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論文審査結果の要旨

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Academic year: 2021

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氏 名 西田 遥 授与した学位 博 士 専攻分野の名称 理 学

学位授与番号 博甲第 5726 号 学位授与の日付 平成30年 3月23日

学位授与の要件 自然科学研究科 地球生命物質科学専攻

(学位規則第4条第1項該当)

学位論文の題目 キイロショウジョウバエの変態期における発生タイミングを決める生物タイマーの分子 機構と栄養シグナルの影響

論文審査委員 教授 上田 均 教授 富岡 憲治 教授 中越 英樹

学位論文内容の要旨

完全変態昆虫であるキイロショウジョウバエでは,恒温飼育条件下における変態開始およびその過程のタ イミングはほぼ決まっており,各発生ステージの期間を測定するタイマー機構が存在すると考えられる。前 蛹期間決定の分子機構に関する先行研究により,転写調節因子をコードするftz-f1が変態開始を誘導するエ クジステロイドパルス後,時期特異的に発現して蛹化タイミングを決定することが明らかになった。さらに,

転写抑制因子 Blimp-1 が前蛹前期の高エクジステロイド時にのみ発現することで,ftz-f1 の発現タイミング を制御することも明らかにされた。また,エクジステロイドホルモンはエクダイソン(E)として前胸腺で

Halloween 遺伝子産物によって生合成され,血リンパに放出される。幼虫期では,Halloween 遺伝子群のい

くつかの発現制御にFTZ-F1が関与するという報告があることから,前蛹期においてもE合成のタイミング

をFTZ-F1が決める可能性を検証するため,前蛹後期に起こる内在性のエクダイソンパルスより早くEを顕

微注入したが,蛹化が早まることはなかった。血リンパによって全身へ運搬された E は末梢組織において

Shade によって活性型エクダイソン(20E)に変換され,変態を誘導することから,20E を顕微注入したと

ころ,蛹化タイミングが早まった。この結果から,蛹化タイミング決定に重要な器官は前胸腺ではなく,末 梢組織である可能性が示唆された。そこでshadeを組織特異的に強制発現および発現抑制した結果,脂肪体

におけるshadeの強制発現で蛹化タイミングが早まり,発現抑制で遅れることを示した。また、変態タイミ

ング決定においては、FTZ-F1 とBlimp-1 の脂肪体での発現が重要であるという共同研究者による報告もあ り,蛹化タイミングを決定する生物タイマーは一貫して脂肪体で機能しており,蛹化タイミングを最終的に 決定するのはShadeがEを20Eに変換するタイミングであることが明らかとなった。栄養感知器官である 脂肪体にタイマーが存在していたことから,次は栄養状態が同定されたタイマー機構に及ぼす影響を理解す るための解析をおこなった。まず,3齢幼虫後期特異的に飢餓状態にした貧栄養条件個体で蛹化及び羽化の タイミングが遅れることを示した。また,貧栄養条件前蛹ではFTZ-F1の発現が遅れていたことから,栄養 シグナルは少なくともFTZ-F1より上流に入力されることが示唆された。次に貧栄養条件前蛹を用いてftz-f1

Blimp-1

shadeのタイマー関連遺伝子とE75APTTHのエクダイソン関連遺伝子の発現パターンを調べた。

その結果,コントロール前蛹では前蛹前期に消失するBlimp-1の発現が延長することによって,前蛹後期に 蛹化を促すftz-f1shadeの発現が遅れることが示された。また,エクダイソンパルスに応じて発現が変動 するE75Aの,発現低下や上昇のパターンが貧栄養条件前蛹では不明瞭となり,エクダイソンの生合成を促 すPTTHも全体的に低い発現しか確認できなかった。これらの解析から,貧栄養よって変態を引き起こすエ クダイソンの濃度上昇が緩やかになることで,タイマー関連因子の一過的な発現が明瞭でなくなり,生物タ イマーが厳密に機能しなくなると考えられた。貧栄養情報が蛹化タイミング決定に関与する機構を調べるた め,栄養代謝に関係の深いインスリンおよびTORパスウェイの活性を前蛹期の脂肪体特異的に変化させ,

蛹化タイミングへの影響を解析した。その結果,双方のパスウェイの活性化によって蛹化タイミングは大幅 に遅れたが,抑制によっても蛹化タイミングが遅れることはなく,前蛹期における同定されたタイマーの分 子機構への貧栄養情報の伝達においては,インスリンおよびTORパスウェイが介在する可能性は低いと考 えられた。

(2)

論文審査結果の要旨

生物の発生過程のタイミングはほぼ決まっており,各発生ステージの期間を決めるタイマー機構が存 在すると考えられる。しかし、その分子機構および存在部位はほとんど明らかになっていない。本研究 ではキイロショウジョウバエの前蛹期間を決めるタイマーの分子機構を明らかにすることを目的に解 析を行った。まず,前蛹後期に起こる内在性のエクジステロイドパルスより早くエクダイソン( E )あ るいは 20 ヒドロキシエクダイソン( 20E )を顕微注入したところ, 20E によってのみ蛹化タイミング が早まった。この結果から,蛹化タイミング決定に重要な器官は E を放出する前胸腺ではなく, E を 20E に変換する末梢組織である可能性が示唆された。そこで shade を組織特異的に強制発現および発 現抑制したところ,脂肪体における shade の強制発現で蛹化タイミングが早まり,発現抑制で遅れた ことから,蛹化タイミングを決定する生物タイマーは脂肪体で機能しており,蛹化タイミングを最終的 に決定するのは Shade が E を 20E に変換するタイミングであることが明らかとなった。次に栄養感知 器官である脂肪体にタイマーが存在していたことから,栄養状態が同定されたタイマー機構に及ぼす影 響を調べた。まず, 3 齢幼虫後期特異的に飢餓状態にした貧栄養条件個体で蛹化および羽化のタイミン グが遅れた。また,貧栄養条件前蛹では FTZ-F1 の発現開始が遅れていたことから,栄養シグナルは少

なくとも FTZ-F1 より上流に入力されることが示唆された。次に貧栄養条件前蛹を用いてタイマー関連

遺伝子のエクダイソン関連遺伝子の発現パターンを調べた。その結果,コントロール前蛹では前蛹前期 に消失する Blimp-1 の発現が貧栄養によって延長し,これによって前蛹後期に蛹化を誘導する ftz-f1

と shade の発現が遅れることが示唆された。また,エクジステロイドパルスに応じて発現が変動する

E75A の発現低下や上昇のパターンが貧栄養条件前蛹では不明瞭となり,エクダイソンの生合成を促す PTTH も全体的に低い発現しか確認できなかったことから,貧栄養状態が変態を引き起こすエクジステ ロイドパルスに影響することで,蛹化タイミングを決める生物タイマーに影響が及んだ可能性が生じた。

以上の結果は,発生過程におけるタイマーの分子機構とその役割を明らかにする発生生物学分野にお

いて意味のある解析であり、博士論文に相当すると判断される。

参照

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