極北地域における毛皮革の利用と技術
著者 齋藤 玲子
雑誌名 北海道立北方民族博物館研究紀要
巻 7
ページ 69‑92
発行年 1998‑03‑24
URL http://hdl.handle.net/10502/5620
北海道立北方 民族 博物館研究紀要 第7号(1998.3)
極 北地 域 にお ける毛皮革 の利用 と技術
齋 藤 玲 子*
Use of Fur and Leather in the Arctic
Reiko SAITO
Animal skin is an important material for the arctic people, for it is not only easily obtainable but has superb qualities in insulation and durability which allows it to be used for various materials essential for living in severe conditions of the north. For example it is used to make clothing, bags, tents, bedding, kayaks, thongs and nets.
The availability of animal species varied for each environment.
The most important, readily available and useful skins in the arctic can be said to be reindeer and seal skins. Regional characteristics are found from the use of fishskins by peoples especially dependent on river fishing, and birdskins for islanders and coastal peoples. On the other hand a diversity in the use of skins can be seen as in the use of dog skins by some ethnic groups such as Nivkhi, Koryak and Chukchi. Also, ermine skins and seal pup's fur dyed red are used as tassels for ceremonial clothing shows special use. Animals with fur of high quality such as canidae and mustelidae were important for adorning clothing as well as trading.
By surveying the relation between the traits of each skin and its use, this presentation would like to reconsider how the arctic people made the best use of the available animal resources to adapt to life in such severe conditions.
Animal skin is very sensitive to humidity and temperature, causing special dressing and treatment necessity. Therefore skin dressing can be said to have been a daily work especially among the
.北海道立北方民族博物館学芸員'
キ ー ワ ー ド 北 方 民 族 、 動 物 皮 、 製 革 、 靱 め し 、 ス ク レイ パ ー
Key Words Northern Peoples, Animal skin, Skin dressing, Tanning, Scraper
齋藤 極北地域 における毛皮革 の利用 と技術
northern peoples. However, it can not be said that under colder environment, higher techniques of skin dressing developed, for there was great diversity on the methods used, depending on the type of
animal, its usage and seasonality. There are some investigations on ethnic migration and cultural diffusions through the study of skin dressing processes. Taking into account of these investigations, this presentations would like to make a distinction between the arctic forms by comparing the skin dressing methods between the northern tundra and boreal forests of the arctic. Finally, though vegetation was poor in the tundra, I would like to suggest some of the important roles it played on tanning animal skins.
本 論 は 、 爾 北 方 文化 振 興 協 会 主 催 の第9回 北 方 民 族 文 化 シ ンポ ジ ウ ム 「 ツ ン ドラ 地 域 の 人 と文 化 」 に お い て 発 表 した 、 同題 の も の[SAITO 1994]を ご 批 判 い た だ き 、 さ らに 論 を深 め る べ く、 若 干 の 補 足 を加 えて 日本 語 で 発 表 す る こ と と した もの で あ る。
は じ め に
極 北 地 域 に お い て 、 動 物 の皮 は 、 最 も重 要 な 素 材 の 一 つ とい え 、 比 較 的入 手 しや す い ば か りで は な く、 さ ま ざま な 特 長 を も って い る。 毛 皮 革 は保 温 性 ・防水 性 ・強 度 と可 塑 性 を 兼 ね 備 え て お り、 北 方 の厳 しい 環 境 に あ っ た さ ま ざま な も の を 作 る た め に利 用 され て き た 。 例 え ば 、 衣 類 、 袋 類 、 テ ン ト用 覆 い 、 寝 具 、 船 の 材 料 の ほ か 、 綱 ・網 な どや 、 バ ケ ツ ・柄 杓 で さ え も皮 革 で 作 っ た 。 これ らは木 器 ・石 器 ・土 器 よ りも軽 く 、移 動 生 活 に も適 した も の で あ る。 特 に 、 北 方 針 葉 樹 林 帯 に特 徴 的 な船 が 白樺 製 で あ っ た の に対 し、 ツ ン ド ラ地 域 の特 徴 的 な 船 は ウ ミ ア ックや カ ヤ ック とい っ た皮 船 で あ る。 皮 船 や テ ン トの材 料 に は 、 衣 類 な どに 比 べ て 大 量 の毛 皮 革 素 材 が必 要 と な る 。
比 較 的 容 易 に 入 手 で き 、 最 も利 用 され て き た 重 要 な皮 の 種 類 は、 トナ カイ を は じめ とす る シ カ 類 とア ザ ラ シ類 の もの とい え る。 しか し、 極 北 地 域 の な か で も環 境 に よ っ て 利 用 可 能 な 動 物 種 の構 成 に は違 い が み られ 、 毛 皮 革 の利 用 文 化 に 地 域 的 な特 徴 を与 え て い る 。例 え ば 、 島嘆 部 や 海 岸 に住 む 民 族 に よ る鳥 皮 や 、漁 携 民 に お け る魚 皮 利 用 な どか らは 、 よ り 地 域 差 が 明確 で あ る。 ニ ブ フや コ リヤ ー ク、 チ ュ クチ な ど、 民 族 に よ っ て はイ ヌ の 毛 皮 革
も 多 用 され る 。 ま た 、 赤 く染 め られ た ア ザ ラ シ幼 獣 の毛 や 、 オ コ ジ ョの 白い 冬 毛 な ど、特 定 の 動 物 の皮 を 儀 礼 具 や 特 別 の衣 類 に 用 い る例 な ど も あ る 。 さ らに、 上 質 の毛 皮 を持 つ イ
ヌ 科 や イ タ チ科 の 動 物 な どは 、 衣 服 の 装 飾 や 交 易 品 と して 重 要 な 役 割 を 担 っ て い た 。
こ こ で は、 まず い くつ か の 地 域 の皮 利 用 の 事 例 を と りあ げ 、 動 物 の 種 類 とそ の皮 の 性
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質 ・用 途 につ い て 概 観 し、 環 境 との 関 わ りを 述 べ た い 。
さ らに 、温 度 や 湿 度 に 敏 感 な動 物 の皮 は加 工 処 理 が 必 要 で あ り、 それ らの 製 品 は使 用 に 際 して も手 入 れ を必 要 とす る も の が 多 い こ とか ら、皮 を加 工 す る技 術 、 つ ま り製 革 技 術 は 寒 冷 な 地 域 に お い て は 必 要 不 可 欠 な 技 術 で 、 極 め て 日常 的 な 作 業 の 一 つ で あ っ た 。 しか し、 寒 冷 な地 域 ほ ど製 革 方 法 に お い て 高 度 な 技 術 が発 達 して い る とい うわ けで は な く、 使 用 す る動 物 の種 類 、 用 途 、 使 う季 節 な どに よ り、 製 革 の 方 法 に も多 様 性 が み られ る 。 す で に北 方 民 族 の製 革 の工 程 を 広 範 に 比 較 検 討 し、 民 族 移 動 や 技 術 の伝 播 ・文化 領 域 な ど を考 察 した い くっ か の 論 著 が あ る。 そ れ らの主 要 な 論 点 は 、 パ レオ ア ジ ア 系 民 族 や エ ス キ モ ー 文 化 に 古 くて 単 純 な製 革 技 術 がみ られ 、 後 に ツ ン グ ー ス 系 民 族 の 上 質 な 毛 皮 革 製 品 を 作 る 複 雑 な 技 術 が そ の 上 を 北 東 へ と伝 わ り覆 っ て き た と い う も の で あ る[佐 々 木1992;
HATT 1969]。 これ ら の研 究 をふ ま え な が ら、 特 に ツ ン ドラ と北 方 針 葉 樹 林 帯 を比 較 し、
極 北 地 域 の特 徴 を考 え て み た い 。
最 後 に 、 薄 弱 な 植 生 を もつ 極 北 地 域 で は あ るが 、 動 物 の 毛 皮 革 の 処 理 に お け る植 物 利 用 の重 要 性 を指 摘 した い 。
1.動 物 の 種 類 ・部 位 別 の 特 徴 と利 用
入 手 で き る動 物 の 種 類 は 、 そ の地 域 の 自然 環 境 と生 業 に よ っ て 大 き く左 右 され る 。 ツ ン ドラ とい う最 も寒 冷 な気 候 帯 にお い て は 、 動 物 の 種 類 は 少 な く、 しか も季 節 移 動 を と もな う種 も 多 い た め 、1年 を 通 し て 多 種 の 動 物 を獲 得 で き る わ け で は な い 。 隣 接 す る 地 域 で も 、 島 嘆 部 と本 土 、 東 海 岸 と西 岸 とで は狩 猟 対 象 の動 物 の 種 が 異 な る な ど、 利 用 す る 動 物 は少 な か らず 変 化 を伴 っ て い る。 ま た 、 特 に 毛 皮 革 を衣 類 に利 用 す る場 合 は 、 同 じ民 族 グ ル ー プ 内 で も 、性 別 や 年 齢 に よ っ て利 用 す る 動 物 の種 類 が 異 な る こ とが あ る。 例 え ば 子 ど もや 女性 に は 、幼 獣 の 皮 や 鳥 皮 な ど、 耐 久 性 は な い が 柔 ら か な 素材 を使 う とい っ た事 例 が み られ る。
基 本 的 に は 、 そ の 地 域 で 得 られ る動 物 を巧 み に組 み 合 わ せ て さ ま ざ ま な もの を作 っ た り 身 に着 け た り して い る が 、 地 元 で 得 る こ とが 困 難 な必 需 素 材 は 民 族 ・地 域 間 の 交 易 に よ っ て 入 手 して い た 。代 表 的 な例 と して 、 海 岸 で海 獣 狩 猟 を す る グル ー プ と内 陸 で トナ カ イ 飼 育 をす る グル ー プ で 互 い の 産 物 の交 換 が 行 わ れ る。 これ はチ ュ ク チ や コ リヤ ー ク で特 に 顕 著 で あ る。
さて 、 多 くの 民 族 誌 か ら も極 北 地 域 にお け る最 も重 要 な 毛 皮 革 を もつ 動 物 は トナ カ イ で
あ り、 次 に重 要 な も の は ア ザ ラ シ類 とい え る 。 グ ドモ ン ド ・ハ ッ トは極 北 の 衣 類 の素 材 と
して 、 トナ カ イ 皮 に次 い で魚 や 鳥 の皮 が 重 要 だ った と述 べ て い るが 、 衣 類 以 外 の用 途 も考
慮 す る と、 防 寒 ・防 水 ・耐 久 性 の面 か らア ザ ラ シ の重 要 性 の方 が 高 い と考 え られ る 。
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以 下 、 代 表 的 な種 につ い て 個 別 に そ の 用 途 を み て い き た い 。
1)ト ナ カ イ(北 米 で は カ リブ ー)の 毛 皮 は 、 冬 用 の衣 服 と して どの 地 域 で も欠 か せ な い も の で あ り、 一 般 的 に は 冬 毛 の成 獣 の も の が用 い られ た 。 しか し、 同 じ トナ カ イ で も年 齢 や 屠 殺 した 季 節 に よ っ て皮 の 性 質 や 毛 の 密 度 な どが 異 な る の で 、 柔 らか い 幼 獣 の 毛 を子 ど も の衣 服 に用 い た り、 夏 の 皮 を夏 用 衣 類 に利 用 す る な ど、使 い 分 け の 事 例 も知 られ て い る。 ま た 、 同 じ トナ カ イ の 毛 皮 革 で も部 位 に よ っ て 性 質 が違 うた め利 用 法 は異 な り、 例 え ば ズ ボ ン ・脚 絆 や ブ ー ツ は脚 の 皮 で 作 る とい っ た こ とが 知 られ 、 脚 の 毛 皮 に は雪 が つ き に
くい な どの 利 点 か ら、 毛 皮 革 の 性 質 と合 致 した用 い 方 で あ る とい え る 。
ツ ン ドラの 寒 冷 な 気 候 の も とで は 、 除 毛 した革 つ ま り レザ ー は さ ほ ど重 要 な役 割 を 占 め て い な い が 、 北 方 針 葉 樹 林 帯 で は 、 他 の シ カ 類 の皮 と同 様 に 、衣 類 を は じ めテ ン ト覆 い や 袋 類 な ど さま ざ ま な もの の素 材 と して用 い られ た 。
ツ ン ドラ地 域 で は 春 と秋 に トナ カ イ の 大 規 模 な群 で の 移 動 が み られ 、 特 に換 毛 後 の 秋 の 毛 皮 は上 質 な こ と、食 用 と して も 肉 の状 態 が よい こ とか ら、 狩 猟 で トナ カ イ を得 る場 合 に は こ の 時季 が 中心 とな る。 一 方 トナ カイ の 多 頭 数 飼 育 民 で あ る トナ カ イ ・コ リヤ ー クな ど は 、 子 ど も用 の 服 に 限 らず 幼 獣 皮 を 使 い 、 好 み の 毛 皮 を使 う こ とが で き る と され て い る が 、 タイ ガ に お い て少 頭 数 飼 育 を 行 っ て き た ツ ン グ ー ス 系 の民 族 が 飼 育 トナ カ イ を屠 殺 す る こ とは希 で あ る とい う。 つ ま り、 こ の よ うな毛 皮 革 の 選 択 的 な利 用 は 、 生 業 と深 い 関 わ りを もつ とい え る 。
2)ア ザ ラシ な ど海 獣 の 皮 は 防 水 性 が高 い の で 、 両 大 陸 とも に 広 く ブ ー ツ の 素 材(特 に 靴 底)と して 使 わ れ て い た 。 ま た イ ヌ イ トに と っ て は 夏 の 服 と して 重 要 な 素 材 で あ り、 極 東 の ニ ブ フ や ア イ ヌ で も衣 服 と して 重 要 な 素 材 とな っ て い た 。 衣 服 に用 い られ る の は 、 小 型 の ワ モ ン ア ザ ラ シ が 多 い よ うで あ る。 ま た 、 強 度 が あ るた め、 綱 や カ ヤ ッ ク、 ウ ミア ッ クの 材 料 な どに も使 わ れ 、 中 で もセ イ ウ チや ア ゴ ヒゲ ア ザ ラ シ の皮 が 特 に 大 き くて 丈 夫 で 最 適 と され る 。 こ の よ うに、 種 に よ っ て異 な る皮 の性 質 を使 い 分 け る事 例 は 、 他 に も 知 ら れ て い る。 ま た 、 氷 上 で 出 産 す る ア ザ ラ シ の 生 まれ た ば か りの仔 の 白い 毛 皮 は 赤 く染 め ら れ 、 シ ャマ ン の 衣 類 や 儀 礼 用 の 衣 類 に 用 い られ る な ど 、 精 神 文 化 に お い て 重 要 な 役 割 を 担 って い る 。 ま た 、 毛 皮 革 で は な い が 海 獣 類 の 利 用 で 特 筆 す べ き こ と と して 、 イ ヌイ トや ア リュー トな どで 内臓 膜 を防 水 服 の 素 材 と して 用 い る 事 例 をつ け加 えて お く。
海 獣 狩 猟 は 、 ツ ン ドラ地 帯 や オ ホ ー ツ ク海 岸 沿 い に 居 住 す るパ レオ ア ジ ア 系 民 族 とエ ス キ モ ー で 主 た る生 業 とな って い た 。 内 陸 の 民 族 は 隣接 す る海 岸 住 民 との あ い だ で 交 換 を 行 い 、 自分 た ち の トナ カイ 皮 と 引 き替 え に必 要 な ア ザ ラ シ 皮 を得 て い た(例 え ば トナ カ イ ・
コ リヤ ー ク で も投 げ 縄 や 権 の 引 き 綱 は 主 と して ア ザ ラ シ 革 製 で あ る)。
3)上 述 の トナ カ イ 、 ア ザ ラ シ に つ い で 、 イ ヌ 皮 も 衣 類 の 素 材 と して は 重 要 で あ っ た と
考 え られ る 。 イ ヌ は大 変 良 い 毛 質 を 有 して い るが 、 ヒ トに 近 い 動 物 とす る 認 識 か ら、他 の
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動 物 とは 異 な る扱 い を うけ 、 イ ヌ の毛 皮 を用 い る こ とは 一 般 にエ ス キ モ ー な どで タ ブ ー視 され て い る。 民 族 に よ っ て利 用 に は大 きな 違 い が 見 られ 、 特 に供 犠 に イ ヌ を使 うニ ブ フ 、 コ リヤ ー クや イ テ リ メ ン な どの パ レオ ア ジ ア系 民 族 で は 、 イ ヌ 皮 は 衣 類 と して 主 要 な素 材 で あ っ た 。 サ ハ リ ン ・ア イ ヌ な どで もイ ヌ 皮 の服 を 身 に着 けて い た こ とが 知 られ て い る 。 イ ヌ 科 の 動 物 の毛 皮 は、 縁 取 りや 装 飾 用 の毛 皮 と して は 広 い 地 域 で 用 い られ 、 例 え ば グ リー ン ラ ン ドで は襟 や 袖 口 に 黒 イ ヌ の毛 皮 を使 っ て い た 。 同 じ よ うに 、 オ オ カ ミや クズ リ も 吐 い た息 が 霜 に な っ て 凍 りつ か な い とい わ れ 、広 い 地 域 で フー ドの 縁 や 帽 子 等 に 用 い ら れ た 。 加 え て イ ヌ皮 は 防 水 性 が 高 い とい う特 徴 が あ り、 コ リヤ ー ク で は 夏 の海 獣 狩 猟 用 の 衣 類 と して 、 ま たベ ー リン グ海 峡 エ ス キ モ ー で も 冬 の アザ ラシ 猟 の手 袋 な ど と して 必 需 品
とな って い た 。
4)こ の ほ か の 哺 乳 類 で は 、地 域 に よ り特 定 の動 物 の 皮 が利 用 され る 事 例 が あ り、 ホ ッ キ ョク キ ツ ネ が グ リー ン ラ ン ドや ラ ブ ラ ドル の 内 陸 な ど で 上 衣 と して 、 西 ア ラ ス カ で は ホ ッキ ョク ジ リス が晴 れ 着 や 女 性 用 の 上 衣 と して 多用 され て い た 。
ま た 、 儀 礼 用 の衣 類 の 装 飾 に よ く用 い られ る の は 、 先 述 の 北 東 ア ジ ア に お け る仔 ア ザ ラ シ の 毛 と、 北 米 で は オ コ ジ ョの 白 い 冬 毛 が代 表 的 な もの と して 挙 げ られ る。
さ らに 、 欧 米 や ロ シ ア ・中国 な ど との 交 易 で 重 要 な 毛 皮 獣 と して 、 テ ン、 ラ ッ コな どイ タ チ科 の 動 物 と、 ホ ッキ ョク キ ツ ネ 、 ビー バ ー な どが 挙 げ られ るが 、 こ れ らの 製 革 法 にっ い て は 本 論 の 目的 か らは 離 れ る の で 、 こ こ で は 取 り扱 わ な い こ と とす る 。
5)鳥 皮 は 、 トナ カ イ の 少 な い 島 嗅 部 な ど(グ リー ン ラ ン ドや ア リュ ー シ ャ ン等)で 重 要 な 素材 とな っ て い た 。 ア ビ、 ウ 、 ガ ン ・カ モ 、 ウ ミス ズ メ等 の水 鳥 が 主 た る も の で 、 ウ ミス ズ メ な どは コ ロニ ー を 作 る た め 、 入 手 が容 易 だ っ た と思 われ る。 保 温 性 が 高 く、特 に 内側 に着 る服 「 イ ンナ ー 」 と して 用 い られ て い た 。 水 掻 き の つ い た 鳥 の足 も袋 類 の材 料 と して用 い られ て い た 。
6)魚 皮 は ア ム ー ル 川 流 域 で の 利 用 が よ く知 られ て い るが 、 ア ラス カ の ユ ー コ ン ・カ ス コ キ ウ ム の 流 域 な どで も か な り多 用 され て き た 。 防 水 性 が 高 く軽 い こ と か ら、 漁 携 や 海 獣 狩 猟 時 の コー ト、靴 、 手 袋 と袋 類 等 に使 わ れ た 。
2.製 革 技 術 と そ の 分 布 に 関 す る 考 察
動 物 の 生 皮 は 、 元 来 腐 りや す い 上 に硬 直 しや す く、 剥 い だ ま ま で は使 用 に 適 さ な い の で 、 製 革 は 毛 皮 革 を 多 用 す る 北 方 諸 民 族 に とっ て必 要 不 可 欠 な 技 術 で あ っ た 。
製 革 とは 、 乾 燥 、 洗 浄 、 ナ イ フ類 で 削 るな どの 処 理 を して 腐 りや す い 成 分 を 取 り除 き 、
腐 りに くい 繊 維 組 織 だ け を残 し、 さ らに繊 維 間 の 隙 間 を媒 剤 で 埋 め るな ど して使 用 に耐 え
られ るだ け の 強 度 と柔 軟 性 を持 た せ る作 業 で あ る 。 皮 は 、外 側 か ら表 皮 層 と真 皮 層(乳 頭
層=銀 面 ・網 様 層)の 二 つ の 層 か らな っ て い て 、 そ の下 に脂 肪 や 肉 が つ い て い る。 皮 革 と
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して 用 い られ る部 分 は 真 皮 層 の こ とで 、 こ の主 成 分 は 蛋 白質 で で きた 厚 い コ ラー ゲ ン繊 維 で あ る 。毛 や 汗 腺 、 皮 脂 腺 は表 皮 系 に属 し、 真 皮 の 中 に 陥 入 して い る。 製 革 の 工 程 は 大 き く3つ に 分 け られ 、 ① 準 備 工 程(preparation)と ② 糠 め し工 程(tanning)③ 柔 軟 化 ・ 仕 上 げ 工 程(softening)と な っ て お り、 日本 語 で は この 工 程 全 体 を 広 義 に 「 靱 め し」 と い う。 原 理 的 に は 、 毛 を除 去 した 皮 革(レ ザ ー)に す る場 合 は コ ラー ゲ ン繊 維 以 外 の物 質
を腐 敗 させ て 取 り除 き 、 毛 皮 に す る場 合 は コ ラー ゲ ンを 固 くひ き締 め る た め に 蛋 白質 を凝 固 させ る作 用 の あ る 媒 剤 、 例 え ば タ ン ニ ン 、 明 馨 、 ホル マ リ ン な ど を 用 い る。 毛 皮 の 場 合 、 掻 き取 りや 糠 め し剤 塗 布 等 の 処 理 は 肉側 か らの み行 う[菅 野1975ほ か]。
製 革 は 、 この よ うに 物 理 的 ・化 学 的 な 多 くの 工 程 を もつ 。 寒 冷 な 北 方 地 域 に お い て衣 類 や 船 ・住 居 の 素 材 で あ る毛 皮 革 に 質 の 高 さが 求 め られ る の は生 命 を維 持 す る 上 で 大 切 な こ とで あ る。 製 革 は、 日常 的 に女 性 の 仕 事 の か な りの 時 間 を 占 め る(綱 な どの狩 猟 具 は男 性 が 作 る こ と も あ る が)も の で 、 経 験 を要 す る。 こ の基 本 的 な 技 術 に つ い て 、使 用 す る道 具 や 靱 め し剤 に 用 い る物 質 な ど を比 較 す る こ とは 、 北 方 民 族 の 寒 冷 地 へ の適 応 を 知 る上 で 、 大 変 意 味 の あ る こ と と思 う。
既 存 の 研 究 に は 非 常 に示 唆 的 な も の が あ る 。 佐 々 木 史 郎[1992]は 、 サ ハ リン か らア ム ー ル 川 流 域 の 毛 皮 革 利 用 文 化 は 、 二 つ の部 分 か らな っ て い る と し、 一 つ は魚 皮 主 体 文 化 で皮 革 処 理 も概 して 単 純 で あ る。 も う一 つ は 、獣 皮 主 体 の 文化 で 製 革 に は入 念 で 高 度 な技 噛 術 を 駆 使 す る 。 前 者 は 、漁 携 や 海 獣 狩 猟 に便 利 な 軽 くて水 や 湿 気 に強 い 魚 皮 か ら衣 類 を作
り、 これ は ニ ブ フや(特 に サ ハ リ ンの)ア イ ヌ に 見 られ る 。 後 者 は 、森 林 で の 狩 猟 に適 し て お り、 これ は ツ ン グ ー ス 系 諸 民 族 が伝 えて い る。 こ の二 つ の 文 化 の 分 布 や 民 族 系 統 ご と の 比 率 の 差 か ら、 佐 々木 は 両 文 化 の層 序 を前 者 は 古 い 基 層 文化 に 属 して い て 、 後 者 は こ の 地 域 住 民 の ツ ン グー ス化 と と も に普 及 した と考 え た 。 っ ま り、 ア ムー ル 川 下 流 域 とサ ハ リ ン を 中 心 に松 花 江 か ら北 海 道 ま で 広 が っ て い た魚 皮 を主 体 と した 文 化 層 の 上 に 、 獣 皮 を主 体 とす る文 化 層 が 松 花 江 とア ム ー ル 川 の 上 流 か ら押 し寄 せ 、 上 流 に近 い ほ ど厚 く覆 って い る とい うわ け で あ る。 ツ ン グー ス 的方 法 は ニ ブ フ まで は及 ん だ が 、 よ り接 触 の機 会 の 少 な か っ た ア イ ヌ に ま で は十 分 浸 透 し な か っ た 。 北 海 道 か ら南 サハ リン に か けて は 大 陸 の 獣 皮 主 体 の 文 化 層 は き わ め て薄 く、 か わ りに植 物 繊 維 を使 うな どの別 の 文 化 層 が覆 っ て い る の だ ろ うと述 べ て い る。
佐 々 木 の 考 え方 を 基 にハ ッ トら の広 域 的 な 研 究 を 応 用 して 考 え る と、 製 革 につ い て は次
の こ とが い え る;ニ ブ フ型 の 単 純 な製 革 方 法 、 つ ま り糞 尿 を用 い 、 脂 肪 性 の靱 め し剤 は あ
ま り使 わ ず 、 ス ク レイ パ ー の 形 状 にバ リエ ー シ ョ ンが 少 な く手 ・足 ・歯 な ど を 多用 し、 繰
り返 し作 業 の 少 な い とい う前 述 の 前 者 に 分 類 され るの は、 チ ュ クチ や コ リヤ ー ク か らイ ヌ
イ トに ま で 共 通 性 を 持 ち 、 これ はパ レオ ア ジ ア系 民族 とエ ス キ モ ー に 見 られ る 古 い 基 層 文
化 に属 す る とい う こ とが で き る 。 一 方 、 ツ ン グー ス型 の 複 雑 な製 革 方 法 つ ま り、 各 工 程 に
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合 っ た ス ク レイ パ ー を用 い 、 脳 漿 を は じめ魚 卵 や 朽 ち 木 な ど さ ま ざ ま な 靱 め し剤 を用 い る が糞 尿 を用 い ず 、 燃 煙 を 行 う とい う複 雑 な加 工 技 術 を 持 つ 方 法 は 、 ツ ング ー ス の拡 散 と と も に 北 東 シベ リア ま で伝 播 し、 ユ カ ギ ー ル に 色 濃 く、 さ らに コ リヤ ー ク や チ ュ ク チ に ま で そ の 片 鱗 が み られ る 。
しか しな が ら、 これ らの 研 究 は 少 々 お お ま か す ぎ る とこ ろ も あ る と思 わ れ る。 今 回 は 、 毛 皮 革 を使 う 目的 とそ の 皮 の種 類 に 、 よ り注 目 して 、 工 程 の違 い を検 証 して み た い 。 さ らに毛 皮 交 易 との 関 係 か ら製 革 技 術 が発 展 した こ とは十 分 に考 え られ 、 鉄 が な け れ ば 機 能 を果 た さな い 道 具 ス ク レイ パ ー(ツ ング ー ス 系 と され る セ ン型 の も の)な ど は 、 か な り新 し く17〜18世 紀 頃 に な っ て か ら取 り入 れ られ た 可 能 性 も あ る 。 ル ロ ワ=グ ー ラ ン [1943]は 、(ス ク レイ パ ー や 靱 め し剤 の 分 布 につ い て 一 部 そ の 地 域 的 繋 が り も指 摘 して い るが)製 革 は 必 要 か ら生 まれ た 技 術 で あ り、 そ の 工 程 の普 遍 性 は共 通 の 起 源 を持 っ か ら で は な い と述 べ て い る 。 同 時 発 生 的 な 視 点 も必 要 で あ る と思 う。
そ こで 、 い くつ か の民 族 の 事 例 で 手 順 を追 い な が ら、 使 う道 具 や 鞍 め しに 使 う物 質 な ど を 、特 に トナ カ イ とア ザ ラ シ とい う動 物 の種 別 と、毛 を 除 去 す るか 残 して お くか ・防 水 性 を重 視 す る の か 暖 か さを 求 め る の か とい っ た 製 品 と 目的 別 の違 い を 中 心 に 、 も う一 度 整 理
して み た い 。
極 北 で は動 物 の 季 節 移 動 に伴 い 、 一 時 期 に 大 量 に捕 獲 で き る とい う特 徴 が あ る 。皮 を剥 い で す ぐに あ る程 度 の処 理 を しな い と使 え な く な っ て し ま うの で 、 簡 単 な 処 理(粗 く 肉や 脂 肪 を 掻 き落 と し、 雪 に 埋 め る ・あ るい は 乾燥 させ て 畳 ん で お くな ど)を して 保 存 して お き 、後 で 本 格 的 に 靱 めす とい う措 置 が 一 般 的 に と られ て い た こ と を、 あ らか じ め述 べ て お き た い 。
〈 ベ ー リ ング 海 エ ス キ モ ー 〉
ま ず 、 ネ ル ソ ン の著 した 民 族 誌 か らベ ー リン グ海 峡 エ ス キ モ ー の事 例 を 紹 介 した い 。 こ こで は 、 ア ザ ラ シ皮 とカ リブ ー 皮 の 製 革 法 の違 い が 明 らか で あ る(図1〜3参 照)。 皮 船 や テ ン トに使 うた め の ア ザ ラ シや セ イ ウ チ の 除 毛 した 革 をつ く る場 合 、 ま ず 肉や 脂 肪 を除 去 し、 そ れ か ら毛 の面 を 内 側 に して 巻 き 、腐 り始 め て 毛 が 抜 けや す くな る ま で 住 居 内 に 寝 かせ て お く。 小 さ な ア ザ ラ シ皮 は 、 湯 につ け て 腐 敗 を 早 め る こ と も あ る 。 そ の 後 、 ス ク レ イ パ ー で 毛 を 掻 き取 り、 残 りの 肉 や 脂 肪 も 取 り去 る 。 乾 燥 に は 、 皮 の周 囲 に 多 数 の 穴 を 開 け 、 そ こ に紐 を とお して 木 の枠 に 張 り伸 ば し、 屋 外 に 干 す 。
ア ザ ラ シ の 毛 を残 して お く場 合 、 脂 肪 を よ く洗 い 落 と し、 張 り伸 ば し、 上 記 と同 様 に余 分 な もの を掻 き 取 り、 乾燥 させ る 。
一 方 、 カ リブ ー 毛 皮 を 製 す る に は 、 肉側 を尿 で湿 らせ て 、毛 を外 側 に して 巻 き 、 暖 か な
家 の 中 に1〜2時 間置 い て か ら肉 や 腱 な ど をス ク レイ パ ー で掻 き取 る 。 そ れ か ら、 再 度 、
乾燥 と掻 き 取 りを行 い 、 火 を燃 や して い る 住 居 の 中 に 吊 っ て 乾 か す 。続 けて 皮 を柔 軟 にす
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る た め に掻 き 取 りを 肉側 か ら丁 寧 に行 う。 この 処 理 の後 、 煮 た 魚 卵 を 擦 り込 み 、 十 分 に 浸 透 させ た 後 、 手 で揉 ん だ り して 柔 軟 化 す る[NELSON 1899]。
これ らか ら、 トナ カ イ 皮 の ほ うが ア ザ ラ シ 皮 よ り複 雑 な 工 程 を経 て い る こ とが 分 か る 。 ま た 、 工 程 の初 め の ほ うで 、 毛 を 除 去 す る場 合 は毛 を 内側 に巻 い て腐 らせ 、 毛 を残 して お く場 合 は毛 を外 側 に して 巻 い て お く とい う差 異 も明 確 に 認 め られ る 。
〈 チ ュ ク チ〉
次 に 、 ボ ゴ ラス の報 告 か らチ ュ クチ の トナ カ イ 皮 の事 例 で 、 毛 を残 して お く場 合 と除去 す る場 合 の 方 法 の 違 い に つ い て 改 め て み て み た い(図4〜6参 照)。
剥 い だ ば か りの 皮 は す ぐ に 肉 と腱 な ど を 粗 削 り し、 地 面 の 上 に 伸 展 しな が ら乾 燥 させ る 。(す ぐに加 工 しな い 場 合 は 、 この 状 態 で 折 っ た り巻 い た り して保 存 され る。)毛 を残 し て お く場 合 、 靱 め し を 始 め る とき に 、 毛 を外 に 肉 側 を 内 に し て 畳 み 一 晩 置 く(乾 い て し ま っ た ら水 に 浸 す)。 翌 朝 、 鉄 製 の 歯 の ス ク レイ パ ー で 肉側 を こそ げ 落 と した り足 で 踏 ん だ りす る。 そ れ か ら トナ カ イ の 糞 や 人 尿 、 時 に 肉 汁 な どを皮 に 擦 り込 ん で 浸 透 させ 、 再 び 一 晩置 く 。 そ の後 、2度 目の 掻 き と りを す る。 こ こま で の工 程 は 、 ベ ー リン グ海 峡 エ ス キ モ ー とか な り似 て い る。 チ ュ クチ の場 合 、 工 程 の 最 後 の方 で ハ ン ノ キ樹 皮 を人 尿 で 煮 出 し た 染 料 で 染 色 す る 。 彼 らは染 色 した 皮 の 方 が 防 水 性 が 高 い こ とを 認 識 して お り、 こ れ は タ
ン ニ ンに よ る鞍 め しの 効 果 に よ る も の と考 え られ る 。
一 方 、 除 毛 した レザ ー は テ ン ト覆 い く らい しか使 い 道 が な い た め に 、 技 術 は要 さな い と 報 告 され て い る が 、 実 際 は 毛 皮 に比 べ る と複 雑 な 工 程 をへ て い る。 靱 め し を始 め る と き に は、 畳 ん で24時 間浸 し置 い て か ら、 ス ク レイ パ ー で 除 毛 して 乾 か す 。 そ して 、 前 述 の 靱 め し剤 の うち どれ か を 塗 り、再 び 掻 き取 り、 風 に晒 して 漂 白す る か 黄 土(オ ー カ ー)で 染 色 す る 。 殆 ど の 場 合 、 炉 の 上 や あ る い は 別 の 作 業 小 屋 で2日 間 燃 煙 さ れ る[BOGORAS 1904‑09]0
ま た 、 チ ュ クチ で は ア ザ ラ シ 皮 の 製 革 は よ り簡 易 で あ る こ とが 明 白 で あ る。 これ は 、 皮 船 や 靴 以外 、 衣 服 に は 用 い な い か らで あ る と思 われ る 。
〈 グ リー ン ラ ン ド ・エ ス キ モ ー 〉
ナ ン セ ンに よ る と、 西 グ リー ン ラ ン ドの 事例 で は 、 トナ カ イ 皮 は利 用 が 少 な い た め製 革 に 関 す る記 述 は 簡 単 だ が 、 アザ ラ シ 皮 の用 途 別 の 製 革 方 法 の 違 い は 詳 しい(図8〜11を 参 照)。 除 毛 した ア ザ ラ シ皮 に は 表 皮 を温 存 して お く 「 黒 皮 」 と、 取 り去 って しま う 「 白皮 」 の2種 類 が あ る。 カ ヤ ッ ク な どの 皮 船 に用 い る場 合 、 黒 皮 は 白皮 よ りも 防水 性 が 高 くア ザ
ラ シ の皮 下脂 肪 に よ る グ リー シ ン グ(加 脂)の 必 要 が な い た め、 黒 皮 は冬 用 の 、 一 方 白皮
は脂 を塗 る必 要 が あ る の で 夏 用 の皮 船 素 材 に適 して い る とい う。 黒 皮 を作 る に は 、 容 易 に
除 毛 が で き る よ うに 、腐 りか け た 尿 の 中 に1〜2日 漬 け 置 く。 一 方 白皮 は巻 い て 、 イ ガ イ
で作 った ス ク レイ パ ー で簡 単 に毛 と表 皮 が こそ げ 落 とせ る よ うに な る ま で比 較 的 暖 か な場
所 に寝 かせ て お く。 脂 肪 を 除去 す るに は、 グ リー ン ラ ン ドエ ス キ モ ー の女 性 は 、 一 般 的 に
北海道 立北方民族博物館研 究紀要 第7号(1998。3)
歯 で 噛 ん で 吸 い 出す 方 法 を好 む 。
ア ザ ラ シ を毛 皮 に す る に は 、 半 月 型 の ウル ・ナ イ フで 肉や 脂 肪 を粗 く削 り落 と し、 水 に 漬 けて 洗 っ た の ち 、伸 ば しな が ら乾 かす 。 そ して 、 揉 ん で 柔 らか くす る だ けで あ る。 トナ
カ イ を毛 皮 に す る に は た だ 単 純 に 乾 か して 揉 む だ け で 、 水 を使 わ な い とい う。
ま た 、 ケ ワ タガ モ な どの 鳥 の皮 の 場 合 、 羽 毛 を 除 去 す る こ とは 考 え られ ず 、 最 初 の 工 程 は 羽 を乾 かす こ とで あ る 。 そ れ か ら皮 を 中 表 にひ っ く り返 し、 イ ガ イ の 貝 殻 か ス プ ー ンで ゆ っ く り と慎 重 に 脂 肪 の 除去 を 行 い(鳥 の 皮 は 柔 らか く破 れ や す い た め)、 脂 肪 は食 べ て しま う。2〜3日 乾 燥 させ た 後 、 歯 で 噛 ん で 残 りの脂 肪 を 吸 い 出 し、 再 度 乾 燥 させ 、 お 湯 で よ く洗 っ て 、 絞 り、 乾 燥 させ る 。 噛 ん で脂 肪 の 除 去 をす る の は 女 性 と子 ど も の仕 事 で 、 同 時 に 脂 肪 を摂 取 で き る た め楽 しい 作 業 だ とい う。 これ らは誰 に で も で き る非 常 に簡 単 な 方 法 で あ り、 片 手 間 に で き る作 業 で も あ る 。 ナ ンセ ンは 魚 皮 の加 工 につ い て 記 述 して い な い が 、 例 え ばベ ー リン グ 海 峡 エ ス キ モ ー で も、 鳥 や マ ー モ ッ ト、 マ ス ク ラ ッ トな どの 小 動 物 は 、 ほ ぼ 同様 の 簡 易 な加 工 で あ る。 つ ま り小 動 物 は 、 先 述 の海 獣 や トナ カ イ な どの 大 型 の動 物 に比 べ る と単 純 で 繰 返 しが 少 な く、 噛 ん で 靱 す の が 一 般 的 で 、 特 別 な 道 具 は な い 。 これ らの 小 さな 皮 は 、 年 齢 の 若 い 女 性 や 子 供 な ど技 術 や 経 験 が無 くて も扱 え る とい わ れ る ゆ え ん で あ る 。
丁 寧 な 鞍 しを必 要 と しな い も の に は 、 カ ヤ ッ クや ウ ミア ック な どの 船 に用 い られ る ア ザ ラ シ皮 が 挙 げ られ る。 余 分 な 肉や 脂 肪 を こ そ げ 落 とす の み で 、 フ レー ム に 張 り伸 ば され て そ こ で 乾 燥 させ られ る。 靴 底 の 皮 も 一 般 的 に は 鞍 め さ な い で 使 われ る[NANSEN 1893]。
〈 北 方 のイ ンデ ィ ア ン〉
次 に 北 方 針 葉 樹 林 帯 の 事 例 と して 、 ヘ ヤ ー イ ンデ ィ ア ンの 方 法 との 比 較 を して み た い 。 ヘ ヤ ー イ ンデ ィ ア ン で は 、 ム ー ス の皮 を 除 毛 して 製 革 す るの に大 変 な 手 間 を か け る。 ま ず 毛 を 剃 っ た り抜 い た り し て 除 去 し、 肉 や 脂 肪 を こ そ げ 落 とす 。 も う一 度 毛 を 剃 り、 水 を 張 っ た タ ライ(石 鹸 を入 れ る こ と もあ る)に 入 れ て 血 抜 き をす る 。 そ の後 再 び 皮 の厚 さ を 均 等 に す る た め に そ い だ 後 で 、 防 腐 処 理 と して 燃 煙 す る 。 半 乾 き に な っ た と こ ろで 再 び水
に浸 し、 皮 の周 囲 に穴 を あ け絞 り、 物 干 し さお で 乾 かす 。 こ こ ま で は保 存 の た め の準 備 工 程 で あ り、 す ぐ に靱 め さな い 場 合 は し ま っ て お く。 鞍 め し工 程 で は 、 まず マ ツ の 朽 ち木 で 燃 し、 熱 くな っ た 皮 を 靱 め し液 に3日 間 漬 け置 く。 鞍 め し液 は 洗 濯 石 鹸 とム ー ス や カ リ
ブ ー の 脳 を水 に混 ぜ て 作 る(人 に よっ て は ム ー ス や カ リブ ー の肝 臓 や 魚 卵 を加 えた り、脳 の代 わ りに 小 麦 粉 を入 れ る。 石 鹸 は 交 易 で 手 に入 れ る が 、 無 い 場 合 は灰 汁 を 用 い る)。 そ の後 絞 っ て は燃 し、 靱 め し液 に漬 け る とい う作 業 を4〜6回 繰 り返 し、 干 した 後 に掻 き 落 と し、 新 しい鞍 め し液 に漬 けて は燃 す 作 業 を 繰 り返 す 。 最 後 に は 、 革 を燥 煙 して 染 め 上 げ る[原1980コ 。
ハ ドソ ン 湾 に面 す る ウエ ス ト ・メ イ ン ・ク リー で も 、 基 本 的 な 衣 類 の 素 材 とな る カ リ
ブ ー 皮 を 製 革 す る の に 、 長 い 工 程 を経 る 。 肉 を そ ぎ 落 と した 後 、 ペ グ で 地 面 に 張 り伸 ば
齋藤 極 北地域にお ける毛皮 革の利用 と技術
し、 再 び 丸 太 に 固 定 して毛 を 刈 る。 掻 き 取 りに用 い る の は半 月 型 の ナ イ フで あ る 。 そ れ か ら脳 漿 を混 合 した靱 め し液 に 浸 し、 す す ぎ、 乾 か し、 伸 展 して燥 煙 す る 。 こ こ で は ア ザ ラ シ皮 や シ ロイ ル カ(ベ ル ー ガ)の 製 革 も同 様 に大 変 な 作 業 で あ る と言 っ て い る が 、 そ れ に 比 べ 、 ノ ウサ ギ を加 工 す る の は 単 純 だ そ うで あ る[HoNIGMANN 1984]。
〈 アイ ヌ 〉
シ ンポ ジ ウ ム で の発 表 に お い て はテ ー マ が ツ ン ドラ地 域 で あ っ た こ とか ら、 アイ ヌ の 事 例 につ い て は取 り上 げ な か っ た 。 しか し、 技 術 の 分布 域 を比 較 す るた め に は 重 要 で あ る こ と と、 ア イ ヌ の皮 靱 め し に 関す る記 述 は 比 較 的 乏 しい と思 わ れ が ち で 、 佐 々 木 も前 掲 の 論 文 で は少 な い 事 例 な が らアイ ヌ の 製 革 方 法 は ニ ブ フ 並 か そ れ 以 上 に 単 純 で あ る と結 論 づ け て い る が 、 か な り丁 寧 な 処 理 方 法 につ い て も記 録 が残 され て い る の で 、 こ こで い くつ か 紹 介 して お き た い 。
次 の2事 例 は、 北 海 道 開拓 記 念 館 の調 査 報 告 に よ る もの で あ る 。 は じめ に斜 里 町 で 生 活 した 男 性 か らの 聞 き 取 りに よ る と、 アザ ラ シ か シ カ か 不 明 だ が 、 毛 を残 す 場 合 の方 法 は 以 下 の よ うで あ る。 毛 を 取 り除 く こ と は な か っ た との こ とで 、 シ カ皮 は 敷 物 と して 使 う うち に 毛 が とれ て しま うの で 、 昔 は そ れ で 肌 着 な ど を作 っ た とい う。
まず 、皮 を 剥 い だ あ と木 枠 に 張 って 乾 燥 させ 、 冬 に と った 場 合 は靱 め し作 業 をす る 夏 ま で そ の ま ま 干 して お くか 、 枠 か らは ず し て丸 め 、 室 内 の(炉 の)あ ま り強 火 の 当た らぬ と こ ろか ら吊 して 保 存 して お く。 鞍 め す の を始 め る とき は 直径25〜30cm、 長 さ1m位 の 丸 太 の 上 に皮 を の せ 、 肉や 脂 をマ キ リの 背(刃 だ と皮 を切 る こ とが あ る の で)で 、 し ご く。 に じん で き た 油 は ア ツ シ(オ ヒ ョウ繊 維 で 織 っ た 衣 服)用 の 糸 を作 る 際 に 出 る くず 糸 で ぬ ぐ い と りな が ら、 数 時 間 し ご き続 け る 。 皮 を浜 に 持 って い き 、 熱 い 砂 を 皮 に か け て 、 あ ら縄 を ま る め た た わ し状 の も の で こ す り、 油 が しみ こ ん だ 砂 は 払 い 、 再 び 熱 砂 を か け て こ す る 。 丸 太 の上 で マ キ リで し ご く作 業 と砂 を か け て こす る作 業 を繰 り返 す と、1日 で 油 は抜 け 、 柔 らか い き れ い な皮 を得 る こ とが で き る 、 とい う[北 海 道 開 拓 記 念 館1974]。
次 に、 サ ハ リン の 白浜 で 生 活 して い た 女 性 か らの 聞 き取 りを紹 介 す る。 記 述 に は 「 陸 海 獣 」 の とあ り、 毛 を残 す 場 合 の動 物 の 種 は不 明(シ カ か?)で 、 アザ ラ シ の毛 を と る場 合 や 、魚 皮 につ い て もそ れ ぞ れ の記 録 が あ る。 用 い る道 具 は斜 里 と似 て い る が 、 くず 糸 や あ
ら縄 な ど油 を と るた め の もの は 明 らか で な い 。
毛 を残 して お く場 合 は 、 ま ず 皮 を 剥 ぎ、 付 着 して い る 肉 片 ・筋 ・脂 肪 な どを マ キ リ(小
刀)で 削 り と り、 皮 の端 に 穴 を あ け 糸 を通 して 、 や や 正 方 形 の 木 枠 に 張 っ て 乾燥 させ る 。
完 全 に乾 い た ら、10〜15日 ほ ど 日陰 か 強 い 日差 しの 当 た らぬ と こ ろ に お い て お き、 そ の後
枠 か ら はず す 。皮 は 毛 を 内側 に して巻 き、 そ れ を 直 径25cm位 ・長 さ2尺(60cm)位 の丸 太
の 中 央 を浅 く削 っ た 皮 鞍 め し台 の くぼ み に 当 て 、 ひ っ く りか え し な が ら棒 で打 つ 。 何 度 も
繰 り返 す と柔 らか くな り、 細 か い 垢 の よ うな も の が 浮 き 出 るの で 、 こ れ を払 う。 そ れ か ら
再 び 手 で 握 れ る ほ ど の棒 状 に 巻 き 、雑 巾 を絞 る よ うに して揉 む 。 そ の 後 に 「 お し め」 を洗
北海道 立北方民族博物館研究紀 要 第7号(1998.3)
う よ うに皮 全 体 を揉 む と柔 らか い糠 め し皮 が で き る 、 とい う。
靴 底 に 用 い る ア ザ ラ シ(ゴ マ フ ア ザ ラ シや ア ゴ ヒ ゲ ア ザ ラ シ の 成 獣)の 皮 の 脱 毛 法 は 、 まず マ キ リで毛 を 切 り、 そ の 後 で残 りの 毛 を で き るだ け は だ け る(筆 者 注;前 後 の文 章 か らマ キ リで 削 る よ うに して そ ぎ と る こ とを指 す と思 わ れ る)。 平 らな と こ ろ に皮 を広 げ 、 木 灰 と海 砂 を ま ぜ 、 ま さか りの峰 の 部 分 で し ご く と、細 か な毛 も抜 け る 。 そ れ か らぬ る ま 湯 に2〜3日 漬 けお き 、 干 す と厚 手 の 無 毛 皮 が で き る[北 海 道 開 拓 記 念 館1973]。
さ ら に、 サ ハ リンで は朽 木 の粉 を つ けて 揉 み 、 油 抜 き をす る こ と も記 録 され て お り[山 本1970]、 北 方 針 葉 樹 林 帯 地 域 と共 通 の 材 料 を靱 め しに 用 い て い た こ とも わ か る。
こ の ほ か 、 北 海 道 平 取 町 の 事 例 で は 、 シ カ ・クマ ・イ ヌ の 皮 を製 革 す る と き、 剥 い だ 皮 を乾 燥 させ る 際 に い ろ りの 上 で 干 す こ と、 油 を と る の に 木 灰 を ま ぶ し砥 石 で こす る こ とな どが上 記 の 例 とは 若 干 異 な る。 ま た シ カ 皮 の毛 を 除去 す る場 合 に は 、 こ の あ と夏1週 間 く らい 便 所 の 中 に漬 け 置 い て水 洗 い す る と 、 毛 は 抜 け て し ま い 柔 らか くな っ て い る と い う
[萱野1978]。
〈 製 革 の た め の 道 具 につ い て 〉
製 革 技 術 の項 の 最 後 に 、 シ ン ポ ジ ウム で 話 題 に な っ た 「 ツ ン グ ー ス 型 の ス ク レイ パ ー 」 につ い て触 れ て お く。
佐 々木 は シベ リア の 狩 猟 民 や トナ カ イ 遊 牧 民 の 皮 革 処 理 専 用 の ス ク レイ パ ー を大 き く3 つ の形 に 分 類 して い る。 まず チ ュ ク チ 、 コ リヤ ー ク らシ ベ リア の東 端 に居 住 す るパ レオ ア ジ ア系 の 諸 民 族 が 使 って い る も の は 、 水 平 な柄 の 中央 部 に 石 ま た は 鉄 製 の 刃 をつ け た もの で 、 柄 を 両 手 で持 っ て 使 用 す る。 西 シ ベ リア の サ モ エ ー ド諸 族 か らス カ ン ジ ナ ビ ア の サ ミ にか け て使 わ れ て い る の は 、 形 状 と使 い 方 はパ レオ ア ジ ア の も の と同 じで あ るが 、 刃 が2 枚 で 横 か ら見 る とS字 状 を な して い る 。 これ らに 対 し、 ツ ン グー ス 諸 族 の ス ク レイ パ ー類 は 形 状 も使 い 方 も 前 二 者 とは 異 な る[佐 々 木1992]。 こ れ に加 え 、 い くつ か の 民 族 誌 か ら 形 状 や 使 用 法 、名 称 を組 み 合 わ せ て靱 め し具 を 分 類 す る とす れ ば 、 ツ ン グ ー ス 型 の ス ク レ イ パ ー は さ らに3種 類 に分 け られ そ うで あ る。 す な わ ち 、 ① 皮 に つ い た 肉 を 削 り とる た め の 円形 ま た は環 状 の 鋭 い 刃 の もの 、 そ の 後 に用 い る② 主 に 脂 肪 を掻 き とる た め の 道 具 で 、 刃 はや や 鈍 く鋸 状 の ギザ ギ ザ の つ い て い る 場 合 も あ り、 形 はや は り円形 ま た は環 状 の も の 、 ③ 仕 上 げ に皮 を 柔 らか くす る た め の 道 具 で 、 木 製 の柄 に長 い 刃 が 埋 め込 ま れ て い る か 刃 の 両 端 に木 製 の 取 っ手 が つ い た も の 、 で あ る。 山 本 は 「 オ ロ ッ コ」 「 ヤ クー ト」 の 「 馴 鹿 皮 仕 上 具 」 と して 、 これ ら をそ れ ぞ れ 「 皮 剥 」 「 油 抜 具 」 「 鞍 皮 具 」 と呼 ん で お り、3つ で 一 式 で あ る こ とが うか が え る。 た だ し、 ① と② は形 が 似 て お り、 区別 され な い こ と も あ る よ うで あ る(図14を 参 照)。
そ れ ぞ れ の 靱 め し具 の 呼 称 に つ い て は
① は オ ロ チxocy[ABPoPHH 1978]、 エ ヴ ェ ン キy[BAc四EB四1969]、 ウ イ ル タ で
xosipu[北 海 道 教 育 庁1985]
齋藤 極 北地域にお ける毛皮革 の利 用 と技術
② は オ ロ チqoqo[ABpopHH 1978]、 エ ヴ ェ ン キqyqyH[BAcH肥B四1969]、 ユ カ ギ ー ルvvcucu'n[JOCHELSON 1926]、 ニ ブ フTonnuru Wato[北 海 道 教 育 庁1986]
③ は オ ロ チK3A3[ABPOPYIH 1978]、 エ ヴ ェ ン キK3A3p8[BAc剛EB四1969]、 ウ イ ル タkadara[北 海 道 教 育 庁1985]、 ユ カ ギ ー ルkerde[Jocx肌soN 1926]、 ニ ブ フ Kuturu Wato[北 海 道 教 育 庁1986]、 ヤ ク ー ト で ク デ ラ ッ ク[山 本1943]
とな っ て い る。 これ らの 類 似 性 か ら は、 ス ク レイ パ ー類 が 比 較 的新 しい 時代 に な っ て か ら伝 わ っ た こ とが 推 測 され る。 こ れ らが 、 ユ カ ギ ー ル や ニ ブ フ な どの パ レオ ア ジ ア の諸 民 族 に も取 り入 れ られ て い る の は 、 上 述 の とお りで あ る 。
*発 音記 号 、 アル フ ァベ ッ ト、 キ リル 文字 、 カ タ カ ナ と表 記 は さ ま ざま で あ るが 、原 文 の まま 引用 した 。 **ウ イ ル タ 語 のTotoが ニ ブ フのKuturu Watoと 同 じで あ る と記 して い る も の や[北 海 道 教 育 庁 1986]、 文 面 だ け で は形 状 の 明 らか でな い もの 「tθttθ(獣 皮 を伸 ば した り、 柔 らか にす る 、鉄 製 、 木 の 柄 がつ い て い る)」[北 海 道 教 育 庁1985]が あ るが 、 これ らは語 感 や組 み 合 わ せ か らは ② に 分類 され る もの では な いか と考 え る。
3.製 革 に お け る 要 点
主 要 な 民 族 誌 か ら、 目的別 ・素 材 別 に 製 革 工 程 を 比 較 して み る と一 般 的 に次 の1〜8の こ とが い え る 。
1)毛 皮 よ りも 、 靱 し革(レ ザ ー)に す る ほ うが 手 間 と高 度 な 技 術 を 要 す る
2)ト ナ カ イ に 比 べ る と、 ア ザ ラ シ の 製 革 の ほ うが 単 純 で あ る。 小 動 物 や 鳥 、魚 は よ り 単 純 で あ る 。
3)除 毛 して レザ ー にす る場 合 、腐 敗 促 進 剤 と して 尿 を使 っ た り、 湯 に漬 け た り し て (毛 を 内側 に折 り畳 む ・巻 くな ど して)、 暖 か い と こ ろ に 長 時 間(1〜3日)寝 か せ る 。
4)尿 は腐 敗 促 進 の た め に使 う場 合 と、 脂 肪 を洗 い 落 とす た め と、 染 料 の ハ ン ノキ 樹 皮 を 煎 じ る た め に 使 う場 合 が あ る。
5)脳 漿 や 魚 卵 な どは 製 革 工 程 の 後 の ほ うで 使 われ 、 加 脂 に よ る柔 軟 化 と防 水(と 脳 漿 につ い て は漂 白)の 効 果 が あ る。
6)ア ザ ラ シ皮 に は 製 革 工 程 の 途 中 で加 脂 し な い 。製 品 とな っ た あ と、 使 用 中 の ト リー トメ ン ト と して は グ リー シ ン グ され る 。
7)ト ナ カ イ 革(レ ザ ー)は 最 後 の工 程 で 燃 煙 され る場 合 が多 く、 腐 敗 防 止 の他 、 染 色 と防水 の 効 果 が あ る。
8)皮 を 白 く仕 上 げ るた め に は 寒 風 に さ らす 。 漂 白す る と染 色 の 効 果 も 高 く な る 。
北海道立北方民族博 物館研究紀要 第7号(1998.3)
4.考 察 と課 題
佐 々木[1992]や ハ ッ ト[1969]が 述 べ て い る よ うに 、 古 くか らの 比 較 的 単 純 な製 革 方 法 の 広 が り(パ レオ ア ジ ア か らエ ス キ モ ー)の 上 に 、 複 雑 な 方 法 が 、 ツ ン グ ー ス 諸 族 の 拡 散 と と もに と っ て 代 わ っ た とい う可 能 性 は 十 分 に あ る。 特 に ツ ン グ ー ス に特 徴 的 な 鉄 製 の 刃 を もつ ス ク レイ パ ー につ い て は、 遊 牧 技 術 の 取 り入 れ や 文 明 圏 の 民 族 との交 易 な どの外 的 要 因 に よ り、 伝 播 した の で は な い か との コ メ ン トも あ っ た 。
しか し、 エ ス キ モ ー よ り南 の アサ バ ス カ ・イ ンデ ィ ア ンで も 、 ム ー ス を製 革 す る の に ツ ン グー ス と同 様 の脳 漿 鞍 め しや 燵 煙 な どの 複 雑 な 工 程 を行 うこ とか ら、 こ の技 術 は民 族 の 移 動 や 技 術 の伝 播 とい うこ と と関 係 して い な い 可 能 性 も あ る。
ツ ン ドラ地 域 は夏 で も寒 冷 で あ る た め に 、 簡 単 な 製 革 方 法 で も毛 皮 革 が 傷 み に くい 。 ま た 、 寒 冷 な ツ ン ドラ で は 防 寒 性 を保 つ た め に毛 を残 す 必 要 が あ り、 毛 が つ い た皮 は あ ま り 複 雑 な 製 革 工 程 を必 要 と しな い 。加 え て ア ザ ラ シ皮 は トナ カ イ 皮 に比 べ て 単 純 な製 革 方 法
しか 施 され な い が 、 防 水 性 を 求 め る素 材 と して は そ れ で 十 分 で あ る 。 ア ザ ラ シ を 多 用 す る の は パ レオ ア ジ ア系 諸 族 や エ ス キ モ ー とい った 民 族 で 、 地 域 的 に は ツ ン ドラ地 域 と ほ ぼ 一 致 す る。 ツ ン ドラ地 域 に お け る製 革 の技 術 は 古 く単 純 で は あ るが 、 製 品 に 使 用 上 の 不 都 合 は な く、 それ 以 上 の発 達 の 必 要 は な か っ た の で は な い だ ろ うか 。 ま た 、 イ ヌ イ トの ス ク レ イ パ ー は用 途 な ど に よ っ て 種 類 は 多 く、 握 り部 分 も うま く力 が 入 る よ うに な っ て い て 単 純 だ とは い え な い し、 脂 肪 分 の 多 い 海 獣 類 の製 革 に は洗 浄 作 用 の あ る尿 が 効 果 的 で あ っ た こ
と も指 摘 して お く必 要 が あ る。
一 方 、 夏 季 に 気 温 が 高 くな る針 葉 樹 林 帯 で は、 シ カ 類 の毛 皮 を除 毛 して レザ ー に す る必 要 が あ っ た。 シ カ 類 の レザ ー は 、 防 水 性 を 高 め る た め に 加 脂 と燵 煙 が必 要 で あ っ た 。 美 的 な面 を 考 慮 す る と、 さ ま ざ ま な色 を 持 つ 毛 皮 と異 な っ て 色 の変 化 の 乏 しい レザ ー に は 、 染 色 と、 そ の 前 段 と して の 漂 白 の 技 術 が 求 め られ た 。(し な や か で 、 色 も 美 し く、 防 水 性 が あ る)よ り良 い 質 の皮 を 求 め た こ とが 、 複 雑 な 製 革 技 術 の 発 達 に 拍 車 を か け た とい え る の で は な い だ ろ うか 。
これ よ り暖 か な 温 帯 以 南 の 地 域 で は 、 伝 統 的 に は 日常 的 な素 材 と して 毛 皮 革 は必 需 品 で は な い[大 林1989]。 温 帯 で の 衣 類 は 、 植 物 あ るい は動 物 性 繊 維 の 織 物 や 編 み 物 な どの 布 が主 要 な 素 材 で あ る。 こ の 地 域 に も複 雑 な製 革 技 術 は存 在 す る が 、 ヨー ロ ッパ や 日本 の 事 例 を考 えて み て も、 特 定 の 階 級 や 、鎧 か ぶ とや 靴 な ど特 定 の 用 途 に 利 用 され る こ とが 中心 で あ り、 そ の技 術 は特 定 の 職 能 者 が保 持 す る もの で あ っ た 。 これ ら文 明 圏 の 洗 練 され た 技 術 や 道 具 と北 方 諸 民 族 の そ れ とを一 緒 に して 関 係 を述 べ る こ とは で き な い 。 しか し、 北 方 諸 民 族 の 製 革 の方 法 は 、現 在 の 工 業 技 術 と照 ら し合 わせ て み て も利 に適 っ た も の で あ る。
製 革 は 、 寒 冷 な 北 方 地 域 に お い て 普 遍 的 な 技 術 で あ り、 細 か くみ る と、 ツ ン ドラ地 域 よ
齋藤 極 北地域 にお ける毛皮革の利用 と技術
りも針 葉 樹 林 帯 に お い て複 雑 な 技 術(道 具 ・鞍 め し剤 ・繰 り返 しの 工 程;手 間 ひ ま)が 発 達 して い る こ とを指 摘 で き る 。 しか しな が ら、 製 革 の 文 化 は 自然 環 境 と生 業 との条 件 の 中 で 、入 手 素 材 と使 用 目的 とに よ り複 合 的 に 評 価 され るべ き も の と考 え る 。
製 革 技 術 は 、 人 び と が北 方 へ と居 住 地 を 拡 大 して い く際 に 、既 に 開 発 して い た寒 冷 地 に 適 応 す るた め の さま ざ ま な 古 い 技 術 と同 様 に、 早 くか ら普 及 して い た も の だ と考 え る こ と が で き る の で は な い だ ろ うか 。
付 記:毛 皮 革 利 用 と ツ ン ドラ の 植 物
最 後 に 、 製 革 工 程 の 中 で植 物 が 利 用 され て き た こ と を指 摘 して お き た い 。 針 葉 樹 林 帯 で は 靱 め し剤 や 燵 煙 の材 料 と して朽 ち木 が 多 用 され て き た が 、 一 方 ツ ン ドラ地 域 で も染 料 と して ハ ン ノキ 類 な どの 利 用 が広 範 な 地 域 に み られ る 。 ハ ン ノ キ に よ る染 色 は 、 特 に 北 東 ア ジ ア で 顕 著 で あ り、 さ らに ア ラ ス カ に も 及 ん で い る[SERov 1988;齋 藤1992]。 北 ア メ リカ の 北 西 海 岸 イ ン デ ィ ア ン で も 、 バ ス ケ ッ トや チ ル カ ッ トブ ラ ンケ ッ トを 染 色 す る の に 、 ヘ ム ロ ッ ク の樹 皮 や コ ケ を 尿 で 煎 じた り、 ハ ン ノキ で で き た桶 に 尿 を溜 めて お き 赤 い 染 料 を とっ て い た[キ ュー 、 ゴ ッダ ー ド1974]。 ハ ン ノキ 類 の樹 皮 を 煎 じた 染 料 は 、 そ こ に 含 まれ る タ ンニ ンに よ り鞍 め し剤 と して の 効 果 を も もち 、 ま た赤 く染 め られ た 毛 皮 は 、 北 方 地 域 の精 神 文 化 で は 重 要 な役 割 を担 っ て い る。
謝 辞
第9回 北 方 民 族 文 化 シ ンポ ジ ウ ム 発 表 原 稿 の 執 筆 に あ た り、 荻 原 眞 子 、 大 林 太 良(当 時 館 長)の 両先 生 に はひ とか た な らぬ ご指 導 を 仰 ぎ ま した 。網 走 市 の 渡 部 園子 氏 、 北 海 学 園 大 学 ロー ン ・カ ー ク ワ ー ド氏 に は英 文 作 成 に お い て ご協 力 い た だ き ま した。 さ ら に 、佐 々 木 史 郎 氏 を は じ め 同 シ ンポ ジ ウ ム 参 加 者 か らは 、 さ ま ざま な ご意 見 、 ア ドバ イ ス も い た だ き ま し た。 ま た 、 網 走 市 の 寺 田 弘 氏 に は、 皮 靱 め しに 関す る多 く の 文 献 を提 供 して い た だ き ま し た。 こ こ に、 記 して 感 謝 申 し上 げ ます 。
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