修士論文(研究報告書)要旨
論文(報告書)タイトル: 「両利きのマネジメントに関する研究―海外子会社の自律性の
観点から―」
学籍番号:AM18020
氏 名:LIU SHUHUI
指導教授:伊藤善夫教授
【論文(報告書)の構成】
はじめに 第1章 問題意識と研究目的 第2章 先行研究 第3章 事例研究 第4章 仮説の構築 第5章 考察 第6章 結論と今後の課題 おわりに【論文(報告書)の内容】
1. 問題意識と研究目的 先進国企業が海外で事業を展開する場合、その戦略を経営資源が大きく異なる新興国市場にそのまま 適用できない可能性は高い。現地子会社は、現地の市場や経営資源に適応するために、自社にない能力 を求める「探索」型の拠点としての性格を持つことが、新興国市場進出に際しては必要になるのである (孫・椙山,2015,p.68)。本研究では、多国籍企業が海外で行う研究開発活動に焦点を当て、知の探索活 動に影響する要因を明らかにしたい。 2. 研究方法 競争優位の持続可能性を獲得する際に、知の活用と知の探索を活用することを、両利きのマネジメ ントと呼ぶ。両利きのマネジメントでの探索活動に関する先行研究を調査し、探索活動の定義をまず 明確にする。そして、探索活動に影響する要因を先行研究の中に探求する。さらに、探索活動につい ては、自律性の重要性が先行研究において強調されていることから、自律性の観点で事例を分析し、 仮説を導出する。仮説の構成概念を明確にした上で、観測変数を検討する。さらに、日本の上場企業 を対象としたアンケート調査を行い、データを統計的に分析し、仮説を実証する。最後に実証結果を 検討し、考察を行い、結論と今後の課題を提示する。 3. 先行研究 (1) 両利きのマネジメントに関する研究 入山(2015,p.75)は、「「両利きの経営」の基本コンセプトは、「まるで右手と左手が上手に使える人 のように、『知の探索』と『知の深化』について高い次元でバランスを取る経営」を指します」と論じて いる。山岡(2016,p.45)によれば、「探索とは、具体的な経営成果の創出には必ずしも貢献しない不確 実性の高い活動である」と指摘している。 (2) 海外子会社の研究開発に関する研究 潘(2016,p.155)は、「資源を生かすための深層現地化が成功した原因について、本社からの統制と 海外拠点の自律性の関係から、本社トップマネジメントのコミットメントと現地にある程度の権限委譲 が成功要因として分析されている(新宅・大木,2012)。」と述べている。多田(2009,p.40)によれば、 「遠原(2003)は、現地環境、海外子会社の経営資源、海外子会社の自律性という3つの観点からなる 分析枠組を構築し、海外子会社の役割がグローバルな製品開発拠点へ変化する」と指摘している。 (3) 海外子会社の研究開発の自律性に関する研究 飯田(2015)によれば、「Jarillo・Martinez(1990) は、自律とは、本社や他の子会社と独立して行 う、子会社自身のバリューチェーンにおける活動を実行するための「意思決定力」である。」と指摘して いる。さらに、飯田(2015)は、「O’Donnel(2000)は、子会社が持つ戦略上且つオペレーション上 の「意思決定権限」の程度といった見方がある。」と論じている。 先行研究をまとめ、海外子会社の権限の大きさは現地化の経営に影響すると考えられる。さらに、子 会社の自律性は探索活動に影響する要因の一つだと考えられる。また、日産自動車と資生堂の事例を取り上げ、自律的に現地に向けた新製品を開発することは両社が事業展開を成功させる要因の一つであり、 探索活動を促進するものと推測することができる。 4. 仮説の構築 先行研究と事例分析に基づき、本研究では、「海外子会社の自律性が高ければ高いほど、探索活動の程 度が高まる」という仮説を構築し、仮説を構成する各概念の定義から観測変数を設定した。観測変数を 測定するために、2000 社の上場企業にアンケートを行い、収集したアンケートのデータに基づき、共分 散構造分析を行った。 注:***は1%程度で有意、**は 5%程度で有意、*は 10%程度で有意 標準化係数の下線は、推定にあたり非標準化係数を1に固定したことを表す 信頼性分析では、構成概念「海外子会社の自律性」の三つの観測変数の信頼性が0.844 であった。こ の数値は0.8 以上が望ましいとされるので、信頼性があると考えられる。構成概念「探索活動の程度」 の三つの観測変数の信頼性が0.647 であった。0.5 を以上であるので、許容されると考えられる。また、 実証パス図の適合度については、適合度検定有意確率が29.2%であるので、有意水準 5%でモデルの設 定が正しいとする帰無仮説は破棄されない。また、GFI の値 0.940 であり、CFI の値は 0.986 であり、 基準である0.9 より大きく適合度が高いと判定される。ただし、AGFI の値は 0.842 で、基準の 0.9 を 下回った。RMSEA の値は 0 に近ければ近いほど適合度が高いが、パス図の RMSEA は 0.068 であり、0.1 より小さく許容される。5 つの指標のうち4 つの指標で条件を満たしたことから、本研究のモデルの設 定が妥当だと判断することができる。係数推定値を評価した結果は上の図表のとおりである。「海外子 会社の自律性」の「探索活動の程度」に対する因果係数は0.55 であり、有意確率は 5%を下回った。し たがって、「海外子会社の自律性」の向上が企業の「探索活動の程度」に影響を与えていることが確認で きた。 5. 考察 海外子会社の自律性が高い場合、本社で蓄積した既存の経営資源を上手く活用できないことが考えら れる。この場合、本社と現地子会社において資源の重複が生ずることになる。 6. 結論と今後の課題 本研究では、海外子会社の自律性と探索活動の程度の相関関係を明らかにし、「海外子会社の自律性 が高ければ高いほど、探索活動の程度が高まる」という仮説を実証した。 なお、現地企業の探索活動に影響する要因は数多く存在するため、他の要因もさらに研究する必要が あると考えられる。これを今後の課題として、研究していきたい。