1 はじめに
個々の症例に適したエネルギー投与量を求めること は、栄養管理をおこなう上で最も基本的な事項である が、それには、多様な病態の把握と栄養状態の正しい評 価が必要である。なかでも、エネルギー投与量の算出に は、エネルギー代謝の変化を知り、消費エネルギーを把握 することが必要となる。エネルギー不足は、栄養不良を招 き、免疫能の低下をきたすが、過剰栄養もまた高血糖や 肝障害などのリスクとなる。
エネルギー必要量は、Harris-Benedict式1)から求め た基礎エネルギー消費量(basal energy expenditure:
BEE)に活動係数やストレス係数を乗じて算出される2)
が、間接熱量測定では消費エネルギー(resting energy expenditure: REE)を実測することが出来る。本稿で は、間接熱量測定の意義、理論、実際の測定法、臨床に応 用する際の問題点などについて解説する。
2 間接熱量測定の原理
生体内に取り込まれた炭水化物、脂質、たんぱく質は、代 謝されてエネルギーを産生する。体内での構成成分となっ た栄養素も随時分解されて、やがてはエネルギーとして代 謝される。この代謝反応の過程で、酸素を消費し、二酸化 炭素と水、熱を産生する。間接熱量測定ではこの原理に基 づき、エネルギー消費量を算出することが可能である。
熱量測定には、生体の放熱量を水の温度上昇として測 定する直接熱量測定法と、呼気ガス分析により消費熱量を 算出する間接熱量測定法とがある。直接熱量測定法は、機 密性の高い空間に入り、生体から産生された熱量による水 温の上昇からエネルギー消費量を求める方法である。水 1kgを1℃上昇するのに必要なエネルギーが1kcalに相当 する。この方法は正確性に優れているものの、特殊な設備 が必要であり、実際の臨床の場では使用できない。一方、
間接熱量測定法は、酸素消費量(VO2)と二酸化炭素産生 量(VCO2)を測定し、その値からエネルギー消費量を算出 特集:必要エネルギー量の算出法と投与の実際
総論 間接熱量計によるエネルギー消費量と基質代謝の 測定*
keywords:
間接熱量測定、安静時エネルギー消費量、呼吸商
佐々木雅也1) Masaya SASAKI 丈達知子1) Tomoko JOHTATSU 栗原美香1) Mika KURIHARA 岩川裕美1) Hiromi IWAKAWA 藤山佳秀2) Yoshihide FUJIYAMA
◆滋賀医科大学附属病院栄養治療部1)、滋賀医科大学消化器内科2)
Division of Clinical Nutrition, Shiga University of Medical Science1),Department of Gastroenterology, Shiga University of Medical Science2)
間接熱量測定では消費エネルギーを実測することが可能であり、必要エネルギー量 の算出に有用である。また呼吸商の違いから、炭水化物や脂質の消費エネルギーも求め ることが出来る。しかし、測定には特別な器機とスキルを必要とする。また病態によって は、消費エネルギーや呼吸商の測定値に誤差も生じやすい。臨床に応用する場合には、
間接熱量測定の原理や特徴をよく理解する必要がある。さらに近年、簡易型の間接熱量 計や人工呼吸器に整備された器機も市販されているが、それぞれの器機によって測定原 理や方法が異なる。それぞれの器機の特徴をよく理解して使用することが大切である。
*Measurement of resting energy expenditure and substrates expenditure using Indirect Calorimetry
する。この算出にはWeirの公式3)が広く用いられている。
REE(kcal/day) = 3.941×VO(L/day)+1.106×2
VCO(L/day)−2.17×UNとなる。2
実際には、尿中尿素窒素排泄量を用いずに、たんぱく質 の占める割合を12.5%と仮定したWeirの変式3.94×VO2
(L/day)+1.11×VCO(L/day)2 または[3.94×VO(ml/2
min)+1.11×VCO(ml/min)]×1.44を用いることも多い。2 炭水化物、脂質、たんぱく質は、それぞれ代謝される際 に消費される酸素の量と二酸化炭素の産生量の比が異 なっている。これは呼吸商(respiratory quotient: RQ)と 呼ばれるものである。例えばブドウ糖が代謝される場合に は、C6H12O6+6O2→6CO2+6H2O+エネルギーで、呼吸 商は1.0となる。同様に、たんぱく質では0.81、脂質では 0.71となる。したがって間接熱量測定では、呼吸商RQや 炭水化物と脂質の消費エネルギーも算出することができ る。しかし、たんぱく質の測定には、尿中尿素窒素の測定が 必要である。
3 間接熱量測定の実際
1) 測定方法と条件設定
間接熱量測定を施行する際には、測定条件の設定が重 要である。患者側の条件として、安静時消費エネルギー
(REE)を測定するには、8時間以上絶食の後に測定する ことが条件である。これは、食事誘導性代謝(diet induced thermogenesis: DIT)が6 ~ 8時間程度持続 することから、食事による影響を除くためである。必ずし も、胃内容が全て排出される時間とは一致しないことに 注意されたい。ただし、入院患者で持続的に静脈栄養が 施行されている場合には、投与速度を一定にした条件で 測定し、中止する必要はない。
被検者は仰臥位あるいは半起座位とし、測定中はテレビ を観ることや、読書をすることも避けねばならない(図1)。
マスクで測定する場合、キャノピーで測定する場合とがあ るが、いずれの方法でもリークによる過少評価や過呼吸に よる過大評価に注意する。器械側の設定として、実測前に 十分なウォーミングアップとキャリブレーションをすること は欠かせない。また、測定直後は数値が安定しないので、
数値が安定した一定時間の平均値を求めるようにする。
また、人工呼吸器管理中の場合でも、極小タイプの換気
量センサーにサンプリング チューブを接続し、呼吸毎に 測定できる設定にすることも 可能である(図2)。ただし、
FiO2が50%以上と高い場 合、PEEPが 7cmH2O以上 の場合には誤差が大きくな る。また気胸など、呼吸器系
にリークがある場合も正確に測定できない。
2) 必要エネルギーの算出方法
REEから投与必要エネルギー求める場合には、
Harris-Benedict式で求めたBEEから算出するのと同 様に、REEに活動係数を乗じる。BEE×ストレス係数 がREEに相当すると考えれば分かりやすい。
ここで、REE×活動係数として算出されるエネルギー 量は、現状を維持するためのエネルギー量であることに 注意すべきである。慢性的な栄養障害を認める場合に は、REE×活動係数では、必ずしも栄養状態の改善は望 めない。プラスαが必要となる。しかしながら、慢性的な 栄養障害を認める場合には、代謝は低下して“省エネモー ド”に入っていることが多い。急速なエネルギー投与は refeeding syndromeの危険があることに留意する。こ の場合も、間接熱量測定から投与エネルギーを算出する ことは極めて有用である。
O2濃度計とCO2濃度計を装備した間接熱量計であれ ば、炭水化物、脂質に分けて消費エネルギーを算出するこ とも出来る。またRQ値から、炭水化物、脂質がバランスよ く代謝されているか、脂質優位に代謝されているかの指 標ともなる。エネルギー投与量だけでなく、炭水化物や脂 質の投与量を求めるのには、RQ値の活用は重要である。
また肝硬変などでは、RQ値は予後を示す指標ともなって おり、重症度を反映する指標でもある。
図1 間接熱量測定の実際
図2 間接熱量測定計 ミナト医科学エアロモニター AE300S
3)人工呼吸器と一体となった器機
①GE横河メディカルシステム
エングストロームケアステーション 図3
人工呼吸器に代謝測定器CONV Moduleが整備さ れた器機である。O2濃度計は磁気圧式酸素分析で、
CO2は赤外線吸光分析にて測定される。他の機種でも人 工呼吸器に対応可能であるが、本器機は酸素濃度が高 い場合(FiO285%以上は不
可)でもREEの測定が可能 である点が特徴である。ま た、24時間の経時的な測定 が可能であることにも大きな 意義がある。ただし、現在の 器機では、一定時間の平均値 を算出することが出来ないの が課題である。
5 臨床応用での問題点
1) BEEとREEの相違
健常人では、Harris-Benedict式から求めたBEEは、
間接熱量測定で算出したREEにに相当し、REE予測値
(predicted REE)に位置づけられているが、Harris- Benedict式を現在の日本人に用いることの問題点も指摘 されている4)5)。
我々が、クローン病と健常人において間接熱量測定を施 行し、HB式から求めたBEEとともに比較検討した結果 を表1に示す6)。8名の健常人のREEは21.3±1.7kcal/
4 間接熱量計の種類と特徴
1)O2濃度計とCO2濃度計を装備した器機
①ミナト医科 エアロモニタ AE-300S(図2)、AE-310S O2濃度計がダンベル式、CO2濃度計が赤外線吸収式と なっている。ダンベル式は安定性が高く、比較的安価である という特徴がある。マスク、キャノピーの両方が使用可能 で、人工呼吸器管理中の場合にも細径センサーを用いて測 定できる。呼吸商RQの測定、炭水化物と脂肪の消費量が 同時に算出できる。価格は650万円程度とやや高額である。
②日本光電 VmaxS229
VmaxSシリーズは、VmaxS229のみの発売となっ た。O2濃度がガルバニ電池、CO2濃度計が赤外線吸収 式となっている。マスク、キャノピーの両方が使用でき、人 工呼吸器管理中にも対応可能である。価格は1628万円と 高価である。
2)O2濃度計のみを装備した簡易器機
これらの製品に共通していることは、CO2産生量を測 定することは出来ず、RQも測定出来ない。RQを一定値 に固定することによりREEを求めている。すなわち、炭水 化物と脂質の燃焼比率を一定と仮定した状態で算出して いる。この設定は、RQにして0.82 ~ 0.85と、機種により 異なる。しがたって、エネルギー消費量も概算としてしか 算出できず、条件によっては大きな誤差が生じる。
①日本光電(Cosmed社)フィットメイト FIT-2100、
FIT2200
携帯に便利な軽量の代謝測定器機である。FIT2200 は運動負荷試験にも利用できる。RQ0.85に固定した計 算式が採用されており、REE(kcal/day)は6.96×VO2
(ml/min)として算出される。価格も135万円~185万円 と安価である。
②エムビージャパン(Microlife社)MedGem
ハンディタイプの代謝測定器機で、価格は85万円と安 価。RQ0.85と固定した数値が採用されており、REE
(kcal/day)= 6.931×VO(ml/min)として算出される。2
③メタバインN
小型の代謝測定器機で、価格は95万円。RQ0.82に固 定した数値が採用されているが、REE(kcal/day)の算出式 は7.2(6.91ではなく)×VO(ml/min)に設定されている。2
図3 間接熱量測定計 GE横河メディカルシステム エングストロームケアステーション
表1
CD 患者 健常人 P
Patients number 16 8
Female/male 5/11 2/6
Age (y) 36.0 ± 9.8 44.8 ± 19.0 0.131
Height (cm) 167.8 ± 10.3 165.6 ± 8.1 0.602 Body weight (kg) 52.7± 9.4 64.9 ± 12.4 0.013 BMI (kg/m2) 18.7± 2.6 23.5 ± 2.6 <0.001 BEE (kcal/day) 1372.7± 143.7 1467.9 ± 238.5 0.233 REE (kcal/day) 1271.0 ± 181.7 1378.0 ± 253.3 0.245
REE/BEE(%) 92.5 ± 8.5 94.2 ± 11.4 0.685
BEE/body weight (kcal/kg/day) 26.4 ± 2.6 22.9 ± 2.6 0.003 REE/body weight (kcal/kg/day) 24.4 ± 2.6 21.3 ± 1.7 0.003
RQ 0.94 ± 0.14 0.85 ± 0.04 0.107
kg/dayであり、BEE22.9±2.6kcal/kg/dayの94.2%で ある。HB式から求めたBEEは、REEとよく相関するが、
BEEはREEに比べて7.5%ほど高めに算出されることが 分かる。一方、クローン病のREEは24.4±2.6kcal/kg/
dayと健常人に比べて約15%の代謝亢進があるが、
BEE26.4kcal±2.6kcal/kg/dayに比べると、むしろ低 いことが分かる。単にBEEとREEのみを比較している と、クローン病では代謝が低下しているように推測される が、実際は体重あたりのエネルギー消費量は健常人より高 い。このように、種々の疾患や病態でのエネルギー代謝を 検討するには、健常人との比較が欠かせない。特に、高齢 者では、BEEはREEより高く算出される傾向があり、過 剰栄養に注意が必要である7)。
2)重症例における代謝動態
重症侵襲症例では複数の臓器障害を合併することも多 く、ストレス係数の決定は容易ではない。我々のBEEと REEとの比較では、両者は極めてよく相関し、その係数 は平均1.6となる(図4)8)。重症侵襲症例のストレス係数を 1.5 ~1.6程度に設定するのは妥当と言える。重症急性膵 炎症例におけるREEの推移をみた成績では、発症当初 のREE/BEE比は約1.5となる。しかしながら、病状の改 善とともにREEは急速に低下し、病状が安定した3週目 以降に測定したREEはBEEに近い数値となる(図5)。
重症症例の代謝状態はダイナミックに変動することか ら、間接熱量測定も経時的におこなう必要がある。また、
REE測定は1時点での測定を24時間値に換算してお り、体温など測定時の条件をよく考える必要がある。
6 おわりに
間接熱量測定では個々の患者の消費エネルギーを実測 することができ、投与エネルギーの算出に極めて有用な 方法である。計算式で求めるよりもはるかに正確で、実用 的である。しかし、間接熱量測定には特別な器機とスキル が必要であり、どの施設でも利用できるものではない。ま た器機によって、測定原理や方法も異なっている。した がって、間接熱量測定で得られた成績を広く臨床の現場 に用いるには、実施可能な施設がそれぞれのデータを蓄 積し、エビデンスとして高める必要がある。
図4 重症侵襲症例の安静時消費エネルギ-量(REE)と 基礎エネルギ-消費量(BEE)の関係
図5 重症急性膵炎患者の
安静時必要エネルギー量比:REE/BEE 滋賀医科大学栄養治療部・ICU 重症急性膵炎6例
1.6 1.4 1.2 1 0.8 0.6 0.4 0.2
0 1~7days 8~14days 15days~
参考文献
1) Harris JA and Benedict FG. A biometric study of human basal metabolism. Proc Natl Acad Sci USA 4:370- 373, 1918.
2) Long CL, Schaffel N, Geiger JW et al. Metabolic response to injury and illness: Estimation of energy and protein needs from indirect calorimetry and nitrogen balance. J Parenteral Entr Nutr 3:452-456, 1979.
3) Weir JBW. New methods for calculating metabolic rate with special reference to protein matabolism.
J Physiol 109 : 254-259, 1949.
4) Hennessy KA, Orr ME ed. Substrate metabolism- carbohydrate, lipid, and protein. Nutrition Support Nursing, 3rd ed ASPEN 1996.
5) 栗原美香、佐々木雅也、岩川裕美ほか.熱量計測の問題点―REEとBEEの比較.臨床栄養 107:469-473、 2005.
6) Sasaki M, Johtatsu T, Kurihara M, et al. Energy metabolism in Japanese patients with Crohn's disease.
J Clin Biochem Nutr in press.
7) 栗原美香、岩川裕美、丈達知子ほか.PEG症例の経腸栄養投与熱量設定における間接熱量測定の有用性について.静脈 経腸栄養22:329-335、 2007.
8) 岩川裕美、五月女隆男、佐々木雅也ほか.ICUにおける人工呼吸器患者に対する間接熱量測定の有用性について.静脈経 腸栄養21:91-97、 2006.