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ハムストリングスの課題依存的機能分化に関する研究

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博士(スポーツ科学)

ハムストリングスの課題依存的機能分化に関する研究

Task-depended Functional Differences in the Hamstring Muscles

2011年1月

早稲田大学大学院 スポーツ科学研究科

小野 高志 Ono, Takashi

研究指導教員: 福林 徹 教授

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1-2 骨格筋の構造的・機能的特性と可塑性・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5 1-3 伸張性筋活動と筋損傷・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6 1-4 筋損傷の修復過程と適応・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10 1-5 生体における骨格筋の形態および機能の測定技術・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15 1-6 ハムストリングスの身体における意義およびその構造と機能・・・・・・・・・・・・・・・20 1-7 ハムストリングスと肉離れ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・28 1-8 本研究の目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・35

第 2 章 伸張性の膝関節屈曲運動におけるハムストリングスの機能・・・・・・・・・・・・・・・37 2-1 研究背景および目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・37 2-2 方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・40 2-3 結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・46 2-4 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・58

第 3 章 伸張性の股関節屈曲運動におけるハムストリングスの機能・・・・・・・・・・・・・・・65 3-1 研究背景および目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・65 3-2 方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・69 3-3 結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・73 3-4 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・80 第 4 章 総合考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・83 第 5 章 結論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・93 関連業績・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・94 参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・96 参考図書・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・106 謝辞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・107

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‐ ‐

‐ ‐第 第 第 第 1 1 1 1 章 章 章 章‐ ‐ ‐ ‐ 序 序

序 序 論 論 論 論

人間の動的な身体活動の発現は、上位中枢からの指令を受けた骨格筋が収縮し、接続す る体節に力を伝えることによって可能となる。すなわち、骨格筋は人間が“動物”たるた めの発現器官であり、その活動によってあらゆる意思を実現したり、表現したりする。そ のメカニズムを解き明かそうとする生命科学領域の研究は、21 世紀の最も重要な研究分野 として注目され、その成果はついに生物を構成するための“暗号”であるゲノムDNAを解 読できるまでに達している。また、人類の英知の結晶とも言うべき科学技術の発展は、人 間の生活環境をより便利で、快適で、安全なものへと加速度的に変貌させてきた。しかし、

このような科学の発展の一方で、子どもの体力低下や生活習慣病の増加、超高齢化社会の 出現等、人々の「健康」や「生き方」についての課題が次々に突き付けられているという 矛盾も生じている。このような時代において、身体活動の発現を可能にする骨格筋のメカ ニズムやその振舞いにあらためて目を向けることは、未来に向かって不断の変化を続ける 社会の中で、人間の存在価値について根本的に再考する際の一助となるに違いない。

人間は、古来より生命の維持活動とは区別された、自我を表現するための身体活動を行 なってきた。つまり、自らが持つ力の限界を発露し、他者と競い、または同調させること で、個人または集団としてのアイデンティティを認識するという行動をとってきた。それ はやがて一定の規則のもとに体系化され、現代におけるスポーツとして、今もなお発展し 続けている。現代、そしてこれからの未来におけるスポーツは、そこに関わることで心身 をより善い状態に維持しようとするツールの一つとして、重要な意味を持つ。したがって、

人間の身体活動の一つの発展型としてのスポーツ活動において、その基礎となる骨格筋の 構造や機能、そしてその変化の有り様を記述していくことは、これからのスポーツ界の発

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展のみならず、個人の健康や社会全体の発展に大きく貢献する可能性を持つと考えられる。

本論文では、まず序論として、これまでに明らかにされている骨格筋の構造と機能、振 舞い、変容について先行研究の知見を踏まえて概説し、その基盤の上に、続く 3 つの章に おいて“ハムストリングス”という、人間の身体の中でも特徴的な筋群の振舞いについて の新たな知見を提示し、より善い身体活動の発現のための示唆を共有することを目的とし た。また、ハムストリングスは歩く、走る、跳ぶなどの基本的な運動を可能にするための 重要な役割を担う一方で、代表的なスポーツ傷害の一つである“肉離れ”の好発部位でも あり、その傷害を予防するための知見を得ることは今後のスポーツ医科学研究の重要なテ ーマの一つとなっている。そこで、本研究では、人体の構造および機能の詳細な分析、そ れが破綻に至るメカニズムの解明、予防法の確立、という一つの予防医学的スキームを、

ハムストリングスを題材として構築・提示することをさらなる目的とした。

ここにまとめられている成果が、スポーツ傷害のみならず、あらゆる疾病や傷害を未然 に予防することを命題として日夜研究に取り組んでいる多くの研究者に対して、その発展 の一助となることを願いたい。そうして初めて、本研究に研究としての存在意義が与えら れるのではないかと考える。

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11‐‐‐‐1111....骨格筋骨格筋骨格筋骨格筋ののの構造的の構造的構造的・構造的・・・形態的形態的形態的形態的特徴特徴特徴特徴とととと収縮機構収縮機構収縮機構収縮機構

骨格筋の構造的・形態的な特徴の一つは、筋の収縮方向(筋が力を発生する方向)に細 く長いことである。このような他の細胞には認められない特徴的かつ特殊化した構造と形 態は、その発生と力発揮という機能発現によるものと考えられる。また、骨格筋は力学的 な仕事の負荷に応じて機能的かつ形態的な適応を示す、すなわち可塑性をもつことが知ら れている。成熟した骨格筋組織には筋衛星細胞(satellite cell)と呼ばれる幹細胞が存在する。

筋衛星細胞は自己増殖が可能であり、トレーニングや損傷などによって生じた各種ストレ スに応じて増殖し、新たな筋線維を形成したり、すでに存在する筋線維に融合して筋肥大 を引き起こしたりしていると考えられている(Hawke and Garry 2001)。

ヒトの骨格筋線維を構成する筋原線維の基本単位はZ線に仕切られた筋節(サルコメア)

である。筋節両端の Z 線から中心に向けて球状のアクチン分子からなる細いフィラメント

(アクチンフィラメント、thin filament)が一定間隔で整然と配列し、その間にⅡ型ミオシ ン分子からなる太いフィラメント(ミオシンフィラメント、thick filament)が位置している。

このミオシン頭部とアクチン分子の間で形成される構造体(クロスブリッジ)が筋収縮と いう力発生の最小単位である。筋収縮は筋節の中央に向かって左右均等に起こり、Z線とZ 線との間隔(筋節長)が短くなるような方向に力が発生する。外から加わる力(外力)と 筋線維が発揮する力とのバランスにより、筋節長が変化しない等尺性(isometric)収縮や筋 節長が短くなる短縮性(concentric)収縮、あるいは筋節長が長くなる伸張性(eccentric)収 縮が認められる。

筋自体が持つ弾性は、弾性タンパク質であるタイチンやコネクチンによるものと考えら れている(Horowitsら 1986)。これらの弾性タンパク質が引き伸ばされることによって筋線 維は受動的張力(passive tension、または静止張力resting tension)を発生する。コネクチン 分子は遅筋および速筋において分子量やサブユニットの構成などが異なるなど、その組成 に関する基礎的研究は進んでいるが、筋力トレーニングや不活動などによる変化について

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は未だ明らかとなってはいない。この受動的張力は、筋固有の長さ‐張力関係に影響を与 える(Epstein and Herzog 1998)。一般に、生体から摘出した筋標本を徐々に伸張していった 時に受動的張力が現れる筋の長さを静止長(resting lengthまたはslack length、Ls)、筋自体 の収縮による能動的張力が最大になる時の筋の長さを至適長(optimal length、Lo)と呼ぶが、

LsとLoは必ずしも一致せず、筋によって様々な関係を示す。羽状筋(筋長に対して筋線維 が一定の角度を持って走行し、筋長に対する筋線維長の割合が小さい筋)としての構造的 特徴が強い筋ほど、受動的張力は短い筋長で発現することが示唆されており、このような 筋は一般に関節伸筋群に多い。一方、紡錘状筋(筋線維が筋の長軸方向に平行に配列する 筋)に近い構造的特徴を持つほど、受動的張力はより伸張位で発現し、このような筋は関 節屈筋群に多い。肘関節屈曲筋群を例にとってみると、実際の生体内においては、肘屈筋 の長さはLoより短い長さの領域にあることが示唆され、受動的張力は全く発現しないと考 えられることから、屈筋の過度な伸張は筋の受動的張力ではなく、関節の構造によって制 限されていると考えられる(石井 2001)。一方、関節伸筋はむしろLoからより伸張位にか けての長さ領域にあると考えられ、筋の伸張に伴って受動的張力を発現すると考えられる。

多くの関節伸筋群は重力に逆らって姿勢を維持したり、大きな仕事を発揮したりする働き を持つことから、こうした構造的特性は極めて合理的であるといえる。

生体内での随意的筋収縮は、大脳皮質運動野の神経細胞の興奮から起こる。最終的に、

筋の収縮力や収縮スピードは運動中枢からの運動指令の入力によって生ずるα運動神経細 胞の活動量やパターンによって決定される。α運動神経細胞の興奮は、運動中枢からの高 速の運動指令(約0.025~0.03秒)によってコントロールされるが、行なう運動によって運 動単位(α運動神経とその支配下の筋線維)の動員(recruitment)パターンと頻度の変調(rate coding)を行なう。

骨格筋の収縮は、筋細胞原形質内カルシウムイオン(Ca2+)濃度の増減によって制御され ている。Ca2+ 制御機構の発育発達による変化や筋線維タイプによる違いが、筋線維の収縮

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特性を大きく左右する要因のひとつとなっている。しかし、筋肉全体としての力の発生は ミオシン分子とアクチン分子の集合体として振舞うのではなく、他の関連分子を含めた相 互作用の結果として具現化されるものである。

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11‐‐‐‐2222....骨格筋骨格筋骨格筋骨格筋ののの構造的の構造的構造的・構造的・・・機能的特性機能的特性機能的特性機能的特性とととと可塑性可塑性可塑性可塑性

骨格筋が発現する力は、収縮の指令を伝える運動神経の興奮と、それに支配される筋の 形態に依存する。そして、そのような構造的・機能的な特性は、筋が発揮する力学的な仕 事の負荷に応じた適応を示す、すなわち可塑性を持つことが明らかとなっており、スポー ツの現場では筋力トレーニングによる効果として見られる現象である。

トレーニングによる筋力増強効果には、収縮様式、動作速度、負荷強度、反復回数、セ ット数、セット間の休息時間、トレーニング頻度などの運動条件や、運動実施者の初期体 力レベルや年齢が影響する。また、トレーニング効果の発現には特異性が存在し、それに は運動実施時の関節角度、角速度、収縮様式に依存的な運動単位の活動参加があることが 関係していると考えられる(Hortobágyiら 1996)。例えば、ゆっくり力を発揮した時と瞬間 的に力を発揮した時とでは、後者において運動単位の動員閾値張力がゼロになることから、

瞬間的に力を発揮する時には、筋が収縮して物理的な力が発生する以前に数多くの運動単 位が動員されることとなる(Yoneda ら 1986)。したがって、瞬間的な筋収縮においては、

頻度変調による調節よりも数多くの運動単位の同期的な動員による調節が重要となると考 えられる。筋収縮スピードを増し、筋パワーを高めるためのトレーニングにおいては、運 動指令の空間的な量が最大となる負荷強度が効果的であると考えられるが、その負荷強度 は筋の種類によって異なるため、それぞれの筋に適した負荷強度を求める必要性がある

(Kimura 1997)。運動指令の空間的な量が飽和状態に達する負荷強度を調べることは、最大 筋力の増強と平行して、筋収縮スピード増強のための神経系の機能評価として有用である と考えられる。

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最大随意筋力向上のためのトレーニングの効果は、最大随意興奮レベルと筋の形態的変 化の両者に依存している(Kraemerら 1991; Phillipsら 1997)。すなわち、筋力発揮という 指令を出す中枢神経系とその指令を力学的出力に変換する効果器である骨格筋の適応によ って生じると考えられる。筋興奮レベルの増大は神経興奮性の改善(動員される運動単位 の数や発火頻度の増加、同期化)によるもので、筋力発揮を繰り返すことによる学習効果 と考えられる。一方、筋の形態的変化としての筋肥大は、運動に伴う筋への機械的負荷(力、

仕事量、速度、短縮、伸張など)と内分泌系因子により誘導されると考えられる。筋肥大 は筋線維を構成する既存の筋線維の肥大と筋線維の増殖(筋線維数の増加)によって起こ ると考えられている。一般に、最大筋力は生理学的横断面積と比例関係にある。羽状筋で は筋線維の肥大によって羽状角が増加するため、筋線維の肥大とともに生理学的横断面積 の増加が生じる(Aagaardら 2001)。羽状筋ではこのような形態的変化がさらに筋力増加を 引き起こす一因として加わる。

以上を踏まえると、筋力増強を目的に行なうトレーニングとしては、さまざまな関節角 度、動作速度のもとに各種の収縮様式を混合させた複合的なレジスタンストレーニングが 理想的であるといえる。なぜなら、ヒトの運動パフォーマンスは関節可動域すべての範囲 内において、筋の短縮や伸張を伴いながら筋力発揮を行なっており、筋線維で産生された 力は腱から骨へと伝達され、関節によって回転トルクに変換され、その関節運動を通して 身体運動を発現しているからである。

1 1 1

1‐‐‐‐3333....伸張性筋活動伸張性筋活動伸張性筋活動伸張性筋活動ととと筋損傷と筋損傷筋損傷筋損傷

筋の活動様式は、等尺性(isometric)、短縮性(concentric)、伸張性(eccentric)に分類で きる。運動やスポーツの動作の多くには、これら 3 つの活動様式がすべて含まれており、

筋活動に伴う張力発揮(F)よりも大きな負荷(L)で筋が伸張される場合(F < L)には 伸張性筋活動となる。また、手に持った荷物をゆっくりと床に下ろす時(意識的に筋力発

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揮レベルを負荷よりも小さくして筋を伸張する場合)や、走動作において着地時の衝撃を 和らげる時(負荷を吸収するために無意識的に筋を伸張させる場合)など、最大下の伸張 性筋活動は日常生活でも多く見られる。

伸張性筋活動の特徴としては、以下のようなものが挙げられる。

・ 大きな張力発揮が可能である(Armstrongら 1991)

・ 張力発揮に関与する運動単位が少ない(Armstrongら 1991)

・ 速筋タイプの運動単位が優先的に動員される(Newhamら 1983)

・ 酸素需要量が少ない(McCullyら 1985)

・ 筋温上昇が大きい(Proske and Morgan 2001)

・ 神経‐筋シグナル伝達機構の改善効果が大きい(Hortobágyiら 1996)

・ 筋線維の肥大効果が高い(Hatherら 1991)

さらに、等尺性、短縮性筋活動ではその後の筋の組織学的な変化はあまり見られないが、

伸張性筋活動では、単核細胞の浸潤を特徴とする微細な筋組織の損傷が認められる

(McCullyら 1985)。

一般に、筋の損傷は筋組織が耐えられる限界を超えた負荷(強度、量)を受けた時に発 生する(Best and Hunter 2000)。運動中の負荷が組織に及ぼす影響は、ストレインとストレ スとして捉えることができる。スポーツやトレーニングにおけるストレインは、外部から の負荷に対する構造の変形であり、負荷の大きさ、時間、頻度、回数などの因子によって 決定される。一方、ストレス反応は、ストレインに対する内部の抵抗であり、単位負荷量 あたりの物理的張力発揮、および結果的に損傷を受けた組織の炎症反応や変性を引き起こ す生体防御反応である(Best and Hunter 2000)。“筋損傷”に含まれる病態は、その程度や部 位の違いによって様々である(Coburn 2000)が、主に2種類に大別できる。1つは、いわ

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ゆる“肉離れ(muscle strain)”と呼ばれる非接触性の自発的な筋収縮に伴う筋断裂や、打撲 や関節の強制伸展など外力による筋断裂などで、血管の損傷を伴うことが大きな特徴であ る。一方、もう1つの“筋損傷”の病態として、自覚的には遅発性筋痛(Delayed Onset Muscle Soreness, DOMS)を伴う、筋原線維や筋線維周囲の結合組織の微細な損傷(muscle damage)

がある。このような損傷は、特に高強度の伸張性筋活動を伴う運動や伸張性筋活動が繰り 返される長時間運動で生じやすく、肉離れや打撲などとは異なり、血管の損傷を伴わない。

また、組織学的には筋の微細構造の乱れが Z 帯を中心に起こるが、その範囲は筋線維全体 ではなく、筋線維の一部に生じる。DOMS を主徴候とする筋損傷は、よりマクロな筋損傷 の前兆となるとも言われている(Brockettら 2004)。Safranら(1989)は、これらの筋損傷 の病態を以下のように分類している。

TypeⅠ:DOMSを主徴候とする損傷

TypeⅡ:筋線維が数本断裂(1度)

筋周膜の損傷を伴わない、より多くの筋線維の断裂(2度)

筋周膜の部分的断裂を伴う、多くの筋線維の断裂(3度)

筋と筋周膜の完全な断裂(4度)

TypeⅢ:筋痙攣などの運動中や運動直後に生じる痛みを伴うもの

損傷は、急性のものと慢性のものに分けて考えることができる(Pyne 1994)が、ここで は本研究に関連する急性の損傷についてのみ言及する。伸張性筋活動に伴って、筋細胞内 膜系(T管、筋小胞体、筋細胞膜)の損傷(Takekura ら 2001)や、中間径フィラメントな どの細胞骨格や細胞外マトリクスの異常(Friden and Lieber 2001)、筋原線維の損傷(Friden and Lieber 2001)が生じることが報告されている。伸張性筋活動後の損傷は、運動直後の時 点では筋原線維レベルの小さな限定された範囲で観察されるのみであるが、運動48時間後

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までにこれらの変化が顕著になる(Sjostrom and Friden 1984)。運動による機械的刺激を主要 因とする損傷を一次的損傷と考えると、損傷した筋線維には急性期の炎症反応が生じ、運 動後数時間経過した時点から好中球やマクロファージをはじめとする単核細胞の浸潤が起 こり、その後の再生に至るまでの炎症反応の過程で二次的損傷が進行する(Clarkson and

Sayers 1999)。この過程で、損傷は筋線維レベルで観察されるようになり、また、筋線維を

取り巻く結合組織の損傷も生じる(Stauberら 1990)。

伸張性筋活動によって、筋損傷が引き起こされるメカニズムの詳細は明らかになってい ない。伸張性筋活動の直後に、筋節の損傷と興奮収縮連関システムの損傷が生じているこ とから、損傷は筋節の過伸展によって引き起こされる可能性と、細胞内膜系を含む興奮収 縮連関のどこかに損傷が生じる可能性が考えられている(Proske and Morgan 2001)。損傷は 運動直後よりも時間が経過するとより顕著になるが、これには伸張性運動負荷の機械的刺 激によって直接、あるいは間接的に引き起こされる筋細胞内カルシウムイオン濃度の恒常 性の破綻が大きく関与していると考えられており、それがトリガーとなって引き起こされ る炎症反応が損傷を進行させると考えられている(Warren ら 2002)。伸張性筋活動では等 尺性や短縮性筋活動に比べ、大きな張力発揮を少ない運動単位で行なうことから(Clarkson

and Sayers 1999)、張力を発揮している筋線維に相対的により大きな負荷がかかることによ

ると考えられている。また、筋が収縮方向と反対方向にストレッチされる際、筋節長の不 均一が生じ、弱い筋節が大きく引き伸ばされ、「はじける(pop)」ためではないかという「ポ ッピング筋節説」も提唱されている(Proske and Morgan 2001)。

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図1‐1.伸張性筋活動に伴う筋損傷・回復過程(参考図書10より)

1 1 1

1‐‐‐‐4444....筋損傷筋損傷筋損傷筋損傷ののの修復過程の修復過程修復過程と修復過程ととと適応適応適応適応

筋損傷の原因によらず、損傷に伴う細胞と細胞外マトリクスの反応は共通であると考え られている。骨格筋損傷後の修復過程は、炎症反応、再生、再構築(リモデリング)に分 類できる(Barlow and Willoughby 1992; MacIntyreら 1995; Best and Hunter 2000)。

炎症反応 炎症反応 炎症反応 炎症反応

炎症反応は、筋が受けた損傷の種類や、その程度によって多少異なると考えられるが、

伸 張 性 筋 活 動 に 伴 う 筋 線 維 の 損 傷 も 、 一 連 の 炎 症 反 応 を 引 き 起 こ す (Smith 1991;

Bodine-Fowler 1994; MacIntyreら 1995)。炎症反応は、発赤、熱感、腫脹、疼痛および機能

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障害を徴候とする、組織(細胞)の傷害を治癒させるための一連の過程と捉えることがで きる。発赤、熱感および腫脹は血管反応によりもたらされ、疼痛は傷害の場所と程度を知 らせる警鐘反応である。機能障害は、組織(細胞)の実質的な傷害による機能不全の現れ である。炎症反応は体液、血漿タンパク質、白血球の損傷・傷害部位への移動を特徴とし、

損傷した組織を除去し、再生に向けての準備をするためのものである(Best and Hunter 2000)。 炎症反応は急性と慢性に分けられる。急性の炎症反応は、損傷や異物の侵入に対する生 体の一次的な反応であり、急速な血流増加あるいは血管透過性の亢進と、好中球と単球(マ クロファージ)の遊走が起こる(MacIntyre ら 1995)。急性炎症反応は、末梢での炎症性メ ディエーターによる作用により、発赤、熱感、腫脹、疼痛を引き起こすとともに、生体シ ステムとして、さまざまな血漿タンパク質の産生と発熱を促す。急性の3~4日後より慢性 の炎症反応が引き続いて起こり、リンパ球と単球(マクロファージ)が主役となり、治癒 に至るまで(一般的には3~4週間以内)継続する。

再生 再生 再生

再生メカニズムメカニズムメカニズム メカニズム

筋の再生を制限する因子として、筋衛星細胞(サテライトセル)の数、神経再支配、血 流の回復などが挙げられる(Bodine-Fowler 1994; Best and Hunter 2000)。筋線維が再生する には、休止期にある単核の筋芽細胞、あるいは筋前駆細胞が活性化し、増殖、分化、融合 して多核の筋管細胞となった後、さらに分化し、神経支配を受け、成熟することが必要で ある(Hawke and Garry 2001; Groundsら 2002; Goldingら 2002)。ラットの場合、筋の挫滅 損傷後から3~5日間固定した後には、患部を動かすことによって血流確保が早まり、再生 筋の走行方向が定まり、伸張力も向上し、再生・回復が促進することが知られている(Jarvinen

and Lehto 1993)。これがそのままヒトの筋損傷の場合にも当てはまるかどうかは定かではな

いが、伸張性筋活動に伴う筋損傷 2 日後にさらなる損傷刺激を与えても、新たな損傷は生 じず、回復を遅延しないことが確認されていることから(Nosaka and Newton 2002)、少なく

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とも患部を動かすことによって損傷が悪化することはないと考えられる。

図1‐2.筋損傷に伴う炎症反応(参考図書10より)

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伸張性筋活動 伸張性筋活動 伸張性筋活動

伸張性筋活動にににに伴伴伴う伴うう適応過程う適応過程適応過程適応過程

伸張性負荷によって損傷した筋は、その修復・再生過程を通して元の状態に戻るだけで なく、「適応」すると考えられる。その顕著な例として、伸張性筋活動に伴う筋損傷の程度 は初回に比べ2回目以降では軽減される、「繰り返し効果(repeated bout effect)」と呼ばれる 現象がある(Clarksonら 1992; McHughら 1999; Nosakaら 2001)。例えば、運動後の等尺性 最大筋力の回復は1回目に比べて2回目で有意に早くなり、血漿CPK活性値は2回目の運 動後には全く上昇せず、MRIの変化も2回目の運動後は1回目の運動後に比べて有意に少 ないことが報告されている。このような変化の背景として、どのような身体の適応が生じ ているかは未だ明らかではないが、神経系、結合組織、筋細胞のそれぞれで適応が生じて いる可能性が指摘されている(McHughら 1999)。つまり、筋節数の増加や、細胞骨格タン パク質の再構築、熱ショックタンパク質の発現などが関与している可能性がある(Clarkson and Sayers 1999; Feassonら 2002)。また、伸張性筋活動による損傷‐修復過程において筋衛 星細胞が活性化されることで、既存の筋線維の肥大(hypertrophy)や新たな筋線維の増殖

(hyperplasia)、筋線維を取り巻く結合組織の肥厚などが生じると考えられる。Hortobágyi ら(1996)は、伸張性トレーニング後には短縮性トレーニングと比較して TypeⅡ線維面積 が10倍増加したと報告しており、高負荷の伸張性筋活動では遅筋線維に比べ速筋線維によ り顕著な適応反応を引き起こすと考えられる。

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図1‐3.伸張性・短縮性筋活動に伴う筋の適応過程(参考図書10より)

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11‐‐‐‐5555....生体生体生体生体におけるにおけるにおける骨格筋における骨格筋骨格筋の骨格筋ののの形態形態形態形態およびおよびおよびおよび機能機能機能機能ののの測定技術の測定技術測定技術 測定技術 磁気共鳴画像法

磁気共鳴画像法 磁気共鳴画像法

磁気共鳴画像法((((Magnetic Resonance Imaging: MRI))))

近年、磁気共鳴画像法(Magnetic Resonance Imaging: MRI)の発展により、生体内の組織 をより安全(非侵襲的)かつ即時的に、そしてより明瞭に可視化することが可能となり、

骨格筋においても、その形態(Blemkerら 2005; Tateら 2006)と機能(Pappasら 2002; Hioki ら 2003; Blemkerら 2005)を調べる上で有用なツールとなっている。

MRI の原理は、ある外磁場内にスピンする対になっていないプロトン(水素原子核)が あった場合、これらのプロトンは磁場に対して整列するが、その状態で特異的な周波数(お

よそ100MHz)の電磁波パルス(ラジオ波 Radio Frequency: RFの帯域に属することから、

RFパルスと呼ばれる)が生体内に到達すると、いくつかのスピンするプロトンが新たな磁 場の影響でその方向を変化させ、その後本来の方向に戻る際に発する信号を MR 信号とし て計測するというものである。

磁化の増加は指数関数的で、その変化を示す曲線の時定数T1は撮像する組織と磁石の強 さによって定まる。磁化は組織中の単位面積当たりのプロトンの数(プロトン密度、N(H) と表記)にも依存しており、その絶対数だけでなく、十分に可動性のある(外磁場方向に 方向を変え、整列する)プロトンの数は重要である。T1はスピンを縦(z)軸に沿って再び並 べる時間であり、縦緩和時間と呼ばれる。一方、T2 は横緩和時間と呼ばれ、T2 の減少は T1の増加に比べて5~10倍速い。2つのスピンが隣り合っている場合、1つのプロトンの磁 場はその隣のプロトンに影響し、互いの相互作用によって磁場の不均一性を生み出す。こ れは“スピン‐スピン相互作用”と呼ばれ、組織によって固有の特性を持ち、T2 によって 計測される。また、外磁場の不均一性も位相の分散をもたらす。

このような原理を利用して空間の情報を得るためには、このプロセスを繰りかえす必要 がある。1つの90°パルスを印加した後に別のパルスを印加するが、その時間の間隔をTR

(繰り返し時間)と呼ぶ。また、生体から受信される信号は自由誘導減衰(FID)として受

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信されるが、RFパルス印加直後に受信することは不可能であり、わずかな時間をおいて受 信することになる。この短い時間をTE(エコー時間)と呼ぶ。したがって、TEにおいて受 信される信号Signal Intensity(SI)は次のように表される。

SI(TE) = M0×exp (-TE / T2)

組織のT2は、組織中のプロトンのスピンが位相分散する速さによって特徴付けられる。例 えば、水分子ではその構造と希薄さから、水素プロトン間のスピン‐スピン相互作用は非 常に小さく、他の組織に比べて水では位相分散が非常にゆっくりした速度で進行するため、

水のT2緩和時間は長い。このようにして、組織内の水分量の違いがT2緩和時間の差異と して表れ、それを輝度の差異(コントラスト)として画像化したものがMRIとなる(参考 図書1より)。

MRI を用いた骨格筋の活動に関するいくつかの研究は、横緩和(T2)時間に関連付けら れており(Fleckensteinら 1993; Yueら 1994; Ploutz-Snyderら 1997; Priorら 1999; Meyer and

Prior 2000)、得られた画像データからT2緩和時間について解析することによって、運動中

の筋の活動や反応の相対量を調べることが可能である(Adamsら 1992; Fleckensteinら 1993;

Foleyら 1999; Priorら 2001; Akimaら 2004; Kinugasaら 2006; Larsenら 2007)。また、これ まで筋の配置や形態は主に典型的な死体の解剖研究から得られてきた(Lieberら 1984; Zajac

1989; Murrayら 2000)が、それによって得られた結果は限定されたものであり、体の大き

さや年齢による筋骨格系の変形や多様性などは明らかではなかった。しかし、MRI 技術の 統合化によって、より個別化された詳細で正確な筋骨格モデルが出現してきた。一般的に、

T1強調スピンエコー画像などの標準パルス法が生体内の骨格筋や脂肪組織の横断面積や容 量を非侵襲的に同定するために用いられており(Tateら 2006)、MRIを用いて運動前後の骨 格筋の形態的変化を経時的に追うことも可能である。近年では、羽状角や筋束長などの筋 束の配列やヒト骨格筋の構造と機能の関係を理解するための手法として、拡散テンソル画 像法(DTI)の有用性が示唆されている(Bammerら 2003; Sinhaら 2006; Zaraiskayaら 2006;

(19)

Lansdownら 2007)。

神経 神経 神経

神経‐‐‐筋活動測定‐筋活動測定筋活動測定筋活動測定技術技術技術 技術

筋力はサルコメアのアクチンとミオシンの二つのフィラメントの連結によって産生され る。この反応にはATP とカルシウムイオンが必要であり、細胞膜の速い消極化によっても たらされる。この消極化の電位は筋電図(EMG)によって細胞外の領域で計測される。こ こ50年の間に、EMGは筋の電気的な活動の解析方法の1つとして発展し、異なる筋間にお ける動員タイミングの協調性(Dietzら 1986; Prilutskyら 1998; Carsonら 2002)や異なる収 縮様式における筋の活動特性(Milner-Brownら 1973; Duchateau and Hainaut 1987; Macefield ら 1996)、運動単位の動員や発火率(Solomonowら 1990; Van Cutsemら 1998)などの研究 に広く用いられてきた。神経‐筋活動は、能動的もしくは反射的な活動の結果としての、

運動ニューロンから筋への電気的な伝達を直接的に示すものである。トレーニングやスポ ーツ医学、リハビリテーションなどの分野においては、EMGは筋活動の意識性の効果判断 に用いられる(Duchateau and Hainaut 1991; Hakkinenら 2000; Aagaardら 2002; Gondinら

2004)。例えば、EMG 信号の振幅の増加は筋量の増加の前に観察され(Hakkinen ら 2000;

Aagaardら 2002)、また、不活動は結果として筋の電気的な活動の低下をもたらす(Duchateau

and Hainaut 1991; Gondinら 2004)。EMGの手法には直接的な方法と間接的な方法があり、

前者は針やワイヤー電極など筋の内部に電極を挿入する方法であり、後者は表面電極を用 いる方法である。

筋内EMG法

ワイヤー電極や針電極などの筋内電極は小さく、生体の深部に挿入され、筋の活動を直 接的に、高い空間解像度で検知するために用いられる。ワイヤー電極は、電極の挿入や除 去が容易であるため、動作的な課題(Hoffer 1993; Rowlandsら 1995)や神経生理学的な研

(20)

究(Onishiら 2000; Onishiら 2002; Mohamedら 2002)において多用される。

表面EMGは電気的ノイズや機械的アーチファクト、筋間のクロストークなどにさらされ るが、ワイヤー電極は同一の運動単位から電位を計測するため、表面EMGに見られる主要 な問題点を生じないという利点がある。その一方で、ワイヤー電極は被験者の不快感やワ イヤーの破損などの難しさを孕んでいるが、これらの問題が発生することは稀であり、被 検者への脅威としては認識されない。挿入電極による筋損傷なども想定されるが、近年の 研究においてはそのような報告は見られていない。

表面EMG法

表面EMGは、皮膚に貼付した電極によって検知された、その皮下にある筋の活動運動単 位による電気的活動の総体を示す。表面EMGの特徴、すなわち振幅やパワースペクトルな どは、筋線維を取り巻く形質膜レベルの伝達特性や運動単位の活動電位のタイミングなど に依存する。

表面 EMG には方法論的な課題がいくつかある。まず、 得られる信号には皮膚組織層の 厚さや筋収縮中のEMG電極に対する相対的な筋の移動などの非生理学的要素や、運動単位 伝導速度や動員される運動単位の数のばらつきなどの生理学的要素が影響する。非生理学 的な要因については、隣接する筋からのクロストークが多くの研究者たちにとって最も物 議を醸す課題となっている(De Luca and Merletti 1988; Aagaardら 2000; Dimitrovaら 2002;

Farinaら 2002; Loweryら 2003; Mogk and Keir 2003)。また、受動的に貼付された表面電極 は電気的な入力の抵抗性をほとんど持たないため、電極を貼付する皮膚表面は皮膚の電気 抵抗を減少させるためにアルコールを用いて洗浄し、研磨剤で磨くなどの準備が必須とな る。

2000年代には、表面EMGは短縮性または伸張性の筋収縮(Pasquetら 2000; McHughら 2002)や歩行(Birdら 2003; Warrenら 2004)などの動的な筋収縮に対して適用されてきた。

(21)

動的筋収縮課題における表面EMGの解釈は難解であり、それには次の3つの要因が絡んで いる。それは、信号の不安定性、筋線維に対する相対的な電極の移動、電極と筋線維の間 にある組織の伝導特性の変化である。動的な筋収縮における表面EMGの解析方法は改善さ れつつあり、研究や臨床における有用な筋機能の評価手段の1つとなっている。

(22)

11

11‐‐‐‐6666....ハムストリングスハムストリングスハムストリングスハムストリングスのののの身体身体身体身体におけるにおけるにおけるにおける意義意義意義意義およびそのおよびそのおよびその構造およびその構造構造構造とととと機能機能機能機能

ハムストリングス(Hamstrings)とは、大腿後面に位置する大腿二頭筋長頭(Biceps Femoris long head: BFlh)、大腿二頭筋短頭(Biceps Femoris Short head: BFsh)、半腱様筋(Semitendinosus:

ST)、半膜様筋(Semimembranosus: SM)の総称である。Hamとは、本来、膝関節後面の筋や脂

肪を指し、Strings とはその部位の境界となるひも(string)状の腱(上記4筋の遠位腱)を 指しており、その形状から名付けられたと考えられる。また、一説によると、ハムストリ ングとは「もも肉のひも」という原意であるとされ、これはハムを作るときに豚などのも も肉をぶらさげるために、これらの筋の腱が使われたことに由来しているとされているが、

その根拠は定かではない。

これらの筋群がハムストリングスとして総称される所以は、その構造および機能を部分 的に共有していることによる。BFlh、ST、SMの3筋はともに骨盤後下端に位置する坐骨結 節(ischial tuberosity)に起始し、骨盤と大腿とで成す関節、すなわち股関節の主に矢状面上 の運動(屈曲‐伸展)に作用している。また、股関節は骨盤の寛骨臼に大腿骨頭がはまっ ている臼状関節で比較的自由な可動域を有しており、ハムストリングスは股関節の回旋(内 旋‐外旋)にも作用する。この起始部の構造は複雑で、BFlhとSTは近位で融合しており、

さらにSMがその下に薄い腱膜となって融合し、総頭となり坐骨結節に付着している。また、

BFlhはBFshと遠位腱部で融合して腓骨頭に停止しており、ともに膝関節の屈曲および下腿 の外旋に作用する(BFsh は大腿骨粗面の遠位1/2 に位置する外側顆の稜線に起始)。なお、

BFlhは長腓骨筋の腱と繋がっているため、足関節および足部の動きの影響を受ける(Weinert ら 1973)。一方、STは脛骨粗面内側に(薄筋Gracilis:G、縫工筋Sartoriusとともに鵞足部 を構成)、SM は脛骨内側顆の後内側にそれぞれ停止し、ともに膝関節の屈曲および内旋に 作用する(参考図書2より)。したがって、BFlh、ST、SMの3筋は、股関節と膝関節の運 動に作用する二関節筋である。

(23)

図1‐4.ハムストリングスの解剖図(右脚)

①大腿二頭筋

③半腱様筋

②半膜様筋

①大腿二頭筋

③半腱様筋

②半膜様筋

反転

SM 近位腱

BFlh ・ ST 総頭腱

反転 反転

SM 近位腱

BFlh ・ ST 総頭腱

(24)

ハムストリングスの第一義的な役割は、身体の移動である。すなわち、立位姿勢から足 部を効果器として力を地面に伝え、膝関節を屈曲、および股関節を伸展させることによっ て身体を前方へ移動させる、歩行、走行、跳躍などの動作において重要な役割を果たす。

ハムストリングスは、このような比較的速い速度での動作において動員されることから、

速筋である typeⅡ線維の含有率が高く(Garrett ら 1984)、大きい筋張力の産生が可能な組 成となっている(Garrettら 1984; Garrett 1990; Noonan and Garrett 1999)。また、その構造上、

立位姿勢では上体(骨盤‐体幹‐頭部および上肢)の前方動揺を支持することから、姿勢 制御や抗重力などにも貢献すると考えられる(Watersら 1974)。

ハムストリングスは人間の様々な身体活動において協働して機能すると考えられているが、

近年、個々の筋の構造や機能に関する詳細な検討によって、それぞれの異なる特徴が明ら かとなってきている(Wickiewiczら 1983; Friederich and Brand 1990; Woodley and Mercer

2005)。形態的・構造的な観点からそれぞれについて相対的に比較すると、BFlhおよびSM

は筋線維長が短く、筋線維数が多く、羽状角を有する羽状筋であり、生理学的横断面積

(PCSA)が大きいため、大きな力の発揮に特化している。一方で、STおよびBFshは筋線 維長が長く、筋束が筋の収縮方向に対して平行に配列し、長い収縮範囲を持つ紡錘状筋で ある(Lieber and Bodine-Fowler 1993)。さらにSTは筋腹に腱画(tendinous intersection:

TI)を有し、近位部と遠位部とに隔てられている(Wickiewiczら 1983; Woodley and Mercer

2005)。また、神経支配も異なり、BFlh、ST、SM は坐骨神経の脛側部に支配される一方、

BFshは坐骨神経の腓側部に支配される。また、STは近位部と遠位部で異なる分枝の支配を 受けていることも明らかとなっている(Woodley and Mercer 2005)。

(25)

表1‐1.ハムストリングス各筋の解剖学的構造および筋形態

BFlh BFsh ST SM

解剖学的構造 解剖学的構造 解剖学的構造 解剖学的構造

起始 起始 起始 起始

坐骨結節、仙結 節 靱 帯 ( ST と 近 位で融合)

大腿骨 粗線 ・下 1/2 の 外 側 顆 稜

坐骨結節、仙結 節 靱 帯 ( BFlh と 近位で融合)

坐骨結節

停止停止

停止停止 脛骨外 側顆 ・腓

骨頭

脛骨外 側顆 ・腓 骨頭

脛 骨 粗 面 内 側

(鵞足)

脛骨内側顆後内 側 、 斜 膝 窩 靱 帯、膝窩筋膜

単////二関節筋二関節筋二関節筋二関節筋 二関節筋 単関節筋 二関節筋 二関節筋 股関節回旋

股関節回旋股関節回旋

股関節回旋 外旋 - 内旋 内旋

膝関節回旋 膝関節回旋膝関節回旋

膝関節回旋 外旋 外旋 内旋 内旋

筋線維配列 筋線維配列筋線維配列

筋線維配列 半羽状筋 紡錘状筋 紡錘状筋 半羽状筋

腓骨神経 総腓骨神経 総腓骨神経 脛骨神経 S1-3 L5-S2 L5-S2 L5-S2 筋形態筋形態筋形態

筋形態 筋量 筋量 筋量

筋量 [ [ [g]]]] [ Wickiewicz et al. (1983) 128.3 - 76.9 119.4

筋体積筋体積

筋体積筋体積 [ [ [ml]]]] [ Friederich and Brand (1990) 138.5 76.0 128.5 211.0 筋長

筋長筋長

筋長 [ [ [ [cm]]]] Wickiewicz et al. (1983) 34.2 27.1 31.7 26.2

Friederich and Brand (1990) 27.4 22.3 28.3 20.8

Woodley and Mercer (2005) 28.1 25.8 31.6 26.4

Makihara et al. (2006) 31.2 - 26.8 28.5

Ave. 30.2 25.0 29.6 25.5

筋線維長筋線維長

筋線維長筋線維長 [ [ [ [cm]]]] Wickiewicz et al. (1983) 8.5 13.9 15.8 6.3

White (1989) 9.1 11.8 6.6 6.6

Friederich and Brand (1990) 7.3 11.7 9.0 6.4

Delp et al. (1990) 10.9 - 20.1 8.0

Woodley and Mercer (2005) 7.0 12.4 9.0 5.0

Makihara et al. (2006) 7.3 - 23.8 6.0

Ave. 8.3 12.4 18.1 6.4

筋線維長 筋線維長筋線維長

筋線維長////筋長筋長筋長筋長 [%] [%] [%] [%] Wickiewicz et al. (1983) 25 52 50 24

Friederich and Brand (1990) 26 52 46 27

Woodley and Mercer (2005) 25 48 28 19

Makihara et al. (2006) 23 - 89 21

Ave. 25 51 53 23

筋節長 筋節長 筋節長

筋節長 [ [ [ [µm]]]] Ward et al. (2007) 2.4 3.3 2.9 2.6 羽状角

羽状角 羽状角

羽状角 [ [ [°]]]] [ Alexander and Vernon (1975) 17.0 0.0 0.0 16.0

Pierrynowski and Morrison (1985) 15.0 0.0 0.0 15.0

Spoor et al. (1989) 15.0 - 10.0 15.0

White (1989) 0.0 17.0 15.0 0.0

Wickiewicz et al. (1983) 0.0 23.3 5.0 15.0

Friederich and Brand (1990) 7.0 15.0 6.0 16.0

Delp et al. (1990) 0.0 23.0 5.0 31.0

Makihara et al. (2006) 28.0 - 0.0 31.0

Ave. 10.3 13.1 5.1 15.4

筋横断面積 筋横断面積 筋横断面積

筋横断面積 [ [ [ [cm2]]]] Alexander and Vernon (1975) 21.0 5.2 8.5 30.0

Wickiewicz et al. (1983) 12.8 - 5.4 16.9

Freivalds (1985) 11.8 - 4.3 13.0

Friederich and Brand (1990) 9.2 6.4 13.2 30.2

Woodley and Mercer (2005) 10.1 3.0 8.1 15.8

Ave. 13.0 4.9 7.9 21.2

typeⅡⅡ線維含有率線維含有率線維含有率線維含有率 [%] [%] [%] [%] Garrett et al. (1984) 54.5 59.2 57.5 50.8

Pierrynowski and Morrison (1985) 65.0 66.9 50.0 50.0

White (1989) 66.9 50.0 50.0 50.0

Ave. 62.1 58.7 52.5 50.3

神経支配 神経支配 神経支配 神経支配

(26)

図1‐5.ハムストリングス各筋の神経支配(Woodley and Mercer 2005より改変)

大腿二頭筋長頭(BFlh) 大腿二頭筋短頭(BFsh)

半腱様筋(ST) 半膜様筋(SM) 大腿二頭筋長頭(BFlh) 大腿二頭筋短頭(BFsh)

半腱様筋(ST) 半膜様筋(SM)

(27)

二関節筋である BFlh、ST、SM は、股関節と膝関節において異なるモーメントアームを 持つことが、屍体標本実測やMRIを用いたモデリング等の研究により報告されている。股 関節の運動においては、BFlhとSTはSMに比べてやや大きな股関節伸展モーメントを持つ。

BFlh のモーメントアームは股関節の全可動域を通して大きく、股関節が屈曲するに伴い直 線的に大きくなる一方で、STおよびSMは股関節40°屈曲位付近をピークとした逆双曲線 状の変化を示す(Visserら 1990; Arnoldら 2000)。また、膝関節の運動においては、STは SM および BFlh に比べてやや大きな膝関節屈曲モーメントを持つ(Buford ら 1997)。SM のモーメントアームは膝が伸展するに伴い大きくなり膝伸展位でピークとなる一方で、

BFlhおよびSTのモーメントアームは膝伸展位で小さく、STでは膝が屈曲するに伴い大き くなるが、BFlhでは大きな変化は見られない(Herzog and Read 1993)。したがって、BFlh は股関節伸展運動において、STは膝関節屈曲運動において、それぞれ他の筋より比較的効 率的に機能すると考えられる。

図1‐6.BFlhの股関節モーメントアーム(Visserら 1990より改変).縦軸はモーメントア

ームの大腿長に対する比率を表し、データを得た5体6肢の大腿長の平均値が約40cmであ るとされていることから、モーメントアームはおよそ平均8-10cmと推定される。

(28)

図1‐7.ST およびSMの股関節モーメントアーム3 例(Arnoldら 2000より改変).MRI データからの推定値(黒・実線)と実測値(灰色・点線)が示されている。

図1‐8.ハムストリングス各筋の膝関節モーメントアーム(Bufordら 1997より改変).15

例の平均値(実線)と標準偏差(破線)が示されている。

膝屈曲 / 伸展角度(°)

モ ー メ ン ト ア ー ム (m m )

膝屈曲 / 伸展角度(°)

モ ー メ ン ト ア ー ム (m m )

(29)

ハムストリングス各筋の機能的な差異については、遂行する課題の運動様式や関節角度

(筋の静的伸張度)、運動速度(筋の収縮速度)や筋に課される負荷の大きさへの応答など の観点から、主に筋電図(EMG)を用いて数多く検討されている。等速度における短縮性 の膝関節屈曲運動において、浅屈曲位ではBFlhが主に動員され、膝深屈曲位になればなる ほどST、SM、BFshが動員される割合が増加することが明らかとなっている(Onishiら 2002)。 また、股関節から膝関節にまたがる二関節筋であるハムストリングスは、股関節および膝 関節屈曲角度に応じて、すなわち静的伸張度に応じて等尺性膝関節屈曲運動時の個々の筋 活動の度合いが異なり(Mohamedら 2002; Onishiら 2002; Makiharaら 2006)、もっとも伸 張された肢位において膝屈曲トルクが最大になる。また、股関節と膝関節、両関節の複合 関節運動においては、それぞれの関節運動トルク(股関節伸展、膝関節屈曲)を同時に産 出する上で筋の活動が最大になる時の作用方向(Preferred Direction: PD)は個々の筋で異なり、

その勾配が中枢神経系(Central Nervous System: CNS)においてコントロールされている可能 性が示唆されている(Nozakiら 2005)。それによると、BFlhとBFshとではPDが大きく異 なり、さらにSTのPDはBFlhよりもむしろBFshに近いということが示唆されている。

生体内の筋において、受動的張力が発現し始める時の筋の長さは筋の構造的特徴(羽状 筋または紡錘状筋)によって異なり、受動的張力と能動的張力との総和として表される筋 固有の長さ‐張力関係に影響を与えることは先に述べた。ハムストリングス各筋の構造 的・機能的特徴から、ハムストリングスは羽状筋(BFlh、SM)と紡錘状筋(BFsh、ST)が バランスよく配置され、それらが協働することによって股関節伸展筋としての機能と膝関 節屈曲筋としての機能を効率よく果たしていると考えられる。しかしながら、これまでの ハムストリングスに関する研究の多くは、伏臥位または座位における膝関節屈曲筋群とし ての機能について検討したものであり、実際の日常生活やスポーツ活動における歩行や走 行など、本来ハムストリングスが“ハムストリングスらしく”振舞うような動作中の機能、

特に股関節伸展筋としての役割については明らかにされていない部分が多い。

(30)

11

11‐‐‐‐7777....ハムストリングスハムストリングスハムストリングスハムストリングスとととと肉離肉離肉離肉離れれれれ

ハムストリングスの第一義的な役割は身体の移動であり、走動作や跳動作などを含むス ポーツ活動においてハムストリングスの果たす役割は非常に大きい。ハムストリングスは 大きな、繰り返しの力発揮を要求されるため(Koulouris and Connell 2006)、スポーツ活動に 伴う傷害が頻発し(Kujalaら 1997; Gabbeら 2002)、その初回発生や再発の予防、より効果 的な治療・リハビリテーション方法の確立は、現代スポーツ医学における重要な課題の 1 つとなっている。ハムストリングスに発生する急性外傷の代表的なものとして、肉離れが 挙げられる。ハムストリングスの肉離れは、スポーツ活動中に発生する急性外傷の中でも 特に発生率が高く(Bennell and Crossley 1996; Hawkins 2001; Orchard and Seward 2002; Orchard ら 2002; Meeuwisse 2003; Arnasonら 2004; Woodsら 2004; Brooksら 2005; Brooksら 2006)、 また、一旦治癒してスポーツ活動に復帰しても再発するケースが多い(Orchard ら 2002;

Arnasonら 2004; Croisier 2004; Woodsら 2004; Brooksら 2006)。故に、その治療やリハビリ テーションにおいては、選手本人も、医師やトレーナーも慎重にならざるを得ず、復帰ま でには長い期間を要し、かつ復帰後も心理的な不安が残る場合が多く、選手のパフォーマ ンスレベルの低下を招くことになる。ハムストリングス肉離れの病態を詳細に明らかにし、

蓄積されたデータから受傷機転や危険因子を抽出し、その発生に関与する身体の構造や機 能を照らし合わせながら傷害発生の予防的アプローチを検討していくことが、受傷率の低 下とスポーツパフォーマンスの向上につながると考えられる。

以下、ハムストリングス肉離れの病態、発生危険因子、受傷メカニズムについて述べる。

病態

Safranら(1989)の定義によれば、肉離れとは「筋線維の断裂(重度の場合は筋周膜も断

裂)で周囲の血管の損傷を伴うもの」とされるが、これまでの数多くの疫学的研究によっ

(31)

て、特に近年のMRIや超音波画像診断装置(US)などの画像診断技術の発展により、その 病態の詳細が明らかになってきている。ハムストリングスの肉離れは特にBFlhにおいて多 く発生し(De Smet and Best 2000; Woodsら 2004; Brooksら 2006; 奥脇 2008)、その受傷部 位は筋線維の断裂というよりはむしろ筋線維が腱または腱膜に接続する筋腱移行部での断 裂であることが報告されている(Garrett 1990; Tidballら 1993; Garrett 1996; Koulouris and Connell 2003; 奥脇 2004)。また、BFlhとST は近位で融合しているが、その融合部での断 裂も散見され、その構造的な力学的負荷に対する脆弱性も窺える(Hoskins and Pollard 2005)。

De Smet ら(2000)は、MRI 診断したハムストリングス肉離れ症例において、全ての損傷

は筋腱移行部にて起きており、15 例中6 例(40%)がBFlhの単独損傷で、次いで5 例(33%)

は近位のBFlh とSTの融合部にて損傷していると報告している。同様に、Gibbs ら(2004)

もBFlhの単独損傷がハムストリングス肉離れ症例全体の76%を占め、BFlhとSTの近位融 合部の損傷が29%であったことを報告している。このようなBFlhに発生する肉離れの受傷 機転は、ランニング中の接地期の前後における動作であることが多く、非接触性の自発的 な運動の中で起きることは興味深い。一方で、介達外力を受けてハムストリングスが過度 に伸張される、すなわち股関節が過屈曲、もしくは膝関節が過伸展、もしくはその両者が 同時に起きるような状況では、損傷がSTやSMなど他の筋や遠位の筋腱移行部にも見られ、

さらに近位腱が坐骨結節との付着部から裂離する腱断裂を合併するケースなどもあり(奥

脇 2004)、その病態が多岐に渡る。Askling ら(2007)は、短距離選手におけるハムストリ

ングス肉離れ症例を検討した結果、全例がBFlhの損傷であったと報告しているが、その後 の報告において、球技、ダンス競技を含む多数の競技で発生したハムストリングス肉離れ を検討しており、股関節過屈曲・膝関節過伸展肢位で受傷した症例のうち、83%がSMの近 位筋腱移行部における受傷であると報告している(Askling ら 2008)。

(32)

図 1‐9.大腿二頭筋長頭の肉離れと画像診断された例(矢印部分に高輝度が確認される;

Koulouris and Connell 2005より改変).

発生危険因子

肉離れは、活動中の筋が通常の長さ以上に引き伸ばされたときに発生し、筋活動を伴わ ない筋の伸張、または、伸張を伴わない筋活動では筋損傷は起こらないとされる(Garrett

1996)。つまり、強く速い筋収縮と筋への伸張性負荷とが同時に起こることで力学的な緊張

が生じ、肉離れが起こると考えられている。これまでの研究で、肉離れの発生時には強い 筋収縮によって筋線維内の結合力が筋腱移行部の結合力を上回るため、損傷は筋腱移行部、

特に透明層(lamina lucida)で生じることが報告されている(Tidballら 1993)。このような 筋の断裂が特に自発的な運動中に起こる際の受傷機転、発生メカニズムについては、受傷 場面の動作を客観的に記録することも実験室的に再現することも不可能であるため、あく まで推測の域を出ない。しかしながら、実際に肉離れが発生した際の受傷者の主観や状況 の記録などから、ハムストリングス肉離れ発生の危険因子として、以下のものが挙げられ ている(Agre 1985; 蒲田 2000; Hoskins and Pollard 2005; 白木と加藤 2008)。

(33)

<内的因子>

・ 強く、速い筋収縮(上位中枢からの興奮伝達による能動的張力発揮)

・ 過度に筋が伸張するような動作肢位

股関節:屈曲(骨盤の前傾)、内旋(BFlhの伸張)、外旋(ST、SMの伸張)

膝関節:伸展、(下腿)内旋(BFlhの伸張)、外旋(ST、SMの伸張)

・ 筋力の低下、拮抗筋との筋力比のアンバランス(Burkett 1970; Heiser ら 1984;

Yamamoto 1993; Croisier 2008)

・ 柔軟性の欠如(筋タイトネスの増加)(Worrellら 1991; Jonhagenら 1994; Hartig and Henderson 1999; Witvrouwら 2003; Dadebo ら2004; Alonsoら 2008; Arnasonら 2008)

・ ウォーミングアップの不足(動作への不適応)(Garrett 1990; Hoskins and Pollard 2005)

・ 疲労の蓄積(円滑な運動機能の破綻)(Heiserら 1984; Nummelaら 1994; Mairら 1996;

Hawkins and Fuller 1999; Pinnigerら 2000; Verrallら 2003; Dadeboら 2004; Woodsら 2004)

・ 既往歴(不完全な治癒、受傷しやすい身体の構造的、機能的、動作的特徴)(Jonhagen ら 1994; Turl and George 1998; Brockettら2001; Brockettら2004; Croisier 2004; Lehman ら 2004; Proskeら 2004)

<外的因子>(白木と加藤 2008)

・ 天候(気温、湿度)

・ サーフェス(接地面の状況)

・ シューズ(スパイクシューズ着用の有無)

これらの因子が複雑に絡み合うことで肉離れが発生すると考えられるが、特により多く の因子を含むスポーツ動作は、陸上競技やサッカー、ラグビーなどにおける全力疾走動作

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