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利根川感潮域における底質特性の 季節変動について

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(1)水工学論文集,第54巻,2010年2月 水工学論文集,第54巻,2010年2月. 利根川感潮域における底質特性の 季節変動について SEASONAL VARIATION OF BOTTOM SEDIMENT CHARACTERISTICS IN THE TONE RIVER ESTUARY. 小林 侑1・佐々木 努2・石川 忠晴3・箕浦 靖久4 Yu KOBAYASHI, Tsutomu SASAKI, Tadaharu ISHIKAWA and Yasuhisa MINOURA 1学生会員 2非会員. 学(工) 学(工). 東京工業大学大学院 東京工業大学大学院. 修士課程(〒226-8502 横浜市緑区長津田町4259番G5-3) 修士課程(〒226-8502 横浜市緑区長津田町4259番G5-3). 3フェロー 工博 東京工業大学大学院 教授(〒226-8502 横浜市緑区長津田町4259番G5-3) 4学生会員 修(工) 東京工業大学大学院 博士課程(〒226-8502 横浜市緑区長津田町4259番G5-3). A series of field measurement was carried out once in a month from August, 2008 to September, 2009 in order to investigate seasonal variation of sediment characteristics in Tone River Estuary. Grain size distribution was analyzed for about 300 sediment samples collected in the estuary. A result of mode analysis showed that the bottom sediments in the estuary can be decomposed into three particle families; silt, fine sand and coarse sand, each of which is approximated by a log-normal function. Seasonal variation of bottom sediment characteristics was discussed being based on the composition of above mentioned three particle families. Coarse sand was dominant in the estuary after the flood of 8,000m3/s or frequent fully open of the dam gates while the river flow rate is not so large (500 m3/s ~1,000m3/s). After then, the area of silt spread from downstream and the layer of silt became thick. This motion is considered to be caused by the estuary circulation which developed under the small river flow rate. Key Words : estuary, bottom sediment, grain size distribution, mode analysis, field measurement. ることを示している.これらの現地調査はそれぞれ約半 年に及んでいる.しかし,感潮域の底質環境は出水時の 流況のみならず,通年の流量変動によって形成されてい 河川感潮域は河から海への遷移領域である.平常時 ると考えられるため,通年的な底質変化を調べる必要も は入江に近い水理状態であり塩水が遡上し細粒土砂の堆 あると考えられる. 積が促進される.出水時には一方向流れが卓越し,底質 ところで,以前の研究では,細粒分の動態は主に の粗粒化が生じる.その結果,感潮域の底質特性は河川 砂・シルトの便宜的区分(74µm)に基づき論じられた 2) ,3) ,4) の流量に応じて時空間的に大きく変化する. .ところが感潮域の底質の粒度分布は複数のピー 底質は感潮域の水環境と深く関わっている.とりわけ クを持つことがあり,各感潮域固有の“粒子群”の組み 細粒分は栄養塩や有機物のキャリアとなり,また貧酸素 合わせである可能性がある.宇野ら 5)は干潟の底質につ 水塊の形成 1)など水質に与える影響も大きい.そのため, いてその粒度組成から 2 つの粒子群に分けて動態を解析 感潮域の環境を理解する上で底質特性の変化を把握する している. ことは重要である. そこで本研究では,利根川感潮域において,1年間に 鈴木ら 2)は利根川感潮域での観測から,出水後に底質 わたって河道縦断的な底質調査を実施し,出水時・平水 が粗粒化した後に,細粒分が下流から堆積していくこと 時を通して底質動態の把握を試みた.また粒度分布を 3) を示唆している.川西ら は太田川放水路で出水後に細 モード解析することにより,底質を構成する複数の粒子 粒分が下流に輸送され,それが潮汐作用で回帰すること 群の割合の変化をもとに,底質特性の季節変化を考察し 4) を示している.また横山ら は筑後川感潮域で出水後に た.また鈴木ら2)のデータを再解析し,底質変動に対す 軟泥がフラッシュされ,その浸食量が出水規模に依存す る出水規模の影響を調べた. 1. はじめに. - 679 -.

(2) 河床高 [YPm]. 6. 河口堰 (18.5KP). N. 18KP. 16KP. 3 0 -3 -6. 16KP. 太平洋. 0. 200. 400 600 左岸からの距離 [m]. 14KP. 800. 1000. 図-2 16KPにおける河道断面図(平成11年測量) 12KP. 水深 [m]. 0 10KP 8KP 6KP. 5km. 0. 5 0. 10. 5. 18. 4KP. 20 25 [psu] 10 15 20. 14. 2KP. 6. 2 6). 図-1 利根川感潮域の平面図. 図-3 平水時の塩分縦断分布(1996年9月13日:鈴木ら ). 2008年. 4000. ①. ②. ③. ④. 40. ⑤. 3000. 30. 2000. 20. 1000. 10. 0. 0. 5/1. 7/1. 8/1. 9/1. 10/1. 11/1. 12/1. 2009年. 4000. 流量 [m 3 /s]. 6/1 ⑥. ⑦. ⑨. ⑧. ⑪. ⑩. ⑭. ⑬. ⑫. 40. 3000. 30. 2000. 20. 1000. 10. 0. 塩分 [psu]. 流量 [m 3 /s]. 10 河口からの距離 [km]. 塩分 [psu]. :採泥地点. 0 1/1. 2/1. 3/1. 4/1. 5/1. 6/1. :布川流量. 7/1. :16.5KP底層塩分. 8/1. 9/1. :堰が全開された期間. 図-4 2008-2009年の観測期間における布川流量,16.5KP底層塩分濃度の時系列. となり塩水楔は下流に後退する.. 2.現地調査の概要 (1) 対象水域 図-1 に対象水域を示す.調査区間は 2KP~18KP まで の 16km の区間である. “KP”は河口からの縦断距離を 示す.河道は概ね直線的で,大きな蛇行部はない.図-2 に代表的な断面を示す.地形データは国土交通省に提供 して頂いた.堤防法線間距離は約 1,000m,低水路は幅 約 600m,水深約 5m の典型的複断面である.なお河床 勾配は 1 万分の 1 以下でほぼ水平である. 18.5KPの位置に河口堰が建設されている.河口堰は塩 害防止と新規利水開発を可能にするが,堰下流域の流動 性を低下させるため,図-3に示すように塩淡二層状態が 強められる.河口堰の開閉操作は堰上流の流量と潮位に 依存している.平水時には,堰下流側の水位が高い時に 全閉,低い時に半開になる.鈴木らの現地観測6)によれ ば,平水時には塩水楔は河口堰近傍まで遡上し停滞して いることが多い.流量が約250m3/sを超えると堰は全開. (2) 調査期間の流況 底質調査は 2008 年 8 月~2009 年 9 月の約 1 年間にわ たって 14 回実施された.図-4 に調査期間中の日平均流 量(布川地点:76.5KP)および堰から 2km 下流に当たる 16.5KP の底層塩分の時系列を示す.図中の①~⑭は各 調査日を示し,黄色で示す期間には堰が全開操作が行わ れていた.流量データは国土交通省,底層塩分および堰 操作データは水資源機構に提供して頂いた. 2008 年の夏から秋にかけて,ピーク流量が 1,000 m3/s 程度の出水が数回生じ,またピーク流量 3,700m3/s の出 水が 8 月の終わりに発生した.この期間は約 1 ヶ月半に わたり堰が全開となり,塩水楔は下流に後退していた. なお,利根川下流河道の計画流量は 9,500m3/s であるの で,この規模の出水は比較的頻繁に生じ得る. 2008 年秋から 2009 年の夏までは大きな出水はなく, 堰の全開操作もほとんどなかった.16.5KP の底層塩分 は概ね 20psu 以上であり,塩水楔がほとんど河口堰付近. - 680 -.

(3) 100. (b). 20 80. 25. (c). 80 20. 20. 60. 60. 60. 15. 40. 10 40. 40 10. 10. 20. 20. 20. 5. 0. 00. 00. 0. 100 25 80 20. (d). 80 60 40 20. 0 0.1. 1. 10. 100. 粒径 [μm]. 1000. 25 100 20 80. (e). 25. (f). 20. 60 15 40 10. 15 60 10 40. 15. 520 00. 520 00. 5. 0.1. 1. 10. 100. 1000. 10. 成分頻度[%]. 累加百分率 [%]. 100. 100. (a). 80. 成分頻度[%]. 累加百分率 [%]. 100. 0 0.1. 1. 粒径 [μm]. 10. 100. 1000. 粒径 [μm]. 図-5 利根川感潮域における代表的な粒度分布 25. 4. 頻度. 各成分の幾何標準偏差. 20 3. 15 10 5. 0. 2. 100 0 10 1020 2030 3040 4050 5060 60707080 8090 90100. 配合割合 [%]. 1. 図-7 シルト第一成分の配合割合. :シルト第一成分. × :シルト第二成分. 粒径100µm程度の細砂と(a)の細粒分が重合した状態,(c) は中央粒径200µm程度の砂が単独で現れる状態,(d)は(a) 0.1 1 10 100 1000 と(c)の複合,(e)と(f)は3種類以上の成分が重なっている 各成分のモード値 [μm] 状態のようにみえる.以上の結果は利根川感潮域におけ 図-6 多成分モデルの適用結果(細粒分のみ) る底質が複数の“粒子群”の組み合わせである可能性を まで達していたと考えられる.2009 年夏にはピーク流 示している.そこで本研究では,次に述べるモード解析 量 2,600m3/s の出水が生じたが,これ以外に大きな出水 により,粒子群の特性と構成比の変化を調べることによ はなく,2008 年と比較して流量は全体的に少なかった. り底質特性の動態を考察することとした. 0. (3) 調査方法 底質調査は 2KP~18KP 区間の澪筋において 2km ごと に実施された.この水域では観測用標識の常時設置は認 められていないため,採泥地点の緯度経度を予め調べて おき,現地では DGPS(Trimble 製:TSC1)を用いて各採 泥地点に移動した.採泥にはエクマンバージ採泥器(離 合社製:5141-BW)を用い,また多項目水質計(JFE ア レック製:AAQ1182)を用いて塩分の鉛直分布を計測し た.底質採取厚さは約 5cm で,その表層 1cm 程度の粒 度分布を計測した.なお底質が層を成している場合は層 ごとに分けて分析した.粒度分析にはレーザー回折式粒 度分析装置(島津製作所製:SALD-3000)を用いた.な お本論文では表層底質の分析結果についてのみ述べる.. 3.粒度分布解析 (1) 利根川感潮域の底質 約300のサンプルを分析したところ,類似したパター ンが見られた.図-5に代表的な粒度分布形を示す.(a)は 粒度の幅が大きく細粒分が卓越している状態,(b)は中央. (2) モード解析 宇野ら 5)は四国の干潟における底質の粒度分布が細粒 と粗粒の 2 つのピークを持つことと,各粒子群の粒度分 布が対数正規分布に従うことを示した. 前述したように,利根川感潮域の底質は 3 つ以上の 粒子群で構成されている可能性があることから,本研究 では,宇野らの手法を次式(1)のように N 個の粒子群を 含む多成分モデルへと拡張した. N. f D dD   i i 1. 1 log  i. 2    log D  log Di   exp  d log D  (1) 2 2 log    2 i  . ここに,Di, σi, αi は第 i 成分のモード径,幾何標準偏差, 成分割合であり,最小二乗法を用いて決定される.N は 近似に用いる粒子群数である.以下では,この手法を 「多成分モデル」と呼ぶ.なお N を 2 とすると宇野ら の手法となる. ところで図-5(a)に示した細粒成分は利根川感潮域に 頻繁に現れ,その粒度分布曲線も概ね同形であることか ら,ひとつの粒子群であると考えられる.ただし粒度分 布曲線はやや非対称であり,1 つの対数正規分布で近似 できない.そこでまず,細粒分のみの多数のサンプルに. - 681 -.

(4) 対して上記のモデル式を適用したところ,概ね 2 つの対 数正規分布で近似できることがわかった.各々の中央粒 径と幾何標準偏差を求めたところ図-6 に示す結果を得 た.図-7 は図-6 のシルト第一成分割合の頻度分布を示 し,60%~90%の範囲に概ねかたまっている.すなわち, どの粒径分布も,ほとんど同一の 2 つの対数正規分布で 表現される.そこで各々の分布のパラメータの平均値を 採用し,D1=7.90[m] ,D2=36.27[m] , 1=3.30[m] , 2=1.79[m] と し た . ま た 成 分 割 合 は 1=74.97[%] , 2=25.03[%]として細粒分の粒度分布を表現することと した.以下,この粒子群を「シルト成分」と呼ぶ. 以上の準備の後に,式(1)をすべての底質サンプルに 適用したところ,各サンプルの中央粒径と幾何標準偏差 として図-8 に示す結果を得た.シルト第一成分とシル ト第二成分は先ほど求めた値である.したがって,利根 川感潮域の底質はシルト成分のほかに,中央粒径 100µm 程度の砂分(緑)と中央粒径 200µm 程度の砂分(赤) から構成される.以下では便宜的に前者を「細砂成分」 , 後者を「粗砂成分」と呼ぶことにする. 図-9に式(1)による近似曲線と実際の粒度分布を比較す る.なお図-8によれば,細砂成分と粗砂成分の境目 (150µm程度)は必ずしも明確ではない.しかし,(e)お よび(f)が以上の3成分により良好に近似される上,シル. 各成分の幾何標準偏差. 4. 3. 2. :シルト第一成分. ×:シルト第二成分 ×:細砂成分 ×:粗砂成分. 1. 0 0.1. 1. 10. 100. 1000. 各成分のモード値 [μm]. 成分頻度[%]. 図-8 多成分モデルの適用結果(全サンプル) 25 20. ト成分と粗砂成分はそれぞれ単独で現れ得るのに対し, 細砂成分は必ずシルト成分とともに現れることから,細 砂成分と粗砂成分は起源が異なる可能性があると考え, 本研究では別の成分として取り扱うこととした.. 4.底質特性の季節変化とその考察 (1) 2008-2009年の結果 図-10 に多成分モデルにより求められた粒子群の構成 割合の縦断分布を,観測日ごとに示す. ①と②は 2008 年 8 月から 9 月にかけて流量が大き かった期間の調査結果であり,感潮域の上流域で粗砂成 分が卓越した.①と②の間に 3,700 m3/s の出水が生じた が,粗砂成分の卓越範囲には大きな変化は見られない. ③~⑤に示す調査結果から,細粒化が下流側から徐々 に進行してきた様子が伺える.⑤の調査の時点で,シル ト成分は感潮域の全域にわたって堆積した.10 月上旬 には 16.5KP の底層塩分は概ね 20psu 以上であり,塩水 楔が河口堰近傍まで遡上し停滞していたことから,シル ト成分の堆積は塩水楔の停滞によると考えられる. ⑥~⑬では感潮域全体でシルト成分が卓越していた. 2008 年冬から 2009 年夏にかけては 500m3/s 以上の流量 は一度だけであった.このことから,非出水期にはシル ト成分の堆積が進行しているものと考えられる. ⑭は2009年8月に生じた2,600 m3/sの出水から1ヶ月後 の調査結果である.2008年と同様に感潮域の上流域で粗 砂成分が現れる傾向が見られるが,その割合は2008年に 比べて小さい.2009年夏は利根川流域の降雨が少なかっ たため,2008年と比べて流量が全体的に小さく,また河 口堰が全開となった期間も短かったためであると考えら れる. ところで,2008年は1,000m3/s程度の洪水で粗粒化して いる(①).その前は計測していないので定かではない が,2008年は5月に1,300m3/sの洪水が生じ20日間ほど堰 が全開となり,その後も500~1,000m3/sの洪水が度々生. (a). (b). (c). (d). (e). (f). 15 10 5. 成分頻度[%]. 0 25 20 15 10. 5 0 0.1. 1. 10. 100. 粒径 [μm]. 1000. 0.1. 1. 10. 100. 1000. 0.1. 粒径 [μm]. :シルト. 10. 100. 1000. 粒径 [μm]. :細砂. 図-9 多成分モデルによる近似曲線と粒度分布の比較. - 682 -. 1. :粗砂. :近似曲線.

(5) 割合[%]. 100. ①2008/ 8/25. 100. 50. 割合[%] 割合[%]. 100. 割合[%]. 0. ⑦ 2/27. 100. 50. 50. 50. 0. 0. 0. 100. ③ 10/30. 100. 50. 100. ⑧ 3/25. 100. ⑨ 4/27. 100. 50. 50. 50. 0. 0. 0. 100. ⑤ 12/16. 100. 50. 50. 0. 0. ⑬ 8/2. 0. 0 100. ⑫ 7/17. 50. 50. ④ 11/12. ⑪ 6/15. 50. 0. ② 9/24. 0. 割合[%]. 100. 50. 0 100. ⑥ 2009/1/23. ⑭ 9/5. 18. ⑩ 5/20. 16. 14. 12. 10. 4. 6. 8. 2. 採泥地点 [KP]. : シルト : 細砂. 16. 18. 14. 12. 10. 4. 6. 8. 18. 2. 16. 採泥地点 [KP]. 14. 12. 10. 6. 8. 4. : 粗砂. 2. 採泥地点 [KP]. 図-10 2008-2009年の各粒子群の構成割合の変化 ③. 40. ⑤. ④. 30. 4000. 20. 2000. 10 0. 0 2001/6/1. 7/1. 8/1. 9/1 10/1 :布川流量. 11/1 12/1 :16.5KP底層塩分. 2002/1/1 2/1 :堰が全開された期間. 割合[%]. 図-11 2001-2002 年の観測期間における布川流量,16.5KP 底層塩分濃度の時系列. 100. ① 2001/8/29 100. 50. 50. 割合[%]. 0 100. 0. ② 10/9 100. 50. ⑤2002/ 2/8. 50. 0 100. ④ 12/29. 0. ③ 11/12. 18 16.5 16. 15. 14. 12. 10. 8. 採泥地点 [KP]. 50. : シルト : 細砂. 0 18 16.5 16. 15. 14. 12. 10. 8. 6. 4. 2. 採泥地点 [KP]. 図-12 2001-2002 年の各粒子群の構成割合の変化. - 683 -. : 粗砂. 6. 4. 2. 塩分 [psu]. ②. ①. 6000. 割合[%]. 流量 [m 3 /s]. 8000.

(6) じていることから,シルト成分の層が徐々に削られ粗粒 化していたのではないかと考えられる.一方で2009年8 月の洪水以前は小流量期間が長く,塩水楔が停滞してシ ルト成分が厚く堆積していたために⑭であまり粗粒化し なかったと推測される.これは単発的な洪水(3,000m3/s 程度)では底質はあまり変化しないが,堰が断続的に全 開になると粗粒化しやすいと考えられる.. よって構成され,それらは対数正規分布曲線によって近 似される. (2) 降水量の多い夏から秋にかけては粗砂成分の割合 が増加し,冬から翌年の夏にかけて降水量が少ない期間 にはシルト成分が回帰し,その厚さは徐々に増加する. シルト成分はエスチュアリー循環によって下流側から輸 送されると考えられる. (3) 塩水楔の停滞によりシルト被覆が厚くなった状況 (2) 2001年の結果 では,単発的な 2,000~4,000 m3/s 規模の出水では底質は 3 今回の観測期間中の最大流量は 3,700 m /s であったが, 変化しない.一方,堰が頻繁に全開操作されると河床表 2001 年にはピーク流量 8,300 m3/s の洪水が生じている 2). 層のシルト成分は徐々に剥がされ,底質は粗粒化する. そこで,2001 年に得られた粒度分布データに多成分モ しかし 8,000 m3/s 規模の出水になると短時間のうちに感 デルを適用し,洪水規模の違いによる影響を調べた. 潮域全域にわたって底質の粗粒化が生じる. この底質調査は 2001 年 8 月~2002 年 2 月の約半年に 今回の現地観測では河川最深部における採泥を中心と わたり 5 回実施された.図-11 に調査期間中の日平均流 して行ったため,河川横断的な底質特性の変化について 量および 16.5KP の底層塩分を示す.図中の①~⑤は各 は検討できていない.今後は河川横断的な採泥も定期的 調査日を表している.調査期間中に 3 回の洪水が生じた. に行ってデータ数を増やし,空間的な底質特性の変化を 1 回目は 8 月下旬に生じピーク流量は 3,400 m3/s,2 回目 詳細に調べていきたいと考えている. は 9 月上旬でピーク流量 8,300 m3/s,3 回目は 10 月上旬 謝辞:本研究を行うにあたり,国土交通省関東地方整備 でピーク流量 2,600 m3/s である. 局利根川下流河川事務所,独立行政法人水資源機構利根 図-12 に 2001-2002 年における粒子群の構成割合の縦 川河口堰管理事務所ならびに中利根漁業協同組合に多大 断分布を観測日ごとに示す.①は 3,000 m3/s 規模の洪水 の便宜をはかっていただいた.また本研究は日本学術振 後だが全域でシルト成分が卓越し,粗粒化は生じていな 興会科学研究費補助金及び河川整備基金の補助を受けて い.この理由として,出水前に小流量が継続し塩水楔が いる.記して謝意を表する. 停滞していたことが挙げられる. しかし,8,300m3/s の洪水後の②では,感潮域の全域 参考文献 に渡って粗砂成分が卓越した.すなわち,この規模の洪 1) 鈴木伴征,石川忠晴,銭新,工藤健太郎,大作和弘:利根川 水は十分大きな掃流力を発生し,底質の状態を大きく変 河口堰下流部における貧酸素水塊の発生と流動,水環境学会 化させることを示唆している. 誌,第23巻,第10号,pp.624-637,2000. ③~⑤は流量の小さい期間であり,徐々にシルト成分 2) 鈴木伴征,大作和弘,石川忠晴:洪水に伴う利根川感潮域の が増加しているが,⑤(出水の5ヶ月後)の時点でも上 底質変化,河川技術論文集,第9巻,pp.265-268,2003. 流域で粗砂が見られる.2001年は11月下旬まで断続的に 3) 川西澄,筒井孝典,中村智史,西牧均:太田川放水路におけ 堰が全開操作され,塩水楔が遡上・停滞したのはそれ以 る土砂動態と底質変動,海岸工学論文集,第52巻,pp.906降であり,シルト成分の回帰が遅かったためと考えられ 910,2005. る.また,2008-2009年と同様に下流側からシルト成分 4) 横山勝英,山本浩一,一寸木朊也:筑後川感潮河道における が増加していく傾向が見られる.利根川感潮域において 地形・底質の季節変動に関する研究,海岸工学論文集,第53 では比較的強いエスチュアリー循環の生じることが示さ 巻,pp.471-475,2006. れており7),これによりシルト成分が上流側に輸送され, 5) 宇野宏司,中野晋,亘隆史:四国周辺の干潟における稀少種 下流側から徐々に堆積していくものと考えられる. 「シオマネキ」の生息地適性評価,海洋開発論文集,第18巻, pp.185-190,2002.. 5.まとめ. 6) 鈴木伴征,若岡圭子,石川忠晴:利根川河口堰下流部におけ る嫌気水塊の運動について,水工学論文集,第42巻,. 本研究では,利根川感潮域を対象として 1 年にわた る連続的な底質調査を行い,モード解析を用いて底質特 性の季節変動について考察した.その結果,以下のよう な知見を得た. (1) 利根川感潮域の底質は,その粒度分布がシルト成 分,細砂成分,粗砂成分の 3 つの粒子群の組み合わせに. pp.769-774,1998. 7) 鈴木伴征,石川忠晴,横山勝英:河川感潮域におけるエス. - 684 -. チュアリー循環の現地計測と数値計算,河川技術論文集,第 9巻,pp.259-264,2003. (2009.9.30 受付).

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