1. はじめに 本稿では子ども・子育て支援法で法定化された利用者支援事業(新規事業)の実施に向けて現段階 で示されている内容を整理し、事業実施における課題について論じる。課題については、利用者支援 事業をケースマネジメント実践と捉えて論じる。 利用者支援事業は、子ども・子育て支援法(平成 24 年法律第 65 号)59 条第 1 項に基づいて法定 化された事業であり、2014(平成 26)年度からいくつかの自治体で実施されはじめている。 ただし、2014(平成 26)年 9 月 11 日の地方自治体担当者向けの説明会の会議の動画を見ると、各 自治体から利用者支援事業について「事業の意義がよくわからない」、「内容がよくわからない」、「既 存の相談援助を実施しているその他の事業との違いがわからない」といった意見が出ていると述べら れている。このような状況もあり、今年度から利用者支援事業を実施する自治体を募集しているが、 予定よりも 1 ケタ少ない数しか手があがっていないなど、すでに事業の先行きが不安視される状況で ある。 具体的な利用者支援事業の内容については、子ども・子育て関連 3 法(子ども・子育て支援法(平 成 24 年法律第 65 号)、就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律の 一部を改正する法律(平成 24 年法律第 66 号)、子ども・子育て支援法及び就学前の子どもに関する 教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備 等に関する法律(平成 24 年法律第 67 号))に基づく子ども・子育て支援新制度の実施に向けての検 討部会である子ども・子育て会議及び子ども・子育て会議基準検討部会において話し合いがすすめら れた。 子ども・子育て支援新制度では、就学前の保育、教育給付の一元化のシステム整備について注目さ れることが多いが、子ども・子育て支援法(平成 24 年法律第 65 号第 59 条)において 13 の地域子ど
子ども・子育て支援新制度における利用者支援事業の
実施に向けての課題
―ケースマネジメントの理論的枠組みを用いて―
Clarifying Issues in Implementing User Support Project for
New System of Child and Childcare Support
―Based on Theoretical Framework of Case Management―
平 田 祐 子
*Yuko HIRATA
キーワード: 利用者支援事業 利用者支援専門員 ケースマネジメント 社会福祉士 子育て支援コーディネート
も・子育て支援事業が法定化されており(この 1 番目に利用者支援事業を指す事業が挙げられている)、 保育、教育の一元化だけでなく、地域子ども・子育て支援の質量の拡充も重点課題となっている。し かしながら、子ども・子育て会議や子ども・子育て会議基準検討部会の議事録及び会議資料を見る限 り、それぞれの地域子ども・子育て支援事業ついて十分に検討する時間が持たれていないことが読み 取れる。 どのサービスも重要であるものの、中でも本稿で取り上げる利用者支援事業の重要性は極めて高く、 より具体的にその中身について検討していく必要がある。なぜなら、子ども・子育て支援新制度では 子育て支援サービスの形態や種類が増えるため今までよりも選択肢が広がるというメリットととも に、どのサービスを利用すればよいのかわからず、必要な時にうまくサービスを利用できないという デメリットが生じる可能性があるからである。選択できるというのは魅力的に思えるものの、実際に 自らの社会的・心理的な状態を総合的に把握し、そのうえで生活がうまくいくように数あるサービス を組み合わせて利用することは容易なことではない。そのため、サービスの充実だけでなく、サービ スの選択と利用を手助けする利用者支援事業の整備は「車の両輪」として必要になる(内閣府 ,2014b)。 しかしながら、先に述べたように、利用者支援事業の意義、内容、他の相談援助サービスとの違いに ついてわかりにくい部分がある。そこで理論的枠組みに基づいてこの点を整理することで、利用者支 援事業の目指すべき方向性について明らかにしたいと考えた。 したがって、本稿では利用者支援事業の実施に向けての議論の内容(内閣府 ,2013a; 内閣府 ,2013b; 内閣府 ,2013c; 内閣府 ,2013d; 内閣府 ,2013e; 内閣府 ,2013f; 内閣府 ,2013g; 内閣府 ,2013h; 内閣府 ,2013,i; 内閣府 ,2013j; 内閣府 ,2013k; 内閣府 2013l)、2014(平成 26)年 5 月 29 日に都道府県知事に通知され た利用者支援事業実施要項、および 2014(平成 26)年 9 月 11 日の地方自治体担当者向け説明会で配 布された「利用者支援事業ガイドライン(案)」についてケースマネジメントによる子育て支援コーディ ネートの理論的枠組み(平田 ,2013; 平田 , 印刷中)を用いて整理し、課題を考察する。 2. 理論的枠組み 利用者支援事業は子ども・子育て支援法で法定化された新規事業であるが、2003(平成 15)年か ら実施されてきた子育て支援総合コーディネート事業、子育て支援コーディネートなど(以下、とく に必要な場合を除いて「子育て支援コーディネート」と記す)は前身と言える事業及びサービスであ る(内閣府 ,2013a)。子育て支援コーディネートは「利用者を子育て支援サービスにつなぐ」サービ スであるが、このサービスは理論的な枠組みが曖昧にされ、うまく実施されないまま形骸化していっ た(平田 ,2012; 平田 ,2013)。そこで平田(2013, 印刷中)は、ケースマネジメントによる理論的枠組 みを示し、子育て支援コーディネートが円滑に推進されるための課題を論じている。利用者支援事業 は子育て支援コーディネート実践であると考えられ、この理論的枠組みを利用することによって、課 題について明確にすることができると考えたため、まず以下にこの理論的枠組みを示す。 (1)ケースマネジメントと他の方法の違い まず、平田(2013, 印刷中)は、子育て支援コーディネートを単なる情報提供ではなくケースマネ ジメント実践として捉えるべきであると考え、情報提供、コーディネーション、ケースマネジメント の概念整理をおこなった。平田(2013, 印刷中)の整理をもとにそれぞれの方法の機能を表 1 に示した。 情報提供では、利用者のニーズに関係なく、一方的に情報を発信するため、利用者は自分自身で必 要なサービスを取捨選択できなければならない。コーディネーションは利用者の状況に応じて必要な サービスを提供する方法であるが、一時的、断片的なものであり、長期的な利用者のニーズまで把握 した方法ではない。一方、ケースマネジメントはコーディネーションと方法は似ているが、利用者の 長期的なニーズを把握したうえで援助をおこない、かつ利用者のニーズが確実に満たされるように援
助者が責任を持って援助するという特徴がある。そのため、確実に子どもと家庭が必要な資源を利用 できるようにするために子育て支援コーディネートはケースマネジメント実践である必要がある(平 田 ,2012; 平田 ,2013; 平田 , 印刷中)。 表1 情報提供、コーディネーション、ケースマネジメントとその機能 方法 機能 情報提供 情報提供側は利用者のニーズに関係なく、一方的に情報を発信する。この場合、利用者は 提示された情報の中から必要なサービスを自分で取捨選択する必要がある。 コーディネーション 情報提供のように一方的に情報を提供、発信するだけでなく、利用者のニーズを把握(ア セスメント)したうえで、必要なサービスを提供する。ただし、断片的、一時的な援助に とどまり、長期的な視点で利用者のニーズに応えることのできる方法にまでは至っていな い。 ケースマネジメント コーディネーションと似ているが、利用者のニーズを把握(アセスメント)したうえで、 横断的、長期的な援助をおこなう。利用者がニーズを充足できるように責任をもつことを 含む。 (2)ケースマネジメントを用いた子育て支援コーディネートの理論的枠組み ケースマネジメントは、「複雑で重複した問題や障害をもつクライエントが、適時・適切な方法で 必要とするすべてのサービスを利用できるよう保証することを試みるサービス提供の一方法」(Rubin 1987=1997;p17)であり、確実に必要な子どもと家庭にサービスを届けるために、子育て支援コーディ ネートはこの方法を用いる必要がある(平田 ,2012; 平田 ,2013; 平田 , 印刷中)。ただし、ケースマネジ メントは一般的なプロセス(①アセスメント、②プランニング、③リンキング、④モニタリングまで をおこない、必要があればプランの変更をおこなう機能(Rubin, 1987))(図 1)はあるが実践分野や 対象によって方法や求められる知識にかなりの幅や違いがある(Intagliata, 1982)。また、ケースマ ネジメントは精神障害者など、生活の問題が顕在化している利用者を対象として発展してきた(Rubin, 1987; Rose, 1992)。そのため、リンキングの段階で「つなぐ」ということだけでなく、必要な資源が なければケースマネージャー自身が利用者の必要とする資源を提供することも重要な機能である (Rubin, 1987)。 ④ モ ニ タ リ ン グ ③ リ ン キ ン グ ② プ ラ ン ニ ン グ ① ア セ ス メ ン ト 図 1 一般的なケースマネジメントのプロセス 平田(2013, 印刷中)は、このケースマネジメントを主に生活上の問題の「予防」を目的とする子 育て支援コーディネートに対応させるべく、岡村(1974)の予防的社会福祉の概念からヒントを得て 「予防」に特化したケースマネジメントの理論的枠組みを整理した。岡村の予防的社会福祉の概念は 医療がその発展により発生予防や早期発見の段階を迎え、公衆衛生における予防を何段階かに分けて いる点に着目し、予防的社会福祉の段階として「第 1 次予防」、「第 2 次予防」、「第 3 次予防」と整理 したものである。第 1 次予防は生活上の問題が起こっていない、完全なる予防である。そのため、特 殊的サービス(一般的サービスでは社会生活上の要求を満たしえないような、特殊な条件をもつ人々 に対するサービス(岡村 ,1983,p49))ではなく、一般的サービスのみにつなぐ段階である。第 2 次予 防は生活上の問題の早期発見であり、一般的サービスだけでなく、必要な場合は特殊的サービスにも
つなぐ。第 3 次予防はすでに発生している問題を極力少なくすることや生活機能の回復などのために、 特殊的サービスと利用が適切な場合は一般的サービスにつなぐ。第 2 次予防と第 3 次予防については すでに生活上の問題が顕在化し始めていたり、顕在化している利用者を対象とするため、実質的に従 来の保護的社会福祉と重複していると捉えることができる(平田 ,2013; 平田 , 印刷中)。 この概念を子ども家庭福祉に当てはめて整理を試みたのが表 2 である。 表2 岡村(1974)の予防的社会福祉の段階の整理 子どもと家庭の状況 岡村の予防的社会福祉の概念の段階 つなぐサービス 生活上の問題が顕在化していない子どもと家庭 第一次予防 一般的サービス 生活上の問題が顕在化するリスクがある、または 生活上の問題が顕在化しつつある子どもと家庭 第二次予防 一般的サービス 特殊的サービス 生活上も問題が顕在化している子どもと家庭 第三次予防 特殊的サービス 一般的サービス 子育て支援コーディネートは表 2 の中でも主に「生活上の問題が顕在化していない子どもと家庭」 が「一般的サービス」を利用することを手助けするサービスである。一般的サービスは各種の専門分 業制度(保育、各種子育て支援など)である。これら専門分業制度によるサービスは人々の生活上の ニーズの一部面のみを取り扱うものであり(岡村 ,1974)、それらのサービスが真に人々の福祉の増進 に役立つためには、それらのサービスに適切に「つなぐ」ケースマネジメントの役割が欠かせない。 本来、ケースマネジメントは図 1 の③リンキングの段階において利用者にとって必要なサービスがな ければ一時的にそのサービスの役割を担い(代替機能)、確実に利用者が必要なサービスを利用でき るように「責任」を持つ(Rubin, 1987)。しかしながら、ケースマネージャーが一般的サービスの役 割まで担うとなると際限なく役割が広がることになる。岡村(1987)はソーシャルワーカーに対して、 ソーシャルワーク専門職の役割とは何かを自覚し、担うべき役割をしっかりと果たし、他の専門職と 協働することが重要であると述べている。そこで平田(2013)は、主に第一次予防としてケースマネ ジメントをおこなう子育て支援コーディネートの場合、③リンキングの段階において、代替機能を持 たず、「つなぐ」ことに専念する必要があると述べている。 次にこのような役割を担う子育て支援コーディネートの人的資源についてであるが、子育て支援 コーディネーターの資格要件について明確な定めはなく、各市町村が独自に採用要件を定めるにとど まっていた(平田 ,2012)。2010(平成 22)年に実施した芝野らの子育て支援総合コーディネートの 実態調査の結果では、子育て支援コーディネーターの 60% 以上が保育士資格保持者である(芝野 ,・ 小野・平田 ,2013)。平田(2013, 印刷中)は保育士資格をもつ子育て支援コーディネーターが、本来 子育て支援コーディネーターとして求められる役割である「つなぐ」ことよりも保育の専門性である ケアに関する役割を担っている傾向にあると指摘しており、このような専門性のズレも子育て支援 コーディネートが機能しなかった一因であると考えられる。したがって、我が国ではケースマネジメ ントを修得している専門職である社会福祉士が子育て支援コーディネーターとなることが望ましいと 考える。 以上の理論的枠組みを踏まえ、平田(2013)は、子育て支援コーディネートの提議を「子育て支援 コーディネートは、利用者(子どもと家庭)の生活者としての視点にたって、その時に必要なあらゆ る社会資源を必要に応じて組み合わせ、利用者の生活上の問題を予防及び解決する援助である。仮に、 利用者に合った資源がない場合は、専門分業制度に資源を開発するように働きかけるなどして、利用 者が確実に必要な資源を利用できるように援助する。子育て支援コーディネーターは、ソーシャルワー クを専門とする社会福祉士である」とした。 3. 政策としての利用者支援事業の方向性と課題
「2. 理論的枠組み」で述べたように、子育て支援コーディネートは確実に必要な子どもと家庭にサー ビスをつなぐために情報提供やコーディネーションではなく、ケースマネジメントとして実施する必 要がある。そして、ケースマネジメントによる子育て支援コーディネートの特徴は、岡村の予防的社 会福祉の第一次予防を中心とした実践であると考えられることから、「リンキング」の段階において 代替機能を持つのではなく、「つなぐ」ことに専念するところである(平田 ,2013; 平田 , 印刷中)。こ れは、子育て支援コーディネーターの役割を際限なく広げることで「子育て支援コーディネーターの 役割や専門性とは何か」を曖昧にしないためにも重要な点である。また、この点を明確にすることで、 おのずと子育て支援コーディネーターにふさわしい専門職が明確になる。ケースマネジメントは高度 なソーシャルワークの価値・知識・技術を必要とするため、我が国では社会福祉士がその役割を担う 必要があるということになる。しかしながら実際にはソーシャルワークの専門職ではなく、保育の専 門職が子育て支援コーディネーターとして起用されることが多い。このような専門性の乖離も子育て 支援コーディネートがうまくいかなかった 1 つの要因であると考えられている(平田 ,2013; 平田 , 印 刷中)。 以上のような重要な点が政策として曖昧にされてきたことが子育て支援コーディネートの推進を難 しくしていたのであれば、新たに立ち上げられる利用者支援事業では十分に議論される必要がある。 それが行われないのであれば、利用者支援事業はまたしても機能しないままとなると予測される。 そこで、現段階で政策として示されている利用者支援事業の方向性について整理し、ケースマネジ メントとして実施する必要性について考えられているのか、利用者支援専門員を人的資源として配置 することになっているが、その人的資源にどのような専門職を起用する必要があると考えられている のか、専門性の担保をどのようにおこなうのかに注目して整理する。 (1)利用者支援事業の法定化の経緯 利用者支援事業は子ども・子育て支援法第 51 条第 1 項で法定化された新規事業である。事業名に ついては子ども・子育て支援法では明記されておらず、「子ども及びその保護者が、確実に子ども・ 子育て支援給付を受け、及び地域子ども・子育て支援事業その他の子ども・子育て支援を円滑に利用 できるよう、子ども及びその保護者の身近な場所において、地域の子ども・子育て支援に関する各般 の問題につき、子ども又は子どもの保護者からの相談に応じ、必要な情報の提供及び助言を行うとと もに、関係機関との連絡調整その他の内閣府令で定める便宜の提供を総合的に行う事業」と記されて いる。「利用者支援事業」という名称は第 1 回子ども・子育て会議基準検討部会(2013(平成 25)年 5 月 8 日)の配布資料、内閣府(2013g)「地域子ども・子育て支援事業について(平成 25 年 5 月 8 日)」 p1 の「地域子ども・子育て支援事業の概要」にはじめて出てくる。 利用者支援事業は子ども・子育て支援法の政府案では明確な位置づけがなかった(内閣府 ,2014)。 しかしながら、国会における審議の過程でその重要性が認識され、自公民の 3 党合意の「社会保障・ 税一体改革に関する確認書」で「市町村が利用者支援を実施する事業を明記するなどの修正を行う」(民 主党・自由民主党・公明党 ,2012,p3)と記され、事業は法定化されることになった。 先にも述べたように、利用者支援事業は子ども・子育て支援新制度における新規事業とされている が、2003(平成 15)年から実施された子育て支援総合コーディネート事業をはじめ利用者支援事業 に類すると考えられる事業やサービスはあった。子ども・子育て会議基準検討部会第 1 回議事録(内 閣府 ,2013a)には、会議で少子化対策企画室長から「おおむねそれに相当する」との回答があり、利 用者支援事業は子育て支援コーディネートであることがわかる。 (2)利用者支援事業の目的 利用者支援事業の目的について、利用者支援事業実施要項には「1 人 1 人の子どもが健やかに成長 することができる地域社会の実現に寄与するため、子ども及びその保護者等、または妊娠している方
がその選択に基づき、多様な教育・保育施設や地域の子育て支援事業等を円滑に利用できるよう、必 要な支援を行うことを目的とする。」と記されており、やや抽象的な表現である。利用者支援事業ガ イドライン(案)には具体的に利用者支援事業の目的が記されており、「・・・市町村全体としての 供給体制の整備だけでは(略)、市町村の責務を十分に果たすことは難しい。個別の子育て家庭にとっ て、自らニーズを把握し、多様な施設や事業等の中からどれを利用するのが適当なのか自ら判断する ことは、必ずしも容易ではない。(略)個別のニーズを把握して、適切な施設や事業等を円滑に利用 できるよう支援する(略)。また、このような機能を果たすためには、日常的に地域の様々な関係機 関や子育て支援団体等とネットワークを構築し、状況に応じて不足している社会資源を開発していく (略)。こうした機能をもつ本事業は(略)市町村子ども・子育て支援事業計画の策定と「車の両輪」 ともなる極めて重要な事業」とある。 この目的を見ると、「個別のニーズを把握して、適切な施設や事業等を円滑に利用できるよう支援 する」とあるため、利用者支援事業は情報提供だけを目的とした事業ではないことがわかる。また、 地域のさまざまな子育て支援サービスと連携し、必要なサービスがなければ開発するところまで事業 の目的としており、まさにケースマネジメントの目的と一致する。 したがって、利用者支援事業の意義は、子どもと家庭が確実に必要なサービスを利用できるように するという目的を達成するためにケースマネジメントの実施を試みている点であると言える。 (3)利用者支援事業の対象者(利用者) 利用者支援事業実施要項をみると対象者は「子育て家庭」と記されている。具体的には「子ども及 びその保護者等、または妊娠している方」である。なお、留意事項の欄に「児童虐待の疑いがあるケー ス」及び「障害児等を養育する家庭からの相談等」については、福祉事務所、市町村の所管部局など とそれぞれ「連携」し、適切な対応が図られるように努めなければならないとの説明がある。つまり、 利用者支援事業は岡村(1974)の予防的社会福祉の「第一次予防」の側面が強く、従来の保護的社会 福祉にあたる援助についてはそれぞれ専門の相談機関で対応するものと考えられていることがわか る。 また、利用者支援事業ガイドライン(案)には子どもの年齢を軸とした対象の「子育て家庭」につ いて「小学校入学前児童の子育て家庭を基本」としつつ、「学童期の子どもを持つ家庭、特別な支援 を要する可能性のある子どもを持つ家庭、要支援家庭及び各種支援の場面で「心配」とされる家庭な ど状況に応じて、18 歳までの児童とその保護者・家庭についても事業の対象とし、必要に応じ、適 切に対応する」と記されている。つまり、就学前の子どもをもつ子育て家庭を対象の中心としつつも、 子どもが 18 歳に達するまで必要に応じて切れ目のない支援を目指していることがわかる(表 3)。 表3 利用者支援事業の対象者のイメージ 予防的社会福祉 第一次予防 第二次予防 第三次予防 子どもの年齢 就学前 援助の中心 援助の中心 継続ケースの対応必要に応じて 学童期 必要に応じて 必要に応じて 継続ケースの対応 18 才未満 継続ケース対応 継続ケース対応 継続ケースの対応 (4)利用者支援事業の担い手と求められる専門性 子ども・子育て支援新制度地方自治体担当者向け説明会(2014(平成 26)年 4 月 17 日)の新制度 勉強会の資料(内閣府子ども・子育て支援新制度施行準備室 ,2014)P46 の「利用者支援事業について」 の中に、利用者支援事業における子育て支援コーディネーターに相当すると考えられる人材について 「利用者支援専門職員(仮称)」と記されていた。
また、子ども・子育て基準検討部会では第 2 回(内閣府 ,2013b)から担い手についての話し合いが 行われているが、一貫してさまざまな専門職の参入を認める形で話が進んでいる。これを踏まえて作 成された利用者支援事業実施要項でも、「利用者支援事業に従事する者は、医療・教育・保育施設や 地域の子育て支援事業等に従事することができる資格を有している者や、地方自治体が実施する研修 を修了した者のほか、育児・保育に関する相談指導等について相当の知識・経験を有する者であって、 地域の子育て事情と社会資源に精通した者として市町村が認めた者をもって充てるもの」と記されて いる。 なお、「子ども・子育て基準検討部会」第 9 回の議事録(内閣府 ,2013e)では、事業内容案に関係 機関の連絡調整、連携・協働の体制づくり、地域で必要な社会資源の開発が盛り込まれており、「こ れは高度なソーシャルワークの専門職の仕事である」といった意見が出ているが、そのために社会福 祉士の雇用を目指すといった議論には至っていない。しかしながら、作成された利用者支援事業ガイ ドライン(案)の具体的な事業内容をみると、ケースマネジメントそのものである。利用者支援を実 施していく際の「基本的姿勢」の項目をみると、①利用者主体の支援、②包括的な支援、③個別ニー ズに合わせた支援、④子どもの育ちを見通した継続的な支援、⑤早期の予防的な支援、⑥地域ぐるみ の支援が挙げられている。つまり、利用者支援専門員に求められる「基本的姿勢」はソーシャルワー クと一致しており、この機能を担う専門職として社会福祉士の雇用を目指すことが自然であると考え る。しかしながら、芝野・小野・平田(2012)の研究結果で示されているように、利用者支援事業の 前身である子育て支援コーディネートでは、保育士が担い手となっているケースが多い。このような 実情に配慮しているためか「社会福祉士」、「ソーシャルワーク」、「ケースマネジメント」といった用 語の使用を避けるような表記となっている。 このように現段階で想定されている利用者支援専門員の専門職のバックグラウンドがさまざまであ ることから「有する資格や知識・経験に応じて、本事業を実施するに当たり共通して必要となる知識 や技術を身に付け、かつ常に資質、技能等を維持向上させるため、都道府県又は市町村が実施する研 修を受講すること」となっている。この研修の中身について利用者支援事業ガイドライン(案)では 「子育て支援、児童福祉、母子保健等に係る施策の制度内容・事業内容や手続方法、各地域の実態」、「関 係する行政組織や専門機関等の役割・所掌事務・連絡方法等」、「子育て家庭の抱える課題を十分に理 解した上で、適切な見守りを行うために、子どもの発達、障害や母子保健等についての基礎的な知識」、 「相談援助の知識・技術 対人援助の基本、傾聴、アセスメントの力、支援実施にあって必要となる 職業倫理や法令順守事項など」と記されている。 だが、利用者支援専門員に求められる専門性をどの程度の研修で修得できると考えられているのか についての記載がない。そして「都道府県又は市町村が実施する研修を受講すること」としているが、 一定の基準を設けなければ自治体によって研修の質と量に差がでる可能性が高い。 利用者支援事業の担い手の確保は事業の円滑な推進に極めて重要であることから、これらの点につ いてより詳しく検討する必要がある。 (5)利用者支援事業の内容と方法 利用者支援事業実施要項によると、利用者支援事業の内容は「子ども及びその保護者等、または妊 娠している方が、教育・保育施設や地域の子育て支援事業等の情報提供及び必要に応じ相談・助言等 を行うとともに、関係機関との連絡調整等を実施する事業」と記されている。 利用者支援事業は①基本型と②特定型のいずれかの類型を選択して実施することになっているが (内閣府 ,2014)、この 2 類型では内容と方法に違いがある。 利用者支援事業ガイドライン(案)によると、①基本型は、「利用者支援」(①相談、②情報の収集 及び提供、③助言・利用支援、④相談等の記録)と「地域連携」(①関係機関等との連絡・調整、連携、 協働の体制づくり、②地域の子育て資源の育成、地域課題の発見・共有、社会資源の開発等)を共に
実施する形態、②特定型は、主に「利用者支援」(①相談、②情報の収集及び提供、③助言・利用支援、 ④相談等の記録の中の一部)を実施する形態である。 利用者支援事業で考えられている「利用者支援」について利用者支援事業ガイドライン(案)には、 「行政の相談とは視点の異なる、当事者の目線に立った、寄り添い型の支援が必要とされている」と 記されている。「アウトリーチ」をおこない、身近な子育て支援の場所に通うことのできない子育て 家庭を積極的に援助し、「相談を受けて、その子育て家庭が抱えている課題は何か、その背景や要因 は何か、それを解消するために何らかのサービスや支援を必要としているのかを見極める必要がある。 その際、子育て家庭の主訴と真のニーズが異なる場合も多いこと、家庭全体の状況や取り巻く環境も 把握することが重要である。」とある。これは、かみ砕いた表現となっているが、ケースマネジメン トのアセスメントについて説明している。また、その際「子ども・子育て支援法上の施設・事業等の みならず、医療・保健等の隣接する他の領域のフォーマルな事業、近隣住民やボランティアなどによ るインフォーマルな取組みも含め、その子育て家庭に最もふさわしい支援のあり方を提示することが 期待されている」。このように、利用者の立場にたってフォーマルな資源だけでなく、インフォーマ ルな資源に「つなぐ」というのは、表 1 で示したケースマネジメントの特徴的な機能である。このよ うな機能を包括的にもつ「基本型」はまさにケースマネジメント実践であると言える。 一方、「特定型」は横浜の保育コンシェルジュをモデルにしているように、利用者のニーズをアセ スメントするなどして保育など、特定のサービスに「つなぐ」ことを主眼としている。このように、 利用者の特定のニーズに応えるために、利用者にあったサービスを提供しようとする方法はコーディ ネーションであると言える(表 1)。つまり、「特定型」はコーディネーションを想定したサービスで あると考えられる。 このように、利用者支援事業は利用者を必要なサービスにつなぐために「基本型」としてケースマ ネジメントを、「特定型」としてコーディネーションを実施しようとするものであると解釈できる。 表4 利用者支援事業の「基本型」と「特定型」の整理 実施場所 主な事業内容 特徴 想定される理論的枠組み 基本型 主として、行政窓口以 外で、親子が継続的に 利用できる施設を活用 例)地域子育て支援拠 点事業での実施 ・利用者支援 ・地域連携 ・広報 ・ その他、事業を円滑に 実施するための諸業務 利 用 者 の 立 場 に た っ て、フォーマルな資源 だ け で な く、 イ ン フォーマルな資源にも つなぎ、総合的に利用 者の生活がうまくいく ように支援することを 目指している。 ケースマネジメント 特定型 主として、行政機関の 窓口を活用 ・ 利用者支援(一部) ・ 広報 ・ その他、事業を円滑に 実施するための諸業務 保育など、特定のサー ビスにつなぐ支援を目 指している。 コーディネーション コーディネーションであれば、他の子育て支援サービスの相談援助にも含まれる。従来から実施さ れている保育所保育士による相談援助や保健師による相談援助などがこれにあたる。芝野(2002)は、 このようなコーディネーションはその時の利用者のニーズをもっともよくとらえることのできる専門 職がつくべきであると述べている。 つまり、自治体から利用者支援事業とその他の既存の相談援助との違いがわかりにくいという意見 が出ていると述べたが、これを明確に区別するのであれば、利用者支援事業は「基本型」のみとし、「特 定型」については別の事業とすることが望ましいと考えられる。利用者支援事業を「基本型」と「特 定型」の 2 種類としたことが目指すべき方向性について理解を難しくしている可能性がある。
4. まとめ 子育て支援コーディネートの反省点を踏まえ、利用者支援事業において改善されたと考えられる点 は、①事業を法定化し、すべての市町村で利用者支援事業が提供されることが決まったこと、②ガイ ドラインを作成することによって、子育て支援総合コーディネート事業よりも目指すべき方向性が具 体的に示されつつあるようになったこと、③ケースマネジメントという用語こそ使用されていないも のの、ソーシャルワークの視点に基づいた援助の必要性やケースマネジメントと考えられる方法に よって、今までサービスを必要としているにも関わらずサービスの利用ができなかった層にまで援助 をしようと試みられている点である。また、④利用者支援専門員に対して研修を必須としたことによっ て、求められる専門性について議論するきっかけとなったと考える。 一方、改善すべき点であるが、利用者支援事業実施要項や利用者支援事業ガイドライン(案)を見 る限り、理論的な枠組みに基づいた内容や方法について依然あいまいな点がある。とくに、利用者支 援事業を実施していくための人的資源である利用者支援専門員の専門性が明確にされていない。筆者 は、理論的には社会福祉士を利用者支援専門員とし、社会福祉士に必要な研修をおこなうことが望ま しいと考える。しかしながら実情を踏まえた上で多様な専門職の参入を認めるのであれば、ケースマ ネジメントについて十分に学べる程度の手厚い研修が必要であると考える。少なくとも、数日程度の 研修では十分とは言えない。さらに、研修の質と量について自治体に任せていると考えられるが、政 策として一定の基準を設ける必要がある。 また、利用者支援事業は「基本型」と「特定型」の 2 つの形態が用意されているが、ケースマネジ メントとしての実施を目指す事業とするのであれば「基本型」の 1 形態のみにすべきである。「基本型」 のみにすることによって、利用者支援事業の目指すべき方向性がより明確になることが期待される。 5. おわりに 利用者支援事業は 2014(平成 26)年度から順次はじまったとされるが、情報は極めて少ない。現 時点では、社会福祉法人東京福祉協議会(2014)による利用者支援事業実施に向けての書籍、NPO 法人子育てひろば全国連絡協議会(2014)による利用者支援事業実施のためのパンフレットなどがあ る程度である。本稿ではケースマネジメントによる子育て支援コーディネートの理論的枠組みを用い て、政策としての利用者支援事業について整理し、今後の課題を示すことを試みた。 今後、必要であるにも関わらずうまくサービスを利用できない子育て家庭にサービスを届けるため に、利用者支援事業はどうあるべきなのか、さらに議論を深める必要がある。 【引用・参考文献】 平田祐子(2012)「子育て支援総合コーディネート事業の変遷―子ども家庭福祉分野のケースマネジメントとしての 必要性―」『Human Welfare』4, 55-68. 平田祐子(2013)『ケースマネジメントとしての子育て支援総合コーディネートの推進要因と課題の検証』関西学院 大学博士学位論文 . 平田祐子(印刷中)『ケースマネジメントによる子育て支援コーディネート――効果的なサービス提供のために』ミ ネルヴァ書房 . 平田祐子・芝野松次郎・小野セレスタ摩耶(2012)「子育て支援総合コーディネーターの「力量」に関する研究」『子 ども家庭福祉学』12, 93-105.
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