特 集 呼吸器
特発性肺線維症
―
診断と治療の変遷
―東邦大学医学部内科学講座呼吸器内科学分野
本 間 栄
概念・定義
特発性肺線維症 (idiopathic pulmonary fibrosis;
IPF)は,原因不明の慢性進行性の線維化を特徴と する特発性間質性肺炎 (idiopathic interstitial pneumonias;IIPs)の一型で,最終的に不可逆的 な蜂巣肺を形成し,高度の拘束性換気障害および肺 拡散能障害を呈する.その病理組織パターンは通常 型間質性肺炎 (usual interstitial pneumonia;UIP)
であり,空間的および時相的に不均一な肺胞構造改 変をきたす密な線維化病変が特徴である.種々の遺 伝的背景因子の基に外因的,あるいは内因的刺激に より肺胞上皮または基底膜が傷害され,その修復過 程における線維芽細胞・筋線維芽細胞の増殖,細胞 外基質の過剰産生により肺正常構造が破壊され,線 維化が進行することにより呼吸機能障害が引き起こ される . これまでの IPF の診断は,2000 年の ATS/
ERS(米国 / 欧州呼吸器学会)の statement
1)に準 じて,臨床・画像,病理学的に診断されてきた.し かしながら,2011 年の IPF 新ガイドラインでは,
胸部高分解能CT (high-resolution computed tomography;HRCT)における UIP パターンを重 視するといった大きな変更点があった
2).IPF の臨 床経過は様々で,患者の大多数は緩徐に進行してい くが,一部の患者では急速進行性に悪化することが 知られている.また,緩徐に進行する患者の中にも 急性増悪をきたし,死亡あるいは段階的に悪化する 患者も認められる(図 1)
3).
疫学・予後
IPF の発症率と有病率に関して,日本のコホート 研究調査によると年間発症率は 10 万人対 2.23 人 , 有病率は 10 万人対 10.0 人とされている.IPF は中
年以降の男性に多く,発症時の平均年齢は 64 〜 68 歳である.平均生存期間は 3 〜 5 年といわれている が,患者間差は大きく,正確な予後予測は困難であ る.予後不良因子として急性増悪,肺癌,肺高血圧 の合併などがあり,重症度が高くなるほど合併率も 高くなる.
診 断 1.臨床症状・身体所見
IPF の進行は通常緩徐で,初期には無症状の場合 もあるが,一般に初発症状は乾性咳嗽や労作時呼吸 困難である.聴診上,特に背下部に吸気終末時の捻 髪音 (fine crackles)を聴取する.病変の進行に 伴って,肺底部から上方に拡大していく.ばち指 は,数年にわたり肺の線維化が進行していることを 示唆する所見であるが,25 〜 50%前後に認められ る.疾患の進行に伴い,チアノーゼ,肺性心,末梢 性浮腫などが認められる.その他全身症状として,
図 1 IPF の自然史
患者の大多数は緩徐に進行していくが(A),一部の患 者では急速進行性に悪化することが知られている(B).
また,緩徐に進行する患者の中にも急性増悪をきたし,
死亡あるいは段階的に悪化する患者も認められる(C)
(文献 3 より引用).
か
体重減少,倦怠感,易疲労感を訴えることがある.
発熱や膠原病を示唆すような皮膚・関節症状を認め る場合は,感染症の合併,急性増悪ならびに膠原病 に伴う間質性肺炎を疑う必要がある.
2.検査成績
胸部 X 線でびまん性の陰影を確認し,呼吸機能 検 査 で 拘 束 性 換 気 障 害(VC の 低 下 ) や 拡 散 能
(DLco)の低下,ガス交換障害(Aa-Do
2の開大,
安静時または運動時の SpO
2,PaO
2の低下)などの 異常を確認する.本邦における IPF の重症度分類 で は, 安 静 時 の 動 脈 血 酸 素 分 圧 値 と 歩 行 時 の desaturation の有無により重症度Ⅰ度からⅣ度まで に分類されている(表 1)
4).
画像所見:胸部 HRCT の特徴は肺底部,胸膜直 下優位に数層の数 mm から 10 mm 大の嚢胞状構造 が 集まった 蜂 巣 肺 の 所 見 が 認 められる( 図 2).
HRCT 所見で 3 つのパターン(UIP,possible UIP,
inconsistent with UIP)に分類し(表 2)
2),UIP パ
ターンであれば外科的肺生検は施行せずに IPF と 診断可能である.UIP パターンでない場合(possible UIP あるいは inconsistent with UIP)には,可能な 限り外科的肺生検を施行し,病理組織学的検討を行 う.病理組織所見は4つのパターン(UIP,probable UIP,possible UIP,not UIP)に分類し,HRCT パ ターンと病理組織パターンの組み合わせにより最終 診断する(表 3)
2).なお,喫煙者では,気腫性病変 を合併する(combined pulmonary fibrosis and emphysema:CPFE)ことがあり,呼吸機能検査や 画像所見が非典型的となる場合がある.
また,最終診断の精度を高めるには,間質性肺炎 の診断に精通した臨床医,放射線画像診断医,病理 医による集学的検討 (multidisciplinary discussion;
MDD)が重要とされている(表 4)
2).
血液検査所見:IPF の確定診断に有用な血液検査 はないが,血清 KL-6,SP-A,SP-D の上昇が本疾 患の存在を疑わせる契機,病勢のモニタリング,治
図 2 胸部 CT 画像
A: 冠状断.両側下葉,肺底部胸膜下優位に蜂巣肺形成を認め,上方に進展 している.肺容積は減少し,牽引性気管支拡張もみられる.
B: HRCT.両側下葉胸膜下優位に壁厚の嚢胞が重層している(蜂巣肺).
表 1 IPF の重症度分類.安静時の動脈血酸素分圧値と歩行時の desaturation の有無により重症度Ⅰ度からⅣ度までに分類され ている(文献 4 より引用).
重症度分類 安静時動脈血ガス 6 分間歩行時 SpO
2Ⅰ 80 Torr 以上
Ⅱ 70 Torr 以上 80 Torr 未満 90%未満の場合はⅢにする
Ⅲ 60 Torr 以上 70 Torr 未満 90%未満の場合はⅣにする
Ⅳ 60 Torr 未満 測定不要
療反応性の評価などに用いられる. 自己抗体では,
抗核抗体やリウマチ因子が IPF 患者の 10 〜 20%に 認められるが,高力価は膠原病の存在を疑わせる.
MPO-ANCA 陽 性 間 質 性 肺 炎 や 抗 ア ミ ノ ア シ ル tRNA 合成酵素抗体陽性の筋炎に伴う間質性肺炎,
肺病変先行型の膠原病も存在するため,診断時のみ ではなく定期的な自己抗体の測定を考慮する.
特発性間質性肺炎( IIPs )の新分類
ATS/ERS の IIPs の国際分類が 2013 年に改訂さ れ,Major IIPsとしてidiopathic pulmonary fibrosis
(IPF), idiopathic nonspecific interstitial pneumonia
(idiopathic NSIP), respiratory bronchiolitis interstitial lung disease (RB-ILD), desquamative
表 2 IPF の胸部 HRCT 診断基準(文献 2 より引用)
UIP パターン
(下記 4 つを満たすこと)
Possible UIP パターン
(下記 3 つを満たすこと)
Inconsistent with UIP パターン
(下記 7 つのどれか)
・胸膜直下,肺底部優位
・網状影
・蜂巣肺(
±牽引性気管支拡張)
・UIP に合致しない所見を持たな いこと
・胸膜直下,肺底部優位
・網状影
・UIP に合致しない所見 を持たないこと
・上中肺野優位な分布
・気管支血管周囲に優位・広範なすりガラス影 (網状影より範囲が広い)
・多数の粒状影(両側性ないし上肺野優位)
・嚢胞散在(多発性,両側性,蜂巣肺から離れた領域に分布)
・びまん性モザイクパターン(両側性,3 葉以上)
・区域,葉に及ぶコンソリデーション
表 3 胸部HRCTと病理組織パターンの組み合わせによる IPFの診断(文献2より引用)
胸部 HRCT パターン 外科的肺生検パターン IPF の診断
UIP UIP
Probable UIP Possible UIP
Nonclassifiable fibrosis
Yes
Not UIP No
Possible UIP UIP
Probable UIP Yes Possible UIP
Nonclassifiable fibrosis Probable
Not UIP No
Inconsistent with UIP UIP Possible Probable UIP
Possible UIP
Nonclassifiable fibrosis Not UIP
No
表 4 IPF 診断のためのフローチャート(文献 2 より引用)
Ganesh Raghu . An Official ATS/ERS/JRS/ALAT statement : Idiopathic Pulmonary Fibrosis : Evidence- based Guidelines for Diagnosis and Management.
2011;183:788‑824.
interstitial pneumonia (DIP), cryptogenic organizing pneumonia (COP), acute interstitial pneumonia (AIP)の6病型,rare IIPsとして idiopathic lymphoid interstitial pneumonia (LIP), idiopathic pleuroparenchymal fibroelastosis
(PPFE) の 2 病型 , そして分類不能の unclassifiable IIPs と計 9 病型に分類された(表 5)
5).さらに,病 気の臨床経過に準じた分類,治療の目標が実臨床に 即して提唱された(表 6)
5).
治 療 慢性期の治療
IPF の治療薬として,抗炎症作用のみならず,慢 性進行性の線維化を抑制する薬剤が望まれ,線維化 が顕著となる以前からの早期治療導入が必要である
と考えられるようになっている.2000 年の ATS/
ERS のガイドラインでは,ステロイドと免疫抑制 薬が暫定的に推奨治療とされてきたが,治療の主眼 が抗炎症から抗線維化へパラダイムシフトし , 2014 年に IPF の新規治療薬の大規模臨床試験の結果が 報告され,抗線維化薬で主に TGF- βや血小板由来 増殖因子(PDGF)などの増殖因子の産生抑制作用 のあるピルフェニドン, PDGF,線維芽細胞増殖因 子(FGF),血管内皮増殖因子(VEGF)受容体の 拮抗薬(低分子チロシンキナーゼ阻害薬)であるニ ンテダニブの有効性が示された.抗酸化作用と共 に,抗線維化作用のある N-アセチルシステイン
(NAC)単剤経口投与の有効性は示されなかった が,本邦では未治療早期 IPF 患者を対象に NAC 単 独吸入療法の有用性を検討する臨床研究が行われ,
表 5 特発性間質性肺炎の新分類(文献 5 より引用)
ATS/ERS の IIPs 改訂集学的合意分類(2013)
主要 IIPs(Major IIPs)
慢性線維化性間質性肺炎
(chronic fibrosing interstitial pneumonia) IPF 特発性 NSIP 喫煙関連間質性肺炎
(smoking related interstitial pneumonia) RB-ILD DIP 急性 / 亜急性間質性肺炎
(acute/subacute interstitial pneumonia) COP AIP
稀少 IIPs(Rare IIPs) 特発性 LIP
特発性 pleuroparenchymal fibroelastosis
分類不能型 IIPs (Unclassifiable IIPs)
大きく Major, Rare, Unclassifiable の 3 つのカテゴリーに分類,更に Major IIPs を,3 つに分類,これに加えて,
疾患概念として十分でないが,稀少組織パターンとして,Acute fibrinous and organizing penumonia (AFOP)
Bronchiolocentric patterns of interstitial penumonia が提示されている.
表 6 特発性間質性肺炎の分類・治療の目標(文献 5 より引用)
病気の臨床経過(Disease Behavior)に準じた臨床分類
臨床経過 治療の目標 モニタリングの方法
可逆性あり& self-limited
(例:RB-ILD) 可能性のある原因除去 疾患の寛解を確認するため短期間(3 〜 6 月).
可逆性あるが悪化のリスクあり
(例:NSIP の一部,DIP,COP)
初 期 の 反 応 性 を 見 て,
有効な長期治療を行う.
治療反応性確認のため短期間観察.
効果が持続するか確認するため長期間観察.
病気は持続するも安定
(例:NSIP の一部) 状態の維持 臨床経過を評価するため長期間観察.
進行性,安定化する可能性があるが非可逆性
(例:f-NSIP の一部) 安定化 診療経過を評価するため長期間観察.
治療にもかかわらず,進行性,非可逆性
(例:IPF,f-NSIP の一部) 進行を遅くする 臨床経過を評価するため,移植あるいは緩和
の要否を評価するため長期間観察.
有効群が存在することが確認されている.
a)N-ア セ チ ル シ ス テ イ ン(N-acetylcysteine:
NAC)吸入療法
わが国では,早期 IPF(重症度がⅠ度もしくはⅡ 度且つ 6MWT 時最低 SpO
2が 90%以上)を対象と して海外の臨床試験とは投与経路が異なる NAC 単 独吸入療法の疾患の進行防止に対する有効性を無治 療群との比較において検討した
6).その試験デザイ ンは中央登録方式による多施設共同 , 無作為 , オー プン , 並行群間比較試験で,主要評価項目は努力肺 活量(FVC)の投与開始前から 48 週間の変化量と した.結果は,全国 27 施設より 100 例が登録され,
Per Protocol Set (PPS)適格例は NAC 吸入群 38 例,無治療群 38 例であった.主要評価項目の FVC の経時的変化量(48 週)は全体では 2 群間に有意 差はなかったが,ベースラインの% FVC が 95%未 満(p = 0.0213)および% DLco が 55%未満(p = 0.0086)の層別解析において治療群の方が無治療群 より有意に良好であった(FVC 平均値差;前者:
0.12L/48W, 後者:0.17L/48W)(図 3).NAC の効 果は,吸入前および吸入 6 か月後ごとの臨床症状
(呼吸困難),呼吸機能(FVC,% FVC,VC,%
VC,TLC, % TLC,DLco, % DLco),6 分 間 歩 行テスト(歩行距離,SpO
2最低値),胸部 HRCT 所見,血清マーカー(KL-6,SP-D)等について比 較し,治療効果判定を行う.
また,ステロイド,免疫抑制薬,ピルフェニドン 等との併用も可能である.
b)ピルフェニドン(pirfenidone:PFD)
抗線維化機序は主に TGF- βや PDGF などの増
殖因子の産生抑制作用に起因すると考えられてい る.2000 年からわが国で臨床試験が行われ , 国内第
Ⅲ相試験では,主要評価項目である VC の変化量 は,プラセボ群と比較し有意差が認められ,VC の 低下抑制効果が示された
7).また,欧米における PFD の第Ⅲ相試験(Capacity 1, 2 試験)の結果が 報告され,72 週の時点で努力肺活量(FVC)の変 化 量 は Capacity 1, 2 で 結 果 が 異 な っ た た め
8), ASCEND 試験が行われた.その結果,PFD 群では プラセボ群と比較して,FVC が 10%以上低下した 患者,あるいは死亡した患者の割合が,47.9%相対 的に減少し,PFD 群の FVC 変化量は−235 ml で あったのに対して,プラセボ群は−428 ml と有意 に PFD 投与群において FVC の低下が抑制された
(図 4).この結果をうけ IPF 患者において,PFD により,疾患の進行が抑制されたと結論づけてい る
9).
この ACEND 試験の結果から,2011 年のガイド ラインにおいて[使用しないことを条件付き推奨
(conditional recommendation against use)]であっ た推奨が 2015 年の改定では[使用を条件付き推奨
(conditional recommendation for use)]へ格上げ となった(表 7)
10).
c)ニンテダニブ(Nintedanib)
チロシンキナーゼ阻害薬 nintedanib が IPF 症例の FVC 低下に対して抑制傾向を示した第Ⅱ相臨床試験 の結果が 2011 年に報告された.複数のチロシンキ ナーゼ受容体によって活性化されるシグナル伝達経 路と,この受容体(FGF, PDGF, VEGF receptor)
の阻害によって IPF の進行を抑制するという仮説
図 3 ベースラインの% FVC が 95%以下(A)および% Dlco が 55%以下(B)の IPF における NAC 吸
入後の FVC 平均値の推移(文献 6 より引用)
のもとこの試験が行われ,主要評価項目である FVC 低下が抑制された
11).
こ の 結 果 を う け, 第 Ⅲ 相 試 験(INPULSIS-1,
INPULSIS-2)が行われた. FVC 年間変化量は,
INPULSIS-1 では nintedanib 群−114.7 ml に対しプ ラ セ ボ 群−239.9 ml で あ り,INPULSIS-2 で は nintedanib 群−113.6 ml に 対 し プ ラ セ ボ 群−207.3 ml で あ り ( 図 5). こ の 結 果 か ら, nintedanib は FVC の低下を抑制し IPF の疾患進行を抑制できる
と結論付けている
12).この結果をうけ,2015 年のガ イドライン改定において初めて nintedanib が記載 され,[条件付き推奨(conditional recommendation for use)]と記載された(表 7)
10).
急性増悪期の治療
IPF の経過中に両肺に新たな浸潤陰影,すりガラ ス陰影が出現し,著明な低酸素血症をきたすことが あり,その原因が不明な場合は急性増悪と定義され る.ステロイド,免疫抑制薬,好中球エラスターゼ阻
表 7 IPF ガイドライン(ATS/ERS/JRS/ALAT):
2011 年と 2015 年の比較(文献 10 より引用)
治療薬 2015 年ガイドライン 2011 年ガイドライン
ステロイド単剤療法 記載なし 使用しないことを強く推奨
シクロスポリン A 記載なし 使用しないことを強く推奨
ステロイド+免疫抑制剤併用療法 記載なし 使用しないことを強く推奨
抗凝固療法(ワルファリン) 使用しないことを強く推奨
*使用しないことを条件付き推奨
‡Prednisone +アザチオプリン+ NAC 併用療法 使用しないことを強く推奨
†使用しないことを条件付き推奨
†選択的エンドセリン受容体アンタゴニスト
(アンブリセンタン) 使用しないことを強く推奨
†記述なし
イマチニブ,単標的の TKI 使用しないことを強く推奨
*記述なし
ニンテダニブ,複数標的の TKI 使用を条件付き推奨
*記述なし
ピルフェニドン 使用を条件付き推奨
*使用しないことを条件付き推奨
†デュアルエンドセリン受容体アンタゴニスト
(マシテンタン,ボセンタン) 使用しないことを条件付き推奨
†使用しないことを強く推奨
*ホスホジエステラーゼ 5 阻害薬(シルデナフィル) 使用しないことを条件付き推奨
*記述なし
N-アセチルシステイン(経口)単剤療法 使用しないことを条件付き推奨
†使用しないことを条件付き推奨
*
:⊕⊕⊕⊖,推定効果の確信度が中等度,
†:⊕⊕⊖⊖,推定効果の確信度が低い
‡
:⊕⊖⊖⊖,推定効果の確信度がきわめて低い
Raghu G 2011;183:788‑824.
Raghu G, 2015;192
(2):e3‑e19 より作成
図 4 PFD 第Ⅲ相試験の結果(文献 9 より引用改変)
A: PFD 群ではプラセボ群と比較して,FVC が 10%以上低下した患者,あるいは死亡した患者の 割合が,47.9%相対的に減少した.また,FVC が低下しなかった患者の割合は,132.5%増加し た(P < 0.001).
B: FVC 変化量の経時的推移.
害薬などが投与されるが,予後は極めて不良である.
その他の治療法 ・在宅酸素療法
IPF では安静時に比べ労作時の著明な低酸素血症 が特徴である.歩行時SpO
2<90%を目安に導入する.
・肺移植
これまでの IPF に対する移植後の平均生存期間 中央値は 4 年と報告されている.国内でも肺移植適 応疾患として認められており,生体肺部分移植が主 である.
生活指導 ・禁煙
喫煙,特に 20 pack years 以上では IPF の発症に 強く関連しているので禁煙を徹底する.
・感染予防
IPF の急性増悪は感染が契機になることが多いの で手洗い,うがい,インフルエンザ,肺炎球菌ワク チン接種を勧める.
今後の展望
2015 年 の ガ イ ド ラ イ ン 改 定 を う け,PFD,
nintedanib は今後の IPF の慢性期治療の中心的薬
剤となってくるものと思われる.PFD は本邦で世 界に先駆けて臨床試験が行われた経緯があり,日本 人における使用経験も集積され,現在の IPF 治療 の第一選択薬としての位置づけが確立されている.
しかしながら消化器症状などの副作用で継続困難な 例も少なくない.
Nintedanib は 2015 年 8 月に本邦でも上梓され,
日本人における下痢,肝機能障害などの副作用の頻 度やその重症度,有効性に関する知見が今後集積さ れるものと思われる.PFD が無効となった症例に 対して nintedanib への切り替え,もしくは併用な どについては現在データが無く,今後の検討課題で ある.
更にはこれらの IPF 治療薬の高額な薬剤費や医 療費助成制度の問題もあり,今後こういった諸問題 への対策や進行期 IPF に対する有効性のデータの 集積が望まれる.
現在使用できる国際ガイドラインは非常に難解で あり,診断,治療において一般の内科医にとっては 十分理解できる内容とはなっていない.日本におい ては,現在の日本の医療事情に合った「特発性間質 性肺炎,診断と治療の手引き」
4)が参考にされてい
図 5 Nintedanib 第Ⅲ相試験の結果(文献 12 より引用)
FVC 平均年間変化量は,INPULSIS-1 では nintedanib 群 −114.7 ml に対しプラセボ群−239.9 ml で
あり,INPULSIS-2 では nintedanib 群 −113.6 ml に対しプラセボ群 −207.3 ml であった.
ることが多い.そこで,クリニカル・クエスチョン とその回答形式でのエビデンスに基づく治療に関す る日本の医療環境に合致した,独自のガイドライン 策定が厚労省びまん性肺疾患調査研究班(本間班)
で行われ,新国際ガイドラインとの整合性を含め,
2017 年 1 月に初版が刊行された
13). お わ り に
これまで有効な治療法が無かった IPF にこのよ うな新しい作用機序をもつ治療選択肢が出てきたこ とは患者にとって福音となるかもしれない.しかし ながら,いずれの薬剤においても日常臨床で有効性 を実感できるまでの効果は乏しい.さらには,国際 ガイドラインで規定されている IPF の診断,治療効 果判定の困難さ,病態の複雑さなどから一般呼吸器 科医が治療に踏み込めない実情が存在する.薬剤の 選択肢が増えたからこそ,一般呼吸器科医にとって より理解しやすく,治療に結び付けられる様な,日 本の実情に即したガイドラインの作成,改訂が望ま れる.
文 献
1) American Thoracic Society. Idiopathic pulmo- nary fibrosis: diagnosis and treatment. Interna- tional consensus statement. American Thoracic Society (ATS), and the European Respiratory
Society (ERS). .
2000;161:646‑664.
2) Raghu G, Collard HR, Egan JJ, . An official ATS/ERS/JRS/ALAT statement : idiopathic pulmonary fibrosis: evidence based guidelines for diagnosis and management.
. 2011;183:788‑824.
3) Kim DS, Collard HR, King TE Jr. Classification and natural history of the idiopathic interstitial
pneumonias. 2006;3:285‑
292.
4) 日本呼吸器学会びまん性肺疾患診断・治療ガイ
ドライン作成委員会編.特発性間質性肺炎診断 と治療の手引き.改訂第 3 版.東京: 南江堂;
2016.
5) Travis WD, Costabel U, Hansell DM, . An official American Thoracic Society/European Respiratory Society statement : update of the international multidisciplinary classification of the idiopathic interstitial pneumonias.
. 2013;188:733‑748.
6) Homma S, Azuma A, Taniguchi H, . Effica- cy of inhaled N-acetylcysteine monotherapy in patients with early stage idiopathic pulmonary fibrosis. . 2012;17:467‑477.
7) Taniguchi H, Ebina M, Kondoh Y, . Pirfeni- done in idiopathic pulmonary fibrosis.
. 2010;35:821‑829.
8) Noble PW, Albera C, Bradford WZ, . Pir- fenidone in patients with idiopathic pulmonary fibrosis (CAPACITY): two randomized trials.
. 2011;377:1760‑1769.
9) King TE Jr, Bradford WZ, Castro-Bernardini S, . A phase 3 trial of pirfenidone in patients with idiopathic pulmonary fibrosis.
. 2014;370:2083‑2092.
10) Raghu G, Rochwerg B, Zhang Y, . An offi- cial ATS/ERS/JRS/ALAT clinical practice guideline : treatment of idiopathic pulmonary fibrosis. An update of the 2011 clinical prac-
tice guideline. .
2015;192:e3‑e19 .
11) Richeldi L, Costabel U, Selman M, . Effica- cy of a tyrosine kinase inhibitor in idiopathic pulmonary fibrosis. . 2011;365:
1079‑1087.
12) Richeldi L, du Bois RM, Raghu G, . Efficacy and safety of nintedanib in idiopathic pulmo- nary fibrosis. . 2014;370:2071‑
2082.
13) 厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究 事業 びまん性肺疾患に関する調査研究班 特 発性肺線維症の治療ガイドライン作成委員会 編.特発性肺線維症の治療ガイドライン 2017.
東京: 南江堂; 2017.