• 検索結果がありません。

九州大学大学院人間環境学研究院

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2022

シェア "九州大学大学院人間環境学研究院"

Copied!
11
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

Kyushu University Institutional Repository

高校生を対象としたグループワークにおける心理劇 的ロールプレイングの展開の在り方

水貝, 洵子

九州大学大学院人間環境学研究院

古賀, 聡

九州大学大学院人間環境学研究院

https://doi.org/10.15017/2228905

出版情報:九州大学心理学研究. 19, pp.69-78, 2018-03-22. 九州大学大学院人間環境学研究院 バージョン:

権利関係:

(2)

Kyushu University Psychological Research 2018, Vol.19, 69-78

高校生を対象としたグループワークにおける‌

心理劇的ロールプレイングの展開の在り方

水貝 洵子 

九州大学大学院人間環境学研究院‌

古賀  聡 

九州大学大学院人間環境学研究院

Considering the procedures of psychodramatic role-playing for high school student JunkoMizugai(Faculty of Human-Environment Studies, Kyushu University)

SatoshiKoga(Faculty of Human-Environment Studies, Kyushu University)

The purpose of this study was to consider the procedures of psychological dramatic role-playing for high school students. We investigated the experience of high school students who were participants. As the results, the feeling of ten- sion was reduced, the participants began to take a friendly attitude each other, and the self-understanding that was related understanding other’s mind and the awareness of self-facetedness was promoted. In order not to cause embarrassment or resistance of participants, three approaches turned out to be effective. First, we include the participants’ ordinary activi- ties in warming-up programs. Second, we provide small steps on the themes of role-playing. Third, we consider psycho- logical-distance between the role-playing theme and the participants.

Key Words: psychodramatic role-playing, group work, high school students

Ⅰ 問題と目的

高校生は,ピアグループと呼ばれる異質性の表明や異 質性の尊重を含んだ対人関係を築くようになり,そのな かで自分らしさの確立や自己理解が目標となる(保坂,

2000)。つまり,自己理解のあり方も,他者の視点を取 り入れた相対的な自己理解を展開しながらも,相対的な 自己理解を促す他者との交流の中で明らかとなった自 己の特異性を許容することも課題となるのである。一 方,日常生活においては,教師と生徒,親と子ども,先 輩と後輩といった役割や,友人同士の間でも「しっかり 者」や「ムードメーカー」といったグループ内の役割が 固定されやすく,相手の立場にたつといった多角的な視 点の柔軟的使用は難しいことが予測される。したがっ て,高校生が日常の固定化された役割から解放され,日 常では体験することがない役割の経験を得ることは彼 らの新たな気づきや柔軟な視点の獲得に繋がることが 期待される。

自己や他者に対する体験的な理解や気づきを促すうえ で,有効な方法としてロールプレイングがある。針塚

(2008)は役割を演じることは行為表現であり,行為を 通じ自らを振り返ったり他者を理解することは,言葉に よる観念的,イメージ的な向き合いではなく,現実的,

体験的な向き合いであると説明している。

しかし,高校生を対象とした実践では,ソーシャルス キルトレーニングの文脈で用いられている場合が多く

(渡辺ら,2007;宮城ら,2015),自尊感情の高まり(渡

辺ら,2007)やコミュニケーション能力の向上(宮城ら,

2015)といった一定の効果は報告されているものの,

ソーシャルスキルトレーニングでは望ましい役割の取り 方が決められており,自己や他者を捉えなおす体験には 繋がりにくいと考えられる。一方,同じロールプレイン グを用いるアプローチでも,心理劇は正しい役割の取り 方を決めるのでなく,マンネリ化した役割の取り方から 脱却し,自発性を発揮し日常とは異なる役割体験を目指 すアプローチであり,自己や他者に関する新鮮な気づき の体験や自己の可能性や多面性を理解するうえで非常に 有効といえるだろう。さらに,心理劇には「二者が自分 の立場を離れて互いに対演者の役割を演じる(重橋ら,

2006)」ロールリバーサルといった技法もあり,技法を 適宜用いることで,より効果的に自他理解が促されるこ とが期待される。台(2003)は「ロールプレイは,心理 劇場面での役割の取り方と重なり合う面を持つが,また いっそう広く使用されている用語である。したがって,

これらの練習的役割演技と区別して,とくに心理劇を基 盤にする総合的ロールプレイを心理劇的ロールプレイと 呼ぶ方が妥当であろう」と述べおり,本論においても台

(2003)の指摘を踏まえ,心理劇を基盤にロールプレイ ングを行うことを心理劇的ロールプレイングと呼ぶこと とする。

心理劇的ロールプレイングは,発達障がい児者をはじ めとする臨床場面や大学生を対象とした教育場面など 様々な場面や対象で用いられ(i.e.重橋ら,2006;滝吉 ら,2009;水内,2015),自己理解や他者理解が促進さ

(3)

れたことが報告されている。しかしながら,高校生を対 象とした実践は少なく,役割を演じるという表現方法や グループの中で自己表現を行うことから参加者の恥じら いや抵抗感を引きだす可能性が危惧され,その展開の在 り方についての議論が必要となるだろう。

そこで,本論では,筆者らが県立A高校において自 由参加型のグループワークとして自他への気づきをねら いとし心理劇的ロールプレイングを実施した試みについ て,セッションの様子およびセッション中に実施した参 加者のグループワーク体験について尋ねたアンケート結 果について報告し,高校生を対象にした心理劇的ロール プレイングの展開の在り方について考察することを目的 とする。先述のように思春期の参加者がグループワーク への参加に抵抗感を抱く可能性も考えられ,参加者のグ ループワーク体験については,グループでの受容共感的 な雰囲気の体験,参加者の緊張感の緩和,自発性の発揮 に関する評価に着目し,さらに,高校生にとって自己理 解の促進も重要な意義と考えられるため,グループワー ク体験を通じた自己への気づきの内容についても着目し 検討を行うこととする。

Ⅱ 方  法

(1)‌グループについて

県立A高校にて,養護教員よりスクールカウンセラー に「高校生のための心理学講座」開講の依頼をうけ,そ の講座において体験型の学習として心理劇的ロールプレ イングを実施した。講座は 1 回のみ実施された。

グループの案内については,A高校のスクールカウン セラーと臨床心理学を専攻する大学院生でチラシを作成 し,各クラスに掲示した。チラシには「自分らしさにつ いて考えたり周囲の人との付き合い方について迷うこと や悩むことがありませんか。心理療法のひとつに心理劇 があります。みんなで集まってからだを動かしながら自

分や周囲のひとについて一緒に考えてみませんか。」と 記述し,周囲とのコミュニケーションについてや自分自 身への振り返りを目的としていること,心理劇といった 言葉を用いセッションでは役割を演じることをあらかじ め掲示した。参加希望者は養護教諭まで申し出てもら い,自由参加とした。

セッションは放課後にA高校内の講堂にて行った。

ウォーミングアップからシェアリングまでは全部で 90 分であった。セッション終了後にアンケートの記入や個 別的な質問を受け付ける時間を設けたため,最終的に終 了するまでは 120 分ほどであった。

(2)事前アンケートの作成と実施

参加予定の高校生が,対人関係におけるどのような場 面において難しさや苦手さを感じているのかを具体的に 把握し,心理劇的ロールプレイングの内容を検討するた め,事前アンケートの作成と実施を行った。内容につい ては,A高校のスクールカウンセラーと臨床心理学を専 攻する大学院生 2 名によって高校生が苦手意識や難しさ を感じていると予想される対人場面を考え作成した。回 答は「はい」か「いいえ」の 2 件法で求めた。グループ への参加を希望した生徒に対し養護教諭によってアン ケートの配布,回収が行われた。グループに参加を希望 した生徒 14 名(女子 12 名,男子 2 名,1 年生 4 名,2 年生 3 名, 3 年生 7 名)から回答が得られた。質問項目 および回答結果はTable 1 に記載した。結果から,質問

④「人からの誘いを断る」場面に最も多くの生徒が苦手 意識を持っていることが明らかとなった。結果をもとに 心理劇的ロールプレイングで取り上げる場面の検討を 行った。

(3)プログラム作成

実施したプログラムについてTable 2 に示した。プロ グラムは心理劇の基本的な流れに則り,ロールプレイン グに向け心身の準備状況をつくる「ウォーミングアッ プ」,実際に役割を演じる「ロールプレイング」,セッ Table 1

事前アンケートの質問項目および結果

質問項目 回答結果(人)*

① 友人やクラスメイトに自分から挨拶するのが苦手 6

② 先生など,年上の人に自分から挨拶するのが苦手 4

③ 人が集まっている輪の中に,自分から入ることが苦手 8

④ 人から誘われると,断りにくい 9

⑤ 自分から友人を誘うことが苦手だ 5

⑥ 相手と違う意見を伝えることが出来る(逆転項目) 3 **

⑦ 自分の思っていることに関係なく,相手に合わせてしまう 4

* 14 人中,「はい」と回答した人数を記載した

** 質問項目⑥に関しては,逆転項目のため「いいえ」と回答した人数を記載した

(4)

水貝・古賀:高校生を対象としたグループワークにおける心理劇的ロールプレイングの展開の在り方 71

ション全体に関する感想を尋ねる「シェアリング」を設 けた。ウォーミングアップでは,高校生のセッションに 対する不安感や緊張感を軽減し,グループやメンバーに 対し安心感を持ちロールプレイングに向け自発性が高ま ることをねらいとして内容の検討を行った。ロールプレ イングでは,高校生がイメージしやすく抵抗なく演じら れるようロールプレイングの導入として「買い物場面」

を設定した。次に,架空の場面ではあるもののリアルな 情動を経験することをねらいとし「友人との再会場面」

を設定した。3 つ目のロールプレイングでは,立場に よって異なる考えや感情を体験することや,普段とは異 なる役割を通し自己や他者に対する新鮮な気づきが得ら

れることをねらいとし「親子のおねだり場面」を設定し た。そして,4 つ目のロールプレイングは,高校生が友 人との葛藤状況のなかで自己表明が求められる「友だち からの誘いを断る場面」を設定した。これは事前アン ケートの結果を踏まえた場面設定であった。また,1 つ 目の「買い物場面」,3 つ目の「親子のおねだり場面」,

4 つ目の「友だちからの誘いを断る場面」では,より有 効に自他への視点の広がりを促すため,ロールリバーサ ルを用いることとした。

(4)グループワーク体験アンケートの作成と実施 セッション終了後,グループワーク体験について調査 するためグループワーク体験アンケートを実施した。ア Table 2

プログラム

(1)

導入

心理療法の一つであるロールプレイングを実際に体験してもらうこと,また参加者はお互いに初対面の人も多く,学 年差もあるが,グループワークの時間は学年関係なく楽しい時間にしていきたいことを伝えた。加えて,ロールプレ イングとはどのようなことを行うのか,実際の臨床現場では,どのような領域や対象者において行われているのか等,

簡単な説明を行った。

(2)

ウォー ミング アップ

①フリーウォーク

まずはどのようなメンバーが参加しているか知り合うために,参加者全員に自由に歩き回ってもらい,通り過ぎる人 と「会釈をする」「こんにちはと挨拶をする」「ハイタッチをする」「握手をする」などのアクションをしてもらった。

②自己紹介

ディレクターの手を叩く数の人数で集ってもらい,グループでお題をもとに自己紹介を行った。2 人組みで「好きな 季節」,3 人組で「好きな色」,4 人組で「好きな食べ物」の順で行った。時間はグループの人数に合わせ 1 分から 3 分ほどだった。

(3)

ロール プレイング

①買い物場面

フリーウォークをして作ったペアで,店員役と客役に分かれ,客役が何の店に行くか,何を買いたいかイメージアッ プしてもらい,店員役の人に何の店をして欲しいかということのみを伝えてもらった。ディレクターが手を叩いたら,

店員役の「いらっしゃいませ」というセリフから劇を始めた。その後店員役と客役をロールリバースし同じ手順でも う一度行った。劇化の時間は 1 分ほどであった。劇化後は 2 組ほどロールプレイをやってみての感想を尋ねた。

②友達との再会場面

①とはペアを変えて実施した。1 回目は 1 年ぶりに再会する設定で,2 回目は 5 年ぶりに再開する設定で行った。ディ レクターが手を叩いたら,少し離れたところからお互いに気づいて声をかけるところから劇を始めた。劇化の時間は 1 分ほどであった。劇化後は 2 組ほどロールプレイをやってみての感想を尋ねた。

③親子のおねだり場面

②とペアを変えて実施した。親役と子ども役に分かれ,親役の人は自分が父親役か母親役かを決め,子ども役に伝え た。おねだりの内容は,「お小遣いの金額を上げてほしい」にし,どのペアも共通にした。親役は子どものおねだりを なるべく断る設定で行った。ディレクターが手を叩いたら,子ども役の「ねぇねぇ,お母さん(またはお父さん)」と いうセリフから劇を始めた。その後,親役と子ども役をロールリバースし同じ手順でもう一度行った。劇化後は,ペ アで 3 分ほど感想を話してもらい,その後 5 組ほどロールプレイの感想を全体の場で尋ねた。

④友だちからの誘いを断る場面

ペアで,誘う人と誘いを断る人に分かれた。誘う内容は,共通して「日曜日の映画の誘い」とした。ディレクターが 手を叩いたら,誘う役の「ねぇねぇ,日曜日映画に行こうよ」というセリフから劇を始めた。その後,誘う役と誘い を断る役をロールリバースし同じ手順で行った。さらに,ディレクターから,同じ場面において今度は日頃とは違う 断り方をするように教示し,ロールリバーサルまで同じ手順で行った。劇化後はペアごとに 3 分ほど感想を話しもら い,その後 5 組ほどロールプレイの感想を全体の場で尋ねた。

(4)

シェアリ ングと 振り返り

ウォーミングアップからロールプレイまでのセッション全体を通した感想について参加者ひとりひとりに簡単に話し てもらった。その後,ディレクターからロールプレイについて,実際に役を演じることを通して架空の場面であって も生き生きとした感情体験があることや,そのことを通じて自分や相手について様々な視点から考えるきっかけにな ることなど臨床心理学的意義について簡潔に説明を行った。セッション終了後に,アフターアンケートへの記入を求 めた。さらに,セッション終了後もディレクターと補助自我を担ったスクールカウンセラーと大学院生はしばらくそ の場にとどまり,参加者の中で個別的に質問や感想などがあればに話せるようよう時間を設けた。

(5)

ンケートは「ウォーミングアップ体験尺度」(岡嶋,

2001)を参考に 13 項目を作成した(Table 3)。質問は「1.

いいえ」~「4.とても」までの 4 件法にて回答を求めた。

なお,質問項目⑬においては,「2.少し」~「4.とても」

にまるをつけた場合は,その内容について自由記述にて 回答を求めた。また,最後に「印象に残っている場面」

および「その他の質問・感想」という欄を設け,自由記 述を求めた。

(5)参加者

①参加生徒 参加者は 15 名であった(女子 14 名,男子 1 名,1 年生 3 名,2 年生 3 名,3 年生 9 名)。参加者に は事前アンケート実施後に参加を希望した生徒も含ま れ,また事前アンケートに回答したものの不参加の生徒 もいた。さらに,教員 3 名がグループへ参加した。

②スタッフ A高校のスクールカウンセラーと臨床心 理学を専攻する大学院生 2 名,養護教諭 3 名であった。

ウォーミングアップのプログラムは,大学院生 1 名が場 面の進行役であるディレクターとなった。ロールプレイ ング場面では,スクールカウンセラーがディレクターと なった。その他のスタッフは参加生徒と同じようにプロ グラムに参加し,補助自我としてグループの進行を援助 した。

Ⅲ 結  果

(1)‌心理劇的ロールプレインググループの様子 プログラムの導入では,学校という日常の関係性があ るなかで心理劇的ロールプレイングを行うため,ディレ クターからセッション中は全員が対等な関係であること を教示した。ウォーミングアップのフリーウォークでは,

はじめは下を向き恥ずかしそうに歩く参加者が多かった が,ディレクターから指示が出ると恥ずかしがりながら も会釈をしたり,「こんにちは」と声が出始め,次第に笑

い声も出てにぎやかな雰囲気となった。少人数グループ を作って自己紹介を行った際には,各グループで時間を 持て余すことのないよう 1 分から 3 分ほどの制限時間を 設けて実施した。テーマに沿って互いに紹介し合うだけ でなく,互いに質問し合い和やかな雰囲気となった。

「買い物場面」でのロールプレイングでは,ディレク ターは「私が手を叩いたら,店員役のひとの“いらっ しゃいませ”から場面を始めて,私が手を再び叩くまで 続けてください。買い物は最後まで買い終えても途中ま ででもかまいません」と伝えた。また,店員役と客役の 立場を入れ替えて再演し,ロールリバーサルについての 体験と解説を行った。感想では「お客の方が楽だった。

いつもやっているし自分からいかなくていい」といつも と違う役割を演じる戸惑いや,「意外にできてびっくり した」といった感想があった。

次に,「友人との再会場面」のロールプレイングでは,

1 年ぶりの再会と 5 年ぶりの再会と設定を変え 2 回演じ た。感想において,参加者は「1 年ぶりよりも 5 年ぶり の方が,本当に友だちであっているかドキドキしたけ ど,その分喜びも大きかった」と話し,時間設定の違い によって喚起される情動が異なってくることを述べた。

なお,「買い物場面」「友人との再会場面」では,劇化の 時間を 1 分程にとどめ役割を演じる時間を短くして実施 した。

「親子のおねだり場面」のロールプレイングでは,親 への要求として,ディレクターは“携帯電話を買っても らう”という要求を考えていたが,高校生から「携帯電 話はみんな持っている」という意見が出たため,高校生 の意見を取り入れ「お小遣いを上げてもらう」という要 求へ変更した。買い物場面と同様に,ディレクターは

「おねだりは成功しても途中で終わっても構いません」

と伝え,役割による体験の違いが喚起されやすいように 親役の人には「なるべくおねだりを聞かないように」と 伝えた。また,ロールリバーサルを行い,参加者が同じ 場面を異なる立場で体験できるようにした。感想では,

「(子ども役だった時)親がなかなか聞いてくれず上手く いきそうになかった」や「もう少しで上手くいきそう だった」など劇場面の展開に関する感想,また「親は やったことがないので親の役は難しかった」など役割を 演じることへの戸惑い,「親になったことないから,初 めてこんなこと考えてるのかと思った」など親への気づ きなどが述べられた。

4 つ目の「友だちからの誘いを断る場面」のロールプ レイングは,高校生から,友人に自分の趣味とは違う映 画に誘われた場合や既にほかの友だちと観た映画に誘わ れた時に,誘ってくれた友人との関係を壊さずにどう対 応するのかが難しいと語られた。そこで,友人からの映 画の誘いを断る場面を設定した。ディレクターから「断 Table 3

グループワーク体験アンケート

みんなと一緒にいるような気持になった

② うちとけられた感じがした

③ 他の人たちとの距離が近づいた気がした

④ みんなの動きについていけない気がした(逆転項目)

⑤ 自由に動けた

⑥ おだやかな気分になった

⑦ 緊張感がほぐれた気がした

⑧ わくわくした気持ちになった

新鮮な気持ちになった

⑩ 自分でいいんだという気持ちになった

⑪ これからも,参加してみたい

⑫ 役に立った

⑬ 自分について考えることが出来た

(6)

水貝・古賀:高校生を対象としたグループワークにおける心理劇的ロールプレイングの展開の在り方 73

る役の人はいつも通りのやり方でやってみましょう」と 伝え,その後「次は同じ場面を演じてもらいますが,先 ほどと違うやり方でやってみましょう」と伝えた。感想 では,「(誘いを断る役では)せっかく誘ってくれたのに,

悪いなと思って断わりにくかった」「(誘う役では)断ら れても,意外と嫌な気持ちにはならなかった」など立場 によって異なる感情が語られ,「日頃ははっきりとは断 れないタイプだが,いつもと違う感じではっきり断る と,やりにくい感じはあったが意外と出来た」などいつ もの自分自身と比較した発言が示された。

シェアリングおよび振り返りでは,参加者がひとりず つセッションに対する感想を述べた。「他の人の役割を 取れるか心配だったけど,途中から楽しくなった」や

「知らない人が多くて緊張したけどすごく仲良くなれ た」,「ロールプレイングをしたら本当にしたような感じ

や親の考えてることがわかった気がして不思議だった」

などの感想があった。

(2)‌‌‌心理劇的ロールプレイングを用いたグループワーク 体験の検討

グループワーク体験アンケートの各質問における回答

の割合をFig.1 に示した。Fig.1 の①から⑬までの番号は,

Table 3 の質問項目と対応している。なお,質問⑬につ いては無回答者 1 名を除く 14 名分の結果を記載した。

また,各質問項目における回答の生起率に差がみられ るか検討をするため,χ2検定を行った(Table 4)。なお,

分析では回答者数を考慮し,「1.いいえ」および「2.

少し」に回答した場合を低群,「3.まあまあ」および「4.

とても」に回答した場合を高群とし,2 群における人数 差 に つ い て 分 析 を 行 っ た(Table 4)。 分 析 に は 全 て SPSS.22.0 を用いた。 その結果,質問⑦「緊張感がほぐ

Table 4

グループワーク体験尺度各質問項目における回答の傾向

質問項目①(n=15)質問項目②(n=15)質問項目③(n=15)質問項目④(n=15)質問項目⑤(n=15)質問項目⑥(n=15)質問項目⑦(n=15)

高群 低群 高群 低群 高群 低群 高群 低群 高群 低群 高群 低群 高群 低群

(%)人数 4

(26.7%) 11

(73.3%) 4

(26.7%) 11

(73.3%) 4

(26.7%) 11

(73.3%) 15

(100%) 0

(0%) 5

(33.3%) 10

(66.7%) 4

(26.7%) 11

(73.3%) 3

(20.0%) 12

(80.0%)

χ2 3.27

p<.10 3.27

p<.10 3.27

p<.10 ― 1.67

n.s. 3.27

p<.10 5.40

p<.05 質問項目⑧(n=15)質問項目⑨(n=15)質問項目⑩(n=15)質問項目⑪(n=15)質問項目⑫(n=15)質問項目⑬(n=14)

高群 低群 高群 低群 高群 低群 高群 低群 高群 低群 高群 低群

(%)人数 6

(40.0%) 9

(60.0%) 3

(20.0%) 12

(80.0%) 6

(40.0%) 9

(60.0%) 4

(26.7%) 11

(73.3%) 1

(6.7%) 14

(93.3%) 5

(35.7%) 9

(64.3%)

χ2 .60

n.s. 5.40

p<.05 .60

n.s. 3.27

p<.10 11.27

p<.05 1.14

n.s.

33.3%

46.7%

46.7%

13.3%

40.0%

33.3%

26.7%

33.3%

6.7%

40.0%

53.3%

14.3%

40.0%

26.7%

26.7%

53.3%

33.3%

46.7%

33.3%

46.7%

53.3%

33.3%

40.0%

50.0%

26.7%

26.7%

26.7%

46.7%

33.3%

26.7%

20.0%

40.0%

40.0%

26.7%

6.7%

28.6%

53.3%

20.0%

7.1%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

とても まあまあ 少し いいえ (5)

(5)

(5)

(5) (5)

(6) (6)

(6) (6) (6)

) 4 ( )

6 (

(4) (4)

(4)

(4)

(4) (7)

(7) (7)

(7)

(7) (4)

(4)

(8) (8)

(8)

(8)

(5) (2)

(2) (1)

(1) (1) (5)

(7) (4)

(3)

(3)

*( )内には回答した人数を記載した

Fig.1 グループワーク体験アンケート 回答結果

(7)

れた気がした」,⑨「新鮮な気持ちになった」および⑫

「役に立った」において,回答者の回答傾向に 5%水準 で有意な差が示された(χ2=5.40, p<.05 ; χ2=5.40,p<.05

; χ2=11.27,p<.05)。質問⑦,⑨,⑫いずれにおいても,

「3.まあまあ」「4.とても」に回答した高群の人数が多 かった。また,質問①「みんなと一緒にいるような気持 ちになった」,②「うちとけられた感じがした」,③「他 の人たちとの距離が近づいた気がした」,⑥「おだやか な気分になった」および,⑪「これからも参加してみた い」においては,回答傾向に関し 10%水準で有意傾向 が 認 め ら れ た(χ2=3.27, p<1.0;χ2=3.27,p<1.0;

χ2=3.27, p<1.0;χ2=3.27, p<1.0;χ2=3.27, p<1.0)。平均 値をみると,質問①,②,③,⑥,⑪のいずれにおいて も,「3.まあまあ」「4.とても」に回答した高群の人数 が多い結果となった。なお,質問④「みんなの動きにつ いていけない気がした」については,「3.まあまあ」「4.

とても」の回答者がおらず,分析の対象から除外した。

(3)‌‌心理劇的ロールプレイングを通した自己への気づき の内容の検討

グループワーク体験アンケートの質問⑬「自分につい て考えることができた」について,「2.少し」から「4.

とても」に回答した参加者に対し,その内容を自由記述 にて回答を求め,KJ法を用い分類を行った。その結果

をTable 5 に示した。

高校生を対象に心理劇的ロールプレイングを展開した 結果,参加者である高校生が体験する自分自身に対する 気づきは,「自己の特性への気づき」「社会的自己の再認 識」「自己の多面性への気づき」に分類されることが示 唆された。

Ⅳ 考  察

(1)‌‌高校生の心理劇的ロールプレイングにおけるグルー プワーク体験について

ここでは,グループワーク体験アンケートの結果をも とに,参加者のグループワーク体験について考察した い。

メンバーとの関係性,特に共感的な関係性の体験につ いて尋ねた質問である,質問①「みんなと一緒にいるよ うな気持ちになった」,②「うちとけられた感じがした」,

③「他の人たちとの距離が近づいた気がした」をみると,

「4.とても」「3.まあまあ」に丸を付けた参加者が多い 結果となり,参加者の多くが互いに打ちとけられた感じ や一体感を体験していたものと考えられた。印象に残っ ている場面についての自由記述では,「みんなで一緒に 劇をしたこと。みんな笑顔だったこと」「初対面なのに Table 5

自己への気づきの内容の分類

カテゴリ 記述例

自己の特性 への気づき

自己肯定

もともとズバズバ言う方なのでそれで良いんだと思う

けっこう人にズバッと言えていないなと思いました。でも変えるまでもないかなぁとも思いま した。

得手不得手の 理解

自分が何が苦手なのかが分かった

「映画に誘われた時の断り方」のロールプレイングで本当ははっきり断るのは苦手だけど,2 回 目に普段の自分とは違う断り方をしたとき,とても違和感を感じたので,私ははっきり断れな いタイプなんだなと改めて実感しました。

社会的自己の 再認識

自己点検 他人に対する自分の態度は今までいいのかということ

みんなと仲良くしたい。うちとけたい。ちゃんとできているか。

他者の参照 普段誘われた時にどうやって断っていいか分かりませんでしたが,ほかの人の断り方をみて,こうやったら相手にも不快な思いをせずにすむのかが分かってよかったです。

自己の 多面性への

気づき

自己の 新しい一面の

発見

自分が思っていたほど“自分”は自分じゃなかったあと思った

ロールプレイングでセリフのない役をいろいろやる時,やる前は(絶対上手にやれない!!)っ て思っていたんですけど,いざやってみるとアドリブでその役になりきれてる自分に驚きまし た。(ああ,こういうことも出来るんだな私)って思いました。

他者の気持ち 理解

立場を変えて考えると相手のきもちが少し理解できた

ロールプレイングをしたことによって色々な立場の人の気持ちを考えることができました!

関係性による 自己の可変性

様々なロールプレイングをやっていく過程で“普段の自分ならばどうするかな”と少し客観的 に自分を考えたりしました。

仲の良い友だちなら断りやすいけど,友だちによって断りにくいこともあると思った。

1 つ 1 つのRPにおいて「本当の自分ならこうする」「○○さんの前ではこうする」と考えてい ました。

私はよく相手によって声のトーンや対応の仕方が変わるのですが,それは“自分を持っていな いのかな”と思いました。

(8)

水貝・古賀:高校生を対象としたグループワークにおける心理劇的ロールプレイングの展開の在り方 75

たった 1 時間半で友達の雰囲気に」の感想があり,先輩,

後輩など日常の関係性がある高校の場においても心理劇 的ロールプレイングを共感的な雰囲気のなかで実施可能 であることが示唆された。

参加者の自発性の発揮に関する評価を尋ねた質問は,

質問④「みんなの動きについていけない気がした(逆転 項目)」,⑤「自由に動けた」が当てはまるが,質問④「み んなの動きについていけない気がした」では「3.まあ まあ」「4.とても」と回答した参加者がおらず分析でき なかったものの,全ての参加者が「2.少し」もしくは

「1.いいえ」と回答していることが明らかとなった。そ のため,参加者は他の参加者と比較し気後れしたり出来 なさを強く感じることなく参加できていたものと推察さ れた。一方,質問⑤「自由に動けた」のように参加者が 自身の動きを積極的に評価しているかは,参加者によっ て回答が分かれる結果となった。印象に残っている場面 についての記述では,「最初のロールプレイング。いき なりすぎてびっくりしたから」や「初対面の人や先輩に 話しかけるのがドキドキした」という感想があり,役割 を演じることや初対面の人と一緒に話すことに対する不 安や戸惑いが生じ,「自由に動けた」という感覚まで至 らなかった参加者がいたことが推察された。

次に,参加者の心理劇的ロールプレイング中における 情動体験についてみると,質問⑥「おだやかな気分に なった」,⑦「緊張感がほぐれた気がした」,⑧「わくわ くした気持ちになった」,⑨「新鮮な気持ちになった」

があてはまるが,質問⑦「緊張感がほぐれた気がした」

および⑨「新鮮な気持ちになった」において「4.とても」

「3.まあまあ」に回答した参加者が多い結果となり,今 回のグループワークにおいては,多くの参加者が緊張感 がほぐれた感じや新鮮な気持ちになるといった体験をし ていたことが示された。印象に残っている場面では「最 初は緊張していたけど,だんだん心も温かくなっていっ た気がしました」「少し体を動かしただけで緊張がほぐ れたこと」など緊張感の変化についての記述が多く,今 回のロールプレイで行った参加者の不安感や抵抗感に対 する配慮は有効であったことが考えられた。また,参加 者の多くが体験した新鮮な気持ちについては,自由記述 における「(ロールプレイングは)即興性の強いもので,

私は苦手なのですが,ぎこちないけれどもすべての役割 を演じることができて本当にうれしかったです」「出来 るのかとても心配だったけど,自分が思ったよりもスラ スラ話せたり,相手の人と打ち解けることができたの で,新たな発見でした!」といった感想のように,日常 とは異なる役割を演じることで自分自身についての新た な発見や新鮮な気持ちにつながったことが考えられた。

質問⑪「これからも参加してみたい」,⑫「役に立っ た」は,どちらも心理劇的ロールプレインググループに

対する有効性や評価について尋ねているが,結果から,

多くの参加者が「これからも参加してみたい」「役に立っ た」と感じ,グループワークを肯定的に捉えていること が分かった。これは,あらかじめ事前アンケートを実施 し,参加者が日常的にどのような場面で苦手さや戸惑い を経験しているか把握し,ロールプレイングの場面に取 り入れたことが有効であったと考えられる。

最後に,参加者の自己への振り返りについて尋ねた質 問⑩「自分でいいんだという気持ちになった」,⑬「自 分について考えることができた」についてみると,いず れも参加者によって回答が分かれる結果となった。質問

⑩「自分でいいんだという気持ちになった」において,

「少し」しか感じなかった参加者が一定数いたことは,

参加者が高校生であったことが関係していると考えられ る。つまり高校生は自己意識が高まる時期であるが,ま だ自己を確立していく段階にあり,強く「今のままでい い」という感覚を持つ者は少なかったと推察された。質 問⑬では,自分について考える体験をした参加者が過半 数以上いる一方,「ない」と回答した参加者もいた。「1.

ない」と回答した参加者の「印象に残っている場面」は,

「親の立場でおこづかいを子供からお願いされた時の子 供の頼み方が面白かった。同じ設定でも人によって対処 の仕方が違うし組み方を変えれば同じ設定でも,また 違った展開になるし,そういったことがとても面白いな と思った」とあり,自己よりも参加者の演技やロールプ レイングそのものへの関心が広がっていたことが考えら れた。

これらの結果から,高校生を対象に心理劇的ロールプ レイングを展開した際に,グループ全体としてメンバー に対し共感的な雰囲気がつくられていたことや,そのな かで緊張感が緩和されロールプレイングにも比較的緊張 せずに取り組めていたことが考えられた。また,心理劇 的ロールプレイングが高校生自身にとって有益なものと して感じられることが明らかとなった。しかしながら,

今回のセッションでは,参加者自身が自由であったと感 じられるほど自発性が発揮される展開が困難であったこ と,また多くの参加者が自分自身について考えるなど自 己と向き合う体験があったなかで,少ないながらも自己 との向き合いよりも心理劇的ロールプレイングの展開に 関心が向かう参加者の存在が明らかとなった。

(2)‌‌高校生の心理劇的ロールプレイングを通した自己へ の気づき

ここでは,結果で示された心理劇的ロールプレイング を通した自己への気づきの内容について,各カテゴリー において考察を行いたい。

「自己の特性への気づき」:「自己の特性への気づき」は,

さらに「自己肯定」と「得手不得手の理解」の 2 つのカ テゴリーに分類された。「自己肯定」は,普段の自分自

(9)

身のコミュニケーションに対し,参加者の高校生が「そ れでいいんだ」という気持ちを体験していた。これは,

普段の気になることや迷いを感じることに対し,ロール プレイングのなかで自分自身から離れ他者の目を通して みることで,“思ったよりも相手からみると気にならな い”といった感覚を体験し,自分自身を肯定的に受け入 れることにつながったと推察された。「得手不得手の理 解」では,友人からの誘いを断る場面において,ディレ クターから「いつも違うやり方で演じてみましょう」と いった方向づけを行う教示もあったことから,役割の取 り方の違いによる感じ方や気持ちの在り方の違いが明確 となり,より日常的な自己の在り方を意識化することに なったと推察された。

「社会的自己の再認識」:「社会的自己の再認識」は,さ らに他者に対する自分自身の態度を振り返るような「自 己点検」および他者の役割の取り方を参照する「他者の 参照」の 2 つに分けられた。「自己点検」では,ロール プレイングの中で他者役割を演じることを通し,日常で 体験することのなかった他者視点や感情が生じ,「自分 自身の今までの振る舞いは他者にどのように映っていた か」のような他者から見た自分を意識化したことが推察 された。また,「他者の参照」では,「ほかの人の断り方 をみて,こうやったら相手にも不快な思いをせずにすむ のかが分かってよかったです」とあり,他者の演技をみ ることで,結果的にSSTのように具体的な役割の取り 方について新たな気づきに繋がったものと考えられた。

「自己の多面性への気づき」:「自己の多面性への気づき」

は,「自己の新たな一面の発見」と「他者の気持ち理解」,

「関係性による自己の可変性」の 3 つに分けられた。

「自己の新しい一面への発見」では,記述例にみられ る通り,役割を演じられたことに対する驚きや自分自身 に対する肯定的な気づきがあったことが示唆された。日 常生活における高校生の役割は,生徒,友人,先輩,後 輩,子どもと固定化されやすいが,心理劇的ロールプレ イングにおいて店員役や親役のように日常の自己とは離 れた役割を演じることで,新たな自分自身の一面に対す る新鮮な気づきにつながることが考えられた。「他者の 気持ち理解」では,記述例より他者への理解が深まった ことが示唆された。これは,針塚(2008)が「体験的現 実性」という言葉を用いて心理劇の性質について説明し ているように,架空の場面や役割であるものの,役割を 通し実際に他者と関わることで,生き生きとした情動が 伴った他者への気づきが促されたものと考えられる。こ うした「他者の気持ち理解」は,自分自身の中に日常で は体験することのない認知様式や感情を認識したと言い 換えることができ,自己の中に他者の視点を内在化する 体験であるという意味で自己の多面性への気づきにつな がるものと考えられた。一方,「関係性による自己の可

変性」では,場面や相手によって変化する複雑な自己の 在り方について意識化していることが示唆された。思春 期,青年期の友人関係における切り替えについて,場面 によって付き合う友人を切り替える「関係切替志向」や 自分のキャラクターを切り替える「ペルソナ切替志向」

といった分類がなされる(辻󠄀,1999)など先行研究にお いて議論されているが,先行研究で指摘されている傾向 について高校生自身も意識化し,さらに葛藤的な思いを 抱いていることが示唆された。

上記より,高校生を対象とした 1 回完結型のロールプ レインググループにおいて,「自己の特性への気づき」

から「社会的自己の再認識」「自己の多面性への気づき」

といった多様な気づきが生まれることが明らかとなっ た。自己の多様性に関しては,相手によって異なる自分 自身の可変性に対し高校生は葛藤的な思いを抱いている ことが示され,高校生の様々なとらえ方が存在している ことが明らかとなった。ただし,調査対象者が少人数で あったことや,自由参加型の臨床心理学講座に自発的に 参加している生徒であり,もともと対人関係や自己の在 り方に関心が高かったことから,今回の自己への気づき に関する結果は高校生全般に当てはまる結果とはいえ ず,留意する必要があるだろう。

(3)‌‌高校生を対象とした心理劇的ロールプレイングの展 開の在り方

高校生が自発性を発揮して日常とは異なる役割を演じ ることや,実感を伴う新たな気づきを得るためには,彼 らがグループに安心して参加できることが重要と考えら れる。グループワーク体験アンケートからは,「おだや かな気分になった」「緊張感がほぐれた気がした」といっ た感想が示され,参加者の多くが安心して過ごしていた ことが示唆された。ここでは,高校生が安心して心理劇 的ロールプレイングに参加できるための配慮や工夫につ いて,ロールプレイングの導入と展開について提案した い。

グループの導入においては,高校生が日常の関係から 自由になり,対等な関係性が保障されるように教示する ことが必要だろう。日常の先輩後輩関係や友人グループ 内の立場といった役割関係を持ち込むことは,グループ の受容的な雰囲気の形成や日常とは異なる新たな役割を 演じることを阻害するからである。今回の実践において は,このグループの中では対等な関係が保障されてお り,教師を含めすべての人に「さん」づけで呼ぶことを 求めた。呼称は日常の役割関係を象徴的に示すものであ る。そこで,グループ内の対等性を明確化するために,

呼称を統一するような配慮を行った。また,このグルー プは能力やそれぞれの在り方の優劣を問う場ではなく,

このグループ活動においては批判的な発言や態度は控え 他者を尊重するような気持で参加してほしいと伝えた。

(10)

水貝・古賀:高校生を対象としたグループワークにおける心理劇的ロールプレイングの展開の在り方 77

次に,ウォーミングアップであるが,ディレクターが 参加者である高校生の緊張や不安,気恥ずかしさを理解 し,参加者が普段の自分自身として参加できるような取 り組みやすい内容を設けることが重要と考えられた。

ウォーミングアップはロールプレイングに向けて自発性 を高めることが目的とされており,対象によってはジェ スチャーゲームのように行為表現を求める内容やプレイ フルなプログラムを展開し心身の活性化をはかることも ある。しかしながら,今回の参加者である高校生を考え た場合,ジェスチャーのような行為表現を求めることも プレイフルなプログラムを展開することも参加者の気恥 ずかしさや防衛的な態度を引き出しかねないと考えられ た。そのため,まずは,緊張していると思われる参加者 の高校生が「何とか出来そうだ」「緊張していたけどや れそうだ」とグループの今後の展開に安心できるよう,

互いに挨拶したり簡単な自己紹介を行うような参加者が 普段の生活においても経験しそうな内容を実施し,その なかに少しずつハイタッチや握手といった行為を取り入 れた。アンケートの結果からは,参加者の緊張感が低減 されたことが明らかとなり,緊張感の緩和に非常に有効 なウォーミングアップだったといえるだろう。

ロールプレイングの段階における配慮点では,同じ ロールプレイングの中でも「買い物場面」や「友人との 再会場面」のように参加者が役割演技に慣れ抵抗感が軽 減されることをねらいとしたウォーミングアップ的な位 置づけの段階から,「親子のおねだり場面」や「友人の 誘いを断る場面」のように役割演技を通し自分自身や他 者に対する捉えなおしや新たな気づきの体験をねらいと した段階へとスモールステップを設けて実施したこと が,参加者が過度な緊張や不安感を抱くことなくロール プレイングに取り組むうえで重要であったと考えられ た。前半の「買い物場面」や「友人との再会場面」は,

誰しも経験がある場面や普段の参加者自身の役割で演じ ることができ,役割や場面のイメージが展開されやすい テーマを設定した。実施時間についても,例えば買い物 場面などでは商品が購入できるかどうかといった場面展 開を問わずに,役割演技の時間を 1 分ほどの短時間で終 了したことも重要であったといえる。こうした配慮点 は,ロールプレイングに対する戸惑いの声も聞かれたも のの,「出来るのかとても心配だったけど,自分が思っ たよりもスラスラ話せたり,相手の人と打ち解けること ができたので,新たな発見でした!」といった感想のよ うに,役割を演じられた体験や“役割を取れるかどうか”

といった戸惑いや不安に留まるのでなく役割を通した情 動体験へ展開したことが推察され,有効であったと考え られる。また,後半の「親子のおねだり場面」および「友 人の誘いを断る場面」の 2 つの場面では,ロールプレイ ングを通して参加者に葛藤が生じる可能性が考えられる

展開であったため,参加者とテーマとの心理的距離に配 慮したことが重要であったと考えられた。心理劇では主 役のエピソードの劇化を行う展開が多くみられるが,本 グループにおいては,参加者にとって過度な自己直面や 侵襲的な体験になる可能性を回避するため,架空の場面 設定を行った。一方,おねだりの内容や友人からの誘い の内容については,高校生のリアルな意見を取り入れ,

ロールプレイングに臨場感を持たせることで,生き生き とした感覚や情動を伴った気づきが促されやすくなった と考えられた。参加者の関心や経験がありつつも,葛藤 的にならずに取り組めるようにテーマと参加者との心理 的距離に配慮することで,参加者が安心感を得つつ自己 に対する気づきが促されたものと考えられた。

思春期,青年期を対象とした心理劇や心理劇的ロール プレイングの実践は,臨床場面における発達障がい児者 を対象にしたものや教育領域における大学生を対象にし たものが多く(i.e.重橋ら,2006;滝吉ら,2009;水内,

2015),教育領域において高校生を対象とした実践は少 ない。さらに,先述した先行研究における思春期青年期 を対象とした心理劇の実践では,自他理解の促進という 有効性は明らかにされているものの,参加者の気恥ずか しさや緊張といった抵抗感に配慮し参加者が安心して参 加できるセッションの展開について論じたものはなかっ た。そのため,本論において参加者の安心感をはじめと したグループワーク体験に配慮した展開の在り方を提示 したことや,さらに提示した展開において 1 回のセッ ションであるものの先行研究と同様の自他への理解の促 進といった効果が示されたことは,今後の思春期青年期 を対象とした実践を行うえで意義があるといえる。

しかしながら,多くの参加者が緊張感の低減や安心感 を経験していたものの,より自発的に参加できていると 参加者自身が感じることは難しかった。これは,今回の セッションが 1 回完結型であるといった構造上の限界が あったと考えられた。また,自己への気づきに関する内 容的検討では他者によって態度が変わるといった自己の 可変性に対し高校生が葛藤的な思いを抱く可能性が示さ れたことからは,自己理解を目的とした支援において,

単純に自己の多様性や可変性について意識化させるだけ でなく,高校生がどのような思いを抱いているのかと いった捉え方について留意する必要性があるだろう。

今後は, 参加者の緊張を低減するだけでなく,ロール

プレイングに対する戸惑いや不安を軽減し自発性の発揮 が促されるように,ウォーミングアップに活動性の高い プログラムの導入を検討することや,参加者がこれから 演じる役割や場面について想像しイメージを明確にする 時間や展開を設けることなどの配慮が考えられた。

(11)

引 用 文 献

針塚 進(2008).心理劇における心理療法としての集 団とアクションメソッド.心理劇研究,31,1-8.

保坂 亨(2000).子どもの心理発達と学校臨床.近藤 郁夫・岡村達也.保坂 亨(編).子どもの成長  教師の成長―学校臨床の展開.東京大学出版,pp.

333-354.

重橋のぞみ・岡嶋一郎 (2006).対人援助職養成における 心理劇の役割交換技法に関する研究 ―保育学生の自 己・役割・人間関係に対する気づきを通して―.福 岡女学院大学大学院紀要臨床心理学,3,39-46.

宮城 信・泉 一彦(2015).高大学連携学習によるコ ミュニケーションスキル教育の開発研究.富山大学 人間発達科学研究実践総合センター紀要,10,97- 112.

水内良子(2015).グループワークにおける発達障害大 学生の対人交流と自己理解の変化.心理劇研究,

38,1-14.

岡嶋一郎・針塚 進・武藤のぞみ(2001).心理劇にお けるウォーミングアップ様式とウォーミングアップ 体験との関係性について : ウォーミングアップ前後 の参加者の状態の変化の視点から.九州大学心理学 研究,2, 117-124.

滝吉美知香・田中真理(2009).ある青年期アスペルガー 障害者における自己理解の変容―自己理解質問およ び心理劇的ロールプレイングをとおして―.特殊教 育学研究,46(5),279-290.

辻󠄀 大介(1999).若者語と対人関係―大学生調査の結 果から―.東京大学社会情報研究所紀要,57,17- 42.

台 利夫(2003).新訂ロールプレイング.日本文化科 学社.

渡辺弥生・原田恵理子(2007).高校生における小集団 でのソーシャルスキルトレーニングがソーシャルス キルおよび自尊心に及ぼす影響.法政大学文学部紀 要,55,59-71.

参照

関連したドキュメント

であり、つい先日まではその副会長 もされていた方で、米中間の関係について公に

4.無施肥 田では一作期 中に約 4 0 0 0mm もの水がかけ流 しかんがいされ, これに伴 って多量の窒素が 5 % にも及ぶ ことを示 している。 供給

水銀を安定化・不溶化できるの? 自然界に主に存在する硫化水銀を作った(戻した)後、 さらに固めることで極めて安定な固化体を作成可能

平成 26 年度自己評価シート(中間評価) 校番 63 学校名 広島県立安芸府中高等学校 校長氏名 阿萬 光朗 全・定・通 本・分 学校経営目標 達成目標

[r]

and Sawada,,M, (2006) “Effects of Bank Merger Promotion Policy: Evaluating Bank Law in 1927, Japan”, The University of Tokyo CIRJE Discussion Paper Series F-400, The

「書く」認知のプロゼス (encoding) つまり、文字列を音で区切ります。

and Fukushima, Y.,1985:Entrainment of non-cohesive bed sediment into suspension. Anthony Falls Hydraulic Lab., Univ. and Fukushima, Y.,2001:Numerical Analysis of