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特集 教員養成の現状と課題 人工知能は教師の役割をどう変えるか 教師に求められる役割と倫理 東洋大学斎藤里美 1. はじめにこの数年, 人工知能 (Artificial Intelligence: 以下 AI と略す) やビッグデータ等の技術革新によって今後の社会で求められる能力や資質に大きな変化が

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1.はじめに

 この数年,人工知能(Artificial Intelligence:以下

「AI」と略す)やビッグデータ等の技術革新によっ て今後の社会で求められる能力や資質に大きな変 化がもたらされるという予測が随所でなされてい る1)。「21世紀型スキル」と呼ばれるものもその一 端である。2009年1月,シスコシステムズ,イン テル,マイクロソフトをスポンサーとした「21世 紀型スキルの学びと評価プロジェクト(Assessment and Teaching of Twenty-First Century Skills Project

〈ATC21S〉)」が始まり,2010年にはオーストラリ ア,フィンランド,ポルトガル,シンガポール,

イギリス,アメリカが参加国として加わり,表1 のような「21世紀型スキル」が定義された。知 識(Knowledge), 技 能(Skills), 態 度(Attitude),

価値(Values),倫理(Ethics)の頭文字をとって

「KSAVEモデル」とも呼ばれる2)。この21世紀型ス キルは,その後,文部科学省の調査研究協力者会議 でも取り上げられ,次期学習指導要領で育成すべき 資質・能力の柱とされた3)

 実際,子どもにとっての「学び」とは,現在およ び将来の社会を生きぬく力を身につけることを意味 し,それはこれまでも「生涯にわたって学び続ける 力」として表現されてきた。しかし,こうした汎用 的能力が従来の公教育が目指してきた能力とどのよ

うに異なるのかは必ずしも明らかではなかった。これ までの学力像との違いをあえて探すならば,「創造力 とイノベーション」「ICTリテラシー」が強調されて いる点である。文部科学省は2020年度からデジタル 教科書を導入する方針を固め,また文部科学省有識 者会議はプログラミング教育を2020年から必修化す ることを提言している。新しいテクノロジーは公教 育の目的や方法に大きな変革を迫っているのである。

人工知能は教師の役割をどう変えるか

── 教師に求められる役割と倫理 ──

東洋大学 

斎 藤 里 美

表1 21世紀型スキル 1.思考の方法

(1)創造力とイノベーション

(2)批判的思考,問題解決,意思決定

(3)学び方の学習,メタ認知 2.働く方法

(4)コミュニケーション

(5)コラボレーション(チームワーク)

3.働くためのツール

(6)情報リテラシー

(7)情報通信技術に関するリテラシー(ICTリ テラシー)

4.世界の中で生きる

(8)地域とグローバルでよい市民であること

(シチズンシップ)

(9)人生とキャリア発達

(10)個人の責任と社会的責任(異文化理解と異 文化適応能力を含む)

出典:P. グリフィン他編(2014)『21世紀型スキル―学びと評価の 新たなかたち―』(三宅なほみ監訳)北大路書房,pp. 22-23

)代表的なものに,松尾豊(2015)『人工知能は人間を超えるか―ディープラーニングの先にあるもの―』(角川EPUB選書),中経出版,

がある。

)詳細は,P. グリフィン他編(2014)『21世紀型スキル―学びと評価の新たなかたち―』(三宅なほみ監訳)北大路書房,を参照。

)文部科学省「育成すべき資質・能力を踏まえた教育目標・内容と評価の在り方に関する検討会(第6回)議事要旨」平成25年6月27日。

http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/095/gijiroku/1338825.htm

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2. AI とビッグデータが生む新たな学習形態 とその功罪

 そこで本稿では,めまぐるしく進化するテクノロ ジー,とりわけ昨今のAIの進化が学校と教師の役 割に今後どのような変容をもたらすのかを,近年の 動向から考察する。テクノロジーの教育への応用が もたらす学校像,教師像の変容を探ってみたい。

 2010年以降,インターネットを用いて授業を受け るオンライン学習が世界的に普及し始めた。当初 は,MOOCMassive Open Online Courses)等,大 学等の高等教育機関が提供する大規模講義が中心で あったが,現在では,個々の学習者の学習ニーズに あった講座が安価もしくは無料で提供されている。

大学受験や資格取得を目的とするもののほか,補習 を目的とするもの,高校の通信教育として行うもの など,多様なプログラムが用意されている。

 これらのプログラムには,多くの学習者の学習 データを集め,その特徴を分析することにより,学 習者に最適のカリキュラムや教材を選んだり,学習 上の困難を予測して個別指導に生かしたり,学習履 歴を用いて動機づけや次の学習への助言を行ったり する機能を備えているものが多い4)。これらは,教 師に頼らない個別学習が可能であるため,学習につ まずいても何度でも学習をやり直すことが可能であ り,また興味のある子どもが個別のカリキュラムに そって学習を進めることも可能である。

 こうしたテクノロジーの活用は,特別なニーズを もつ子どもたちの学習の支援にも用いられている。

デジタル教材の音声読み上げや音声認識機能を用い

て視覚に障害のある学習者の支援を行う実践,さら には,発達障害のある児童生徒が「友達ロボット」

との対話を通してコミュニケーションを学ぶなどの 実践もすでに実用化されている5)

 このように,AIの進化は,学習者が自らの学習 ニーズに応じて,いつでも,どこでも,だれとでも 学習することを可能にした。また,学年や学習指導 要領,教科書に制限されず,どの教材を,どこからで も,どのような順序でも学べるようになった。学習 指導要領,教師,教科書の存在を前提としてきた従 来の学校観,学習観を根底から覆すものといえよう。

 一方,これらの背景には,学習者が提供した膨大 なビッグデータがある。AIがビッグデータを用い て随時学習履歴の分析を繰り返し,カリキュラムや 教材,指導法の改善を図っている。またAIは,一 人ひとりの学習ニーズだけでなく,同時に,学習 者の適性や可能性まで予測する機能を備えている。

2016年6月の新聞報道によれば,人材紹介の会社 が仕事ぶりなどをもとにAIによる人事採用や評価,

配属決定などを開始することを発表した。それによ れば,採用面接から継続的に働きぶりを追跡調査し てデータベースを作成し,AIがディープラーニン グを用いて特徴量を見つけ出し,それに基づいて人 事評価や適した職場・ポジション等を提案するとい う6)。AIをめぐるこうした動きに対して,憲法学 者の山本龍彦はこう指摘している。

「データベースに蓄積されたある人物のデータを コンピューター解析し,その人を評価・判断する ことをプロファイリングといいます。(中略)そ

)その代表的なものに「スタディサプリ」がある。このサービスを提供するリクルートマーケティングパートナーズによれば,2015年 度の利用者(有料会員)数は,小・中・高校生あわせて25万人,高校700校(うち公立341校),中学校17校(うち公立17校),小学校22 校(うち公立22校)だという。詳細は,www.soumu.go.jp/main_content/000425451. pdf を参照。

)宮坂麻子「最新技術で『奇跡の学び』」朝日新聞朝刊,2016年3月24日,13面。

)上原翔太「AIで人事部いらず? ビズリーチやヤフー,データで最適配置」日本経済新聞朝刊,2016年6月15日,11面。

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れでも,商業広告であれば許容できる場合もあり ますが,企業の採用活動や住宅ローン,教育など の分野でプロファイリングをすると深刻な問題を 引き起こします」「ある女性が大学4年で希望す る企業への就職に失敗し,ファストフード店でア ルバイトをして翌年就職に再チャレンジしたとし ます。AIの解析にかけると,就職の失敗は『雇 用されるにふさわしい能力』のスコアを下げ,ア ルバイトの経験も低賃金の職と推論されて,さら にスコアを押し下げるかもしれません。プロファ イリングで,労働者としての適性が乏しいと判断 されるわけです」「彼女が努力して成長,変化す る可能性や,彼女を取りまく具体的文脈などが捨 象され,その能力がただ確率的に判断されている のですが,ビッグデータを基礎にしているだけ に,正確な人物評価として科学的な説得力をもっ てしまう。人事部社員の勘より信頼できる,と」7)

 教育評価の領域においても,特定の人物について のデータを蓄積し,分析・評価する作業は,AI 誕生する前から行われてきた。しかし,データの大 規模な集積やAIによる特徴量の解析・予測は行わ れなかったため,これがプロファイリングに直結す ることはなかった。ところが,昨今の教育調査で は,子ども一人ひとりに個人番号をふり,過去の調 査結果と紐づけて学力の変化を追跡できるようにし たものが登場している。OECDPISA調査のほか,

埼玉県の学力・学習状況調査がそれである8)。  こうした紐づけによるデータの集積は,教育評価 の役割を大きく変質させる可能性がある。これまで 教育評価の主たる目的は教育の改善であったが,特

徴量の析出とそれにもとづく予測の精度が上がれ ば,教育評価が選別のための手段に用いられるから である。まさに,マイケル・ヤングの描く「メリト クラシー」社会の到来である9)

 教育が人間の可能性を広げ,その発達を促すこと を目的とするものであるならば,ビッグデータと AIの進化を手放しで喜ぶわけにはいかない。これ からの学校と教師にとって,AIは単なる教育方法 や教育技術ではない。むしろ人間に求められる資質 や能力とは何か,教育の役割とは何か,どこまでを AIに委ねるのか,等にかかわる倫理的検討を学校 と教師に迫っているといえる。

3.AI 時代における学校および教師の役割  教育におけるAIの活用は,多くの可能性を秘め ている。学習者一人ひとりの学習ニーズに最適のカ リキュラムや教材を選びだし,学習の動機づけを行 い,学習のプロセスを詳細に記録して分析すること で,学習の改善を図る機能も備えている。AIロボッ トは音声による対話や対話の内容に応じたチュート リアルもできるようになった。感情表現や社会的ス キルを備えた最新ロボットも実用化段階に入ってい る。テクノロジーの活用によって,学習の場は劇的 に拡大した。今後,こうした個別学習,学校外学習 の機会が増えれば,学校や教員の必要性は低下して いくのだろうか。それとも,学校や教員にあらたな 別の役割が求められるようになるのだろうか。

 まずは,AI活用の前段階ともいえるデジタル教 科書導入が学校と教師の役割にどのような変化をも たらすか,見ておこう。笠原雅人(2013)は,「教 科書のデジタル化はコンテンツのモジュール化を促

)山本龍彦「ビッグデータと私」,朝日新聞朝刊,2016年6月1日,7面。

)埼玉県の学力・学習状況調査の動向については,氏岡真弓「学力の変化 継続して追う―埼玉県,独自の手法で調査―」,朝日新聞朝 刊,2016年4月29日,26面を参照。

M.ヤング(1958=1982)『メリトクラシー』(窪田鎮夫・山本卯一郎訳),至誠堂,を参照。

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すため,教材自体がより構造化される」「教師は外 部から調達したソフトを用いて標準化されたレッス ンプランとタイムテーブルにしたがい,授業を進め る力が要請されるようになるだろう」10)と予測して いる。また,理数系学会教育問題連絡会に加盟する 諸学会は,2010年に「『デジタル教科書』推進に際 してのチェックリストの提案と要望」を9項目にわ たって発表した。それは以下のようなものであった。

事項1:「デジタル教科書」の導入が,手を動か して実験や観察を行う時間の縮減につながらな いこと。

事項2:「デジタル教科書」において,虚構の映 像を視聴させることのみで科学的事項の学習と することが無いこと。

事項3:「デジタル教科書」の使用が,児童・生 徒が紙と筆記用具を使って考えながら作図や計 算を進める活動の縮減につながらないこと。

事項4:「デジタル教科書」の使用が,児童・生 徒が自らの手と頭を働かせて授業内容を記録し 整理する活動の縮減につながらないこと。

事項5:「デジタル教科書」の使用が,穴埋め形 式や選択肢形式の問題による演習の比率増大に つながらないこと。

事項6:「デジタル教科書」の使用が,児童・生 徒どうしが直接的に考えや意見を交換しながら 進める学習活動の縮減につながらないこと。

事項7:「デジタル教科書」の使用により,授業 の「プレゼンテーション化」や,児童・生徒に 対するプレゼンテーション偏重・文章力軽視意

識の植え付けが起きないようにすること。

事項8:「デジタル教科書」の導入に際して,教 員の教科指導能力が軽視されることがないよう に,また教員の教材研究がより充実するように 配慮すること。

事項9:「デジタル教科書」の導入に際しては,

少なくとも当面の間は,現行の紙の教科書を併 用し,評価や採択においては紙の教科書を基準 とすること11)

 2010年の時点で,教科書のデジタル化によって,

学習形態や指導形態の変容とそれに伴う教師像の 変容がすでに懸念されていたことが分かる。笠原

(2013)も「よき教師像はいつの時代も一様ではな く,構造化され完成度を高めたデジタル教材の下で は,虚像の教師像が独り歩きしかねない」12)と指摘 している。

 こうした傾向は,AIの活用によってさらに拍車 がかかるであろう。

 図1は,人工知能学会の倫理委員長を務める松 尾豊が,AI技術の進化とそれが今後の社会にもた らす影響を図示したものである。それによれば,

2025~30年頃にはAIによる言語の意味理解が進み,

教育の分野においても対話型AIが代替する部分が 出てくるという。あらためて,学校と教師の社会的 役割の再定義が求められている。

 たとえば,デジタル教科書やAIがもつ双方向性,

マルチメディア性,編集可能性などに対する期待 や評価が高まれば,AIによる「ティーチャー・フ リー」(教師に依存することなく学ぶことができる)

10)笠原雅人(2013)「これからの教科書の在り方」,中央教育研究所『教師と児童・生徒のデジタル教科書に関する調査―小学校・中学 校を対象に―』(研究報告№79)p. 119。

11)一般社団法人情報処理学会他(2010)「『デジタル教科書』推進に際してのチェックリストの提案と要望」 pp. 1-2。

http://www.ipsj.or.jp/03somu/teigen/digital_demand.html を参照。

12)笠原(2013)前掲書,p. 120。

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といった見方が社会全体に広がり,教育における AIの活用場面は飛躍的に拡大する。そのとき学校 は,AIとの学習に慣れ親しんだ子どもたちが実際 の社会的経験を積む場所,という位置づけになる。

人間が集団や社会を構成する限り,他者と協働して 行動する場面は欠くことができないから,社会的能 力や情意的能力の発達に関して,AIはあくまで補 助的な役割に留まるであろう。しかし,これからの 私たちは,AIとの共生や役割分担を想定した社会 や学校を構想する必要がある。

 劇作家の平田オリザは,2007年から,ロボット研

究の研究者である石黒浩(大阪大学)とコラボレー ションし,芸術と科学が交差する「ロボット演劇プ ロジェクト」を推進してきた。2010年には,人間と アンドロイドが舞台上で共演する演劇「さような ら」を製作し,その異質な完成度の高さが国内外で 話題を呼んだという13)

 教育の領域においても,同様の試みが求められて いる。人間とAIが共生し,協働的な関係を結ぶと はどういうことか,AIとともに学習し,AIが学習 のデザインと支援を担うことはどこまで可能か,人 間の教師にしかできないことは何か,そうした問い 図1 松尾豊が提唱する「人工知能技術の発展と社会への影響」

出典:松尾豊「人工知能は人間を超えるか―ディープラーニングの先にあるもの」(2016年6月15日 講演資料,p. 14)

13)平田オリザのロボット演劇については,大阪大学コミュニケーションデザイン・センター/平田オリザ(2010)『ロボット演劇』,大 阪大学出版会,を参照。

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に,教師教育者や教師は答えなくてはならない。ま た前述のように,AIとビッグデータがもつ種々の リスクについても,早急に倫理的検討を進めなけれ ばならない。

4.おわりに

 AIを神のように崇めても悪魔のように遠ざけて もいけない。むしろ,親や教師,そして子どもがテ

クノロジーの光と影を学校という場で共有すること が重要である。それによって,テクノロジーがもた らす格差と断絶を埋め,テクノロジーをめぐる相互 対話を促すことが重要である。家族や地域といった コミュニティを分断から守り,絆やネットワークを 形成するのは公教育の役割だからである。AIが招来 する社会像は,学校の役割の重要性を示唆している。

斎藤里美(さいとうさとみ)

東洋大学文学部教授。専門は教育社会学,教育目標・評価論。主な著訳書に『OECD教員白書―効果的な教育 実践と学習環境をつくる〈第1回OECD国際教員指導環境調査(TALIS)報告書〉―』(OECD編著,斎藤里美 監訳,明石書店,2012年),論文に「武雄市「ICTを活用した教育」の成果と課題」『現代社会研究』第13号(共 著,2016年),「TALIS2013年調査にみる日本の教師と教師教育研究の課題―学習の私事化・市場化と揺らぐ教 師の専門性―」『日本教師教育学会年報』第24号(2015年)がある。

参照

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