資本制社会における社会政策機能の二重性 (1) : 貧困化要因の作用に関するクチンスキーの所説を中 心として
その他のタイトル Twofold Functions of Social Policy in Capitalism (I)
著者 河野 稔
雑誌名 關西大學商學論集
巻 4
号 3
ページ 177‑193
発行年 1959‑08‑30
URL http://hdl.handle.net/10112/00021759
177
次 目
五 四 三 ニ ー
資 本
制 社
に 会
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会 政
策 機
能 の
二 重
性 山
は し が き
︵河
野︶
資本制社会における社会政策機能の二重性①
ー貧困化要因の作用に関するクチンスキーの所説を中心としてー—
ほしがき
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貧 困
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検 討
むすび
私は︑かって社会政策の歴史的性格を﹁二重性﹂と﹁社会性﹂の視点から究明しつつ社会政策理論の体系化を試 ぷ︑また﹁二重性﹂と﹁社会性﹂にかんする私見にもとづいて︑
③
史理論﹂を検証する機会をもった︒
もっとも︑これらは階級社会一般を前提とする方法によったので︑資本制社会における社会政策については︑
くらかは言及しているとはいえ詳細には論述していない︒そこで本稿では︑これまで私がのべた保守的社会政策の 実施機能に内在する二重性的本質が︑資本制社会における保守的社会政策の実施機能の二重性としてどのように現 れるかという問題をとりあげる︒といっても︑本稿は︑この問題を全面的に検討するのではなく︑①貧困化理論の
③
重要な一論点となっている貧困化要因の作用にかんするクチンスキーの所説をてがかりとして︑②経済的機能の分 析を中心に︑③﹁二重性﹂の本質的特徴を確認する程度にとどまる︒かくて︑本稿はかなり限られた論述の域をで
ハイマンの社会政策理論を論評し︑
し
、
いわゆる﹁歴
河
野
稔
178
期平均を貫く長期傾向として不断に悪化すると主張している︒
単に賃金だけでなく多数の貧困化要因
﹁貧困化要因二重作用﹂説
H
るものではないが︑それにしても︑私は︑ここから資本制社会の保守的社会政策にかんする若干の理論的・実践的
問題点を指摘できると思う︒
註①拙著﹁社会政策の歴史理論﹂︵序説︶︵法律文化社・一九五四年︶およびこれを増補改題した﹁社会政策の歴史理論研究﹂
︵法律文化社・一九五六年︶
図拙稿︵イマン﹁社会政策本質論﹂に関する若干の考察
IH
社会政策の保守的ー革命的二重性について
1︵関西大学経済論
集第一巻第1
一号)、仝ーロ社会政策と政治カー(同誌第一巻第一―-•四合併号)なおこの二論文をそれぞれ補筆のうえ拙著「社 会政策の歴史理論研究﹂に収めた︒
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ク チ ン ス キ ー クチンスキーが貧困化理論のなかで強調している︱つの特徴は︑
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, ならびに相互の作用を分析しつつ総体としての労働者状態の悪化を指摘している 点にある︒これらの要因は大別して二種類の作用を示す︒たとえば︑多くの要因がともに労働者状態を改善すると
︑︑︑︑︑︑︑︑
いった並立的に同一方向の作用をするばあいと︑若干の要因は労働者状態を改善するように作用するが他の要因は
労働者状態を悪化せしめるように作用するといったぐあいに相互に対立する相殺作用をもつぼあいがある︒また同 じ要因でも︑ある時期には労働者状態を改善し他の時期には悪化せしめるというように異なった作用をも示す︒ク チンスキーは︑このような複雑な作用をする多数の要因を考察して︑結局︑資本制社会における労働者状態は︑周
資本制社会における社会政策機能の
1一重性山︵河野︶
資本制社会における社会政策機能の
1一
重性 山
に伴うばあいをとりあげる︒
つ ぎ
に ︑
ク チ ン ス キ ー は ︑
︵河
野︶
﹁労働時間の短縮﹂は労働力の支出を減少せしめ︑ ﹁労働強度の増大﹂は労働力の支
クチンスキーは貧困化要因の二種類の作用をともにとりあげている︒しかし彼の貧困化理論を支えるものとして は︑いわゆる同一方向作用よりも相殺作用の方が重要であるといってよいし︑資本制社会における保守的社会政策 実施機能の二重性をとりあげる本稿でも後者の作用を重視せざるをえない︒これから︑
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理 論
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︑実際には後者を重視して
③
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と 強 調 す る ︒ クチンスキー著﹁労働者状
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19
55
)
の なかでのべられている貧困化要因のうち若干のものをとりだし︑とくにその相殺作用を中心にうかがってみよう︒
八実質賃金>﹁実質賃金の上昇﹂が労働者階級の生活水準を絶対的に引きあげ貧困化を阻止することはいうまで
もない︒しかしクチンスキーによると︑ ﹁実質賃金の上昇﹂は他の要因による搾取の強化を促進することになる︒
彼は︑搾取を強化する要因の作用として︑理論的には﹁労働時間の延長﹂と﹁労働強度の増大﹂の二つを指摘して クチンスキーによれば︑﹁実質賃金の上昇﹂は﹁労働強度の増大﹂を伴う︒しかるに︑﹁労働強度の増大﹂←﹁必
要生活資料量の増大﹂←﹁労働力再生産費の上昇﹂となる︒かくて﹁労働強度の増大﹂は﹁労働力価値の上昇﹂を
④
生起せしめる︒しかも彼によると︑
﹁実質賃金の上昇﹂は﹁労働力価値の上昇﹂よりも小である︒かくて実質賃金 が上昇しても︑それは労働力の価値以下への支払を進行せしめ︑絶対的貧困化を促進せしめることになる︒
﹁実質賃金の上昇﹂が﹁労働時間の短縮﹂と﹁労働強度の増大﹂の二要因作用を仝時 出を増大せしめる︒もし前者による支出減と後者による支出増が同一程度とすれば︑二要因作用は相殺しあうこと
﹁実質賃金は常に労働強度の上昇との関連で考察されねばならぬ﹂
180
け﹁労働強度の増大﹂が生起し︑貧困化を促進する作用が現れるということである︒クチンスキーは︑また逆の関
しめる必要を生じ︑
かくて労働力再生産費の上昇を必要ならしめる︒このばあいその必要を完全にみたすものでは
係も指摘している︒すなわち︑ 以上のべたことは︑ ほならない
( s .
1 1 9)
︒
になるから︑実質賃金の上昇による貧困化の阻止は︑
たとえ前述の二要因の結合作用を伴うとしても︑貧困化の促 進という対立的・相殺的作用を生起せしめない︒しかるにクチンスキーによれば︑
﹁労働時間の短縮﹂による労働
カの支出減は﹁労働強度の増大﹂による労働力の支出増よりも小である︒かくて︑二要因が結合して作用するばあ いには︑後者の作用が前者の作用よりも大となり労働力の価値が上昇する︒そして実質賃金の上昇にもかかわらず︑
それは労働力価値の上昇よりも小であり︑価値以下支払が進むこととなる
( s .
82‑3)
︒
いずれにしても︑クチソスキーのこうした主張のなかで我々が注目しなければならないのは︑実質賃金の上昇が 労働力価値の上昇より小であるという点である︒何を根拠にしてこのような主張がなされるのであろうか︒クチン スキーは︑主として集約的搾取方法を使用する資本制的搾取の第一一段階い
1
関連して︑実質賃金の上昇が労働強度の
増大による労働力再生産費の上昇・労働力価値の上昇に照応すれば︑資本にとって強度の増大から何らの利益を生 まない︒利益を求める企業家は︑当然実質賃金の上昇を労働力再生産費の上昇・労働力価値の上昇以下にするとの べている︒彼はまた︑他方で労働力再生産費の上昇は︑労働強度の増大による剰余価値の上昇よりも小であるとい う︒いずれにしても︑こうした見解の底に資本制社会における剰余価値法則の貫徹がおかれていることを看過して
﹁実質賃金の上昇﹂が貧困化を阻止する作用をもつにもかかわらず︑それによって︑とりわ
﹁労働強度の増大﹂による貧困化促進作用は︑それにより生活資料の消費を上昇せ
資本制社会における社会政策機能の二重性山︵河野︶
四
資本制社会における社会政策機能の二重性山︵河野︶
な い
が ︑
いくらかでも補うために﹁実質賃金﹂の上昇が現れる︒いいかえれば︑若干の貧困化阻止作用を伴うこと
になる
( s .
11
9)
︒
クチンスキーは︑十九世紀後半に実質賃金が上昇した事実を卒直に認めているが︑それは労働の強度を増大せし
には低下しているし︑他方で労働の強度は一層増大し労働力価値は更に上昇して︑労働力価値以下の支払が進行し 6
ているという︒彼はこの段階で短期間の高賃金を認めるが︑これとともに労働の強度が著しく増大して﹁労働期間﹂
( A
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)
が短縮する事実に著目し︑短期高賃金につづいて失業または著しく低賃金の労働に転落し︑
局︑短期高賃金にもかかわらず﹁生涯賃金﹂
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)
が低下するとのべている
( s .
97
)
︒
働の進出による﹁家族賃金﹂
( F
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)
が無監督状態のもとに悪化するという
( s .
98
)
︒彼はまた﹁総賃金﹂
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)
とことなる﹁純賃金﹂
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の動きや﹁総賃金﹂に対する租税の相殺作用についてのべている
( s .
99
│1 03
)
︒
要 す
る に
︑
クチンスキーによると︑
間の延長﹂とりわけ﹁労働強度の増大﹂が結合し︑貧困化促進の作用を伴うことになる︒しかも後者の作用の方が
前者の作用より大であるから︑結局貧困化の進行という結果になる︒また﹁労働強度の増大﹂が﹁労働時間の短縮﹂
と結合して作用しても︑前者の方が後者よりも大きな作用を示すので︑﹁実質賃金の上昇﹂を相殺することになる︒
更に︑﹁実質賃金の上昇﹂から﹁労働強度の増大﹂を引き出すのみならず逆の関係もみられるのである︒
八労働時間> める前提条件でもあったとのべている
( s .
83
)
︒
の増大傾向を認めつつも︑
﹁実質賃金の上昇﹂は︑貧困化を阻止する作用をもつが︑これに︑
資本主義の第二段階から現れた﹁労働時間の短縮﹂が貧困化を阻止する作用をもつことは明らか また︑帝国主義段階では︑
五
﹁ 労
働 時
他方ではこれにより家庭の子供の生活 彼ほ更に婦人労 結 一方で実質賃金が停滞し全般的危機期
1 82
している
( s .
1 1 8 )
︒ こ と は で き な い ﹂
( s .
18 5)
と強調している︒
かくて︑﹁労働時間の短縮﹂により貧困化は阻止される︒
これは労働階級にとり利益であり︑彼等の状態を改善す
い う
ま で
も な
く ︑
性 を
与 え
る ﹂
( s .
1 12 )
と の べ て い る ︒
対 的
利 益
﹂
( s .
1 1 2 )
で
あ り
︑
ま た
︑ である︒クチンスキーもこの意義を高く評価し︑それは﹁労働階級にとり︑きわめて大きな︑かつ卓れて重要な相
彼等に﹁より多くの自由時間およびこれに伴うより多くの組織と宣伝の可能 しかし﹁労働時間の短縮﹂は︑必然的に﹁生産性の上昇﹂と﹁労働強度の増大﹂に結合する
( s .
1 1 4 , 1 16
│7)
︒
﹁生産性の上昇﹂と﹁労働強度の増大﹂は異なった範疇であるが︑両者は︑資本制社会では︑① 生産性が上昇しても強度が増大しないか低下すれば︑生産性上昇の効果がうすくなる︑②機械の運転速度が増大さ れる︑⑧見張りを要する機械範囲またほ作業する場所や範囲が拡大する等の理由で︑必然的に結合する
( s .
1 1 7 )
︒
るが資本にとっては損失である︒しかし﹁労働時間の短縮﹂は﹁生産性の上昇﹂と﹁労働強度の増大﹂の結合を伴 う︒資本はこれによって損失を奪回し︑労働階級の貧困化を促進する︒クチソスキーは︑ここでも﹁労働強度の増 大﹂を重視して﹁我々ほ︑他の︱つの契機︵強度⁝筆者︶にたちいらないで︑労働時間の発展を現実的に理解する これまで︑﹁労働時間の短縮﹂による貧困化阻止作用と︑これに伴う﹁労働強度の増大﹂・﹁生産性の上昇﹂が貧
困化促進作用をもつことをみてきたが︑
クチンスキーは︑ここでも逆の関係すなわち後者が前者を伴う点をも指摘
︑
︑
︑
︑
︑
︑
︑ クチンスキーは︑資本主義の第二段階で﹁労働時間の短縮﹂とともに︑これを通して一時間当り強度が高められ たことを注目し︑これは独占段階に至って異常に高められたとのべている︒独占段階以前では︑強度は個々の労働
資本制社会における社会政策機能の
1一
重性 田
︵河
野︶
.,
,
、
資本制社会における社会政策機能の二重性山
少 傾
向 は
︑
︵河
野︶
資料の不足により確実な結論を出せないとはいえ︑
七
ほぼ均衡を保ってきたのではないかとのべている
険かつ高度になってくる
( s . 1 4 4
)
︒ しかし第三に︑﹁災害保護政
資本主義第二段階では︑三重の過程が現れた︒
第 一
に ︑
労働過程の集約化が進められて﹁災害﹂が増大する傾
は明らかであるが︑
ついで﹁雇傭﹂の要因をみている︒
クチンスキーによると︑﹁災害﹂を規定する要因は多数あり︑
するとのべている
( s .
18
6)
︒
壊 さ
れ ︑
これを包括的にとりあげる必要がある
者にとり耐えうる程度のものであったが︑独占段階にはいってからは耐えられないほどになり︑労働者は健康を破
ついに低強度低賃金労働へ移動するか失業する状態が現れている︒これは﹁完全労働期間﹂の短縮を意味
八 災
害 >
が︑現在までのところこの問題の包括的研究は︑あまり進んでいない 営の保護政策﹂の二要因をとりあげ︑
( s .
14
7)
そ こ で ︑ 彼 は ︑
︒初期資本主義では︑児童・婦人労働の増加と労働日延長にともなって︑﹁災害﹂が増加した︒
おけるデヴィー氏安全燈のような﹁災害保護政策﹂が時に登場した︒こうした政策が︑貧困化阻止作用をもつこと
資本はこの政策を利用して労働者の責任を大きくする措置をとってきたのである︒
﹁労働強度の増大﹂策がとられたため︑﹁災害﹂もまた増大する傾向を示した
( s .
14
4)︒
認︑すなわち﹁災害保護政策﹂の採用︑これにより﹁災害﹂は減少する傾向を示す︒
﹁強度﹂と﹁経
これに対し鉱山に
こうした
向︑仝時に第二には︑労働の側の圧力と資本の側による労働階級の存在を確保する必要にもとづく圧力の部分的承 策﹂により﹁労働の強度﹂を一層増大することが可能となったので再び﹁強度の増大﹂策がとられ︑労働災害は危
クチンスキーは︑最近八十年間の﹁強度の増大﹂による﹁災害﹂の増大傾向と﹁保護政策﹂による﹁災害﹂の減
164
賃金﹂の低下を伴い︑﹁失業﹂を利用して搾取が強化される︒
﹁雇傭の増加﹂は﹁災害の増大﹂を これを利用して﹁強度の増大﹂による貧困 かくて﹁薦傭の低下﹂が﹁災害の増大﹂と結びつく 帝国主義段階では十九世紀とことなり︑ ﹁雇傭﹂の低下が﹁実質 う︒その理由として︑彼は︑第一に十九世紀では﹁麗傭﹂の増加が﹁強度﹂の増大とともに生起したこと︑第二に ﹁雇傭﹂の増加が労働過程に未知の人の︑ る︒新麗傭の増加または再薦傭の増加︑とりわけ長期失業者の再雇傭の増加は︑作業テンボに適合しえないために ﹁災害﹂を増大せしめる傾向をもっ のである
( s .
146‑7)
︒
要するに︑﹁災害保護政策﹂による貧困化阻止作用にもかかわらず︑
化促進作用が生起し︑後者はまた逆に前者の作用を伴う︒また十九世紀には︑
伴い︑独占段階では︑﹁雇傭の低下﹂が﹁災害の増大﹂を伴っている︒
註山クチンスキーはマルクス・ニンゲルスが労働者状態の実践的・理論的研究でとりあげた要因のうち最も重要なものとして
次の十七要因を列挙している︒
L
労働保護法2失業と部分失業&労働関係︵強制労働︶4労働時間︵長さ︑深夜業︑時間外労働等︶5労働者の所得︵家庭莱園や転貸等による補充を含む︶6栄養状態︵食料の組合せ︑質︶1教育︵および学校の状況︶&家庭の状態︵とく
ク チ ン ス キ ー は ︑
い る
( s .14
5) ︒
そ し
て ︑
しばしばいわれる最近一
00年間の﹁災害保護政策﹂の改善説に対しては︑﹁作業時間当り災
害﹂の計算が不可能であるという理由から疑問を提起している︵
s .
14
5)
︒また彼は︑﹁致命的災害頻度の低下﹂説
に対しては︑これと仝時に﹁労働時間の短縮﹂を伴っているから︑頻度には何らの本質的な変化もないと批判して
( s .
193‑4)︒
げ
﹁災害﹂と﹁雇傭﹂の関係にもふれている︒彼によると﹁雇傭﹂の増加は﹁災害﹂の増加を伴
またはこの過程から離れていた人の増加を内容としていたことを指摘す
( s .
14
6)
︒ 資本制社会における社会政策機能の二重性山
︵河
野︶
八
185
資本制社会における社会政策機能の二重性山︵河野︶
九
に婦人・児童労働の影響︶9
労働の強度
1 0 .病気および死亡
.1 1
犯罪
.賃金︵名目賃金︑賃金の購買力︑時間および個数1 2
賃金︑トラック・システム︑賃金からの控除等︶
1 3 . 家計 費
1 4 .経営の衛生状態
.社会保険︵および救貧立法︶1 5
1 6
.災害頻度
1 7
.住宅の状態︵住宅の環境︑家賃︑工場住宅等︶︵Ju
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:';!これらの要因をその著書﹁労働者状態の理論﹂のなかで︑とりわけ第一篇﹁理論﹂
第1一章から第七章にかけて︑また第二篇﹁労働者状態の発展ならびに国際的歴史の体系化﹂においても詳細に論述している︒
②クチソスキーの貧困化理論の一つの特徴は︑賃金のみを貧困化要因とする見解の批判にむけられている点にある︒この種 の見解によると十九世紀後半にみられる実質賃金の上昇の事実を正しく理解しえないし説得力をもって説明しえない︒もし 上昇の事実を認めると貧困化の継続的進行説が否定されるからである︒貧困化が継続的か断続的かは︑周知のごとく重大な 論争点になっているが︑クチンスキーは継続説をとる︒賃金を唯一の貧困化要因とする見解では︑十九世紀後半の賃金上昇 の事実のまえに継続説を放棄せざるをえないか︑もしくはこの事実に目をおおって賃金低下と主張せざるをえないことにな る︒クチンスキーは上昇の事実を認めつつ賃金以外の多くの要因の作用をとりあげて貧困化継続説を支える︒
③クチンスキーによると︑﹁労働時間の延長﹂による搾取強化の事実は産業資本初期に主としてみられる︒しかし︑このば あいでも︑時間の延長が常に搾取の強化になるとは限らず︑かえって一時問当り労働力の支出が減少を示すときもあった︒
これにくらべ﹁労働強度の増大﹂は︑資本主義の第二段階以降継続的に実施され︑現代はまさにその頂点にある︒かくて︑
クチソスキーは﹁実質賃金の上昇﹂に伴う﹁労働時間の延長﹂と﹁労働強度の増大﹂の二要因を理論的に指摘しながらも実 際上は後者の作用の方を重視する
( s .
80ー1)︒
④クチソスキーは︑資本主義の発展とともに﹁労働力価値﹂が上昇するという見解にたっている︒﹁労働力価値﹂を上昇せ しめる要因として彼は次の六つのものをあげている︒①本文でのべたように﹁労働強度﹂の増大︑これ以外に︑③﹁調練喪﹂
の上昇︑これは十九世紀後半により大きい熟練労働者軍を創出する必要があった事情と関連する︒⑧﹁児童労働﹂の廃棄︑
これに伴う家族生活を維持するため父親の労働力価値が上昇する︒④個々の職業における︵たとえば鉱山︶﹁婦人労慟﹂の消 減も部分的には︑③と仝じ結果をうむ︒⑥自動車トラストの最大限利潤の追求による﹁交通﹂事情の意識的悪化︑かくてア メリカでは自動車が必需品化し︑労働力再生産費が上昇した︒︵この点は単にアメリカだけでなく他の諸国でも仝じ傾向を 示しつつある︒︶⑥労働力価値に含まれる﹁社会的要素﹂の上昇︒クチソスキーは以上のべた六要因の作用の結果︑労働力
186
価値が上昇するとのべている︒しかし︑彼ほ︑そのうち①﹁労働強度﹂の増大を最も重視している
( s .
83)︒本文で︑﹁労
慟強度の増大﹂による﹁労働力価値の上昇﹂とのべているばあい︑他の五要因の作用も含んでいるものと理解していい︒
固クチソスキーのいわゆる資本主義発展の第二段階とは︑労働日の延長︑実質賃金の切下げおよび一層広汎な児童労働の雇
傭方法をともなった﹁初期産業資本主義﹂または﹁産業革命﹂時代につづく︑産業資本主義が成熟し︑力強く発展する段階
であり︑この段階の主要な生産ー搾取方法は労働過程の強度化である︒そして︑この段階は独占資本の支配が確立する一九
0
0
年頃までつづく( s .
163│4岸本英太郎・窮乏化法則と社会政策・ニ八八ー九頁︶︒
⑥クチンスキーは︑帝国主義段階の賃金・強度と労働力価値の関係を︑それ以前の段階とくらべて次のごとくのべている︒
独占以前の条件のもとでは︑﹁就業労働者﹂については公然たる激しい闘争の結果︑労働力はほぼ価値通りに売られ︑大衆
需要商品の市場供給は国民一人当り増加したが︑これも労働強度の増大による生理的・肉体的必要量に照応するほどのもの
でなく︑実質賃金の上昇は労働力価値の上昇より小であった︒かくて︑賃金も消費も上昇したにもかかわらず︑とりわけ生
理的・肉体的要素の犠牲で絶対的貧困化が進行した
( s .
197ー
8)
︒これにくらべ︑独占の条件のもとでは︑最大限利澗を確
保する作用により︑独占価格は価値以上につりあげられ︑これにみあって賃金ほ労働力価値以下となり︑停滞・低下傾向を
示す︒これに関連して︑独占の下では︑国民経済の軍事化によって大衆需要商品の生産と市場供給は最大限に制約され︵農
業営養手段・工業消費財生産の低下︶︑一方﹁科学的苦汗搾取制﹂によって駆使・労働力消費は最大となる︒かくて︑労働
力価値ほ著しく大きくなりながら賃金も消費も価値以下となる傾向が拡大し︑絶対的貧困化は大きく進行する︒とりわけ︑
この段階では生理的・肉体的磨減が激しくなる
( s .
198ー
2 g )
︒なお︑こうしたクチンスキーの見解からうかがっても︑彼
が絶対的貧困化の内容を︑生理的・肉体的要素においていることは︑明らかであると思う︒この点は︑さらに彼の著書﹁労
働者状態の理論﹂第一篇第一章第一一一節﹁
Ma
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﹂ を
4参照されたい︒
切クチンスキーは︑アメリカの官庁が﹁雇傭﹂と﹁災害﹂の関連をとりあげている点を注目している︒しかし彼ほ︑それが
﹁強度﹂と﹁保護政策﹂の要因とりわけ﹁強度﹂を無視しているという理由から︑似非科学と非難している︒にもかかわら
ず︑彼は﹁災害﹂にかんする多くの要因の包括的研究の必要を認める見地から︑その一っとして﹁雇傭﹂要因を無視できな 資本制社会における社会政策機能の1
一重 性山
︵河
野︶
1 0
187
資本制社会における社会政策機能の二重性山
に相殺され︑健康状態は一層悪化したし︑
し か
る に
︑
A
衛生状態>
クチンスキー
︵河
野︶
,
.
ー
クチソスキーは︑この問題を経営の内と外の二つにわけてとりあげる︒
経営内衛生状態ほ︑初期資本主義段階では︑①労働時間の延長による過労︑②児童・婦人の劣悪な労働条件︑⑧
有害原料の使用といった生産過程における有害状態の増加等によって悪化した
( s .
13
7)
︒しかるに︑資本主義第二
段 階
以 降
で は
︑
一方で組織労働者の圧力により︑他方で資本の側も①労働者なくては搾取が行われないから労働者
の存在を一層よく確保するという技術的•生産的理由と®労働強度の増大を一層可能にする必要から、健康の改善・
増進策がとられてきた
( s .
13
9)
︒たとえば︑﹁特殊な職業病に対する保護策﹂がとられ︑これにより一
00年前に
大きな役割をはたしていた結核病のような典型的工場病は減少し
( s .
13
9)
︑﹁照明状態の改善策﹂がとられること
により︑従来の悪い照明状態にもとづく健康に有害な作用がなくなり︑作業に伴う不利な結果が除去されて生産性も
向上した
( s .
13
9)
︒これらの措置が健康・衛生状態を改善し︑貧困化を阻止する作用をもつことはいうまでもない︒ ︑︑︑︑︑︑︑︑︑︑ ﹁経営内の労働者の健康に有利な影響を及ぽす衛生上その他の方策は︑この方策にもとづいて企業家
により強制される労働強度の上昇によって再び補填されるかそれ以上に相殺さえされる⁝﹂
( s .
13
9)
︒
﹁職業病に対する保護策﹂がとられたにもかかわらず︑これに対して﹁労働駆使﹂策がとられ︑前者の改善作用以上
使﹂により労働人口の一般的衛生状態は非常に強く導かれている
(S
.1
39
)
︒
ま た
﹁ ・
・ ・
企 業
家 は
照 明
状 態
の 改
善 を
︑
いとみている
( s .
1 4 6) ︒
一連の職業病とりわけあらゆる種類の﹁神経病﹂も現れて︑こうした﹁駆
﹁貧困化要因二重作用﹂説︵二︶
た と
え ば
︑
188
資本制社会における社会政策機能の二重性田
仝時に︑労働強度を高めるために利用し︑かくて再び新しい他の健康に有害な作用が生起した﹂
(S
・1
39
)
の で
あ る
︒
クチンスキーは︑健康改善策により労働者の平均寿命が五
0年 な い し 一
00年前にくらべて長くなったことを認め
るが︑これは︑彼によると健康状態の改善をなんら意味するのではなく︑
間生活を維持するということのみを意味するにすぎない︒そして︑むしろ︑平均寿命延長のなかに労働者の病気に
5
対する抵抗力がなくなる傾向があることを指摘している
(S.139│40)0結局︑経営内で多くの健康改善策がとられ︑
健康・衛生状態が改善され︑貧困化は阻止される傾向をもったにもかかわらず︑まさにこの一連の方策のゆえに︑
強度の増大を許したのであって︑経営内労働者の衛生状態は︑結局︑
し た
﹂
( s .
13
9)
の
で あ
る ︒
経営外衛生状態について︑ ただ健康か病気かにかかわらず一層長期
クチンスキーは﹁流行病に対する一般的衛生対策﹂と﹁住宅状態﹂の二要因を中心に
初期資本主義では﹁流行病対策﹂は改善されなかったし﹁住宅状態﹂も悪化した︒ことに人口の都市集中が急速
に現れ︑衛生状態は一般に悪化した︒十九世紀後半にいたって流行病を排除する諸施説が改善された︒しかし︑
クチンスキーによると︑それらは︑富者保護に適合する方策ではあったが︑労働階級をも保護しなければ富者を保護
しえない性質のものであるから︑こうした意味で︑労働階級にとっても利益となったのである︒また︑それらは︑
一般的医学の進歩に照応するほどのものではなかったとはいえ︑技術的・衛生的領域における改善を示した︒チプ
ス・コレラのような流行病による死亡率が減少した事実をみてもわかるように︑こうした一連の方策が貧困化阻止︑
労働者状態改善の作用をもったことは明らかである︵
S.142│3)︒しかし︑仝じ十九世紀後半には︑こうした改善と 考 察 し て い る ︒
︵河
野︶
﹁ほとんど改善されなかったか又は悪化さえ
189
資本制社会における社会政策機能の二重性山︵河野︶
同時に﹁住宅事情﹂の悪化にもとづく病気の増加・健康の悪化が現れた︒これは前者の作用を相殺する貧困化の促
独占段階にはいってから︑﹁流行病対策﹂は一層改善され﹁住宅事情﹂も部分的には改善された︒
ンスキーは︑この二要因の作用により貧困化が阻止され労働者状態が改善されたことを一応は認める
( s .
14 3)
︒ し
かし︑彼は第二次大戦後については﹁住宅事情﹂が再び悪化したことを指摘する︒戦後新しくつくられた改善され
た住宅条件のもとで健康状態は︑
﹁ 医
学 的
彼はその最大の原因
を︑労働者の所得に対し﹁家賃﹂が高い点に求めている︒このため︑労働者の﹁食事﹂や﹁衣服﹂が悪化し︑労働
者は﹁追加収入﹂をもとめる必要から﹁自発的超過労働﹂を強いられる︒これに加えてさらに経営内の﹁労働強度
の増大﹂が作用するのである
( s .
143
、クチンスキー・ブルジョア統計の利用について•経済評論•一九五六年九月
号 ・
︱ 二
八 ー
九 頁
︶ ︒
ことに彼は﹁食事﹂と﹁衣服﹂の悪化を注目しており︑前者については︑労働者の栄養状態
③が住宅条件の改善による健康にプラスする作用を相殺する以上に悪化したとのべている︒
衛生事情は経営の内と外とでは一応独立しているとはいえ︑両者は密接な関連をもっ︒そして前者の方が後者に
及ぽす影響は強く︑前者の方が一層強く衛生状態に影響する︒経営内では多くの衛生改善策がとられたにもかかわ
らず﹁労働強度の増大﹂策によって相殺される︒経営の内と外の衛生事情を総括的にみて︑クチンスキーは多くの
改善と進歩の施策を認めながら︑しかも︑これを相殺する作用によって﹁一般的﹂には悪化したとのぺ︑
︑ ︑
︑
または技術的ー衛生的領域の進歩は︑持続的に衛生状態を改善せしめるにいたらず︑むしろ︑たとえば労働強度の
上昇による︑企業家の悪化をすすめる努力の基礎になっている﹂と論じている
( s . 1 4 3
)
︒ かっての住宅条件の悪い時代よりも一層悪化しつつある︒ 進︑労働者状態の悪化を意味する
( s . 1 4 3
)
︒
か く
て ︑
ク チ
190
改善することは明らかである︒ 八社会保険>
﹁促進・悪化﹂作用を示す
(S
.1
47
)
﹁養老保険﹂は︑高齢者にとって働く可能性が不断に ︒ 用を相殺する﹁促進・悪化﹂である する︒しかし︑これによっても失業を減少せしめるものではなく︑むしろ失業は不変か増大する︒それは前者の作
(S
.1
47
)
︒﹁災害・疾病保険﹂も災害傷害者や病人をたすける﹁阻止・改善﹂作
用をもつ︒しかし︑これによっても災害の危険は減少しないし病気の根源は排除されない︒それは︑むしろ不変か
増大するのであって︑
減少することに対する﹁一姑息手段﹂となり﹁阻止・改善﹂作用をもつ︒しかし︑それは働く可能性の不断の減少
を防ぎえない︒問題は解決されないで進行する︒ここに﹁促進・悪化﹂という相殺作用がある
(S
.1
47
)
︒クチンス
キーはこうのべている︒﹁すべての社会保険が賃金の別分配以外の何物をも意味しないことは︑全くたしかである︒
かくて︑それは︑労働階級がこれに照応して就業時に一層低い賃金をうけとり︑失業時に扶助金の形で減少した賃
金を再びうけとることを意味する︒だがまた︑労働階級が自分の闘争の鋭さによって資本家階級のなかから追加的
扶助金をとりだし︑かくて社会保険の採用が︑労働階級の一つの現実的利益すなわち資本制的生産方法の結果の特
殊な領域での事実上の緩和となることもありうる﹂
(S
.1
48
ー
9)
︒かくて︑社会保険ほ資本からの追加的扶助をとる
可能性をもち︑またそうでなくて文字通り賃金の別分配として差し引かれた額だけをうけとるにすぎないとしても︑
前にみた如く︑それは失業時︑災害時または高齢等のとき労働者をたすける作用をもつ︒こうした意味で︑社会保
険は︑姑息であろうとも貧困化を緩和ないし阻止する作用をもっといってよい︒社会保険による﹁緩和﹂の程度は
階級闘争力によるとはいえ︑それが貧困化のテンボの一時的の・僅少の.︱つの緩和となり︑個々の階層の状態を ﹁失業保険﹂は﹁失業者をたすける﹂︒ この限りで︑それは貧困化を阻止し︑労働者状態を改善
資 本
制 社
会 に
お け
る 社
会 政
策 機
能 の
二 重
性 山
︵ 河
野 ︶
一四
191
資本制社会における社会政策機能の二重性山︵河野︶
一五
しかし︑教養水準の改善策ほ︑
﹁ 労
働
教育制度の改善が漸時行われた︒ だが︑社会保険は失業や災害や疾病等をなくさない︒社会保険にもかかわらず︑これらの現象ほ進行する︒ かなるばあいにも︑社会保険ほ労働階級の絶対的貧困化法則を変えることはできない︒それは絶対的貧困化のテン ボを緩和するに役立ちうるが︑絶対的貧困化の事実を資本主義の世界から除去することはできない︒それは︑労働 階級の個々の階層の状態を改善するために都合によっては利用されうるが︑全労働階級の状態の絶対的改善に寄与 とんど常に労働者に負担として課され︑ 転稼しようと常にこころみ︑ のである︒要するに︑社会保険も﹁改善・阻止﹂作用をもちながら︑またこれによる﹁悪化・促進﹂作用をも伴う の
で あ
る ︒
A
教養・教育> 資本からの追加的分配をとりうる可能性が存在しているが故に︑労働階級は社会保険費の負
一部は資本家によって負われ︑資本家はこの部分をも尚国民の他の階層に
初期資本主義では教育水準と一般的・専門的教養水準が低下した︒資本主義第二段階にいたっ
て複雑な機械が採用されるとともに﹁外延的搾取方法﹂から﹁内包的搾取方法﹂へと重点が移行した︒十九世紀後
半にこうした機械を操作するために︑より高い教養水準が必要とされたことから教養水準を高める種々の改善策︑
﹁労働階級のすべての生活状態および政治的地位にとって︑こうした情勢の変化
の意義は︑十二分に評価される﹂
(S.151)ものであった︒すなわち︑これにより多くの労働者は読み書きできるよ
うになり︑その結果︑労働者組織の宣伝や煽動分野が拡大し彼等を組織することが容易になった︒
﹁労働者のための文化への一般的愛情からでなく﹂︑教育制度の改善ほ︑ かつ時々はそのこころみに成功している︑ というように形成されてきた﹂
( s .
14
9)
担をできるだけ大きく資本家階級に帰せしめようとするが︑
﹁ 実
際 ︑
事 態
は ︑
一般に︑社会保険の費用の一部がほ
し え
な い
﹂
(S
.1
49
)
︒
﹁ い
192
教養の全般的な絶対的低下をしばしばみい出す﹂
(S.152)の で
あ る
︒
二節にわたって貧困化要因の相殺・ニ重作用にかんするクチンスキーの所説を若干要約的にとりあげた︒みられ
るように︑彼の見解の中心は︑①一︑二の要因だけでなく多くの要因の作用を包括的にとりあげ︑②﹁改善・阻止﹂
作用と﹁悪化・促進﹂作用をともに認める︑⑧前者が後者を伴う︑④逆の関係もみられる︑⑥両作用のうち﹁悪化・
のをみると、実質賃金の上昇↓労働強度の増大、労働時間の短縮↓労働強度の増大•生産性の上昇、災害保護手段
の拡大・改善↓労働強度の増大、衛生状態の改善↓肉体的•生理的状態の悪化、社会保険↓疾病・災害・失業等の
増大︑教養・教育の改善←その相対的・絶対的低下等があげられる︒また︑ 促進﹂作用の方を重視する︑⑥結局において︑ でほ︑とりわけ全般的危機のもとでは︑ 会の生産状態に制限されたものとなり︑ 程
度 に
制 限
﹂
(S
.1
53
)
さ れ
て い
る ︒
(S.152)
ており︑﹁利潤追求が改善の原因﹂︵
S.
15
3)
で あ
る ︒
﹁相対的には不断の低下となり︑絶対的には 者自身のためではない﹂
(S
.1
52
)
︒クチンスキーによると︑それは﹁常に資本の生産・搾取要求と密接に関連し﹂
また︑改善は﹁文化水準を現実に上昇せしめない
︑ ︑
︑
かくて︑こうした改善にもかかわらず︑それほ一面的
( e i n s e i t i g )
で常に社
﹁常に社会の一般的知識にくらべて全く不十分﹂︵
S.
15
2)
と な
る ︒
は教養・教育の相対的貧困化を物語る︒また︑こうした改善にもかかわらず︑
が少なくなり︑自分の教養で自ら経営を指導する状態が少なくなる﹂
(S.152)︒これは教養・教育の絶対的貧困化
の促進を意味する︒要するに︑教養・教育が高度化しても︑それは︑ ﹁経営をはなれ経営を概観すること
労働者が彼の経営の生産および総経済過程をますます概観できなくする﹂
(S
.1
52
)
性 質
を も
っ ︒
独占資本のもと
﹁我々は︑多数の熟練労働者が不熟練労働者へ解消するのと並んで︑再び
資本制社会における社会政策機能の二重性山﹁悪化・促進﹂が進行する︑という点に求められる︑その主なも
︵河野︶
クチンスキーは︑多くのばあいに︑逆
こ れ
一六
資本制社会における社会政策機能の二重性山︵河野︶
一七
の関係も指摘しているし︑これらの分析の間に︑これ以外の若干の重要な要因の作用もとりあげていたことはいう
クチンスキーは︑またこれら要因の作用が社会階層のなかでどう現れるかという問題もとりあげている︒彼によ
﹁本国のみならず植民地︑従属国︑他国の労働階級の搾取を拡大﹂し︑こ ると︑各種の﹁改善・阻止﹂によって︑労働階級の一部分いいかえれば﹁労働貴族層﹂の状態の改善が現れる︒か
︑
︑
︑
︑
︑
︑
くて︑彼はこれを︑社会的にみて﹁貧困化の部分的阻止﹂が現れると説いている︒しかし︑彼は他方で︑こうした
部分的阻止・改善によって︑﹁労働階級を欺き鎮静化して一層大きな力で一層多くの者を搾取﹂し︑かくて﹁全労
働階級としては悪化が促進﹂されるし︑
れに加えて﹁労働階級のみならず農民︑手工業者の犠牲が拡大﹂されるとのべている
(S.35│7)︒ か
く て
︑
労働貴族層の改善は︑内外全労働階級および手工業者︑農民の悪化を促進する︒しかも逆に後者はまた前者の経済
④的可能性をも与えることになる︒
註山.クチンスキーほその理由として次のごとくのべている︒﹁経営の状態と経営外の状態の発展ほ︑必然的に一致せざるをえ
ないということは決してないし︑またそうでもなかった﹂︵
s .
13 7)
︒経営の内と外との関連で問題をとりあげるクチンスキ
ーの方法は︑衛生状態のみならず災害状態についても用いられている
( s .
137)︒
図労働者が病気に対する抵抗力を失いつつある傾向は︑工場統計には現れない事実である(S.140)
︒ と い う の ほ
︑ 全 般 的
危機のもとでは︑失業とくに長期失業におびやかされているため︑労働者は病気になっても欠勤しようとしない︒欠勤は解
雇にみちびく︒彼らは病気をかくして出勤する(S.140)︒
③ここでも︑クチンスキーが絶対的貧困化の内容を︑生理的・肉体的要素においていることがわかる︒本稿第二節註⑥を参
照されたい︒
④クチンスキーは︑絶対的貧困化が労働階級内の諸階層にどのように現れるかを検討し︑とくにこれに関連して︑労働貴族
・労働官僚の発生・成長・衰退の過程を詳諭している
. 3 ( S 4
ー57)︒