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乳腺発達に及ぼす食餌性肥満の影響:

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Academic year: 2021

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博 士 ( 獣 医 学 ) 上 川 昭 博

学 位 論 文 題 名

乳腺発達に及ぼす食餌性肥満の影響:

   脂肪細胞分泌因子レプチンの役割 学位論文内容の要旨

  乳腺 は 出 生後 に 大 き く形態 と機能を 変化さ せる特徴 的な組 織である 。生後す ぐの乳 腺は 乳 頭 部周 辺 に わず か な 乳 腺導 管 を 持つ の み であ る が 、性 成 熟 まで に 導 管は 伸 長と 分枝を 繰 り 返し 、 皮 下脂 肪 組 織 全体 に 広 がる 。 妊 娠す る と 既存 の 導 管か ら 側 方に 導 管側 枝が出 芽、 伸長し 、より密な分枝構造をとる。そして導管先端に腺房を発達させ、乳タンパク質や乳 脂肪 分を産 生するようになり、「泌乳」という重要な機能を獲得する。過剰なエネルギーの摂 取 や 食餌 性 肥 満は 、 妊 娠 末期 や 泌 乳期 の 乳 腺の 形 態 的ま た 機 能的 な 発 達を 抑 制す ること が、ウシ、ヒト、マウス、ラットなど様々な動物で示されてきた。しかし、その肥満による乳腺発 達の抑制機構は不明であった。

そこ で、4週齢の マウスに 高脂肪 食(HFD)また は通常食 (ND)を給餌し、食餌性肥満マウス と 対 照マ ウ ス を作 製 し た 。そ し て 両群 の 乳 腺発 達 過 程と そ の 組織 構 造 の変 化 を、 妊娠前

(Pre)、 妊娠8、13、18日目(P8、P13、P18;それぞれ妊娠前期、中期、後期に相当する)と 順に 観察、 比較し、 肥満が ぃかにし て乳腺発 達を抑 制するか を明らかにすることで、抑制機 構の解明を試みた。

ま ず 、 妊娠 前 の 導管 発 達 に 及ぼ す 食 餌性 肥 満 の影 響 を 検討 し た 。両 群 と も導 管 は 皮下脂 肪 組 織 全体 に 広 がっ て お り 、分 枝 数 も同 じ で あっ た が 、HFD群 では皮 下脂肪組 織の拡 大に と も な って 導 管 を伸 長 さ せ た。 そ の 結果 、HFD群 の 乳腺 導管は 、ND群に 比べ分枝 頻度が 低 下 した粗 な形態 を示した 。またHFD群の 導管外 径はND群に 比べて 小さくな った。組 織学的 な 解 析 を 行 っ た と こ ろ 、ND群 の 乳腺 導 管 は管 腔 上 皮細 胞 と 筋上 皮 細 胞 の2層 の 上皮 細 胞 層 か ら な るの に 対 し、HFD群の 乳 腺 導管 は 筋 上皮 細 胞 層が 不完全 であり 、部分的 に欠損 して い た。ま た管腔上 皮細胞は 欠損す ることな く導管 内腔を覆 ってい たものの、細胞高の低下な ど 、 細 胞形 態 に 異常 が 生 じ た。乳腺 問質は、 導管の すぐ周囲 を取り 囲む膠原 線維層 や、そ の 外 側 の 脂 肪 細 胞 や 血 管な ど か ら構 成 さ れる 。HFD群 の 乳腺 問 質 で は中 性 脂 肪の 蓄 積 に よ り 脂 肪細 胞 が 肥大 し て い たのに加 え、導管 周囲の 膠原線維 層が肥 厚してい た。以 上のよ う に 、 食餌 性 肥 満は 妊 娠 前 の導 管 組 織構 造 に 既に 影 響 を与 え て いる こ と が明 ら か になっ た 。

乳 腺 組 織構 造 の 異常 の 要 因 とし て 、 脂肪 細 胞 分泌 因 子 レプ チ ン の関 与 を 検討 し た 。レプ チ ン の 乳腺 に お けるmRNA発 現 と 血漿 中 濃 度は 、 肥 満に よ っ て10倍 以上 に 増 加 し、 その受 容 体(ObーR) は乳腺導 管の上 皮細胞や 導管周 囲の線維 芽細胞に 発現し ていた。 レプチ ン発

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現アデノウイルスをマウスに投与しおよそ1週間高レプチン血症を誘導すると、乳腺組織で1 型コラ―ゲン前駆体の産生が増加し、脂肪組織由来の線維芽細胞をレプチンで刺激すると 培養液中の1型コラ―ゲン量が増加した。よって、レプチンが乳腺問質の線維芽細胞に直接 または間接的に作用して、導管周囲の線維化を弓Iき起こす可能性が示された。また、ウシ乳 腺上皮細胞をレプチンで刺激すると、その増殖が抑制された。っまり、肥満マウスの乳腺で はレプチンは乳腺上皮細胞にも作用し、上皮細胞の増殖を抑制して、管腔上皮細胞と筋上 皮細胞の正常なニ層構造を欠損させたと考えられた。

次 に、妊娠 後の乳腺 発達に及 ぼす食餌性肥満の影響を検討した。ND群に妊娠を誘導す るとP8に導管から側方.に導管側枝が出芽し、P13では導管側枝の伸長と共に、その先端に 乳脂肪滴を持たない未熟な腺房構造が認められた。P18では腺房数が増加し、腺房はさら に大きく発達し、乳脂肪滴の蓄積と腺房内腔の拡大が観察された。一方、HFD群は、P8で は導管側枝の出芽がわずかに認められるだけであり、P13には導管側枝は出芽してくるもの の腺房構造はほとんど観察されなかった。P18においてもND群のP13と同程度の乳脂肪滴 を持たない腺房構造が観察されるだけだった。組織学的な解析を行なったところHFD群の乳 腺発達には遅れはあるものの、妊娠後生じてきた導管側枝や腺房における筋上皮細胞、膠 原線維の局在パターンはND群と同じであった。次に、乳腺機能として乳タンパク質の―つで あるwhey acidic protein(WAP)のmRNA発現を定量した。ND群、HFD群ともP13から明瞭に 認められP18でさらに発現量が増大した。しかし、いずれの時点でもND群に比べてHFD群で 発現量は低かった。っまり、食餌性肥満は妊娠期の始めに腺房の基部をなす導管側枝の 出芽を抑制し、後に続く腺房の形態的および機能的発達を遅延させることが明らかになっ た。

妊娠初期に起こる導管側枝の出芽には、導管周囲を取り巻く膠原線維の分解と乳腺上皮 細胞の増殖が必要である。よって、妊娠前に生じていた導管周囲の線維化が導管側枝の出 芽を抑制したと考えられた。また妊娠期においても脂肪細胞分泌因子レプチンの血中濃度 は肥満マウスで顕著に高値を示した。さらにOb―Rは腺房上皮細胞にはほとんど発現が認め られなかったが、妊娠前から存在する導管や、導管側枝の乳腺上皮細胞には発現してい た。よって、レプチンの乳腺上皮細胞増殖抑制作用が導管側枝の出芽や伸長の抑制を引き 起こしたとも考えられた。また、妊娠初期からおこる形態発達の遅れや過剰なレプチンに加 え、肥満マウスの示す高プロゲステロン血症が、妊娠中後期の機能的発達の遅れにっなが っ た可能性 もある。 これらの 変化が出産後の泌乳能の低下を導くことが想定される。

以上の ように、 食餌性肥 満は妊娠 前の導管構造や、妊娠初期の導管側枝の出芽に影響 を及ぼし乳腺の発達を阻害していることが明らかとなった。さらに、肥満による乳腺発達の抑 制に、問質脂肪細胞から過剰に分泌されるレプチンが関与していることが示唆された。よっ て、乳腺が適切に発達し泌乳機能を十分に発揮するためには、妊娠前からの「適度な」栄養 状態の維持が必要であることを示している。また、適切な乳腺の発達には適切な脂肪細胞 の機能が必要であることを意味しており、乳腺における問質脂肪細胞の役割を解明する上 でも重要な知見である。

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学位論文 審査の要旨 主査

副査 副査 副査

教 授   木 教 授   昆 教 授   稲 准 教 授  寺

村 和 弘     泰 寛 葉   睦 尾   晶

学 位 論 文 題 名

乳腺発達に及ぼす食餌性肥満の影響:

   脂 肪 細 胞 分 泌因 子 レ プチ ン の 役 割

  乳腺 は生 後に その 形態 と機 能を 大きく発達させる特徴的な組織である。その発達は性ホ ル モン によ り支 配さ れる が、 皮下 脂肪組織内に伸長する乳腺組織は脂肪細胞などの問質組 織 によ って もそ の発 達が 調節 され る。しかし、後者の機構は未だ不明な点が多く、多くの 動物で見られる肥満、っまり脂肪細胞の肥大による乳腺機能阻害の機序も明らかではない。

本 博士 論文 では 肥満 が引 き起 こす 乳腺発達阻害の詳細について調べ、乳腺に韜ける新たな 上 皮 ― 問 質 相 互 作 用 や そ の 機 構 を 明 ら か に す る こ と を 目 的 と し た 。   実験には高脂肪食誘導性肥満マウスと対照マウスを用いた。妊娠前の肥満群乳腺導管は、

対 照群 に比 べて 分枝 が粗 で、 径が 細かった。乳腺導管は本来、二層の上皮細胞、管腔上皮 細 胞と 筋上 皮細 胞か ら構 成さ れる が、肥満群では筋上皮細胞層の一部が欠損し、その周囲 に は1型コラーゲンを始めとした膠原線維が蓄積した。次に妊娠中の乳腺を調べたところ、

対 照群 では 妊娠 前期 に、 導管 周囲 の膠原線維層の分解を伴って、導管側方ヘ側枝が盛んに 出 芽し た。 しか し、 肥満 群で は妊 娠前期に側枝の出芽がほとんど起こらず、中期にようや く 出芽 が見 られ 、妊 娠中 期や 後期 では腺房発達や乳タンパク質発現が遅延した。っまり、

肥 満は 妊娠 前の 乳腺 組織 構造 に影 響を及ぼし、妊娠早期の乳腺発達を遅延させ、この遅れ が泌乳量の減少にっながると推察された。

  脂肪 細胞 分泌 因子 レプ チン は肥 満群で10倍以上分泌が増加し、レプチン受容体は導管を 構 成す る上 皮細 胞と 、導 管周 囲の 線維芽細胞に発現した。レプチン発現アデノウイルスに よ り高 レプ チン 血症 を誘 導し たマ ウスで は乳 腺に1型 コラ ーゲ ンタンパク質が蓄積し、ま た レプ チン はin vi troで も線 維芽 細胞の1型コラーゲン分泌を促進させた。さらにレプチ ン は乳 腺上 皮細 胞の 増殖 を抑 制し た。これらの結果より肥満動物で見られる過剰なレプチ ン は、 乳腺 上皮 細胞 の増 殖阻 害や コラーゲン産生の増加を通じて肥満による乳腺発達抑制 機構の一部を担っていることが示唆された。

  以上のように、本研究は、乳腺に韜ける上皮一問質相互作用機構の新たな一面を明らかに

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したものであり、哺乳動物の生理学に貢献が大である。よって、審査委員一同は、上記博

士論文提出者、上川昭博氏の博士論文は、北海道大学大学院獣医学研究科規程第6 条の規

定による本研究科の行う博士論文の審査等に合格と認めた。

参照

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