都市河川感潮域における水質変動特性
SPATIAL VARIATION AND TIME VARYING OF WATER QUALITY IN TIDAL AREA OF URBAN RIVER
土木工学専攻3号 浅見龍一 Ryuichi Asami 1. 序論
近年,都市河川は貴重な自然空間として認識され,魅 力的な河川環境の形成のため水質改善が重要視されて いる.しかし都市感潮河川においては合流式下水道に よる未処理水の流入や潮位変動による流速変動など複 雑な水理・水質条件下にあり,河川水質環境の現状の理 解を困難なものとしている.そこで本研究では平水時, 出水時および浚渫前後での水質変動特性の解明を目的 として現地観測および数値解析を行った.
2. 出水時における現地観測 (1) 観測概要
著者は既往の研究より,出水時の水質挙動として① 降雨後に溶存酸素濃度が 0(mg/l)近くまで全層で急激 に低下するケース②大規模降雨後に溶存酸素濃度が 10(mg/l)近くまで全層で急激に上昇するケース③小規 模降雨であるため,ほとんど水質変動がないケースの3 ケースを確認している.本研究では①,②のケースに着 目して日本橋川および神田川において2010年10月30 日~11月6日(連続108時間), 2011年11月4日~11 月17日(連続320時間)の期間に現地観測を行った.
(2) 溶存酸素濃度が上昇するときの水質変動特性 図-1に示す日本橋川6.4KP において観測を行った.
結果を図-2に示す.溶存酸素飽和度に着目すると10月 30日3:00~19:00の降雨(降雨継続時間17時間,総降雨 量58.5mm,最大降雨強度 5.5mm/h)および11月 1日
0:00~7:00 の降雨(降雨継続時間 8 時間,総降雨量
51.5mm,最大降雨強度13.5mm/h)発生後に溶存酸素飽
和度が全層で 90%付近まで上昇している.以上より,溶 存酸素飽和度が急激に上昇する現象の発生条件として 総降雨量の大小による影響が大きい可能性を示した.
(3) 溶存酸素濃度が低下するときの水質変動特性
日本橋川 6.4KP,5.2KP,神田川 7.5KP において観測
を行った.神田川7.5KPにおける結果を図-3に示す.降 雨終了後の溶存酸素飽和度の挙動に着目すると,急激 に溶存酸素飽和度が上昇した後,降雨終了に伴い溶存 酸素飽和度は急激に低下している.また,全層で極めて 値が低い状態が5日間程度継続していることを確認し た. 日本橋川においては6.4KPで溶存酸素飽和度の顕 著な低下は見られなかったことから日本橋川,神田川 では異なる酸素消費機構が存在することを示した.
3. 浚渫前後での水質変化に関する現地観測 (1)観測概要
日本橋川では水辺の魅力を高めることを目的として 船着場が新設されるなど,親水事業が注目されている.
図-1 観測地点,懸案地点,浚渫区間
図-2 日本橋川6.4KPにおける降雨強度, 潮位,流速,溶存酸素飽和度
図-3 神田川7.5KPにおける降雨強度, 潮位,流速,溶存酸素飽和度
そのため,今までよりも「航路」としての日本橋川が重 要視されはじめ,浚渫工事が近年盛んに行われている. そこで,浚渫前後の水質変化に着目して2010年1月2 日~3日(浚渫前大潮時), 1月9日~10日(浚渫前小潮 時),5月9日~10日(浚渫後小潮時),5月31日~6月1 日(浚渫後大潮時), 8月24日~25日(浚渫後大潮時) , 12 月 20 日 ~21 日(浚 渫 後 大 潮 時)に 日 本 橋 川
5.2KP,4.8KPの2地点で浚渫前後の水質変化に関する
現地観測および採水を行った.
(2) 浚渫前後での溶存酸素飽和度の変化
図-4,5,6に大潮時の江戸橋(河口から5.2km)におけ る年間を通した溶存酸素濃度の時間変化を示す.浚渫 前における溶存酸素飽和度の全層での平均値は 43% を示し,4ヶ月後には溶存酸素飽和度の全層での平均値
は 25%を示した.これは浚渫前と比較すると約 20%低
下したことを示している.浚渫工事終了時から9ヶ月後 の溶存酸素飽和度の全層の平均値は約 40%であり,浚 渫前までの値まで回復しているのが分かる.以上より, 延長500mの浚渫では溶存酸素飽和度の向上は見られ ないことを示唆した.図-7 に浚渫前後での BOD,総リ ン,総窒素,濁度の変化を示す.図より,大潮時,小潮時と もに浚渫前後でわずかにリンが増加傾向にあるが,そ れ以外の項目については大きな変化は見られない.特 に,BOD濃度は1.0mg/l~1.5mg/lと低く,日本橋川の環 境基準である C 類を大きく下まわっている.ゆえに,溶 存酸素飽和度が浚渫後4ヶ月後に大きく低下した理由 としては観測時期の気温の差異によるものが大きいと 考えられる.溶存酸素飽和度は飽和量が水温によって 異なり,水温が低いほど多くの酸素が溶けこむことが 知られている.浚渫前の観測は1月に行っており,浚渫4 ヶ月後の観測は5月に行ったことから浚渫前の溶存酸 素飽和度が浚渫後の溶存酸素飽和度よりも高い値とな ったと考える.
4.浚渫による水質向上効果に関する数値解析 (1)計算条件
浚渫延長および浚渫地点の変化が溶存酸素濃度に及 ぼす影響を検証することを目的として一次元の水質解 析を行った. 日本橋川8.6KP,6.4KP,4.3KPを懸案地点 として,3地点の溶存酸素濃度の最低値がボラの生息限 界値である 1.8mg/l以上を同時に満たすときに浚渫の 効果があるとする.水理計算には(1)式,(2)式を用いてお り,濃度拡散については(3)式を用いた.また,酸素過程の 式として(4)式を用いた.ここに Q:流量(m3/s),A:通水面 積 (m3),q:側方流入(m3/s),R:径深(m),α:補正係数,h:水 位(m),n: 粗度係数,C:濃度,D:拡散係数(m2/s),K:線形減 衰係数(1/s),C2:生成/吸収濃度,DO:溶存酸素(mg/l),T:水 温(℃), BOD:生物化学的酸素要求量(mg/l),K2:再曝気係 数(1/日),Cs:溶 存 酸 素 飽和量(mg/l),K3:有 機 物 分解 率 (1/day),θ2,θ3:温 度 補 正 係 数,R20:水 生 生 物 の 呼 吸 率 (gO2/m2/day),P:酸素生産量(gO2/m2/day),B:酸素消費速 度(gO2/m2/day)で あ る. 計 算 領 域 は,隅 田 川 (0~ 40KP)・神田川(0~40KP)・妙正寺川(0~26KP)・
図-5日本橋川5.2KPにおける
潮位,溶存酸素飽和度(浚渫終了から4ヶ月後)
図-7 日本橋川5.2KPにおける 浚渫前後での総リン,総窒素,濁度,BODの変化
図-4日本橋川5.2KPにおける
潮位,溶存酸素飽和度(浚渫前)
図-6日本橋川5.2KPにおける
潮位,溶存酸素飽和度(浚渫終了から9ヶ月後)
江古田川(0~27KP)である.境界条件として上流端に おいて一定流量及び一定濃度を与えており,下流端に おいては水位及び一定濃度を与えている.また 9.5KP 地点及び18KP地点で水再生センターからの放流水が 流入しているため,両地点においても,流量及び濃度を 一定値で与えている.浚渫の定義として浚渫を行った 区間においては酸素消費速度を2.0g/m2/dayとした. (2)浚渫による溶存酸素濃度の改善効果
図-8,9,10 にそれぞれ日本橋川の上流部(8.8KP~
7.2KP),中 流 部(7.2KP~5.6KP),下 流 部(5.6KP~
4.0KP) で 1600m 浚 渫 し た 時 の 日 本 橋 川
8.6KP,6.4KP,4.3KP における計算結果を示す.8.6KP においては上流部および中流部で浚渫したときに溶存
酸素濃度1.8mg/lの基準を満たす.6.4KPにおいては中
流部で浚渫したときのみ基準を満たし,4.3KP では中 流部および下流部で浚渫したときに基準を満たしてい る.以上より,中流部で浚渫したときに全 3 地点で溶存
酸素濃度1.8mg/lを超えることから,中流部で浚渫する
ことが効率的であると考えられる. 5.出水時における水質解析
(1)計算条件
出水時における溶存酸素濃度低下現象の原因を解明 することを目的として数値解析を行った.水理計算お よび濃度拡散については(1),(2),(3)式を用いており,底 泥のBODよび水中のBODを区別して計算することを 考慮し,酸素過程に(5)式を用いた.
ここにBODd3:溶存BOD濃度(mg/l),BODs:浮遊BOD 濃度(mg/l),BODb:堆積BOD濃度(mg/l),Kd3:溶存有機 物分解率(1/day),Ks3:浮遊有機物分解率(1/day),Kb3: 堆積有機物分解率(1/day),θd3,θs3,θb3:温度補正係数で ある.降雨流出の境界条件として落合水再生センター
(神田川 14.8KP)において流量を与えて数値解析を行
った.与えた流量においては降雨流出の基礎式(8.2)を 用いた.
こ こ に q: 単 位 幅 流 量(mm2/h),r: 有 効 降 雨 強 度
(mm/h),m:流出パラメータ(抵抗則),α:流域の流出特
性を表すパラメータ,q*:流出高(mm/h)である.また,フ ァーストフラッシュを考慮して流入量が 50m3/s を超 え,ピーク流量に至るまでをファーストフラッシュと 定義し流入するBOD濃度を200mg/lとした.また,ピー ク流量から 50m3/s を下まわるまでの BOD 濃度を 50mg/lとした.
0
43 2 2
AR Q Q g n x gA h x
A Q t
Q
q C x AKC
AD C x x QC t
AC
2
) (
) ( )
(
20 3 3
20 3 3
2
非日照時 日照時
radiation radiation insolation
dt dT
BOD dt K
dBOD
BOD K DO T C dt K
dDO
T
T s
B P
R T
202 20
(1)
(2) (3)
(4)
B P R
BOD
Kb b b T T
3 3 20 202 20 (5)
) ) (
0 (
a q rt q dt
dq
1 1 1 1 1
0 ( 1)
aL m m Lm
a
1
m
m
(6) (7) (8)
x q Q t
A
(1)
図-8 日本橋川8.6KPにおける浚渫による 溶存酸素濃度の変化
図-9 日本橋川6.4KPにおける浚渫による 溶存酸素濃度の変化
図-10 日本橋川4.3KPにおける浚渫による 溶存酸素濃度の変化
図-11 出水時における溶存酸素濃度,BOD flux, 堆積BODの時系列(神田川7.5KP)
(2) 未処理水の流入とBOD,溶存酸素濃度の関係 最大高強度5.5mm/h,降雨継続時間23時間の降雨が 発生したときの解析結果を図-11 に示す.図より,計算 値は実測値をよく表現しており,下水の未処理水に含 まれる有機物等が日本橋川周辺で堆積し,長期間に渡 り酸素を消費している可能性を示した.図-12に最大高
強度5.5mm/h,降雨継続時間17時間の降雨と最大高強
度13.5mm/h,降雨継続時間8時間の降雨が発生したと
きの解析結果を示す.計算値は実測値を概ねよく示し ている.降雨後の酸素濃度低下が見られない理由とし て,降雨規模が大きいため高いBOD濃度を有する未処 理水が隅田川まで押し流されたためと考えられる.
6.未処理水の流入抑制効果 (1)計算条件
神田川および日本橋川に流入する下水の未処理水は 特に初期段階で河川へ流れ込むファーストフラッシュ において高い BOD 濃度を有していることが知られて いる.ファーストフラッシュの流入量を減じることは 河川への汚水流入を減じることとなり,河川水質の向 上を考える際に有効な対策となりうると考える.そこ で,図-13 に示す様な貯留施設を仮定しファーストフラ ッシュの流量をそれぞれ30m3/s,50m3/s貯留した場合, 未処理水をすべて貯留する場合の3パターンを想定し てシミュレーション計算を行った.
(2) 未処理水の貯留効果に関する解析結果
日本橋川6.4KP地点での溶存酸素濃度,BOD flux,河 川底層の BOD濃度に関する計算結果を図-14 に示す.
降雨終了直後の溶存酸素濃度に着目すると,溶存酸素
濃度が 10mg/l程度まで上昇した後,未処理水をすべて
貯留した場合以外のケースはすべて溶存酸素濃度が
0mg/l近くまで低下しているのが分かる.ここで特筆す
べきはファーストフラッシュの貯留を行わないケース と比較して貯留を行ったケースの溶存酸素濃度の方が 低い値になるということである.貯留を行うことによ り溶存酸素濃度がさらに低下する現象の原因は貯留に よる掃流力の低下であると考えられる.ゆえにBOD負 荷の流入を抑制するだけではなく,河川流速を考慮し て水質改善対策を行う必要があると考える.
7.結論
本研究で得られた知見を以下に示す.
1)溶存酸素濃度が急上昇する現象の発生条件は総降雨 量の大小に起因する可能性を示した.
2)浚渫前の観測から約 1 年後(浚渫終了から 9 ヶ月後)
の溶存酸素飽和度の平均値は,浚渫前での平均値とほ ぼ同程度まで回復していることを示した.
3)浚渫を日本橋川中流部で行うことで効率的に水質改 善を行えることを示した.
4)ファーストフラッシュの流入を制限することにより 溶存酸素濃度が低下することを示した.また,出水時に おける溶存酸素濃度低下現象の対策としてファースト フラッシュを河川に完全に流入させない必要があるこ とを示した.
参考文献
1) 山角康樹,浅見龍一,山田正,井上智夫:都市河川感潮 域における水質の変動特性に関する現地観測 , 土木 学会水工学論文集, Vol55, s-1669,2011
2)呉修一,渡邉暁人,多田直人,山田正:都市河川感潮域 における水質の空間分布特性に関する現地観測, 水工 学論文集,第52巻,pp.1105-1110.2008
図-12 出水時における溶存酸素濃度,BOD flux, 堆積BODの時系列(日本橋川6.4KP)
図-13 貯留施設概念図
図-14 ファーストフラッシュの貯留効果