培養検査にて起因菌を認めず,急性好酸球性肺炎と診断されステロイド療法が施行された.当院に転院後 HIV 抗体陽性と判明し末梢血中の CD4 陽性リンパ球は 10!µl と低下していた.サイトメガロアンチゲネミアが 陽性,β-D-グルカンが高値であり AIDS に合併したサイトメガロウイルス(CMV)およびニューモシスチ ス肺炎(PCP)と診断し治療を行った.しかし第 18 病日に気胸を併発して死亡した.病理解剖の結果 CMV 感染および PCP と確定診断された.AIDS に合併した PCP の一部に BALF 中好酸球が著明に増多する症例 が存在することが知られており日常臨床の場で思わぬピットホールとなる可能性があると思われる.
キーワード:急性好酸球性肺炎,ニューモシスチス肺炎,肺胞洗浄液,好酸球
Acute eosinophilic pneumonia,Pneumocystispneumonia,Bronchoalveolar lavage fluid,
Eosinophil
緒 言
肺胞洗浄液(BALF)の好酸球が増多する疾患は急性 好酸球性肺炎(AEP),慢性好酸急性肺炎,アレルギー 性気管支肺アスペルギルス症,寄生虫性肺炎,薬剤性肺 炎など多岐にわたる.さらに AIDS に合併したニューモ シスチス肺炎(PCP)においても一部に BALF 中好酸 球が著明に増多する症例が存在することが知られてい る.今回我々は BALF 中好酸球が 20.5% と増加し,AEP と診断されたが後に PCP と診断された 1 例を経験し,
日常臨床の場でピットホールとなる可能性があると思わ れたため,文献的考察を加え報告する.
症 例
症例:34 歳,男性.
主訴:呼吸困難,発熱.
既往歴:特記すべきことなし.
家族歴:特記すべきことなし.
生活歴:粉塵吸入歴なし.ペット飼育歴なし.喫煙 1 日 20 本,16 年.
現病歴:2005 年 4 月 26 日頃より微熱と軽度の呼吸困 難があり様子を見ていた.5 月 17 日に呼吸困難が増強
したために近医を受診し,精査加療のため同日入院と なった.胸部レントゲンおよび CT にて両側肺にスリガ ラス状陰影と肺門部から連続する浸潤影を認め(Fig. 1),
間質性肺炎の鑑別のため 5 月 19 日 BAL が施行された
(Table 1).BALF 中の総細胞数 1.4×105!ml で好酸球の 比率は 20.6% と増加しており,塗抹,培養では常在菌 のみが検出された.急性好酸球性肺炎(AEP)と診断 されソルメドロール 500mg を 3 日間投与後,プレドニ ン 30mg で維持された.一過性に呼吸困難感の軽減を認 めたものの,6 月 2 日から胸部レントゲン上スリガラス 状陰影の悪化および低酸素血症の進行があり,6 月 7 日 に精査加療目的にて当院に転院となった.
入院時現症:身長 170cm ,体重 65kg ,体温 36.5℃,
血圧 94!60mmHg ,脈拍 70 回!分,整.眼結膜に貧血・
黄疸無く,表在リンパ節の腫脹なし.胸部聴診上異常な し.腹部平坦軟.口腔内粘膜に多数の白苔が付着してい た.
入院時検査所見(Table 1):末梢血液検査では白血球 数は正常であり好酸球数も正常であったが,CD4 陽性 の T リンパ球数は 10!µl と著明に低下していた.生化 学検査では LDH の軽度上昇と CRP の上昇を認めた.
HIV 抗体が陽性であった.β-D-グルカンが 210pg!ml と 上昇しておりサイトメガロアンチゲネミアが陽性であっ た.アスペルギルス,クリプトコッカス抗原は共に陰性 であった.室内気で PaO2が 51.8Torr と低酸素血症を呈 していた.喀痰検査では口腔内の白苔からと思われるカ
〒300―0395 茨城県稲敷郡阿見町中央 3―20―1 東京医科大学霞ヶ浦病院内科学第 5 講座
(受付日平成 17 年 11 月 8 日)
Fig. 1 Chest radiograph and CT (May 17,2005)showing diffuse ground glass attenuation and infiltrative shadows in both lung fields.
Table 1 Laboratory and BALF findings Serology Biochemistry
Hematology
mg/dl 4.12 CRP
g/dl 5.1 TP
/μl 5,400 WBC
U/ml 429 KL-6
U/l 26 AST
% 91.7 Neut.
pg/ml 210.0 β-D-glucan
U/l 23 ALT
% 6.1 Lym.
(+ ) CMV antigenemia
U/l 388 LDH
% 1.8 Eo.
(- ) Aspergillus-Ag
mg/dl 23.6 BUN
/μl 10 CD4+Tcell
(- ) Cryptococcus-Ag
mg/dl 0.71 Cre
/μl 3.60×106 RBC
(+ ) HIV-Ab
mEq/l 140 Na
g/dl 11.0 Hb
mEq/l 4.4 K
/μl 12.2×104 Plt
Sputum culture mEq/l
98 Cl
/ml 105 Candida albicans
Arterialblood gas (room air)
(- ) pneumocystis jiroveci
BALF (May 19,2005) 7.484
pH
Fluid recovery rate 45.3% Torr
35.3 pCO2
Totalcellcount 1.4×105/ml Torr
51.8 pO2
Mϕ53.6%,Lym 25.0%,Neut 0.8%, mmol/L
26.2 HCO3―
Eo 20.6%,CD4/CD8 1.1
ンジダが陽性であったがグロコット染色でPneumocystis jiroveciは陰性であった.
入院時画像所見:前医でのレントゲンよりさらに両側 のスリガラス状陰影が広がり一部は浸潤影も増強してい た(Fig. 2a).胸部 CT では両側肺のスリガラス状陰影 が広がり肺門部から連続する浸潤影の周辺に気腫性病変 が出現していた(Fig. 2b).画像所見からは PCP が疑わ れた.
入院後経過(Fig. 3):口腔内粘膜に多数付着する白苔 からは免疫抑制状態が疑われた.胸部画像および入院時
の検査所見から本症例を AIDS に合併した肺感染症と診 断し,ST 合剤,ガンシクロビル,フルコナゾールの投 与を開始した.しかし高熱を繰り返し,低酸素血症の進 行を認めた.第 6 病日 ICU 入室後 NIPPV が導入された.
第 9 病日には抗生剤,抗真菌剤の変更を行い,ガンシク ロビル耐性のサイトメガロウイルス感染も疑われたた め,ホスカルネット水和物を追加した.第 11 病日から ソルメドロール 1g のステロイドパルス療法を施行し一 過性に低酸素血症の改善を認め胸部レントゲン上もスリ ガラス状陰影の軽減を認めた.しかし第 18 病日に強い
Fig. 2 Chest radiograph on admission showing that bilateral diffuse ground glass attenuation has pro- gressed (a). Chest CT showing ground glass attenuation and perihilar consolidation in both lung fields, and also cystic change (b).
Fig. 3 Clinicalcourse fever
40℃
37℃
Day 1 Day 6 Day 18
WBC(/μl) 5400 4.12 CRP (mg/dl)
7200 12.53
4200 27.14
6200 4.92
8300 20.02 O2 cannula 31/min NIPPV Fio2 0.8
PSL 20mg/day PSL 1g/day PSL 60mg/day
FLCZ 200mg/day
Foscarnet 4.8g/day AMPH-B 50mg/day MINO 200mg/day
CPFX 300mg×2 MEPM 0.5g×2
GCV 600mg/day
TMP-SMX S 4800mg : T 960mg/day Pentamidine 240mg/day Atovaquone 1500mg
day 1 2 6 9 11 15 18
咳嗽の後,心肺停止状態となり心肺蘇生を行ったが同日 永眠された.胸部レントゲン上気胸を合併しており,PCP に気胸が合併したものと考えられた.病理解剖肺組織に おいて Fig. 4a に示すように Hematoxin-eosin 染色では 肺胞上皮細胞が腫大,増生し一部は巨細胞化して核封入 体を認め,サイトメガロウイルス感染と考えられた.肺
胞腔内に PAS 陽性の好酸性の泡沫状構造物が多く見ら れ,グロコット染色では多数のPneumocystis jiroveciを 認めた(Fig. 4b).
考 察
症例は 34 歳男性.呼吸困難と発熱を主訴に近医を受
Fig. 4 Histopathologic findings from autopsy lung specimen : Several large cells containing intranuclear inclusions consistent with cytomegalovirus (H.E.stain)(a).The alveolar airspace is filled with finely vacuo- lated,lightly eosinophilic materialrelated to Pneumocystis jiroveci(Grocott stain)(b).
a
a b b
診した.胸部画像上両側にスリガラス状陰影と肺門から 広がる浸潤影を認め,BAL が施行された.BALF 中好 酸球比率が 20.5% と増加しており,塗抹,培養検査に て起因菌を認めず,AEP と診断されステロイド療法が 施行された.当院に転院後 HIV 抗体陽性と判明し末梢 血中の CD4 陽性リンパ球は 10!µl と低下していた.サ イトメガロアンチゲネミアが陽性,β-D-グルカンが高値 であり AIDS に合併した CMV および PCP と診断し治 療を行った.しかし第 18 病日に気胸を併発して死亡し た.病理解剖の結果 CMV 感染および PCP と確定診断 された.
胸部レントゲン上両側の浸潤影とびまん性のスリガラ ス状陰影をきたす疾患としては AEP,急性肺傷害,肺 水腫,癌性リンパ管症,過敏性肺炎,急性間質性肺炎,
異型肺炎,ウイルス肺炎など多岐にわたっており,その 中に PCP もあげられる.さらに胸部 CT 上びまん性ス リガラス状陰影と小葉間隔壁の肥厚を来たすという点で は画像上 AEP と PCP の鑑別が必要になる症例が存在 すると考えられる.典型的な AEP では胸部レントゲン 上 KerleyʼB line や急速に進行する下肺野に優位な両側 性のびまん性間質性陰影と浸潤影,少量の両側胸水の貯 留が特徴とされ,胸部 CT では両側びまん性のスリガラ ス状陰影と小葉間隔壁の肥厚や限局した浸潤影が特徴と される.それらの特徴を考えると本症例の胸部レントゲ ンおよび CT は AEP に典型的とは言えない.しかし本 症例では BALF 中好酸球比率が Allen らの示す診断基 準に記載された 25% 以上には満たないものの 20.6% と 増加しており,塗抹および培養検査で起因菌が検出され なかったことから,前医では AEP と診断されたものと 考えられる.また本症例は BMI が 22 と正常で体重減少
を認めず,一見健常人と思われた男性に比較的急性に呼 吸不全が進行した肺炎であったことが PCP やサイトメ ガロウイルス肺炎といった日和見感染症を想起し難くさ せたものと思われる.
AIDS 患者に合併した PCP の BALF において好酸球 が存在する事は White らが 1985 年に報告している1). その後もいくつか PCP と BALF に関する報告がなされ ている.Smith らの報告では BALF 中の 5% 以上の好 酸球増多が AIDS に合併した PCP 患者の 15% に見られ て い る2).ま た Allen ら は AIDS に 合 併 し た PCP の BALF 中における好酸球比率の平均は 20% でその幅は 7〜43% であったと報告している3).それらの報告を考 え合わせると AIDS に合併した PCP の症例の中に AEP との鑑別を要する症例が存在することが予想される.そ の他にも BAL 中の好酸球はアスペルギルス症,コクシ ジオイデス症で増加することが知られて い る.ま た AIDS に合併したクリプトコッカス肺炎,ブドウ球菌に よる肺炎でも BALF 中の好酸球数が増加したという報 告もある3).Allen らは AEP の診断には感染症の除外診 断が必要でありステロイド療法が始まった後も感染症を 常に念頭においてステロイドに対する反応が不十分な場 合は感染症の更なる検索を行い,必要であれば肺生検も 行うべきであると述べている.そのため Allen らが 1994 年に示した AEP の診断基準の中には除外診断として寄 生虫感染や,真菌感染が記載されている4).PCP の BALF 中好酸球増多は末梢血の好酸球増多を必ずしも伴わず,
喘息やアレルギー性の疾患の既往歴とも関連が無いとさ れる5).PCP において BALF 中の好酸球が増加するメカ ニズムは明らかになっていない.しかし以前から AIDS 患者において有害な薬物反応が増強することが知られて
ても考慮する必要があると思われる.しかし肺移植後の 患者において CMV が感染した際 BALF 中の eosinophil cationic protein(ECP)の増加が観察され,好酸球の活 性が高まっている可能性があるという報告はあるが9), HIV 患者の BALF 中好酸球増加に CMV が直接関与す るという報告は我々が検索をした範囲では見当たらな かった.
AEP と PCP はともに急速に進行し重症の呼吸不全を 呈することがある.いずれも病初期の治療が必要であり,
早期に診断をつけることが重要である.本症例に対し前 医でPneumocystis jiroveciの検索は行われていなかった が,BALF 中好酸球の増多が見られた場合はPneumocys-
tis jiroveciの検索を行うべきであると考えられる.AEP
と PCP の鑑別が BALF の Calcofluor white (CW)染色 によって早期に可能であったという症例報告もある10). 以上から BALF にて好酸球が増多する疾患と し て AIDS に合併した PCP,真菌感染などの感染症を常に念 頭におく必要があると考えられる.
文 献
1)White DA, Gellene RA, Gupta S, et al. Pulmonary cell populations in the immuno suppressed patients.
choalveolar lavage eosinophilia associated with Pneumocystis carinii pneumonitis in AIDS patients : comparative study with non-AIDS patients. Chest 1989 ; 95 : 1198―1201.
6)Hughes WT. Pneumocystis carinii pneumonitis. N Engl J Med 1987 ; 317 : 1021―1023.
7)Kovas JA, Hiemenz JW, Macher AM, et al. Pneumo- cystis carinii pneumonia : a comparison between pa- tients with the Acquired Immuno Deficiency Syn- drome and patients with other immunodeficiencies.
Ann Intern Med 1984 ; 100 : 663―671.
8)Hallgren R, Samuelsson T, Venge P, et al. Eosinophil activation in the lung is related to lung damage in adult respiratory distress syndrome. Am Rev Respir Dis 1987 ; 135 : 639―642.
9)Dosanjh AK, Elashoff D, Kawalek A, et al. Activa- tion of eosinophils in the airways of lung transplan- tation patients. Chest 1997 ; 112 : 1180―1183.
10)Hogan TF, Riley RS, Thomas JG. Rapid diagnosis of acute eosinophilic pneumonia (AEP) in a patient with respiratory failure using bronchoalveolar lav- age (BAL) with calcofluor white (CW) staining. J Clin Lab Anal 1997 ; 11 : 202―207.
Abstract
A case of AIDS-complicated lung infection mimicking acute eosinophilic pneumonia
Masayuki Itoh, Hiroyuki Nakamura, Kenji Nemoto, Manabu Komiyama, Hidekazu Hatao, Naohiro Shimizudani, Hideki Adachi, Kouji Kishi, Shuji Oh-ishi and Takeshi Matsuoka
The fifth department of Internal Medicine, Tokyo Medical University Hospital
A 34-year-old man was admitted with dyspnea and low grade fever. Chest radiograph and computed to- mography (CT) showed bilateral, ground glass opacities and perihilar consolidation. Bronchoalveolar lavage (BAL) was performed. The percentage of eosinophils in the BAL fluid (BALF) was elevated (20.5%) . BALF smear and culture showed normal flora. Acute eosinophilic pneumonia was diagnosed and steroid therapy was performed.
Afterwards he was transferred to our hospital. The HIV antibody was positive and peripheral blood CD-4 positive lymphocytes decreased to 10!µl , cytomegalovirus (CMV) antigenemia was positive and β-D-glucan increased.
CMV infection and pneumocystis pneumonia (PCP) complicated with AIDS was diagnosed. Trimethoprim!sul- famethoxazole, ganciclovir, and antifungal drugs were administered, but he suffered pneumothorax on the 18th day after admission and died. Histopathologic findings from an autopsy lung specimen revealed CMV infection and PCP. It is known that the percentage of eosinophils in the BALF increases in some cases of PCP complicated with AIDS. We emphasize that it is necessary to consider PCP when the percentage of eosinophils in the BALF increase.