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東日本における樹皮利用の文化 : 加工技術の体系 と伝統

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東日本における樹皮利用の文化 : 加工技術の体系 と伝統

著者 名久井 文明

雑誌名 国立民族学博物館研究報告

18

2

ページ 221‑301

発行年 1993‑12‑22

URL http://doi.org/10.15021/00004223

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名久井  東 日本におけ る樹皮利用の文 化

東 日本 に おけ る樹 皮 利 用 の文化     加工技術の体系と伝統

名 久 井   文   明*

Systematic Study of Bark Processing in Eastern Japan

Bunmei NAKUI

The manipulation of tree bark can be found in many parts of the world. In Japan, too, it is widely distributed through Kyushu to Hok- kaido. However, in Japan the skill concerning bark manufacturing has not been taken up carefully as a subject of study. For this reason its whole picture, that being its historical source as well as its cultural genealogy is not always detailed.

We need some detailed indexes to make comparisons between different peoples, and regions. Also, studying material of different ages in a certain confined region can tell us much about various cultural fac- tors concerning the use of bark. For that reason it is more important to systematically accumulate many facts about the use of bark in a certain people and a certain region. From this point of view, I decided to look into folk bark products in Eastern Japan. I wanted to study Eastern Japan's products regarding the accumulation and manufacturing of bark.

In the first chapter, based on an interview with an elderly man, I first explain how bark was torn off in traditional Eastern Japan. It is largely classified into "the way to tear off" and "whole tree stripping." The former is classified into three ways: one is "tearing off vertically" used to get thin, long bark, another is "tearing off horizontally" used to get wide ones, and the other is "tearing off spirally," to get thin, long bark when tearing off is not impossible or when bark will be used for spirally wound objects. Secondly, I examine various kinds of bark products using the above methods. Next I explain the bark process skills, for example

岩手県立宮古高等学校,国 立民族学博物館国内資料調査委員

Key Words : the way to tear off, process skills, systematical accumulation, the Jomon Period, to continue

キ ー ワ ー ド:剥 離 法,加 工 技 術,体 系 化,縄 文 時 代,継

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国立民族学博物館研究報告  18巻2号

to join both edges of bark together after shaping in a circle, to join both sides together folding in two, to shave off and produce various shapes, to join four sides together spread and folded up, to knit, to assemble, to wind, to cover, and to use in free form. Finally I introduce actual recent folk material using the above processes.

In the second chapter, I relate modern examples to Jomon remains in Eastern Japan and to various other areas. By analyzing the skill, (such as, cutting bark like a tape, knitting, assembling, winding, bundl- ing up, twisting, spreading out, joining in a circle, shaving off producing

different shapes), comparison is possible. The two tearing off techniques (horizontal and vertical) used for products can be easily found in the Jomon Period. As well, there is a great possibility that "tearing off spirally" had existed. Tearing off bark and various process skills are remarkably similar to modern folk examples. Further, it is unclear if the "whole tree stripping" process existed in the Jomon Period. Since the Jomon Period, the bark culture has successfully continued in Japan.

は じめに

第1章 東 日本における伝統的樹皮 加工技     術の体系

 1.東 日本における樹皮採取法   (1)樹 皮採取 の適期

   (2)樹 皮採取 法の2大 別   剥離法 ≒      抜 き取 り法

   1)剥 離法

   2)抜 き取 り法一 サ クラ,オ ニグ      ル ミの例

 2.東 日本における伝統的樹皮加工技 術    と製品

   (1)剥 離法に よって得 た樹皮の利用    1)横 剥 ぎ型剥離 法で採取 した幅広      い樹皮の加工技術

   2)縦 剥 ぎ型剥離法で採取 した樹皮      の加工技術

   3)螺 旋剥 ぎ型剥離法で採取 した樹      皮 の加工技術

   (2)抜 き取 り法に よって得た樹皮の利      用技術

   1)輪 状 に整えた樹皮 の利用    2)筒 状 に採 った樹皮 の利用  3. ま とめ

第2章  縄文時代の樹皮利用   1。 縄 文時代 の樹皮加工技術

    (1)幅 狭L樹 皮 を 用 い た遣 物 か ら検証         され る加 工 技 術

     1)編 む技 術一 一縄 文時 代 の編 組 技         術

     2)巻 く技 術一 樹 皮 の帯 紐 の 存 在      3)束 ね る技 術

     4)芯 にす る技 術

     5)絢 う技 術    撚 糸,縄,綱 の存         在

    (2)幅 広 い樹 皮 を 用 い た遣 物 か ら検 証         され る加 工 技 術

      1)綴 る技 術 一 容 器 の 存在'      2)円 く曲げ,両 端 を綴 る技 術      3)折 り曲 げ て脇 を 綴 る技術      4)必 要 な形 を切 り出 す技 術      5)曲 げ て起 こす 技 術  2.縄 文 時 代 樹 皮 採 取 法 の 検証     (1)「 縦 剥 ぎ型 剥 離 法 」 に よる樹 皮 の         採 取

    (2)「 横 剥 ぎ型 剥 離 法 」 に よ る樹 皮 の         採 取

    (3)「 螺 旋 剥 ぎ型 剥 離 法 」 に よる樹 皮         の 採 取

    (4)抜 き取 り法 につ い て  3.  ま とめ

おわ りY'

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名久井  東 日本における樹皮利用の文 化

は  じ  め  に

  あ る種 の樹 皮 を選 択 し,樹 皮 が 備 えて い る諸特 性 を巧 み に取 り出 して活 用 す る技 術 は世 界 各地 に分 布 して い る。 それ は 大 別 す る と,主 と して 樹 皮 の物 理 的 性 質 を利 用す る こ とに よ って器 物 を 製 作 す る分 野 と,薬 品 や 染料,と りもち や川 漁 用 の毒 とい った 非 成 形 的 な成 分 利 用 の 分 野 とに分 け られ る よ うで あ る。 そ うい った樹 皮 利 用 の技 術 は わ が 国 に お い て も北 海 道 か ら九 州 ま で広 く分 布 して い るわ け だ が,樹 皮 加 工 に 関 わ る 技 術 文 化 に つ い ては これ まで研 究 対 象 と して あ ま り取 り上 げ られ て こなか った 。 そ の た めそ の全 容 は必 ず しも詳 らか で な く,文 化 的 系譜 は勿 論 の こ と歴 史 的 由来 も明 らか に な っ てい な い。

  い ま近 隣 諸 国 の状 況 を 見 る と,東 北 ア ジ アの 落葉 広 葉 樹 林 帯 に は 各種 の器 物 を樹 皮 で加 工 す る技 術文 化 が 発 達 して い る。 例 えば 中 国 東北 部,シ ベ リア,日 本 な ど各 地 の 民 族 が 残 した樹 皮 製 品 を 概 観 して み る と,そ れ ぞ れ に特 徴 的 な独 自性 を保 持 して い る と同時 に,ど こか し ら相 通 じる共 通 性 も観 察 され るの で あ る。 そ の よ うに 日本 の 近 隣 諸 国 に も樹 皮利 用 の伝 統 が あ る こ と,し か もそ れ が 本州 か ら北 海 道 へ,北 海 道 か らサ ハ リンへ,シ ベ リアか ら中 国 東北 部 へ とあた か も連 な る よ うに分 布 して い る こ と,そ

して あ る加 工 技 術 の 中 には 日本 の 例 に共 通 す る もの が認 め られ る こ とな どに着 目 して み る と,わ が 国 の樹 皮 加 工 技 術 文 化 が 日本 列 島 内に お い て独 自 に発 生 し,発 達 して き た もの とは 考 え難 い の で あ る。 で は わ が 国 の樹 皮 加 工技 術文 化 は東 北 ア ジア の落 葉 広 葉 樹 林 帯 の文 化 に そ の系 譜 が 求 め られ る の で あ ろ うか。 とこ ろが わ が 国 のそ の要 素 の 中 に は 東北 ア ジ ア との共 通 性 ぼ か りで は な く,北 ア メ リカ大陸 の少 数 民 族 に伝 え られ て い る樹 皮 加 工 技 術 との共 通 性 が 認 め られ る例 も存 在 して い る の で あ る。

  そ の よ うな諸 方面 との類 似 が 単 な る偶 然 の産 物 に過 ぎな い の か,そ れ と も何 らか の 歴 史 的事 実 を反 映 した もの であ るの か とい っ た点 につ い て は現 在 の とこ ろ全 く解 明 さ れ て い な い。 そ の こ とに つ い て相 互 を 比較 した り,そ こか ら見 出 され る異 同 の意 味 す る と ころ を理 解 す るた め の有 効 な手 段 を持 ち 得 て いな い,と い うの が現 在 の学 問 レベ ルの 実 状 と言 っ て よい だ ろ う。

  異 な った民 族 や 地 方 間 に おけ る樹 皮 利 用 を巡 る さ ま ざ まな文 化要 素 の対 比 を行 うた め に は,ま ず も って あ る民族 や 地 方 の樹 皮利 用 に関 わ る文 化要 素 の客 観 的事 実 を網 羅 的 に集 積 し体系 化 を 図 る こ とが肝 要 と思 わ れ る。 そ う した 集 積 と体 系 化 の作業 を 各地 の民 族 や 諸 地方 の場 合 に つ い て実 施 して い くな らば,異 な った 民族 間や 遠 隔地 間 の対

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国立民族学博物館研 究報告  18巻2号

比 も可 能 にな るに違 い な い。 も しそ うした 対 比 に よ って相 互 の 異 同 の濃 淡 を知 る こ と が で き る とす れ ば,そ こか ら相 互 の 親疎 の程 度 を推 量 す る とい うこ と も可 能 に な って くるの で は な いだ ろ うか 。 また この よ うな比 較 は あ る限 定 され た 地方 に お け る異 な っ た 時代 の資 料 ど うしに お いて も可能 と思わ れ る。 そ の結 果 も し新 旧 の異 同 を明 らか に す る こ とが で きれ ば,そ の地 方 に お け る文 化 的 連 続 や 断絶,他 地 方 との影 響 関 係 な ど に つ い て も推 察 で きる よ うY'な る と思わ れ る。

  私 は そ の よ うな 考 え に立 ち,私 に と って最 も調 査 が し易 い東 日本 の 民俗 例 に視 点 を 定 め て,樹 皮 を 利 用 して器 物 を 製 作 す る分 野 を 調 査 し樹 皮 の採 取 法 や 加工 技 術 に つ い て の 全 容 を 明 らか に し体 系 化 を試 み る こ とに した。そ してそ こで 得 られ た 知 見 を基 に, 比 較 の ひ とつ の例 と して縄 文 時 代 の 遺跡 か ら発 見 され た樹 皮 製 遺 物 との対 比 を試 み 相 互 の関 連性 に つ いて 考察 した。

  以 下 は2章 か ら構 成 され る が,第1章 で は東 日本 特 に東 北 地 方 に お け る 聞 き取 り調 査 並 び に 各種 樹 皮 製 品 の検 討 に基 づ い て,ま ず 伝 統 的 な樹 皮 の採 取 法 を 明 らか に して い る。 次 い で 各種 の樹皮 製 品 の精 査 を 通 して 得 られ た 樹 皮 加工 技 術 の 各 種 類 につ い て 網 羅 的 に 挙 げ,そ の具体 例 と しての 近 現 代 の樹 皮 製 民 俗 資料 を紙 数 の 許 す 範 囲 で紹 介 して い る。 これ ら の配 列 に つ い ては まず 素 材 と しての 樹 皮 の形 状 を決 定 す る こ とに な る樹 皮 の 採取 法 に よって 分 類 し,次 いで 樹 皮 を 加工 す る技 術 の 各種 に 依 った。 そ の体 系 の全 容 は コン パ ク トに 整 理 した表 と して この 章 の末 尾V'挿 入 してお い た 。

  第2章 で は 東北 地 方 そ の 他 の縄 文 遺 跡 か ら出 土 した 樹 皮 製遺 物 を 分 析 的 に技 術 分 解 す る こ とに よ り,ま ず 縄 文 時 代 の樹 皮 加 工 技 術 を検 証 し,そ れ に基 づ いて 縄 文 時 代 の 樹 皮 採 取 法 に つ い て も推 察 した。 そ の結 果 と して縄 文 時 代 の 樹 皮加 工 技 術 文 化 と近 現 代 のそ れ との 間G'は 濃 厚 な 共 通 性 が あ る こ とを 指摘 し,そ の意 味す る とこ ろ と してわ が 国 の近 現 代 の樹 皮 加 工 技 術 文 化 が,実 は 縄 文 時 代以 来 の伝 統 を受 け 継 いだ もの で あ る こ とを 論 じた 。

  な お この論 文 で扱 う樹 皮 は 繊 維 を利 用 す る もの が 多 いが,同 じ繊 維 が 採 れ る植物 で も タケ,シ ュ ロとい った 被 子 植物 単 子 葉 類 の 繊 維 は双 子 葉 類 の 場合 と植 物 学 的 に は全

く異質 で あ る ところ か ら,い か に丈 高 くな る もので あ って も こ こで は除 外 した 。   また この論 文 に 引用 した 樹 皮 製 品 は,1991年 に岩 手 県 立博 物 館 が開 催 した企 画 展 「

国 の樹 皮 文 化 」 に 展示 され た 資 料 を 中心 と して い る こ と,お よび 以下 の実 測 図 の 数値 の 単位 はmmで あ る こ とを お 断 りしてお きた い 。

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名久井  東 日本における樹皮利用の文化

第1章 東 日本におけ る伝統的樹皮加工技術の体系

1.東 日本 に お け る樹 皮 採 取 法   (1)樹 皮 採 取 の 適期

 北 日本 の落 葉 広 葉 樹 林 が最 も鮮 や か な彩 りを 見 せ るの は,秋 深 い紅 葉 の頃 であ る。

霜 が降 る よ うに な る と木 々 はそ の名 の通 り葉 を 落 と し,や がて 来 る春 のた め の新 芽 を 用 意 しな が ら長 い冬 の眠 りに就 くの で あ る。 そ して 早春,陽 の光 が再 び 力 を取 り戻 す 時,樹 木 は 旺盛 な活 力 を 回復 して芽 吹 きの季 節 を 迎 え る。新 芽 が 萌 え,樹 種 ご とに 少 しず つ 色 を 異 にす る新 緑 が 日毎 に濃 くな って,や がて 全 山 が したた る緑 に 包 まれ る。

ど うか す る とサ ク ラの葉 先 か ら滴 が こぼ れ 落 ち た り,切 られ た ヤ マ ブ ドウの 蔓 が さか ん に樹 液 を 出す の も この季 節 で あ る。 梅 雨 ど きか ら7月 にか か る この頃,樹 木 の活 動 は最 も活 発 とな って 水分 の吸 い 上 げ が著 しい ので あ る。

  樹 皮 を剥 い で利 用 しよ う とす る人 々が 山 に入 る のは ち ょうど この 時期 で,あ る古 老 は そ の 目安 を 「マ ダ の芽 が鷹 の爪 の よ うに な った 頃 」 と言 う。 サ ク ラは 花 が 咲け ば 剥 げ る とい う。 ウ リハ ダ カエ デは 冬 で も剥 げ る とい うが,多 くは 梅 雨 どき が適 期 で あ り, 普 通 土 用 が 来 れ ぽ剥 げ な くな る と言 わ れ て い る。 樹 皮 を 利 用す る植 物 の 種 類 は か な り 限 られ て お り,そ れ らの総 て に つ い て樹 皮 が 剥 げ る時 期 を 実験 に よ って 確 認 す る こ と は不 可 能 な こ とで は な い。 しか し一 旦 樹 皮 を 剥 ぐ とそ の樹 は枯 れ る とこ ろか ら,あ る 程 度 の太 さの 幹 か ら樹 皮を 剥 ぐ実 験 は事 実 上 困 難 な の で あ る。筆 者 は ヤ マ ブ ドウ,ス ギ,ヒ バ,サ ク ラ,ケ ヤキ,シ ナ ノキ,オ ニ グル ミな ど の樹 皮 を剥 い だ 経 験 が あ るが, そ れ らを通 して知 られ る こ とは,有 用 の樹 皮 で先 に 述 べ た時 期 す な わ ち梅 雨 どきか ら 7月 上 旬 頃 まで の 間 に剥 げ ない 樹 木 は な い,と い うこ と であ る。 で は伝 統 的 な樹 皮 の 採 取 法 は い か な る もの であ った か,東 日本 の 民俗 例 か ら紹 介 してみ よ う。

  (2)樹 皮 採 取 法 の2大 別     剥離 法 と抜 き取 り法

  い ま樹 皮 を 剥 ぐと表現 したが,厳 密 に言 うと2種 類 の方 法 に 大別 され る。 ひ とつ は 何 らか の方 法 で樹 皮 の 外面 を切 り開 き,そ こ を手 掛 か りと して 木 質 部 か ら樹 皮 を 引 き 剥 がす 方 法 で,こ の類 を 以下 で は 「剥離 法 」 と称 す る。 これ に対 し樹 皮 の外 面 を 切 り 開 くこ とな く,外 か ら叩 く こ とに よって 内皮 と木 質 部 の離 間 を図 り,木 質部 を抜 き去 る こ とで樹 皮 を獲 得 す る方 法 が あ り,こ れ を 以下 では 「抜 き取 り法 」 と称 す る。

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国立民族学博物館研究報告  18巻2号

  1)剥 離 法

 樹 皮 の剥 離 法 は,樹 皮 を 引 き剥 がす 際 の 方 向 の違 い に よ り3種 類 に細 別 され る。 第 1は 樹 幹 の 天 地 を繋 ぐ よ うに側 面 を 縦 に 切 り,そ の切 り口を 手 掛 か りと して樹 皮 を横 方 向 に幅 広 く剥 ぐ方 法 で,そ れ を こ こでは 「横剥 ぎ型 剥 離 法 」 と称 す る。 第2は 樹 幹 の一 側 面 を 横 に切 り,そ の 切 り口を手 掛 か りと してそ の幅 の樹 皮 を縦 方 向に 引 き剥 が す 方 法 で,そ れ を こ こでは 「縦 剥 ぎ型 剥 離 法 」 と称 す る。 第3は 樹 幹 また は 樹 枝 か ら 螺 旋剥 ぎに 採 る方 法 で,樹 皮 に 刃物 で螺 旋 形 に切 り込 み を 入 れ そ れ を頼 りに樹 皮 を 剥 ぐ方 法 と,切 り込 み を入 れ ず に 指 先 だ け で外 皮 を 剥 ぐ方 法 とが あ る。 この類 を こ こで は 「螺 旋 剥 ぎ型 剥 離法 」 と称 す る。 この よ うに剥 離法 とい うの は樹 皮 の表 面 に刃物 を 当 て,つ け た 切 り口を手 掛 か りと して樹 皮 を 引 き剥 がす 方 法 で あ る。

 A.横 剥 ぎ型 剥 離法

  ① 樹 木 か ら幅 広 く内皮 まで剥 離 す る場 合一 シ ナ ノキ の例

  1992年7月 岩 手 県 岩手 郡 雫 石 町 の山 内 で実 見 させ て戴 いた,同 町 在 住 の 小 田栄 二 氏 に よる方 法 。 山 の 斜 面 の雑 木 林 の 中 で,直 径 約20cmほ どで ま っす ぐ伸 び た 幹 に 枝 の 無 い シ ナ ノ キ を選 び,根 元 か ら鋸 で切 り倒 す 。4mぐ らい もあ る幹 を 残 して第1 枝 か ら先 を切 り落 とす。 横 倒 しに な って い る幹 の 最上 面 に普 通 の銘 を 当 て,木 質 部 が 数 セ ンチ 幅 で見 え る程 度 に樹 皮 を削 り取 って い く。 木 質部 が見 え る状 態 が端 か ら端 ま で 連 絡 した ら,そ の 総 て の部 分 で樹 皮 と木質 部 との 間 に銘 の先 を 少 しこ じ入 れ,樹 皮 を 少 しず つ 剥 離 させ なが ら移 動 して い く(写 真1)。 そ の よ うに して端 か ら端 まで 剥 離 させ た な ら,今 度 は 剥離 した 樹 皮 を 静 か に支 え て,銘 の先 を一 層 深 く差 し入れ る こ とを繰 り返す 。 前 後 左 右総 て の部 分 でそ の よ うに して い くと,遂 には 樹 皮 と木質 部 と が 完 全 に 分離 す る。 そ こがや や 傾 斜 地 で あ れ ば,樹 皮 の 筒 か ら木 質 部 だ け が滑 って 抜 け 出 る こ とで それ が 分 か る。 そ の場 合 は 傾 斜 の上 の方 の端 に手 を かけ これ を 勢 い よ く 頭 上 に 差 し上 げ る と,樹 皮 だ け を残 して木 質部 は あ っ と言 う間 に坂 の下 へ 滑 り落 ち て い く。 そ こが も し平 地 で そ うい う方 法 が と られ な い場 合 は,樹 を廻 して最 初 に銘 を 当 て た最 上 部 を下 にす る。 一端 で樹 皮 を持 ち 上 げ た ら,木 質 部 との 間 に細 い木 を か ませ る。 そ の うえ で も う一 方 の端 に も同様 にか ませ た ら,双 方 の細 い 木 を少 しず つ 中央 部 に ス ライ ドさせ て い く。 そ の よ うにす る と遂 に は樹 皮 のみ を 得 る こ とが で き るが,こ の場 合 も先 の斜 面 を利 用 した場 合 も,樹 皮 は一 側 面 が 開 口 した筒 状 を 呈 して い るか ら, この 開 口部 を 開 くよ うに して 適 度 な長 さに 折 り曲 げ,同 じ樹 の 小枝 を折 り取 って得 た 樹 皮 で縛 って 運搬 す る の であ る。 ち なみ に 上 記 の 小 田氏 は こ うして得 た 樹 皮 を 池 の 中

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名久井  東 日本 におけ る樹皮 利用 の文化

写 真1  横 剥 ぎ型 剥 離 法 で シナ ノキ の樹 皮 を 剥 ぐ(岩 手 県 雫 石 町,小 田 栄二 氏)

に 漬 け た うえで 内 皮 を分 離 し,幅 狭 く薄 く剥 い で蓑 を製 作 した 。

  山 形 県南 部 か ら新潟 県 北 部 に 再 興 された シ ナ織 りの 原材 料 も この方 法 で採 取 され て い る よ うで あ る し}大 量 に採 った キ ハ ダの樹 皮 を 運 搬 す る方 法 も上 記 と同様 で あ るか

らこ の方 法 は樹 皮 を大量 に入 手 した い 場 合 に採 られ る方 法 だ った と言 え る。

  ② 樹 木 か ら幅広 く内皮 まで 剥離 す る場 合    サ ク ラの例

  岩 手 県 山形 村 在 住 の長 内三 蔵 氏 か らサ ク ラの樹 皮 を 幅 広 く剥 ぐ伝 統 的 方 法 を伺 うこ とが で きた が,そ れ は 次 の よ うな も ので あ った。

  サ ク ラ の樹 皮 を剥 ぐの は 花 が 咲 く時 期 を は さん で,4月 下 旬 か ら5月 中 旬 頃 で あ る。 樹 皮 を 大 き く採 りた い場 合 はそ れ な りの太 い木 を選 ぶ 。 立 木 の場 合,採 りた い 幅 に銘 で幹 を 切 り回す が,こ の 時 木部 を傷 付 け ず樹 皮 だ けを 切 る よ うに注 意 す る。 上下 2条 を切 り回 した ら,樹 皮 の様 子 を見 てあ る位 置 を決 め,縦 方 向 の切 れ 目を 入れ て 上 下 の切 り回 した 部分 を連 絡 す る。 この よ うに して か ら,木 を削 って両 刃 に こ しらxて お い た へ らを 縦 の 切れ 目に 差 し入 れ て起 こ して い く。 そ の後 は二 人 で の作 業 とな る。

一 人 が へ らで樹 皮 と木質 部 との 間 を静 かに 剥 い で い き,も う一人がその剥 いだ樹皮を 引 き起 こ して い く。 この時 木 のへ らを使 うのは 木 を 傷 め な い た め であ る。 そ の よ うに して採 った樹 皮 を さ しあ た っ て使 わ な い場 合 は,内 面 側 を下 に して 広 げ重 い石 や 丸 太 を乗 せ て干 し上 げ る。 こ う して 乾 燥 した樹 皮 は 平 に な って い る か ら,こ れ を炉 の 上 の 火棚 に載 せ て お く。 そ うす る と虫 が 付 か な い。

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国立民族学博物館研究報告  18巻2号

  この よ うな伝 統 的方 法 を実 際 に 見 た い と思 っ て も,こ の よ うな方 法 で樹 皮 を採 取 し, 何 か の器 物 を 作 る こ とは現 在 で は 無 くな って い るか ら,伝 統 的 技 術 を 持 った人 に よ る 昔 な が らの方 法 を 記 録 す る機 会 を 得 る こ とは きわ め て困難 で あ る。 再 現 して も ら うに して もサ ク ラは も と も とあ ま り多 い樹 木 で は な い し,樹 皮 を剥 ぐ と枯 れ る とこ ろか ら 実 験 も困難 で あ る。 と ころ が1992年6月 下 旬,私 は幸 い に もサ ク ラの樹 皮 を剥 ぐ機 会

を得 た 。 そ の折 の経 験 を写 真 と共 に紹 介 して お きた い。

  この年 の春 か ら岩 手 県 宮古 市 教 育 委 員 会 は 同市 赤 前 遺 跡 内 の雑 木 林 で住 宅建 設 に促 され た 発 掘調 査 を実 施 した が,発 掘 区 の 中 の 雑 木 の 中 に樹齢20年 前 後 の2株 の サ クラ が あ った 。土 地 所 有 者 のお話 しに よれ ば,こ の土 地 は も とは 畑地 で,耕 作 を や め て放 置 して い る間 に ア カ マ ツや 諸 々の雑 木 と共 に この サ ク ラも 自生 した とい う。 私 は発 掘 調 査 のた め に これ らの樹 を 伐 らな けれ ぽ な らな い とい うこ とを 聞 き及 ん だの で,ど

せ伐 る な ら と土地 所 有 者 にお 願 い し,ご 承 諾 と発 掘担 当者 の ご理 解 を戴 いて サ ク ラの 樹 皮 を剥 が させ て も ら うこ とが で きた。 剥 ぐに 当 た って は民 俗 例 に よ る方 法 を 追 体験 す る こ とを 基 本 に した が,道 具 の 面 で の制 約 が あ った りして完 全 に 同 じ方 法 で は で き な か った。 まず 幹 を 切 り回す の に 銘 お よび 山 刀を 使 った が,樹 皮 の み を 切 って木 部 に 傷 を 付 け な い よ うに す る こ とは で きな か った 。 む しろ慎 重 に な るあ ま り木部 に近 い 所 で樹 皮 が切 れ ず に 残 る と,そ れ が 災 い して後 で剥 ぐ際 に樹 皮 の端 が 裂 け る こ とが分 か った 。 それ を 防 ぐに は 最初 の切 り回 しに よ って樹 皮 を 完 全 に切 断 しなけ れ ば な らず, そ の た め に はあ る程 度 木 質部 に切 り傷 が付 く こ とも止 む を 得 な い こ と と した。 切 り回 す の に用 い た刃 物 は 先 に 述 べ た通 りだ が,木 質部 の表 面 に は 凹 凸が あ るか ら ど うして も刃 が 届 か な い部 分 が 出 て くる。 試 しに 鋸 を使 ってみ た と ころ,こ れ が 最 も適 して い る こ とが分 か った 。 上 下2箇 所 を鋸 で切 り回 してか ら これ らを連 絡 す る縦 の 切 り込 み を入 れ るの だが,そ れ は 銘 で 容易 に で きた 。 伝統 的 な方 法 で は この縦 の切 り込 み に木 のへ らを 差 し入れ るが,準 備 で きかね た ので 手 持 ち の別 な刃 物 を使 用 した。 そ れ は杉 皮 を大 量 に 消費 した時 代 に 皮 つ き丸太 を 切 り回 す の に使 った 刃物 で,鋭 利 で 偏 平 な先 端 が弧 状 を な して い る。 そ の部 分 を樹 皮 の縦 の切 れ 目に 当て,こ じ開け る よ うにす る

と切 れ 目の樹皮 は水 分 を に じませ な が ら剥 離 す る。 そ こを手 掛 か りと して少 しず つ 刃 物 を こ じ入 れ て は起 こす こ とを 左 右交 互 に繰 り返 す とはか な り容 易 に剥 が れ た(写 真 2)O

  B.縦 剥 ぎ型 剥 離 法

  ① 樹 幹 か ら幅 狭 く内皮 まで剥 離 す る場 合    シナ ノキ の例

  1988年 の初 夏,岩 手 県久 慈 市 山 根 町端 神 に お い て実 見 させ て戴 い た,同 地 在 住 の岩

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名久井  東 日本に おけ る樹皮利用の文化

写真2  横剥 ぎ型剥離法でサクラの樹皮を剥 ぐ(岩 手県宮古市)

泉市 太 郎 氏 に よ る方 法 。 直 径 数cmの シナ ノ キを 銘 で 根 元 か ら切 断 す る。 太 い 枝 は 銘 で切 り落 とす が,細 い枝 は 根 元 側 へ手 で裂 くよ うに して付 け 根 か ら も ぎ取 る。 こ の時 も ぎ取 った 枝 に は まだ幹 に繋 が って い る樹 皮 が 残 って い る の で,そ れ を そ の まま根 元 の 方 へ と剥 い で い く。樹 皮 はあ くまで も剥 げ 易 く,ぬ るぬ る した 真 っ 白な木 質 部 を 見 せ な が らきれ い に剥 げ る。 そ の よ うに してす べ て の 枝 に 伴 う樹 皮 を 剥 い で も まだ 幹 に は 樹 皮 が残 って い るの で,そ の幹 を 手 で,あ るい は 膝 を 当 て て折 る。 す る と木 質 部 は 折 れ て も樹 皮 は 繋 が って い るか ら,そ こへ親 指 を 入 れ て 根 元 の方 へ と剥 い で い く。 こ の よ うに して 得 られ た樹 皮 は せ いぜ い 幅 数cmで,長 さ もさ ま ざ まで あ る。 岩 泉 氏 が 使 うの は そ の総 て では な い。 こ の樹 皮 は 外皮 と内皮 とか らな って い るが,使 用す るの は 内皮 の方 で あ る。 内外皮 を分 離 させ るに は,内 皮 側 を 内側 に して樹 皮 を折 る。 す る と外 皮 は折 れ るが 内皮 は折 れ 曲 が るだ け だ か ら,外 皮 の折 れ ロに親 指 を入 れ て剥 い で い く。

  これ は シ ナ ノキ の 内皮 を 用 い て縄 を製 作 す る場 合 の樹 皮 採 取 法 で あ る が,こ の 際 使

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国立民族学博物館研究報告  18巻2号

用 され な い外 皮 の方 は,適 度 な太 さ長 さに束 ね て お く。 そ して乾 燥 させ た 後 で夜 道 を 歩 く時 の松 明 に使 った 。 そ の よ うない わ ば廃 物 利 用 と言 って も よい松 明 を 作 る に は, シ ナ ノキ ば か りで な くウ リハ ダカ エ デや ヤ マ ブ ドウな どの外 皮 も利 用 した。

  ② 若 い樹 幹 か ら剥 く暢 合    オ ニ グル ミの例

  先 述 の岩 泉 市 太 郎 氏 が 背 中 当て と称 す る一 種 の入 れ物 を編 む際 に使 う樹皮 は オ ニ グ ル ミの樹 皮 であ る。 この樹 皮 は一 段 と柔軟 性 を必 要 とす る と ころか ら,若 い木 のそ れ を 使 う。 す なわ ち オ ニ グル ミの幹 を何 か の事 情 で根 元 付近 か ら切 断 した よ うな場 合, 春 か ら夏 にか け て そ の 切 り株 か らた くさん の新 芽 が 生 じ勢 い よ く成 長 す る。 これ らが 長 ずれ ば それ ぞ れ 株立 ち の幹 に な るが,背 中 当 て用 と して樹 皮 を 利 用 す る場 合 は1年 生 の太 さが 親 指 ぐらい の勢 い の よ い もの を選 ぶ 。 剥 ぐ場 合 は まず 銘 で 付 け根 か ら切 断

し,次 に切 り口か ら末端 側 ヘ ー 気 に 樹 皮 を剥 ぐ。 切 り口を廻 しなが ら4〜5度 の 動 作 で 身 ぐるみ 剥 ぎ,束 ね て保 存 す る。 これ が乾 燥 す る と容 易 に折 れ る状態 に な るが,水 に 浸 してや る と柔軟 性 を 回復 し,実 に 強靭 な素 材 と して再 生 す るの で あ る。

  ③ 蔓 か ら幅 狭 く内 皮 まで剥 離 す る場 合   ヤ マ ブ ドウの例

  前 述 の小 田栄 二 氏 が シナ ノキ の 樹 皮 を採 集 した折,ヤ マ ブ ドウの 蔓皮 を剥 く様 子 も つ ぶ さに観 察 す る こ とが で きた 。 ヤマ ブ ドウの 蔓 は樹 木 に絡 み 付 い て い る よ うな 曲 が りくね った もの は 対 象 外 で あ り,喬 木 の数mも あ る よ うな 高 い所 の枝 に ま っす ぐ伸 び た,し か もな るべ く太 い もの を 選 ぶ。 そ の よ うな蔓 を 見 つ け た らまず 鋸 で根 元 か ら 切 断す る。 次 い で両 手 を伸 ば して 無理 な く伐 る こ とが で き る所 か ら切 断 す る。 そ う し て 得 た 幹 の表 面 に は 難 な く取 れ る よ うな外 皮 が 付 い て い る か らそ れ を 取 っ て捨 て る と,そ こに は一 様 に きれ い な 皮 で 覆 われ た 肌 が現 れ る。 そ の 樹 皮 を端 か ら剥 い で い く が,も しもそ れ で縄 を製 作 す るの で あれ ば 端 か ら一 気 に 引 い て 剥 い で もか まわ な い。

しか しそれ で背 負 い籠 様 の入 れ 物 で も編 も う とす る時 は,せ いぜ いlcm前 後 の幅 で 数cmを 剥 ぎ,次 い でそ の隣 の数cmを 剥 ぐ とい った具 合 に幹 を廻 しな が ら少 しず つ 剥 い でい く。 そ の方 が仮 に 剥 い で い く途 中 で 幅 が狂 って もそ の 隣 を剥 ぐ際 に 調整 す る こ とが で きる か らで あ る。 編 み物 に使 う素 材 は長 いぽ か りで な く,な るべ く同 じ幅 で あ る方 が よい の で,こ の よ うな 方 法 を 採 る の で あ る(写 真3)1名 久 井(文)1991:

39]O

  C.螺 旋 剥 ぎ型 剥 離 法

  ① 樹 木 か ら外皮 だ けを 薄 く剥離 す る場 合   サ クラ の例

  岩 手 県 山形 村 の 内間 木 安 蔵 氏 か ら教 えて戴 いた サ クラの樹 皮紐 を 長 く採 る方 法 は 次 の とお りで あ る。 直 径13cmぐ らい の サ ク ラの 幹 に 縦 に短 く傷 を 付 け,そ れ を 手 掛

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名久井  東 日本における樹皮利用の文化

写 真3  縦 剥 ぎ型 剥離 法 で ヤ マ ブ ドウの蔓 皮 を剥 ぐ(岩 手 県雫 石 町,小 田栄二 氏)

か りと して外 皮 を 幅2cm前 後 に保 ち つつ 指 先 で横 に裂 きな が ら剥 ぎ始 め る。 そ の作 業 は 常 に 自身 の正 面 で行 う必要 が あ る とこ ろか ら,剥 離 の進 行 に伴 っ て 自 ら幹 の 周 囲 を巡 りなが ら片 手 で 剥 ぎ,も う一方 の手 で巻 き溜 め る。 そ の際 で きる だ げ長 く採 りた い と ころか ら,幹 に 螺旋 を 描 くよ うに しか も角 度 を 緩 くと って 剥 い で い く。 こ う して 得 た樹 皮 紐 は 編 み 籠 類 を作 った り豆 を 蒔 い た後 の畑 に鳩 除 け のた め に 張 った りした 。 この方 法 で外 皮 を 採 る こ とが で き るの は 木 が若 い うち で,あ ま り太 い 木 に な る と樹 皮 が 荒 くな って採 る こ とが で きな い。

  次 に 私 が サ ク ラの枝 を 使 い実 験 的 に刃 物 を 用 い た方 法 を紹 介 して お きた い 。 サ ク ラ の枝 で 太 さ2〜3cmの もの を選 び,端 か ら小 刀 で 螺 旋 状 に 切 れ 目を刻 ん で い く。 螺 旋 は な るべ く角 度 を緩 く切 れ 目の深 さは外 皮 だ け が 切 れ る程 度 で よい。 切 れ 目を 刻 ん だ らそ れ に従 い 端 か ら静 か に 剥 い で い く。 こ う して剥 ぐこ とに よって 長 い樹 皮 紐 を 得 る こ とが で き るわ け だ が,こ の時 樹 皮 紐 が カー ルす る場 合 が あ る。 そ の カ ール した 樹 皮 紐 と全 く同一 の外 観 を 呈 した樹 皮 が 縄 文 時 代 晩期 の遺 跡 か ら出土 して い る こ とは後

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述 す る。

  ② 樹 木 か ら内 皮 ま で剥 離 す る場 合    オ ニ グル ミの例

  1990年7月 初 旬,岩 手 県二 戸郡 浄 法 寺 町 に て 同町 在 住 の 佐藤 基 三 氏 が クル ミの樹 皮 で一 種 の 笛 を製 作 した 際 に 実 見 させ て戴 い た 方法 で あ る。 ち な み に佐 藤 氏 は大 正 時 代 に 「ボ ホ ノ ゲ ェ」 と称 す るそ の 笛 を近 所 の 子 供達 と作 っ て遊 ん だ経 験 者 であ る。 そ の 笛 は,18世 紀 の末 か ら19世 紀 に か け て北 日本 を旅 しなが ら各 地 の民 俗 資 料 や風 俗 そ の 他 を記 録 した菅 江 真 澄 が ス ケ ッチ した胡 桃 の 皮 の 「笛 」と全 く同一 で あ る とこ ろか ら, 佐 藤 氏 の 伝 え る技 術 は江 戸 時 代 か ら連 続 して い る こ とが 明 らか な の で あ る 【名 久 井

(文)  1990c】

  まず クル ミの無 節 の若 木 で,太 さ5cm程 の もの を長 さ約80 cmに 切 る。 そ の一 端 を 左手 で持 ち,別 な一 端 を 台 の 上 に載 せ て や や角 度 を保 ちな が ら右 手 に持 った銘 の刃 を 当 て る。 刃 を 当 て た ま ま,台 の 上 で クル ミの 木 を上 げ ては 落 とす こ とを繰 り返 しな が ら,木 を 徐 々に 向 こ う側V'廻 して行 く。 す な わ ち木 質 部 まで 達 す る深 さを維 持 しな が ら螺 旋状 の 切 り込 み を入 れ て い く。 切 り込 み の 幅 が お よそ5cmぐ らい に な る よ う に して末 端 まで 至 った ら,端 の 樹 皮 を指 で起 こ し,親 指 を入 れ な が ら木 を廻 して い く と樹皮 は簡 単 に 剥離 す る。 こ う して 得 た樹 皮 の加工 につ い ては 図36の 資 料 紹 介 に ふれ た 。

  2)抜 き取 り法 一 サ ク ラ,オ ニ グル ミの 例

  伝統 的 な方 法 に 従 い,私 が 復 元 的 に 実験 した 方 法 に つ い て紹 介 して お こ う。 片 手 で 握 る こ とが で き る程 度 の サ ク ラの 枝 先 側 を 鋸 で切 断 し,端 か ら10cmぐ らい の所 の 樹 皮 を鋸 で切 り廻 す。 そ の余 の部 分 を左 手 で持 ち,台 の上 で切 り廻 した先 を木 槌 で静 か に叩 い て は廻 す 。 樹 皮 に傷 を つ け な い よ う注 意 しな が らそ の10cm幅 の部 分 を ま ん べ ん な く叩 い た ら,ち ょ うど タ オル を絞 る要 領 で握 り,絞 ってみ る。 も しまだ 動 か な い よ うで あれ ば も う少 し叩 い て は 絞 ってみ る こ とを繰 り返 す 。 そ うして い る うち に スル リと廻 り,抜 くこ とが で き る。 この方 法 が 採 られ た の は サ クラの ほ か オ ニ グル ミ だ が,い ず れ も片 手 で握 る こ とが で き る範 囲 内 の太 さ まで で,そ れ 以 上 太 くな る と困 難 で あ る。

  以上 に よ り 「剥 離法 」並 び に 「抜 き取 り法 」に よる樹 皮 の採 取 法 を紹 介 して きたが, いず れ に しろ樹 皮 の獲 得方 法 は,作 り手 が それ を ど う使 お う とす るか に よっ て選択 さ れ た 。 で は この よ うな 方法 で得 た 樹 皮 を 用 い る加 工 技 術 に は どの よ うな ものが あ った

ので あ ろ うか。

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2.東 日本 に お け る伝 統 的 樹 皮 加 工 技 術 と製 品 (1)剥 離法に よって得た樹皮の利用

  1)横 剥 ぎ型 剥 離 法 で採 取 した 幅 広 い樹 皮 の 加工 技 術

  長 さ よ りも幅 の あ る樹 皮 が欲 しい 時 に採 られ た の が この方 法 で,内 皮 まで 厚 く剥 ぐ 場 合 と外 皮 だ け薄 く剥 ぐ場合 が あ る。

  A.幅 広 く,内 皮 まで 剥 い だ厚 い樹 皮 に よ る製 作   ① 縦 に裁 断 す る

図1  円筒型容器(使 用地:青 森県南郷村,上 村四郎氏所蔵)

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  長 さが80cmを 超 す 幹 か ら樹 皮 を 幅 広 く剥 ぎ,縦 に 分 割 して 樋 を 作 っ た 名 久 井 (文)  1991:441。

  ② 円 く曲げ,両 端 を綴 る

  多 くは底 も し くは底 に相 当 す る製 作 を 行 って容 器 と して 用 い て い るが,希 に 単 な る 輪 と して用 い た 例 もあ る。 前 者 に は深 浅 の 円 筒型 容 器 類 の ほ か手 提 げ,お よび 穀物 類 を掬 い取 る用 具 な どが あ る。

  a.筒 型 容器 の類

  円筒 型 容 器(図1)【 名 久 井(文)1991:68】

  高 さに お い て最 大 級 の 樹 皮 製 品 で あ る。 直 径40cm程 度 の ケ ヤキ の 樹 幹 か ら樹 皮 を 幅 広 くか つ 厚 く横 剥 ぎ に し,丸 まろ う とす る性 質 を利 用 して 円 筒 と し底 に 板 を は め た もの。 樹 皮 の端 は重 複 され ず 端 と端 が突 き合 う形 で綴 られ て い る。 そ のた め 底 部 付近 で は 当初 の形 状 を維 持 して い るが,上 端 に 向 か うに従 って 乾 燥 に よる変 形 のた め 突 き 合 わせ た部 分 が 内 側 に入 り込 んで い る。 綴 り紐 は木 質 で,フ ジ また はサ ル ナ シを 薄 く 裂 い て テ ー プ状 に した もの。 綴 り穴 は 円形 。 底板 は釘 止 め され て い る が,釘 は 断 面方 形 の和 釘 で あ る。

  底 に縄 を張 った 容器(図2)[名 久井(文)  1991:64】

  樹 皮 で作 った 筒 の 底 の部 分 に細 縄 を粗 く張 り渡 した入 れ 物 。 これ と同様 に製 作 した もの が隣 村 で も一 例 発見 され てい るか ら,あ る特定 の機 能 を 持 った容 器 と思 わ れ るが 名称 も用 途 も判 明 して い な い。 筒 は 幅広 く横 剥 ぎに採 った 樹 皮 の本来 の天 地 を 横 に,

しか も裏 返 しに した 状態 で作 られ て い る。 両 端 を綴 り合 わ せ る綴 り紐 は シナ ノキの 樹 皮 を撚 った2筋 の 細縄 で,こ れ が 側壁 を縫 い 上 端 で は 内外 の樹 皮 を巻 き締 め て固 定 し て い る。 底 部 に相 当 す る細 縄 も シナ ノキ の樹 皮 で 作 られ て い るが,こ の張 り渡 しは 横 一 列 に 開 け られ た 小 さい孔 を使 って い る

  粟籠(図3)【 名 久 井(綾)  1990;名 久 井(文)  1991:64]

  樹皮 製 の器 体 の 底 部 に笠 子 を敷 き,上 端 に 吊 り下 げ るた め の縄 を 付 けた もの で古 色 が 著 しい。 直 径 に お い て最 大 級 の樹 皮製 品 で あ る。器 体 の全 体 形 は浅 い が,横 剥 ぎに 幅 広 く採 った 樹 皮 の 本来 の天 地 を 横 に,し か も裏 返 しに して筒 状 と して い る こ とは 図 2例 に 共 通 して い る。 樹 皮 の 末端 は約30cmに 渡 って 重複 され て お り,そ れ ぞ れ が シ ナ ノキ の樹 皮 縄 に よって 他方 に強 固 に綴 り留 め られ て い る。 器 体 の 口縁 外 面Y'は2枚 の 割竹 が シナ ノキ の 樹皮 縄 で絡 げ 留 め られ,下 端 に は 内外 に ヤ マ ブ ドウの よ うな木 質 の 蔓 材 が や は りシ ナ ノキ の縄 で絡 げ 留 め られ て い る。笠 子 は平 行 させ た篠 竹 を シ ナ ノ キ の樹 皮縄 で編 ん だ もの で,本 体 下 縁 に格 子 状 に 張 り巡 らせ た 針 金 に よ って支 え られ

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名久井  東 日本における樹皮利用の文化

図2  底に縄を張 った容器(使 用地:岩 手県葛巻町,葛 巻町教育委員会所蔵)

て い る。 これ は畑 で 天 日乾 燥 させ た 後 に屋 内 に運 び 込 まれ た ア ワか ら穂 を 切 り取 り, 炉 の 上 で 乾燥 す る時 に 用 い た容 器 だ が,そ のた め の入 れ 物 と して は希 有 な 例 で あ る。

とい うの は,い ま岩 手 県 内 で ア ワの収穫 後 の処 理 工 程 に つ い て 聞 き取 り調査 をす る と, 名 称 こそ 「粟 干 し籠 」 だが 籠 は 名 ば か りで,底 に笠 子 を張 った 脚 付 きの箱 で あ る。 そ れ に対 して この 樹 皮製 容 器 は,板 あ るいは 鋸 が 普 及 す る 以前 の古 い 形 態 を残 した も の か も知 れ な い。 なお これ と同 じ機 能 を 持 った 大 型 の樹 皮製 容器 は岐 阜 県徳 山村 に もあ る 【徳 山村 教 育委 員会   1987:図219】。 また 中部 地 方,北 陸 地 方 に は こ の よ うな形 状 を 呈 す る大 型 の樹 皮 製 容 器 と して,乳 幼 児 を保 育 す る イ ズ メが あ る 【坂 本   1989】   b.手 提 げ 型 容器 の類

  手 提 げ型 容 器(図4)[名 久 井(文)1991:681

  樹 皮製 の浅 い筒 に取 っ手 を付 け た 手 提 げ型 容 器 。 器 体部 は ケヤ キの 樹皮 を幅 広 く厚

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国立民族学博物館研究報告  18巻2号

図3  粟籠(使 用地:岩 手 県大迫町内川 目,大 迫町教育委員会所蔵,作 図者:名 久井綾(当 時    岩手県立盛岡第一高等学校生徒))

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名 久井  東 目本に おけ る樹皮利 用の文化

図4  手提げ型容器(使 用地:青 森県南郷村,上 村四郎氏所蔵)

く横 剥 ぎに した 直後 の復 元 力 を 利 用 し,本 来 の天 地 を そ の まま に製 作 され て い る。 樹 皮 の末 端 は 突 き合 わせ,針 金 に よ って絡 げ 留 め られ て い る。2枚 の 板 を接 い だ底 板 は 幾 分 揚 げ 底 気味 に はめ 込 まれ て か ら,相 対 す る2ヵ 所 で釘 留 め され,板 と内壁 の間 に 何 らか の接 着用 の 材料 が 塗 られ た形 跡 が あ る。 取 っ手 は フジ蔓 ら しい。 用 途 は不 明で

あ る。

  c.輪

  輪(図5)【 名久 井(文)  1991:73,1992:66】

  殻 つ きの ヒエ を 大量 に蒸 す 時 に 大 釜 の縁 に置 いて 容 量 を増 す た め,釜 の 口径 に見 合 うよ うに作 られ た 大 口径 の輪 で あ る。 この用 具 を 樹 皮 で作 る こ とは,ト タ ンが普 及 す る まで続 いた よ うで あ る。 樹 皮 を 横 に しか も裏 返 しに使 って い る こ とは 図2,図3な ど と同 じで あ る。

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国立民族学博物館研究報告  18巻2号

図5  輪(使 用地:岩 手県種市町,種 市町教育    委員会所蔵,作 図者:大 久保 さえ(当 時    岩手大学生))

  以 上 の 筒 型 容器 の類 に は樹 皮 本 来 の天 地 を 横 に 使 う例 が あ った わ けだ が,そ れ は 主 と して本 来 の天地 の ま ま使 った の で は作 る ことが で きな い よ うな大 口径 の 容器 を作 る時 に採 用 され る方 法 で あ った。

  ③ 二 つ 折 りに して,両 脇 を 綴 る   袋 型 容 器(図6)【 名 久 井(文)

1991:47]

  長 さ 約140cm,幅 約63 cmの ク ラの樹 皮 の ほ ぼ 中央 部 を 幅 の狭 い 底 部 と して,そ こか らあ たか も二 つ 折 りにす る形 で 両脇 を合 わ せ た 容器 で あ る。 重 複 させ て両 脇 を 綴 じ る こ とを な るべ く下部 か ら開 始 した い た め か,底 部 に な る部 分 の樹 皮 の 両側 辺 に入 れ る切 り込 み の幅 は初 め か ら 狭 い。 全 体 形 に対 して底 部 が 極 端 に 小 さ い か ら 自 立 す る こ とが で き な い。 これ は 安 定 の よさ よ りも,.機 能 を優 先 した 製 作 と判 断 され る。 定 置 式 の安 定 の よい容 器 な ら同 じ地 区 に 図1の よ うな形 態 があ った 。 そ れ らに対 しこれ は 恐 ら く運 搬用 の容 器 で あ ろ う。口縁 外 面 に は サ ル ナ シか あ るい は フジ の蔓 が添 え られ, 同 じ材 か ら作 られ た よ うに 見 え る木 質 の テ ー プ状 素 材 で絡 げ られ て い る。 両 脇 を 綴 っ て い るの も同 じ材 であ る。

  ④ 広 げ て製 作 す る類

  幅 広 く採 った樹 皮 を 広 げ,矩 形 に整 え て縁 を 付 け た だけ の簡 単 な もの と側 縁 を 折 り 立 て る類 が あ り,後 者 は 箱 型 容器 と箕 型 容 器 に分 け られ る。

  a.縁 をつ け る

  と うか(図7)【 名久 井(芳)  1986a:166;名 久 井(文)  1988:34】

  貯 蔵 して お い た ヒエ を 食 べ る際,一 旦 蒸 してか ら乾 燥 しそ の 後 で 皮 を剥 くこ とが あ った。 そ の乾 燥 の ため に 造 られ た乾 燥 小 屋 の 内壁 に は た くさん の 棚 が造 り付 け られ て

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名久井   東 日本におけ る樹皮利用の文化

図6  袋 型 容 器(使 用 地:青 森 県南 郷 村,上 村 四 郎 氏所 蔵)

お り,そ こに ヒエを 入 れ た 浅 い皿 型 の容 器 を差 し入 れ て,地 面 中央 で薪 を燃 や した 【 久井(芳)  1986a:165】。 そ の 浅 い 皿 型 容 器 に は 板 製,側 が 板 で底 が トタ ン製,厚 板 を く り貫 い た もの な どの 種 類 が あ り,そ のひ とつ が樹 皮 を 用 い た 「か ば と うか 」 で あ る。 岩 手 県 の ほ か 青森 県 下 北 半 島 で も使 わ れ た 。 用 い られ るの は サ ワ グル ミの樹 皮 が 多か った よ うで,横 剥 ぎに 採 った樹 皮 が 丸 ま ろ うとす るのを 広 げ て,木 口側 の両 縁 に ひ と掴 み ほ どの ムギや ヒエ の 桿 を絡 げ止 め るの が普 通 で あ る。 この 時 な に も手 を 加 えな い別 の二 縁 に は 丸 ま ろ うとす る力 が働 い てあ る程 度起 き上 が るか ら,全 体 と して 四 方 に縁 の あ る皿 型 容器 と して 機 能 す るわ け であ る。

  か す り(図8)【 名 久井(文)  1991:671

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国立民族学博物 館研究報告  18巻2号

図7  と うか(使 用地:岩 手 県 山 形 村,長 内三 蔵 氏 所 蔵)

  横 剥 ぎに 厚 く剥 いだ ケ ヤキ の樹 皮 の木 口側 の一 方 に予 め 取 っ手 を 付 け て お いた 半 円 状 の板 を 釘 留 め し,中 程 に つ っか え棒 を入 れ た 穀 物類 を掬 い取 る用 具 で あ る。 この つ っか え棒 は,掬 い取 る際 の 取 っ手 の一 方 も兼 ね て お り,板 に 付 け られ た方 と共 に 手 脂 に よる光 沢 が あ る。 外 壁 の 下面 先 端 か ら中 央 部 まで摩 滅 が 顕 著 で あ る。

  以上 の 幅 広 い 樹皮 を広 げ て 製 作 す る類 は,先 に 述 べ た筒 型 容 器,次 に 述べ る箱 型 樹 皮 な どと異 な って樹 皮 を 重 複 させ る部 分 が な い わ け で あ る。

  b.四 方 の側 面 を折 り立 て て 綴 る

  箱 型 容 器(図9)【 名 久 井(文)  1988:36,1991:69】

  全 体 に 真 っ黒 く煤 け,古 色 が 顕 著 な樹 皮 製 の 深 い 箱 型容 器 で,名 称,用 途 な どは 判 明 しな い 。 外 周 が63cmぐ らい の サ ク ラの樹 か ら横 剥 ぎ に厚 く剥 い だ 樹 皮 を方 形 に

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名久井  東 日本における樹皮利用の文化

図8  か す り(使 用地:青 森 県 南 郷 村,上 村 四郎 氏 所 蔵)

整 え た 後,木 口方 向か ら側 縁 に平 行 させ た 切 り込 み を2ヵ 所 に入 れ る こ とで3分 割 す る。 これ と同 じこ とを も う一方 の木 口側 に も行 う。 そ う した うえで,外 皮 を外 面 に し て まず 木端 側 の両 側 面 を 折 り立 て る。 この 時 先 に 切 り込 み を入 れ て お い た 木 口側 の部 分 も立 って い るか らそ れ を 内 側 に折 り込 む 。 そ の よ うに して箱 の 内壁 が形 成 され た後 に,残 って い た木 口側 の 中央部 を折 り立 て るか ら,外 側 か ら見 る と重 複部 分 を覆 い隠 す よ うな きれ い な仕 上 が りとな る。 この よ うな 製作 方 法 を採 る こ とで,箱 の側 壁 は樹 皮 が1枚 だ け の側 壁 ど う しと,樹 皮 が3枚 重 な って い る側 壁 ど う しとが互 い に 向 き合 うこ とに な る。 こ の3枚 の樹 皮 は,撚 りを か け な い シナ ノ キ の 内皮 に よ って,左 右 の 2ヵ 所 を下 か ら上 へ と綴 り止 め られ た が,綴 り紐 は それ ぞれ1ヵ 所 に しか 残 っ て いな い 。綴 り孔 は錐 の よ うな もの で扶 って開 け た とい う印象 よ りも,先 端 が鋭 い工具 で押 し広 げ られ た よ うに 見 え る。貫 通 孔 が 内表 面 で 横 方 向 に裂 け 加 減 に な って い る こ とは,

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国立民族学博物館研究報 告  18巻2号

図9  箱 型 容 器(使 用 地:岩 手 県 山形 村,長 内三 蔵 氏 所 蔵)

そ の よ うな 孔 の 開 け方 と共 に,製 作 時 ま だ樹 皮 が 乾 燥 して い ない 段 階 で綴 り紐 が強 力 に 引 き締 め られ た こ とを物 語 って い る。

  以上 の よ うに箱 型 容器 は,横 剥 ぎに採 った1枚 の 幅 広 い樹 皮 を も って,底 と側 壁 と が 同 時 に で き あが る とい う点 が,筒 型 容器 と異 な る と ころ で あ る。 この こ とは底 板 を 別 に 支度 しなけ れ ば な らな い筒 型 容 器 と異 な って きわ め て手 軽 にで き る容器 で あ る こ とを意 味 して い るが,そ の割 合 に は 民 俗 例 に この 類 は あ ま り多 くな い。樹 皮 製 容 器 に な じん だ 山住 み の古 老 の記 憶 か らも この 類 は消 えて い る よ うで あ り,木 箱 の普 及 に よ って駆 逐 され た ものか か な り以前 に姿 を 消 した こ とを 窺 わ せ て い る。 樹 皮製 の箱 は鋸 が 普 及 す る 以前 に おい て は,容 易 に製 作 で きる容 器 の一 種 と して相 当 に 身近 な存 在 だ

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名久井   東 日本におけ る樹皮利用の文化

った で あ ろ う。

  c.一 側 面 を 折 り立 て て綴 る

  か ば 箕(図10)【 名 久井(文)  1988:35,1989:80,1991:66】

  脱 穀 した ソバ の実 を 唐箕 に入 れ るな ど,穀 類 を別 な もの に 入れ る時 に 多 く用 い られ るの が 樹 皮製 の箕 で あ る。 多 くの例 でサ ク ラの樹 皮 が 使 わ れ る。 サ クラは 「か ぽ」 と 呼 ぼ れ るが,サ クラ では な しYyク ル ミや ケヤ キ の樹 皮 で作 った場 合 で もそ の名 は か ば 箕 で あ る。 岩手 県 内 で見 る こ とが で きる形 態 に は縦 長 型,横 長 型,中 間 型 の3種 類 が あ り,図 の例 は縦 長 型 の典 型 で あ る。

  幅 広 く内皮 まで厚 く横 剥 ぎに した サ ク ラの 樹 皮 を整 え て,片 方 の木 口側 だ けV'箱 型 容器 を作 る時 と同様 に切 り込 み を 入 れ,外 皮 を 外 面 に して順 次 折 り立 て て い る。 重 複 した3枚 の樹 皮 を綴 る の は クズ蔓 で あ る。 箕 の 注 ぎ 口 とな る も う一 方 の木 口側 を 除 い て,縁 の 内外 に は半 裁 した細 い木 が サ ル ナ シの蔓 を 裂 い た よ うな もの に よ って絡 げ 止 め られ,作 業 の 際 の 手掛 か りと縁 の 補 強 を兼 ね て い る。

  ⑤ 形 を 削 り出す

  が ん ぎ(図11)【 名 久井(文)  1988:33,1989:150】

  焼 畑 で ヒエや ア ワを 収 穫 す る際 に鎌 の よ うに して茎 を 引 き切 る穂 摘 み 具 で あ る。 ケ ヤキ の 分厚 い樹 皮 が 採 れ た 時 に で も切 れ端 で作 ってお い た の で あ ろ うか 。 刃部 がか な

図10  か ば箕(使 用 地:岩 手 県 田野 畑 村,岩 手 県立 博 物 館 所 蔵(畠 山家 資 料))

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国立民族学博物館研究報告   18巻2号

図11が ん ぎ(使 用 地:石 川 県 旧新 丸 村 小 原,伊 藤 常 次郎 氏所 蔵)

り先 奥 に入 り込 ん で い る が,最 初 は 横 か ら直 角 に 切 り込 ん だ もの ら しい。 そ れ が使 拝 に つれ て摩 耗 して くる と新 たに 刃 を 削 り出す とい うこ とを繰 り返 す うちに この よ うに 刃部 が後 退 した もの で あ る。 金 属 器 出現 以前 の刃 物 を 推 測 す る うえ で貴 重 であ る。

  B.幅 広 く,外 皮 だ け剥 いだ 薄 い樹 皮 に よる製 作

  銘 の鞘 を 締 め た り,曲 げ 物 を 綴 じた りす る には サ クラの樹 皮 を使 うが,サ ク ラの樟 皮 は縦 剥 ぎに は で きな い も ので あ るか ら,必 ず 横 剥 ぎに それ も外 皮 だ け 薄 く剥 い で但 う。 た また ま良材 が あ って 剥 ぎ溜 め て お く時 は,10cm余 ぐらい の幅 に 剥 い で 何枚 竜 重 ね て重 石 を して お き,使 う時 は 十 分 湿 め らせ てか ら使 う。

  鞘 の組 み 綴 じ素 材 と手 法(図12,13)【 名 久井(文)  1991:38】

  サ ク ラの 外 皮 を 幅2cm前 後 の帯 状 に 切 り,必 要 部 分 に 最 適 な大 き さの輪 を作 り, 末 端 を組 む よ うに 綴 じてか ら,鞘 に は め た もの で あ る。 図12例 の元 に近 い方 の樹 皮 菅 の組 み綴 じ方 は あ ま り見 か け な い方 法 に よ って い る。 す な わ ち末 端 ど う しの組 み 合 才 せ で は な く,一 方 の 末端 が他 方 の中程 に切 り開 か れ た 部 分 に挿 入 され て い る。 そ の,,, だ け に着 目す る と,大 興安 嶺 の オ ロチ ョソ族 が使 った 煙 草 入 れ 名 久 井(文)  1991 961の 製 作 工 程 に 共通 す る とこ ろが あ る。

2)縦 剥 ぎ型 剥離 法 で採 取 した 樹 皮 の加 工 技 術

 幅 狭 くそ して 長 く,し か も厚 い 樹 皮 を得 た い場 合 に 採 用 され た のが こ の剥 離 法 で 凌 る。 樹 木 や 蔓 か ら この方 法 で得 られ た樹 皮 を 加 工 す るの に駆 使 され た 加 工 技 術 は 多相 で あ った 。 巻 く,折 り畳 ん で綴 る,束 ね る,三 つ 編 み に す る,縄 に絢 う,編 む,縄 て

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名久井  東 日本におけ る樹皮利用の文化

図12皮 剥 ぎ鉋及び鞘 とその組み綴 じ手法(使 用地:岩 手 県雫石町,雫 石町教育委員会所蔵)

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国立民族学博物館 研究報告  18巻2号

図13皮 剥 ぎ及び鞘 とその組み綴 じ手法(使 用地:岩 手県雫石町,雫 石町教育委員会所蔵)

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名久井  東日本における樹皮利用の文化

編 む,組 む,織 る,な どさ ま ざ まな加 工 技 術 が,単 独 で あ るい は 組 み合 わ され て樹 皮 製器 物 が作 られ た。    1

  A.帯 紐 を 作 り,巻 く

  背 負 い台 の 巻 き皮(図14)【 名 久 井(文)  1991:46】

  炭俵 や薪 な どを 山 か ら運 び下 ろす 際 に使 う背 負 い梯 子 の背 に 当た る部 分 に は緩 衝 用 と して 細縄 が巻 か れ るの が通 例 だ が,こ の例 で は ヤ マ ブ ドウの蔓 か ら縦 剥 ぎに採 っ た 厚 い 皮 を巻 い て い る。長 さが足 りな くな る と次 の皮 を 結 び足 して い るが,そ の結 び 目 を 背 中 に 当 た ら な い面 に作 る こ とは 当 然 で あ った。

  B.折 り畳 み,綴 る

  木 の 皮 せ った(図15)【 名 久 井(文)  1991:36】

  フ ィール ドで は全 く見 か け な い希 有 な例 で,名 称 も今 は 絶 え た と ころか ら菅 江 真 澄

図14背 負 い台 の巻 き皮(使 用 地:岩 手 県 和 賀 郡 内か,照 井 定 子 氏所 蔵)

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国立民族学博物館研 究報告  18巻2号

図15  木 の皮 せ った(使 用地:青 森 県 下 北 郡 内か,稽 古 館 所 蔵)

の 日記 か ら借 用 して お く。 田中 忠三 郎 氏 に よれ ぽ この製 作 法 を知 って い る人 が下 北 郡 む つ市 川 内 に,昭 和50年 代 に は い た とい う。 青 森 市 に あ る稽 古 館 に は 大 小2足 が所 蔵 さ れ てい るが,製 作 方 法 は 全個 体 と も同 じで あ る。図 示 した の は 大 の方 の片側 で あ る。

  お お よそ 幅9cm,長 さ70 cmに 縦 剥 ぎ に 剥 い だ ウ リ・・ダカ エ デ ら しい樹 皮 を三 つ 折 りに畳 み,シ ナ ノキ の樹 皮 縄 で 作 った緒 を付 け て か ら,か か との部 分 を接 着 し全 体 を綴 じて い る。 レ ソ トゲ ン撮 影 に よ る と鼻 緒 の 基部 に は 長 さ約3cmの 丸 釘 が 組 み 込 ま れ てい るが,そ れ は鼻 緒 の抜 け を 防 ぐた め の工 夫 で あ ろ う。 また 横 緒 の末 端 は 内部 で交 差 し逆側 に 出 て い る。 や は りシナ ノキ の樹 皮 と思 われ るテ ー プ状 の綴 じ紐 は,そ の鼻 緒 と横緒 を押 さえ る よ うに 重 複 した3枚 の樹 皮 を縫 って い る。 底面 が新 鮮 な とこ ろ か ら未 使 用 で あ る こ とが 知 られ る。菅 江真 澄 が18世 紀 末 頃 に 「ふ ん ぼ ん こ う」 に記

参照

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