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事前求償権を被保全債権とする仮差押えと事後求償 権の時効中断

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(1)

事前求償権を被保全債権とする仮差押えと事後求償 権の時効中断

著者 山中 稚菜

雑誌名 同志社法學

巻 68

号 5

ページ 1965‑1994

発行年 2016‑11‑30

権利 同志社法學會

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000016887

(2)

    同志社法学 六八巻五号四九五一九六五

最高裁平成二七年二月一七日第三小法廷判決(平成二四年(受)第一八三一号・求償金等請求事件)民集六九巻一号一頁、判例タイムズ一四一二号一二九頁、判例時報二二五四号二四頁、金融・商事判例一四六三号二二頁、同一四六三号五四頁、金融法務事情二〇二一号一二九頁

           

【事実の概要】

  本件は、事前求償権を被保全債権とする仮差押えが事後求償権の消滅時効をも中断する効力を有するか否かが問題となった事件である。 

( )

(3)

    同志社法学 六八巻五号四九六一九六六

 

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1

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Y

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(4)

    同志社法学 六八巻五号四九七一九六七 ②事後求償権につき同期間について約定利息年一八・二五%より低い利率一四%)の支払を求めて、本件訴訟を提起した。理由は必ずしも分明ではないが、このように、Xは、①事前求償権に基づく請求に係る訴えと、②事後求償権に基づく請求に係る訴えを、単純併合の形で提起していた。

  これに対してYらは、Xの代位弁済の翌日から五年以上経過していることを理由に、本件事後求償権の消滅時効が完成しているとして消滅時効を援用する旨の抗弁を主張した。このYらの抗弁に対し、Xは、﹁事前求償権と事後求償権は、いずれか一方が弁済により満足した場合、他方もその限度で消滅するという関係にあり、その意味で両者は同一の経済的利益を目的とする権利である。そうであれば、事前求償権についての時効中断の効力は、事後求償権についても及ぶと解すべきである﹂として、事前求償権を被保全債権とする仮差押えにより消滅時効の中断効は同債権の事後求償権にも及んでおり、事後求償権は、発生と同時に時効が中断し、現在まで消滅時効は進行していないとの再抗弁を主張した。

  これに対してYらは、Xの主張する時効中断効について争い、⑴消滅時効は執行の完了から再進行しているので、消滅時効は完成していること、⑵事前求償権・事後求償権成立後、すでに一六年以上が経過し、これらの求償権が行使されないことを前提に生活関係を形成しているにもかかわらず、今更行使することは、権利濫用にあたるとの再々抗弁を主張した。Xは、⑴・⑵についてはいずれも争うとし、⑴に対しては、仮差押えの執行保全の効力が存続する間は仮差押債権者による権利の行使が継続するものと解すべきであり、債務者は本案の起訴命令や事情変更による仮差押命令の取消を求めることができる以上、Yらの主張は妥当でないとし、⑵については、平成八年から平成一六年六月頃まで、Yらの居所が不明であり、本件求償権による書面督促もすべて返戻される状態にあったこと、さらに、平成一六年六月以降も、平成二一年四月二四日までは、書面督促及び訪問によっても、YらがXとの返済協議に応じなかったことを理由に、本件訴訟が事前求償権・事後求償権双方が成立してから一六年以上が経過してから提起したものであったとして

(5)

    同志社法学 六八巻五号四九八一九六八

も、権利濫用にあたらないと主張した。

【第一審判決】

  Xは、第一審において、①事前求償権に基づく請求に係る訴えと②事後求償権に基づく請求に係る訴えを単純併合の形で提起したが、Xが代位弁済を理由とする事後求償権に基づく請求を中心にしていたため、第一審裁判所は、②事後求償権に基づく請求に係る判決を言い渡す際に、①事前求償権に基づく請求に係る判決を脱漏した。そのため、第一審裁判所は、②事後求償権に基づく請求に係る判決の後、追加判決(民訴二五八条一項)として、①事前求償権に基づく請求に係る判決を言い渡した。

  まず、②事後求償権に基づく請求について、第一審(大津地判平成二三年九月一四日民集六九巻一号五頁)は、最三小判昭和六〇年二月一二日民集三九巻一号八九頁を引用し、事前求償権と事後求償権は、別個の債権であるので、﹁事前求償権と事後求償権の消滅時効の起算点は異なる﹂としつつ、﹁究極の目的と社会的効用を同じくし、その異別性を見ても実益はなく、制度趣旨の見地からすると、両者の同一性ないし同質性が要求されている﹂のであって、﹁両債権は、その発生の基礎を保証委託契約関係に置いており、民法四六〇条各号は同法四五九条と並んで同じ求償権発生の要件を規定するもので、事前求償権はその事前発生に、事後求償権はその事後発生に関するものであるとすることができる﹂として、最一小判昭和三四年六月二五日民集一三巻六号八一〇頁を引用した。その上で、﹁そもそも主債務者に対する免責行為前に事前求償権に基づく不動産仮差押命令を得る目的は、信用保証委託契約により発生した求償権を保全することにある﹂が、﹁事前求償権が、免責行為後に求償権を行使したのでは主債務者からの回収ができない恐れがあるという政策的見地から認められた趣旨からすると、まさに、事前求償権に基づく不動産仮差押えは、免責行為後の事後求

(6)

    同志社法学 六八巻五号四九九一九六九 償権を保全するためになされたもの﹂であり、事前求償権に基づく不動産仮差押命令を得てその旨の登記手続を経由した者が、事後求償権取得後に、再度不動産仮差押命令を得てその旨の登記をすることは、﹁事前求償権と事後求償権の究極の目的及び社会的効用の同一性﹂からして考えられないので、事前求償権に基づく不動産仮差押命令及びそれに基づく登記手続を経由することにより、﹁事後求償権も、その発生後、同様に保全されたと考えるのが相当である﹂として、事前求償権についての本件仮差押えによって、本件事後求償権についての消滅時効は、本件事後求償権が発生した平成六年一一月一八日に中断すると判示した。

  また、Yらの⑴・⑵の再々抗弁については、以下の理由から認めないとした。⑴については、最二小判昭和五九年三月九日集民一四一号二八七頁を引用し、﹁仮差押えによる時効中断の効力は、仮差押えの執行保全の効力が存続する間は継続する﹂と述べ、﹁なぜなら、民法一四七条が仮差押えを時効中断事由としているのは、それにより債権者が、権利の行使をしたといえるからであるところ、仮差押えの執行保全の効力が存続する間は仮差押債権者による権利の行使が継続するものと解すべきだからであり、このように解したとしても、債務者は、本案の起訴命令や事情変更による仮差押命令の取消を求めることができるのであって、債務者にとって酷な結果になるともいえない﹂とし、⑵についても、Yらにとって酷な結果になるとはいえないと判示し、﹁Xの本件訴え提起が本件仮差押えから一六年余後になされたとしても、Xの本件訴え提起が権利濫用に当たるとはいえない﹂として、Xの請求を認容した。

  次に、追加判決として、①事前求償権に基づく請求について、第一審(大津地判平成二四年一月一三日民集六九巻一号一三頁)は、本件事前求償権がXの代位弁済により消滅したというYらの主張を認め、Xの請求を棄却した。

  その後、②事後求償権に基づく請求に係る判決に対してYら、①事前求償権に基づく請求に係る判決に対してXが控訴を提起した。

(7)

    同志社法学 六八巻五号五〇〇一九七〇

【原審判決】

  X・Yらの請求は、単純併合から選択的併合の関係に改められた。その上で、原審(大阪高判平成二四年五月二四日民集六九巻一号一七頁)は、②事後求償権に基づく請求に係る第一審判決を認容し、Xの請求を棄却した①事前求償権に基づく請求に係る第一審判決は失効した旨を宣言した。

  原審は、最三小判昭和六〇年二月一二日民集三九巻一号八九頁を引用し、事前求償権と事後求償権は、別個の権利であるが、﹁そもそも事前求償権は、保証人が債権者に対する免責行為をしたことにより取得する事後求償権を保全するために認められた権利﹂であり、﹁両者は、たとえ法的性質が異なる別個の権利ではあっても、密接な関係にあるというべきであり、事後求償権の発生後であっても、その保全の必要性があれば、事前求償権について認められた権利の行使を事後求償権についても認めるのが相当である﹂とし、さらに、﹁仮差押命令は、当該命令に表示された被保全債権と異なる債権についても、これが上記被保全債権と請求の基礎を同一にするものであれば、その実現を保全する効力を有する﹂とした最一小判平成二四年二月二三日裁時一五五〇号一七頁を引用し、﹁本件仮差押えの被保全債権は、本件信用保証委託契約に基づく事前求償権であるが、本件信用保証委託契約に基づく事後求償権とは請求の基礎を同一にするものであり、本件仮差押命令は、本件信用保証委託契約に基づく事後求償権の実現も保全する効力を有するから、本件仮差押命令に基づく消滅時効中断の効力は、本件求償権(事後求償権)にも及び、消滅時効が中断したと解するのが相当である﹂と判示した。

  また、Yらの⑴・⑵の再々抗弁については、以下の理由から認めないとした。⑴については、第一審と同じ最二小判昭和五九年三月九日集民一四一号二八七頁を引用し、さらに、最三小判平成一〇年一一月二四日民集五二巻八号一七三七頁も引用し、﹁仮差押えの執行保全の効力が存続する間は仮差押債権者による権利の行使が継続するものと解すべき

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    同志社法学 六八巻五号五〇一一九七一 だからであり、このように解したとしても、債務者は、本案の起訴命令や事情変更による仮差押命令の取消しを求めることができるのであって、債務者にとって酷な結果になるともいえない﹂とし、⑵については、﹁前記平成一〇年最高裁判決が指摘するように、本件仮差押え後、本案の起訴命令や事情変更による仮差押命令の取消しを求めることができた﹂とし、権利の濫用であるとは認められないとして、Yらの請求を棄却した。

  これに対し、Yらは、事前求償権を被保全債権とする仮差押えにより事後求償権の消滅時効が中断するとした原審の判断は、事前求償権と事後求償権とが発生要件等を異にし、別個の債権であることに照らせば、民法の解釈を誤っているとして、上告受理申立てをし、最高裁判所がこれらについて上告受理決定をした。

【判旨】上告棄却

。はある。その理由、当次のとおりであるで   ﹁事すのが相、はえ押差仮るとす権債全保被を権償求前る解後中求償権の消滅時効をも断とす事効力を有するものる   事前求償権は、事後求償権と別個の権利ではあるものの(最高裁昭和五九年(オ)第八八五号同六〇年二月一二日第三小法廷判決・民集三九巻一号八九頁参照)、事後求償権を確保するために認められた権利であるという関係にあるから、委託を受けた保証人が事前求償権を被保全債権とする仮差押えをすれば、事後求償権についても権利を行使しているのと同等のものとして評価することができる。また、上記のような事前求償権と事後求償権との関係に鑑みれば、委託を受けた保証人が事前求償権を被保全債権とする仮差押えをした場合であっても民法四五九条一項後段所定の行為をした後に改めて事後求償権について消滅時効の中断の措置をとらなければならないとすることは、当事者の合理的な意思ないし期待に反し相当でない。﹂

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    同志社法学 六八巻五号五〇二一九七二

【批評】

一  はじめに   本件の争点は、事前求償権を被保全債権とする仮差押えが、事後求償権の消滅時効をも中断する効力を有するか否かである。従来、この点について争われた最高裁判例はなく、学説上もほとんど議論されてこなかった。

  民法は、保証人が主たる債務者に代わって債権者に弁済した場合に、債務者による保証の委託の有無によって内容を区別しつつ、保証人に債務者に対する求償権を認めている(民四五九条、四六二条)。無委託保証人(債務者の委託を受けずに保証した保証人)の求償権は、事後求償権(民四五九条一項後段)が原則とされる一方、受託保証人(債務者から委託を受けた保証人)の求償権は、事後求償権の他にも、事前求償権(民四五九条一項前段・四六〇条)が認められている。そのため、従来から、特に、受託保証人の事前求償権の法的性質や事前求償権と事後求償権を同一の権利と考えるか(同一説・一個説)、それとも別個の権利と考えるか(別個説・二個説)という関係をめぐっては、様々な議論がなされてきた。

  本件の争点との関係では、特に、事前求償権と事後求償権の関係をめぐる議論が重要となってくる。なぜなら、事前求償権と事後求償権を同一の権利とする同一説に立つ場合、事前求償権を被保全債権とする仮差押えは、すなわち事後求償権のための仮差押えでもあるので、事後求償権の消滅時効を当然に中断するとの説明がしやすくなるのに対し、事前求償権と事後求償権を別個の権利とする別個説に立つ場合、事前求償権を被保全債権とする仮差押えとは別に、事後求償権についても時効中断措置をとらなければ事後求償権にかかる時効は中断されないことになるはずであり、仮に、別個説を前提としながら事前求償権を被保全債権とする仮差押えが事後求償権の消滅時効をも中断するという場合に

(10)

    同志社法学 六八巻五号五〇三一九七三 は、いかなる理由でそのような結果になったのかということを明らかにする必要性が出てくるからである。

  また、本件では仮差押えの時効中断についても問題となっている。仮差押えの時効中断に関しては、従来、仮差押えの時効中断効の終了時期、つまり仮差押えにより生じる時効中断効の範囲が問題とされてきた。

  そこで、以下では、事前求償権の法的性質と事後求償権との関係に関する問題(↓二)と仮差押えにより生じる時効中断効の範囲に関する問題(↓三)に焦点を当て、これらに関する判例・学説について概観した上で、本判決について検討していくこととする 1

(↓四)。

二  事前求償権の法的性質と事後求償権との関係

1   事 前 求 償 権 の 法 的 性 質

  受託保証人の事前求償権が認められる場合は、民法四六〇条が定める三つの発生原因及び民法四五九条一項前段の定める発生原因の四つの場合に加え、本件のように、信用保証委託契約のなかで、﹁借入金債務の一部でも履行を遅滞したときには事前求償しうる﹂との合意がある場合のように、免責行為前の求償権行使を許す旨の特約があるときにも認められるとされている 2

。しかし、なぜ、受託保証人が未だ免責行為をしていない段階にもかかわらず、事前求償権が認められることになるのかという点については、従来から様々な議論がなされてきた。

  伝統的な通説は、受託保証人の事後求償権を受任者の委任事務費用償還請求権(民六五〇条)、事前求償権を受任者の委任事務費用前払請求権(民六四九条)と性格づける 3

。事後求償権に関しては、保証委託契約は委任契約(民六四三条)であるため、保証人の弁済に要した費用は委任事務処理の費用に該当し、委任における費用償還請求権(民六五〇

(11)

    同志社法学 六八巻五号五〇四一九七四

条)に相当すると説明する。これに対し、事前求償権に関しては、﹁委任者は費用の前払を請求しうるのが原則だが(民六四九条)、保証人の求償については、特別の場合にだけこれを認めた﹂のであり、﹁委任を受けた保証人は、例外的に、予め、すなわち弁済その他の免責行為をしないうちに、求償することができる﹂と説明する

)4

。つまり、受託保証人の事前求償権に関する規定である民法四六〇条等は、受任者の委任事務処理費用前払請求権を認める民法六四九条の特別規定であるとするのである

)5

  また、事前求償権は将来の事後求償権を保全するためのものであるとする見解も唱えられているが 6

、近時は、一定の事由がある場合に、受託保証人をその負担から解放し、免責するための制度であるとの理解が有力である

)7

。この見解は、ローマ法やフランス法の比較法検討から事前求償権の制度趣旨を理解しようとするものであり、受託保証人の解放目的については相違がないが、受託保証人の解放の手段については若干の見解の相違があるようである

)8

  判例では、受託物上保証人が事前求償権を行使し得るか否かが争点とされた最三小判平成二年一二月一八日民集四四巻九号一六八六頁(以下﹁平成二年判決﹂という。)が、受託物上保証人の事前求償権を否定するにあたり、﹁保証債務の弁済は右委任に係る事務処理により生ずる負担である﹂として、物上保証の委託との差異を論じていた。この点から、平成二年判決は、受託物上保証人の事前求償権を否定するにあたり、委任事務処理費用前払請求権に根拠を求める伝統的な通説を前提としうるような判断をしたとする見解もある 9

。ただし、最高裁は、保証債務の弁済を委任事務処理による負担と表現するものの、事前求償権と費用前払請求権との関係について直接論じているわけではないとされる ₁₀

  以上のように、事前求償権の法的性質をめぐっては、様々な議論がなされているが、現在においても、判例・学説ともに未だ決着をみない。

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    同志社法学 六八巻五号五〇五一九七五

2   事 前 求 償 権 と 事 後 求 償 権 の 関 係

  次は、受託保証人の事前求償権と事後求償権の関係をめぐる議論についてみていく。ここでは、まず、事前求償権と事後求償権をどのように考えるか、つまり、両求償権を同一の権利とするか(同一説・一個説)、それとも別個の権利とするのか(別個説・二個説)という議論(個数論)について、判例・学説を概観した上で、事前求償権の消滅時効に関する議論についても触れておく。

⑴  判  例   ⅰ  最高裁昭和三四年六月二五日第三小法廷判決(民集一三巻六号八一〇頁)   まず、事前求償権と事後求償権の関係をめぐる議論の契機となった比較的初期の判例である最三小判昭和三四年六月二四日民集一三巻六号八一〇頁(以下﹁昭和三四年判決﹂という。)は、受託保証人が将来免責行為をしたときに取得するべき求償権を担保するために、主債務の額を極度額とする根抵当権が設定されていた場合、その保証人は、主債務の弁済期の到来後、まだ免責行為をしていなくとも、先順位抵当権による競売手続において、極度額まで配当要求をすることができると判示した。つまり、昭和三四年判決は、事後求償権を被担保債権とする根抵当権に、民法四六〇条二号の適用を認めたのである。

  最高裁は、判旨のなかで、事前求償権と事後求償権が同一のものであると必ずしも明示していなかった。しかし、昭和三四年判決の調査官解説が、発生要件から考えれば﹁厳密にいえば、両者は別個の権利とみるべきであろう。然し、翻って考えれば、この両者は窮極の目的と社会的効用を同じくし、その異別性に着眼したとしても何ら実益なく、むしろ制度の趣旨から両者の同一性ないし同質性が要求されている﹂と述べていたことから、昭和三四年判決は、その当然

(13)

    同志社法学 六八巻五号五〇六一九七六

の前提として、事前求償権と事後求償権とを同一の権利とする同一説の立場をとっていたと理解することができるとされてきた ₁₁

  これに対して、別個説からは、事前求償権と事後求償権は終局的に目的を一にすること及び委任契約に源を発する債権であるという点に共通性があるのみであるため、訴訟物理論についての見解を変えない限りはこの両債権の同一性の論証には難点があろうとの批判がなされていた ₁₂

  このように、批判はあったものの、昭和三四年判決は、事前求償権と事後求償権との関係につき、個数論が本格化する前のものであったため、当時、一般的には事前求償権はとりたてて事後求償権と対比されるべき別個の権利としては位置づけられていなかったようである ₁₃

。概説書においても﹁予め求償しうる場合﹂とされており、求償権としての一体性・同一性は当然視されていたようである ₁₄

。そのため、昭和三四年判決以降は、一般的に、同一説が通説と考えられていたようである ₁₅

  ⅱ  最高裁昭和六〇年二月一二日第一小法廷判決(民集三九巻一号八九頁)   次に、事後求償権の消滅時効の起算点が争点となった最一小判昭和六〇年二月一二日民集三九巻一号八九頁(以下﹁昭和六〇年判決﹂という。)は、受託保証人が事前求償権の発生から五年以上経過後かつ弁済後五年以内に、主債務者に対して求償権に基づき請求した事案であったが、ここでは、事後求償権の消滅時効は受託保証人が免責行為をした時から進行するものと解すべきとされ、受託保証人が事前求償権を取得しこれを行使することができたからといって、事後求償権を取得しこれを行使しうることになるとはいえないと判断された。その理由として、最高裁は、事前求償権と事後求償権が発生要件を異にすること、事前求償権には事後求償権については認められない抗弁が付着し、消滅原因が規

(14)

    同志社法学 六八巻五号五〇七一九七七 定されていることを挙げ、﹁両者は別個の権利であり、その法的性質も異なる﹂ものであると説いた。

  このように、昭和六〇年判決は、事前求償権と事後求償権とを別個の権利とし、事後求償権の消滅時効は事前求償権が発生しこれを行使しうるときからではなく、事後求償権が発生しこれを行使しうるときから起算すべきであるとし、昭和三四年判決が前提とする同一説ではなく、別個説を採用することを明言した。

  昭和六〇年判決の調査官解説は、﹁厳密には二つの債権たるべきものが、その目的、社会的効用が同じであるとの理由により一つの債権とみるべきであるとの論は、請求権競合等を認めてきた従来の判例の立場と相い容れないものであることに照らしても、必ずしも説得力のあるものではない﹂として昭和三四年判決の調査官解説による説明を否定した上で、﹁事前求償権と事後求償権とは、異なる規定(事由)に基づいて発生・消滅するものとされており、その内容も異なることに鑑みると、異なった目的・社会的効用を果たすべきものとされているとみるべき﹂と述べた ₁₆

。しかし、その一方で、﹁事前求償権の発生、消滅が事後求償権保全の必要性の発生、消滅に係っていることに鑑みると、事前求償権は事後求償権保全のためのものである﹂とも述べ、両求償権に密接な関係にあることも同時に認めていた ₁₇

⑵  学  説   学説では、前述の昭和六〇年判決を契機として、個数論が活発に議論なされることとなった ₁₈

  同一説・一個説は、保証人の主債務者に対する求償権は一個であり、事前求償権と事後求償権とは同一の債権であって、事前求償権は事後求償権を代位弁済前に事前行使する権利にすぎないとする見解である ₁₉

。この説は、両求償権の違いを、同一の求償権を免責行為よりも前に行使するか後に行使するかの違いにすぎないと解する。

  一方、別個説・二個説は、事前求償権と事後求償権は発生要件も法的性質も異なる別個の権利であるとする見解であ

(15)

    同志社法学 六八巻五号五〇八一九七八

る。この説は、主として、発生要件の違いなどから﹁別個﹂と解する。また、別個説は、事後求償権発生後(すなわち、保証人の免責行為後)も事前求償権が存続するか否か(すなわち、両者が併存するか否か)という点において、民法四五九条一項後段所定の行為があれば事前求償権は消滅ないし事後求償権に収束、一本化されるとする説 ₂₀

と同行為があっても事前求償権は消滅しないとする併存説 ₂₁

に大別することができる。前者が少数説、後者が多数説とされるようである ₂₂

  このように、かつては、事前求償権と事後求償権との関係をめぐって、個数論が活発に議論されてきたものの、昭和六〇年判決以降、別個説が通説とされたことに伴い、近時においては、事後求償権との関係で事前求償権にどのような機能と意義を付与するかという、より実践的な議論に移ってきている ₂₃

。しかし、別個説は、事前求償権と事後求償権を全く別個・独立の権利とするのではなく、両者の牽連性を肯定していることから、実際、同一説であろうと別個説であろうと具体的な処理結果では大差がないとも指摘されている ₂₄

⑶  事前求償権の消滅時効   昭和六〇年判決では、事前求償権がいつ発生したかに関係なく、事後求償権の消滅時効の起算点は免責行為をした日の翌日であるとされた。これに対して、事前求償権の消滅時効の起算点に関する最高裁判例はないが、東京高判平成一九年一二月五日判例時報一九八九号二一頁(以下﹁東京高判平成一九年﹂という。)がある。

  東京高判平成一九年は、﹁事前求償は、事後求償と同一の経済的給付を目的とし、事後求償権の不履行への不安を除去し、事後求償権の履行をあらかじめ保全する機能を有するものであるから、保証債務が存在し、その履行により保全されるべき事後求償権の発生が見込まれる場合に、事前求償権の消滅を認めることは相当ではない。⋮⋮したがって、

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    同志社法学 六八巻五号五〇九一九七九 委託に係る事務である保証債務が存在し、その債務の履行により事後求償権の発生が予定されている限り、履行前の請求あるいは事後求償権の保全が許されなくなる理由はないというべきであるから、受託保証人の事前求償権は、受託事務である保証債務の履行責任が存在する限り、これと別個に消滅することはない(その消滅時効が進行を開始することもない)と解すべきである⋮⋮(最高裁判所昭和六〇年二月一二日第三小法廷判決・民集三九巻一号八九頁は、事前求償権と事後求償権とを別個の請求権であるとするものであって、上記判断はこれと抵触するものではない)﹂と判示し、別個説を前提に、保証債務が存在する限り、事前求償権が独自に時効消滅をすることはないとした。

  かつて、民法四六〇条二号において、主債務者の弁済期が到来したときに事前求償権の行使ができるのは、弁済期到来後も債権者が請求しない場合、放置すれば債務者が無資力になる危険があるが、債権者は保証人があるために安心して、あるいは利息を稼ぐために長期間請求しないという場合において、保証人の利益を保護するため、免責行為前の求償権の行使を認めたと説明されてきた ₂₅

。これを前提に、保証人が債権者から請求を受ける可能性がある以上、免責行為後の求償権を確保する必要があり、事前求償権はそのために存在するのであるから、保証債務が存在する以上、事前求償権が独立して時効消滅することはないとする東京高判平成一九年の判断は正当であるといえるとの評価がなされている ₂₆

  事前求償権の消滅時効に関する学説も、同一説をとるか、別個説をとるかで、見解に相違がみられるが、同一説をとる場合、免責行為前に事前求償権が消滅する可能性があるため、それによって事後求償権の行使が難しくなるのではないかとの批判が別個説からなされている ₂₇

。別個説においては、事前求償権の独自性・異別性を認め、事前求償権の成立時から消滅時効が起算されるとする説 ₂₈

や、事前求償権を﹁権利的地位﹂と解して保証債務から独立して単独で時効消滅することを否定する見解 ₂₉

等があるとされる。

(17)

    同志社法学 六八巻五号五一〇一九八〇

  以上が、事前求償権の法的性質と事後求償権との関係をめぐる議論状況であった。

三  仮差押えにより生じる時効中断効の範囲

1   仮 差 押 え と 時 効 中 断 効 の 範 囲

  本件は事前求償権を被保全債権とする仮差押えがなされた事案であるが、仮差押えは、民法一四七条二号所定の時効中断事由とされる。仮差押えの手続は、債権者が被保全債権と保全の必要性を明らかにして仮差押命令の申立て(民保一三条一項)をすることにより、仮差押命令を発する手続の段階へと進み、その後、この仮差押命令を執行する手続の段階へ移る ₃₀

。このように、仮差押えが二段階の手続を経るとなると、仮差押えによる時効中断効がいつの時点で生じるのか(仮差押命令の申立ての時点か、仮差押命令の執行としての仮差押えの登記の時点か)という点も問題となりうるところであるが ₃₁

、従来、この点についてはあまり議論されず、仮差押えの時効中断効に関しては、もっぱら、仮差押えの時効中断効の終了時期(仮差押えにより生じた時効中断効がいつまで継続するか)、つまり、仮差押えにより生じる時効中断効の範囲が問題とされてきた ₃₂

。仮差押え後、債権者には、本案訴訟を提起し、そこで勝訴した場合、それを債務名義とする強制執行の申立てをし、配当へと進む流れが用意されているが、実際には、本案訴訟を提起せず、紛争が解決しないまま仮差押えの登記だけが存在し、長期間経過していることが少なくなかったからである。

  この点について、大別すると三つの見解がある。第一は、仮差押えによる執行保全の効力が存続する間(仮差押えの登記がある間)は継続するとする継続説である ₃₃

。第二は、仮差押えの執行行為の終了時(仮差押えの登記︹と仮差押命令の債務者への通知到達︺時)が新たな起算点になるとする非継続説である ₃₄

。この説では、執行行為終了時から新たに

(18)

    同志社法学 六八巻五号五一一一九八一 時効が進行を始めるので(民一五七条一項)、別個の中断事由がない限り、仮差押えの登記があっても時効が完成することになる。第三は、仮差押えの執行行為終了後も継続するが、本案の勝訴判決が確定すればそれに吸収され、新たに一〇年の消滅時効が進行する(民一五七条二項、一七四条の二第一項)とする吸収説である ₃₅

。学説では、継続説が通説とされているが、非継続説も有力に唱えられているようである ₃₆

  この点について、本件の第一審と原審においても引用された最二小判昭和五九年三月九日判例時報一一一四号四二頁は、﹁仮差押えによる時効中断の効力は、仮差押えの執行保全の効力が存続する間は継続する﹂と述べ、継続説を採用した ₃₇

。しかし、東京地判平成四年一〇月二八日判例時報一四四一号七九頁以降、非継続説を採用する下級審判決が現れたため、継続説をとるものと対立していた ₃₈

。最高裁は、最三小判平成六年六月二一日民集四八巻四号一一〇一頁において、継続説を前提とする判断を示したものの、下級審レベルでは、非継続説に立つもの、吸収説に立つもの、継続説に立つものが混在することとなり、最高裁の判断がまたれていた ₃₉

  このような状況の下、本件の原審において引用された最三小判平成一〇年一一月二四日民集五二巻八号一七三七頁(以下﹁平成一〇年判決﹂という。)が言い渡された。平成一〇年判決は、﹁仮差押えによる時効中断の効力は、仮差押えの執行保全の効力が存続する間は継続すると解するのが相当である⋮⋮けだし、民法一四七条が仮差押えを時効中断事由としているのは、それにより債権者が、権利の行使をしたといえるからであるところ、仮差押えの執行保全の効力が存続する間は仮差押債権者による権利の行使が継続するものと解すべきだからであり、このように解したとしても、債務者は、本案の起訴命令や事情変更による仮差押命令の取消しを求めることができるのであって、債務者にとって酷な結果になるともいえない﹂と判示し、継続説を採用すること確認した。また、同時に、平成一〇年判決は吸収説をとらないことも明言した ₄₀

(19)

    同志社法学 六八巻五号五一二一九八二

  継続説を採用した平成一〇年判決に対しては、永続的な時効中断事由は権利の永久性を認めることになり時効制度と相容れないこと、仮差押えの登記をしたまま債権者が本案訴訟を提起しない場合には起訴命令(提訴命令)による解決が予定されているが、仮差押えの執行保全効に対する債務者の対抗手段として債務者に自らに対する訴えの提起を促す申立てをさせることには実効性がないこと等が非継続説から批判されてい ₄₁

₄₂

四  本判決とその検討

1   本 判 決 と そ の 検 討

  以上の議論状況を踏まえ、本判決について検討する。本判決は、事前求償権を被保全債権とする仮差押えが事後求償権の消滅時効をも中断する効力を有するか否かについて、最高裁が初めて判断を示したものであり、理論的にも実務的にも、重要な意義を有するものと考えられる。

⑴  事前求償権と事後求償権の関係   本件の争点との関係では、特に、事前求償権と事後求償権の関係をめぐる議論が重要となることは前述したところである。なぜなら、両求償権の関係いかんによって結論に差異が生じうるからである。同一説に立つ場合、事前求償権を被保全債権とする仮差押えは、すなわち事後求償権のための仮差押えでもあるから、事後求償権の消滅時効を当然に中断するとの説明がしやすくなるのに対し、別個説に立つ場合、事前求償権を被保全債権とする仮差押えとは別に、事後求償権についても時効中断措置をとらなければ事後求償権にかかる時効は中断されないことになるはずである。仮に、

(20)

    同志社法学 六八巻五号五一三一九八三 別個説を前提としながら事前求償権を被保全債権とする仮差押えが事後求償権の消滅時効をも中断するという場合には、いかなる理由でそのような結果になったのかということを明らかにする必要性が出てくる。

  この点について、本判決は、事前求償権と事後求償権は別個の権利であるとする別個説を採用した昭和六〇年判決を維持しつつ、①事前求償権は事後求償権を確保するために認められた権利であるという関係にあるから、受託保証人が事前求償権を被保全債権とする仮差押えをすれば、事後求償権についても権利を行使しているものと同等のものとして評価しうること、②事前求償権と事後求償権との関係に鑑みれば、受託保証人が事前求償権を被保全債権とする仮差押えをした場合であっても免責行為後に改めて事後求償権について消滅時効の中断の措置をとらなければならないとすることは、当事者の合理的な意思ないし期待に反し相当ではないとして、事前求償権を被保全債権とする仮差押えが事後求償権の消滅時効をも中断する効力を有すると判示した。つまり、本判決は、別個説を前提としつつ、事前求償権を被保全債権とする仮差押えとは別に事後求償権についても時効中断措置をとらなければならないとする見解には立たず、①事前求償権が事後求償権を確保する関係にあることから、受託保証人が事前求償権を被保全債権とする仮差押えをすれば、事後求償権についても権利行使があったと同等と評価できること、②両求償権を別債権とすることから生じる再度の時効中断措置という不都合の回避を理由に、事前求償権を被保全債権とする仮差押えの時効中断の効力を事後求償権にも及ぼすことを認めたのである。

  これは、まさに、別個説を前提としながら事前求償権を被保全債権とする仮差押えが事後求償権の消滅時効をも中断するという場合であるため、いかなる理由でそのような結果になったのかということを明らかにする必要がある。

  この点において、本判決は、事前求償権が事後求償権を確保するために認められた権利であるという関係に依拠することで、受託保証人による事後求償権の権利行使の意思を認めて、両求償権の牽連関係を肯定した ₄₃

。もっとも、本判決

(21)

    同志社法学 六八巻五号五一四一九八四

のような判断は、時効理論において、別債権であっても、例外的に両者に一定の関連性があれば一方債権への中断措置を他方債権に及ぼすことを認める時効中断効を拡張するアプローチと類似しているようにみえる。そこで、以下では、時効中断の客観的範囲に関する従来の議論状況について概観する。

⑵  時効中断の客観的範囲   本件では、仮差押えの時効中断が問題となった事案であるが、仮差押えが時効中断事由とされる理由は、権利行使説からは権利の実現的実行行為であることにより ₄₄

、あるいは、権利確定説からはその手続を通して権利の存在が公に確認されることにより ₄₅

、正当化される。つまり、権利行使説では仮差押命令の申立ての時点、権利確定説では仮差押えの執行行為である登記の時点で時効中断が生じるとされるのである。しかし、﹁時効中断の客観的範囲﹂のうち﹁仮差押え﹂に限定して論じるものは少なく、﹁権利主張形式の時効中断﹂として﹁裁判上の請求﹂と同列に論じられることが一般的であるとされる ₄₆

  時効中断が認められる根拠について、学説では、権利行使説(実体法説) ₄₇

と権利確定説(訴訟法説) ₄₈

の二つの見解が対立している。権利行使説は、訴えの提起等が権利者のもっとも確固たる権利主張の態度と認められることに基づくとする見解である。権利確定説は、訴訟物たる権利関係の存否が既判力をもって公に確定されることに基づくとする見解である。前説によると、時効中断の客観的範囲は必ずしも訴訟物に限定されず、権利者の権利行使の意思がどの範囲まで及ぶかという観点から決せられるという結論に結び付きやすく、後説によると、時効中断の客観的範囲は訴訟物に限定されるという結論に結び付きやすいといえる ₄₉

  また、判例は、大審院以来、裁判上の請求に関してではあるが、裁判上の請求の概念を訴訟物に限定せず、かなり広

(22)

    同志社法学 六八巻五号五一五一九八五 く認める傾向を示している。すなわち、判例は、裁判上の請求に関し、その権利が直接訴訟物になっていなくても、当事者が同一で訴訟物としての権利主張が当該権利の主張の一態様・一手段とみられるような牽連関係があるか、その存在が実質的に確定される結果となるようなときは、これを﹁裁判上の請求﹂に準ずるものとして、訴訟物となっていない権利についても時効中断を認めているものと解される ₅₀

  そこで、まず、二つの権利が同一当事者間に帰属することに着目すると、例えば、債務の支払のために手形が授受された当事者間において債権者のする手形金請求の訴えの提起は、原因債権の消滅時効を中断する効力を有すると判示した最一小判昭和六二年一〇月一六日民集四一巻七号一四九七頁(以下﹁昭和六二年判決﹂という。)がある。昭和六二年判決は、その理由を次のように示した。﹁手形債権は、原因債権と法律上別個の債権であっても、経済的には、同一の給付を目的とし、原因債権の支払の手段として機能しこれと併存するものにすぎず、﹂原因債権の時効消滅は、手形金請求の訴えにおいて人的抗弁になるが、﹁右訴えの提起後も原因債権の消滅時効が進行しこれが完成するものとすれば、債権者としては、原因債権の支払手段としての手形債権の履行請求をしていながら⋮⋮更に原因債権についても訴えを提起するなどして別途に時効中断の措置を講ずることを余儀なくされるため、債権者の通常の期待に著しく反する結果とな﹂るからである ₅₁

。つまり、手形債権と原因債権の経済目的の同一性、手形債権の支払手段的機能、債権者の通常の期待から中断を認めないと不合理な結果となり、手形制度の意義も損なうことを理由に、手形金請求の訴えの提起に、原因債権の消滅時効を中断する効力を認めたのである。これらの点をみると、本判決と共通する面があると思われる。

  また、当事者の同一性という視点に加えて、二つの権利が保証人の弁済後に生じる求償権を確保する目的とすることに着目すると、事前求償権と事後求償権の関係は、むしろ原債権と求償権の関係にも類似すると思われる。最一小判平

(23)

    同志社法学 六八巻五号五一六一九八六

成七年三月二三日民集四九巻三号九八四頁は、債権者が主たる債務者の破産手続において債権全額の届出をし、保証人が、債権調査期日終了後に債権全額を弁済した上、破産裁判所に債権の届出をした者の地位を承継した旨の届出名義の変更の届出をしたときは、保証人が取得した求償権の消滅時効は、届出名義の変更の時から破産手続の終了に至るまで中断すると判示した。その理由は、原債権と求償権が別個の権利であり、かつ、原債権は求償権を確保することを目的とする﹁附従的な権利﹂であることを根拠に、﹁いわば求償権の担保﹂である届出債権(原債権)の届出名義変更申出は、﹁求償権の満足を得ようとしてする届出債権の行使であって、求償権について、時効中断効の肯認の基礎とされる権利の行使があったものと評価するのに何らの妨げもない﹂ことに求められた。

  したがって、本判決は、時効中断効を拡張するアプローチを前提として、時効中断の客観的範囲の従来の枠組みのなかに、両求償権の牽連性を位置づけることで、本来は別債権である事後求償権に対して、事前求償権にかかる時効中断効を拡張的に及ぼすことの妥当性を導いているとみることができると思われる ₅₂

⑶  仮差押えの効力拡張論との関係   その一方で、本判決について、理論的には、仮差押えの効力の客観的範囲を拡張するアプローチを用いる可能性もあったとされる。なぜなら、従来、仮差押えの効力においても、仮差押命令の申立てにより保全される債権の範囲に関して、被保全債権に限定されるのか、それ以外にも拡張されるのか(たとえば、請求の基礎を同一とする権利までも中断するのか)という客観的範囲に関する議論があったからである ₅₃

。実際、本件の原審は、理由づけの一つとして、仮差押命令が当該命令に表示された被保全債権と異なる債権についても、これが上記被保全債権と﹁請求の基礎を同一﹂にするものであれば、その実現を保全する効力を有するとした最一小判平成二四年二月二三日判例時報二一四八号六五頁(以

(24)

    同志社法学 六八巻五号五一七一九八七 下﹁平成二四年判決﹂という。)を引用し、事前求償権と事後求償権は請求の基礎を同一とする権利であるから、事前求償権になされた仮差押えの効力は、事後求償権にも及ぶと解することができるとした。しかし、本判決は、理由づけにおいて、平成二四年判決を引用しなかった。その理由について、本判決の調査官解説は、平成二四年判決は、かなり特殊な事例について請求の基礎の同一性の有無が判断されたものであって、本件とは事案を異にするからと説明するが ₅₄

、そもそも事前求償権と事後求償権とは﹁請求の基礎を同一﹂にするか否かには疑問もあり ₅₅

、その点に触れることがなかった本判決は妥当であろう。

⑷  判決の射程   本判決の射程は、事前求償権を被保全債権とする仮差押えによる、事後求償権の消滅時効の中断が問題となる場合において、一般に広く妥当するものと解される。他方、請求、承諾等による時効中断の場合には、本件の射程は及ぶものではないと解される。また、本判決では両求償権の発生時期の間隔が短いので問題とはならないが、仮差押えの時点での事前求償権の額がその後に発生する事後求償権の額を下回る場合における事後求償権の中断の範囲は、一部請求の趣旨が明示されていない場合に同一性のある債権全額の時効中断を認める判例 ₅₆

と同様に考えてよいとすれば、事後求償権全部に及ぶことになるだろう ₅₇

⑸  残された問題   基本的に、本判決の理由および結論に賛成することができる。   また、本判決は、権利行使説・権利確定説のいずれでも説明できるが、前者の趣が強いとされる一方で ₅₈

、本判決の結

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