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「耕三余一」の思想

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宮城教育大学機関リポジトリ

「耕三余一」の思想

著者 高橋 孝助

雑誌名 宮城教育大学情報処理センター年報

号 14

発行年 2007‑03‑31

URL http://id.nii.ac.jp/1138/00000387/

Creative Commons : 表示 ‑ 非営利 ‑ 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by‑nc‑nd/3.0/deed.ja

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「 耕 三 余 一 」 の 思 想

高 橋 孝 助

「耕三余一」とは三年間耕作して一年分を備蓄し災害に備える、農業を基幹産業と する国家(官僚)の「足民の政」の基本姿勢である。 「耕九余三」ともいう。これは、

工業化以前の前近代社会で、しばしば大自然災害に襲われ、数え切れにないほどの人 命を失い、農地を荒廃させ、財を失ってきた中国の黄土高原に伝わる話である。民衆 を満足させる政とは、直接生産に当たる農民の耕作意欲を喚起し、余剰の収穫物を不 要不急のものに浪費させずに災害のために備蓄させることである、という。このとき、

ただでさえ水不足で穀物生産が不足する黄土高原にあって、ケシ栽培が浸透し、肥沃 な土地はこの呪われた作物の栽培にあてられていた。「耕三余一」の美風はすたれ、

自然の猛威に蹂躙されるにまかせ、数十万、数百万の人命が失われた。そのうちの一 つが、近著で明らかにした山西、山東、河北、河南、陝西の5省を襲った飢饉は、一 説によると餓死者1000万人を超える世に「丁戊奇荒」と呼ばれる大飢饉であった

(『飢饉と救済の社会史』2006年)。

ところで、この旱魃がピークに達した1877年の雨量について、次のような数字 を目にした。すなわち、山西省各地で連続して降雨ゼロは、短いところで50から6 0日、長いところで3カ月以上、洪洞県では349日降雨ゼロ、省全体では年降雨量 はわずかに5.2ミリ。200日以上連続して降雨がなかった県が14、100-2 00日降雨ゼロが61県、省全体の平均年降雨量は116ミリ。河北省のいくつかの 県では、連続降雨ゼロあるいはお湿り程度が238日、陝西省の大部分の地域が3か ら4カ月、1年前後にわたってお湿り程度の雨しか降らなかったという(韓渊豊ら『中 国災害地理』陝西師範大学出版社、1993年)。

わたしたち(わたし)は修業時代、徹底した実証史学を教え込まれた。史実(根拠)

が判然としないことは言うな書くな、である。したがって、今回に限ったことではな いが、今回も関係する『地方誌』を調べまくった。当時は気象台も設置されず、気象 観測も行われていない時代だから、 『地方誌』 (県レベル)の断片的な記載から読み取 るしかないと思うのは同然である。仙台にはそんな蔵書をもつ大学図書館はないが、

最近は大学図書館の閲覧サービスが行き届き、さらに書庫まで入れてくれる図書館が あるので、徹底調査が随分とやりやすくなった。しかし、数年にわたる図書館通いに もかかわらず、この数字を記載した『地方誌』には遭遇しない。中国の研究者はどの ようにしてこの数字を得たのか。わたしは、尋ねることもせずに、また自らの「立証」

責任を放棄して、近著でこの数字を使ってしまった。

今のわたしは、長い間「耕三余一」の思想を行動の指針の一つとすることを忘却し、

必要な備えを怠ってきたことにたいする自責の念がある。そして確定した数字を得る ことの必要性とそれを得ることの困難さを痛感させられている。効率主義ではない実 績主義とはなにか。わかればそれを追いたいし、普及したい。それは何か。毎日、自 問自答するのであるが、それよりも状況変化は目まぐるしく、現実はより厳しく、向 けられる舌鋒は厳しいのである。

(2007.3.16記)

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