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パネルディスカッション1  難治性 UC における CMV の取り扱い ~海外のガイドラインと日本の real practice ~

PD-1  潰瘍性大腸炎に合併するサイトメガロウイルス再活性化症例の治療法

と予後の検討

福岡大学筑紫病院消化器内科

高津 典孝、平井 郁仁、松井 敏幸

【背景と目的】  以前、我々は、CMV(Cytomegalovirus) 再活性化が UC(Ulcerative colitis) の難治化の要因となり、そのよ うな症例に抗ウイルス療法が有効であることを報告した (Wada.Y , Dis Colon Rectum,2003)。  そこで、タクロリムスや抗 TNF- α抗体製剤等の新規治療薬が使用可能となった昨今、UC に合併した CMV 再活性化症例を後方視的に振り返り、その治療法、予後の変遷を明らかにすることを目的とした。 【対象と方法】  2009 年 1 月から 2014 年 7 月の期間で、初発または再燃を来たし入院加療を行った、中等症~重症 UC177 例の内、入院経過中に CMV 再活性化を認めた 58 例を対象とした。CMV 再活性化の定義は、①血清学的 CMV 抗原 (C10/C11、C7-HRP) 陽性、②組織学的 CMV の証明 ( 封入体、免疫染色 ) のいずれかを満たすも のとした。全対象 58 例を、免疫制御療法 ( ステロイド、血球成分吸着除去療法、免疫調整薬、抗 TNF- α抗 体製剤 ) に加え、GCV(Ganciclovir) による抗ウイルス療法を行った 36 例 (GCV 投与群 ) と、免疫制御療法の 強化またはステロイド減量のみで治療した 22 例 (GCV 非投与群 ) に分け、それぞれの臨床背景、治療成績を 比較検討した。 【結果】  GCV 投与群 36 例と GCV 非投与群 22 例の臨床背景の比較では、経過中の最大 CMV 抗原陽性細胞数 にのみ有意差を認め、C7-HRP 陽性細胞数の平均は、GCV 投与群 6.2 ±11.9、非投与群 1.5 ±1.8 であった (p=0.024)。8 週間後の短期治療成績 ( 有効率 ) は、GCV 投与群 69.4%、非投与群 86.4% であり、両群間に有 意差を認めなかった (p=0.21)。 2 年後の累積非再燃率は、GCV 投与群 30.3%、非投与群 75.7% であり、非 投与群の方が有意差をもって再燃率が低かった (p=0.013 )。  【考察と結語】

(3)

− 23 − パネルディスカッション1  難治性 UC における CMV の取り扱い ~海外のガイドラインと日本の real practice ~

PD-2  潰瘍性大腸炎に合併した Cytomegalovirus 感染は全て抗ウイルス薬

で治療すべきなのか ?

東京医科歯科大学消化器内科

1)

慶應義塾大学医学部消化器内科

2)

北里大学北里研究所病院炎症性腸疾患先進治療センター

3)

松岡 克善

1)

、武内悠里子

2)

、渡辺  守

1)

、日比 紀文

3)

、金井 隆典

2)  Cytomegalovirus (CMV) は乳幼児期に感染し、その後も不顕性に感染は持続する。通常の免疫状態では CMV が症状を引き起こすことはないが、免疫抑制状態では CMV は再増殖し臓器障害を引き起こすことがあ る。潰瘍性大腸炎の治療では免疫を抑制する薬剤を使用するため、CMV 再活性化の高リスク状態となる。実 際に潰瘍性大腸炎の治療抵抗例で CMV が腸管局所で高頻度に検出されるとの報告が相次いだ結果、CMV が臓器障害 ( 腸炎 ) を引き起こし潰瘍性大腸炎の難治化に関与している可能性が提唱されている。その一方で、 CMV は再活性化にとどまっており、いわば by-standerとして検出されているにすぎないという可能性も示され ており、潰瘍性大腸炎における CMV の病原性については、盛んに議論されている。現在の ECCO ガイドライ ンでは、腸管局所での免疫染色もしくは PCRで CMVが検出された場合は、抗ウイルス薬の使用を推奨している。  われわれは以前に CMV 抗原血症検査もしくは血漿中 CMV-PCR が陽性化しても、潰瘍性大腸炎の治療を 継続することで、ほとんどの症例で CMV が陰性化することを報告した。さらにその後の検討で、大腸粘膜の CMV 免疫染色陽性症例であっても、抗ウイルス薬投与なしで潰瘍性大腸炎に対する免疫抑制を強化すること で、CMV 陰性症例とほぼ同様の治療効果が得られることを見出した。  副腎皮質ステロイド薬投与前から大腸粘膜 CMV-PCR 陽性例が存在すること、炎症部で CMV が検出され た症例でも ( 免疫抑制状態は同じであるはずの ) 非炎症部からは CMV が検出されないこと、といった観察か ら CMV 再活性化には炎症の存在が必須と考えられる。そのため、潰瘍性大腸炎の炎症を制御することは、 CMV 再活性化の治療にもつながると考えられる。今後は、CMV が真に腸炎を引き起こしている症例を選別す るための基準の確立が必要である。

(4)

パネルディスカッション1  難治性 UC における CMV の取り扱い ~海外のガイドラインと日本の real practice ~

PD-3  難治性潰瘍性大腸炎(UC)におけるサイトメガロウイルス(CMV)の

取り扱い

独立行政法人国立病院機構弘前病院 消化器血液内科 

石黒  陽

 【背景と目的】特に治療経過・反応性から見た CMV の関与について、自験例について考察する。【結果】1) 難治例は 35 例で、経過中サイトメガロウイルスアンチゲネミア(C10-C11) が陽性となったのは 15 例(42.3%)であっ た。陽性 15 例中 6 例で手術治療を受けており、いずれもGaciclovil (GCV) 投与を受けていた。内訳は反応あり: 4 例、反応なし:2 例であった。陽性 15 例のうち、非手術例 9 例中 7 例に GCV が投与されており、反応あり 6 例で 1 例は部分的に反応あり、既存治療の見直しでさらに改善した。2 例は GCV 投与無しで、既存治療の 変更で改善した。2)2001 年以降 2012 年まで検索し得た関連施設における手術例は、50 例中 15 例で CMV が陽性(30%)で GCV は 10 例に投与されていた。上記内科治療に含まれるのが 6 例、5 例については治療 反応性の詳細は不明。GCVが投与されていない 4 例については手術標本における免液染色で CMV+であった。 3)統計学的に CMV 陽性は 55 歳以上、ステロイド投与群で有意に増加した。【考察】CMV の陽性頻度は既 報の如く難治例において 30-40% 程度、55 歳以上、ステロイド投与で有意に増加する。既存治療に反応がな い状況では CMV が陰性となっても改善に乏しく、治療変更に伴い改善した症例が 3 例、治療反応中の増悪、 遷延時に介入し反応が得られたのが 6 例であった。手術例は内科治療変更かつ GCV 併用にて反応あるも、治 療継続を断念したのが 2 例(組織学的には低活動性)であった。また既存治療 +GCV 併用で反応が得られず 手術に至ったのが 4 例であった。【結語】CMV は増悪因子として関与している場合がある。基本治療そのもの に対する ( 多くはステロイド ) 反応性がある場合の増悪時がその代表であり、基本治療の見直しで改善する場 合もある。

(5)

− 25 − パネルディスカッション2  IBD の集学的治療 ~診療科間の連携の重要性~

PD-4  内科医の立場からみた炎症性腸疾患診療における診療科間の連携の

重要性

慶應義塾大学病院 内視鏡センター

長沼  誠

 炎症性腸疾患の外来・入院診療はまず内科医が行うことが多いが、外科、肛門科、放射線科、精神科、病 理、看護師、薬剤師、栄養士、ケースワーカーなど多くの診療科・部門との連携が重要であり、診療間連携の 成否が患者診療の質に反映するといっても過言ではない。しかし 1 人の医師が複数の役割を果たしてきた歴史 や医療システムの問題点などより、診療間連携が十分機能していない施設も多いと思われる。また炎症性腸疾 患における診断・治療の進歩により、炎症性腸疾患患者診療に必要な情報、知識も多彩になり、他業種スタッ フに対する教育や知識の啓蒙活動などが重要である。  本講演では炎症性腸疾患診療における診療科間の連携を円滑に行うための取組みや、スタッフに対する教育 を行うためのシステム構築について概説し、討論できればと考えている。

(6)

パネルディスカッション2  IBD の集学的治療 ~診療科間の連携の重要性~

PD-5 外科の立場から

兵庫医科大学 炎症性腸疾患学講座  

内野  基、池内 浩基

 難治性 IBD に対する治療では手術タイミングが重要と言われる場合もあるが明確な基準はない.潰瘍性大 腸炎(UC)では重症に対する治療選択で考慮が必要な場合が多い.様々な合併症回避を念頭におき治療方針 決定の必要があるが究極的には死亡症例を回避することに集約される.2009 年以降の手術症例をもとに検討 を行い、適切なタイミング、連携の重要性について考察した.クローン病(CD)では重症 UC のように早急な 判断を要する場合は少ないが、手術適応別に治療戦略を考察した.【結果】UC 重症,劇症の 129 手術症例で は PSL60mg/day 以上 29%、thiopurine 使用 41%、carcineurin inhibitors(CNIs)26%、biologics12% であり, 緊急手術が 72% であった.合併症を回避すべく38% が 3 期分割手術となっていた.死亡症例は 2 例 (1.6%) でいずれも 80 歳以上の症例であった.2012 年以降,UC181 例での多剤免疫抑制治療と術後感染症の関連で は,免疫抑制なし 28%,単剤 17.8%,2 剤 25%,3 剤 8.6% で有意差はなかった.PSL 使用 (OR17.4),総投 与 PSL12,000mg 以上 (OR2.6),高度麻酔リスク (OR2.8),重症以上 (OR5.2),術中出血 (OR3.9) が感染合併 症にリスクであった.CD での手術タイミングは適応別に異なる.外科的観点からは狭窄(拡張腸管の減圧), 出血(事前に病変部位を同定,biologics 投与が第 1 選択),膿瘍(可能な限りドレナージ先行),瘻孔(絶食, biologics などによる炎症沈静化)が望ましい.出血で広範囲の病変を有する場合には切除範囲の決定が困難 な場合がある.膿瘍ドレナージ不良の場合には1期的吻合が不可能となる可能性がある.その他,診療間連 携の問題としては肛門病変に対する治療が挙げられる.Biologics が使用されることが多いが本来禁忌である膿 瘍,狭窄症例も多く,投与前に拡張,ドレナージの必要性を充分検討する必要がある.【結語】手術症例から は高齢 UC の治療タイミング,術式選択に考慮が必要であるが,死亡症例は減少しており,診療科間,施設間 の連携が確立されつつある.CD では個々の症例に合わせた治療戦略が必要である.

(7)

− 27 − パネルディスカッション2  IBD の集学的治療 ~診療科間の連携の重要性~

PD-6 小児科医の立場から

国立成育医療研究センター消化器科  

新井 勝大

小児期発症 IBD に特異的な問題として、1)乳幼児期発症例における幅広い鑑別診断、2)疾患の成長・発 達への影響、3)小児用剤型の薬の不足、4)クローン病における栄養療法・食事療法の位置づけなどがあ げられる。 1)鑑別診断について、内視鏡検査や小腸の評価が乳幼児患者に対しても積極的に行われるようになったが、 免疫不全症や自己炎症性疾患との鑑別は容易ではない。小児消化器医としての知識のみでなく、骨髄移植の可 能性を含め、免疫不全症を適切に評価・治療できる医師との連携が必要となる。 2)患者の成長・発達については、主治医が、その評価を行っていることが最重要で、成長曲線をつけること の重要性は強調してもしきれない。適切な栄養と炎症のコントロール、ステロイドの使用制限は当然として、成 長ホルモン分泌不全がかくれているケースもあり、時期を逸することなく速やかに小児内分泌医師と連携してい くことが重要となる。 3)特に乳幼児期発症の IBD 患者では、錠剤の嚥下は困難なため、顆粒製剤、粉砕薬などを要する。内服法 の工夫を含め、薬剤師への相談と、薬剤師による指導が、患者のコンプライアンスの向上につながることも少な くない。 4)生物学的製剤の出現により、栄養療法、食事療法が強調されることが少なくなった感もあるが、特に罹病 期間の長い小児患者において、栄養療法、食事指導を軽視すべきではない。患者の希望と疾患活動性をみな がらのバランスをとった指導が求められ、経験のある医師と管理栄養士の存在が重要である、 最後になるが、小児期発症の IBD 患者は、最終的には成人の内科・外科へと診療の場が移行することを含め、 小児科医と内科医・外科医の相互理解と連携が、これまで以上に重要になってきていると考える。

(8)

パネルディスカッション2  IBD の集学的治療 ~診療科間の連携の重要性~

PD-7 IBD チーム医療における看護師の役割

札幌東徳洲会病院 消化器・IBD センター病棟  

袴田 麻美、堀  里美

 再燃と寛解を繰り返す炎症性腸疾患(IBD)の診療においては,長期寛解を維持し,患者の QOL 向上を目 的とした医療や看護が必要である.寛解維持のためには,治療の自己管理が必要となるため,生活指導や技 術指導などの患者指導において,患者や家族の協力も必要不可欠である.また罹患年齢も幼児期から老年期 と幅が広く,ライフステージに沿ったケアが求められる.  このことから,最も近いところで患者の身体的,精神的,社会的苦痛へのケアをしている看護師の役割は大 きいと考える.また,患者や家族の多くは悩みや不安を持ち,その気持ちを誰かと共有したいと考えている. すなわち,身近に専門性のある看護師がいることは,患者や家族にとって相談しやすい環境となり,患者にとっ てより良いケアの提供につながる.  さらに看護師が患者のニーズを把握し,看護師間で共有した患者の現時点での問題点や今後生活を行う上で の注意点を,病棟,外来,検査,訪問看護等の部門と院内連携をはかり,多職種と情報共有を行いながら, その職種が患者を把握しケアを行う.すなわちチーム医療で取り組むことによって,患者に寄り添った医療,看 護の提供が実現可能になると思われる.  チーム医療を行う時の専門性を考えると,医師,栄養士,薬剤師などの多くの職種が,常に専門性を発揮で きる環境にある.一方で,看護師のおかれている現状は,病棟の診療科配置や,病棟,外来での多重業務, 部署移動等により,IBD 患者を専従的に看護展開するのが困難な現状である.  当院においても,看護師の現状について例外ではない.しかし,カンファレンス,IBD ミーティング等で,情 報共有や患者の問題点を把握しケアを行っているが,現状としては,看護師のスキルや経験によることも少なく ない.したがって専門的スキルを持つ看護師によるケアの実践や,看護師教育,多職種との連携が行える IBD 専門看護師のような制度の確立が急務と思われる.

(9)

− 29 − パネルディスカッション2  IBD の集学的治療 ~診療科間の連携の重要性~

PD-8 IBD チーム医療における薬剤師の役割

北里大学北里研究所病院 薬剤部  

八木澤啓司

 クローン病や潰瘍性大腸炎の治療指針を見るとわかるように、炎症性腸疾患(以下 IBD)の治療は薬物治 療が主体であり、そこに記載される薬剤の多くは「特に安全管理が必要な医薬品」として診療報酬上にも定め られているものである。こうした薬剤の使用にあたり、薬剤師がチームの一員として医師と違う観点から治療に 参加することは、患者の理解を助け QOL 向上に役立つのみならず、医薬品の適正使用、医師・看護師をはじ めとしたメディカルスタッフの負担軽減、リスクマネジメントなど多面的に貢献できるものと考えられる。  北里大学北里研究所病院(以下、当院)では 2013 年 4 月に炎症性腸疾患先進治療センター(IBD センター) を開設した。同時に各メディカルスタッフにより構成される IBD チームが組織され、チーム医療に取り組んでい る。当院の IBD チームには薬剤師が 3 名おり、メディカルスタッフと治療方針を共有し、院内勉強会や院外講 演会等に積極的に参加して専門知識を深めつつ、IBD 患者の診療に携わっている。具体的には、入院患者に 対する服薬指導をはじめとして薬物治療に関する多種多様な業務を行っているが、特にカンファレンスで今後の 選択肢として挙がった治療については事前に薬剤師から患者へ説明の補助を行い、患者の選択をサポートして いる。患者への説明に際しては IBD 患者の特徴(若年で理解力が高い、病態・治療への関心が高い)や使用 薬剤の特徴を踏まえた上で、副作用ばかりではなくメリットを十分に理解してもらえるよう、また医師の説明+ αの情報が伝えられるよう心掛けている。また、入院患者に対してチームの薬剤師が横断的に関与することで、 内科・外科、特別個室病棟などの入院病棟に関わらず、一貫した指導ができる体制をとっている。現在、院内 IBD 薬剤マニュアルを作成しており、今後外来患者へも同レベルの指導を行えるようにしていく予定である。また、 他施設との情報交換・連携も強化していきたい。

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IBD 診療の基本

O-1 診断編

福岡大学筑紫病院消化器内科 ・IBD センター  

平井 郁仁

 潰瘍性大腸炎(以下,UC)やクローン病(以下,CD)の診断は確立されており,本邦には厚生労働省の難 治性炎症性腸管障害に関する調査研究班が作成した診断基準が存在する.通常は,この基準に基づき,比較 的容易に確定診断が可能である.しかしながら,発症初期や炎症の急性増悪期には,定型的な経過を示さな い場合や感染症との鑑別が困難なこともある.さらに,十分な検索が行われているにも関わらず確定診断が困 難な症例や他疾患との鑑別に苦慮する非典型例も稀に存在する.腸管に炎症をきたす疾患は,形態的変化を 少なからず伴うため,X 線や内視鏡などを用いた形態学的な検査による所見の把握が不可欠である.各疾患は それぞれ形態学的特徴を有しており,発赤,アフタなど軽微なものから浮腫,潰瘍,狭窄など高度の変化を適 確に判断する必要がある.もちろん,生検や手術材料による病理学的所見は診断に極めて有用であるが,IBD においては病理学的診断が全てではなく,臨床医が総合判断し,診断を確定することが求められる.本講演 では一般的な UC や CD の診断方法に加え,診断困難例への対処や鑑別の方法を主に形態学的所見の側面か ら解説したい.IBD の臨床において重要と思われる疾患との鑑別点や UC と CD の鑑別困難例などを中心に 解説する予定である.可能な限り実際の症例を呈示し,これから IBD を担う先生方の実臨床に有益となるよう な講演としたい.

(11)

− 31 − IBD 診療の基本

O-2 治療編

北里大学北里研究所病院 炎症性腸疾患先進治療センター 

小林  拓

 本邦における炎症性腸疾患(IBD)罹患患者は増加の一途を辿っており、その増加のペースを考えると、現 在20代~30代の医師にとって、将来現在の数倍の患者の診療に関わることになるのはほぼ確実と思われる。 潰瘍性大腸炎(UC)とクローン病(CD)は IBD として一括りに扱われることも多く、実際に多くの薬剤が共通 して用いられるが、罹患部位や合併症(瘻孔、狭窄、発癌など)をはじめとして、病態の違いにも精通しておく 必要がある。  治療戦略はそれぞれの治療指針に詳しいが、共通点の一つが、寛解導入と維持を分けて考えるということで ある。ステロイド、血球成分除去療法、シクロスポリン、タクロリムスは、優れた寛解導入療法である反面、長 期投与による維持効果はないか、乏しいと考えられており、特にステロイドを長期継続使用することは副作用の 面からも断じて避けなければならない。反対にチオプリン製剤は寛解維持に使用され、上記による寛解導入に 引き続いて使用されることが多い。抗 TNF- α抗体製剤は寛解導入に有効であった症例については継続投与に よる寛解維持効果があると考えられている。その高い安全性から多くの症例の寛解導入・維持双方に 5-ASA 製剤が用いられるが、中等症以上への有効性は高くはない。一方で外科手術の位置づけは両疾患で大きく異 なる。UC では慢性的な疾病状態と決別しうる方法であるのに対し、CD においては現存する病変の除去に有 効である反面、術後の介入なくして高率に再発するため、予防的内科治療戦略が重要である。  このように現在では幅広い選択肢が存在し、重症度や罹患部位を同時に考慮に入れ使い分けるように治療 指針で定められている。患者の多くは未来ある若年者であり、病態や予後はもちろんのこと、個々の人生設計 や目標すらも考慮に入れて患者にとっての最善の選択肢をともに考え、実現していくことは、医師としてとてもや りがいのある分野だと思っている。

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IBD と間違えてはいけない疾患の鑑別診断

O-3 IBD と間違えてはいけない疾患の鑑別診断―感染性腸炎を中心に

大阪市立十三市民病院消化器内科  

大川 清孝

 狭義の炎症性腸疾患(IBD)である潰瘍性大腸炎(UC)とクローン病(CD)は多彩な内視鏡像を示すため、 広義の IBD との鑑別が必要である。具体的には感染性腸炎、腸管ベーチェット病・単純性潰瘍、非特異性多 発性小腸潰瘍症、憩室性腸炎、collagenous colitis、NSAIDs 起因性腸炎などとの鑑別が問題となる。その中 でも感染性腸炎は UC や CD の治療薬であるステロイドや免疫調節薬や抗 TNFα製剤などにより増悪する可 能性があり、その鑑別は特に重要である。感染性腸炎の中で UC と鑑別を要する疾患にはアメーバ性大腸炎、 カンピロバクター腸炎、サイトメガロウイルス腸炎などが、CD と鑑別を要する疾患には腸結核、エルシニア腸炎 などがある。  内視鏡的に正しく鑑別診断するためにはある程度の経験が必要であるが、最近はよい成書があるため専門 施設にいなくてもある程度可能になっている。正しい診断が患者さんの治療や予後に直接関係するため、内視 鏡診断は非常に重要であり、診断精度をあげるために常に努力することが IBD を専門とする医師にも求められ ている。また、正しく鑑別診断するためには内視鏡像のみでなく、疾患そのものの知識も必要である。  本講演では実際に UC や CD と間違ったあるいは間違えかけた症例を多く提示し、なぜ間違ったのか、どう すれば間違わないようにできるのかを考察する。

(13)

− 33 − これだけは知っておきたいIBD研究のトピックス

O-4 IBD Genetics 『炎症性腸疾患関連遺伝子解明の現状と将来展望』

(独)理化学研究所 統合生命医科学研究センター 基盤技術開発研究グループ  

山﨑 慶子

 炎症性腸疾患 (IBD) はクローン病 (CD) と潰瘍性大腸炎 (UC) に分類される難治性慢性疾患である。多くの 疫学的研究より遺伝的要因が強く疑われる多因子疾患の一つである。国際ハップマッププロジェクトによるゲノ ム情報の集積、解析ツールの発達により、一塩基多型 (SNP) を用いた多因子疾患の全ゲノム関連解析 (GWAS) が盛んに行われるようになった。遺伝寄与率の高い CD の GWAS が UC に先駆けて行われ、欧米を中心に 2005 年よりNOD2、IL23R、ATG16L1、TNFSF15などが CD 関連遺伝子として報告された。2009 年より MHC 領域、FCGR2A などが UC の関連領域として報告された。その後、欧米人集団の GWAS データの大規 模メタ解析が行われ、既知領域を含む 163 領域が IBD 関連領域として報告された。しかし、GWAS で同定さ れた領域全てを用いても、遺伝的寄与率は 25% 程度にとどまる。  IBD の遺伝的背景が明らかになるにつれ、疾患関連領域、特に CD に関連する多型には人種差があること も示唆されている。NOD2 や IL23Rなど欧米人集団で報告された多型は、日本人集団では見られない。また、 MHC 領域のように欧米・日本人共通 IBD 感受性に関連する領域であっても、関連の強さが大きく異なること がある。欧米に比べアジア諸国の IBD 患者数は少ないが、この数十年で増加の一途にある。今後、全世界的 に IBD の関連遺伝子が同定され、疾患メカニズムが明らかになっていくと考えられる。  次世代シークエンサーの登場により、疾患関連遺伝子の探索は post GWAS の時代を迎えている。既報領 域含め機能的変異や、早期発症例の IBD 家系において新たな原因遺伝子が同定されつつある。本演題では、 IBD 関連遺伝子解明の歴史と今後の展望について報告する。

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これだけは知っておきたいIBD研究のトピックス

O-5 日本人腸内細菌叢の特徴と IBD 腸内細菌叢

東京大学大学院新領域創成科学研究科・オーミクス情報センター  

服部 正平

 人体には数百種の常在菌が数百兆個生息している。常在菌の住処は口腔、鼻腔、胃、小腸・大腸、皮膚、 膣など全身にわたるが、その種類や菌数、組成比は生息部位によって異なり、それぞれ固有の細菌集団(常在 菌叢)が形成されている。とくに、腸内細菌叢の研究については、宿主ヒトの健康と病気との関連性から古く から行われて来た。しかし、多くの難培養性細菌の存在や個人間での高い多様性などが理由で、その明確な 機能や全体像の解明は長く困難となっていた。このような状況の中、2008 年にヒト常在菌叢ゲノム(ヒトマイク ロバイオーム)研究の国際コンソーシアム(IHMC: International Human Microbiome Consortium)が立ち上がっ た。本コンソーシアムは、データ共有や技術の開発と標準化などの国際的な研究連携により、次世代シークエ ンサーを用いて大量のヒトマイクロバイオームデータをもとに、腸内細菌叢の体系的かつ包括的な解明をめざし ている。これまでに、各国における健常者とさまざまな疾患患者の腸内細菌叢のメタゲノム(遺伝子)と 16S rRNA 遺伝子(細菌種)データの収集や分離培養した個々の常在菌株のゲノムデータの収集とデータベース化な どが組織的に進められて来た。さらに、この世界的な研究推進にともない、免疫や代謝、疾患、老化などの様々 なヒトの生理状態や食習慣などとの関連において、腸内細菌叢(あるいは個別の腸内細菌種)の生理作用を調 べる研究も今日著しく増加してきている。そして、これらの研究から、ヒト腸内細菌叢がこれまでの想像を越え て多様かつ密接に疾患も含めたヒトの生理状態に影響することが明らかになってきた。  本講演では、演者のグループが長年取り組んできた次世代シークエンサーを用いたヒト腸内細菌叢のメタゲノ ム解析による日本人の腸内細菌叢の生態学的・機能的特徴、並びに炎症性腸疾患患者の腸内細菌叢について 紹介する。

(15)

− 35 − これだけは知っておきたいIBD研究のトピックス

O-6 なぜ私は腸管免疫を研究するに至ったか 

久留米大学医学部 免疫学講座  

溝口 充志

 1980 年代後半に遺伝子操作マウスが紹介され、1993 年には 3 種類の異なった遺伝子操作マウスが腸炎を 自然発症する事が報告された。その後 59 種類もの遺伝子操作マウスが腸炎を自然発症する事が報告され、驚 きを与えた。しかし、ヒトにおいても潰瘍性大腸炎で 59 種類の感受性遺伝子が、クローン病でも 71 種類の 感受性遺伝子が Genome wide association study で現在同定されていると共に、これらの感受性遺伝子の内、 16 遺伝子の欠失または過剰発現がマウスに腸炎を惹起する事が既に報告されている。また、多くの推測を超 越した事実が遺伝子操作マウスより明らかにされている。例えば、IL-2 がT細胞の増殖ばかりでなく活性化後 の細胞死に必要であること、自然免疫特異的な STAT3 や NF- κ B の活性化は炎症性腸疾患 (IBD) に対して 抑制的に働いている事、若年での虫垂切除が潰瘍性大腸炎発症の抑制因子として働いている事、B細胞の中 には自己反応性 B 細胞に加えて IL-10 産生を介して腸炎の改善に働く B 細胞群が存在する事等が遺伝子操作 マウスより見出されている。特記すべきは、現在米国で認可されている、又は第3相臨床試験で良好な結果が 出ている生物学的製剤の多くは、動物 IBD モデルからの統一見解を基に臨床治験が開始されている。よって、 動物モデルはヒトIBD を完全に反映する事は不可能であるが、病態の解明及び新たな治療法の開発に多大な 貢献をもたらしていると考えられる。この遺伝子操作マウス、そして、この技術・概念を創出した世界的な研究 者達との 1992 年の出会いが、小生の腸管免疫研究開始の原動力であったと考えられる。

(16)

役に立つ臨床統計シリーズ

O-7 臨床研究における統計学 最初の一歩

東邦大学医学部社会医学講座衛生学分野  

西脇 祐司

 医療・医学の進歩のためには、臨床研究が不可欠であることは論をまたない。とくに日本人におけるエビデン ス集積のため、日本での質の高い臨床研究の必要性が叫ばれて久しい。これまでにも多くの臨床の先生方から ご意見、ご質問を受けてきたが、研究デザインや倫理規則などと並んで、統計や検定に関するご要望が多いよ うに見受ける。通常、治験や大規模な臨床研究には疫学・統計学の専門家が共同研究者として参画するのが 通常であり、デザイン立案や解析の実施に問題はない。しかしながらむしろこれらは少数派であって、臨床医 の多くは自らデータを集積し、解析し、論文を書くなかで非常に苦労をされているのが実態ではないだろうか。 何を隠そう私自身は臨床医時代さっぱり理解できなかった。理解どころから、あまりかかわりたくないとさえ思っ ていたのが正直なところである。しかし、もはやそうも言っていられない時代にあることは間違いない。  その後、多くのご相談を受け、また共同で臨床研究に取り組んでいる中で、いくつかの知っておくべきポイン トがあるように感じた。たとえば、いくつかを列挙すると ・検定方法はどのように使い分けるのか? ・p値とは何か?それほどに重要か?0.05 を上回ったら、だめな研究か? ・多因子を調整するとはどういうことか? ・統計モデルはどのように組み立てたらよいのか? などなどである。  統計学という学問は、一人で教科書を読もうとするとたしかにめげる。誰かを呪いたくなるほどである。限ら れた時間内では限界もあるが、当日は統計学の重要事項のいくつかに関してお話ししてみたい。臨床医の先生 方にとって、今後の臨床研究に役立つような最初の一歩になれば幸いである。

(17)

− 37 − IBD 肛門病変の基礎知識

O-8 IBD 肛門病変の基礎知識

福岡大学筑紫病院外科  

二見喜太郎

 消化管の終末部である肛門部の診療は患者にとっては知られたくない、医療者にとっては面倒で分かりにく いという先入観からとかく怠りがちになる。Panintestinal disease であるクローン病 (CD) において肛門部は罹 患頻度が高く、病変は難治性で長期的には癌のリスクを伴い、QOL を左右する重要な因子となる。特徴的な 病変は診断基準の一つに取り上げられているが、肛門部症状を初発とすることも少なくなく、早期診断の手掛 かりとしての意義も大きい。病態は潰瘍病変、瘻孔・膿瘍、肛門皮垂、狭窄そして癌などで、Hughes らの分 類が参考になる。最も頻度の高い瘻孔・膿瘍の特徴は複雑多発性で正確な診断には麻酔下の検索 ( EUA: Examination Under Anesthesia ) が最も重要で、画像所見を加えれば診断能はさらに高くなる。薬物治療と しては抗菌剤、免疫調節剤、抗 TNF- α抗体製剤が推奨されているが治癒を導くことは難しい。局所的な外 科治療の目標は侵襲的な手段は控えて、症状の軽減、QOL の回復に置き、長期的な肛門機能の維持も考慮し て seton 法ドレナージが適する。重症例に適応される人工肛門造設は QOL の回復には優れるが閉鎖は難しい。 CD 関連肛門部癌は稀ではあるが悪性度が高く、早期診断には積極的な生検が重要となる。  潰瘍性大腸炎は粘膜下層までに炎症の主座がある病態からみても直接的に肛門病変を生じることは稀で、頻 回の下痢あるいは tenesmus による肛門部の刺激が原因と考えられており、特有の肛門病変を呈する CD との鑑 別にもなる。非手術例では瘻孔・膿瘍、痔核の頻度が高く、大腸全摘例では吻合部に関連した瘻孔もみられる。 重症の pouchitis から波及した肛門病変は難治化し、重症例には人工肛門も適応される。  IBD において肛門部の診療は診断的かつ治療的に欠かせぬものであり、直接視て触ることのできる肛門部の 観察に慣れることが肝要で、実際の見方についても解説を加える。

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抗 TNF 抗体の overview

O-9 CD とUC の成績

東京慈恵会医科大学 消化器・肝臓内科  

猿田 雅之、田尻 久雄

 潰瘍性大腸炎 (UC)、クローン病 (CD) に代表される炎症性腸疾患は、患者数が 2012 年に UC は 14 万 3000 人、CD は 3 万 6000 人を超え、現在もさらに増加している。両疾患は、若年で発症し、腹痛、血便、下痢、 体重減少などを認めるため生活の質が著しく低下し、さらに完治ができないために、かつては「臨床症状を抑 え生活の質を改善させること」を治療目標として、副腎皮質ステロイドを漫然に使用し副作用に悩むことも多かっ た。近年、既存治療で十分な効果が得られない場合、炎症性サイトカイン TNF- αに対する抗体製剤を使用す ると高い寛解導入効果および維持効果を示すことが報告され、CD に対するインフリキシマブ (IFX) が 2002 年、 アダリムマブ (ADA) は 2010 年、UC に対する IFX は 2010 年、ADA は 2013 年にそれぞれ保険承認された。 両製剤は、腸管粘膜内の慢性炎症の首座を制御し、腸管粘膜の完全な粘膜治癒を実現しうるため、同薬剤の 登場で病気自体の自然史が変わり、治療目標も「腸管粘膜の完全粘膜治癒」へと変化している。  これらの結果を受け、本邦の CD 治療指針においても、抗 TNF 抗体は、重症症例、肛門病変を有する症例、 あるいは狭窄 / 瘻孔を有する病変に対し良い適応とされ、寛解維持にも使用可能である。さらに、UC 治療指 針においても、重症~劇症症例、免疫調節薬にて改善しないステロイド依存症例、ステロイド抵抗症例におい て適応とされている。当院でも、近年の CD、UC に対する抗 TNF 抗体の使用率は高くなってきているが、一 方で、同薬剤の長期間使用による安全性の確認や、抗体製剤を休止することが可能か、あるいは高額な抗体 製剤による医療費高騰などの問題もあり、種々の検証が求められている。本セッションでは、CD および UC の 抗 TNF 抗体の治療成績を中心に、副作用の発現率、手術回避率などにつき、検証していきたい。

(19)

− 39 −

抗 TNF 抗体の overview

O-10  mono-therapy か combination therapy か

    チオプリン系免疫調節薬の併用は、インフリキシマブによるクローン病

治療の二次無効を抑制する

札幌厚生病院 IBD センター

本谷  聡、宮川 麻希、酒見 亮介、那須野正尚、田中 浩紀

 マウスのアミノ酸配列を 25% 有するキメラ型モノクローナル抗体であるインフリキシマブ(IFX)は、チオプ リン系免疫調節薬による抗原性を制御することが重要である。よって、免疫調節薬の併用は、抗 IFX 抗体出 現による IFXトラフ濃度の低下を予防するばかりではなく、投与時反応や遅発性過敏症などの副作用も軽減し、 長期間の安定した寛解維持に大きく寄与する。  当院 IBD センターで 2002 年 5 月から 2012 年 8 月までに 14 週以上 IFX を投与されたクローン病(CD)276 例での、5mg/kg 8 週間隔投与で IFX の有効性が維持率は、4 年後で 50%、8 年後では 30% である。IFX 開始時からのチオプリン系免疫調節薬の併用(n=197) により、4 年後の有効性持続率は 56%、非併用のいわゆる mono-therapy 例(n=79)では 34% にとどまる (p=0.016)。この傾向は治療開始後 8 年を経ても同様であり、この結果から、免疫調節薬の併用は IFX の長 期有効性を持続させ、二次無効を抑制すると言える。  さらに二次無効を予測するリスク因子である、狭窄病変が無くCRP<3.0mg/dl で IFX を導入した場合には、 チオプリン系免疫調節薬併用(n=66)での4年累積有効性持続率は 78% に及ぶのに対して mono-therapy 例 (n=40)では僅か 38% にとどまった(p=0.016)。適切な時期に IFX を開始しても、mono-therapy ならば高率 に二次無効をきたした。  これらの結果から、CD 治療での IFX には、原則チオプリン系免疫調節薬の併用が必要であると考えられる。  一方で、免疫調節薬を併用した IFX 長期治療では、日和見感染や悪性リンパ腫などのリンパ増殖性疾患の 発生リスクを高める点にも注意を要し、肝脾 T 細胞リンパ腫の発生も含め正確なインフォームドコンセントを要す る。  理論上抗原性の制御を必要としないアダリムマブ(ADA)では、チオプリン系免疫調節薬の併用が、CD 治 療での ADA 二次無効抑制に寄与するかは、現時点で明らかではない(多施設共同研究が進行中)が、日和見 感染のリスクもより向上するとの報告もあり、ADAでの免疫調節薬併用意義は、IFX に比べ少ないと思われる。  

(20)

抗 TNF 抗体の overview

O-11 抗 TNFα抗体製剤の副作用、事前スクリーニングとワクチン接種

大阪大学大学院 医学系研究科 消化器内科学 

飯島 英樹

炎症性腸疾患 (IBD) における治療法は生物学的製剤や免疫抑制剤などの登場により飛躍的に進歩し、これま で治療が困難であった IBD の疾患・病態においても、速やかに炎症を改善させ QOL の改善が得られる患者 が増加してきた。特に生物学的製剤である抗 TNF 抗体製剤による効果は目覚ましいものがあるが、抗 TNF 抗体製剤投与時のインフュージョン・リアクションや強い免疫抑制に伴う感染症の増悪などのリスクもある。特に、 潜伏感染した結核や B 型肝炎の再活性化、顕性化の可能性があるため、抗 TNF 抗体製剤の使用前には結 核や B 型肝炎などの感染症のスクリーニングが必須である。また、ワクチンにより感染予防が可能な感染症に ついては、免疫抑制療法を行う前にワクチンの接種を行い、感染症の発症、重症化を予防することが望ましい。 インフルエンザワクチンなどの不活化ワクチンの接種は疾患の増悪をきたすことなく感染予防効果が得られると 考えられており、予防接種の施行が推奨される。しかしながら、BCG や風疹などの生ワクチンは接種された菌 の播種のリスクがあり、免疫抑制療法時には接種することができない。IBD 患者においては抗 TNF 抗体製剤 などの免疫抑制療法が使用される可能性があるため、ワクチン接種歴、感染症罹患歴の聴取、あるいは抗体 価測定を行い、必要な患者については免疫抑制療法施行前の適切な時期に生ワクチン接種を考慮すべきである。 また、すでに免疫抑制療法が施行されている患者に生ワクチンを接種する場合には、一定期間免疫抑制療法を 中断してから摂取する必要がある。妊婦に対して抗 TNF 抗体製剤を投与する場合、胎盤を介した新生児への 薬剤移行の可能性があり、妊娠後期の抗 TNF 抗体製剤の投与を避ける、あるいは出生後6カ月間の児への生 ワクチン投与を避けることが必要である。現在報告されている主な抗 TNFα抗体製剤の副作用および推奨され ている事前スクリーニングとワクチン接種について概説する。

(21)

− 41 − 若手医師のための症例検討セッション

O-12 炎症性腸疾患疑いで紹介された 1 例

北里大学東病院 消化器内科

1)

北里大学医学部 新世紀医療開発センター

2)

齋藤 友哉

1)

、横山  薫

1)

、川岸 加奈

1)

、小林 清典

2) 症例は 23 歳男性。2007 年 3 月中旬より 39 度の発熱と 3 行 / 日の下痢便が出現したため近医を受診。抗生剤 を含めた内服加療を行ったが症状に改善がみられなかった。加療中に血液検査も施行されたが、軽度炎症反 応の上昇を認めるのみであった。一度は解熱を得られたが同年 4 月より再度症状が出現し、炎症性腸疾患疑い で当院に紹介受診となった。既往歴にてんかん、精神発達遅滞、十二指腸潰瘍を認める。喫煙歴なし。飲酒 歴なし。家族歴に特記すべきことなし。当院受診時身体所見では 38.6 度の発熱がみられたが、その他の vital sign に異常所見なし。腹部は平坦、軟、圧痛は認めない。直腸診および肛門鏡では内痔核を認めた。当院で の血液検査では赤沈の亢進と CRP上昇がみられた。その後、大腸内視鏡検査を行った。 内視鏡所見やその他の検査所見については当日供覧する。

(22)

若手医師のための症例検討セッション

O-13 難治性潰瘍性大腸炎症例

兵庫医科大学 炎症性腸疾患講座外科 

坂東 俊宏

 潰瘍性大腸炎 (UC) に対する治療には様々な選択が可能となっているが,難治,重症例での適切に手術タイ ミングを決定することが困難な場合がある.今回,難治例の 1 手術症例を呈示する.症例は 48 歳女性.46 歳 時に頻回の粘血便で発症,UC の診断,全大腸炎型,中等症.初発時には 5-ASA2.4g/ 日,PSL1.0mg/kg/ 日で寛解した.3 週間後に再燃し,局所製剤を含む PSL 再投与を行った.経過中にサイトメガロウィルス(CMV) 感染を認め顆粒球吸着療法(GMA),ガンシクロビル(GCV)を追加.アザチオプリン(AZA)併用のもと軽 快した.しかし 7 週間で再燃.タクロリムス(TAC)導入し効果が見られたものの lowトラフで増悪傾向であり 3 ヶ月を超えての投与となっていた.難治性であり手術治療を呈示されたが,拒否されたためアダリムマブ(ADA) 導入となった.その後 UC,CMV に対する GCV,IFX で加療されたが,増悪傾向にあり,2 期分割手術となった. 術前には Alb1.9mg/dl,Hb6.1g/dl と著明な低下を認め Alb 製剤,輸血を要した.術後は回腸嚢の縫合不全 に起因する骨盤腹膜炎,カテーテル感染(カンジダ)を合併し,軽快したものの,術後 6 ヶ月経過した現在で も縫合不全の治癒が得られていない.明確な因果関係は不明であるが,一般的に術後合併症の危険因子であ る低栄養,貧血,周術期輸血の影響が予測される.術前免疫抑制治療との関連も不明であるが,biologics が 骨盤腹膜炎と関連する可能性も報告されており 2 期分割手術の妥当性も再考させられる 1 例であった.症例を 通じて適切な治療,手術タイミング,術式などについて議論したい.

(23)

− 43 − 若手医師のための症例検討セッション

O-14 クローン病の診断:小腸病変に対するバルーン内視鏡と MR の比較

東京医科歯科大学、消化器内科 

竹中 健人

【症例】37 歳男性、生来健康であった。2011 年から水様便を月に2・3回認めていたが様子を見ていた。2013 年 10 月に肛門痛を自覚し、肛門周囲膿瘍および痔瘻と診断され 2014 年 3 月根治術施行された。2014 年 4 月 に嘔吐・腹痛を認め、上部消化管内視鏡や腹部超音波検査が施行されたが異常は認めなかった。6 月再度腹 痛出現し近医受診したところイレウスと診断され緊急入院。保存的加療で改善後、ガストログラフィン造影検査 で小腸狭窄が疑われた。また下部消化管内視鏡では回盲部に炎症ポリープの集簇を認めたが、診断には至ら なかった。小腸評価目的に当院紹介受診となり、MR enterocolonography(MREC) および小腸シングルバルー ン内視鏡 (SBE) 施行した。MREC では遠位回腸に活動性病変を認め、回腸 - 回腸間に瘻孔形成が指摘された。 SBE ではバウヒン弁から 30cm より深部の回腸に縦走潰瘍を認め、同部位からの生検で肉芽腫認め、クローン 病と診断した。【考察】本症例は大腸評価だけではクローン病と診断がつかず、小腸を検査しで診断できた1例 である。クローン病は無症状で小腸病変が進行するため、同領域の評価は診断・治療選択・予後にとても重要 である。MR では小腸を評価することが可能であり、欧米ではクローン病小腸評価に MR を用いることが望ま しいとガイドランに記載されている。また小腸バルーン内視鏡では小腸病変を詳細に観察でき、病理学的検査 や狭窄に対する拡張術も可能である。それぞれの検査には利点欠点があるが、クローン病小腸病変に対し両 検査の所見を直接比較した臨床研究を当施設より発表したが、潰瘍やびらんといった炎症性病変は MR で十 分に描出できる一方、狭窄に対しては MR の感度は不十分であった。クローン病の小腸評価において適切な検 査を選択することが今後も必要である。

(24)

CCFA Annual Meeting 参加報告

RE-1  Lipocalin2 affecting bacterial clearance in activated macrophages

contributes the onset of intestinal inflammation

関西医科大学附属枚方病院

豊永 貴彦

(25)

− 45 −

CCFA Annual Meeting 参加報告

RE-2  Correlation between severity of Crohn’s disease and oxidative

stress.

岩手医科大学 内科学講座 消化器内科 消化管分野

山本 一成

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CCFA Annual Meeting 参加報告

RE-3  Oral dietary administration of heat-killed

Lactobacillus

brevis

SBC8803 alters the gut microbiome and ameliorates

experimental colitis in mice

旭川医科大学内科学講座 消化器・血液制御内科学分野

上野 伸展

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− 47 −

CCFA Annual Meeting 参加報告

RE-4  Effectiveness of 34-year surveillance colonoscopy program for

long-standing ulcerative colitis in a single institution

東京大学医学部付属病院腫瘍外科

安西 紘幸

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IBD 治療① - Biologics

P-01  早期クローン病に対するアダリムマブ治療効果

   -アダリムマブ有効性の高い患者背景-

慶應義塾大学医学部消化器内科

南木 康作,三好  潤,大野 恵子,新井 万里,清原 裕貴,杉本 真也,

森  清人,三枝慶一郎,武下 達矢,竹下  梢,中里 圭宏,長沼  誠,

矢島 知治,久松 理一 , 金井 隆典

【目的】近年,抗 TNF- α抗体製剤の有効性がその導入時期によって効果が異なるのではないかということが 議論となり、bio naïve や罹病期間の短い early CD において特に抗 TNF- α抗体製剤の有効性が高いという 報告がなされている.今回,ADAの有効性が期待できる患者背景を明らかとするために当院でADA治療を行っ た CD 患者について解析・検討を行った.  【方法】2010 年から 2014 年 3 月までに当院で ADA を導入した CD48 例を対象に,単変量解析・多変量解析 を用いて解析・検討した。臨床的寛解を Harvey-Bradshow index (HBI) 4 点以下と定義し、治療開始 4 週後、 26 週後、52 週後の臨床的寛解率を評価した。 【結果】48 例のうち追跡が可能であり術後療法として ADA を導入した症例を除いた 45 例を解析した.ADA 開始 4 週後に全症例の 62% で寛解導入が可能で,26 週後時点での寛解維持率は 40%、52 週後時点での寛 解維持率は 35.6%であった.寛解に至った症例での単変量解析では年齢,罹病期間(3 年以内),腸管切除 既往の有無,bio naïve の 4 項目が有意差のある因子であった.多変量解析では,腸管切除の既往の有無と IFX 前治療の有無の二つの因子でオッズ比が高かった.26 週後の寛解維持症例の単変量解析では,年齢, 罹病期間の二つの因子が有意差のある因子として抽出された.導入から 52 週時点までの間で手術や治療変更 を要しなかったことをイベントフリーと定義し,カプランマイヤー法にて長期予後を評価した。長期予後では腸 管切除歴のない症例において有意にイベントフリーである率が高かった。 【結語】ADA を CD 患者に使用した場合,罹病期間が短く,bio naïve である腸管切除歴のない症例において より高い効果がみられた.ADA は炎症が病態の主体である早期の CD 患者において最も治療効果が期待でき ることが示唆された.

(29)

− 49 − IBD 治療① - Biologics

P-02 当院のクローン病患者におけるアダリムマブの使用経験

琉球大学医学部附属病院 光学医療診療部

1)

琉球大学医学部附属病院 第一内科

2)

医療法人 仁愛会 浦添総合病院

3)

金城  徹

1)

、藤田  茜

2)

、川満 美和

1)

、溜田 茂仁

1)

、大石有衣子

1)

、田中 照久

1)

海田 正俊

1)

、田村 次朗

1)

、下地 耕平

1)

、東新川実和

1)

、岸本 一人

2)

、平田 哲生

2)

金城  渚

1)

、外間  昭

1)

、藤田 次郎

2)

、伊良波 淳

3)

、内間 庸文

3)

、金城 福則

3) 【はじめに】炎症性腸疾患の治療薬に抗 TNFα抗体製剤が登場してから、従来のステロイドなどの治療法では 改善を認めなかった難治性の炎症性腸疾患が改善を得られるようになり、特にクローン病では中心的な役割を 担っている。今回、当院におけるまだ新しいアダリムマブ(ADA)の使用現状をまとめる。【対象と方法】当院 にて 2014 年 5 月までに ADA の治療が導入されたクローン病患者 25 例を対象 とし、 観察期間は ADA 導入 から 2014 年 7 月までとした。寛解の定義は CDAI が 150 未満かつ CRP 1.0mg/dl 未満、再燃の定義は ADA 投与後反応あるが、ADA投与2週未満で CDAIが 150以上またはCRP 1.0mg/dl以上に陽転化したものとした。 【結果】Bio naïve 11 例(男女比 7:4、発症年齢中央値 18 歳)、Bio non-naïve 14 例(10:4、25 歳)。Naïve

群では ADA 開始時の罹病期間が 9.0 ±10.1 年で、non-naïve 群は 15.3 ± 8.7 年と IFX 投与歴がある後者が 長い傾向にあった。ADA の一次無効例は全て non-naïve 例であった。観察期間での寛解維持率は naïve 群 が 81.8%(9/11 例)、naïve 群が 35.7%(5/14 例)で、8 週目と 24 週目の寛解維持率は naïve 群が non-naïve 群に比べ有意に高かった。【考察】当院の ADA の寛解維持率は既報に比べ、non-naïve 群、non-non-naïve 群と もに非常に優れた成績であるが、当院の投与症例のほとんどが軽症(CDAI<220)であったためと考えられた。 また、non-naïve 群においても IFX 無効例より不耐例が多く存在していたため、寛解維持率の成績が良好であっ たと考えられた。

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IBD 治療① - Biologics

P-03  インフリキシマブにより維持治療されたクローン病における長期手術率

に関する検討

札幌厚生病院 IBD センター

酒見 亮介、宮川 麻希、那須野正尚、田中 浩紀、本谷  聡、今村 哲理

【目的】抗 TNF- α抗体製剤による維持治療は,クローン病(CD)における長期の寛解維持を可能としてきたが, 長期にわたり手術を回避できる症例の特徴は明らかにされていない.今回我々はインフリキシマブ(IFX)によ り維持治療された CD における長期手術率を検討し,手術率低下に寄与する背景因子を検索した. 【方法】2002 年 5 月から 2012 年 8 月までに当院にて IFX による寛解導入治療が施行された CD 355 例のうち, 14 週以上 IFX が投与された 276 例を対象とした.IFX 初回投与から手術までの累積手術率を Kaplan-Meier 法を用いて検討し,累積手術率に影響する背景因子を多変量 Cox 回帰分析およびログランク検定を用いて比 較検討した. 【結果】患者背景は,男性 204 例・女性 72 例,平均年齢 31.2 歳,平均罹病期間 7.5 年,小腸型 68 例・小 腸大腸型 152 例・大腸型 56 例,腸管切除の既往歴 89 例,狭窄 111 例,内瘻 36 例,肛門病変 114 例.併 用療法は免疫調節薬(アザチオプリン/6- メルカプトプリン)197 例,5-ASA 製剤 245 例,成分栄養療法 194 例,ステロイド 28 例,IFX 導入時の平均 CRP 2.18mg/dl であった.喫煙者は 82 例であった.なお,免疫調 節薬併用の定義は IFX 導入前または IFX 導入後 6 週時までに使用開始され,14 週時に内服を継続している 症例とした.累積手術率は 3 年 10%,5 年 16%,7 年 23% であった.多変量 Cox 回帰分析では,免疫調節 薬併用,罹病期間 2 年未満,IFX 導入時 CRP 低値,14 週時 CRP 低値が累積手術率改善因子として検出さ れた.ログランク検定では,免疫調節薬併用(5 年累積手術率 11%),罹病期間 2 年未満(5%),IFX 導入時 CRP<1.00mg/dl(10%),14 週時 CRP<0.3mg/dl(8%),狭窄なし(13%)において累積手術率が有意に良好であっ た. 【結語】IFX により維持治療された CD のおよそ 8 割において 7 年間手術が回避されていた.狭窄をきたす前 の IFX 早期導入と免疫調節薬の併用が手術のさらなる減少に重要であるものと考えられた.さらに,IFX 導 入時および 14 週時の CRP 値は手術を予測するバイオマーカーとなり得る可能性が示唆された.

(31)

− 51 − IBD 治療① - Biologics

P-04 インフリキシマブ治療中に腸管切除術を要したクローン病症例の検討

慶應義塾大学病院 消化器内科

武下 達矢、松岡 克善、金井 隆典

【背景・目的】抗 TNFα抗体製剤の登場によりクローン病の治療体系は一変した。抗 TNFα抗体製剤はクロー ン病に対して高い有効性を示す一方で、同剤投与にも関わらず腸管切除を要する症例も少なくない。そこで本 検討ではインフリキシマブ投与中に腸管切除を要した症例を検討することで、その危険因子を同定することを目 的とした。 【方法】2002 年から 2013 年までに当院でインフリキシマブを導入したクローン病 173 例を対象とし、インフリ キシマブ導入後の腸管切除術率と腸管切除術に影響を及ぼす因子を retrospective に解析した。 【結果】インフリキシマブ導入後に腸管切除術を施行された症例は 173 例中 21 例(12.1%)であった。腸管切 除群と非切除群について臨床的因子を比較したところ、罹患年数、インフリキシマブ導入前の手術歴について 両群で有意差を認めた。インフリキシマブ導入時に免疫調節薬を使用していた症例は、腸管切除群では 12 例 (57.1%)、非切除群では 43 例 (28.3%) であり、腸管切除群で有意に多かった。インフリキシマブ導入時の平均 CRP 値は腸管切除群で 1.93 mg/dl、非切除群で 2.45 mg/dl と有意差は認めなかったが、インフリキシマブ開 始後14週目の平均CRP値は、腸管切除群 1.31 mg/dl、非切除群 0.77 mg/dlと、腸管切除群で有意に高かった。 【結論】インフリキシマブによる治療にも関わらず経過中に腸管切除を余儀なくされる症例が 10% 以上存在して いた。腸管切除術を必要とした症例はインフリキシマブ導入後 14 週目の CRP 値が非切除例と比較して有意に 高値であったことから、14 週目の CRP 値が高値の場合はインフリキシマブ増量などの治療強化を考慮すべき であろう。今後こういった早期のインフリキシマブ増量が長期的な腸管切除率を低下させるのか、前向き試験 で検証する必要がある。

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IBD 治療① - Biologics

P-05 潰瘍性大腸炎における生物学的製剤治療効果に関わる因子の検討

金沢大学附属病院 消化器内科

北村 和哉、加賀谷尚史、林  智一、岡藤 啓史、松川 弘樹、金子 周一

【目的】潰瘍性大腸炎(UC)に対するインフリキシマブ(IFX)ならびにアダリムマブ(ADA)による治療は有 用であるが、無効も少なからず存在する。今回我々は、UC における生物学的製剤治療の効果に関わる因子を 明らかにすることを目的に検討を行った。 【方法】2009 年 6 月より 2014 年 10 月の期間に、当院で生物学的製剤の維持投与を施行された UC 患者 28 例 (男性 19 例、女性 9 例、平均年齢 39.3 歳)を対象とした。一次治療は IFX 23 例、ADA 5 例であった。一 次治療の効果で対象を 2 群に分け、背景因子をt検定およびχ 2 検定で比較した。また再燃に関わる因子をカ プランマイヤー法(ログランク検定)にて検討した。 【結果】対象 28 例の病型は、全大腸炎型 15 例、左側大腸炎型 13 例であり、治療前の Lichtiger スコアの中 央値は 9(3-16)と主に中等症以上の患者に投与されていた。前治療は、タクロリムス 16 例、ステロイド 6 例、 チオプリン製剤 5 例、血球除去療法 1 例であった。28 例中 18 例(64%)に一次治療の変更を要した。治療変 更の理由は、一次無効 9 例(32%)、二次無効 7 例、不耐 2 例であった。チオプリン製剤の併用は 17 例で行 われていた。一次無効群では、二次無効を含む有効群に比し、治療開始時の血清アルブミンが有意に低値であっ た(p=0.03)。二次無効群と長期有効群の比較では、免疫調整剤の使用も含め、背景因子に明らかな差は認め なかった。また一次治療の効果持続に関しても、背景因子で明らかな差は認めなかった。 【結論】UC の生物学的製剤治療では、クローン病と比して一次無効例の割合が高い印象があった。一次無効 例では治療開始時の血清アルブミンが有意に低値であった。一次無効の機序にアルブミン低下による抗体製剤 の不安定化が関与する可能性が示唆された。

(33)

− 53 − IBD 治療① - Biologics

P-06  インフリクシマブ投与によってステロイド離脱が可能であったリウマチ

性多発筋痛症合併潰瘍性大腸炎の 1 例

高松赤十字病院

野田 晃世、玉置 敬之、荒澤 壮一、出田 雅子、久保 敦司、小川  力、

松中 寿浩、柴峠 光成

【背景】ステロイドフリー寛解は潰瘍性大腸炎患者(UC)における治療目標のひとつとして広く認識されている が依存性や併存疾患に対する治療によりステロイド離脱が困難な症例も散見される。今回我々はステロイド依 存性リウマチ性多発筋痛症(PMR)を合併した UC に対し再燃を機にインフリクシマブ(IFX)を導入しステ ロイド離脱が可能であった 1 例を経験したので報告する。【症例】既往の PMR に対して他院内分泌内科にて プレドニゾロン(PSL)12.5mg/day およびタクロリムス(TAC)2mg/day を継続投与されていた。2006 年 3 月 に全大腸炎型 UC を発症したため当科を紹介・受診され、時間依存放出型 5-ASA の投与を開始した。最終 的に 5-ASA3000mg/day にて寛解導入が可能であり、アザチオプリン(AZA)50mg/day の併用にて寛解維 持療法を行った。UC の寛解導入後 PSL 減量を試みたが、7.5mg/day で手指のこわばり・四肢の筋肉痛等の PMR 症状が出現したため 10mg/day の継続投与を余儀なくされていた。この間 UC の臨床経過は良好であっ たが、2013 年 10 月中等症での再燃を認めた。PMR に対するタクロリムス投与が継続されていたため 5-ASA 4000mg/day, PSL 30mg/day への増量にて対応したところ寛解導入され、2013 年 12 月には、PSL 10mg/day まで減量可能であった。UC における PSL 依存性に加え抵抗性の出現が懸念されたため、内分泌内科医にコ ンサルトの上 TAC を中止し 2014 年 3 月から IFX5mg/kg の投与を開始した。以後 UC, PMR ともに再燃する ことなく PSL を漸減可能であり、同年 10 月には離脱可能であった。現在は、IFX に加え 5-ASA 4000mg/ day、AZA 50mg/day 内服で寛解を維持している。

(34)

IBD 治療① - Biologics

P-07  小児期発症炎症性腸疾患における治療選択および生物学的製剤の治

療に関する全国調査

順天堂大学小児科 Department of Pediatrics, Juntendo University Faculty of Medicine

1)

小児 IBD 最新治療の実施状況における全国調査 WG Japanese working group pf the

national survey of treatments for pediatric IBD

2)

細井 賢二

1)

、藤井  徹

1)

、工藤 孝広

1)

、大塚 宜一

1)

、清水 俊明

1,2)

小児 IBD 最新治療の実施状況に関する全国調査ワーキンググループ

2) 背景:小児期発症炎症性腸疾患 (IBD) は、罹患範囲が広く進行が早いため、インフリキシマブ (IFX) などの生 物学的製剤、シクロスポリン (CyA)、タクロリムス (TAC) などの免疫調節薬などを使用する頻度が増えてきて いる。しかし、長期使用による影響や副作用などは、小児患者では調査されていないのが現状である。目的: 小児期発症 IBD における生物学的製剤および免疫調節薬の使用実態を後方視的に検証する。方法: 2000 年 以降に診断・治療された 17 歳未満の小児期発症 IBD を対象として、IFX、アダリムマブ (ADA)、CyA、TAC の使用に関する全国アンケート調査を 683 施設に行った。結果:418 施設(61.2%)から回収し、871 名の Crohn 病 (CD) 患者のうち、IFX:276 名 (31.7%)、ADA:29 名、CyA:6 名、TAC:16 名が使用されていた。 90 名 (10.3%) に外科手術が施行され、16 名が膵炎を発症していた。1617 名の潰瘍性大腸炎のうち、IFX:85 名 (5.3%)、ADA:1 名、CyA:106 名、TAC:112 名が使用されていた。195 名 (12.0% ) に外科手術が施行され、 45 名が膵炎を発症していた。2 次調査として CD 患者に対する IFX 使用状況について検証した。多くは 10 歳 以上に使用されていたが、1 歳未満にも 6 例に使用されていた。発症から IFX 使用までの期間は 1-2 年が多く、 ステロイド依存性、早期寛解導入目的や成長障害に対して多く使用されており、一次および二次無効例は 38 例 (30% ) であった。副作用としては、infusion reaction が最も多く、感染症、肝機能障害を認めた。結語:小児 期発症 IBD において、生物学的製剤や免疫調節薬など多くの治療法が選択されていることが判明した。今後、 さらに短期、長期使用の影響を検討して行く必要があると考えられた。

(35)

− 55 − IBD 治療② - タクロリムス、免疫調整薬、IBD 治療③ - アフェレーシス

P-08  難治性潰瘍性大腸炎に対するタクロリムスおよびインフリキシマブの有

効性

旭川医科大学内科学講座 消化器・血液腫瘍制御内科学分野

1)

市立旭川病院 消化器内科

2)

稲場 勇平

1,2)

、藤谷 幹浩

1)

、高後  裕

1)   【目的】潰瘍性大腸炎(UC)では中等症から重症例に対しステロイドを第 1 選択とした治療が行われるが、 40%程度の症例でステロイド抵抗性や依存性となり治療に難渋する。近年 UC に対しタクロリムスとインフリキ シマブが用いられているが、両薬剤の有効性の差異や使い分けについては明確になっていない。そこで今回, 難治性 UC に対しタクロリムスおよびインフリキシマブを投与した症例の有効性を検討した.【方法】2006 年 1 月から 2014 年 9 月までに当院でタクロリムスおよびインフリキシマブ投与を行った難治性 UC の 32 例(3 例はタ クロリムスからのスイッチ症例)を対象とした.活動性は CAI スコアを用い、投与後 2 週、12 週、28 週で有 効性の評価を行った(寛解:CAI ≦ 4、有効:CAI ≦ 10 で 4 以上の低下).寛解導入達成者で投与後 12 週と 28 週に粘膜治癒の有無を評価した.【結果】タクロリムス群(n=13)で投与後 2 週に寛解に至った症例は 9/13 (73%) 例であり、12 週で 7/12 (60%)、28 週では 6/9 (67%) であった.粘膜治癒は 12 週で 4/6 (67%) 例、28 週では 2/6 (33%) 例で認められた.インフリキシマブ群(n=22)では投与後 2 週で寛解に至った症例は 10/22 (46%) 例であり、12 週で 10/22 (46%)、28 週では 11/17 (65%) であった.粘膜治癒は 12 週で 3/7 (43%) 例、 28 週では 7/8 (88%) 例で認められた.両群で寛解導入・維持率に有意差は認めなかった.投与後 28 週の粘 膜治癒率はインフリキシマブ投与群で有意に高かった (p=0.036).【結語】難治性 UC に対してタクロリムスおよ びインフリキシマブは一定の有効性を示した.両群において寛解導入・維持率に差は認めなかった.維持治療 可能なインフリキシマブ投与群において、長期投与により高率に粘膜治癒を達成する可能性が示唆された.

参照

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