北海道医療大学学術リポジトリ
骨格筋の量的変化を制御する細胞内情報伝達機構
著者 森谷 伸樹
学位名 博士(リハビリテーション科学)
学位授与機関 北海道医療大学
学位授与年度 平成30年度 学位授与番号 30110甲第314号
URL http://id.nii.ac.jp/1145/00064733/
平成
30年度 リハビリテーション科学研究科博士課程学位論文要旨
骨格筋の量的変化を制御する細胞内情報伝達機構
生体構造機能・病態解析学分野
学籍番号:15Z-002 氏名:森谷伸樹 (指導教官名:宮﨑充功准教授)
【目的】
理学療法の臨床場面においては患者の骨格筋量の増加が重要である.運動負荷によって骨格筋量の増加を 促すには,タンパク質合成の促進と,筋衛星細胞の増殖が重要と言われている.このタンパク質合成を促進 する分子機構として,mechanistic target of rapamycin (mTOR) を介した細胞内シグナル伝達系の関与が報告さ れている.また,筋衛星細胞は筋線維が損傷したり運動負荷を受けた時などに増殖し,筋細胞と融合して骨 格筋の肥大や再生を促すとされる.運動負荷による骨格筋の肥大適応について,mTORの活性化や筋衛星細 胞の増殖効率の制御機構は不明な点が多く,mTORの上流因子であるAktを介した刺激入力系の関与につい て疑問視する報告も多い.そこで,骨格筋肥大を調節するAkt依存性,非依存性の制御機構について検討す ることを本研究の目的とした.
【方法】
実験にはAkt1 Knock Out (KO) マウス (B6.129P2-Akt1tm1Mbb/J,雌性,14-16週齢) を用い,wild type (WT)
littermatesを対照群として設定した.マウスに対し,骨格筋肥大を誘導するため共働筋切除術による足底筋
への代償性過負荷 (overload: OV) を行った.手術後14日目に足底筋を採取し,偽手術をした対照群との比 較を行った (各群n=6) .各群について体重,足底筋湿重量を分析すると共に,Western blottingにより Akt/mTOR経路の分子の発現量およびリン酸化を,surface sensing of translation (SUnSET) 法によってタンパ ク質合成量を分析した.また,足底筋の筋線維横断面積の分布と平均値,中心核を持つ筋線維数,筋線維あ たりの筋核数,新たに増殖した筋衛星細胞数を免疫組織化学染色法で分析した.各データは二元配置分散分 析で主効果を判定した後,post hoc testとしてTukeyの多重比較検定を実施した.有意水準は5% とした.
本研究は北海道医療大学動物実験委員会の承認 (承認番号第095号; 承認年月日平成28年3月1日および承 認番号第027号; 承認年月日平成29年3月6日) を得て行われた.
【結果】
WT群は,運動負荷により足底筋湿重量が2.2倍,筋線維断面積が1.7倍に増加した (p<0.05) .Akt1 KO 群は,足底筋湿重量が1.9倍,筋線維断面積が1.4倍となったが,増加の効率は一部抑制されていた.すな わち,Akt1の機能が欠損しても運動負荷による骨格筋肥大は起こるが,肥大効率が一部抑制されることが明 らかとなった.また,mTORの下流因子は WT群とAkt1 KO群いずれも運動負荷によってリン酸化が増加し
ており,SUnSET法の結果WT群とAkt1 KO群いずれも運動負荷によってタンパク質合成量が増加していた.
つまり,Akt1の機能が欠損しても運動負荷によるmTOR系の活性化やタンパク質合成の促進が起こること が明らかとなった.中心核を持つ筋線維数はWT群とAkt1 KO群のいずれも運動負荷によって増加した.
WT群とAkt1 KO群の比較では有意差はなかったものの,Akt1 KO群はWT群より中心核を持つ筋線維数が
少ない傾向にあった.筋線維あたりの筋核数および新たに増殖した筋衛星細胞数は,WT群とAkt1 KO群い ずれも著名に増加し,Akt1 KO群では増殖の効率が抑制されていた.
【考察】
Akt1が欠損しても運動負荷によってmTOR系は活性化しタンパク質の合成は促進されていたことから,
運動負荷によるmTOR系の活性化やタンパク質合成の促進はAkt1非依存性の経路が重要であることが示唆 された.しかし,mTOR系が活性化しタンパク質合成が促進されていたにも関わらずAkt1が欠損すると骨 格筋の肥大効率が一部抑制されていた.つまり,Akt1はタンパク質合成系とは異なる要因で骨格筋肥大を制 御することが示唆された.また,Akt1の欠損によって筋衛星細胞増殖の効率が抑制されていたことから,
Akt1は筋衛星細胞の増殖効率を制御することで骨格筋肥大を促進する可能性が示唆された.