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委託を受けた保証人の求償権の消滅時効の起算点

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(1)

委託を受けた保証人の求償権の消滅時効の起算点(高橋)

委託を受けた保証人が弁済その他免責行為をしたこと

により主たる債務者に対して取得する事後求償権の消滅時効

は︑その免責行為のあった時から進行し︑このことは︑右保証

人が主たる債務者に対して事前求償権を取得した場合でも異な

るものではない︒

︹事

実︺

Y l

を主債務者︑訴外A銀行を債権者︑

t

を連帯保証人

とする関係において︑

Y l

とX信用保証協会との間で保証委託芙

約が締結された︒ ︹ 要 旨

y l は昭和五一年六月一五日︑右債務の支払を遅滞︑同七月三

日には手形交換所の取引停止処分を受けた結果︑Aに対する残

債務全額について期限の利益を喪失した︵これにより︑民法四

0

条二号︑当該保証委託契約の趣旨から︑保証人に事前求償

権が生ずる︶︒その後︑昭和五二年二月一八日︑Xが代位弁済を

行い︑昭和五七年二月一五日︑

Y l . y z

に対して求償債権等の支

払を請求して本訴を提起した︒

y l . y

z はこれに対し︑

Xの求償権は時効消滅していると主張

最高裁昭和六

0

年二月︱二日第三小法廷判決︵昭和五九年

第八八五号・求償債権等請求事件︶民集三九巻一号八九頁

︵ オ ︶

~

委 託 を 受 け た 保 証 人 の 求 償 権 の 消 滅 時 効 の 起 算 点

6 ‑3‑459 (香法'86)

(2)

効消滅の主張等は︑いずれもYら独自の見解というべく︑

とう

らか

であ

る︒

Y

らの主たる債務の時効消滅の主張︑求償権の時

翌日から起算すべきものであり︑本件訴え提起当時︵昭和五七 したが︑第一審では︑Xは代位弁済を理由とする事後求償権に

基づく請求をしているのだから︑消滅時効も代位弁済日から進 行するものであり︑右求償権は時効消滅していないとして

Xの

請求を認容した︵その際︑﹁事前求償権を行使しうる時点から求

償権の消滅時効が進行すると解するときは︑保証人は時効中断

のため代位弁済以前の求償権行使を強いられる結果となる﹂と

述べ

る︶

oy l.

\控

訴︒

﹁本件についての当裁判所の事実認定及び法律上

︹原

審判

決︺

の判断は︑いずれも原判決の理由に記載のとおりであるからこ

れを引用する︒

付言

する

に︑

年二月一五日︶ Xは︑本訴において︑Xが

Y l を

主債

務者

\を

連帯保証人として締結した保証委託契約の履行として︑保証人

の立場において︑主債務者らであるYらに代って弁済したこと

を理由として求償権に基づき請求をしているものであるから商

法五︱︱二条による商事消滅時効にかかると解すべきである︵昭

和四二年一

0

月六日最高裁判決参照︶が︑右の消滅時効は代位 弁済をなした日である昭和五一1年二月一八日から進行し︑

その 五年の商事消滅時効は完成していないことは明

よって原判決は相当であって︑本件控訴は理由がないからこ

れを棄却す﹂る︒

︹上

告理

由︺

民法四六

0

条にいう求償権とは︑ る ︒

行為後の求償権を︑

権は

︹判

旨︺

四五九条に規定された免責

一定の場合には代位弁済がなくとも事前に

その後保証人の代位弁済があったとしても︑何らその性

質を変ずることなく︑時効消滅まで存続する︒消滅時効は︑権 利を行使しうる時︑すなわち右求償権が成立した時を起算点と

して進行するものであり︑従って本件では︑本訴提起前の昭和

五六年七月三日に消滅時効が完成している︒

﹁主たる債務者から委託を受けて保証をした保証人︵以下︑﹁委

託を受けた保証人﹂という︒︶が︑弁済その他自己の出捐をもっ

て主たる債務を消滅させるべき行為︵以下﹁免責行為﹂という︒︶

をしたことにより︑民法四五九条1項後段の規定に基づき主た

る債務者に対して取得する求償権︵以下﹁事後求償権﹂という︒︶ る ︒

上告

棄却

従って.旦﹁予メ﹂成立を認められ︑行使を認められた求償 行使することを認めるものであって︑本質上同一の請求権であ

原審は民法四五九条︑ てい採用の限りではない︒

四六

0

条の解釈を誤ってい

一 四

6 ‑ 3‑460 (香法'86)

(3)

委託を受けた保証人の求償権の消滅時効の起算点(高橋)

はじめに

︹ 批

評 ︺

用することができない︒﹂ 責行為をした時から進行するものと解すべきであり︑このこと るものであるから︑ は︑免責行為をしたときに発生し︑かつ︑その行使が可能とな

その消滅時効は︑委託を受けた保証人が免 は︑委託を受けた保証人が︑同項前段所定の事由︑若しくは同

法四六

0

条各号所定の事由︑又は︑下たる債務者との合意により

定めた事由が発生したことに基づき︑主たる債務者に対して免

責行為前に求償をしうる権利︵以下﹁事前求償権﹂という︒︶を

取得したときであっても異なるものではない︒けだし︑事前求 償権は事後求償権とその発生要件を異にするものであることは

前示のところから明らかであるうえ︑事前求償権については︑

事後求償権については認められない抗弁が付着し︑また︑消滅

原因が規定されている︵同法四六一条参照︶ことに照らすと︑

両者は別個の権利であり︑その法的性質も異なるものというべ きであり︑したがって︑委託を受けた保証人が︑事前求償権を 取得しこれを行使することができたからといって︑事後求償権 を取得しこれを行使しうることとなるとはいえないからであ

る︒右と同旨の原審の判断は︑正当というべきである︒論旨は︑

右と異なる見解に基づいて原判決を論難するものであって︑採

一 五

消滅させる以前に債務者に対して求償を為しうる場合を定めて

項︑四六

0

条︶︒この事前求償権の性質及び事

後求償権との関係については︑従来あまり詳しく検討されてい

ない

本判決は︑委託を受けた保証人の求償権の消滅時効の起算点 ︒ について判断する前提として︑事前・事後求償権が別個の権利 であるとの判断を明らかにしたものである︒この指摘は受託保 証人の求償権の構造を解明するために一般的な意義を持つ︵特 に事前求償権を自働債権とする相殺の効力に関連してこの点の

議論が為される︶︒従って本稿では︑事前求償権の性格・制度趣

旨及び事後求償権との関係を検討した上で本判決の評価を行う

こと

とす

る︒

なお︑以下においては﹁事前求償権﹂の語と﹁求償権の事前 行使﹂の語を同義のものとして︵すなわち用語自体は求償権の

同一性についての判断を含まぬものとして︶扱う︒

ニ 事 前 求 償 権 の 性 格 及 び 制 度 趣 旨

H

保証人の求償権は︑委託を受けた場合には委任事務処理

の費用の︵六五

0

条参照︶︑委託を受けない場合には事務管理の

費用の

︵ 七

0

二条参照︶償還請求権を基礎としつつ︑その範囲

について特別の規定が設けられたものと解されている︵我妻栄 いる︵四五九条

民法は︑委託を受けた保証人が︑自己の出捐によって債務を

6‑3‑461 (香法'86)

(4)

して︑債権者に弁済すべき裁判の言渡を受けたとき ﹁新訂債権総論︵民法講義

I V )

﹂四八八頁︶︒また委託を受けた保

証人の事前求償権は︑受任者の費用前払請求権︵六四九条参照︶

を基礎とするものと解されている︵我妻・前掲四九一頁︶︒保証

委託契約も委任契約であるから︑民法六四九条によれば︑委託

を受けた保証人は主たる債務者に免責行為に必要な費用を予め

請求しうることになるが︑それは信用を与えるという保証の趣

旨に合致せず︑当事者の意思に反するため︑民法は特別の場合

︵石坂音四郎﹁日

本民法第一二編債権総論﹂中巻︱

1 0

六頁︑川名兼四郎﹁債権法

要論﹂四︱︱頁︶︒そして更に︑事前求償権は実質的には﹁委任

事務処理費用の前払を以ては説明されない或る要素﹂を含んで

おり︑﹁一言にしていうならば︑求償権の事前行使は保証人が自

己の損害を防止するため主たる債務関係ヘ一種の介入権を行使

するものであると考えられる﹂とする見解もある

, 1,  

︱ ︱  

,'~,

認められるものとすれば︑これが認められる場合︑

︵水

田耕

一・

右に見るように︑求償権の事前行使が特別の場合にのみ

民法四五九条一項︑ それぞれい

四六

0

条において︑求償権を事前行使し

うる四つの場合が規定されている︒第一に︑保証人が過失なく

︵四

五九

債務の弁済期が不確定であって︑かつその最長期をも確定でき かなる理由によるものかが問題となる︒ 金融法務事情一三八号三二四頁︶︒ にのみこれを認めたものであると説明される

一 項

である︒これは︑保証人が弁済等債務を消滅させる行為

をしていなくても︑弁済を為すべき裁判の言渡を受けた場合に

は債権者に対し直ちに執行を受くべき債務を負担するものであ

郎﹁民法要義﹂巻之三債権編︵復刻版︶ るから︑債務者に対する求償権を認めたものとされる︵梅謙次

一八一頁︶︒第二に︑主

たる債務者が破産の宣告を受け︑かつ債権者がその財団の配当

に加入しないとき︵四六

0

条一号︶である︒これは︑債権者が

破産財団に配当加入すれば︑債権額に応じて一定の額を財団か

ら受け︑保証人の債務もその額だけ消滅するが︑債権者が債務

者の破産を知らず︑あるいは専ら保証人の資力を当てにして配

が弁済期にあるとき︵同一一号︶ したものである(梅•前掲一八三頁ー'-八五頁)。第三に、債務 場合に保証人が予め求償権を行うため破産財団に加入しうると うにも破産手続が終了している場合が稀ではない︒従ってこの 当に加入しない場合には︑保証人は弁済後主債務者に求償しよ

である︒これは︑弁済期到来後

も債権者が請求しない場合︑放置すれば債務者が無資力になる

危険があるが︑債権者は保証人があるため安心して︑あるいは

利息を稼ぐために長期間請求しないという場合がある︒これに

対して保証人の利益を保護するため︑免責行為前の求償権行使を認めたものである(梅•前掲一八五頁ー一八六頁)。第四に、

一 六

6 ‑ 3 ‑462 (香法'86)

(5)

委託を受けた保証人の求{賞権の消滅時効の起算点(高橋)

――一三頁、勝本正晃「債権総論」中巻之一•四七九頁)、また

事前求償権と事後求償権の同一性の有無に関連して﹁両権利が 別個のもので同性質でないというのであれば︑なぜ民法四五九 条一項前段の場合を同法四六

0

条各号の︱つに加えなかったの

であろうか﹂︵石井頃司﹁事前求償権と事後求償権とは別個の権

利か﹂金融法務事情︱︱︱二号五頁︶との疑問も出されている が故に︑その理由の検討が必要であると思われる︒

事前求償権の制度はフランス民法二

0

三二条を継受したもの とされる︒同条においては︑前述の第一ないし第四の場合を含

めて五つの場合に︑保証人は﹁償還又ハ釈放ヲ得可キ為メ本人 は一箇所で規定さるべきであるとの指摘も為され

(石坂•前掲

委任ヲ受ケテ義務ヲ負担シタル保証人ハ弁済ヲ為 ︵ 略 ︶

ル為メ訴ヲ為スコトヲモ得

一 七

シムルコトヲ得又此委任ノ場合二於テ保証人ハ其分限ヲ以 第 為メ之二対シテ担保訴権ヲ有ス但左ノ区別二従フ

一 項

四六

0

条の二箇所に分けて規定されている︒立法論的に

二義務ヲ免カレシメタル保証人ハ債務者ヨリ賠償ヲ受クル 口ところで︑右四つの求償権事前行使の要件は︑

四五九条 ある(梅•前掲1八七頁)。

思に

反し

︑ また不確定な債務が長期間存在するのは好ましくな

ない場合において︑保証芙約の後卜年を経過したとき︵同こ号︶

である︒その趣旨は︑保証の多くは好意に出たものであって︑

幾十年もその義務を免れないものとするのは或いは当事者の意

い故に︑﹁保証契約ノ後卜年ヲ経過スルモ猶ホ弁済期二至ラサル

トキハ保証人ハ其義務ヲ免レ又ハ其損失ヲ被ムラサルヘキ担保 ヲ求ムルコトヲ得ルモノトシタルハ極メテ穏当﹂とするもので

った

主タル債務ヲ弁済シ其他自己ノ出捐ヲ以テ債務者

ニ対シテ訴訟ヲ為スコトヲ得可シ﹂と定められていた︒これに

対し

オーストリア民法︑スイス債務法︑

ドイツ民法第二草案 においては︑保証人はあるいは保証債務からの解放を︑あるい は債務者に対して担保供与を請求しうるのみであって︑保証人 が弁済前に債務者に対して償還請求することを認めてはいない

︵史料債権総則︵t五九︶民商法雑誌八八巻六号八七九頁︶︒

この問題について︑

第三

0

第三四条

旧民法債権担保編は次のような規定を行 保証人力債務者ノ委任ヲ受ケテ義務ヲ負担シタルト

キハ其債務者二義務ヲ免カレシメ又ハ債務者ノ名ニテ弁済 シタル元利︑其担当シタル費用︑立替ヲ為シタル時ヨリ其 利息其他損害アルトキハ其賠償ノ金額ヲ債務者ヨリ償還セ テ言渡ヲ受ケタルトキハ債務者二対シ直チニ其賠償ヲ受ク

ス前又訴追ヲ受クル前ニテモ債務者ヨリ予メ賠償ヲ受クル

6‑3‑463 (香法'86)

(6)

前行使を許す四つの場合は︑旧民法段階で︑その効果が異なる

ため別の条文に規定されたものと考えられる︒ えられたものと推測しうる︒いずれにせよ︑現行法が求償権事

為メ又ハ未定ノ損失ヲ担保セシムル為メ左ノ三箇ノ場合ニ 於テ之二対シ訴ヲ為スコトヲ得 第 一 ︱

‑ 0

条第一が現行法四五九条一項︑第三四条が四六

0

条に

継承されたが︑注目すべきは︑旧民法において前者の場合︑効 後者の場合は﹁債務者ヨリ予メ賠償ヲ受クル為メ又ハ未定ノ損

失ヲ担保セシムル為メ﹂訴を為しうるとされていることである︒

すなわち後者の場合︑

果として付与されている︒このことから︑保証人が弁済すべく 判決を受けた場合には︑保証人が弁済を為すこと及びその金額 が明らかであるから︑現実に弁済した場合と同じく単純に求償

を認めて良いが︑それらが必ずしも確定していない場合には︑

債務者に担保を供与させることがむしろ適切な場合があると考

あって﹁其保証人ハ主タル債務者二対シテ求償権ヲ有ス﹂と規 定され︑原案四六三条は︑現四六

0

条が﹁予メ求償権ヲ行フコ

とされている点を除いては同文である︒旧民法三四条に規定さ れていた債務者に対する担保供与の請求は︑担保を供与せしめ る場合は類似の場合がほかにもありうるのであるから︑次条に

合併した方が穏やかであろうとして削られたものである︵﹁法典

調査会議事速記録・三﹂︵商事法務研究会復刻版︶四八

0

頁︑前

掲史料債権総則(‑︱九︶八八一頁︶︒このようにして︑効果は再

び同一となり︑原案四六三条の文言も︑整理会段階までに﹁求 ぃー前掲史料債権総則︵二九︶八八五頁︶︒しかし条文の位置

は︑旧民法の体裁通り分かれたままとされたものと思われる︒

かくして立法の経過からは︑求償権の事前行使は弁済後

もっ

とも

︑ のではない︒法技術的には︑弁済後の求償を確保するため︑同

一の委任事務処理費用請求権ないし求償権が︑原則としては弁

済後にはじめて行使されうるものであるが︑特別の場合には︑ このことは直ちに両求償権の同一性を否定するも ことがうかがえる︒ の求償を確保するという目的で例外的に認められたものである

フランス民法にない担保供与の請求が効

償権ヲ行フ﹂と改められた︵どこで改められたかは明らかでな

果として﹁債務者ヨリ賠償ヲ受クル為メ﹂訴を為しうるとされ︑ トキ 第三満期ノ不定ナル債務力其日附ヨリ十箇年ヲ過キタル 第

二 債 務 ノ 満 期 ノ 到 リ タ ル ト キ

配当二加入セサルトキ

トヲ得﹂となっているのに対し﹁予メ賠償ヲ受クルコトヲ得﹂

第一債務者力破産シ又ハ無資カト為リ且債権者力清算ノ

現行民法の原案四六二条一項は現四五九条一項と全く同文で

一 八

6 ‑ 3‑464 (香法'86)

(7)

委託を受けた保証人の求償権の消滅時効の起算点(高橋)

構成

,' ,  9_~

, 事前求償権による相殺の可否ーー'﹁弁済による抗弁権除去﹂ って判断しなければならない︒ 権の性質においていかなる意味を有するかを検討することによ において権利の性質がどう変わるか︑また保証人の弁済が求償 存しうるからである︒右の理論構成の当否は︑弁済前と弁済後 政策的に弁済前の行使を許されるものであるとする理論構成も

現在求償権の事前行使が特に問題とされているのは︑事

前求償権を自働債権として相殺をなしうるかという点に関して

である︵秦光昭﹁求償権をめぐる諸問題﹂金融法務事情一︱︱

0

号五七頁︶︒大審院昭和一五年︱一月二六日判決︵民集一九巻

二二号二

0

八八頁︶は︑原債権の譲受人の支払請求に対し︑被

告が次のように主張した事件である︒すなわち︑被告はかねて

より原債権者の酒造税納付債務について連帯保証をしていたと

ころ︑本件債権譲渡通知以前に右酒造税納付債務の期限が到来

した︵被告は︑本件債権譲渡通知後この一部を弁済した︶︒従っ

て民法四六

0

条二号により︑被告は右期限到来と同時に原債権 者に対して求償権を取得したから︑これを自働債権とする相殺

を対抗する︑と︒これに対して大審院は︑抗弁権の付着した債

権を自働債権とする相殺を許さないことは当院の判例であると

した上︑保証人の有する事前求償権に対しては︑主たる債務者 判例上定着しているものと思われる︶︒

一 九

は民法四六一条によって保証人に担保を供せしめる権利を有

し︑担保の供与あるまでは求償に応ずることを拒絶しうるので

あるが故に︑右求償権は主たる債務者の抗弁権が付着するもの

である︒これによる相殺を許すならば相手方の抗弁権行使の機

会を奪うことになるため︑これを以ては相殺しえないとして︑

相殺の効力を認めなかった︵大阪高裁昭和四三年︱一月二五日

判決︵判時五六一号五七頁︶︑東京高裁昭和四四年︱一月︱一日

判決︵高民二二巻六号七六

0

頁︶︑最高裁昭和五八年︱二月一九

日判決︵裁判集一四

0

号六六三頁︶も同旨︒この点については

この判決は﹁抗弁権の付着した債権を自働債権として相殺す

ることはできない﹂という法理の一適用として︑事前求償権に

は民法四六一条の抗弁権が付着しているため︑これを自働債権

として相殺することはできないという命題を立てたものである

︵債権譲渡の後に弁済が行われた点については直接問題とはさ

れて

いな

い︶

︒ 口事前求償権による相殺が許されない理由が︑民法四六 条の抗弁権が付着していることにあるならば︑右抗弁権が消滅

したときには相殺が許されることになる︒我妻博士は︑抗弁権

の付着した債権による相殺につき︑一般論として相殺の合理的

期待が保護されるべきであるという立場︵我妻・前掲三三二頁︶

6 ‑ 3 ‑465 (香法'86)

(8)

から︑前掲昭和一五年大審院判決に反対して﹁受慟債権の弁済 期までに抗弁権がなくなれば︑なお相殺をもって対抗しうるこ とになる﹂︵同三四

0

頁︶と述べた上︑予め求償する権利を以て

相殺することはできないが︑﹁保証人が︑自分の債務の弁済期前

に︑現実に保証債務を履行すれば︑

それまでの間に保証人に対 する主たる債務者の債権が差し押さえられまたは譲渡されて も︑保証人は︑なお相殺することができると解すべき﹂である

︵同

四九

三頁

︶︒

また京都地裁昭和五二年六月一五日判決︵判時八七七号八三 頁︶は次のように述べる︒すなわち︑民法四六

0

条二号の事前

求償

権に

は︑

四六一条により主たる債務者の抗弁権が付着して

いる︒従って事前求償権を自働債権として相殺することはでき

ない︒しかし民法五︱一条の趣旨からすれば︑第三債務者はそ の債権が差押後に取得されたものでない限り︑差押当時に自働 債権に抗弁権が付着していたとしても︑その後︑相殺適状に達 したときには︑差押後においてもこれを自働債権として相殺し うると解すべきである︒そして前記事前求償権は︑保証人が債 務を弁済することによって抗弁権がなくなり︑現実の求償権と なったものである︒これによって右事前求償権は相殺適状とな

︵大阪高裁昭和五九り︑これを自働債権として相殺できる︑と

年 一

0

月三一日判決︵判時︱︱四四号九五頁︶もこれを前提と

とする

する

模様

︶︒

る相殺は︑事前求償権は弁済によって抗弁権が除去され︑同一

性を保ちつつ存続するという構成によって認められることにな る︒しかし︑弁済が為されることによって求償権を自働債権と する相殺が可能となるとしても︑それが求償権の事前行使に対 する抗弁権が除去されたためであると解することには疑問があ すなわち事前求償権に対する抗弁権の意味が問題である︒四

六一条は事前求償の場合において﹁債権者力全部ノ弁済ヲ受ケ 求償権の事前行使に対するものである︒ところが保証人が弁済

したために求償権を自由に行使しうるとするときには︑右行使

は求償権の﹁事前﹂の行使とはもはや言えない

0

頁に

よれ

ば︑

四六一条は保証人が未だ弁済をしない場合を問

題とする︶︒また四六一条一項において︑主たる債務者は事前求

償に応ずるにあたり︑保証人に対して担保の供与または﹁自己

二免責ヲ得セシムヘキ旨﹂を請求しうると定められているが︑

むな

ら︑

後者が保証人が債権者に弁済して債務者を免責すべきことを含

それは求償権の事前行使自体の否定にほかならない︒

従って︑弁済の効果は四六一条にいう求償権事前行使に対する

(梅•前掲一九

サル間ハ﹂と定めており︑従って同条の抗弁権は︑あくまでも る ︒

右のように保証人が弁済した場合︑その求償権を以てす

︱ 二

0

6 ‑ 3 ‑466 (香法'86)

(9)

委託を受けた保証人の求償権の消滅時効の起算点(高橋)

抗弁権の除去とは異なる︵ないしはそれを超える︶ものであり︑

昭和一五年大審院判決の立てた﹁事前求償権には民法四六一条

の抗弁権が付着しているため︑これを自働債権として相殺する

ことはできない﹂という命題を前提として﹁事前求償権は弁済

によって抗弁権がなくなり︑現実の求償権となる﹂という帰結

このように︑﹁抗弁権除去﹂構成は民法四六一条の解釈と

の関係において問題があるが︑更に事前求償権自体の性格につ

いても疑問がある︒前掲昭和一五年大審院判決について戒能博

士は︑結果において正当としてもその理論構成に疑問ありとし︑

保証人の予め行使する求償権は︑現実に発生した確定的な債権

というよりも︑保証人保護のために与えられた権利的地位であ

ると解すべきものとする︵戒能通孝・判例民事法昭和一五年度

︱一六事件︶︒また本判決に対するコメントの中で︑事前求償権

の発生要件︑四六一条二項の定める消滅原因から見て﹁事前求

償権の性質は︑通常の金銭債権というよりは免責行為によって

生ずる事後求償権の保全権能という性質をもっているもので

(:・⁝)︑独立に時効にかかるかにも問題があるような性質のも

この点については更に四の口で検討する︒

また︑事前求償権を金銭債権と見ても︑その役割の限界ない のである﹂とするものがある︵金融・商事判例七三五号四頁︶︒

を導くには無理がある︒

(一) 四 がある す ては︑﹁保証人が弁済をし︑その求償権が現実に発生した場合に し事後求償権との関係が問題である︒前掲京都地裁判決に対し

る︑

いわゆる事前求償権なるものは︑

と考えた方が自然であるようにも思われる﹂とする評価

︵石里ご憲・ジュリスト七二

0

号一六

0

頁︒但し﹁とも

かく債権らしきもの︵﹃権利的地位﹄︶﹂を有していたことを相殺

への期待という点で考慮して良いとし︑﹁一抹の疑念﹂を禁じ得

ないとしつつも判旨に賛成する︶︒確かに二で述べたところによ

れば︑少なくとも四六

0

条一号︑二号の場合には︑求償権の事

前行使が認められるのは︑保証においては免責行為後にはじめ

て求償を為しうるという原則に従うなら︑免責行為前には未だ

求償を為しえない故に保証人の利益を害するおそれがあるため

であった︒その趣旨からすれば︑事後求償権が発生すればもは

や事前求償権を存続させる意味はないということができる︒し

かしこれに対し︑事前求償権に担保が付されている場合等にお

いて﹁事前求償権の目的も究極的には事後求償権の満足にある

ことからすると︑代位弁済後もその目的は失われておらず︑な

お存続するものと解すべきである」とする見解もある(秦•前

掲六三頁︶︒この点についても︑四の口で検討する︒

事前求償権と事後求償権との関係ー│上念刊決に対する評価

本判決は︑弁済等の免責行為によって生じた求償権の消

︐ いわば目的を失って消滅よ ︑

6‑3‑467 (香法'86)

(10)

滅時効の起算点は右免責行為時であると判示し︑その理由とし

て︑事前求償権と事後求償権とは別個の権利であるとの判断を

示した︒これに反対して︑両求償権はあくまでも同一であると

主張する立場がある

務事情一︱︱二号四頁︑同・判例タイムズ五八三号三

0

頁 ︶ ︒

しかし︑両求償権は終局的には目的を同じくするものである

が︑発生要件・性質を異にし︑理論上これを同一権利と考える

ことには無理があることが指摘されている︵林良平・法学論叢

六七巻一号九九頁︑倉田卓次・法曹時報︱一巻八号一

0

五頁

いずれも最高裁昭和三四年六月一一五日判決︵民集一三巻六号八

1 0

頁 ︶

の評釈である︒但し後者は厳密にいえば両求償権が別

個のものであることを認めた上で︑そう解することに実益なく︑

制度の趣旨からすれば同一と解するのが便宜であるとする︶︒

更に両求償権を同一の権利と解するならば︑求償権はその事

前行使が可能となった時より消滅時効が進行するが︑保証債務 自体が︵主債務の時効中断により︶時効消滅しないうちに右求 償権が時効消滅した場合︑保証人は︑その後に保証債務を履行

しても既に求償権が時効消滅しているためこれを行使できない

という不合理が論理上生じうる︒

また両者を同一と考えた場合︑事前行使が可能となった時よ

り求償権の消滅時効が進行し︑保証人が弁済等の免責行為を行 (これを明言するのは、石井•前掲金融法

ったことは時効の進行につい℃何等の意味をも持たないことに

なる︒消滅時効は権利を行使しうる時より進行し︵民法一六六

条一項︶︑権利に抗弁権が付着していたとしても︑それが債権者

自らの手で除去しうるものであれば時効の進行を妨げるもので

︵但

し︑

保証

︵注釈民法五巻二八一頁参照︶からである

人の免責行為を民法四六一条の抗弁権除去原因とすることに疑

問があることは前述した︶︒しかし求償権の事前行使は保証の趣

旨からすれば例外的なものであり︑またこれに対しては主債務 者の側から様々の抗弁を為しえ︑あるいは担保供与等により求

償を拒絶しうるのであるから︑現実の求償権の消滅時効に関す

る限り︑保証人が現実に出捐を行い︑求償額も確定した時こそ

が実質上﹁権利ヲ行使スルコトヲ得ル時﹂であるというべきで

もっとも︑両求償権を同一と考えたとしても︑弁済等の免責

行為時を消滅時効の起算点とすることができるとの見解があ

る︒第一に︑最高裁昭和五六年六月一六日判決︵民集三五巻四

号七

六三

頁︶

の﹁継続した地代不払を一括して一個の解除原因

とする賃貸借契約の解除権の消滅時効は︑最後の地代の支払期

日が経過した時から進行する﹂との判示を引用して︑求償権一

個説に立ったとしても︑事前発生した﹁︵事後︶求償権の消滅時

効の起算点を︑右の判例がその一体性のゆえに後の時点にもっ はないかと思われる︒ はない

6 ‑3‑468 (香法'86)

(11)

委託を受けた保証人の求{賞権の消滅時効の起算点(高橋)

一体性をもった求償権の場合にも︑後

の時点にもってきて︵事後︶求償権が事後前発生した時点から 進行するものと解することができる

Lとするもの︵小杉茂雄﹁本

件判批﹂民商法雑誌九三巻四号五九五頁︶︑第二に︑﹁求償権が

事前求償権のかたちをとっている場合は︑その消滅時効はそれ なりに⁝⁝進行するが︑事後求償権の姿が出現するときは︑も はや事前求償権などはこれを語る余地はない︑と言わねばなる まい﹂とするもの︵石田喜久夫﹁本件解説﹂ジュリスト昭和六

0

年度重要判例解説六

0

頁︶がある︒しかし前者が引用する判

決は︑﹁ほぽ同一事情の下において時間的に連続してされた﹂地

代支払債務の不履行を﹁一括して一個の解除原因にあたるもの﹂

としている︒これに対し︑求償権事前行使の原因と︵事後求償 権の発生原因たる︶保証人の免責行為との間には右のような連

続性・同一性はなく︑﹁一括して一個の﹂原因と見ることはでき

ない︒結局第一の見解は︑求償権は一個と前提しながらも実質 上更に事後求償権の発生を認め︑その発生時点を事前求償権の 消滅時効の起算点に反映させることによって消滅時効の起算点

を後の時点と解しているものと考えられる︒また第二の見解も︑

既に発生した求償権において﹁事後求償権の姿が出現する﹂と は理論構成上何を意味するか明らかでなく︑却って事前求償権

とは別に事後求償権が発生したことを︑求償権を一個と前提す てきていたのと同様に︑

るにもかかわらず認めているものと考えられる︒かくして︑両 求償権を同一のものと前提しながら消滅時効の起算点を保証人

の免責行為時とすることには無理があると言わざるをえない︒

以上のように︑両求償権を同一の権利と考えることは困難で

あるものと思われる︒

両求償権が別個のものであることを認めつつ︑弁済によ って事後求償権が発生しても事前求償権が消滅するものではな

いと構成する立場がある︒これは︑﹁事前求償権に担保が付され

ている場合とか︑破産手続等において事前求償権をもって債権 の届出をしているような場合には︑これらの効果の温存を図る 必要があるから︑代位弁済後も事前求償権は存続するものと解

すべきである」とするものである(秦•前掲五七頁)。これによ

れば︑差押・譲渡以前に事前求償権を取得していた場合︑免責 行為による事後求償権取得がそれ以後であっても︑事前求償権

による相殺を以て対抗できるということになる︒

本判決は︑消滅時効の問題に関連して事前求償権と事後求償 権とが別個の権利である旨を示しただけであり︑事後求償権発 生によって事前求償権が消滅するか否かについては述べていな い︒従ってこのような構成も︑直接には本判決と抵触するもの ではない︒のみならず︑事前求償権が弁済等保証人の免責行為 によって生ずる求償権の確保の方法のひとつとして認められた

(二)

~

6‑3‑469 (香法'86)

(12)

ものであることからすれば︑事後求償権の確保のために必要・

有効である限り存続すると解する方がその趣旨に合うとも考え

ただ問題は︑事前求償権をどこまで独立の債権として扱うこ

とができるかである︒まず事前求償権を保証人の地位と切り離

して単独で譲渡することは考え難い︒また事前求償権は保証人

の免責行為後の求償権確保を目的とするものであるから︑保証

人が保証債務を負い︑将来の求償に不安を感ずる場合は︑要件

を充たす限り常に利用できるものでなければならない︒従って

いうよりも︑保証人の地位に付随し︑ でないと思われる︒これらの点で︑事前求償権は独立の債権と

その利益を保護するため

の﹁権利的地位﹂であると解する理由があると思われる︒

また前掲最高裁昭和三四年六月二五日判決では根抵当権者が

事前求償権を以て配当に参加することが認められているが︑林

教授は免責行為前に配当を終えることには疑問ありとされ︑﹁わ

が民法四六一条の母法となるフランス民法二

0 1

︱︱

一条

は事

前に

訴求できる旨を規定しているが︑フランスでの確定せる学説・

判例の解釈では︑それは求償ではなく損害防止のための訴権に

すぎず︑単に主債務者に供託を求めるか︑担保提供を求めるこ

とができるにすぎないとされていることに注意せねばならな 保証債務から独立して単独で時効消滅すると考えることも適切

ではない︵事前求償権を認める立法例は必ずしも一般的ではな て保証人が取得する求償権と同一のものとして扱うことは適切 い﹂と指摘される︵林・前掲一〇一頁︶︒

このようなことから考えるならば︑事前求償権と︑免責行為

後に行使される求償権とは本質上もかなり異なるものと思われ

る︒従って︑制度の趣旨から事後求償権の確保のために事前求

償権が存続することを認めるとしても︑それは事後求償権と併

存し︑対等の資格で競合する権利というよりも︑実質的には︑

将来取得さるべき債権であった事後求償権を担保するためにと

られた法的手段の基礎として評価さるべきである

をそれだけで存続させる意味はない︶︒その場合︑実際上検討さ

法律関係が既に存在しているという場合︑

ために︑各々の法的担保手段において右の事情をどう評価する

か︑その際第三者との関係をどのように調整するかという実質

評価にかかわるものであって︑事前求償権と事後求償権の関係

為を行った場合に取得する求償権を確保するための一手段であ

る︒すなわち事後求償権が担保されればその目的を達するので

あり

その債権を保護する

以上に見たように︑事前求償権は︑保証人が将来免責行

またその性質を見るならば︑現実に出捐したことによっ を論ずるだけでは不十分であると思われる︒ るべき問題は︑将来取得さるべき債権ではあるがその原因たる

︵事

前求

償権

られ

る︒

︱二 四

6 ‑ 3‑470 (香法'86)

(13)

委託を受けた保証人の求償権の消滅時効の起算点(高橋)

く︑また林教授の指摘によれば︑これを認める規定を置くフラ

ンス民法においても︑事前求償権を文字通り認めるものとは解

また民法四六一条は事前求償権に対する主債務者の抗弁権︑

事前求償権の消滅事由を規定しており︑判例もこれを理由に事

前求償権を自働債権とする相殺の効力を否定する︒右相殺を肯

定する見解も︑保証人が保証債務を弁済した場合にこれを認め

るとするものである︒更に抵当権者が事前求償権によって配当

に参加した場合においても︑免責行為前に配当を終えることに

は疑問が提示されている︵なお事後求償権によって配当に参加

した場合︑配当金は供託される︒秦・前掲五八頁参照︶︒これら

のことから︑事前求償権も実質的には免責行為後にはじめて現

実の問題とされると解することができる︒

従って保証人が弁済等の免責行為を行った場合︑その求償権

は︑事前行使の要件の有無にかかわらず免責行為時に現実に行

使可能となるものであり︑消滅時効の起算点も免責行為時と解

すべきである︒そして事前求償権と事後求償権は︑前述の如く

その性質においてかなり異なるものであり︑実際上もこれを同

一のものと解する場合には消滅時効の規律において困難が生ず

かくして︑本判決が︑問題となっているのは弁済によって生 る ︒ さ

れて

いな

い︶

れる

じた求償権であるとして︑

︱二 五

その消滅時効の起算点は弁済時であ

るとしたこと︑これを導くため︑事前求償権と事後求償権とは

別個の権利であると判断したことはいずれも適切であると思わ

6‑3‑471 (香法'86)

参照

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