Title
マウス骨格筋中のダプトマイシンの定量法開発に関する研
究( 内容と審査の要旨(Summary) )
Author(s)
阪井, 祐介
Report No.(Doctoral
Degree)
博士(薬科学) 連創博甲第44号
Issue Date
2019-03-25
Type
博士論文
Version
ETD
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12099/77970
※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。論文内容の要旨
Daptomycin(DAP)は Streptomyces roseosporus より産生されるリポペプチド抗生物質であり、メチシリ ン耐性黄色ブドウ球菌を含むグラム陽性球菌に対し、速やかかつ濃度依存的な殺菌作用を示す。一方、 DAP 治療における副作用として骨格筋への特異的障害は広く知られており、時として横紋筋融解症など の重篤な転帰をたどることもある。しかし、筋障害の分子作用機序など副作用を起こす要因はほとんど 特定されていない。従って、動物を用いた基礎実験において筋組織へのDAP の浸透や分布の特性、筋障 害のメカニズムを解明することは、DAP 治療の有効性を高めるために重要であり、そのためには骨格筋 中のDAP の正確な定量法が必要である。 これまで、DAP の定量法に関する研究は、血漿または血清中の DAP を対象として、種々の検出器を利 用したHPLC や ultra-HPLC 法等が開発されている。これらの方法はいずれも、血漿や血清を試料マトリ ックスとしており、メタノールやアセトニトリルを用いた除タンパクの後に固相抽出または溶媒抽出を 行い,遠心分離による試料調製処理が行われている。一方、生体組織をマトリックスとしたDAP の研究 は極めて少なく、ラット皮膚を用いた薬物動態試験と粉砕した人骨を用いた臨床試験に限られている。 これらの報告ではホモジナイズした組織を水溶性緩衝液で抽出した後に遠心分離を行い、上澄みをHPLC 分析している。しかし、これらの生体組織中からの抽出の実態について詳細は不明である。実際、我々の 予備実験においてホモジナイズと超音波処理による通常の抽出方法では筋肉組織中からクロマトグラム 上にDAP はほぼ検知できなかった。従って、骨格筋に対する、より効率的な前処理方法の開発は筋組織 中に移行したDAP の定量をより容易かつ正確にすることが期待される。 本研究ではHPLC-UV を用いて、マウス骨格筋中の DAP 定量のための前処理として,トリプシン処理 の有効性を評価した。マウス大腿筋にスパイクしたバンコマイシンはBligh-Dyer 法で水層に 100%抽出す ることができたが、DAP は水層およびクロロホルム層の何れからも抽出回収できず、骨格筋タンパクへ の取り込みが予想された。エンドペプチダーゼであるトリプシンによる酵素処理を行った後、抽出する ことで、マウス大腿筋にスパイクしたDAP を高率で回収できた。最適な処理条件は、150 L のトリプシ 氏 名 ( 本 籍 ) 阪井 祐介(愛知県) 学 位 の 種 類 博 士 (薬科学) 学 位 授 与 番 号 甲第 44 号 学 位 授 与 日 付 平成 31 年 3 月 25 日 専 攻 創薬科学専攻 学 位 論 文 題 目 マウス骨格筋中のダプトマイシンの定量法開発に関する研究
(Development of Quantification Method for Daptomycinin Murine Skeletal Muscles) 学位論文審査委員 (主査)教 授 田 中 稔 幸
ン溶液を使用し、37℃、30 分間の処理時間であった。この方法による再現性は、RSD = 1.55~9.28%(n = 4)であった。このことから骨格筋内で強いタンパク結合をすることが予想された DAP をトリプシンで 処理することで、DAP の構造を壊すことなく完全に回収することができた。次に、DAP を投与した後、 採取したマウス大腿筋を試料として、本法を適用して測定した結果,DAP 100 mg/kg を単回、皮下投与し て2 時間後に採取した大腿筋から、約 3 g/g(muscle)を検出することでき、その再現性も良好であった。 トリプシン処理法を活用した本前処理法は、DAP 治療による筋障害の副作用機構の解明や骨格への薬 物移行の研究など、骨格筋への影響を探求する動物実験において,きわめて有効な分析法であると考え られる。 論文審査結果の要旨 本論文は,マウス骨格筋中のダプトマイシン(DAP)の HPLC 定量法開発における試料前処理法として, トリプシン消化を活用した新規方法を提案したものである.DAP は,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌を含 むグラム陽性球菌に対する殺菌を目的として臨床応用されているリポペプチド抗生物質である.DAP 治療 における副作用として骨格筋への特異的筋障害はよく知られ、時として横紋筋融解症などの重篤な転帰 をたどる場合もあるが,その副作用の要因はほとんど特定されておらず,骨格筋中の DAP の定量法が必 要とされている.しかし,骨格筋中の DAP を抽出する方法は知られておらず,実際,マウス大腿筋にスパ イクした DAP は通常の抽出操作では回収できず、骨格筋タンパクに強く相互作用して取り込まれること を明らかにした.そして,エンドペプチダーゼであるトリプシンによる酵素処理を行った後に抽出する ことで,DAP をマウス大腿筋から高率で回収できることを示し,骨格筋試料に対する前処理法を確立した. 次に、DAP を投与した後、採取したマウス大腿筋を試料として、本前処理法を適用して HPLC-UV 測定し た結果,DAP を単回,皮下投与して 2 時間後に採取したマウス大腿筋から,DAP を検出定量することで き,その再現性も良好であった. 以上,トリプシン処理法を活用した本前処理法は、DAP 治療による筋障害の副作用機構の解明や骨格筋 への薬物移行の研究などの骨格筋への影響を探求する動物実験において,きわめて有効な分析法である と考えられる.今後,この方法を利用した DAP 治療の副作用機序の解明により,DAP 治療の有効性に寄与 するものであり,本論文を博士(薬科学)論文として価値あるものと判定した. 最終試験結果の要旨 阪井祐介氏の学位論文は,骨格筋中のダプトマイシンの定量法開発における骨格筋試料の前処理法 の開発に関する研究成果をまとめ,審査付き論文として公表予定(印刷中)の論文に基づいていること から,本論文が学位論文として完成された内容であることを確認した. また,公聴会において,学位論文の内容に関する事項,すなわち,ダプトマイシンの臨床応用と筋 障害などの副作用の実態,生物試料を用いる分析化学的方法とその特徴,ダプトマイシンの定量法開 発と前処理法などに関して諮問を行った.申請者からは十分な内容の回答が得られたので,博士(薬 科学)の学位に適するものと判断し,最終試験に合格したと判定した. 論文リスト
Hagihara, Hiroshige Mikamo, Bunji Uno, “Feasibility of Trypsin Digestion as a Sample Preparation for Daptomycin Quantification in Murine Skeletal Muscles,” Biol. Pharm. Bull., 42 (2019) in press. [Impact Factor: 1.694]