親子関係の認知構造 : 小嶋のデータと小高のデー タとの群別比較
その他のタイトル Children's Cognition of Parental Behavior
著者 辻岡 美延, 小高 恵
雑誌名 関西大学社会学部紀要
巻 24
号 2
ページ 265‑281
発行年 1993‑03‑05
URL http://hdl.handle.net/10112/00022572
親 子 関 係 の 認 知 構 造
‑―ー小嶋のデータと小高のデータとの群別比較ー一 辻 岡 美 延 ・ 小 高 恵
Children's Cognition of Parental Behavior by
Bien TSUJIOKA and Megumi KOTAKA
Abstract
Kojima's Japanese adaptation of Schaefer's Children's Report of Parental Behavior Inventory was administered to Japanese junior highschool students Cn=113 for boys, n=123 for girls) and compared with Kojima's original data Cn=150 for boys, n=153 for girls), which was・obtained about twenty five years ago. Eighteen scales were analyzed by Procrustean factor analysis to compare the structure of four groups(son‑father;son‑mother;
daughter‑father; daughter‑mother). The. factor structure obtained from the subjects (1078、pairs) was regarded as the target matrix.
Four primary fa℃ tors; emotional support, emotional control, extreme autonomy, and identification, were found in common within the eight groups.
Two second‑order factors were also obtained;1) acceptance, involving emotional support and identification, and 2) control, involving emotional control and identification.
Key words: Parent‑Child relationship, Procrustean factor analysis, Japanese junior high‑ school students, Emotional Support, Emotional Control, Autonomy, Acceptance, Identification
抄 録
小嶋によって中学生に実施された Schaeferの Children's Reports of Parental Behavior Inventory (CR‑PB!)のデータと同じ尺度を用いた小高のデータとがプロクラステス因子分析によ って分析された。被験者の全サンプルの主因子解を標的行列として 8種の組:小嶋と小高のそれぞれ の息子→父の組,息子→母の組,娘→父の組,娘→母の組の準拠構造が求められた。
一次因子分析においては, 4個の一次因子が得られた。それらは, 情緒的支持, 感情的統制, 放 任,同一化の因子であった。二次因子分析においては,受容の因子と,統制の因子が得られた。
キーワード:親子関係,プロクラステス解法,情緒的支持,感情的統制,放任,同一化
関西大学『社会学部紀要』第24巻第2号
問 題
親子関係の認知構造についての研究は数多くなされてきているが, その中でも, Slater, P. E. (1962)の Parental Role Pattern Questionnaire, Roe, A. & Siegelman, M. (1963)の Parent‑Child Relations Questionnaire, Siegelman, M. (1965)のBronfenbrennerParent Behavior Questionnaire, Schaefer, E. S. (1965)の Children's Reports of Parental Behavior Inventory (CRPBI)などの研究は因子分析の手法を用いており,特に,親の養育態 度を子どもがいかに認知するかということに焦点を当てている。最近では,親の養育態度のみを 研究するだけではなく,何か他のバッテリーを共に用いて関連的妥当性を求める研究が多く見ら れる。例えば, MillerP. A. et al (1991)によると, Baumrind,D. は親の養育様式と子ども の向社会的な行動との関連性を研究し,その中で,彼女は親の養育態度を authoritarianparent
(独断的な親), authoritativeparent (命令的な親), permissiveparent (許容的な親)の3 つの様式に分類している。また,宮下 (1991)は,青年期における自己愛的傾向と親の養育態度
・家庭の雰囲気との関係についての研究を行っており,男子では,父親の否定的な養育態度と自 己愛的人格が,女子においては,母親の否定的な養育態度と自己愛的人格が関連すると述べてい る。ここにおいても父親,母親の養育態度に「情緒的支持・受容」「情緒不安定」「支配・介入」
の3因子を見いだしている。さて, Schaefer,E. S. (1965)はCR‑PB!を因子分析し,受容対 拒否,心理的自律性対心理的統制,厳しい統制対甘い統制の3つの因子を見いだしており,
Siegelman. M. (1965)の研究においても, Schaefer,E. S. とは別の尺度を用いてはいるが
①愛情 (Loving)R罰 (Punishment)⑧厳しい要求 (Demanding)の3種の因子を見いだし ている。小嶋(1969)や辻岡・山本(1975,1976, 1977a, 1977b, 1977c, 1978)もまた Schaefer のCR‑PB!から出発した因子分析的研究を行っているが, Kojima.H. (1975)においては,
3因子で主成分分析を行い, Schaeferの研究と類似した3つの因子 (Acceptance‑Rejection, Psychological Control, Lax Control)をみいだしている。また,辻岡・山本 (1977c)におい ては,親と子どもとの「へその緒」, すなわち, 分身的愛の強度を測定すると考えられる「同一 化」と呼ぶ因子の存在することを提案している。また,辻岡・小高 (1992)は親子関係の相互認 知において, 一次独立である 3組の因子:「情緒的支持」「感情的統制」「放任」と, 子どもと親 の報告に同時に負荷する共通因子としての「同一化」の因子が存在することを報告している。さ らに,小高 (1992)は25年前に得られた小嶋のデークと新しく得られたデータとの比較を行って おり,その構造が過去においても現在においてもほぼ,類似した構造になっていると報告してい る。
本研究においては,先述の25年前に収集された小嶋 (1969)のデークと最近の小高のデークと の比較をさらに8つの群に分類して因子分析の結果を比較する。すなわち,先の研究(小高
(1992))においては, 親のデータを含めた親子関係の相互の認知を小嶋のデータと小高のデー タのを2つの群でのみ比較したのに対し,本研究では,小嶋のデータと小高のデータの2種につ いてのそれぞれの息子→父,息子→母,娘→父,娘→母の 8種における子ども側の認知の因子構 造を別々に求め,これらの比較を行うことにする。
方 法
被 験 者 被験者は Fig.1‑1, Fig. 1‑2のように小嶋 (1969)の資料と1990年に調査して 得られた筆者の資料とを用いた。すなわち,「一人の息子とその両親」「一人の娘とその両親」と いう組合せになっている。その数は,小嶋の資料においては,金沢市の中学生2年生を対象とし ており,息子の組が150組,娘の組153組であった。一方,小高のデータにおいては,福井県下 と大阪府下の中学2, 3年を対象としている。息子の組が113組,娘の組が123組であった。
母
︑ ̀ '
寸子文
ー
息
5 0
¥ u
父
ー
知
母娘
5 3
¥ o
父
Fig. 1‑1 小 嶋 の 資 料 ( 小 嶋 1969,Kojima 1975)
︑ ' ノ
2 ︐ ︐ ー︵ 料
資の
︶ 高 寸文 ヽ
子
I J
ー
母息
1 3
¥ 0
ロg
父
.
F •I
ー対 母
ヽ~
娘
2 3
¥ o
父
尺 度 名 Schaefer の CR‑PBI (The Children's Report of Parental Behavior Inventory)は18尺度192項目からなる質問紙で, そのうち, 6尺度 (AC,PI, AI, HD, RE, HC)は16項目,残り12尺度は8項目からなっている。各尺度とその尺度に含まれる質問項目は 小嶋 (1969)に公表されているので本論文においては各尺度名と尺度略号のみを掲載するに留め た。
1 AC (ACCEPTANCE : 受容)
2 CH (CHILD‑CENTERDNESS: 子ども中心主義)
3 PO (POSSESSIVENESS : 所有欲)
4 RE (REJECTION : 拒否)
5 CO (CONTROL : 統制)
6 EN (ENFORCEMENT : 強制)
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7 PI (POSITIVE INVOLVEMENT : 積極的関与)
8 IN (INTRUSIVENESS : 干渉的)
9 CG (CONTOROL THROUGH GUILT: 罪懃惑による統制)
10 HC (HOSTILE CONTROL : 敵対的統制)
11 IC (INCONSISTENT DISCIPLINE : 一貫しないしつけ)
12 NO (NONENFORCEMENT : 非強制)
13 AI (ACCEPTANCE OF INDIVIDUAL : 個性化の受容)
14 LD (LAX DISCIPLINE: 甘いしつけ)
15 IP (INSTILLING PERSISTENT ANXIETY : 永続的不安感情の押し付け)
16 HD (HOSTILE DETACHMENT : 非好意的離反)
17 WR (WITHDRAWAL OF RELATIONS: 関係の撤回)
18 EA (EXTREME AUTONOMY : 自由放任)
分析手続き
① 小嶋のデータについての息子→父 (150対),息子→母 (150対),娘→父 (153対),娘→母 (153対),小高のデークについての息子→父 (113対),息子→母 (113対),娘→父 (123対),娘
→母 (123対),さらにこれら 8種の資料を結合したデータ (1078対,以後これを結絆サンプルと 呼ぶ)の9種についての 18X18尺度の相関行列を算出した。
R これらの9種の相関行列の固有値をもとめ, Scree Test (辻岡・東村1975)により, 共 通因子数をいずれも 4個と定め,主因子法による繰り返し法で共通性を推定した。
⑧ 結絆サンプルを含めた9群間の因子パタンができる限り近似するように,結絆サンプルの 主因子解を標的行列として各8群の主因子解に対して Schonemannの直交プロクラステス法を 適用し, これらの 9群(結絆サンプルの主因子解を含む)の超行列を Varimax回転し, さら に, Promax法で斜交回転をし,斜交4因子を求めた。
(これを図示すると, Fig.2のようになる。)
④ 上記で求められた一次因子因子間相関行列について,因子数を2個に定め,主成分分析を 行い, Varimax回転を行った。
結 果
1 一次因子分析
① それぞれの群の一次因子準拠構造と結絆サンプル (bondsample)の 一次因子準拠構造との一致性係数
Table 1はプロクラステス回転後 Varimax,Promax法を経た最終解の準拠構造と結絆サ ンプルのそれとの一致性係数の結果である。小高のデークと結絆サンプルとの一致性係数を見る
B O N D
五戸~s-J
ZB
小高ロZMニsj 一PFA:oVMs‑J
の
—
PFA:oVMs-mデI ZMd‑f 1‑1 PFA:oVMd‑J I
ク
□
小二ZKs‑Jデ~ZKd‑m「 ‑PFA:oVKd‑J
タI ー‑PFA:oVMd‑m
KTd‑m
\
(直交プロクラステス回転行列)
注) PFA主因子解
Proc Procrustes回転後の解 Vrmx Varimax解
Prmx Promax解
ZB Bondサンプルの標準得点行列
ZM,‑1 小高のデータにおける son‑fatherの標準得点行列 ZMs‑m小高のデータにおける son‑motherの標準得点行列 ZMd‑J小高のデータにおける daughter‑fatherの標準得点行列 ZMd‑m小高のデータにおけるdaughter‑motherの標準得点行列 ZK,‑1 小嶋のデータにおける son‑fatherの標準得点行列 ZKs‑m 小嶋のデータにおける son‑motherの標準得点行列 ZKd‑J小嶋のデータにおける daughter‑fatherの標準得点行列 ZKd‑m小嶋のデータにおける daughter‑motherの標準得点行列 T. Varimax変換行列
Tp Promax変換行列
Fig. 2 因子間相関固定の直交プロクラステス法 (OVER‑ALL法)
と,息子→母の組合せでは,.737から.987の値を示しており,また,娘→父の組合せでは,.907 から.982の値を示している。また,娘→母の組合せにおいては,.931から .984の値を示してお
り,息子→父以外の組合せにおいては,これら4つの因子の構造は,ほぽ,類似した構造と考え られる。一方,息子→父の組合せにおいては,同一化の因子以外は, 0.9以上をしめし,情緒的 支持の因子,感情的統制の因子,放任の因子はほぼ,類似した構造であると考えられるが,同一 化の因子については,結絆サンプルの同一化の因子の一致性係数(.344)よりもかえって感情的 統制の因子との一致性係数が高い値を示しており(.453), 他の組合せの因子の構造とは異なっ た構造であると考えられる。このことは,息子の父に対する同一化は父からの愛情面よりは父の
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Table 1 結絆サンプルと8群の準拠構造の一致性係数
\ 8群 情支緒持的 感統情制的 放 任 同 一 化
息 情緒的支持 956 ‑ 022 202 304 子 感情的統制 ‑ 019 956 013 429
↓ 放 任 177 012 975 ‑ 133 小 父
同一化 279 453 ‑ 142 344 高 學 情緒的支持感情的統制 ‑ 097044 ‑ 090794 208724 317190
↓ 放 任 259 075 987 ‑ 008 の 母 同一化 171 328 ‑ 008 ,a,
デ 娘 情緒的支持 982 ‑ 158 114 194
↓ 感情的統制 ‑ 169 972 ‑ 159 238 1 放 任 115 ‑ 149 970 ‑ 037 父 同一化 188 217 ‑ 036 907
夕 娘 情緒的支持 984 ‑ 107 206 166
↓ 感情的統制 ‑ 104 918 ‑ 125 206 放 任 203 ‑ 126 976 ‑ 059 母 同一化 148 190 ‑ 054 931
學 情緒的支持感情的統制 908695 096834 012546 228838
↓ 放 任 167 028 985 ‑ 014 小 父 同一化 252 246 ‑ 011 874 嶋 學 情緒的支持感情的統制 m 012 091819 202246 221465
↓ 放 任 226 025 988 ‑ 076 の 母 同一化 202 219 ‑ 070 907 デ 娘 情緒的支持 993 ‑ 003 107 199
↓ 感情的統制 ‑ 003 984 ‑ 081 183 I 放 任 112 ‑ 076 980 ‑ 050 父 同一化 176 146 ‑ 043 928
夕 娘 情緒的支持 989 ‑ 057 159 267
↓ 感情的統制 ‑ 064 977 ‑ 011 285 放 任 180 ‑ 011 989 027 母 同一化 255 246 023 754 小数点省略
統制面に対してより強く意識されていることを意味している。
また,小嶋のデークと結絆サンプルとの一致性係数についてみると, 4群 の 一 致 性 係 数 は 高 い 値 を 示 し て お り ( 息 子 → 父 .874.989, 息 子 → 母 .907.989,娘 → 父.928 .993娘 → 母 .754
. 989), これらの4つの因子は結絆サンプルの構造とほぼ,類似した構造であると考えられる。
以上のことを考慮にいれると,小高のデークの息子→父と結絆サンプルの準拠構造はかなり異
1 AC 2 CH 3 PO 4 RE 5 co
6 EN 7 PI 8 IN 9 CG 10 HC 11 IC 12 NO 13 AI 14 LD 15 IP 16 HD 17 W R 18 EA
Table 2‑1 全体の準拠構造
雪 唱
r /
放 任 1同一化811 ‑ 022 091 039 68? ‑ 020 116 125 207 150 037 463
‑ 300 617 181 018 287 557 ‑ 283 ‑ 006 063 696 ‑ 190 ‑ 074
?42 148 146 043 214 258 ‑ 110 330
‑ 004 621 038 031 056 615 ‑ 234 131
‑ 114 444 308 050 058 ‑ 067 69? ‑ 018
m ‑ 124 178 ‑ 032 220 043 682 148 155 585 ‑ 072 072
‑ 399 445 280 061
‑ 087 615 159 ‑ 010 267 023 634 ‑ 215 小数点省略
1 AC: 受容
2 CH: 子ども中心主義 3 PO: 所有欲 4 RE: 拒否 5 co: 統制 6 EN: 強制 7 PI : 積極的関与 8 IN : 干 渉
9 CG: 罪悪感による統制 10 HC: 敵対的統制 11 IC : 一貰しないしつけ 12 NO: 非強制
13 AI : 個性化の受容 14 LD: 甘いしつけ
15 IP : 永続的不安感情のおしつけ 16 HD: 非好意的離反
17 WR: 関係の撤回 18 EA: 自由放任
なるものと思われるがその他の群の構造は,ほぽ,類似した構造と思われる。
R 一次囚子の解釈 (Table2‑1 Ta ble 2‑3を参照)
第1因 子 情 緒 的 支 持 の 因 子 (ES: Emotional Support)
結絆サンプルの準拠構造をみると,受容(AC.811), 子ども中心主義(CH. 687), 拒否 (RE
‑ .300), 積極的関与 (PI. 742), 個性化の受容 CAI. 737), 非好意的離反 (HD‑ .399) の尺度が高い負荷を示している。
このことから,この因子は子どもへの愛情を表す因子と考えられ,この因子を「情緒的支持の 因子」と命名する。
第2因 子 感 情 的 統 制 の 因 子 (CO: Emotional Control)
結絆サンプルの準拠構造をみると,拒否 (RE. 617), 統 制 (CO. 557), 強制 (EN.696), 罪悪感による統制 (CG. 621), 敵対的統制 (HC. 615), 一貫しないしつけ (IC. 444), 永 続 的不安感情の押し付け (IP. 585), 非好意的離反 (HD.445), 関係の撤回 (WR.615)の尺 度が負荷を示している。
以上のことから,この因子は,親が子どもに対して感情的に圧力のかける槌育態度と考えられ る。よってこの因子を「感情的統制の因子」と命名することにする。