テトラ(4一メチノレピリジン)ニッケル(皿)
ジチオシアナートとキシレン異性体とで形成 する包接化合物の熱分解
近 藤 一・二 ・佐 藤 隆 司
1.緒 言
テトラ(4一メチルピリジン)ニッケル(皿)ジチオシァナート(以下Ni(4−MePy)4(SCN)te
と記する)は芳香族分子と包接化合物を形成するWerner錯体の代表的な化合物である。この金属錯体をホスト分子とし,P一キシレン, P一ジクロルベンゼンをゲスト分子とする 単結晶の構造は,Belitskus(1)らがHart(2)らのX線解析の結果より明かにした。ついで
Casellatoらは熱分析の結果,この金属錯体が形成する包接化合物はゲスト分子の種類によって次の二種類の構造をとり得ることを報告し(3),赤外吸収スベクトルによる検討も加
えている(4)。
(1)β型,ゲスト/ホストのモル比が最大1.0 (2) t型,ゲスト/ホストのモル比が最大2.0
β型はP一キシレン,17Z一キシレン等をゲスト分子とする正方晶系の結晶であり,γ型は
スチレン,ナフタリン等をゲスト分子とする包接化合物であるが未だその構造は明かにさ れていない。本研究ではこのNi(4−MePy)、(SCN)、をホスト分子としo一キシレン,72z一キシレン,
かキシレンをゲスト分子とする無定形の包接化合物の熱分解をCasellatoらの結晶性の
試料と比較し,o一キシレン包接化合物の特異性を検討した。
2. 実 験 方 法
ホスト分子は0.01Mの塩化ニッケルと0.02Mのチオシアン酸カリウムとの混合水溶
液に,4一メチルピリジンを理論量よりわずか過剰にとり,室温で撹拝しながら徐々にこれ を滴加して作製した。
包接化合物は4一メチルピリジンとゲスト分子との混合液を上記の水溶液に滴加してホ
ストと同様に作製した。
ホスト分子は室温,五酸化リン上で減圧乾燥する。包接化合物は真空中では大部分解離
するため乾燥および保存中はゲスト分子の蒸気が常に試料に接しているようにした。
包接化合物中のゲストの含有量は試料を塩酸で分解後,n一ヘプタンで抽出しガスクロ
マトグラフ法により分離定量した。
X線回折は理学電機製の粉末回折装置により銅管球を用いて粉末法により測定した。
赤外吸収スペクトルは日立製EPI−G,型赤外分光光度計により流動パラフィンに懸濁 して測定した。
示差熱分析(DTA)および熱重量分析(TGA)は真空理工製示差熱天秤を用いて,昇温速 度2.5°/hr,石英製試料ホルダーに試料約60mgをとり空気中で測定した。
3. 実験結果および考察
3−1試料中のゲストの含有量得られた試料は,青白色でホスト分子が最も淡青色でP一キシレン,m一キシレン, o一キ
シレンをゲスト分子とする試料の順に青色を増加している。測定に便用した試料中のゲストの含有量をゲスト/ホストのモル比で表に示している。ゲスト分子の含有量は試料作成 時の条件によって大きく変化するが〃Z一キシレン,P一キシレンをゲスト分子とする包接化 合物は常にゲスト/ホスト
のモル比が1以下であるの
に対し,o一キシレンの試料 では1〜ユ.6である。この含 有量はo一キシレンの試料が
ゲ ス ト
ゲスト/ホストモル比
o一キシレン
1.50
ln一キシレン
0.86
P一キシレン
0.93
γ型でm一キシレン,p一キシレンの試料がβ型の包接化合物の含有量に相当する。しかしな
がらこの含有量の大小は包接化合物の安定性とは直接関係しない。図1に示すように真空中における減量の経時変化はo一キシレンをゲスト分子とする試料が最も急速に分解し,し かもゲスト分子自身の蒸気圧と逆の結果を示している。この原因はア11一キシレンとp一キシ
レンとの差はゲストの立体構造 によるものであり,o一キシレン 1 の特異性はこの分子の分極がホ スト格子の構造に強く影響する
ためと考えられる。単結晶を作㍗ヨじ
製する際の生長速度もまたP一比
キシレンをゲスト分子とすると
き最も早くo一キシレンをゲスト分子とするとき最も遅い。 o 5
3−2.X線回折および赤外吸 10 20 30 40(h.)
収スペクトル 図1.真空中における無定形包接化形合物の室温での減量図
X線回折図は各試料ともほとんど鋭い回折線を示さず,ほとんど結晶化していないこと を示している。図2にo一キシレン,図3に勿一キシレンをゲ スト分子とするX線回折図を示
した。比較のためにクロロホル ム溶液から再結晶させた試料の
回折図も示した。ホスト分子およびp一キシレンの試料もほと
んど7刀一キシレンのものと同様
である。o一キシレンをゲスト 分子とする試料はわずかながら10 −20 20 30
その特異性が見られる。
図2.o一キシレンをゲスト分子とする包接化合物のX線
Casellato等の赤外吸収スベ回折図(棒状の回折線は結晶性試料のもの)
P−Xvlene .
m−xvlene 一
0−xviene ・
■
はメチルピリジンの γC−Hの
810cm 1吸収帯に大きな変化をあたえる,図4に800cm− 付近 の赤外吸収スベクトルを示す。
m一キシレンでは819cm iと812 cm 1とに, p一キシレンでは815 c皿≡1と807c皿一1とに吸収帯が分
裂しているのに対し,o一キシレ ンでは814cm iで分裂していな い。ホストの赤外吸収スペクト
ルはCasellato等ωのものと完 全に一致した。3−3. 熱分解機構
10 一2θ
20
30げ図3.m一キシレンをゲスト分子とする包接化合物のX線
回折図(棒状の図折線は結晶性試料のもの)target Cu・filter Ni.
ホスト分子を構成する配位子4一メチルピリジンの熱分解過程は図5で明らかなように
900
P−x. ylene
800 760 900 800 700 900
図4. 包接化合物の赤外吸収スペクトル
800 700cm−1
次のとおりである。
9甦゜Ni(4.M,P,)、(SCN),1禦5°
Ni(4・MePy)4(SCN)2
(165°・−200°)
(125°−265°)
2塑5°Ni(SCN)、
Ni(4.M,P,)、(SCN),1塑゜°
Ni(4−MePy)2(SCN)2
(2600−3050)
(200°−260°)
()内はCasellato等(3)の温度であるが,各々の分解過程で本研究では10°〜30°程
度,温度が低い。この原因は熱電対の位置等の測定条件の相異によるが,低温側では明かに
<O
←もぷ.二︵山○ざ→︶く↑ρ
Ni(4−MePy)4(SCNT)2
Ni(4−MePy)3(SCN)2
Ni(4−MePy)2(SCN)2
,
,l s
Ni(4−MePy)(SCN)2
; ブ、Ni(SCN)・
/ 1 /
100 200 300℃
図5.ホスト分子の示差熱(DTA.破線)および熱重量分析(TGA.実線)
結晶性の試料と非結晶性との温度差が加えられている。このホスト分子の第一段階の4一メ チルピリジンの解離によってホスト分子は包接化する能力を失なう。
図6にキシレンの3種異性体の包接化合物の分解過程を示す,o一キシレンをゲスト分子 とする試料は40°C付近より減量しはじめ75°Cまでにゲスト/ホストのモル比が約0・6
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50 100 150 ・C
図6.包接化合物の示差熱(DTA.破線)および熱重量分析(TGA.実線)
滅少し,次に残りのo一キシレンがホスト分子の分解の始まる前に全て解離している。DTA の2っの熱吸収ピークがこの分解を明瞭に示している。第一段目の分解は単に吸着等の遊
離のo一キシレンの蒸発によるものではなく,ホスト格子のγ型からβ型への変化による ものと考える。二段目のo一キシレンの解離はβ型からα型(包接化合物を形成していな
いホスト分子の構造)への変化によるものと考えられる。
71z一キシレンをゲスト分子とする試料は50°C付近より減量しはじめ,7・1一キシレンが完
全に解離したのちホスト分子が分解している。この変化はこの包接化合物がγ型格子を形成せず,171一キシレンの解離はβ型(ホスト格子)からα型への変化によるものである。
かキシレンをゲスト分子とする試料は70°C付近より減量し,大部分のP一キシレンの 解離はホスト分子の分解温度に一致する。この結果はキシレン異性体の中でP一キシレン
が最も安定な包接化合物を形成し,キシレン異性体からのP一キシレンの分離に用いられる のはこの安定性によるものと考えられる。
4. 結
論
71z一キシレン, P一キシレンをゲスト分子とするNi(4−MePy)、(SCN),の包接化合物は
無定形でも結晶の試料と同様β型である。これに対しo一キシレンをゲスト分子とする試 料はr型である。これはゲスト分子の含有量,X線回折,赤外吸収スペクトル,熱分解機 構等の諸結果から明らかである。ただし同じβ型の包接化合物であっても,m一キシレン 包接化合物とP一キシレンのそれとは熱分解機構の面から区別する必要があると考えられる。
本研究のデータの中で結晶性試料のX線回折図は著者等の指導にもとずき行なった高崎 岩夫君の卒業研究によるものである。IRの測定は日立製作所那珂工場応用開発課の方々
の御協力による,ここに深謝いたします。
参考文献
1)D.Be]itskus, G. A. Jeffrics, R. K. McMuUan and N. C. Stephenson, hiot g. Che2刀.,
2・873(1963).
2) M・工Hart and N O. S皿mith・」.ん刀. C乃θ〃z. Soc.・84・1816(1962).
3) E Casellato and B, Cesu, Frdol Koh le Erdgas Petroc乃im.,22・71(1969).
4) F.Caselllato and B. Casu, SpectrochiM. Acta,25 A・1407(1969).
5) 、V. D. Schffer, W. S. Dorsey, D. A. Skinner and C. G. Christian,」. Am. C/lem. Soc.