

(4)

された鮮明な映像を得るためには,表面反射ミラーを用 いる必要がある(図5)9)

 超音波チップ:マイクロスコープを使用して根管治療 を行う場合,超音波発生器は必要不可欠である.当科で

は,ENAC(OE-3,長田電気工業株式会社)に超音波チッ

プのエンドファイルやダイヤモンドファイル(図6)を 取り付け使用している10)

 根管解剖

 根管治療を行う際は,根管の解剖学的形態を把握して いないと過剰切削,穿孔,天蓋の取り残し等を引き起こ してしまう.しかし,開拡された髄室窩洞から髄床底ま での距離が長い症例では,光が届きにくく髄室形態を把 握することが困難である.マイクロスコープを用いると 強力な光源によって髄室の深部まで明視することが可能 となり過剰切削・天蓋の取り残しを防ぐことができる.

また,明視野によって髄室内の壁面と髄床底の色調の違 いを確認できる.複根歯の髄床底に認められる線上構造

(related groove)も確認でき,根管口の位置を探る目安 となる.マイクロスコープの使用は,根管口の発見には とても有効である11).エックス線写真上では1根管と思 われる症例においても,重なり合った画像の中に未処置 の根管あるいは不備な根管治療の根管が隠れている場合 があり,解剖学的知識を備えた上でマイクロスコープを 使用すると有効である.Stropkoの報告では,上顎第一 および第二大臼歯の近心頬側根管の口蓋側にある根管

(MB2)をマイクロスコープを使用しない場合の発見率 はそれぞれ74%,51%であったが,マイクロスコープ を使用した場合は93%,60%であった12)

 学生教育においても,マイクロスコープを使用した場 合,歯種によって異なるが約25%から80%の根管口明 示が良好となったという報告がある13)

 マイクロスコープを用いると根尖孔の観察も可能とな る.根尖孔は通常20から30 µm の大きさであり大きく 湾曲した根管でない限りある程度の高倍率観察で確認で きる.水酸化カルシウム製剤による根尖部の硬組織形成 による閉鎖状態の確認も容易である.無意味な根尖孔の 拡大,不注意な根管拡大による根尖孔の破壊を防ぐこと ができる11)

 マイクロスコープの使用は,穿孔部の処置においても 有効である.ほとんどの穿孔は肉眼では見えない部位に わずかに発生するため,正確な処置を行うためにはマイ クロスコープ下で穿孔の大きさ部位,部位を確認するこ とが重要である14)

 根管内破折ファイル等の根管内異物の除去は治療と同 様に手探りで行われてきたが,マイクロスコープを用い ることによって過剰切削,穿孔等の偶発症を引き起こす

ことなく根管内異物を除去することが可能となった.破 折ファイルの場合,破折断端を確認後超音波チップを用 いて破折機器周囲の歯質を切削・振動させ,機器を根管 壁から遊離させ除去を試みる11)

 根管内に深く入っているコアの除去は根管の過剰切削 によって根尖部の破壊を招いてしまうためリスクの大き い処置であったがマイクロスコープを用いることによっ て周りの歯質を削らずにコアだけを除去できるためリス クを減らすことができる.

 マイクロスコープを用いると歯冠部,根部の亀裂の発 見にも効果的である.歯冠部,根部の亀裂はそれらから 歯周組織炎を引き起こすが初期の段階では原因不明の疼 痛が続き患歯の特定が困難な場合もある.一般的に歯根 破折の臨床所見としては,孤立した深いポケットの存在,

歯肉縁近くに発現するフィステル,レントゲン写真上で 根尖のみならず歯根を取り囲むように認められる透過 像,上顎第二小臼歯,下顎大臼歯近心根に多い等があげ られる15).確定診断には破折線の発見が必要であり,ヨー ドチンキやメチレンブルーを用いて染色し暗い根管内を マイクロスコープにて観察すると有効である.

 マイクロサージェリー

 これまでの根尖切除術は視界も暗く解剖学的な微細構 造を確認できなかった.マイクロスコープを用いること によって外科処置の術式を大きく改善し良好な予後が期 待できるものとなった.従来法の根尖切除術の成功率は 約70% であったが,マイクロサージェリーでは約90%

と報告されている16).これまでの逆根管充填での窩洞は 回転切削器具で形成されていたため根管から逸脱して おり正確な位置に充填されず根管からの漏洩を招いてい た.マイクロスコープを用いることによって根尖孔が確 認でき,骨切除が5 mm以下で行える.さらに歯根断面 の観察が可能となりべベル角度も10°以下にでき,根管 からの漏洩を防ぐことができる17).イスムスの確認,逆 窩洞形成,逆根管充填が確実となり症例によっては大臼 歯まで適応となっている.根尖切除の位置においてKim らは根尖を3 mm 切除することにより根尖分岐は98%,

側枝は93%が除去されると報告している18).根尖は約3

mmを べベルを付けずに切除し,歯根表面をマイクロ スコープにて観察し側枝の開口が見つかれば側枝を逆根 管治療する.マイクロサージェリーでは,超音波レトロ チップにて窩洞形成し根管内の観察にはレトロミラー

(図7)を用いる.マイクロサージェリーは低侵襲な手

術であり術後の痛みや腫れを少なくできる19).  臨床例

 臨床例を示す.

 1) 症例1:下顎左側第二大臼歯の急性化膿性根尖性

(5)

歯周炎で来院.根尖部に直径8 mmの透過像を認 める(図8 (a)).根管形態は樋状根であった。水 酸化カルシウムによる貼薬を行ったところ根尖病 変部に骨梁が添加され歯根膜腔が認められた(図 8 (b)).破壊された根尖孔の石灰化も確認された

(図8 (c)).

 2) 症例2:上顎左側中切歯の根尖部の穿孔より出血

が確認された(図9).

 3) 症例3:上顎第一大臼歯の近心頬側根管の口蓋側

にある根管 (MB2) の検索が容易である (図10).

 4) 症例4:下顎第二大臼歯遠心舌側根管の根管口が

石灰化していた(図11 (a)).

   注水下にてダイヤモンドファイルを用いて石灰化 部の除去を行った(図11 (b)).

 5) 症例5:上顎左側中切歯の根尖部穿孔により根尖

切除術を行った.

   レトロミラーを用い根管内の観察を行う (図12

(a)).

   注水下にてダイヤモンドファイルを用いて逆窩洞 形成を行い (図12 (b, c)),EBAセメントにて逆 根管充填を行った (図12 (d)).

 まとめ

 マイクロスコープは根管の探索,根管内異物除去,歯 根破折の発見,歯根尖切除術など様々な難しい根管処置 を可能にしているが,臨床経験と解剖学的知識も必要で ある.さらにマイクロスコープに慣れるということも大 事だと思われる.

 最近では,歯科用CTとマイクロスコープを用いてよ り正確で予後良好な歯内治療や歯根尖切除術が報告され ており2〜4),より一層の臨床技術と成功率の向上が望ま れている.

文     献

1)木の本喜史:マイクロスコープを使用した歯内療 法.恵比須繁之編.エンド難症例 メカニズムと臨 床対応,歯界展望別冊.東京,2009,医歯薬出版,

pp 105 115

2)岡口守雄:マイクロスコープの有用性を探る 根管 治療における使用.Dental Diamond, 35:29 33, 2010 3)樋口直也,中田和彦,中村 洋:歯内療法における 歯科用CTとマイクロスコープの有用性:症例報 告.日歯保存誌,130 回:191 (抄),2009

4)内田雄士,北本泰子,柴 秀樹,藤田 剛,岩田倫 幸,武田克浩,上田 武,日野孝宗,河口浩之,栗 原英見:歯科用CTとマイクロスコープを用いて穿 孔を伴う歯内病変の治療を行った:1症例.日歯内 誌,31回:90 (抄),2010

5)吉岡隆知,八幡祥生,中野生和子,花田隆周,石村 瞳,菊地和泉,鈴木規元,川島伸之,砂川光宏,須 田英明:先進医療「X線CT画像診断に基づく手術用 顕微鏡を用いた歯根端切除手術」の治療成績.日歯 保存誌,53:66 72,2010

6)中川寛一:顕微鏡を応用した歯内治療.戸田忠夫,

中村 洋,須田英明,勝海一郎編.歯内治療学.東 京,2009,医歯薬出版,pp 253 256

7)南 昌宏,岡口守雄,天川由美子,貞光謙一郎:マ イクロスコープの有用性を探る―マイクロスコープ の必要性と注意点.Dental Diamond, 35:39 45, 2010 8)澤田則宏:マイクロスコープの種類と特徴.飯島国 好編.マイクロスコープによる歯内療法―MI時代 の歯内療法―.東京,2005,クインテッセンス出版 株式会社,pp 17 25

9)澤田則宏:マイクロスコープ下で使用する器具.飯 島国好編.マイクロスコープによる歯内療法―MI 時代の歯内療法―.東京,2005,クインテッセンス 出版株式会社,pp 26 28

10)辻本恭久:マイクロスコープを使用した根管治療を 有効的にする器具と使用法.Dental Magazine,119:

1 6,2006

11)中川寛一:マイクロスコープ下の根管解剖.飯島国 好編.マイクロスコープによる歯内療法―MI時代 の歯内療法―.東京,2005,クインテッセンス出版 株式会社,pp 29 34

12) Stropko JJ:Canal morphology of maxillary molars:

clinical obser vations of canal configurations. J Endodont, 25:446 450, 1999

13)辻本真規,小倉 静,加藤友寛,三浦 浩,小塚昌 宏,辻本恭久,松島 潔:歯内療法を成功させるた めの解剖学的知識とマイクロスコープの使用効果.

日大口腔科学,31:25,2005

14)井澤常泰,三橋 純,吉岡隆知:顕微鏡歯科入門  根管治療,コンポジットレジン修復を中心に.東京,

2005,砂書房,pp 62 65

15) Tamse A, Fuss Z, Lustig J, Kaplavi J:An evaluation of endodonticaly treated vertically fractured teeth. J Endodont, 25:506 508, 1999

16)木の本喜史:マイクロスコープを使用した外科的歯 内療法.恵比須繁之編.エンド難症例 メカニズム と臨床対応,歯界展望別冊.東京,2009,医歯薬出 版,pp 116 124

17) Gilheany PA, Figdor D, Endo D, Tyas MJ:Apical dentin permeability and microleakage associated with root end resection and retrograde filling. J Endodont, 20:22 26, 1994

18) Kim S, Pecora G, Rubinstein RA:Color atlas of micro- surgery in endodontics. Philadelphia, 2001, W.B.

Saunders Company

19)井澤常泰,三橋 純,吉岡隆知:顕微鏡歯科入門  根管治療,コンポジットレジン修復を中心に.東京,

2005,砂書房,pp 69 88

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