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第 3 部 ガスインジェクションサイクルによる高性能化

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Academic year: 2022

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(1)第7章. ガスインジェクションサイクル. 第 3 部 ガスインジェクションサイクルによる高性能化. ―――――――――――――――――― 概 要 地球温暖化ガス削減にとって省エネル ギー技術は非常に重要であり,これまで は主に要素技術的な面から研究開発が行 なわれてきた. しかし現在,更なる省エネルギーが必 要になっていること,要素技術による性 能向上が限界に近づいていることから, インバータ制御スクロール圧縮機を使っ たガスインジェクションサイクルのシス テム的な研究開発を行い,省エネルギー と同時に高暖房能力を実現した. またこれに伴い,このガスインジェク ションサイクルの制御方法を開発した.. - 98 -.

(2) 第7章. 第7章 7.1. 概. ガスインジェクションサイクル. ガスインジェクションサイクル. 要. 近年,ルームエアコンディショナでは,オゾン層保護の点から冷媒が R 22 から R 410A へ切り替わり,地球温暖化ガス削減の点から省エネルギーが非常に重要にな っている.またその普及につれて東北や北海道などでも暖房機として利用されるよ うになり,低外気温時の暖房能力増大が必要になっている. こうしたニーズに対して,省エネルギーのために,熱交換器,ファン,圧縮機と いった要素技術や,冷凍サイクル,ユニット実装といった技術による性能向上が行 われてきた.また圧縮機回転数を広い範囲で制御できるインバータ技術が実用化さ れ,低外気温時の暖房能力の増大が可能になった.しかし最近では,更なる省エネ ルギーや低外気温時の暖房能力増大が必要になっている.その解決手段の一つとし て,ガスインジェクションサイクルに注目する. ルームエアコンディショナにおけるガスインジェクションサイクルは,1.4.2 項 で述べたように,冷媒が R 22 で圧縮機が一定速の時代に,ロータリー圧縮機を用 いて定格能力での高効率・高暖房能力を目的に開発されたことがある5).しかしこ の時は,インバータがなく,絞りがキャピラリーチューブで,さらにマイコンが使 われていないため,圧縮機や絞りを制御する必要がなかった. また最近では,ガスインジェクションサイクルは,インバータ制御圧縮機と組み 合わせることによって更なる性能向上と能力増大を期待できることから,R 410A とインバータ制御ロータリー圧縮機および絞り量の調整が可能な電子膨張弁を使 って製品化された7).しかし 1~2 年ほどして姿を消したため,技術内容は明確に なっていない.筆者らは,ほぼ時を同じくして,インバータ制御のスクロール圧縮 機を使用したガスインジェクションサイクルの開発に取り組み,約1年おくれて製 品化した.ガスインジェクションサイクルの開発では性能向上だけでなく圧縮機の 信頼性も考慮する必要があり,圧縮機の形態によって開発すべき技術は大きく異な ってくる. 本研究では,R 410A とインジェクションポートが1個のインバータ制御スクロ ール圧縮機および電子膨張弁を使ったガスインジェクションサイクルの研究開発 を行い,高性能化と暖房能力増大を図った.この場合,開発すべき技術はハード(圧. - 99 -.

(3) 第7章. ガスインジェクションサイクル. 縮機,膨張弁,インバータ等),ソフト(制御系,センサ)両面の広い分野にわた るため,難易度が高い.具体的には,1.3.2 項の(2)でも述べたが,以下の通りであ り,これらを解決して実用化した. 1) ガスインジェクションサイクルの効果の評価. 2) 1つのインジェクションポート付きスクロール圧縮機の開発. 1),2)に関しては,ガス冷媒は,1個のインジェクションポートからスクロール 圧縮機の2つの圧縮室に順次にそして徐々にインジェクションされるため,この場 合の圧縮仕事を評価できるシミュレータを作成して,高性能化が可能な1個のイン ジェクションポートの仕様を決定した. 3) 冷暖・暖房に対して,単純な構成でガスインジェクションを効率よく行え るサイクル構成の開発. 4) ガスインジェクションサイクルの適切な制御方法の開発. 3),4)に関しては,広い能力可変範囲にわたって高性能を実現すると同時に圧縮 機の信頼性を確保できるようなサイクル構成と,これに関連した圧縮機回転数及び 電子膨張弁開度の制御方法を開発する必要がある.これに対して,上流側膨張弁は 圧縮機頭部温度が最適になるように,下流側膨張弁は圧縮機頭部温度と圧縮機吸込 温度を用いて液インジェクションが発生しないように制御するようにした.. - 100 -.

(4) 第7章. 7.2 7.2.1. ガスインジェクションサイクル. 理想ガスインジェクションサイクル ガスインジェクションサイクルの構成とモリエ線図. ガスインジェクションサイクルの構成を,従来の単段サイクルと比べて,図 7.1 に示す.(b)のガスインジェクションサイクルは,(a)の単段サイクルの減圧 部に2つの膨張弁を設け,さらにこの2つの膨張弁の間に気液分離器を設けた 構成になる. また図 7.2 にモリエ線図上での対応する状態変化を示し,破線が単段サイクル, 実線がガスインジェクションサイクルである.ガスインジェクションサイクルでは, 凝縮器を出た高圧力 Pc の液冷媒が上流側の膨張弁で中間圧のインジェクション圧 力 Pi まで減圧されて乾き度 x の気液二相となり,気液分離器に入る.気液分離器 では,入口の状態が E 点で,内部で D 点の飽和ガス冷媒と F 点の飽和液冷媒に分 離される.その後,飽和液冷媒は,下流側の膨張弁でさらに減圧されて低圧力 Pe の蒸発器に入り,吸熱・蒸発して圧縮機に吸込まれる.一方飽和ガス冷媒は,圧力 Pi で圧縮機内の圧縮室にインジェクションされる.. Expansion 膨張弁valve. Condenser. 蒸 発 器. 凝 縮 器. Refrigerant 冷媒. Evaporator. Condenser. Refrigerant 冷媒 圧縮機. Compressor 圧縮機. Injection into compressor room 圧縮途中の among compression process 圧縮室に注入. ガ 蒸 スVapor 発 冷 refrigerant器 媒. 凝 縮 器. Liquid refrigerant 液冷媒. First expansion valve 第一膨張弁. Evaporator. Compressor. Second expansion valve 第二膨張弁 中間圧で気液分離. Vapor-liquid separator 気液分離器 (a) Single stage compression cycle. Fig.7.1. (b) Vapor injection compression cycle. Structure of vapor injection compression cycle. - 101 -.

(5) 第7章. ガスインジェクションサイクル. Saturated liquid line. Saturated vapor line Qheat Δhc Gc=Ge+Gi N. Pc. M. G. Pressure. xi ; Quality Pi F. Injection Gi=xi・Gc. E. Vapor-liquid separation. D C. B. Mixed. G. Pe. Δhe hF. A. Ge Qcool hE. Enthalpy. hD hC hB hN hM hA. ; Vapor injection cycle ; Single stage compression cycle. Fig.7.2. 7.2.2. Morier diagram of ideal vapor injection cycle. ガスインジェクションサイクルの性能向上原理. ガスインジェクションサイクルでは,図7.2のモリエ線図において,気液分 離により蒸発器入口での冷媒乾き度が減少するので,冷凍効果 (h A-h F) が単段 サイクルでの冷凍効果 (h A-h E ) よりも大きくなる.蒸発能力 Qe は冷媒流量と 冷凍効果との積で表わされるため,蒸発能力 Qe を一定とすると,インジェク ションサイクルでの蒸発側冷媒流量 Ge は,単段サイクルでの冷媒流量 G より も少なくなる( Ge  G  Gi ).このため圧縮機の低段側圧縮仕事(低段側断熱 圧縮エンタルピー差×冷媒流量)が低減され,冷凍サイクルの効率が向上する. なお実際のガスインジェクションサイクルでは,蒸発器を流れる冷媒流量が 少なくなるのに加えて,蒸発器入口乾き度の低減により蒸発器内の冷媒の比容 積が小さくなり,蒸発器側冷媒流の圧力損失が低減する.この結果,圧縮機吸 込圧力が上昇して圧縮仕事をさらに低減できる.. - 102 -.

(6) 第7章. ガスインジェクションサイクル. ガスインジェクションの効果は冷媒によって異なる.冷媒熱物性がガスイン ジェクションの効果に与える影響を図 7.3 に示す.インジェクション圧力 Pi は. Pd  Ps  )とした 3 6 ) .単段サ. 二段圧縮サイクルで最も効率が高い圧力( Pi . イクルからガスインジェクションサイクルにした場合,R 410A の蒸発器入口 の乾き度 x は 0.24 から 0.13 へと低下し,R 22 の乾き度 x の低下量 0.19 から 0.10 よりも大きい.これは R 410A の飽和液線の傾きが R 22 よりも小さいため である.したがって,ガスインジェクションサイクルの蒸発器における気液分 離による冷凍効果の増加量 Δh は R 410A の方が R 22 よりも大きく,ガスイン ジェクションの効果が大きくなる.ガスインジェクションサイクルは,新冷媒 R 410A に適した性能向上技術であると言える.. R 410A R410A. R 22. R22 5℃. 5℃ 45℃. Pd. 45℃ R410A. Pinj 10℃. Pressure 圧力. Pressure 圧力. R22. Ps. X=0.24 X=0.13. X=0.19 X=0.10. Δh. Δh. エンタルピEnthalpy. Fig.7.3. 10℃. エンタルピEnthalpy. Influence to vapor injection effect by refrigerant property. - 103 -.

(7) 第7章. 7.2.3. ガスインジェクションサイクル. 理想ガスインジェクションサイクルの性能. (1) 性能計算方法 次の条件を満たす理想ガスインジェクションサイクルの効果を評価する. 1) 熱交換器,配管での圧力損失や各部の熱損失無し. 2) 圧縮過程は断熱圧縮. 3) 気液分離器では二相冷媒が完全に気液分離し,ガス冷媒は全てインジェ クション圧力で瞬間的にインジェクションされる. 図 7.2 において,単段サイクルとガスインジェクションサイクルの理論特性式は 表 7.1 のように表わされる.この場合,両サイクルにおいて,凝縮圧力 Pc,蒸発圧 力 Pe は同一とする. 表 7.1 より,ガスインジェクションサイクルによる圧縮仕事低減量は以下のよう になり,低段側と高段側に分けられる.. 圧縮仕事低減=W-Wi = G(hM-hA) - {Ge(hB-hA)+Gc(hN-hC)} = (G-Ge)(hB-hA) + {G(hM-hB)-Gc(hN-hC)}. (7.1). 式(7.1)において,第1項が”低段側圧縮仕事低減量”,第2項が”高段側圧縮仕事 低減量”である. ここで,さらにインバータ制御圧縮機を想定して能力一定とすると,以下の式が 得られる.. 冷房:Ge = G (hA-hE) / (hA-hF). (7.2). 暖房:Gc = G (hM-hE) / (hN-hE). (7.3). また,ガスインジェクション流量 Gi およびC点のエンタルピ hC は,次のように なる.. Gi = Gc・x. (7.4). hC = (hB Ge+hD Gi) / Gc. (7.5). - 104 -.

(8) 第7章. Table 7.1. (2) 効. ガスインジェクションサイクル. Characteristic equation on single stage and vapor injection refrigeration cycle. Refrigeration cycle. Single stage. Vapor injection. Cooling capacity; Qcool. G(hA-hE). Ge(hA-hF). Heating capacity; Qheat. G(hM-hE). Gc(hN-hE). Compression Work ; W. G(hM-hA). Ge(hB-hA) +Gc(hN-hC). 果. 式(7.1)~式(7.5)を用いて,能力を単段サイクルと同一とした時のガスインジェク ションサイクルによる圧縮仕事低減効果を求めた.計算条件を表 7.2 に,計算結果 を図 7.3 に示す. 図 7.3 において,圧縮仕事低減量をみると低段側によるものがほとんどであり, この低段側圧縮仕事低減量はある Pi で最大となる.またこれと連動して,圧縮仕 事低減率もある Pi で最大となる.このように圧縮仕事低減量および圧縮仕事低減 率が最大値を持つのは,式(7.1)の第 1 項において,Pi の増大に対して,気液分離器 での乾き度 x が減少してインジェクション流量 Gi が減少して Ge が増すと同時に低 段側の圧縮エンタルピー差(hB-hA)が増加し,それらの積がある Pi で最大になるた めである. また蒸発器冷媒流量 Ge は Pi によって変化するが,凝縮器冷媒流量 Gc は単段サイ クルの場合と同等であり,さらに Pi に対してほとんど変らない. 以上より,圧縮仕事低減率の最大値は,冷房能力 4.0kW で 8.1%,暖房能力 5.9kW で 3.9%となった.. - 105 -.

(9) 第7章. Table 7.2. ガスインジェクションサイクル. Calculation condition of ideal gas-injection cycle Cooling. Heating. -. R410A. R410A. Capacity. kW. 4.0. 5.9. Condensing pressure. kPa. 2910. 3000. Evaporating pressure. kPa. 1100. 810. Degree of subcooling. ℃. 5. 19. Degree of superheat. ℃. 5. 5. Refrigerant. 8.1 %. 8. 5. Compression work decrease rate [%]. Compression work decrease rate [%]. 10. 6 4 2. 4 3 2 1 0. Low stage compression. 60. Compression work [W ] decrease. Compression work [W ] decrease. 0. 40 20. High stage compression. 40. High stage compression 0. Refrigerant flow rate [kg/h]. Injection. 80 Evaporator 70 25. Injection rate [%] (=Quality). Refrigerant flow rate [kg/h] Injection rate [%] (=Quality). 105. Condenser 92.7 kg/h (Single stage cycle). 20 15 10 5 0. 1400. 1600. 1800. Low stage compression. 20. 0. 90. 3.9 %. 2000. 2200. Condenser. 100 101.1 kg/h 95 (Single stage cycle) 90. Injection. Evaporator. 85 20 15 10 5 0 1000. 1200. 1400. 1600. Injection pressure [kPa]. Injection pressure [kPa]. (a) Cooling (4.0 kW) (a) Cooling. (b)Heating (5.9 kW) (b) Heating. Fig.7.4. Performance change to injection pressure. - 106 -. 1800.

(10) 第7章. 7.3. ガスインジェクションサイクル. 本章のまとめ. COP 向上および暖房能力増大のための冷凍サイクル的手段として,ガスインジ ェクションサイクルがある.本章では,断熱圧縮,圧力損失や熱損失なし,ガス冷 媒は瞬時にインジェクションされるとした,R 410A 使用の理想ガスインジェクシ ョンサイクルの効果を計算し,以下の結果を得た. 1) インジェクション圧力を上げると,インジェクション量(乾き度)が減少する. 2) 圧縮機入力低減率は,あるインジェクション圧力で最大値を持つ. 3) 同一能力の場合,以下の効果により,能力 4.0kW/5.9kW(冷房/暖房)での 圧縮仕事低減率の最大値は 8.1%/3.9%(冷房/暖房)となる. ・冷凍効果の増大による冷媒流量の低減. ・R 410A は液相線の傾きが小さく,ガスインジェクションによる蒸発器で の冷凍効果の増大が大. ここで本論文では,圧縮機にスクロール圧縮機を採用したが,スクロール圧縮機 では固定スクロールと旋回スクロールにより2つの圧縮室が対象に形成される.そ して構造の単純化のために,固定スクロールの鏡板に直径が 1~2 mm の1個のイン ジェクションポーと設ける構造とした.従って注入されるガス冷媒は,形成された 2個の圧縮室に抵抗の大きい1個の小ポートを通して,順次かつ徐々にインジェク ションされることになり,本章の理想インジェクションサイクルのように瞬時に注 入されるわけではない. 第8章では,ガス冷媒が1個の小孔を通して圧縮室に注入される実際のインジェ クション状態の特性を計算できるシミュレータを作成して圧縮仕事を評価し,適切 なポート仕様を決定する.次にこの圧縮機を試作し,さらにルームエアコンディシ ョナに搭載して実機で性能を評価する.. - 107 -.

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