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黒滝 優太朗 論 文 審 査 の 要 旨

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Academic year: 2021

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別紙1

論 文 審 査 の 要 旨

報告番号

3144

黒滝 優太朗

論文審査担当者

主査 教授 真鍋 厚史 副査 教授 中村 雅典

副査 教授 美島 健二

(論文審査の要旨)

学位申請論文 Effects of lipid metabolism on mouse incisor dentinogenesis について 上記の主査1名、副査2名が審査を行った。

脂質異常症は血中低密度リポタンパク質(LDL)レベルの上昇を特徴とし、動脈硬化、脂肪肝、

骨密度低下等を誘発する生活習慣病であるが、歯の形成や恒常性維持との詳細な関係は不明で ある。本研究では野生型マウスに標準食および高脂肪食を 12週間与え、歯の形成や構造変化 を解析した。さらに、脂質異常症を発症するLDL受容体欠損(Ldlr-/-)マウスを用いて上記と 同様の実験を行った。野生型マウスおよびLdlr-/-マウスの高脂肪食群では、μCT 解析から下顎 切歯において象牙質の肥厚を伴う歯髄の著しい狭窄を認め 、組織学的観察から根中央部の象牙 前質の消失が認められた。またLdlr-/-マウスは 標準食群でも歯髄の狭窄傾向を示し 、根中央部 において不明瞭な象牙 前質が認められた。以 上より、LDL 受容 体を 介した脂質代謝 および 脂 質異常症は歯の形成と恒常性維持に 深く関与すると示唆された。

本論文の審査において、副査の中村委員および美島委員から多くの質問があり、その一部と それらに対する回答を以下に示す。

中村 委員の質問 とそれらへ の回答

1. LDL受容体欠損マウスの切歯および臼歯の発生過程での異常は認められないか。

回答:Ldlr-/-マウスは生 後、体重および身長の増加に異常は認められず、4 週齢に離乳し標準 食を摂餌させたが、野生型マウスと比較して成長に違いは認められなかった。先行研究に家族 性高コレステロール血症(FH: Familial Hypercholesterolemia)の小児患者に高コレステロール 血症治療薬を投与した結果、エナメル質形成異常が発生したという報告があ り、歯の発生過程 と脂質代謝およびLDL受容体は深く関係していることが示唆される。

2. 切歯の舌側(歯根相当)の象牙芽細胞だけに 変化が認められるのは何故か。また切歯唇側

(歯冠相当)と歯根相当の象牙芽細胞に形態の相違(細胞体の形、トームス突起等)はないか。

回答:マウスの下顎切歯における象牙質形成は、歯根相当である根尖部で最も反応性が高いた め、象牙芽細胞の増殖と分化が速やかに亢進したと考える。つまり歯髄幹細胞は根尖部付近に 最も多いことが影響していると示唆される。しかし、本研究では光学顕微鏡(拡大率 40倍)

での観察だったため、トームス突起は観察できなかった。今後光学顕微鏡で拡大率100倍かあ るいは電子顕微鏡での観察も考慮しより詳細に検討したい。

3. エナメル芽細胞、象牙芽細胞の分化促進機序は何か。

回答:本研究から血中の脂質マーカー 値の上昇に伴い象牙芽細胞では増殖あるいは分化が亢 進 し、エナメル芽細胞では分化 が亢進したと考えられる。先行研究によると脂肪細胞から産生さ れ視床下部に作用するホルモンであるレプチンをヒト歯髄幹細胞へ添加した結果、象牙芽細胞 への分化を誘導した報告がある。我々も野生型マウスの切歯歯髄細胞の培養実験を行い分化メ カニズムの解析を検討したが、象牙芽細胞およびエナメル芽細胞の分化促進機序の解明までに は至らなかった。今後コレステロールだけではなくホルモンの関与など、エナメル芽細胞と象 牙芽細胞の分化メカニズムの解析を行っていきたい。

4. 歯の発生過程ではどのような変化が 認められると考える。

回答:脂質代謝の異常が歯の発生過程へ及ぼす影響を考える上で、我々も新生マウスを解析す る た め こ れ ま で に 高 脂 肪 食 を 与 え る こ と で 脂 質 異 常 症 を 発 症 し た マ ウ ス の 出 産 を 試 み た が 出 産させることができなかった。大変興味深く感じるので機会があれば検討したい。

(主査が記載)

(2)

美島 委員の質問 とそれらへ の回答

1. 本研究は、ヒトの病態としてどのようなモデルを反映しているのか。

回答:血液生化学的検査から野生型マウスの高脂肪食群は、標準食群と比較し 血中脂質マーカ ー値の有意な上昇を認めたことから 、脂質異常症を発症したと考えられる。今回用いた Ldlr-/- マウスは動脈硬化モデルマウスとして研究報告されており、高脂肪食を摂餌させることで大動 脈弓などにプラークが著しく沈着して動脈硬化症を発症する。これまでにヒトにおける脂質異 常症が歯髄狭窄を誘発するという報告は見つかっていないが、先行研究に臓器移植患者に対し てステロイドを長期に投与した結果、臼歯に歯髄狭窄が生じたという報告がある。ステロイド の長期投与は二次的に脂質異常症を呈するため、脂質代謝の異常が歯の形成に影響を及ぼした と考えられる。今までにヒトの歯髄は加齢に伴い生理的に狭窄することは知られているが、脂 質異常症を発症した患者の歯髄を X 線写真を用いて疫学的に調査した研究はないため、今後 脂質異常症患者の歯髄の検査の必要性を感じている。

2. Ldlr-/-マウスに低脂肪食を与えることにより病態はどのように変化すると考えられるか。

回答:今回我々が用いた標準食は低脂肪食とも考えられるが、先行研究に Ldlr-/-マウスに低脂 肪食を与えた場合も野生型マウスに比較して、総コレステロール値の上昇とアテローム性動脈 硬化病変の発生が認められたと報告がある。LDL受容体欠損によりコレステロール産生に影 響が出ると考えられ、低脂肪食を摂餌させた場合も象牙芽細胞の増殖に影響を及ぼし、下顎切 歯歯髄のわずかな狭窄が認められるのではないかと考える。

3. 動脈硬化と歯の伸長不全との関係はどのように考えているのか。

回答:先行研究にラット切歯において歯髄の血流障害により伸長速度が低下したという報告が ある。本研究では組織学的観察か ら歯髄中に血球の充満と考えられる所 見があり、動脈硬化モ デルマウスであることを鑑みると、豊富な血管を有する歯髄においても血流障害が起きていた と考える。今後歯根周囲の歯周組織を含めた非脱灰 凍結標本をオイルレッド O 染色すること で、歯髄中の脂質を含むプラークの沈着を観察すれば動脈硬化と歯の伸長不全の関係をより詳 細に解析できると考えられる。

両副査は、上記を含めた質問に対する回答が、いずれも満足のいくものであることを確認した。

主査 真鍋委員の 質問とそれ らへの回答

1. 加齢に伴う歯髄狭窄と脂質異常症の関係について。

回答:一般的にはヒトは加齢に伴い歯髄が生理的に狭窄することが知られている。一方でメタ ボ リ ッ ク シ ン ド ロ ー ム で あ る 患 者 は 加 齢 に 伴 い 脂 質 マ ー カ ー 値 が 上 昇 し 脂 質 異 常 症 を 発 症 す る例が多い。生理的な歯髄狭窄と脂質異常症を関連付ける報告はほとんどないが、今回の研究 から関連性が示唆されたと考える。現在、高齢マウス(60 週齢)の歯髄について解析を進め ており、加齢による歯髄狭窄と脂質異常症の関係性についても検討したい。

2. マウスにおいて高脂肪食摂餌を中止した場合、その後の切歯の伸長 速度はどうなるのか?

回答:先行研究にラット切歯において歯髄の血流障 害により切歯伸長速度が低下したという報 告 が あ る 。 本 研 究 の Ldlr-/-マ ウ ス の 高 脂 肪 食 群 は 動 脈 硬 化 モ デ ル マ ウ ス で あ る こ と を 鑑 み る と、豊富な血管を有する歯髄においても血流障害が起きていた可能性があ る。高脂肪食摂餌を 中止した場合でも動脈硬化は残存すると考えることから、切歯伸長速度は遅延傾向にあると考 察する。また肥厚した象牙質は硬度も高いことが考えられるため、より摩耗量が減少すること で切歯伸長速度は遅延したと考える。餌を高脂肪食飼料から標準食飼料へ変更した場合、餌の 硬度の変化は切歯伸長速度に影響を及ぼ す可能性はあるが、象牙質の肥厚が消失するには長時 間要すると考えられる。高脂肪食の摂餌期間と同じように 12 週間ほど標準食を摂餌させれば 象牙質は徐々に菲薄化し伸長速度は上昇すると考えられ、今後より詳細に検討したい。

3. 本研究の背景と歯科医療における臨床的意義について。

回答:本研究からマウスでは高脂肪食を与えることにより 、下顎切歯において象牙質の肥厚を 伴う著しい歯髄狭窄が認められた ことから、高脂肪食の摂取により発症した脂質異常症は動脈 硬化や虚血性心疾患だけでなく歯の形成異常をもたらすこと が明らかとされた。ヒトにおいて も 歯 の 形 成 過 程 に あ た る 幼 児 期 か ら 青 年 期 の 食 生 活 が 永 久 歯 の 形 態 や 萌 出 に 影 響 を 与 え る 可 能性があり、全身状態と歯の発育との関係性が示唆され たと考える。

主査の真鍋委員は、両副査の質問に対する回答の妥当性を確認するとともに、本論文の主張 をさらに確認するために上記の質問をしたところ、明確かつ適切な回答が得られた。以上の審 査結果から、本論文を博士(歯学)の学位授与に値するものと判断した。

(主査が記載)

参照

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