(東女医大誌 第38巻 第4号頁201−215昭和43年4月)
〔言 説〕
子宮内膜症の臨1床
東京女子医科大学産婦人科学教室(主任
講師 高 橋 文
タカ ハシ フミ
川上博教授)
子
コ
(受付 昭和43年2月5日)
Clinical Cases of Endometriosis Fumiko TAKAHASHI, M.D.
Department of Obstetrics and Gynecology (Director: Professor Hiroshi KAWAKAMI)
Tokyo Women s Medical College
Endometriosis is the situation where the same tissue as endometrium proiiferates hetrotopic at places other than the internal uterus. Considering its symtoms and region of development, more attention should be paid by all concerning medical fields and not only gynecologist.
A clinical introduction was attempted by summarizing domestic and foreign literatures, and by com−
paring cases treated by ourselves. Endometriosis has in increased in muber due to the progress in recent clinical examination technique and by carefu1 diagnosis of such patient. The most carefu1 attention should be paid in the treatment of those patients. iMaximum endeavors should be made to prevent the influences of endometriosis on the sex orgens and on the sexuaUife of women.
1. まえがき
子宮内膜症Endometir・sisは,子宮内膜組織が 子宮壁内面のみならず内・外生殖器,その他性器 外の遠隔臓器ならびに組織に異所的に増殖する疾 患であり,それゆえに女性の性機能,性生活に深 刻なる障害をもたらし,本態的には良性増殖性疾 患ではあるが,卵巣のホルモン機能が継続する限 りにおいては,臨床上悪性腫瘍類似の症候を表わ す.また近年本症の悪性変化の経過をとるものが 報告され1)2),悪性腫瘍の解明になんらかの手が かりを与え得る可能性があるのではないか?ま た,その発生部位,症状などより.単に婦人科的疾 患としてのみでなく,外科,内科,泌尿器科,そ の他全科に亘って,もっと注目されるべき疾患で
あるにもかかわらず,診断の困難さとともに,い まだに無関心にすぎる傾向にあると思われる.こ の興味ある疾患に対する関心が高まり,正しい診 断,治療が行なわれることを望み,本症の臨床に ついて昭和37年〜昭和41年の5年間における本教 室の経験と,最近の内外文献を参照しつつ綜説を 試みる.
皿・定 義
子宮内膜症とは女性にみられる異所的上皮増殖 で,1)子宮内膜組織,または子宮内膜由来の組織 が生理的部位である子宮腔内面以外のところに増 殖した状態を言い,子宮筋層内さらに骨盤内臓 器,主として卵巣,卵管,結合組織などに蔓延 し,しばしぼ下腹部腹膜を侵し,ついには腹膜外
一 201 一
組織,ことに膣,開腹二丁,二二部,さらに肺な どの遠隔臓器にまで,腫瘍状に増殖発育する疾患 である.2)病巣組織は発生部位により子宮内膜組 織,または子宮内膜由来のものと認められず,子 宮内膜類似の組織,つまり子宮内膜に似ていれば よい,という二通りの定義がある.一般に子宮内 膜症の定義としては,異所的に発達した子宮内膜 組織を有する疾患とすべきで,明らかに子宮内膜 組織,または子宮内膜由来の組織と考えられる場 合をいうべきである.また子宮内膜症組織の生活 力は,その個体の,そのときの卵巣機能に依存 し,更年期に至ればその生活力も哀える傾向を有 し,子宮内膜症自身,周期性変化,または脱落膜 性反応を呈する.
ロL 歴 史
本症の発生は古くより認められ(表1),1860 年K.Rokitansky3)が ℃yst・ovarioma adenoides uterium と命名して発表して以来,1889年L6h−
lein4)が,1895年Recklinghausen5)6)が adeno−
myoma uteri として,1897年Pfannenstie17)は 膣直腸窩のものを 生殖器官の線筋腫について
と報告し,同年Cullen8)は,アメリカにおけ る最初の報告を adenomyoma uteri diffusum・
benignum(adenornyosis) として行ない,1899 年Russelg)は卵巣の本症に関して最初の検証報告 を行なった.ついで1918年SamPs・nlo)が本症の 系統的研究を発表し,子宮内膜移植説を提唱し,
病理学的にも臨床的にも広く知られ,以後本症の 研究業績が多く発表され,本症の本態が次第に解 明されるに至ったが,今日なお婦人科の重要課題
となっている.
1V.:分類の用語
分類法VX一一一濾していないが,大きく次の三つに 分類される.1)発生部位別分類,2)発生様式別分 類,3)組織構成別分類.
1) 発生部位別分類
本症の発生部位は,内生殖器系はもちろん,生 殖器以外の部にも及び,広汎にわたるため分類法
も一一ffでないが,局所解剖的に分類するのが最 も妥当とされている.(表2)のごとくHans
Albrecht11), Novacki2)らは,これをまず大きく,
表1 歴史
報告年
報告者「発生靴
1860 1889 1895 1897 1897 1899 19ユ8
Rokitansky L6hlein Recklinghausen Pfannenstiel Cullen Russel Sampson
卵 巣
子 宮 壁 子 宮 壁
腔直腸窩
子 宮
卵 巣
系統酌研究 表2 子宮内膜症の分類
A〕・唖離誌
1 卵巣 2 外性子宮
B〕外性
1
五
L
...k
雌1
腹膜 内字/
3 4
子宮靱帯
下腹腔内空洞揮毫(大腸
・小腸・直腸・膀胱・虫 垂等)の漿膜
骨盤結合織・子宮腔部・
外陰・会陰
1済より下方開腹創疲痕 膀および腹壁 嵐径部
リンパ壁 上・下肢 肺・肋膜 尿管・腎・尿道 横隔膜・腰椎骨
子宮壁内および卵管内部に発生するa)Internal endometriosisと,この二つを除いて付近の Serosa各所に発生したものをすべて包括してb)
External endometriosisとに分け,これらのなか で最も多いものは内性子宮内膜症で,ついで卵巣 子宮内膜症がしぼしぼ認められる.彦坂ら13)は a)子宮壁子宮内膜症
b)子宮外子宮内膜症
とに分類するのが最も妥当で,分り易いと述べて
いる.
2)発生様式別分類
発生部位が局部的であるか,禰漫性であるかに よって分類するが,あまり使用されない.
a) Local Endometriosis b ) Diffuse Endometriosis
3)組織構成別分類
本症は,異所性に増殖した子宮内膜を認める場
一 202 一
合をいうが,子宮内膜組織と診断するには,内膜 腺細胞群とその周囲にみられる組織(Cyctogenes gewebe)の存在の確認が必要である.子宮内膜 症においては,細胞学とCytogenes gewebeの比 率は,正常子宮内膜におけると同様な量的分布を 示すが,時にこの比率が変って腺細胞群が非常に 少なくなり,ついに全く消失してチトゲン組織の みしか認められない場合がみられる.このように 腺細胞と基質との組織構成の如何によって(写真
1, 2)
蟻鷲
嬢・
写真1 Mixed endometriosis
灘
,xe鶴難性の経過をとり,肉腫,癌腫などとの鑑別で近年 興味ある対象となり,重視すべき疾患である.
本症用語はRecklinghausen5)6), R. Meyer14)15),
Schatzi6)ら多くの研究者達により(表3)のご とく,いろいろな名称で呼ばれてきたが,本症は Lauchei7)らのいうごとく 一調tis 炎症ではな く,またKapselのない腫瘍に 一〇m とつけ るのは妥当でないと Frankeli8)が提言し,こ れらの語尾をもつ言葉は現在では使用されず,
Cullen8), ReckHnghausen5)6), Franke118)のいう
≠р?獅盾高凾盾唐奄淘B筋症 が広く使用されていたが,
この名称は異所性上皮増殖と同時に筋成分の増殖 を合併する場創こは適当であるが,生殖器以外の 部位に発生した本症には適当でなく,今日では 子宮内膜症Endometriosis に統一された.本 症は 一〇sis という語尾の示すごとく炎性産物 でも新生産物でもないことを表わす.
表 3
護
羅
Endometriosis Endometriose Endometrioma Endometriomyoma
Adenofibrosis Adenometritis Fibroadenomatosis Fibroadenom
Adenomyosis Adenomyoma Adenomyon Adenomyometritis Adenomyositis Hysteroadenosis
写真2 Stomal endometriosis a) mixed endometriosis
(Glandular endometriosis)
b) Stromal n (Stromatosis)
とし,一般のものをmixed endometriosisと呼 び,良性の非腫瘍性疾患で卵巣ホルモンの影響 が著明であると考えられているに反し,stromal endometriosisは比較的まれなもので,卵巣ホルモ
ンとは無関係で,多くは良性であるが,ときに悪
V・発生機序(成因)
本症について最も興味ある問題で,多数の研究 にもかかわらず今日なお不明の点を多く残し,一 説のみでは解決することは困難であり,少なくと
もInternal endometriosisとExternal endometriosis とは区別して考えるべきである.発生に関する諸 説をその本態によって胎生説と後胎生説とに大別 でき(表4),代表的な諸説についてみると 1)子宮内膜の深部増殖炉
子宮内膜がその生理的境界を越えて,子宮筋層 内に連続的に侵入増殖するという説で,1883年 Diesterwegt9),1889年Carl Ruge20),1892年Carl Schr6der2i)らによって提唱され,その後R・Me−
yer22)2s), Pierson24),樋口25)らに支持され,少なく ともInternal endometriosis(Adenomyosis)の成
表4 Endometriosisの成因説 胎生説
後胎生説
1)Wolff管説(Recklinghausen)
2)MUIIer三一(Cullen)
1) 子宮内膜の深部増殖説 2) 漿膜上皮の化生説(lwanoff)
3) 子宮内膜移植説(Sampson)
4) 経脈管子宮内膜移植説(Halban)
5) 過誤腫説(Hamarton)
6)手術創面への直接移植説(Lauche)
7) lnduction theory (Levander)
因として,今日この説が最も普通のmechanismus であると考えられている.
2)漿膜上皮の化生説
胎生期体腔を形成する上皮Coel・n ePithelが化 生を起こして,円柱上皮となり,深部に増殖して 本症を発生せしめるという説で,1898年lwanoff26)
により唱えられ,その後R・Meyer22)23), Novak19),
樋口25)らにより支持され,胎児の体腔を形成する 上皮Coelon epithe1から由来するすべての器 官,すなわち大部分の女性々器および骨盤腹腔な
どは,子宮内膜組織を形成する可能性を有してお り,もし炎症とか,ホルモン失調が存在するなら ぽ,子宮内膜へのmetaplasieが起こり得るとい うのである.しかし本説では腹膜外子宮内膜症,
手術創瘡痕に形成された子宮内膜症などの発生の 説明は困難である.
3) 子宮内膜移植説
1918年SamPson27)により提唱され,(Sampson hteory)1924年Halban28)により支持されたもの で,運搬説,月経血逆流説とも呼ばれているもの で,子宮後屈,ポリープ,筋腫などがあって,頚 管の狭窄を起こして子宮腔内に月経血が停滞する
とき,剥脱した内膜片が月経血とともに卵管内を 逆流して腹腔内に達し,内膜片が卵巣表面に癒着
し移植され,また,・これがさらに卵管深部に侵入 して月経とともに.出一曝してChocoladenzysteとな り,卵巣成分により,さらに活性化されて腹膜上 皮に移植されるという説であり,Linde&Scott29)
らは動物実験の結果,この説を支持しているが,
R・Meyer22)23), Novak19), Heim30)3i)らはこれに反
論し,たとえ月経血中の内膜片が腹腔に送られた
としても,月経生内の内膜が移植されたのではな く,それらによる慢性刺激によって腹腔のSero−
ePithe1がmetaPlasieを起こし,本症が発生する というのである.
4) 経脈管子宮内膜移植説
1927年Halban28)32)によって提唱されたもの で,子宮内膜より分離した内膜片がリンパ行性,
血行性に輸送されて本症を発生するという説であ る.この説はそ径部,膣その他遠隔臓器に発生し た内膜症の説明には好都合であるが,悪性細胞で ない子宮内膜組織が転移によって果して増殖する か?は問題である。
Levander33)は内膜細胞ば変性,壊死に陥る際 にlnduction substanceを放出し,これがリンパ,
血行を介して組織中に入り,二種質を活性化させ て内膜組織を形成するという説を発表した.すな わちInduction theoryである.
これらの説のほかに,手術創面への直接移植説
(Lauche1マ), R・Meyer34)),過誤腫説(Hamartoln 説)35),Recklinghausen5)6)の原腎説, Cullen36)
のmUller誌上などがある.このように本症の発生 については,いまだに総ての症例について,その 発生原因は一元的でなく,なお発生起因として,
炎症,外傷,ホルモン,遺伝因子,人種的差異な どの因子が,これに関係あると認められている が,今後解明されるべき問題である.
V1・発生頻度
近年,次第に増加の傾向を示し(表5),Kleine37)
によると,最近の本症増加は特に著しく,Lind
&Scott29)らによると!933年に3.2%であった ものが,1943年には7.2%,1949年には9.0%
と上昇していると述べ,わが国でも高邑38)39)によ ると1959年に6.65%と高率を示している.当教室 においても(表6),1962年には開腹手術例中7.3
%,1964年には14.2%,!966年には18.6%と次第 に高率を示し,これらの発現頻度は本症の検索に 対する関心の有無により,その差がはなはだしく 異り,欧米においてもMeigs40)41)36%, Sinclair42)
5.3%と報告もいろいろで,このことは近年,子 宮内操作が頻繁に行なわれ,また手術的侵襲の 増加に基因するものと考えられ,またBlinck&
一204一
表5 発現頻度 報告年 報告者 資 料 例数と頻度
1949 1950 5119
1!
1952
1!
1957 1959 1967
Brezezinsky Nakanishi Javert
!!
Sinclair Ishikawa Fritz
Takamura
当教室
1027 手 術 例 7768 全婦人患者 1371 手 術 例
763 19444年間例
手 術 例 1353 手 術 例 2774 手 術 例 1149 手 術 例
42
( 4.1 O/o)
92
( 1.180/o)
5・ 61 O/e
9. 91 O/o
103
( 5.3 0/o)
13.4 O/o
113
( 8.3 O/o)
182
( 6.650/o)
148
( 12. 880/o)
表6 年度別発生頻度
表7 感性子宮子宮内膜症の発現頻度
撃報告者
資料暫%
19141 Frank1 1921 Sampson 19371 Philipp 1945 1950 1951 1952
!!
1953 1957 1967
Masson Yoshikawa Javert Higuchi Ish量kawa
Endo Otto 当教室
260子宮内膜症
474 手 術 例 全婦人科手術 2,869子宮内膜症
手術患者
24,436 ta 者
569 開 腹 術
手術届、者
279別除子宮 1,149手術例
207 101
1852 1300 17
67 114
79.6 21.3 10.0 61.0 9.3 5.6 3.0 13.4 14.7 20.4 9.9
訳手術例本症例
。/o1962 1963 1964 1965 1966 計
217 249 207 229 247 1149
16 7.3
23 28 37 44 148
9.2 14.2 12.0 18.6 12.9
表8 骨盤内Endometriosis 報 告 者 開腹数 症例数 e/o Gray
Tyrone Brezineke Depp Mainetti Kelley Ramse Hayashi
8itlL31−ag,90 31,663 569
1,027 1,819 183 1,991 1,075 963
42 233 25 179 72 13
29.3 1.8 4.1 12.8 13.6 9.0 6.6 1.4
Merendino43)によると,黒人種は白人種に比し て本症の発現頻度は低く,僅か0.11%にすぎず,
東洋では,イスラエル,フaリヅピンに少なく,
人種的な差がある程度認められるのではないかと も考えられている.また,人種のいかんを問わ ず,若い年令で結婚し,頻回に分娩した人には少 なく,晩婚者,長く避i止していた人には一般に多 く認められ40)41),避妊はホルモン的アンバラン ス,子宮内操作などの発生起因となり,本症の発 現頻度が高くなると思われる.
この発現頻度を内寸,外性型に分類すると,内
性型では(表7),樋口25)44)3.0%,石川45)46)13.4
%, Masson47)61%, Sampson27)21 . 3%o , Franke148)49)
79.6%で,当教室では9.9%を示した.外性型
(表8)ではKelly50)9.0%,林51)1,4%と報告 し,またFritz52)によると1,353例手術中113例
(8.3%)に本症を認、め,その中78例(69%)
は内十型,23例(19.6%)は外十型,12例(10.8
%)は内・外合三型であると報告している.
臓器別発生頻度
最も多数症例について観察したMasson47)によ れぽ(表9)(図3),総数2,686例のうち,子 宮体1,852例で最も多く,ついで卵巣,Douglas 窩,S字状結腸,直腸,卵管,子宮靱帯の順で好 発し,わが国においては,高邑38)39)によると表10
図1 子宮内膜症の発生部位
一 205 一
表9 子宮内膜症の臓器別発生頻度 (Massonによる)
発生臓器組織
発生例数子 野 口
卵 巣
骨 盤 腹 膜
S状結腸直腸
卵 管
子 宮 靱 帯
膀胱,膀胱腹膜
子 宮 頚
膣
腹 壁
小 腸
廻 盲 腸
虫 垂
尿 管
股 ヘ ル ニ ア
陰 唇
膀 胱 膣 中 隔
総 例 数
侵された臓器数
1,852 904 511 360 200 192 67 62 45 44 37 35 18 15 11 8 2 1 2,686 4,365
表11 外性腹膜内子宮内膜症の発生頻度 (Hofmeisterによる)
発 生 部 位 。/o
卵巣子宮内膜症
ダクラス腹膜■!
子 宮 腹 膜 〃 腸 腹 膜 〃
直 腸 子宮索〃
膀 胱 腹 膜 !!
79.6 46.9 35.9 32.1 32.1 11.5 表12 腸の子宮内膜症の発現頻度 報告年
報告弔慰鵡欝麗1%
1945 1946 1947 1950 1950 1955 1955 1959
Masson Thierstein Sutler Colcoch Scott Henricksen Kratzer Belfast
2,686 886 848 213 516 1,000 225 803
497 105 35 39 49 49 77 29
18.5 12.0 4.0 18.0 9.0 5・O 34.0 3.0
表10 臓器別頻度(高邑による)
部
位1口数
。/o卵 巣
子 宮 体 Douglas窩
卵 管
子宮頚部
膀 胱
腹壁国印部
直 腸
88 70 46 31 2 2 1 1
48.4 38.5 25.3 17.0 1.1
Ll
O.5 O.5
表13 497の腸の子宮内膜症の分類 S字状結腸・直腸
直腸膣中膜
小 腸
回 盲 腸
虫 垂
股へ ル ニ ヤ
360 67 35 18 15 2
497
72.40/o 13.5
7.0 3.6 3.0 O.5 100.0
の如くで,卵巣の発現頻度は最高で48.4%を示 し,これについで子宮が38.5%を示し,石川によ れば子宮体が最:も多くなっている.いわゆる好発 部位としては(表11)子宮,卵巣,D・uglas窩,
直腸S回状結腸,卵管の5ヵ所である.性器に ついで多く発生する腸の子宮内膜症についてみる と(表12),総子宮内膜症に対してMasson47)18.5
%,Scott29)g.0%, Kratzer93)34.2%を認め,そ
のうちMasson47)の497例の腸の子宮内膜症の 分類および頻度についてみると(表13),S字状結 腸・直腸72.4%,直腸腔中隔13.5%,.小腸7%,
回腸,盲腸3.6%,虫垂3.0%,股ヘルニヤ0.5
%で,腸ことに直腸やS字状結腸の子宮内膜症の 知識がなかった時代には,癌と間違われて別出さ れ,あとになってこれらの標本を調査した結果,
かなりのものが子宮内膜症であったという報告が ある.またわが国ではその症例が少ないのか,報 告が少ないのか膀,虫垂,大・小腸に発生した症 例が少ないが,欧米ではまれでなく,遠:隔部位の 発生例として肺(Schwarz53), Hobb a Borteric54),
Lettes et a155)),横隔膜(Brews56)),腰椎骨(Fis−
cher57))などが報告されている.また発現頻度の うち注意すべぎことは,以前は本症が子宮頚部に 発現することは非常に少ないと考えられていた が,最近では増加の傾向がみられ,これは子宮頚 部に対する操作がふえたことが原因であろうとい
一 206 一
われている58).いずれにしても欧米に比してわが 国での発現頻度の低いことは,高邑38)39)による と,やはり本症に対する無関心さのために多くの 症例が見逃され,また誤診されているためと考え
られている.
V∬・発現年令
本症の発育に性腺機能が必要なることと,継続 的なホルモンの刺激が必要であるため性成熟期に 発生し,月経を有する年代であれぽ,どの年代に もおこり得るもので,思春期前にはなく,更年期 後,ことに老年期には原則として病巣の萎縮退 行を認める.Counseller59)は40代,50.!%,30代 30.8%.樋口25)44)は20代6%,30代37%,40代50
%,50代5%.また石川45)46)では40代56.4%,30 代30.3%(表14)といい,高邑38)39)らの報告によ ると(表15),41〜45才28.6%,36〜45才51.1%と
表16 発現年令(当里山)
年 令 例 数 0/o 21 一 25
26 t一 30 31 nv 35 36 一 40 41 rv 45 46 一一 50 51 一v 55 56 ・v 60
4 7 28 46 36 22 1 3 61 N 65
計 1
1 148
2.7 4.7 18.9 31.1 24.3
表14 年令別発現頻度
14.9 O.7 2・O
、轄遡[・・一・・[・・一・・1・・一・・岡・・一 b−o u−ng一.ner 1 v 130.slso.i l N 1 一v
樋 口 6.0
石 川 〜
小 林 5.4
37.0 t 50.0 i 5.0
30.3 1 56.4 i
L 当 教 室
32.4 8.0 1 45.9
51.4 45.3
1!.1
表15 発現年令(高邑)
2!L OL61
年 目 例 数 0/o
21 t一一 25
26 N 30 31 n一 35 36 n一 40 41 一一 45 46 N 50
9 16 23 41 52 31
51 一一 54 10
平 均 年 令
4.9 8.8 12.6 22.5 28.6 17.0 5.5 39.5
O.7 100.0
半数を占め,平均39.5才で成熟;期後年において高 頻度を示している.当教室においては (表16)
の如く36〜40才31.1%,41〜45才24.3%,36〜45 才55.4%,と他の報告と同様に成熟期後年に高率 を認めている.諸家の報告によると最高年令は
Counseller59),の73才,Stearns60),石川45)46)の71才で 最低年令はFallow6i)によると13才で,樋口25)44)
は20才の症例を報告している.しかし本症の発生 はMeigs63)64)らのいう晩期結婚説によると,晩 婚または避妊などで生殖機能をおくらせたり,抑 制した婦人達により多く認められるという.
V皿・既往歴と主訴症状 A)既往歴
1)既往手術歴
Sampson27)の発生説を肯定するならば,既往 の婦人科的手術,ことに子宮内操作との関係が 深いことが認められ,Counseller59)は43.3%,
Sinclair42)は50%に既往の骨盤内手術を認め,ま たFritz52)によると72.5%,高邑38)39)らは60.2%に 既往開腹手術を認め,それらの既往手術としては
(表17)のごとくで子宮内膜掻爬術,人工妊娠中 表17 既往手術歴(高邑)
術 式 受 動 数 e/o
子宮内膜掻爬術 人工妊娠甲絶術
虫 垂 切 除 術
後転子宮臥位術
38 25 20 11
子宮附属器手術「9 子宮騨拡張 A 2
膣 壁 整 形 術 卵 管 結 紮 術 帝 王 切 開 術
腸管癒着剥離術
子 宮 全景 出術 胃 切 除 術
2
!
1 1 1 1
計 112
20.9 13.7 11.0 6.0 4.9 1.1 1.1 O.5 O.5 O.5 O.5 O.5 60.2 一 207 一
表18 既往手術歴(当教室)
術 式 名
例幣%
人工妊娠中絶術
虫 垂 切 除 術 卵 巣 別 出 術 卵 管 別 出 術
後転子宮矯位術
胆 嚢 別 出 術 卵 管 結 紮 術 腎 臓 別 出 術
腸管癒着剥離術
計
73 48 10 7 2 2 1 1 1 145
49.3 32.4 6.7 4.7 1.4 1.4 O.7 O.7 O.7
絶術,子宮位置矯位術,子宮頚管拡張術,帝王切 開術などの子宮への手術と卵管結紮術をうけたも のの合計は42.8%と約半数にも達している.当教 室にて子宮内膜症中(表18),既往になんらかの手 術操作をうけたものは97.9%と驚くべき高率を示 し,このような高頻度の理由として,既往の手術 が子宮内膜症の誘因となるのではないかという問 題であるが,高邑38)89)らは,既往の子宮内膜掻 爬,人工妊娠中絶などの既往手術が本症発生に関 係ありと指摘し,また本症の増加が子宮内操作の 増加に関係があると述べている.当教室例におい ても,前回の人工妊娠中絶術49.3%と最高率を示 している.この事実は,近年,診断の進歩ととも に,各種の子宮内操作もまたその一因をなしてい ると考えられる.最近,急激に増加している帝王 切開術後の発生例も見逃がすことができない.こ れは妊娠末期に達したものより早期の帝王切開術
写真3 帝切後2年目に腹壁創に発生した子宮内 膜症
写真4 (写真3の組織像)
に,より可能性が大きいといわれている96).写真 3,4の症例は,帝切後2年目に腹壁創に発生し たもので,月経時にこの部の詠出を訴え,次第に 疹痛が増強し,そのため別出したものである.こ のほか,分娩時の会陰裂傷創,あるいは虫垂切除 術創などに発生した例も報告されている94)96)97).
2)月経歴
本症患者の74.9%は周期順調であるが,高
邑88)39)らは42.3%eに過多月経の傾向を認めるとい い,当教室では35%に過多月経を,ついで31,8%
に月経痛を認め,不正性器出血,月経時下腹痛,
腰痛,月経時排便痛,排尿時不快感および月経時 再発する下痢,便泌などの症状を呈する.
3)妊娠能力
本症は子宮筋腫に比して妊娠率がよいといわれ
(表19),一方では不妊者も比較的多く,その頻度 は(表20)石川45)46)は56.9%,樋口25)44)は58.3%,
高邑38)39)らは61.3劣と高率を示し,Cavanagh62)
表19 子宮内膜症患者の妊娠率
報告者睡郷・搬
Hass
Hofmeister et al Keen et al
Meigo
Siegler et al Te Linde et al
Huffman
Kelly et al
Macky
高 邑
8.60/e 62.4 59.1 66.0 66.0 66.5 71.8 46.4 48.0 60.7 一 208 一
表20 子宮内膜症患者の不妊頻度 表21 主訴と症状
報 告 者 不妊頻度
Witherspoon Dougal Counseller Payne Haydon
Keene et al Te Linde et al 樋 ロ 一 成 石 川 正 臣 高 邑
40.Oo/o 40.0 56.5 40.0 53.0 59.1 79.5 58.3 56.9
61 .3
の統計では30才以前の本症患者でV* 一一般不妊の 2倍,30才以後でet・9倍の不妊率となっており,
Te Linde65)は79.5%と報告している.しかし Stearns60)は1096に不妊を認めるにすぎず,当教 室においても僅か4.7%を占めるのみである.し かし文献によると(表20)不妊者が比較的多いこ
とは否定しがたく,とくに卵管およびDouglas窩 に発生する症例では,不妊率は最高率を占めてい るといわれる.しかし一般には卵管腔の通過障 害,卵巣の癒着などがこれら不妊の原因となり うるもので,本症の発生年令と経妊回数より考え て,直接に密接なる関係があるとも考えられず,
統計によると長い間避妊したり,独身生活が続く と,その結果子宮内膜症が発現してくる可能性も あり得るのであり,また逆に不妊症例では,子宮 内膜症になり易いともいえる.とくに不妊と関係 の深い骨盤内子宮内膜症の開腹術によって発見さ れた頻度は(表8),欧米では29.3%〜6.6%と高 率で,わが国では1.4%と少なく,この頻度は,
欧米に子宮内膜症が多く更に不妊症に発展し,白 人は黒人の2倍で43)51),富裕婦人は貧民婦人に比
して約2〜5倍も多いといわれている.
B)主訴と症状
主なものは,1)月経痛,2)過多月経と不正子宮 出血,3)腰痛・下腹痛,4)性交障害,5)不妊,6)
帯下などである(表21).
1)月経痛
高邑38)39)によると(表22),月経痛58.3%と過半 数に認めているが,当教室例では(表23)31.8%
1)
2)
3)
4)
5)
6)
7)
月経困難症
過多月経と不正子宮出血
性交障害
腰 痛 下 腹 肩 口 妊 帯 下
表22 主訴(高邑による)
主 訴 発現頻度%
月 経 痛
不 妊
下 腹 三 子 宮 出 血
腰 痛
帯 下
過 多 月 経
58.3 57.8 37.6 30.6 23.7 16.8 12.1 表23 主訴(当教室)
主 訴 例 数 。/o
子 宮 出 二 言 多 月 経
55 53
月 経 痛 47
下 腹 痛
腰 痛
不 妊
37 11 7
37.2 35.8 31.8 25.0 7.4 4.7
である.本症の特徴の一つは,二次性の月経痛 で,若い時にはなかったものが後年35〜40才代に 発来し,多くは次第に年月とともに増強するのを 常とし,いわゆる二次性の月経困難症と呼ばれ る特有の症状を呈する.この症状の発現頻度は
Counseller59)は46.8%,石川45)46)は70%,樋口25)44)
は77%に及び,そのうちSO%et年月とともに明ら かに増強して,月経前にはじまり,月経開始時に 最も強く,その後は緩和する経過をとる.なお本 症に子宮筋腫の合併を認めるときには,月経痛は
さらに増強される.
2)過多月経と不正出血
月経痛に次いで多く認められる症状で,石
川45)46)は52.3%に,Counseller59)は65.6%に過多 月経を,石川45)46)は14.8%,Bayly&Gotes66)は 33.7%に子宮出血を認めているが,これらはいず れもエストロゲン過剰に起因するものといわれて 一209一
いる.またこれらの出血は必ずしも子宮内膜症に よっておこるものではなく,多くは卵巣機能不 全,子宮頚管ポリープなどに由来するものであ
る.
3)下腹痛,腰痛,その他の疹痛
下腹痛,腰痛,いおゆる平時の疹痛としては
(表22,23),高邑38)39)らは61.3%,当教室では 32,4%に認め,一般には月経時以外には疹痛は認 めないが,病巣の発生部位とその範囲によって異 り,たとえぽ内野子宮内膜症の如く,病巣が比較
表24 診 断 A〕既往歴および症状
1 2 3 4 5 6 7
年令的関係
二次性に発現し逐時増強する月経困難症 過多月経・不正性器出1血
月経前より現われる腰痛。下腹痛 月経時排便痛
性交障害 不 妊 B〕診察所見
各日の臨床診断:殊に術前診断は困難 1 自性子宮内膜症:月経前子宮肥大および圧痛 認め月経後子宮縮少圧痛消失す
2 外性子宮内膜症:子宮仙骨靱帯の圧痛 子宮頚部運動による痙目
的lockerな組織に発生し,子宮腔と交通していれ ぽ疹痛はがいして軽く,月経発来とともに軽快す るが,外性子宮内膜症のように,緻密組織に発生 し,子宮腔と交通がない病巣で嚢胞化した病巣の 場合には,月経発来後も疹痛を訴え,また,卵巣 のDouglas窩, S字状結腸,直腸のものでは組 織の増大と周囲臓器への癒着とによって腰痛,性 交時疹痛を訴え,また常時骨盤部に不快感を伴う
ことが多く,直腸膣中隔,直腸が侵されると排 便痛を併発し,とくに月経時に増強し,S字状結 腸,直腸の子宮内膜症の大きなものでは腸痙牽や 問歓的に便秘を起こす.その上,子宮筋腫を合併 したものでは更にこれらの疹痛は増強され,総じ て子宮筋腫に比して月経困難が多い.
4)性交障害
Stearns60)は139例中28例(20.2%)に,月経 前,あるいは,月経時に性交痛,不感症の発現を報 告し,Pratt67)もそれを認め,本症の重要な症状
の一つであると述べている.
IX・悪性変化
1884年Babesiui)が初めて adenomyosis から 原発した癌を報告して以来,Anderson68),Olsen69)
らにより約30例の報告があり,最近Green&
Enterline71), Dicker亡y2), Ferreira&Clayton72)ら も悪性変化例を報告しており,Fiebe183)によると 世界で94例の報告があるという.しかし,これら の中セこは,原発癌というよりも内膜癌から二次的 に浸潤したと思われる例も含まれている.一般的 に内膜症にみられる悪性化は,子宮筋腫の悪性化 と同じく0.56%といわれているが70),Hafmeister
&Grinney84)によると2.1%oの悪性化を示して いる.内膜組織の異所性侵入像が特徴である本症 は,癌とよく似ているが,本症における原発癌は まれで,顕微鏡的には容易に診断されるが,臨床 的tlこはAdenomyosis, Stromatosisとの区別は困 難で,また内膜よりの浸潤癌と原発癌との区別は 組織学的に困難である。Henderson73), Hunter74)75)
らは本症のうち,Stromal endometri・sis Vまmixed endometriosisに比して実質性腫瘍で,遠隔転移 を認むることなどSarcomに似た悪性度を有す ることがあるが,早期に腫瘍の完全跳出を行なえ ば予後は良好であると述べている.また本腫瘍は 発育速度が非常に遅く,再発例でも長期に生存す る例が多く,悪性腫瘍としても悪性度は低いもの
と考えられている74)75)76)。
本症が良性か悪性かは,個々の症例についての 臨床経過に基づいて診断されるべきである.
X・診 断
発生部位により異るために,ある程度以上に増 大した内性子宮内膜症を除いては,臨床診断こと
に術前診断は非常に困難で,正確に診断されるこ とは少なく,文献によるとHofmeister&Grinne−
y84)51%, Counseller59)エ4.0%,中西77)7,9%,
高邑38)39)6.4%である.本症の症状,所見から他 の婦人科疾患,とくに骨盤内炎症,卵巣腫瘍,筋 腫,悪性腫瘍などとの鑑別が困難であり,またし ぼしぼ実際には,これらの骨盤内疾患が合併する ために診断は一・層困難となり,本症に特有な症状 ならびに所見に充分な注意を払い診断する必要が
一 210 一
ある.臨床診断の根拠として A)既往歴および症状
1)後年(40才代)になって発現し,次第に増 強する月経痛.
2)過多月経,不正性器出血.
3)下腹痛,腰痛.
4) 月経時排便痛,下痢,便秘.
5)性交障害などを訴える不妊.
(表25)これらの症状が年月とともに増悪するも のは,一応,子宮内膜症の疑いがもたれる.
表25 重要なる既往歴 1〕既往手術歴
2〕既往月経歴
A)二次性の月経困難症
B)不正性器出血(過多・頻発月経)
C)月経前より現われる腰痛・下腹痛 D)月経時,排便に際しての直腸部痙痛 E)月経時に再発する下痢・便秘 F)月経時排尿時不快感 3〕性交時癒痛
4〕部分的な腸管狭窄症状 5〕説明のっけ難い不妊 B)診察所見
本症に特有なる診察所見があるわけではなく,
ことに術前診断は困難である.また前述の如く骨 盤内合併症が20%も認められ85),最も多いものは 子宮筋腫,次いで炎症性付属器腫瘤で,これらの 合併は診断をより困難にする.
内性子宮内膜症においては,子宮は月経時増大 および圧痛増加し,月経後縮小および圧痛消失と いう徴候が認められる.
外性子宮内膜症では,子宮仙骨靱帯,Douglas 窩に硬結,圧痛を認め,また子宮頚部移動性の制 限および運動による疹痛などがある.
最近数年間に子宮筋腫,付属器腫瘤,子宮後屈 症などで開腹手術をうけ,一時的に症状が消失し たとみえても,その後訴えが再現した場創こは,
本症が疑われる.
また炎症が子宮内膜症の誘因となるといわれて いるが,実際には,誘因か,続発か,偶然かを結 論づけることは困難である.特に中年以後の婦人 で子宮後方に硬固な癒着性抵抗をふれ,子宮が筋
腫様増大を示し,炎症を否定しえらるれぽ,本症 の疑いは濃厚となる.
いずれにしても本症をよく理解し,関心を深 め,どこかに本症があるかも知れないと意識して 診察することが,診断率を向上ぜしめる要因であ
る.
3)開腹時所見
多くの症例は,開腹時にはじめて明らかにされ るもので,典型的なchocoladenzysteや子宮漿膜 表面,Douglas窩表面に認められる虫喰状の黒 色,赤褐色の斑点が特徴である.癒着は比較的広 い面で一一様に硬く,高度にみられ,癒着剥離に際 して,赤褐色液が浸出するのを認めたり,卵巣の ch・colate様内容物の漏出を認めることが多い.
本症の確実なる診断は,疑わしい症例では組織 検査によるべきであるが,明らかな子宮内膜症で あっても,必ずしも組織検査でこれを証明し得る
とは限らない,したがって,子宮内膜症の全体を 組織診で証明することは不可能であるが,多数の 経験により,開腹時の肉眼的所見によって決定す ることができるものである.なお本症の悪性変化 の症例の報告が増加の傾向を示している今日,そ の本態を確認し,診断には一層慎重にあたり,術 後治療に充分な関心を払うべきである.
4)補助診断法
現在確実なものはないが
1) 子宮卵管造影法:子宮筋層内にあるものの
発見.
2) Culdoscopy:卵管,卵巣,子宮後壁,直腸 前壁にあるものの発見(林51)によると294例中4 例の発見率).
3) レントゲン検査法:診断上期待できないが 直腸鏡検査とともに,S字面結腸,直腸のものに 応用される.
XL 治療法
本症に対する治療法としては手術療法,放射線 療法およびホルモン療法の三方法があり,治療方 針(表26)としては,個々の症例について充分検 討し慎重に決定する.本症の確実な効果は手術療 法による他ないが,最近,ホルモン療法(Gestagen 法)が発達し,かなりよい効果が得られているも 一211一
表26 治療方針
Endometriosisの治療方針の決定は個々の症例にお いて充分検討し,治療すべきである.
1)待期療法(ホルモン療法)
Endometriosisは妊娠および無排卵月経の際に治 癒的傾向を示し, 症状も緩和することがあり,
したがって, ホルモン投与により偽妊娠状態と し,排卵の抑制をはかる。
a.Gestagen療i法 b.Andorogen療法 2) 放射線療法 去勢療法
040才以上の手術を禁忌とする全身合併症患者 で本症の確認せるものに応用
○若年黒煙はさける ○手術無効例・術後再発例 3)手術療法
卵巣機能の存在の限り病巣はひきつS き 発育す るから根治手術が墓ましいが若年者には出来る 限り保存的手術により受胎能力を存続させるこ とが望ましい
a保存的手術
b根治手術
比較的根治手術(健常卵巣部分を残置す)
mgまで連続投与する偽妊娠方法である.この方法 では,治療中はもちろん,治療中止後も疹痛は軽 快,または消失し,腫瘤抵抗も減弱,消失する が,それ以後に,再発傾向がみられる症例が多
い87)(表27).
表27 ホルモン療法効果.(石塚による)
非手術例
保存手術例 子宮別除例
症例 数 13 10 12
著 効 8 7 8
有 効 4 3 3
無 効 1 o 1
再 発 例 治療中止 後5ヵ月以 前
4 o o
治療中止 後6ヵ月以 後
1
3 2
ので,若年患者や児を望むものでは手術前に一応 この方法を試みてみる価値はある.
1.ホルモン療法
本症は妊娠および無排卵性月経には治癒的傾向 を示し,確かに症状をおさえるに役立ち,そのた め,ホルモン剤の投与によって偽妊娠状態とし,
排卵の抑制をはかるように用いる.
a)Gestagen療法
Gestagen剤を用いて,偽妊娠の状態として,
子宮内膜症の組織を脱落膜化して,病巣の退行を はかるのを目的とする.
1)排卵抑止法:Enavid, E・P剤を用いて排卵 を抑制し,月経痛を排除する方法である.Enavid,
E・P剤を1日10㎎,月経周期第5日目〜20日間持 続内服せしめる.
この方法は Kistner86)により提唱されたもの で,本症患者の強度の月経痛を軽快せしめること ができる対症的療法であるが,子宮内膜症そのも のを消失させることはでぎない.
2)偽妊娠療法:1)の方法に引き続ぎE・P剤を 持続し,2週間毎に10㎎ずつ増:量して,1日140
W.Kistnerg2)はこの方法を1年間続けると85
%は治癒すると報告している.
b)Androgen療法
1943年HirstによりAndrogenで症状の軽快お よび病巣の縮小が認められることが報告されて以 来,本症に著効をもたらすことはよく知られてい
るが,デポー剤として500〜1000mgを必要とする ので,男性化の副作用によって若年者には使用で
きない.
1) methy1−testerone:1日5〜10㎎を100日 間投与する方法.
c)Estrogen療法
1948年Karnaky89)によりすすめられた方法 で,Stilbestr・1を使用し効果をあげ得たと報告が あるが,Estrogenの効果については不確実であ
り,また長期連用による副作用の発現(出血,
発癌など)の事実によって現在は使用されていな
い.
2.放射線療法(去勢療法)
レントゲンによる去勢療法によって,子宮内膜 症の発育は停止し,病状も軽快するけれども,去 勢による副作用のため,若年者には行なわず,40 才以上で,全身合併症などのた嶺に手術禁忌のも の,手術無効例,術後再発例などのみに使用され ているにすぎない.
3.手術的療法
この方法に保存的手術と根治手術とがある.多 一212一
くの場合,本症は卵巣がその機能を営む限り病巣 はひき続き発育するもので,更年期ことに老年期 には,原則として病巣は萎縮退行を認める.した がって,腸の高度の子宮内膜症で卵巣捌出を行な えば以後進展しないからと思って,腸をそのまま 放置しておくと,腸は線維化し縮小してイレウス を起こすことがある.
本症の治療は,効果の確実性,まれにみられる 悪性化の問題などより,最も速く,確実に痺痛を 除去できるものは根治手術であり,最も望まし い.しかし若年者の場合には,卵巣機能,生殖機 能を保存することに努めることが大切で,原則的 には保存的手術を行ない,受胎能力を保存させる ように努力すべきである.近年,卵巣二二術後の 婦人に動脈硬化の発生が高いといわれておりgo),
正常な卵巣組織の一部を残す,いわゆる比較的根 治手術を奨める報告もある.多くの臨床成績によ
ると,卵巣を残しても,子宮別出することにより 残された病巣はその発育を休止する傾向が認めら
れる38)39).
治療成績としては,根治手術が最良で卵巣別出 による欠落症状を訴えるものも少ない.術後再発 例は,根治手術ではHuffman78)は5%, Scott,
Te Linde29)O%,高邑38)39)らはO%,また比 較的根治手術ではHuffman78)5.8%, Scott, To Linde29)は4.1%,高邑38)39)ら3.6%で,これ
に反して保存的手術ではScott, To Linde29)
12.2%,Schmitz&Tomne79)21。3%,高邑38)39)
25.1%と報告されている.しかし術後受胎率は
Winckmann8e) lo%, Haas8i)40%, Whitehause a Bates91)45.7こ口高率を示し,若年者,児を希望す
る患者では,できる限り保存的療法を行ない,
卵巣と受胎機能を保護するように努力すべきであ
る.
以上,手術々式の撰択は,症状の種類,程度,
内診所見,開腹所見,年令,妊娠能力保存の必要 の有無などによって,各々症例ごとに慎重に決定 されるべきであり,その治療にあたって診断の正 しいことが必要であるから,開腹組織検査によっ て,はじめて確実な診断が下される本症では,手 術療法が最適である.
Xll・予防法
本症発生に対して特別に有効な予防法は認めら れないが,発生機序により考えられている予防法
として表28に示すことが提唱されている82).近年 わが国においても本症の増加の傾向を認めるとと もに関心も高まり,とくに注目すべきことは,患 者の既往歴から人工妊娠中絶術などによる子宮内
表28 予防対策 1)月経血の排出を妨げぬこと
2)月経血の逆流を予防するため子宮後転症では位 置矯正手術を必要とす
3)月経中およびその前後において子宮内圧迫,子 宮内操作,卵管疎通性検査等を行なわぬこと 4)月経血の排出を妨げる病変を治療すること 5)月経時の過激な身体畑作(重筋労働・登山)を さけること
6)子宮内膜掻爬,入工流産直後の子宮内洗浄,強 子宮収縮剤投与を与えぬこと
7)人工妊娠中絶術,帝王切開術施行は慎重である こと
8)本症を疑い,また本症手術をうけた患者に Estrogen使用を慎しむこと
操作の増加,または近来容易に行なわれ増加し ている帝王切開術などで,これら手術と本症と の問に何らかの関係があると確信されているた
め38)39)82),子宮内操作の乱用および帝王切開術な どの実施には,とくに慎重に検討して行なうべき である.
また,(表28)の4)のように病的子宮前傾前屈症,
子宮頚管の狭窄その他の原因で頚管のDrainage が障害されたものはその疎通性をよくし,月経血 の卵管逆流を防ぐことが重要である.ことに病的 子宮後転症の患者において子宮内膜症の保存的手 術を行なったものでは,再発予防の目的で,強度 の子宮前屈症に固定することが大切である.
しかし,これらの予防がどの程度の効果がある か否かは不明である.
X皿L 結 語
子宮内膜症End・metriosisは大変興味ある疾患 である.本態的には良性であるが,卵巣ホルモン 機能が継続している限りでは,多少とも浸潤性を 示し,まれに悪性変化を認めることもある.各型 の子宮内膜症の増加が認められる今日,その肉眼 一213一
的病理所見を確実に理解してs手術を行なうこと が重要であり,これのみでも診断を決め得るもの である.それ故,診療にたずさわる者は,深い関 心と注意力をもつて,この広汎にして難解なる疾 患を正しく診断,治療を行ない,女性の性生理,
性生活に及ぼす深刻なる障害をでき得る限り予防 するとともに,最少限に止めるよう常に努力すべ きである..また本症の発生部位,症状の多様性よ.
り,内科,外科,泌尿器科,その他の領域におい ても,本症の症状を有する患者においては,充分 注意する必要があり,全科にわたってもっと関心 をもたれるべき重要なる疾患である.
稿を終るにあたり,この機会をお与え下さった学会 長,および御指導,御校閲を賜わった川上博教授,大内 助教勘と厚くお礼申し上げます.
(本論文の大要は第ユ45回東京女子医科大学々会例会 で発表した).
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