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89 研究ノート 論評節の史的変化に関する覚え書き 岩 要 田 良 治 旨 本稿では ⅰ の下線部にあるような英語の論評節について考察する ⅰ Sandy is in the reading room, I think. 生成文法において 論評節に関する共時的先行研究はいくつか存在するが 通時的研究

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全文

(1)

.はじめに

次の( )の下線部にあるような,文において「一人称代名詞主語+認識動詞(verb of cognition)の現在形」の形式で挿入的に使用され,話者の認識的な立場を表す節は一般に論 評節(comment clause)と呼ばれる( ),( )

( )They were not, I think, miserably poor.

生成文法の枠組みに基づく論評節に関する共時的研究はこれまでいくつかなされているが,

その枠組みに基づく論評節に関する通時的研究は筆者の知る限りこれまでなされていない( )。 そのような研究状況の中で,本稿では,生成文法に基づいて上記の形式を持つ英語の論評節の 発達に関する史的変化について考察する。本稿の目的は,次の(ⅰ),(ⅱ),および(ⅲ)に 示したことである。

(ⅰ)英語の論評節の発達に関してどのような史的変化が観察されるかを調査し,その結 果を提示する。

(ⅱ)その史的変化を生成文法理論で説明する場合,その説明はどのような分析でなら可 能で,その史的変化はその分析を含む文法理論でどのように説明されうるかの考察を 試みる。

(ⅲ)その史的変化を説明する文法理論があるとすると,その文法理論にはどのような文 法上の妥当性があることになるかということを論じる。

以下,まず,第 節では,英語の論評節の使用に関して見られる史的変化について資料を中 研究ノート

論評節の史的変化に関する覚え書き

〔要 旨〕 本稿では,(ⅰ)の下線部にあるような英語の論評節について考察する。

(ⅰ)Sandy is in the reading room, I think.

生成文法において,論評節に関する共時的先行研究はいくつか存在するが,通時的研究 はこれまで示されていない。そのような研究状況の中で,本稿は次の(ⅱ)―(ⅳ)の ことを目的とする。

(ⅱ)英語の論評節の発達に関してどのような史的変化が観察されるかを調査し,

その結果を提示する。

(ⅲ)その史的変化を生成文法理論で説明する場合,その説明はどのような分析で なら可能で,その史的変化はその分析を含む文法理論でどのように説明されう るかの考察を試みる。

(ⅳ)その史的変化を説明する文法理論があるとすると,その文法理論にはどのよ うな文法上の妥当性があることになるかということを論じる。

〔キーワード〕 論評節,史的変化の記述,生成文法,史的変化の説明,文法の妥当性

岩 田 良 治

│ │  

(2)

心に紹介する。次に,第 節では,論評節を含む文が生成文法の枠組みの中でどのように分析 されるかに関する先行研究を紹介し,その先行研究の中で最適のものを提示する。次に,第 節では,第 節で最適なものとして提示された分析の基でどのような仮定をすることによって 第 節で紹介された史的変化がどのように説明されるかを考察する。そして,最後に,第 節 で,論評節に関する史的変化を説明できる本稿での仮説を含んだ文法理論にはどのような文法 上の妥当性があるかを論じる。

.論評節の使用に関する史的変化

Quirk et al.( ),OED2,Brinton( ),Biber et al.( ),Brinton( ),秋 元( ),福 元( ),中 尾( a),中 尾( b),田 辺( ),山 本( ),

Tanabe( ),田辺( ),Google Books(以下,GB)( )を用いて英語の論評節の使用

状況と論評節を構成する認識動詞を概略,英語史の各時期もしくは各世紀ごとに見てみると以 下のようになる。

まず,英語において,古英語期に論評節の萌芽は見られるが,論評節は十分発達しておらず,

まだ定着(well establish)していなかった(Brinton (1996 : 239―242 ; 2008 : 220),米倉

( ))( )

次に,中英語期のChaucer( 頃― )において,I trowe,I woot,I gesseなど,論 評節の発達が相当程度認められ,論評節の土台が作られたと言える(中尾( a; b))。

例 え ば 世 紀 に は,knowe,witen,thinke,seme,wene,trowe,understonde,deme,

mene,trust,hope,gessen,leve,undertake,suppose,beleven(以 上,頻 度 順)( )が 論 評節を構成する認識動詞として使われた(秋元( : ))。そのような認識動詞を含む 世紀までの中英語における論評節の事例として例えば以下のようなものがある。

( )‹Ntilde›1175 Lamb. Hom. I. 157 Ei‹edh›er of ‹Th›isse teres schedde ‹Th›e apostel leste ich wene [L. fudit fortasse apostolus] ‹Th›a ‹Th›e he seide [etc.].

( )‹Edh›1225 Ancr. R. 210 Nis, ich wene, no mon ‹Th›et [etc.].

( )1297 R. Glouc. (Rolls) 133 ‹th›e kyng of nor‹Th›homberlond was king, ich vnderstonde, Of al ‹Th›e lond bi‹ygh›onde homber.

(以上,OED2)(以下,OED2の下線は筆者)

( )And gilteles, I woot wel, I yow leve.

But al shal passe ; and thus take I my leve.” Tr 5.1084―5

( )She hath ynough to doone, hardyly,

To wynnen from hire fader, so trowe I. Tr 5.1124―5

( )Of twenty yeer of age he was, I gesse. GP I (A) 82 (81 presse)

(以上,中尾( b: ― ))

次に, 世紀に書かれた『パストン家書簡集』では,論評節を構成する認識動詞が一人称代 名詞を主語としてかなり高い率でゼロ補文をとったことから,論評節としての統語的条件は整 っていたと考えられる。そして,論評節の生じる統語的位置に関しては,例えば『パストン家 書簡集』では,要素の切れ目や節と節の間など,中位置で使われている事例が最も多い。(以 上,田 辺( )) 世 紀 の 論 評 節 を 構 成 す る 認 識 動 詞 と し て はsuppose, trust, trow, understand, wot, hope, know, deme / think / wene, doubt, believe, guess(以上,頻度順)

があり(田辺( ),秋元( : )), 世紀の論評節の使用事例としては下記のような

(3)

ものが挙げられる。

( )Item, I pray yow write in hast to the meir of Norwich to gif credens to me what I come to hym, and if ye so do I shal shape their articles and billes in-to a nother facion, I trust, and make thaym redy... (475.021 TDs 1451 to JP1)(田辺

( ))(以下,田辺( )の下線は筆者)

( )‹Ntilde›1460 Merita Miss‹ae› 197 Thow ned the to fyght, I vndeyrstonde, With youre flesche, and with the fende. (OED2)

( )Thay ere moch the boldere, I suppose, by-cause that ye be where as ye be.

(184.015 MP 1465 to JP2)

( )Like you were a distresse was take in Castre by Thomas Pecok, I trowe your servant, a besy man called, of a full true sowle John Hadynet of Haryngby, a pore man. (749.002 HaF 1468 to JP2)

( )As for Waryn Kyng, wer I vndetstond be ʒowr wrytyn þat he seyth he delyuer[id] me all euydens, I vnderstond nat þat ; (106.025 WP2 1479 to HW)

(以上,田辺( ))

次に,近代英語の中の初期近代英語( c― c)のうち, 世紀にはthink,suppose,

believe,trust,know,trow,wot,ween,guessが論評節を構成する認識動詞として用いら れた(福元( ),秋元( : ))。さらに, 世紀には他にvnderstand,hopeが論評 節を構成する認識動詞として使用された。そして, 世紀の論評節の使用事例として次のよう なものを挙げることができる。

( )1508 Kennedie Flyting w. Dunbar 345 Thow lufis nane Irische, elf, I vnderstand, Bot it suld be all trew Scottis mennis lede. (OED2)

( )One wise man, I think, would spring you all. (Bacon and Bungay 2.2.53―4)

( )The cornucopiae will be mine, I know. (EMIH 3.6.24)

(以上,福元( ))(以下,福元( )の下線は筆者)

( )1591 Of deer the roe is no longer hunted, but in Scotland and in parts of England, I believe, is killed with shot guns.

( )1598 ... : i gus and yet this breaking of my heart, before I would discouer my paine, will make you 20 I hope, thinke that I was not altogether vnmodest.

(以上,GB)(以下,GBの下線は筆者)

次に, 世紀には,論評節を構成する動詞としてthink,suppose,believe,guess,know,

find,fancy,trustが用いられた(福元( ),秋元( : ))。さらに, 世紀には,

understondとweenも論評節を構成する認識動詞として使用された。 世紀の論評節の使用

事例として例えば次のものを示すことができる。

( )The house, I know, By this time misses their votary. (Merry Devil 5.2.152―3)

( )’Tis scarce a well-governed state, I believe. (Changeling 1.1.141)

(以上,福元( ))

( )1642 H. More Song of Soul i. ii. 52 You are Heavens Privy-Counsellour I understond.

( )1667 Milton P.L. iv. 741 Nor turnd I weene Adam from his fair Spouse.

(以上,OED2)

(4)

( )The plays, I think, may be esteemed another. (Relapse 2.1.20)

( )No better than I used to have, I suppose? (Relapse 3.2.144)

(以上,福元( ))

次に,後期近代英語( c― c)のうち, 世紀に論評節で認識動詞として使用されたもの としてthink,believe,suppose,know,guess(以上,頻度順)が挙げられる(山本( ),

秋 元( : ))。さ ら に,trow,ween,hopeも 世 紀 の 論 評 節 で 使 用 さ れ た。そ し て, 世紀の論評節の使用事例としては例えば下記のようなものがある。

( )1701 I cannot pretend to have managd according to the Dignity of it, yet I hope I have so done it, as to give no Offence to any one, I have treated, I hope, of that High and August Assembly, the Parliament of England, with all that Decency which might... (GB)

( )1748 Richardson Clarissa (1811) IV. xxxv. 224 What is become of Lord M. I trow, that he writes not to me?

( )1764 H. Walpole Otranto iv, He, I ween, is no sacred personage.

(以上,OED2)

( )Mrs. Porten grows younger every day. You remember, I think, in Newman- street, an agreeable woman. (1774 gibn. x3)

( )Now for it. What did you do with that filthy paper? It lies, I believe, upon my dressing table―I’ll step in and fetch it if you will. (1776 fran.d3)

(以上,山本( ))(以下,山本( )の下線は筆者)

( )1779‹min›81 Johnson L.P., Mallet Wks. IV. 283 Glover rejected, I suppose, with disdain the legacy. (OED2)

次に, 世紀にはthink,suppose,know,believe,guess(以上,頻度順)が論評節を構 成する動詞として使用された(山本( ),秋元( : ))。さらに, 世紀の論評節で

はexpect,trust,ween,trowもそれを構成する認識動詞して使用された。田辺( )に

よると,例えばJane Austen( ― )のPride and Prejudice( )では,論評節を 構成する認識動詞としてhope,think,believe,suppose,knowが高い頻度で使用されてお り,論評節の文中での位置は,現代英語ほど文末で使用されることは多くないものの,I hope,

I believe,I supposeは文中で自由な位置に生じることが多く,挿入句としての発達が確認で

きる。そして, 世紀の論評節の使用事例としては例えば下記のようなものがある。

( )1801 I propose that upon this article there should be imposed on the home consumption, 3d. per Ib. which I expect will produce 15,0001. ; ...

( )1811 Dear Brethren, ― Our new Chapel will be opened, I trust, in the heginning of August, as it is now nearly completed.

(以上,GB)

( )1828 Scott F.M. Perth xxvi, Tell us how this tale ended‹em›with Conachar ‹cq›s escape to the Highlands, I suppose?

( )1835 Lytton Rienzi i. v, And never, I ween well, had she greater need of true friends than now.

( )1852 H. Rogers Ecl. Faith (1853) 438 A sceptic is not to be startled by paradoxes, I trow.

(5)

(以上,OED2)

( )I begin to see my way through the hard work a little ; though that is a thing never finished on earth, I believe. (1866 hwls.x 7)(山本( ))

( )1871 Dear me, no one hurt, I hope ?” “A good many, they’re bringing them down to Hancock,” said the man. (GB)

最後に,現代英語の 世紀の論評節についてであるが,そこで使われる認識動詞としては think,know,suppose,believe,guess(以上,頻度順)およびexpectとhopeがある(秋 元( : ― , ))。さらに,trustも 世紀における論評節を構成する認識動詞とし て使用された。そして, 世紀の論評節の使用事例としては例えば次のようなものが挙げられ る。

( )1920 But Our Lord who leads me up will I trust keep me.

( )1924 It weren’t talked of, nat’ rally -folks was sorry for them, I guess- and I’d plumb forgotten till I see the girl.

(以上,GB)

( )There is a God, I believe. (Quirket al.1985 : 1113)

( )MrWolfewill be in shortly, and so will some others, I hope. (ukb)(秋元

( ))(下線は筆者)

( )It’s a nice approach I think. (Biberet al.1999 : 197)

以上のように,英語の論評節は,古英語期にはまだ充分に発達も定着もしておらず,中英語 期において相当程度発達・定着し,近代英語期以降,どの世紀においても途切れることなく使 用され,充分に発達し定着したと言うことができる。

.先行研究

論評節に関する先行研究のうち生成文法に基づくもの と し て は 岩 田( ),Espinal

( ),清水( ),およびVries( )による共時的研究がある。岩田( )を用い てこれらの研究の概略を示すと以下のようになる。まず,Espinalは,論評節などの離接的構 成要素(disjunct constituents)とそれを含む文の他の要素は,統語上,三次元の空間の別々 の平面に存在していると分析している。そして,両者は統語的に無関係で(つまり,統語的に 互いに独立しており),終端連鎖(terminal string)において接点を持つと仮定している。( )

Espinalによるこの分析は,論評節がそれを含む文の中にある他の要素から独立しているとい

う論評節の特徴の一部を捉えることはできる。しかし,Espinalの分析では,論評節が存在す る平面とそれを含む文の他の要素が存在する平面の間には,上述のように,統語的階層関係は 存在しないと仮定されているので,論評節とその論評節を含む文のそれ以外の部分との間にあ る関係,つまり,岩田( ; )で述べられているように,前者は(対称的等位接続構文 の等位節の場合とは異なり,)後者にある程度従属しているという関係をこの分析では,捉え ること,あるいは説明することができない。次に,清水は,すべての情報が同じレベルにある のではないかもしれないという前提に基づいて,論評節と補文(=論評節を含んでいる文から 論評節を除いた部分である文(cf. 本稿の註( )))はそれぞれ異なる平面にあるスペースに 属していると仮定し,両者は三次元的な位相関係にあると分析している( )。清水の分析に従 えば,Espinalの分析と同じように,論評節がそれを含む文の他の要素(=清水( )の補 文)から独立しているという論評節に関する特徴の一部を説明することはできる。しかし,論

(6)

評節は論評節を含む文の他の要素に従属している要素であるというこの表現に関する上記の重 要な言語的特徴をEspinalの分析の場合と同様,この清水の分析で説明することはできない。

次に,Vriesは,論評節を含む表現の構造は,「通常の併合(regular Merge)」という操作に よって生成される通常の表現の構造の場合と違って,「挿入併合(parenthetical Merge)」と いう論評節などの挿入表現の生成のみに適用される特殊な操作によって生成されるという分析 を仮定する( )。このVriesの分析によって岩田( )で示された論評節の言語的特徴のう ち,例えば論評節がその論評節を含む文の残りの部分の疑問や否定の作用域( )に入るような 解釈は許されないという特徴は説明され得る( )。しかし,岩田( )で示された論評節に 関するそれ以外のいくつかの言語的特徴,例えば,論評節がそれを含む文の他の部分から独立 した音調単位(tone-unit)を形成するという音韻的特徴や,(論評節などの)挿入表現内でル ートS現象が起こるという統語的特徴などをこのVriesの分析では説明することができな い( )。以上から,Espinal( ),清水( ),およびVries( )の論評節に関する分 析は記述的に妥当なものとは言えない( )。一方,岩田( )で示されているように,岩田

( )の分析・仮定に基づくと,論評節(を含む離接節)に関する音韻的,統語的,意味的 な様々な特徴を,他の分析の基で生じる困難を伴うことなく,自然で簡潔に説明することが可 能となるだけでなく好ましい帰結をもたらす。その結果,岩田( )は論評節(を含む離接 節)に関する言語現象を説明する分析としては,岩田( )による三次元文法理論に基づく ものが最適であると判断している。本稿においても,その判断にしたがって,生成文法に基づ く論評節(を含む離接節)に関する分析としては岩田( )の分析が現時点では最適のもの と仮定する。便宜上,その岩田( )の分析を岩田( )を用いて以下に再述する。

生成文法において,従来,制限的副詞節や制限的関係詞節だけでなく,論評節も平面的な二 次元統語構造の一部として組み込まれていると分析されてきた。しかし,下記( )に示した 特徴を持つ論評節(を含む離接節)は,統語構造上,制限的副詞節や制限的関係詞節とは別次 元の三次元の空間に存在する構成素であると分析される。( )

( )制限的副詞節や制限的関係詞節と異なり,論評節(を含む離接節)は,文中の他の 要素と密接な結び付き方をしておらず,文中の他の部分から遊離・独立していて,文 構造の一部として組み込まれていない( )

このように,論評節を含む文は三次元統語構造を持つと仮定されるが,いくつかの理由によ って( ),同様に三次元統語構造を持つと仮定される例えば等位表現の一方の等位項の場合と 違って,論評節は文の他の部分にある程度従属している( )

以上のことに基づいて,論評節は次の( )の条件に従って,( )に示した統語構造を持 つと仮定される。

( )三次元構造生成条件

Xの最大投射Ximaxは,その背部に別のXimaxを持つことができる。(X=C(omp),

(nfl),N,V,A,P,Adv。指標I iは前後のXが同一の範疇であることを示す。)

そして,(ⅰ)背部のXmaxは,X=Cの場合は,前部のXmaxと対等の位置あるい はそれに直接支配される位置にあり,X≠Cの場合は,前部のXmaxと対等の位置 にある。(ⅱ)前部のXmaxと対等の位置にある背部のXmaxは,前部のXmaxを直 接支配する節点が存在する場合には,その節点に直接支配される。

(7)

( ) Cmax C’

C Imax

Nmax

Nmax I’

VP I

Cmax

この構造において,Cmaxは前部にあるCmaxに直接支配されており,論評節となる。例え ば,( )は概略,次の統語構造を持つ。

( )

C”

I think C”

they were not miserably poor

次に,このような三次元統語構造は文法のPF部門に存在する規則によって解釈されるが,そ の際にその規則は次の規約に従って適用され,その結果,このような三次元の構造は例えば

( )のような直線的な音声連鎖に並べ替えられる( )

( )直線化規約 Ⅱ( ),( )

次の構造において,A1の構成素とA2を任意の順で解釈せよ。

A1

A2

.分析と説明

米倉( : )によると,論評節の顕著な特徴は,節レベルの一人称+現在形動詞の形 で (文中あるいは文尾に位置し),意味において,話者・書き手の認識的判断を表すことであ る。上述したように,古英語ではまだ論評節は未発達で,古英語はまだこの特徴あるいは本稿 の第 節の冒頭で示した論評節の特徴を持つ段階,つまり,例えば The world, I think, is flat. や The world is flat, I think. の構造が一般に用いられる段階には至っていなかった

(cf. 米倉( : ― ))。つまり,古英語では論評節はまだ一般化しておらず,一般文法の 仕組み(あるいは機構)によって生成される段階には至っていなかった。その後,中英語にな って,(論評節を構成する動詞によって使用頻度の差はあるが,)論評節が積極的に用いられる ように発達し,その使用は定着した。このように,英語において論評節が確立しその使用が一 般化するのは,つまり,論評節が一般文法の仕組み(あるいは機構)によって生成されるよう になるのは,中英語期になってからである。

上述のように,論評節の史的変化を生成文法理論に基づいて説明している先行研究は存在し ない。そこで本節では,上記の論評節に関する史的変化を生成文法理論に基づいて説明するこ とを試みる。まず,岩田( )で示されているように,論評節を含む文に対して二次元の構 造を仮定する文法理論では論評節に対する適切な統語構造を仮定することができない。したが

~ミζ~ー---ーーーーーーー

‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ 一 一 一 一

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どと".ー‑一三〉

(8)

って,上記の言語変化を論評節を含む文に対して二次元の構造を仮定する文法理論で捉えると いうことはできない。岩田( )による三次元の分析を仮定する三次元文法理論の基では論 評節の持つさまざまな言語的特徴を説明できる適切な統語構造を仮定することが可能である。

そして,中英語期(およびそれ以降)の論評節が現代英語の論評節と同様の言語的特徴(cf.

( ))を持つとすると( ),それまでその使用が定着しなかった論評節が中英語期およびそれ 以降定着したという言語変化については,その三次元構造を生成する文法機構を有する三次元 文法理論の基でなら,下記のように説明が可能になる。

本稿では,論評節を構成するthinkやbelieveなどの動詞を上記のように認識動詞(verb of cognition ; Vc)と呼ぶとすると,それらの認識動詞は文法の語彙部門でその素性の一部とし

て[α disjunctive]という素性を持っており,文法の語彙部門には次のパラメータが付随してい

る(あるいは備わっている)と仮定する。

( )認識動詞パラメータ

a.Vcは常に[−disjunctive]を持つ。

b.Vcには[−disjunctive]を持つものと[+disjunctive]を持つものがあり,後 者の場合,その主語は一人称単数代名詞である( )

そして,このパラメータのaの値が選ばれると,そのVcは例えば概略( )のような二次元 の構造を構成する要素となる。

( ) CP

VP

V’

Vc ...

その結果,例えば次の( )のような非論評節を含む文が生成される。

( )I believe (that) there were no other applicants for that job. (Quirket al. 1985 : 1113)(( )は筆者)

一方,このパラメータの値がbに設定されて,Vcが[+ disjunctive]を持つ場合,そのVcは 離接節(disjunctive clause)を構成する要素となる。論評節を含む離接節は,上述のように,

三次元構造の背部に生成される。つまり,論評節は,( )と( )に示したように,( )の ような形式を持つ三次元構造のCPとして生成される。

( )

CP CP

この三次元構造が,文法のPF部門で( )の直線化規約(とKayne ( ) の線形対応性 の公理)にしたがって音声解釈されると,例えば( )のような論評節を含む文が生成される

~

~

~

¥一一一一一一一一

/ " " " " ̲  

ど 一 一 一 一 ー ‑ ‑ ー : ご 〉

(9)

ことになる。

( )a.There were no other applicants, I believe, for that job. (Quirket al. 1985 : 1072)

b.There were no other applicants for that job, I believe.

以上の仮定にしたがうと,本稿で考察の言語変化については以下のように説明することがで きる。つまり,古英語期にはこのパラメータの値として( a)が選ばれていたが,中英語期 になると( b)が選ばれるように変化した。言い換えると,認識動詞について,古英語期に は二次元の構造(e.g.( ))を形成する動詞のみが存在したが,中英語期以降は二次元の構 造を形成する動詞と三次元の構造を形成する動詞の両方が存在するように変化したと言うこと ができる。以上のように,本稿で扱っている論評節に関する史的変化は( )のパラメータの 値の設定に関する変化として捉えることができる( )

.おわりに

本稿では,論評節に関する史的変化は岩田( ; :etc.)の三次元文法理論によって 説明できるということを論じた( )。このことは文法の妥当性に関して次の つの点を示して いる。まず,二次元の構造やEspinal( )と清水( )によるそれ以外の構造に基づく 分析と違って,岩田( ; ,etc.)の三次元構造に基づく分析は上記の史的変化を簡潔 に説明することができる。この点で後者の分析を用いる文法理論には記述的妥当性があること になる。次に,史的変化は,世代間で異なったパラメータの値を選択することによって生じる のであるから,史的変化の研究は,言語獲得の研究に他ならない(渡辺( : ))。したが って,本稿の史的変化の研究は,言語獲得の研究でもあり,言語獲得を説明するのが説明的妥 当性のある文法理論であるので,三次元文法理論に基づく岩田( ; ; ;etc.)で 示されている史的変化の仮説(あるいは道具立て)および本稿の史的変化に関する仮説(ある いは道具立て)には説明的妥当性があることになる。最後に,言語変化と呼ばれる現象も言語 進化の現象だとすると(cf. 池内( : )),論評節に関する史的言語変化を説明している 岩田( ; ,etc.)による三次元文法理論は言語進化の現象をも説明していることにな る。したがって,その三次元文法理論には岩田( )と岩田( )で示されたもの以外に もさらなる進化的妥当性があることになる。

( ) 田辺( : )を参照。

( ) 論評節の機能は山本( : )によると,「会話の流れや相手との社会的関係を考慮し,

話者は自分の考えを対話者の対面を維持しながら控えめに,しかしながらきちんと主張をす る」ということであり,論評節を非常に使い勝手の良いものにしている。

( ) 生成文法に基づくものではないが,論評節に関する実証的で包括的な通時的研究としては例

えばBrinton( )と秋元( )がある。

( ) Google Books検索によりデータ収集を行なった。

( ) ちなみに,本稿で用いる認識動詞の範囲で言えば,OED 2で示されている(「一人称代名詞 主語+認識動詞」の形式の)論評節のうち最も古い事例は本稿の( )に示した 年のもの である。

( ) Chaucerでは認識動詞としてはguessが最も優勢であった(中尾( a))。

(10)

( ) Espinalの分析の基では,例えば,次の(ⅰ)に対する統語構造は概略(ⅱ)のように表示 される。(岩田( : ― ))

(ⅰ)The world, I believe, is flat.(清水( : ))(下線は筆者)

(ⅱ)

N”

a

c

b

S

the world, S

V”

is flat I believe,

(a, b = syntactic planes ; c = linear dimension)

( ) 清水の分析によると,例えば(ⅰ)の論評節(=‘I believe’)と補文(=‘the world is flat’)

は(ⅱ)に示したような三次元的な位相関係にある。

(ⅰ)The world, I believe, is flat.(=註( )(ⅰ))

(ⅱ) the world is flat

I believe

(ⅱ)において,同一平面内には統語的階層関係が存在するが,三次元的位相関係にある平面 同士が全体として統語的階層関係を持つことはない。(以上,岩田( : ))(下線は筆者)

( ) Vriesの「挿入併合」とは,次のものである。

(ⅰ)挿入併合

par-Merge(A, B)yields C such that

(a)C directly par-includes A,

(b)C directly par-includes B, and

(c)A is the merge-mate of B.

この挿入併合によると,次の(ⅱ)の構造が生成され,例えば論評節を含む(ⅲ)は,概略,

(ⅳ)の統語構造を持つことになる。

/ 人 ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑

し~---ぺ 〉

(11)

(ⅱ)

… YP

* * Par ――― XPpar

ParP ――― YP

(ⅲ)He is not, I think, serious.(下線は筆者)

(ⅳ)

* * Par ――― TP

I think [He is not ParP serious]

(ⅱ)の 構 造 に お い て,ParPの 主 要 部(head)のParは 特 殊 な 談 話 連 結 詞(specialized discourse connector)である。c統御の影響はhost YPには及ぶが,* *はその影響がParPの 内部には及ばないことを表している。つまり,論評節(などの挿入表現)はその外部にある hostの要素によってc統御されず,その作用域に入ることはない。(以上,岩田( : ―

))

( ) 疑問あるいは否定の作用域とは,構造上,wh要素あるいは否定要素によって統御されてい る節点のことをいう。(cf. 松浪(他)( : ― ),Jackendoff( : ― )および

Quirket al.( : ))(以上,岩田( : , ))。

( ) 本稿の註( )を参照。

( ) Espinal( ),清水( ),およびVries( )の分析のそれぞれの問題点について詳

しくは岩田( )を参照。

( ) 生成文法の中で,特にその初期段階において,本稿で考察している論評節を含む英語の挿入 節(e.g.下記の(ⅱ)の the fact is )が複文構造(e.g.下記の(ⅰ))から主節を移動させる などの変形操作などによって生成されるという分析(例えば,Kajita( ; )とその分 析に基づく大室( ),Ross( ))が提案された。

(ⅰ)The fact is that nobody knows.(大室 : )

(ⅱ)a.Nobody, the fact is, knows.

b.Nobody knows, the fact is. (Bolinger 1972 : 76)

しかしながら,この分析を仮定するとさまざまな問題点が生じることがこれまでの研究(e.g.

清水( ))で指摘されている。その点については本稿では扱わない。(以上,岩田( :

― ))

( ) 論評節を平面的な二次元統語構造の一部として組み込まれていると分析しているものには,

Ross( )とEmonds( )などがある(岩田 : ― )。論評節などの挿入表現を二

次元統語構造の一部として組み込むことの問題点については,McCawley( )も参照され たい。(以上,岩田( : ))

( ) Quirk et al.( : )は,論評節は,一般に,独立した別個の音調単位(separate

(12)

tone unit)を 持 つ と 述 べ,Vries( : )は,論 評 節 を 含 む 挿 入 表 現 は 韻 律 的 に

(prosodically)文中の他の要素から区分され,独立していると述べている。書きことばでは,

論評節は,制限的副詞節や制限的関係詞節と異なり,通例,コンマあるいはダッシュによって 文中の他の要素から切り離されている(岩田 : )。さらに,Haegeman( )などは

(論評節や非制限的関係詞節のような)挿入表現は文の残りの節に統語的にまったく組み込ま れていないと述べている。このことは,本稿( )の記述内容を支持している。(以上,岩田

( ))

( ) その理由については,岩田( : ― )を参照。

( ) Vries( : )は,論評節や非制限的関係詞節などの挿入表現(例えば,下記(ⅰ)の

who is my neighbor )は,文中の他の要素(例えば,下記(ⅰ)の You probably know Joop )がprimary messageを表すのに対し,secondary messageとなると述べている。この ことは論評節や非制限的関係詞節などの挿入表現が意味的に文中の他の要素にある程度従属し ているということを示している。(以上,岩田( : ))

(ⅰ)You probably know Joop, who is my neighbor.

さらに,Quirk et al. ( : )は,次の(ⅱ)における主節と従属節の関係を逆にした ものが(ⅲ)という論評節を含んだ文に見られるという。

(ⅱ)I believe thatthere were no other applicants for that job.

(ⅲ)There were no other applicants,I believe, for that job.

このことは論評節が統語的役割に関して文中の他の要素に(ある程度)従属しているというこ とを示している。

( ) 論評節を含む三次元構造は,正確には,( )の直線化規約ⅡとKayne( )の線形対応 性の公理(Linear Correspondence Axiom)によって線形の音声連鎖に変換される。

( ) 直線化規約にⅡという番号を付けたのは,岩田( ; など)で三次元等位構造に文法 のPF部門で適用される解釈規則に対して設けられた直線化規約と区別するためである(岩田

( : ))。

( ) 論評節を含む三次元構造が( )の規約とKayne( )の線形対応性の公理に従って解釈 規則によって直線化された結果,論評節を不適切な位置に持つ連鎖が生じた場合,それらの連 鎖は,語順に関する何らかの装置(例えばSelkirk( : )のThe Sense Unit Condition

(cf. Horiuchi( )))によって排除されると考える(以上,岩田( : ))。

( ) まず,直接引用文(direct quote)では次の例の下線部に見られるように主語と動詞が倒置す る引用倒置(Quotative Inversion)が起こる。

(ⅰ)“Is there anything I can help you with?” asked John.

そ し て,廣 江( )で 述 べ ら れ て い る よ う に,引 用 倒 置 は 主 節 現 象(main clause phenomena)の一つと す る と,本 稿( )に あ る 中 英 語 期 のChaucerの(副 詞 前 置 と)主 語・動詞の倒置が起こっている so trowe I にも主節現象が観察され,このような形式の論 評節はルートSとなると考えられる(なお,ルートSとは,S(=本稿ではCP)以外のいかな る節点にも支配されていないS(=本稿ではCP)のことをいう。)。したがって,中英語期に論 評節はルートSという統語的資格を持っていたことになる。つまり,中英語期(およびそれ以 降)の論評節は文中の他の要素から遊離・独立して,文構造の一部として組み込まれていない

(cf.( ))。次に,第 節で述べられているように,中英語期( 世紀)に論評節は要素の切 れ目や節と節の間などで最も多く使われた。ということは,この時期の論評節は文中の他の要 素から遊離した統語上の位置で使われることが一般的であった(cf.( ))。さらに,本稿第 節の中英語期(およびそれ以降)の事例からも分かるように,論評節は普通,文中の他の要素

(13)

とコンマで区切られており,したがって音韻的にも論評節は文中の他の要素から遊離・独立し ていると考えられる(cf.( ))。またさらに,中英語期(およびそれ以降)の論評節は文の一 部を修飾することはなく,文の他の部分に含まれる疑問や否定の作用域に入ることもない。し たがって,意味的にも,中英語期(およびそれ以降)の論評節は文中の他の要素から遊離・独 立していると言える(cf.( ))。

( )( b)のVcとして具体的にどの認識動詞がどの時期に[+disjunctive]という素性を持つ かは本稿の第 節に示されている。

( )( )は文法の語彙部門に備わっているパラメータであり,その結果,( )は語彙部門のパ ラメータの例証ということになる(cf.遊佐( : ― ))。

( ) 論評節の言語的変化が,論評節が三次元構造を持つという仮定によってのみ適切に説明でき るということは,文法という言葉に関する機構の中に三次元構造を生成する仕組み(=本稿の

「三次元構造生成条件」)が存在していることの新たな有力な証拠となる。

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