奈良教育大学学術リポジトリNEAR
食餌と運動がマウス骨格筋グリコーゲン含量に及ぼ す影響
著者 中谷 昭, 中道 里香, 杉浦 恭子, 山下 由季, 岩本
江美
雑誌名 奈良教育大学紀要. 自然科学
巻 41
号 2
ページ 31‑37
発行年 1992‑11‑25
その他のタイトル Effects of Diet and Exercise on Glycogen Content in Murine Skeletal Muscle
URL http://hdl.handle.net/10105/1744
食餌と運動がマウス骨格筋グリコーゲン含量に及ぼす影響
中 谷
昭・中 道 里 香・杉 浦 恭 子*
山 下 由 季** ・岩 本 江 美…
(奈良教育大学生理学衛生学教室) (平成4年4月30日受理)
Effects of Diet and Exercise on Glycogen Content in Murine Skeletal Muscle
Akira Nakatani, Rika Nakamichi, Kyoko Sugiura*
Yuki Yamashita** and Emi Iwamoto***
{Department of Physiology and Hygiene, Nara University of Education, Nara 630 ,励on)
(Received April 30, 1992)
Abstract
The effects of diet and exercise on glycogen content in skeletal muscle were investigated in adult male ICR mice. After one night fasting and 90 min of swimming, glycogen depletion occurred in both red and white vastus laterahs. After normal mixed diet, the glycogen content increased and reached supercompensated levels. In red vastus, the glycogen content became 3.5 times as much as normal level. However, there was little increase on glycogen content after non‑carbohydrate fat diet. When both
groups with supercompensated and depleted glycogen contents were run for 30 mm at
15 m/min, plasma lactate level in both groups was constant, suggesting exercise intensity was mild. Plasma FFA level in fat fed group was higher than normal mixed diet group before exercise and decreased gradually during exercise. Glycogen content in normal mixed diet group decreased from preexercise level of 25.0 ± 9.6/lmol/g wet wt. in white vastus and 36.8 ± 9.5/lmol/g wet wt. in red vastus t0 14.5 ± 9.7〃mol/g wet wt. and 10.0 ± 4.3/lmol/g wet wt. respectively after 30 mm of exercise, whereas there was little change on glycogen content in fat fed mice during exercise.
These results suggest that in mice performing prolonged mild exercise, a) glycogen is the main energy source in skeletal muscle which has high glycogen content, and b) other substrates like plasma FFA are utilized in skeletal muscle which has depleted glycogen content.
・現在,松下電器健康保険組合,松下産業衛生科学センター 軸現在,株式会社高島鼠 大阪店
…現在,筑波大学大学院
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32 中谷 昭・中道 里香・杉浦 恭子・山下 由季・岩本 江美 緒 言
骨格筋に存在するグリコ‑ゲンは持久的運動時の重要なェネルギー源であり12)運動前のグリ コーゲン含量が高いほど運動時間が長くなることが知られている Bergstrom and Hultman はヒトにおいて自転車エルゴメーターによる片足運動を疲労困燈まで負荷した後, 高糖質食を3日間与えた結果,運動をしなかった足の筋グリコーゲン含量は正常レベルであった のに対し,運動をした足のグリコーゲン含量は運動直後の枯渇した状態から2日後及び3日後に は正常レベルの2倍以上に増加したことを報告している.
これらのことより,マラソンなど持久的運動能力が重要な競技では,試合7日前より激しい運 動と低糖質食を組合せ一旦筋グリコーゲンを低下させた後,試合3日前より高糖質食をとり筋グ リコ‑ゲン含量を著しく高める,いわゆる"グリコーゲン・ローディング"が近年盛んに行われ るようになってきた.
しかし,グリコーゲン・ローディングに関する研究においては常に高糖質食が用いられ,それ 以外の食事による筋グリコーゲン含量の変化に関する報告はほとんど無い.また,グリコーゲ
ン・ローディングを行った後の運動時の代謝についての報告もみられない.そこで本研究におい ては普通食及び脂肪食を与えた場合の筋グリコーゲン含量ならびに運動時の代謝について検討し a
実 験 方 法
実験動物としてICR系成熟雄マウスを用いた. 10日間普通食(CE‑2:日本クレア製)で飼 育した後一昼夜絶食させ,さらにグリコーゲンを低下させることを目的として90分の水泳運動 を負荷した.その後マウスを2群に分け一方には普通食を他方には脂肪食(日本クレア製特殊配 合飼料)を与えた.普通食及び脂肪食の組成はTable lに示した.翌日両群に対し,動物用ト
レッドミルを用い15m/min, 30分間の軽度の走行運動を負荷した.尚,水泳運動は水深30cm, 水温35‑Cに保ったバケツの中で行わせた.また,トレッドミル走については,走行に慣れさせ るため10日間の普通食の期間に10 m/min, 10分間の運動を毎日行わせた.
採血及び筋試料の摘出は絶食前(n‑ 10),絶食・運動後(n‑9),トレッドミル走行前(普通 食群n‑ 脂肪食群n‑7),走行15分(普通食群n‑9,脂肪食群n‑8)及び30分(普通 食群n‑ 10,脂肪食群n‑ 8)の時点で行った.採血はエーテル麻酔下頚動脈を切断することに より行い,採血後遠心分離を行い血菜を得た.採血後外側広筋を摘出し直ちに液体窒素で凍結し た後,グリコーゲン測定まで180℃で保存した.
Table 1. The composition of experimental diets
Ingredient
Diet CHO protein fat water cellulose
CE‑2 50.2 24.9 4.5 4.1 7.5
FAT 24.5 61.5 6.0 3.0
CHO, carbohydrate; *, mineral and vitamine
血糖は新プラッド・シュガーテスト(ベーリンガー・マン‑イム社製),血中乳酸はラクテ‑
卜・テスト(ベーリンガ‑・マン‑イム社製),遊離脂肪酸はNEFAテスト・ワコー(和光純薬 製)を用いて定量した.骨格筋グリコーゲン含量は外側広筋の表層部(白筋部)及び深部(赤筋 部)において測定した.外側広筋表層部はPeterら11)の分類によるFG線維からなり,深部は主 にFOG線維からなる.まず,筋サンプルをLowry and Passonneauの方法8)で均等化した後, Passonneau and Lauderdaleの方法10)を用い分光学的に定量した.
結 果
Fig. 1には外側広筋におけるグリコーゲン含量の変化を示した.普通食コントロール群では 赤筋部の10.5 ± 5.3!〃nol/g wet wt.に対し白筋部では18.9 ± 6.5〟mol/g wet wt.と白筋部が有 意に(P<0.05)高い値を示した.絶食・水泳運動を負荷するとグリコーゲン含量は低下し赤筋 部では315±2.5^mol/弓wet wt,白筋部では4・7±3・5〟mol/g wetwt.となった.これに普通 食を与えると赤筋部及び白筋部においてコントロール群の値を越える増加が見られ,特に赤筋部 では36.8±9.5^mol/g wet wt.とコントロール群の約3.5倍の値になった.しかし,脂肪食を 与えた場合はグリコーゲン含量はやや回復するものの,いずれの筋においてもコントロール群の 値には至らなかった.
Table 2はコントロール群,絶食・運動群,普通食群及び脂肪食群の血糖値ならびに遊離脂肪 酸量を示している.絶食・運動により血糖値の低下がみられたのに対し,遊離脂肪酸量は増加し た.普通食を与えると血糖値はやや回復したが,脂肪食群ではさらに低下し,逆に遊離脂肪酸量
(6\jouirf) uaBooXin
CHO FAT Fig.1. Effects of fasting and diet on glycogen con‑
centration in red and white vastus laterahs.
R, red vastus laterahs; W, white vastus lateralis; C, control group ; F, fasted and swum group ; CHO, carbohydrate fed group ; FAT, fat fed group, a, significant difference between control and each groups, P<LO.05 ; b, significant difference between red vastus and white vastus, P<0.05.
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Table 2. Concentrations of blood sugar and plasma FFA
Group Blood Sugar Plasma FFA (mg/dl) 〃 Eq/1) control
fasted normal diet fat diet
185±27 860± 80 126±23 * 1000±260 148±25* 550± 80*
107±30 * 1300±240 * Values are means±SD.
詛significantly different from control, P<D.05.
の増加がみられた.
Fig. 2は普通食群及び脂肪食群のトレッドミ ル運動時のグリコーゲン含量の変化を示した図で ある.普通食群赤筋部では運動前の36.8 ± 9.5
〃mol/g wet wt.から15分時には17.7 ± 10.7
〟mol/g wet wt.と有意(P< 0.05)な低下がみ
O O O o O
CO
(B /│ OL ur f) u爪 品o dA iq
Fig. 2. Changes of glycogen concentration during mild exercise in red and white vastus lateralis.
(○)carbohydrate fed, white vastus ; (・jcarbohydrate fed, red vastus ; (△)fat fed, white yastus; (▲)fat
fed, red vastus. *significantly dif‑
ferent from Omin values, P<0.05 ;
significantly different from 15
min values, P<0.05.
られ,さらに30分時には10.0±4.3Jlmol/g
wet wt.と著しい低下がみられた.白筋部においても運動前の25.0 ± 9.6/zmol/g wet wt.から 30分時には14‑5± 9.7!Jmol/g wet wt.と時間の経過に伴い低下がみられた.これに対し,脂肪 食群では白筋部において30分時に有意な低下がみられたものの, 30分間の通勤中の減少量は白 筋部において7.5/lmol/g wet wt,赤筋部においては3.4〟mol/g wet wt.と普通食群に比較し小
さかった.
Table 3は運動時の血糖,乳酸及び遊離脂肪酸の変動を示したものである.乳酸値はいずれの 群も運動による変化がみられなかった.血糖値は普通食群で時間経過とともに上昇する傾向がみ られたが,脂肪食群では大きな変化はみられなかった.遊離脂肪酸は絶食時同様脂肪食群におい て普通食群より有意に高い値を示し,運動時においては時間経過とともに減少する傾向がみられ
m
Table 3. Concentrations of blood sugar, blood lactate and plasma FFA during exercise Group Omin 15min 30min
Blood Sugar
(mg/dl) Blood Lactate
(mmol/1)
O fe O PL.
148±25 109±30 5.4±0.6 5,5±1.0
Plasma FFA C 552± 83 ( 〟 Eq/1) 1299±242
170±42 155±19 5.4±0.6 5.3±2.2 549±285 1154±202
213±45 * 116±22
5.0±1.5 6.1±0.9 598±179 998±792 Values are means±SD. C, carbohydrate fed ; F, fat fed. *significantly different from
Omin values, P<0.05.
S3
骨格筋グリコーゲン含量が運動後正常以上に増加する現象の存在することは古くから知られて いた2).この現象はglycogen supercompensationと呼ばれ,この現象を引き起こすのに必要な 条件として,グリコーゲンの枯渇2・6),その後の高糖質食摂取6)及び正常のインスリン反応9)があ げられている.この現象を利用し持久的運動能力を高めることを目的としてグリコーゲン・ロー ディングが行われるようになった.初期のグリコーゲン・ローディングにおいては,まず疲労困 債運動によってグリコ‑ゲンを枯渇させ4日間低炭水化物食を摂取し, 4日目に再び疲労困億運 動を行った後,試合当日まで3日間高炭水化物食を摂取するという方法をとった.現在では選手 の負担を考慮し,期間を短縮したり,低炭水化物食を混合食としたりあるいは運動強度を中等度 とするという方法がとられている.しかし,いずれの方法も最終的には高糖質食を摂取している.
今回,脂肪食ではグリコーゲン含量はほとんど回復しなかったが,普通食群においては正常値を はるかに上回るglycogen supercompensationが見られた(Fig. 1).このことはglycogen supercompensationには高糖質食が必ずしも必要ではないことを示している.一般に骨格筋グ
リコ‑ゲンは分解酵素であるホスフォリラーゼとグリコーゲン合成酵素により調節されて一定に 保たれているが,運動後においてはグリコーゲンが正常値に達した後もグリコーゲン合成酵素活 性が高い状態にあることが報告されている7).そのメカニズムは現在明らかではないが,自転車 エルゴメーターでの片足運動のように,運動した足にのみグリコーゲン含量の上昇がみられるこ とから,全身を循環するホルモンや代謝産物による影響よりも,むしろ筋収縮に直接関わる局所 的なメカニズムによるものと考えられる.
コントロール群における外側広筋グリコーゲン含量は赤筋部より白筋部において高かった.赤 筋部は主に有酸素的代謝に適するFOG線維からなり,白筋部は無酸素的代謝に依存するFG線 維からなる. FG線維はグリコーゲンを急速に分解することにより大きな筋力を発揮するためグ リコーゲン含量が高いものと考えられる.しかし,絶食・運動後普通食を与えた群で昼赤筋部の 方が白筋部よりグリコーゲン含量が高くなった(Fig. 1).今回絶食後90分の水泳運動を負荷
したが,この運動は持久的な運動であり,主に赤筋部が利用されたと考えられる.また,筋収縮 はグルコース取り込みを著しく促進することから5),運動に参加した赤筋部においてグリコーゲ ン含量がより高くなったものと考えられる.これに対し,脂肪食群ではいずれの筋においてもグ リコーゲン含量の回復はほとんどみられなかった.運動後にラードを与えたFellら4)の報告にお いてもグリコーゲン含量の回復がみられていない.これは脂肪やタンパク質からの糖新生がグリ コ‑ゲン含量を回復するには十分な速度ではなかったためと考えられる6).
持久的運動においてはグリコーゲンは重要なエネルギー源であり1.12)運動前のグリコ‑ゲン 含量が高いほど運動時問が長くなることが知られている3).本実験ではあらかじめグリコーゲン 含量を高くした群と低くした群の両群に30分の運動を負荷した.運動時間中血中乳酸値に変動 の無かったことから(Table 3)軽度の運動であったと考えられる.普通食群においては時間経 過とともにグリコーゲン含量の低下がみられ,特に赤筋部の低下が大きかった. Saltin and Karlsson12)はヒトを対象に自転車エルゴメーターを負荷した場合,時間経過とともに,筋グリ コーゲン含量が直線的に低下することを報告している.また, Armstrongら1)はラットを用い
4時間の水泳を行わせた場合,同様に時間経過とともにグリコーゲン含量の低下することを,ま た赤筋線維であるSO線維とFOG線維では急速に低下し,白筋線維であるFG線維ではあまり
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大きな減少がみられないことを報告している.これらの結果より,持久的運動時には有酸素的代 謝能に優れる赤筋が動員され,エネルギー源としてグリコーゲンが主に利用されるものと考えら れる.しかし,本実験の脂肪食群においては,運動時に筋グリコーゲン含量の大きな低下がみら れなかったことから,運動前のグリコーゲン含量の低い場合にはグリコーゲンが主なェネルギー 源とはならず,血中の遊離脂肪酸など他のエネルギー基質が利用されるものと考えられる.
摘 要
ICR系雄マウスを用い,異なった食餌と運動が骨格筋グリコーゲン含量に及ぼす影響につい て検討した.一昼夜の絶食をさせ,さらに90分の水泳運動を負荷した後マウスを2群に分け, 一方には普通食(日本クレア製: CE‑2)をもう一方には脂肪食(日本クレア製特殊配合飼料) を与えた.翌日両群に対し15m/minの軽度のトレッドミル走を30分間負荷し,運動前,運動 15分及び30分時の外側広筋におけるグリコーゲン含量を比較した.結果は次の通りである.
1.絶食・運動によりグリコーゲン含量はほぼ枯渇したが,普通食摂取によりグリコーゲン含 量は正常以上に回復し,特に赤筋部において著しい増加がみられた.これに対し,脂肪食群では
ほとんど回復がみられなかった.
2.トレッドミル走により普通食群では筋グリコーゲンは時間の経過とともに減少し,特に赤 筋部の減少が大きかった.しかし,脂肪食群では運動による変化はほとんど見られなかった.
3.血中乳酸は運動時両群ともほとんど変化しなかった.普通食群の遊離脂肪酸量はほとんど 変化しなかったが,脂肪食群の遊離脂肪酸量は運動前の高い値から時間経過にともなって減少し
a
尚,本研究は平成3年度文部省特定研究経費(研究代表者 松村竹子)を得て行われた.
また,本論文の要旨は第42回日本体育学会大会(1991)及び日本体力医学会第6回近畿地方 会(1992)において発表した.
Ell my
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