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に 把 握 し よ う と 試 み た Rysman( 2007) な ど が あ る こ れ に 対 し 残 念 な が ら 日 本 で は 理 論 研 究 実 証 研 究 の 蓄 積 が 進 ん で い な い 数 少 な い 理 論 研 究 と し て Shy and Tarkka( 2002

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Academic year: 2021

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小 額 決 済 手 段 の 選 択 要 因 : 消 費 者 向 け パ ネ ル ア ン ケ ー ト 調 査 に よ る 実 証 分 析† 中 田 真 佐 男‡ 1. は じ め に 経 済 に は 一 般 に 複 数 の 決 済 手 段 が 存 在 し 、 取 引 金 額 の 大 小 に 応 じ た 「 棲 み 分 け 」 が な さ れ て い る 。 し か し 、 境 界 で の 競 合 を 通 じ て 支 配 的 な 決 済 手 段 は 変 遷 し て い く 。 実 際 、 ア メ リ カ で は 近 年 に な っ て デ ビ ッ ト ・ カ ー ド の 取 引 件 数 が ク レ ジ ッ ト ・ カ ー ド を 上 回 る よ う に な っ た 。 程 度 の 差 こ そ あ れ 、 日 本 で も こ の と こ ろ 都 市 部 を 中 心 に 電 子 マ ネ ー 決 済 が 本 格 的 に 普 及 し つ つ あ る 。 他 方 で 、 こ れ と 同 時 に 主 要 な 硬 貨 の 流 通 枚 数 の 減 少 が 続 い て い る こ と か ら 、 日 本 に お い て も 電 子 マ ネ ー 決 済 と 現 金 決 済 と の 代 替 関 係 の 有 無 、 あ る い は ( 代 替 関 係 が あ る と す れ ば ) そ の 代 替 の 程 度 に つ い て 関 心 が 高 ま っ て い る 。 複 数 の 決 済 手 段 の 棲 み 分 け 、な い し 、新 し い 決 済 手 段 の 普 及 に 関 す る 研 究 は 、 理 論 分 析 に 関 し て は 、消 費 者 行 動 に 着 目 し た Humphrey and Berger( 1990)が 出 発 点 と な っ て い る 。 そ の 後 は 、Rochet and Tirole(2002) に よ っ て 確 立 さ れ た Two-sided Market で の Platform 競 争 モ デ ル を 応 用 し た 理 論 分 析 が 主 流 と な り 、 例 え ば Shy and Tarkka(2002) や M’Chirugi (2006) は 、 決 済 事 業 者 ・ 小 売 店 ・ 消 費 者 の 3 主 体 の 最 適 化 行 動 か ら 実 現 さ れ る 均 衡 と し て 、 取 引 金 額 に 応 じ て 異 な る 決 済 手 段 が 利 用 さ れ る 状 況 を 説 明 し て い る 。 こ の 他 、Choudhary and Tyagi (2009)は 、 決 済 事 業 者 が デ ィ ス カ ウ ン ト ( 例 : ポ イ ン ト 付 与 ) を し て ま で 新 し い 決 済 手 段 の 普 及 を 図 る イ ン セ ン テ ィ ブ を 理 論 的 に 分 析 し て い る 。

ま た 、 欧 米 で は 実 証 研 究 も 盛 ん に 行 わ れ て い る 。 欧 米 の 実 証 分 析 は 、 ク ロ ス カ ン ト リ ー ・ パ ネ ル デ ー タ を 用 い て 電 子 決 済 と 現 金 需 要 の 代 替 性 の 有 無 を 検 証 し た Amromin and Chakravorti (2009)を 例 外 と す る と 、 多 く が サ ー ベ イ デ ー タ に よ る ミ ク ロ 計 量 分 析 を 伴 っ て い る こ と が 特 徴 で あ る 。 近 年 の 研 究 と し て は 、 個 人 の 属 性 ( 年 齢 ・ 性 別 等 ) や 経 済 環 境 ( 所 得 ・ 持 ち 家 保 有 等 ) に 着 目 し て デ ビ ッ ト カ ー ド 等 の 保 有 ・ 使 用 の 要 因 を 分 析 し た Borzekowski, Kiser and Ahmed (2008) 、 ポ イ ン ト な ど の “ Rewards” に 着 目 し た Ching and Hayashi (2010)、 新 技 術 へ の 適 応 性 を 説 明 要 因 に 加 え た Hayashi and Klee( 2003)、 決 済 手 段 の 手 数 料 を 明 示 的 に 考 慮 し た Scholnick et al.(2008)、Network の 外 部 性 の 効 果 を 定 量 的 † 本 論 文 は 科 学 研 究 費 補 助 金 (「 民 間 電 子 マ ネ ー 事 業 の 成 長 ・ 競 合 と 小 額 決 済 サ ー ビ ス へ の 公 的 関 与 の あ り 方 に 関 す る 研 究 」( 課 題 番 号 :20730212)) の 助 成 を 受 け て 行 わ れ た 研 究 成 果 の 一 部 で あ る 。 ‡ 九 州 大 学 大 学 院 経 済 学 研 究 院 准 教 授 ( E-mail: nakata@en.kyushu-u.ac.jp )

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に 把 握 し よ う と 試 み た Rysman( 2007) な ど が あ る 。

こ れ に 対 し 、残 念 な が ら 日 本 で は 理 論 研 究・実 証 研 究 の 蓄 積 が 進 ん で い な い 。 数 少 な い 理 論 研 究 と し て Shy and Tarkka( 2002) を 援 用 し た 北 村 ( 2005) が あ る 。 実 証 研 究 も 、 マ ク ロ 時 系 列 デ ー タ を 用 い た も の と し て 中 田 (2007)、 中 田 (2009)、北 村・大 森 ・西 田( 2009)な ど が あ る も の の 、ミ ク ロ デ ー タ を 利 用 し た 分 析 は『 家 計 の 金 融 行 動 に 関 す る 世 論 調 査 』の 横 断 面 デ ー タ(2007 年 )を 利 用 し た Fujiki and Tanaka( 2009) に 限 ら れ る 。 し か も 、 こ れ ら の 先 行 研 究 は 電 子 マ ネ ー が 貨 幣 需 要 に 及 ぼ す 影 響 の 分 析 を 目 的 と し て い る た め 、 貨 幣 需 要 関 数 を 推 定 す る に 留 ま っ て い る 。 換 言 す れ ば 、 電 子 マ ネ ー と い う 新 し い 決 済 手 段 が ど の よ う な 要 因 に 基 づ い て 経 済 に 受 け 容 れ ら れ 、 既 存 の 決 済 手 段 の 棲 み 分 け を ど の よ う に 侵 食 し て い く か を 明 示 的 な 分 析 対 象 と し た 実 証 研 究 は 、 筆 者 の 知 る 限 り は こ れ ま で 行 わ れ て い な い 。 以 上 の 問 題 意 識 の も と 、本 分 析 で は 、消 費 者 を 対 象 に 2009 年 3 月( 標 本:1145) と 2010 年 3 月( 標 本:1111)の 2 回 に わ た っ て 実 施 し た イ ン タ ー ネ ッ ト 調 査 の 結 果 を 利 用 し 、 電 子 マ ネ ー 等 の 小 額 決 済 手 段 の 選 択 要 因 、 お よ び 、 複 数 の 決 済 手 段 間 の 棲 み 分 け の 現 状 に つ い て 実 証 的 に 明 ら か に す る 。 本 分 析 の 特 徴 は 2 つ あ る 。 第 1 に 、 768 名 に つ い て は 上 記 2 回 の 調 査 の 両 方 に 回 答 し て い る 。 よ っ て 、 共 通 の 設 問 を 利 用 し た パ ネ ル 分 析 も 行 う こ と が で き る 。 第 2 に 、 対 象 を 福 岡 県 の 消 費 者 に 限 定 し て い る 。 福 岡 県 で は 、 九 州 最 大 の 鉄 道 ・ バ ス 網 を も つ 西 日 本 鉄 道 が 2008 年 5 月 か ら 電 子 マ ネ ー 機 能 付 き IC 乗 車 券 nimoca を 、2009 年 3 月 か ら は JR 九 州 が 同 じ く SUGOCA を ス タ ー ト さ せ た 。 交 通 系 の 電 子 マ ネ ー の 登 場 が 普 及 を 加 速 さ せ る こ と は 関 東 地 方 の Suica の 事 例 で も 知 ら れ て い る 。 こ の 点 を ふ ま え る と 、nimoca や SUGOCA の 浸 透 前( 2009 年 3 月 ) と 後( 2010 年 3 月 ) の 2 時 点 で 同 一 主 体 に 調 査 を 行 う こ と に よ り 、 よ り 多 く の 消 費 者 の 動 学 的 な 行 動 の 変 化 を と ら え た パ ネ ル ・ デ ー タ が 構 築 さ れ る と 期 待 さ れ る 。 実 証 分 析 の 結 論 は 以 下 の よ う に 要 約 さ れ る 。 第 1 に 、 平 常 の 移 動 手 段 ・ 商 品 購 買 場 所 な ど 決 済 の ア ベ イ ラ ビ リ テ ィ ・ コ ス ト の 代 理 変 数 は 、 消 費 者 の 電 子 マ ネ ー 決 済 の 利 用 頻 度 に 統 計 的 に 有 意 な 影 響 を 及 ぼ す 。 第 2 に 、 買 い 物 の 頻 度 な ど 、 小 額 決 済 の 時 間 コ ス ト の 代 理 変 数 は や は り 消 費 者 の 電 子 マ ネ ー 決 済 の 利 用 頻 度 に 統 計 的 に 有 意 な 影 響 を 及 ぼ す 。 第 3 に 、 現 金 決 済 の 利 用 頻 度 は 、 電 子 マ ネ ー 決 済 や ク レ ジ ッ ト カ ー ド 決 済 の 利 用 頻 度 と 統 計 的 に 有 意 な 負 の 相 関 を 有 す る 。 た だ し 、 決 済 手 段 の 選 択 基 準 と し て 「 公 的 な 信 頼 」 や 「 破 損 ・ 紛 失 時 の 価 値 保 証 」 を 重 視 す る 消 費 者 は 、 そ う で な い 消 費 者 と 比 較 し て 現 金 決 済 の 頻 度 を 減 ら さ な い 。第 4 に 、電 子 マ ネ ー 決 済 の 普 及 に 伴 っ て 消 費 者 は 、小 額 の 貨 幣( 1 円 貨 ) と 高 額 の 紙 幣 (1 万 円 ) の 両 側 か ら 現 金 需 要 を 減 ら し て い く が 、 電 子 マ

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ネ ー の 高 頻 度 利 用 者 に 関 し て は 、 高 額 紙 幣 に 対 す る 需 要 減 少 量 が よ り 少 な い 。 少 な く と も 現 状 に お い て 、 電 子 マ ネ ー 決 済 が 代 替 し て い る の は 、 現 金 決 済 の な か で も 特 に 取 引 金 額 の 小 さ い レ ン ジ で あ り 、 そ の 影 響 を 受 け て い る の は 主 に 小 額 の 硬 貨 で あ る 。 し た が っ て 、 電 子 マ ネ ー の 普 及 が マ ク ロ レ ベ ル で 金 融 政 策 に 影 響 を 及 ぼ す 状 況 は 考 え に く い 。 だ が 、 硬 貨 を 純 粋 な 小 額 決 済 の 「 道 具 ( ツ ー ル )」 と み な し 、 額 面 を 無 視 し て 「 量 ( 枚 数 )」 を 評 価 基 準 と す る と 、 電 子 マ ネ ー の 台 頭 は 小 額 硬 貨 を 中 心 と し て 、今 後 は 無 視 で き な い「 量( 枚 数 )」の 現 金 を 代 替 し て い く 可 能 性 が あ る 。ゆ え に 、「 公 共 財 」の 最 適 供 給 と い う 視 点 を 導 入 し た 場 合 、 こ れ ま で 政 府 が 「 硬 貨 」 と い う か た ち で 独 占 的 に 供 給 し て き た 小 額 決 済 ツ ー ル の あ り か た に つ い て 、今 後 は「 市 場 の 失 敗 」( 民 間 事 業 者 に 委 ね る こ と に よ る 過 小 供 給 )と「 政 府 の 失 敗 」( 政 府 が 関 与 す る こ と に よ っ て 生 じ る 過 大 供 給 ) の 両 面 か ら 検 討 し て い く こ と が 重 要 に な る と 思 わ れ る 。 本 稿 の 構 成 は 以 下 の と お り で あ る 。 ま ず 、 第 2 節 で は 、 わ が 国 に お け る 貨 幣 流 通 お よ び 電 子 マ ネ ー 普 及 の 現 状 に つ い て 、 公 表 さ れ た マ ク ロ デ ー タ を 用 い て 概 観 す る 。 次 に 、 第 3 節 で は 、 関 連 す る 先 行 研 究 に つ い て 概 観 す る 。 第 4 節 で は 、 中 田 (2009) を 引 用 し な が ら 、 電 子 マ ネ ー の 普 及 が 小 額 決 済 に 及 ぼ す 影 響 に つ い て 理 論 的 に 整 理 す る 。 続 く 、 第 5 節 で は 、 本 分 析 で 用 い る イ ン タ ー ネ ッ ト 調 査 に つ い て 説 明 す る 。 こ こ で は 、 フ ァ ク ト ・ フ ァ イ ン デ ィ ン グ を 兼 ね て い く つ か の 図 表 に よ る 分 析 を 行 う 。第 6 節 で は 、2010 年 調 査 の 結 果 を 用 い た ク ロ ス セ ク シ ョ ン・デ ー タ 、2009 年・2010 年 の 両 調 査 の 結 果 を 用 い た パ ネ ル・デ ー タ に よ る 計 量 分 析 を 行 う 。 最 後 の 第 7 節 は 分 析 結 果 の 要 約 に あ て る 。

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2. 貨 幣 流 通 枚 数 の 減 少 と 電 子 マ ネ ー の 普 及 : マ ク ロ 統 計 に よ る 概 観 図 1 に は 、1985 年 度 末 ~2009 年 度 末 に か け て の 貨 幣 の 流 通 枚 数 の 推 移 に つ い て 概 観 し た グ ラ フ で あ る 。額 面 50 円 以 下 の 貨 幣 に つ い て み る と 、流 通 枚 数 の 対 前 年 度 末 比 変 化 率 は 、五 円 貨 は 2000 年 度 末 か ら 、五 十 円 貨 は 2003 年 度 末 か ら 、 十 円 貨 ・ 一 円 貨 は 2006 年 度 末 か ら 、 百 円 貨 は 2008 年 度 末 か ら 持 続 的 に マ イ ナ ス と な っ て お り 、 も は や 流 通 枚 数 が プ ラ ス の 伸 び 率 を 示 し て い る 貨 幣 は 五 百 円 貨 の み と な っ て い る 。 図1. 貨 幣 流 通 枚 数 の 推 移 0 50 100 150 200 250 300 350 400 450 1985 1990 1995 2000 2005 【億枚】 【年度末】 五百円貨 百円貨 五十円貨 十円貨 五円貨 一円貨 【 出 所 】『 金 融 経 済 統 計 月 報 』( 日 本 銀 行 ) こ う し た 貨 幣 流 通 枚 数 の 減 少 の 理 由 と し て 、 し ば し ば 指 摘 さ れ る の が 「 電 子 マ ネ ー の 普 及 」で あ る 。 そ こ で 次 に 、電 子 マ ネ ー の 普 及 状 況 に つ い て 把 握 を 試 み る 。 な お 、 本 稿 で は 特 に 断 ら な い 限 り 、 日 本 銀 行 (2008)に お い て「 IC 型 の 電 子 マ ネ ー 」と 分 類 さ れ た も の を「 電 子 マ ネ ー 」と 呼 ぶ こ と に す る 。す な わ ち 、 本 稿 に お け る 電 子 マ ネ ー の 定 義 は 、 プ リ ペ イ ド 方 式 の 電 子 的 小 口 決 済 手 段 で あ り 、か つ 、金 銭 価 値 が カ ー ド や 携 帯 電 話 な ど の 媒 体 に 埋 め 込 ま れ た IC チ ッ プ 上 に 記 録 さ れ 、分 散 管 理 さ れ る も の で あ る 。1 具 体 例 と し て 、Edy( ビ ッ ト ワ レ ッ 1 本 稿 で は 分 析 対 象 か ら 除 外 し て い る が 、 日 本 銀 行 決 済 機 構 局 (2008) で は 、 コ ン ピ ュ ー タ ・ サ ー バ 上 で 金 銭 的 価 値 を 記 録 す る こ と で 、 こ れ を 中 央 管 理 す る タ イ プ の 小 口 電 子 決 済 手 段 も 「 サ ー バ 型 」 と し て 、 電 子 マ ネ ー の 定 義 に 含 め て い る 。

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ト 社 、2001 年 11 月 ~ )、 Suica( JR 東 日 本 、 2004 年 3 月 ~ )、 ICOCA( JR 西 日 本 、2005 年 10 月 ~ )、PASMO( 株 式 会 社 パ ス モ( 首 都 圏 の 私 鉄・地 下 鉄 各 社 )、 2007 年 3 月 ~ )、 nanaco( セ ブ ン & ア イ ホ ー ル デ ィ ン グ ス 、 2007 年 4 月 ~ )、 WAON( イ オ ン 、 2007 年 4 月 ~ ) な ど が 挙 げ ら れ る 。2 日 本 銀 行 は 2008 年 か ら 1 年 お き に『 最 近 の 電 子 マ ネ ー の 動 向 に つ い て 』を 発 表 し 、 わ が 国 の 電 子 マ ネ ー の 普 及 状 況 を マ ク ロ レ ベ ル で レ ポ ー ト し て い る 。 も っ と も 、 こ れ ま で は 加 工 さ れ た 図 表 の み が 示 さ れ 、 詳 細 な マ ク ロ 統 計 を 入 手 す る こ と が で き な か っ た 。し か し 、2010 年 10 月 に 発 表 さ れ た 2010 年 版 か ら 、巻 末 に 参 考 資 料 と し て 2007 年 9 月 以 降 の 発 行 枚 数・端 末 台 数・決 済 件 数・決 済 金 額 に 関 す る 月 次 統 計 を 掲 載 す る よ う に な っ た 。 図 2 に は 、 こ の う ち 月 間 決 済 件 数 と 処 理 可 能 な 端 末 の 台 数 の 推 移 が 示 さ れ て い る 。 図 2. わ が 国 電 子 マ ネ ー の 月 間 決 済 件 数 と 端 末 台 数 の 推 移 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 0 20 40 60 80 100 120 140 160 180 【 万台】 【 万件】 決済件数(左軸) 端末台数(右軸) 【 出 所 】『 最 近 の 電 子 マ ネ ー の 動 向 に つ い て (2 010 年 )』( 日 本 銀 行 決 済 機 構 局 ) 電 子 マ ネ ー 決 済 が 利 用 で き る 場 所 が 増 え る に 伴 い 、 電 子 マ ネ ー の 決 済 件 数 も 増 加 ト レ ン ド に あ る こ と が 伺 え る 。 さ ら に 、 図 3 に は 、 取 引 1 件 あ た り の 平 均 的 な 決 済 額 の 推 移 が 示 さ れ て い る 。 な お 、 同 時 に 右 軸 表 示 さ れ る 「 取 引 件 数 」 に 関 し て は 、 月 数 の 違 い の 影 響 を 除 去 す る た め 、 日 本 銀 行 が 公 表 し て い る 原 デ ー タ を 筆 者 が 独 自 に 「1 日 あ た り 」 に 加 工 し て い る こ と に 注 意 さ れ た い 。 決 済 件 数 が 増 加 傾 向 に あ る 一 方 で 、 年 末 年 始 の 季 節 変 動 を 例 外 と す れ ば 、 平 均 的 な 2

一 方 、iD や QUICPay, Visa Touch な ど は 同 じ よ う に 非 接 触 型 の IC チ ッ プ を 採 用 し た 小 口 電 子 決 済 手 段 で あ る も の の 、ポ ス ト ペ イ 方 式 で あ る 点 に お い て 異 な っ て い る 。こ れ ら は 、 署 名 を 要 さ ず に 決 済 が 完 了 す る 点 な ど を 除 け ば ク レ ジ ッ ト カ ー ド と し く み は ほ ぼ 同 じ で あ る こ と か ら 、 本 稿 で は ク レ ジ ッ ト カ ー ド に 分 類 す る 。

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決 済 金 額 は こ の と こ ろ 800~ 850 円 程 度 で 安 定 し て い る 。 図 3. わ が 国 電 子 マ ネ ー の 1 件 あ た り 取 引 金 額 0 1 2 3 4 5 6 0 100 200 300 400 500 600 700 800 900 1,000 【 百万件】 【 円】 1件あたり決済金額(左軸) 1日あたり決済件数(右軸) 【 出 所 】『 最 近 の 電 子 マ ネ ー の 動 向 に つ い て (2 010 年 )』( 日 本 銀 行 決 済 機 構 局 ) 日 本 銀 行 が 統 計 を 公 表 す る よ う な る ま で 、 日 経 流 通 新 聞 が 月 単 位 で 掲 載 す る 主 要 電 子 マ ネ ー 事 業 者 の 「 カ ー ド 発 行 枚 数 」・「 取 引 件 数 」・「 利 用 可 能 店 舗 数 」 は 、電 子 マ ネ ー の 普 及 状 況 を 推 測 す る こ と が 可 能 な 数 少 な い 統 計 資 料 で あ っ た 。 図 4 に は 、 各 電 子 マ ネ ー 事 業 者 の 取 引 件 数 の 推 移 が 示 さ れ て い る 。 な お 、 こ こ で も 月 ご と の 日 数 の 差 異 を 調 整 す る た め 、1 日 あ た り 利 用 件 数 に 変 換 し て い る 。 独 立 系 の 電 子 マ ネ ー サ ー ビ ス 事 業 者 で あ る Edy は 、わ が 国 で も っ と も 歴 史 が あ る も の の 、 こ の と こ ろ は 決 済 件 数 の 伸 び が 鈍 化 し て い る 。 そ の 一 方 で 、 近 年 の マ ク ロ レ ベ ル で の 電 子 マ ネ ー の 普 及 を 支 え て い る の は 、Suica や PASMO に 代 表 さ れ る 交 通 系 の 電 子 マ ネ ー 、お よ び 、大 手 小 売 業 者 が 運 営 す る nanaco や WAON と い っ た 流 通 系 の 電 子 マ ネ ー で あ る こ と が わ か る 。 地 域 別 、 都 市 規 模 別 に 電 子 マ ネ ー の 利 用 状 況 を 把 握 で き る マ ク ロ 統 計 と し て 『 家 計 消 費 状 況 調 査 』( 総 務 省 )が あ る 。 『 家 計 消 費 状 況 調 査 』( 総 務 省 )で は 、 2008 年 1 月 か ら「 電 子 マ ネ ー 等 関 連 の 利 用 状 況 に つ い て 」と い う 調 査 項 目 が 新 設 さ れ 、 世 帯 主 が 家 族 の 状 況 を 間 接 的 に 回 答 す る 形 式 で は あ る も の の 、 電 子 マ ネ ー を 使 う 家 族 が い る 世 帯 の 割 合 を 把 握 で き る 。図 5-A に は 世 帯 主 の 居 住 地 域 別 、 図 5-B に は 都 市 規 模 別 に 2008 年 と 2009 年 の 結 果 が 比 較 さ れ て い る 。

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図 4. 主 要 な 電 子 マ ネ ー に お け る 1 日 当 た り 利 用 件 数 の 推 移 ( 2007 年 6 月 以 降 ) 0 100 200 300 400 500 600 700 2 0 0 7 年 6月 7 月 月8 9月 10 11 12 200 8 年 1月 2 月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10 11 12 200 9 年 1月 2 月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10 11 12 201 0 年 1月 2 月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 【万件】

Edy Suica PASMO nanaco WAON ICOCA

【 出 所 】 日 経 流 通 新 聞 が 月 単 位 に 公 表 す る デ ー タ を 筆 者 が 集 計 ・ 加 工 し た も の 注 1)「 WAON」 は 200 8 年 4 月 か ら の 公 表

注2)Suica に つ い て は 2 008 年 6 月 よ り「 nimoca」( 西 日 本 鉄 道 )、2 009 年 4 月 か ら は「 Kitaca」 (JR 北 海 道 ) と 「 SUGOCA」( JR 九 州 ) を 含 む 。

注 3)「 Ed y」・「 Su ica」・「 Pasmo」・「 ICOCA」 に つ い て は 、 2009 年 3 月 の 統 計 が 日 経 流 通 新 聞 に 掲 載 さ れ て い な い た め 、 線 形 補 完 に よ っ て 値 を 推 定 し た 。 図 5. 電 子 マ ネ ー を 利 用 し た 家 族 が い る 世 帯 の 割 合 5-A. 世 帯 主 の 居 住 地 域 別 集 計 0.0 5.0 10.0 15.0 20.0 25.0 30.0 35.0 40.0 45.0 【 %】 2008年 2009年 【 出 所 】『 家 計 消 費 状 況 調 査 (2008 年 ・ 2009 年 )』 総 世 帯 の 集 計 ( 総 務 省 統 計 局 )

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5-B. 世 帯 主 が 居 住 す る 都 市 の 規 模 別 集 計 0.0 10.0 20.0 30.0 40.0 人口100万人以上 人口15万~100万人 人口5万~15万人 人口5万人未満 【 %】 2008年 2009年 【 出 所 】『 家 計 消 費 状 況 調 査 (2008 年 ・ 2009 年 )』( 総 務 省 統 計 局 ) 全 て の 地 域 で 、 電 子 マ ネ ー を 使 用 す る 家 族 が い る 世 帯 は 増 加 し て い る 。 た だ し 、 普 及 率 の 絶 対 水 準 は 関 東 地 方 が 突 出 し て お り 、2 位 の 近 畿 地 方 と も 2 倍 を 超 え る 差 が 生 じ て い る 。Edy や nanaco、 WAON な ど と い っ た 独 立 系 ・ 流 通 系 の 電 子 マ ネ ー に つ い て は 、 コ ン ビ ニ エ ン ス ス ト ア や ド ラ ッ グ ス ト ア を 始 め と し て 利 用 可 能 な 環 境 が 全 国 的 に 整 備 さ れ つ つ あ る 。少 な く と も 、大 都 市 が 多 い 関 東・ 東 海 ・ 近 畿 で ア ベ イ ラ ビ リ テ ィ に 顕 著 な 差 は な い と 考 え ら れ る 。 で は 、 こ の よ う な 差 が 生 じ る 背 景 に は ど の よ う な 要 因 が あ る の だ ろ う か 。 『 家 計 消 費 状 況 調 査 』 で は 、 電 子 マ ネ ー を 使 用 し た 家 族 に つ い て 、 そ の 家 族 が も っ と も 多 く 利 用 し た 場 所 に 関 す る 質 問 も 設 け て い る 。2009 年 度 の 調 査 に つ い て 、 こ の 設 問 の 回 答 結 果 を 地 域 別 に ま と め た も の が 図 6 で あ る 。 図 6. 電 子 マ ネ ー を も っ と も 多 く 利 用 し た 場 所 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% その他 インターネットショッピングの決済 自動販売機(飲料等) 大型電気店 ドラッグストア 飲食店 コンビニエンスストア 交通機関(定期券での利用は除く) 【 出 所 】『 家 計 消 費 状 況 調 査 (2009 年 )』 総 世 帯 の 集 計 ( 総 務 省 統 計 局 )

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関 東 地 方 で は 、80% も の 世 帯 が「 交 通 機 関 」と 回 答 し て い る 。関 東 地 方 で は 、 JR 東 日 本 が 運 営 す る 交 通 系 電 子 マ ネ ー の suica と 私 鉄 各 社 が 共 通 で 導 入 し て い る 交 通 系 電 子 マ ネ ー の PASMO が 相 互 利 用 可 能 と な っ て お り 、 消 費 者 の 利 便 性 が 非 常 に 高 い 。 関 東 地 方 で 電 子 マ ネ ー の 普 及 率 が 突 出 し て い る 背 景 に は 、 こ の よ う な 利 便 性 の 高 い 交 通 系 電 子 マ ネ ー の 存 在 が あ る と 考 え ら れ る 。 一 方 、 近 畿 地 方 や 中 国 地 方 を 除 く 地 域 で は 、 コ ン ビ ニ エ ン ス ・ ス ト ア が 主 要 な 電 子 マ ネ ー の 利 用 場 所 で あ る こ と が わ か る 。な お 、『 家 計 消 費 状 況 調 査 』で は 、こ の 設 問 の 回 答 選 択 肢 と し て 「 大 手 ス ー パ ー ・ マ ー ケ ッ ト 」 は 用 意 さ れ て い な い 。 図 4 に お い て 、 大 手 小 売 事 業 者 が 運 営 し て い る nanaco や WAON の 決 済 件 数 が 増 加 傾 向 に あ る こ と は 既 に 見 た と お り で あ る 。 こ れ ら の 電 子 マ ネ ー が 使 用 さ れ る 場 所 と し て は 、 系 列 の コ ン ビ ニ エ ン ス ・ ス ト ア だ け で な く 、 当 然 な が ら 本 体 の ス ー パ ー ・ マ ー ケ ッ ト ( 具 体 的 に は 、 イ ト ー ヨ ー カ ド ー や ジ ャ ス コ な ど ) も 想 定 さ れ よ う 。こ う し た 大 手 ス ー パ ー で の 使 用 は 、『 家 計 消 費 状 況 調 査 』に お い て は 図 6 の 「 そ の 他 」 に 吸 収 さ れ て い る も の と 考 え ら れ る 。 最 後 に 、『 家 計 の 金 融 行 動 に 関 す る 世 論 調 査 』( 金 融 広 報 中 央 委 員 会 ) で は 、 「 二 人 以 上 世 帯 」(8000 世 帯 ( 無 作 為 抽 出 )) と 「 単 身 世 帯 」( 2500 世 帯 ( 無 作 為 抽 出 ))に 対 し 、取 引 金 額 別 に ど の よ う な 決 済 手 段 を 利 用 す る か を 質 問 し て い る 。 図 7 で は 、 ま ず 、 二 人 以 上 世 帯 に つ い て 「 デ ビ ッ ト ・ カ ー ド お よ び 電 子 マ ネ ー 」 に よ る 決 済 シ ェ ア の 推 移 が 取 引 金 額 別 に 示 さ れ て い る 。3 図 7.[ 二 人 以 上 世 帯 ]デ ビ ッ ト ・ カ ー ド や 電 子 マ ネ ー を 決 済 に 使 う 世 帯 の 割 合 0 1 2 3 4 5 6 2007 2008 2009 2010 【 %】 1,000円以下 1,000円超~5,000円以下 5,000円超~10,000円以下 10,000円超~50,000円以下 50,000円超 【 出 所 】『 家 計 の 金 融 行 動 に 関 す る 世 論 調 査 』( 金 融 広 報 中 央 委 員 会 ) 3 『 家 計 の 金 融 行 動 に 関 す る 世 論 調 査 』 の 設 問 で は 、 両 者 が 区 別 さ れ て い な い 。

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特 に 低 い 取 引 金 額 の レ ン ジ に お い て 、 電 子 マ ネ ー ( 含 : デ ビ ッ ト カ ー ド ) に よ る 決 済 は 時 系 列 的 に 増 加 し て い る も の の 、 そ の シ ェ ア は 最 大 で も 5% 程 度 で あ る 。 し か し 、 単 身 世 帯 に 限 定 し た 場 合 に は か な り 異 な る 結 果 が 示 さ れ る 。 図 8 は 、単 身 世 帯 に つ い て 同 様 の グ ラ フ を 作 成 し た も の で あ る 。と り わ け 1000 円 以 下 の 取 引 金 額 の 決 済 に お い て は 、 直 近 で は 電 子 マ ネ ー を 選 択 す る と 回 答 し た 者 が 全 体 の 1/4 を 上 回 っ て い る 。 図 8.[ 単 身 世 帯 ]デ ビ ッ ト ・ カ ー ド や 電 子 マ ネ ー を 決 済 に 使 う 世 帯 の 割 合 0 5 10 15 20 25 30 2007 2008 2009 2010 【 %】 1,000円以下 1,000円超~5,000円以下 5,000円超~10,000円以下 10,000円超~50,000円以下 50,000円超 【 出 所 】『 家 計 の 金 融 行 動 に 関 す る 世 論 調 査 』( 金 融 広 報 中 央 委 員 会 ) 図 6 に お い て 、 関 東 地 方 な ど 一 部 の 地 域 を 除 い て は 、 電 子 マ ネ ー が 最 も 利 用 さ れ る 場 所 は コ ン ビ ニ エ ン ス ・ ス ト ア で あ っ た 。 一 般 に コ ン ビ ニ エ ン ス ・ ス ト ア の 主 な 利 用 者 は 単 身 者 で あ り 、1 回 あ た り の 取 引 金 額 は 小 さ く 、 か つ 、 取 引 ( 来 店 ) は 頻 繁 に 行 わ れ る 。 あ く ま で も 推 測 の 域 を 出 な い も の の 、 こ れ ら を ふ ま え る と 、 単 身 者 に よ る 頻 繁 な 小 額 決 済 の ニ ー ズ を 電 子 マ ネ ー が 満 た し て い る 可 能 性 が 考 え ら れ る 。し か し 、こ の こ と は 同 時 に も う 一 方 で 、( 取 引 件 数 で は な く )「 金 額 」で 評 価 し た 場 合 、電 子 マ ネ ー 決 済 が 現 金 決 済 を 大 き く 代 替 す る 状 況 は 考 え に く い こ と も 示 唆 し て い る 。 実 際 、 図 1 で 示 さ れ た よ う に 、 貨 幣 の な か で も っ と も 高 額 な 500 円 硬 貨 に つ い て は 、 流 通 高 は 直 近 で も プ ラ ス の 伸 び を 維 持 し て い る 。 ま た 、 図 表 に は 示 し て い な い も の の 、 紙 幣 に 関 し て は 、 旧 500 円 券 や 2,000 円 券 を 除 く と 流 通 枚 数 は 直 近 で も 増 加 し て い る 。 次 節 で は 、 こ う し た 現 金 決 済 と 電 子 マ ネ ー 決 済 と の 代 替 性 の 検 証 も 含 め 、 小 額 決 済 手 段 の 選 択 に 関 し て こ れ ま で 蓄 積 さ れ た 先 行 研 究 を 概 観 す る 。

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3. 先 行 研 究

決 済 の 経 済 理 論 の 範 囲 に 貨 幣 需 要 ま で 含 め れ ば 、そ の 端 緒 は Baumol(1952)や Tobin (1956)ま で 遡 る こ と が で き る 。し か し 、複 数 の 決 済 手 段 の 中 か ら 最 適 な も の を 選 択 す る 経 済 主 体 の 意 思 決 定 行 動 に 限 定 し た 場 合 、 こ れ を 消 費 者 の 立 場 か ら 最 初 に 理 論 的 に 分 析 し た の は Humphrey and Berger( 1990) だ と 思 わ れ る 。 Humphrey and Berger( 1990) は 、 各 決 済 手 段 の 取 引 コ ス ト が 固 定 費 ( ア ベ イ ラ ビ リ テ ィ ・ コ ス ト な ど ) と 取 引 金 額 と 相 関 を も つ 変 動 費 用 ( セ キ ュ リ テ ィ 費 用 な ど ) か ら 構 成 さ れ る と 考 え た 。 そ し て 、 こ れ ら の 固 定 費 の 大 き さ や 、 変 動 費 用 の 取 引 金 額 に 対 す る 感 応 度 が 決 済 手 段 ご と に 異 な る こ と か ら 、 結 果 と し て 、 取 引 金 額 に 応 じ て 取 引 費 用 が 最 小 に な る 決 済 手 段 は 異 な り う る と 主 張 し た 。 す な わ ち 、 複 数 の 決 済 手 段 の 「 棲 み 分 け 」 が 生 じ る 状 況 で あ る 。 も っ と も 、 あ る 決 済 手 段 が 経 済 で 普 及 す る た め に は 、 消 費 者 に と っ て 便 益 が 大 き い こ と は も ち ろ ん の こ と 、 小 売 店 に と っ て も 導 入 の メ リ ッ ト が 大 き く な け れ ば な ら な い 。 と い う の も 、 例 え ば ク レ ジ ッ ト ・ カ ー ド を 非 割 賦 方 式 で 利 用 す る 場 合 、 消 費 者 の 側 に は 一 切 金 利 負 担 は 生 じ ず 、 カ ー ド 会 社 に 手 数 料 を 支 払 う の は も っ ぱ ら 小 売 店 で あ る か ら だ 。 換 言 す れ ば 、 決 済 と い う サ ー ビ ス は 、 決 済 事 業 者 が 2 タ イ プ の 需 要 者( 消 費 者 と 小 売 業 者 )に 直 面 す る 典 型 的 な Two-Sided Market で あ る 。こ の 点 を ふ ま え 、決 済 手 段 に 関 す る 理 論 分 析 は 、次 第 に Rochet and Tirole(2002)に よ っ て 確 立 さ れ た Two-sided Market で の Platform 競 争 モ デ ル を 応 用 し た も の が 主 流 と な っ た 。 こ う し た タ イ プ の 研 究 は 大 き く 2 つ の 方 向 性 に 分 か れ た 。 ひ と つ が ネ ッ ト ワ ー ク 外 部 性 の 存 在 や 競 争 構 造 を 考 慮 し な が ら 、 決 済 手 段 の 価 格 ( す な わ ち 手 数 料 ) の 決 定 メ カ ニ ズ ム を 解 明 し 、 も し 価 格 形 成 に 歪 み が 生 じ て い る の で あ れ ば 、 公 的 介 入 も 含 め た 経 済 厚 生 改 善 の 施 策 を 検 討 す る も の で あ る 。4 例 え ば 、 Wright(2003)や Guthrie and Wright(2007) は こ う し た 方 向 性 に 位 置 す る 。

一 方 、 本 研 究 と よ り 関 連 が 深 い の は も う ひ と つ の タ イ プ の 研 究 で あ り 、 こ れ は Humphrey and Berger( 1990)と 同 様 に 複 数 の 決 済 手 段 が 併 存 す る 均 衡 を 分 析 対 象 と す る も の で あ る 。 こ れ ら の 分 析 で は Two-sided Market を 想 定 し 、 需 要 者 と し て 消 費 者 と 小 売 業 者 の 両 方 の 最 適 化 行 動 を 考 慮 す る の で モ デ ル は よ り 複 雑 に な る も の の 、基 本 的 な ア イ デ ア は Humphrey and Berger( 1990)と 同 様 で あ る 。 す な わ ち 、 そ れ ぞ れ の 経 済 主 体 は 決 済 手 段 の 利 用 ・ 導 入 に 関 し て 固 有 の 固 定 費 4 欧 米 で は 、ク レ ジ ッ ト カ ー ド 決 済 サ ー ビ ス に 関 し て 、多 数 の イ シ ュ ア ー が 競 合 し て い る に も 関 わ ら ず 、業 界 全 体 と し て 手 数 料(Interchange fee)が 高 止 ま り し て い る 状 況 が し ば し ば 「 パ ズ ル 」 と さ れ 、 関 心 の 高 い 研 究 分 野 と な っ て い た 。

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と 変 動 費 用 に 直 面 し 、 こ の も と で 取 引 金 額 ご と に 最 も 取 引 費 用 が 小 さ く な る 決 済 手 段 を 選 択 し よ う と す る 。 そ の 結 果 、 あ る 取 引 金 額 レ ン ジ に お い て 全 て の 経 済 主 体 が 選 択 す る 決 済 手 段 が 一 致 す る と き 、 均 衡 と し て 当 該 決 済 手 段 が 支 配 的 と な る 。 取 引 金 額 の 大 小 に 応 じ て 均 衡 で 選 択 さ れ る 決 済 手 段 が 異 な る な ら 、 経 済 全 体 と し て み る と 複 数 決 済 手 段 の 「 棲 み 分 け 」 と い う 現 象 が 観 察 さ れ る 。 た だ し 、 モ デ ル に よ っ て 競 争 条 件 等 や 考 慮 す る 費 用 に 差 異 が あ る た め 、 結 論 は 分 析 者 に よ っ て 異 な り う る 。 こ の タ イ プ の 理 論 分 析 と し て は 、 Shy and Tarkka(2002) や M’Chirugi (2006)が 挙 げ ら れ る 。 と も に 電 子 決 済 が 既 存 の 決 済 手 段 の 支 配 領 域 を 侵 食 し て 新 た な 「 棲 み 分 け 」 を 形 成 さ れ う る こ と を 示 し て い る も の の 、M’Chirugi (2006)の シ ミ ュ レ ー シ ョ ン で は 電 子 決 済 が 支 配 的 と な る 取 引 金 額 帯 は か な り 限 ら れ る ( 場 合 に よ っ て は 全 く な い ) と の 結 果 が 示 さ れ る 。 こ の 他 、Two-sided Market の 枠 組 み と は 別 に 、 複 数 種 類 の 決 済 事 業 者 間 の 競 争 を モ デ ル 化 し た 分 析 に Choudhary and Tyagi (2009)が あ る 。 Choudhary and Tyagi (2009) は 、決 済 事 業 者 が 自 ら の 決 済 サ ー ビ ス を 普 及 さ せ る た め に デ ィ ス カ ウ ン ト ( 例 : ポ イ ン ト 付 与 ) を 実 施 す る か 否 か は 競 争 環 境 に 大 き く 依 存 す る こ と 、 具 体 的 に は 独 占 的 で あ る ほ ど む し ろ デ ィ ス カ ウ ン ト す る 誘 因 が あ る こ と を 示 し た 。 欧 米 で は 、 新 し い 決 済 手 段 が 普 及 ・ 浸 透 し て い く 背 景 に あ る 要 因 を 明 ら か に す る 実 証 分 析 が 複 数 行 わ れ て い る 。 た だ し 、Two-Sided Market の 枠 組 み を そ の ま ま 実 証 分 析 に 適 用 す る こ と は 容 易 で は な い 。 小 売 店 が 決 済 手 段 の 導 入 を 検 討 る 際 に 極 め て 重 要 な 判 断 材 料 と な る 「 手 数 料 」 な ど の 情 報 は 、 一 般 に は 決 済 事 業 者 か ら 公 開 さ れ て い な い か ら だ 。 一 方 で 、 こ の よ う に 企 業 側 の 情 報 を 得 る こ と が 難 し い 一 方 、 欧 米 で は 消 費 者 を 対 象 と し た サ ー ベ イ ・ デ ー タ は 充 実 し て い る 。 こ う し た 背 景 か ら 、 欧 米 の 多 く の 実 証 分 析 は 背 後 に Humphrey and Berger (1990) の よ う な 消 費 者 の み の 意 思 決 定 問 題 を 想 定 し 、 サ ー ベ イ ・ デ ー タ を 活 用 し て 新 し い 決 済 手 段 の 普 及 要 因 や 既 存 の 決 済 手 段 と の 代 替 関 係 の 有 無 に つ い て 定 量 的 に 分 析 し て い る 。 近 年 の 研 究 と し て は 、 個 人 の 属 性 ( 年 齢 ・ 性 別 等 ) や 経 済 環 境 ( 所 得 ・ 持 ち 家 保 有 等 ) が デ ビ ッ ト カ ー ド 等 の 保 有 ・ 使 用 に 有 意 な 影 響 を 及 ぼ す こ と を 明 ら か に し た Borzekowski, Kiser and Ahmed (2008) 、 ポ イ ン ト な ど の“Rewards”が デ ビ ッ ト カ ー ド の 使 用 に プ ラ ス の 影 響 を 及 ぼ す こ と を 示 し た Ching and Hayashi (2010)、新 技 術 へ の 適 応 性( 例:ネ ッ ト 通 販 へ の 慣 れ ) が デ ビ ッ ト カ ー ド の 使 用 に 有 意 な 影 響 を 及 ぼ す こ と を 示 し た Hayashi and Klee (2003)、 ATM 手 数 料 な ど 各 決 済 手 段 の 明 示 的 な コ ス ト が 及 ぼ す 影 響 を 明 ら か に し た Scholnick et al.(2008)な ど が あ る 。こ れ ら は い ず れ も 、新 し い 決 済 手 段 の 取 引 費 用 を 低 減 す る 要 因 に 着 目 し た 実 証 研 究 で あ り 、 結 果 と し て 、 既 存 の 決 済

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手 段 ( 多 く の 場 合 は 現 金 決 済 ) が 新 た な 決 済 手 段 に 代 替 さ れ て い く こ と を 示 唆 し て い る 。さ ら に 、Rysman( 2007)は カ ー ド 会 社 が 保 有 す る デ ー タ に ア ク セ ス し て Two-Sided Market の 枠 組 み を 再 現 し た 実 証 分 析 を 行 い 、 当 該 決 済 手 段 を 導 入 す る 小 売 店 の 増 加 が 、 消 費 者 に よ る 利 用 頻 度 を さ ら に 増 加 さ せ る と い う 「 ネ ッ ト ワ ー ク 外 部 性 」 の 重 要 性 を 示 し た 。 他 方 、 ク ロ ス カ ン ト リ ー の パ ネ ル 分 析 ( 先 進 13 カ 国 、 1988~ 2003 年 ) に よ っ て 新 た な 電 子 決 済 手 段 ( 海 外 に お け る デ ビ ッ ト カ ー ド ) と 現 金 決 済 の 代 替 関 係 の 有 無 を 検 証 し た ユ ニ ー ク な 分 析 と し て Amromin and Chakravorti (2009)が 挙 げ ら れ る 。Amromin and Chakravorti (2009)の 分 析 に よ る と 、 デ ビ ッ ト カ ー ド 決 済 の 台 頭 は 額 面 の 小 さ い 現 金 へ の 需 要 を 減 少 さ せ て い る も の の 、 額 面 の 高 い 現 金 へ の 需 要 は 影 響 を 受 け な い 。

欧 米 に お け る 研 究 の 蓄 積 と は 対 照 的 に 、 日 本 で は 理 論 研 究 ・ 実 証 研 究 が 進 ん で い な い 。 数 少 な い 理 論 研 究 と し て Shy and Tarkka( 2002) を 援 用 し た 北 村 (2005) が あ る 。 一 方 、 実 証 分 析 に 関 し て は 、 デ ー タ の 制 約 か ら こ れ ま で は マ ク ロ 時 系 列 デ ー タ を 用 い た も の が 中 心 で あ っ た 。こ の う ち 中 田(2007)、北 村 ・ 大 森 ・ 西 田 (2009) は 電 子 マ ネ ー の 普 及 が 通 貨 重 要 に 及 ぼ す 影 響 を 分 析 し た 研 究 で あ る 。 こ れ ら の 研 究 は い ず れ も 電 子 マ ネ ー の 普 及 指 標 ( 取 引 件 数 ) を 考 慮 し て 貨 幣 の 種 類 別 に 貨 幣 需 要 関 数 を 推 定 し 、 フ ァ ン ダ メ ン タ ル 要 因 を 制 御 し た う え で も 、 電 子 マ ネ ー の 普 及 が 貨 幣 需 要 に マ イ ナ ス の 影 響 を 及 ぼ す こ と を 明 ら か に し た 。 た だ し 、 い ず れ の 研 究 で も 、 現 状 に お け る 貨 幣 流 通 へ の 量 的 な イ ン パ ク ト は ご く 小 さ い こ と が 示 さ れ て い る 。ま た 、中 田(2009)は VAR 推 定 の 結 果 を も と に 貨 幣 の 種 類 別 に イ ン パ ル ス 応 答 関 数 を 推 定 し 、 電 子 マ ネ ー の 普 及 が 貨 幣 需 要 に 及 ぼ す マ イ ナ ス の 効 果 の 持 続 性 に つ い て 検 証 し て い る 。 こ の 分 析 か ら は 、 電 子 マ ネ ー の 普 及 に よ り 、 小 額 貨 幣 の 流 通 量 は 持 続 的 に 減 少 す る 一 方 、 銀 行 券 の 流 通 量 の 減 少 は 持 続 的 で は な い こ と が 示 さ れ る 。 こ れ に つ い て 中 田 (2009) は 、 銀 行 券 の 場 合 は 定 期 的 に ( 電 子 マ ネ ー へ の ) チ ャ ー ジ の た め の 需 要 が 生 じ る 可 能 性 を 指 摘 し て い る 。

こ れ に 対 し 、Fujiki and Tanaka( 2009)は『 家 計 の 金 融 行 動 に 関 す る 世 論 調 査 』 の 横 断 面 デ ー タ(2007 年 )を 利 用 し た ミ ク ロ デ ー タ を 用 い て 貨 幣 需 要 関 数 を 推 定 し て い る 。 こ の 結 果 、 家 計 の 現 金 保 有 は 電 子 マ ネ ー の 利 用 頻 度 に 影 響 を 受 け な い と い う 結 論 を 得 て い る 。 日 本 に お け る 先 行 研 究 を ふ り か え る と 、 分 析 の 関 心 が 貨 幣 需 要 へ の 影 響 に 集 中 し て い る こ と は 否 定 し が た い 。 そ し て 、 い ず れ の 先 行 研 究 も 電 子 マ ネ ー の 普 及 が 貨 幣 需 要 に 及 ぼ す 量 的 な イ ン パ ク ト は 小 さ い ( な い し 、 統 計 的 に 有 意 な 影 響 を 及 ぼ さ な い )と い う 結 果 を 得 て い る 。 こ れ ら の 分 析 結 果 か ら 判 断 す る 限 り 、

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電 子 マ ネ ー の 普 及 が 今 後 の 金 融 政 策 等 に 影 響 を 及 ぼ す 状 況 は 考 え に く く 、 当 然 な が ら 、 そ う し た 視 点 か ら 電 子 マ ネ ー 決 済 の 経 済 分 析 を 行 う こ と も 適 切 で は な い 。5 し か し 、 マ ク ロ レ ベ ル で の 影 響 を 議 論 す る 以 前 に 、 そ も そ も わ が 国 で は 、 新 し い 決 済 手 段 が ど の よ う な 要 因 に 影 響 を う け て 浸 透 し 、 既 存 の 決 済 手 段 の 「 棲 み 分 け 」 に ど の よ う な 変 化 を も た ら し て い く の か に つ い て 、 ミ ク ロ レ ベ ル で の 分 析 が ほ と ん ど 行 わ れ て い な い 。 こ の 点 を 明 ら か に す る に は 、 ミ ク ロ 理 論 に 立 脚 し た 経 済 主 体 の 行 動 を 想 定 し 、 理 論 の 妥 当 性 を 実 証 分 析 に よ っ て 検 証 す る 必 要 が あ る に も 関 わ ら す 、 日 本 で は 実 証 分 析 に 必 要 な 電 子 マ ネ ー に 関 す る サ ー ベ イ ・ デ ー タ が ほ と ん ど 蓄 積 さ れ て い な い た め で あ る 。 よ っ て 、 以 下 、 本 論 文 で は 独 自 に 実 施 し た ア ン ケ ー ト 調 査 を も と に 定 量 的 な 分 析 を 行 い 、 電 子 マ ネ ー を 中 心 と し て 消 費 者 に よ る 決 済 手 段 の 選 択 要 因 を 明 ら か に し て い く 。 ア ン ケ ー ト 調 査 の 概 要 を 説 明 す る に 先 立 ち 、 ま ず 次 節 で 、 決 済 手 段 の 選 択 に 関 す る ご く シ ン プ ル な 理 論 仮 説 を 提 示 す る 。 4. 決 済 手 段 の 選 択 の 理 論 既 に 述 べ た よ う に 、 決 済 手 段 の 選 択 の 問 題 を 理 論 的 に 分 析 す る 場 合 、 近 年 で は Two-sided Market で の Platform 競 争 モ デ ル を 用 い る こ と が 一 般 的 で あ る 。し か し 、 欧 米 で の 実 証 分 析 の 多 く が 直 面 し て い る 限 界 と 同 様 に 、 わ が 国 で も 小 売 店 の 意 思 決 定 に 影 響 を 及 ぼ す 手 数 料 等 の 情 報 を 入 手 す る こ と は 困 難 で あ る 。 よ っ て 、Borzekowski, Kiser and Ahmed (2008) や Hayashi and Klee( 2003) 他 の 先 行 研 究 と 同 様 に 小 売 店 側 の 行 動 は 所 与 と み な し 、 も っ ぱ ら 消 費 者 の 意 思 決 定 問 題 を 考 慮 す る 。

こ う し た 視 点 に た っ た 理 論 分 析 と し て 、Humphrey and Berger( 1990) を 拡 張 し た 伊 藤 ・ 川 本 ・ 谷 口(1999)が あ る 。本 分 析 で は 、伊 藤 ・ 川 本 ・ 谷 口( 1999) に 立 脚 し 、 こ れ に 北 村 (2005) が 考 慮 し た 「 決 済 の 完 了 ま で に 要 す る 時 間 コ ス ト 」 を 加 味 す る な ど の 修 正 を 加 え た 中 田 (2009) の モ デ ル を ベ ー ス と し て 、 消 費 者 に よ る 決 済 手 段 の 選 択 行 動 を 考 察 す る 。 あ る 決 済 手 段 を 利 用 す る と き 、 利 用 者 は 様 々 な コ ス ト を 負 担 す る 。 こ の コ ス ト は 「 固 定 費 」・「 変 動 費 」・「 金 利 逸 失 費 用 」 に 分 類 さ れ る 。 5 実 際 、『 最 近 の 電 子 マ ネ ー の 動 向 に つ い て 』( 日 本 銀 行 決 済 機 構 局 )に よ れ ば 、2010 年 6 月 時 点 に お け る 電 子 マ ネ ー の 残 高 は 1200 億 円 程 度 で あ り 、 対 貨 幣 で 2.5% 程 度 、対 紙 幣 で は0.15% 程 度 の 規 模 し か な い 。

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1) 固 定 費 固 定 費 は 、 取 引 1 回 あ た り に 等 し く か か る コ ス ト で あ り 、 取 引 金 額 の 多 寡 に は 左 右 さ れ な い 。 第 1 の 固 定 費 と し て 「 時 間 コ ス ト 」 が あ る 。 こ れ は 決 済 完 了 ま で に 要 す る 時 間 の 長 さ を 、 当 該 決 済 手 段 に か か る 機 会 費 用 と み な し た も の で あ る 。 現 金 決 済 で は つ り 銭 の 授 受 に 一 定 の 時 間 を 要 す る 。 ク レ ジ ッ ト カ ー ド 決 済 で は カ ー ド 会 社 と の 通 信 シ ス テ ム を 介 し た 信 用 情 報 の 確 認 や 伝 票 へ の 署 名 等 に や は り 時 間 を 要 す る 。一 方 、電 子 マ ネ ー 決 済 で は 非 接 触 型 IC チ ッ プ を か ざ す だ け な の で 時 間 コ ス ト は 小 さ い 。 第 2 の 固 定 費 と し て 「 ア ベ イ ラ ビ リ テ ィ ・ コ ス ト 」 が 挙 げ ら れ る 。 現 金 は ど こ で も 決 済 に 利 用 で き る と い う 意 味 で 、 ア ベ イ ラ ビ リ テ ィ ・ コ ス ト は 限 り な く ゼ ロ に 近 い 。 他 方 、 ク レ ジ ッ ト カ ー ド 、 デ ビ ッ ト カ ー ド 、 電 子 マ ネ ー の ア ベ イ ラ ビ リ テ ィ は 加 盟 店 網 の 規 模 に 制 約 を 受 け る 。 し た が っ て 、 利 用 可 能 店 舗 の 探 索 と う の 手 間 が か か り 、 そ れ に よ っ て 失 う 時 間 が 機 会 費 用 と な る 。 2) 変 動 費 決 済 金 額 の 大 小 に 応 じ て か か る コ ス ト と し て 「 ハ ン ド リ ン グ ・ コ ス ト 」・「 セ キ ュ リ テ ィ ・ コ ス ト 」・「 破 損 コ ス ト 」 が あ る 。 ハ ン ド リ ン グ ・コ ス ト は 決 済 手 段 に よ っ て 大 き く 異 な る 。ま ず 、現 金 を 用 い て 規 模 の 大 き な 決 済 を 行 お う と す れ ば 、 多 額 の 現 金 を 運 搬 す る 必 要 が 生 じ る の で ハ ン ド リ ン グ・コ ス ト は 大 き い 。他 方 、カ ー ド タ イ プ の 決 済 手 段( ク レ ジ ッ ト ・ カ ー ド 、デ ビ ッ ト・カ ー ド 、電 子 マ ネ ー )に は こ う し た 運 搬 の 手 間 は 生 じ な い 。 ク レ ジ ッ ト ・ カ ー ド や 電 子 マ ネ ー の 機 能 は 、 近 年 で は 携 帯 電 話 に 搭 載 す る こ と も で き る が 、こ の 場 合 に も や は り ハ ン ド リ ン グ・コ ス ト は ほ と ん ど か か ら な い 。 セ キ ュ リ テ ィ ・ コ ス ト は 当 該 決 済 手 段 の 盗 難 ・ 紛 失 の リ ス ク に か か る も の で あ る 。 デ ビ ッ ト カ ー ド や ク レ ジ ッ ト カ ー ド は 盗 難 ・ 紛 失 時 に 機 能 を 停 止 で き 、 機 能 停 止 後 は 預 金 口 座 か ら 金 銭 価 値 が 奪 わ れ る こ と も な い 。 こ れ に 対 し 、 現 金 や 電 子 マ ネ ー の 場 合 、 盗 難 ・ 紛 失 時 に 金 銭 価 値 を 取 り 戻 す こ と は 難 し い の で セ キ ュ リ テ ィ ・ コ ス ト は 高 い 。 仮 に 、 何 ら か の 取 引 を 想 定 し て 金 銭 を 所 持 し て い る と す れ ば 、 現 金 や 電 子 マ ネ ー の セ キ ュ リ テ ィ ・ コ ス ト は 取 引 額 に 比 例 す る と 言 え る 。た だ し 、電 子 マ ネ ー に 関 し て は 、近 年 は「 記 名 式 」を 選 択 す る と 盗 難 ・ 紛 失 時 に 電 子 的 な 金 銭 価 値 が 補 償 さ れ る 。 3) 金 利 逸 失 費 用 金 利 逸 失 費 用 は 変 動 費 の 一 形 態 で あ る が 、 重 要 な 概 念 で あ る こ と か ら 項 目 を 改 め て 説 明 す る 。 資 金 が 預 金 口 座 に 預 け ら れ た 状 況 を 出 発 点 と し た 場 合 、 デ ビ

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ッ ト カ ー ド 以 外 の 小 額 決 済 手 段 で は 、(1) 預 金 口 座 か ら の 資 金 引 き 出 し 、( 2) 財 や サ ー ビ ス の 購 入 ・ 受 取 、(3) 代 金 の 支 払 い の 時 点 が 一 致 し な い 。 こ の タ イ ミ ン グ の 乖 離 に 由 来 す る 預 金 金 利 獲 得 機 会 の 逸 失 は コ ス ト と み な さ れ る 。 現 金 決 済 の 場 合 、 予 め 預 金 口 座 か ら 資 金 を 引 き 出 し て 支 払 い に 備 え る た め 、 デ ビ ッ ト カ ー ド 決 済 と 比 べ て 金 利 を 獲 得 で き る 機 会 が 失 わ れ る 。 こ の 金 利 逸 失 コ ス ト は 、 明 ら か に 口 座 か ら の 引 出 額 ( さ ら に は 取 引 額 ) と 正 相 関 す る 。 他 方 、 ク レ ジ ッ ト カ ー ド を 非 割 賦 方 式 で 決 済 に 用 い た 場 合 、 最 大 で 1 ヶ 月 程 度 は 購 入 代 金 の 支 払 い を 先 延 ば し で き 、 こ れ に か か る 金 利 ・ 手 数 料 の 負 担 も 発 生 し な い 。6 換 言 す れ ば 、 よ り 長 く 預 金 口 座 に と ど め る こ と が で き る た め 、 デ ビ ッ ト カ ー ド 決 済 と 比 べ て 金 利 収 入 獲 得 の 機 会 が 広 が る 。 こ れ は ク レ ジ ッ ト カ ー ド 決 済 時 に は「 金 利 獲 得 ベ ネ フ ィ ッ ト( マ イ ナ ス の 金 利 逸 失 コ ス ト )」が 発 生 す る こ と を 意 味 す る 。 縦 軸 を 取 引 費 用 総 額 、 横 軸 を 取 引 金 額 と す る 座 標 軸 を 設 定 し た う え で 、 上 記 の 整 理 に し た が っ て 現 金 、 ク レ ジ ッ ト カ ー ド 、 デ ビ ッ ト カ ー ド を 決 済 に 利 用 す る 際 の 取 引 費 用 を 考 え る と 、 各 決 済 手 段 の 取 引 コ ス ト は 図 9 の よ う に 図 示 す る こ と が で き る 。 図 9. 各 小 額 決 済 手 段 の 取 引 費 用 図 10. 小 額 決 済 手 段 の す み 分 け ( 電 子 マ ネ ー 普 及 以 前 ) 現 金 決 済 の ア ベ イ ラ ビ リ テ ィ ・ コ ス ト は ゼ ロ で あ り 、 固 定 費 は 時 間 費 用 の み 6 『 日 本 の 消 費 者 信 用 統 計 』( ク レ ジ ッ ト 産 業 協 会 ) に よ れ ば 、2007 年 の ク レ ジ ッ ト カ ー ド シ ョ ッ ピ ン グ 額( 約 38.8 兆 円 )の 91.7% は 非 割 賦 方 式 で の 信 用 供 与 で あ る 。非 割 賦 方 式 の 場 合 、明 示 的 に は 金 利 や 手 数 料 が 発 生 し な い も の の 、カ ー ド 会 社 は 加 盟 店 か ら の 手 数 料 、 利 用 者 か ら の 年 会 費 等 に よ っ て 間 接 的 に は こ れ ら の コ ス ト を 回 収 し て い る と 思 わ れ る 。 1 回当たり 取引金額 取 引 費 用 【A】現金決済 【C】デビットカード決済 【B】クレジットカード決済 1 回当たり 取引金額 取 引 費 用 現金 クレジットカード デビットカード

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で あ る 。 一 方 、 ハ ン ド リ ン グ ・ コ ス ト と セ キ ュ リ テ ィ ・ コ ス ト が 取 引 金 額 と 正 相 関 し て 発 生 す る 。 さ ら に 、 や は り 取 引 金 額 と 正 相 関 す る 費 用 と し て 、 金 利 逸 失 コ ス ト も 伴 う 。 し た が っ て 、 現 金 決 済 の 取 引 費 用 は 、 時 間 コ ス ト 分 の 切 片 を も つ 取 引 金 額 の 増 加 関 数 と し て 表 さ れ る ( 図 9 の 【 A】)。 ク レ ジ ッ ト カ ー ド 決 済 で は 、 信 用 情 報 の 確 認 等 で 決 済 に 時 間 を 要 す る 他 、 利 用 可 能 な 店 舗 が 限 ら れ る た め に ア ベ イ ラ ビ リ テ ィ・コ ス ト も 発 生 す る 。 よ っ て 、 現 金 決 済 よ り も 大 き な 固 定 費 が か か る 。 一 方 、 既 に 述 べ た よ う に 変 動 費 は か か ら な い ば か り か 、む し ろ「 金 利 獲 得 ベ ネ フ ィ ッ ト( マ イ ナ ス の 金 利 逸 失 コ ス ト )」 が 発 生 す る 。 よ っ て 、 ク レ ジ ッ ト カ ー ド 決 済 の 取 引 費 用 は 、 現 金 決 済 よ り 大 き な 切 片 を も つ 取 引 金 額 の 減 少 関 数 と し て 表 さ れ る ( 図 9 の【 B】)。 な お 、ク レ ジ ッ ト・カ ー ド は 航 空 会 社 の マ イ レ ー ジ・プ ロ グ ラ ム と の 連 動 な ど の ポ イ ン ト・ プ ロ グ ラ ム が 提 供 さ れ て い る こ と も 少 な く な い 。 こ れ ら の ポ イ ン ト は 取 引 額 の 大 き さ に 応 じ て 付 与 さ れ る か ら 、 図 9 で 示 さ れ た マ イ ナ ス の 傾 き を さ ら に 大 き く す る 要 因 と な る 。 デ ビ ッ ト カ ー ド は 暗 証 番 号 の 入 力 だ け で 決 済 が 完 了 す る の で 時 間 コ ス ト は 小 さ い 。 だ が 、 日 常 の 買 い 物 を す る よ う な 小 売 店 に 関 し て は 加 盟 店 が 非 常 に 少 な く 、 ア ベ イ ラ ビ リ テ ィ ・ コ ス ト は 高 い 。 一 方 で 、 金 額 が 大 き な 買 い 物 を す る 家 電 量 販 店 な ど で は 利 用 で き る 場 所 が 多 い 。 つ ま り 、 デ ビ ッ ト カ ー ド の ア ベ イ ラ ビ リ テ ィ ・ コ ス ト は 取 引 金 額 の 大 小 に よ っ て 異 な る 。 物 理 的 要 因 費 用 は ク レ ジ ッ ト カ ー ド 決 済 と 同 様 に 無 視 で き る ほ ど 小 さ い 。 ま た 、 デ ビ ッ ト カ ー ド 決 済 で は 、 預 金 口 座 か ら の 資 金 の 引 き 出 し と 購 入 代 金 支 払 い の タ イ ミ ン グ が 一 致 す る の で 金 利 逸 失 コ ス ト は 発 生 し な い 。 し た が っ て 、 取 引 費 用 は 取 引 金 額 と は 相 関 し な い も の と み な せ る 。 以 上 の 特 徴 を 図 示 す る と 、デ ビ ッ ト カ ー ド 決 済 の 取 引 費 用 は 、 閾 値 と な る 取 引 金 額 を 境 に ジ ャ ン プ す る 横 軸 と 平 行 な 2 本 の 直 線 と し て 表 さ れ る ( 図 9 の 【 C】)。 利 用 者 は 1 回 あ た り の 取 引 金 額 に 応 じ て 、 も っ と も 取 引 費 用 が 低 い 決 済 手 段 を 選 択 す る こ と に な る 。こ れ を 実 線 で 結 ん だ も の が 図 10 で あ る 。取 引 金 額 が 小 さ い 領 域 で は 現 金 、 大 き い 領 域 は デ ビ ッ ト カ ー ド 、 そ の 中 間 領 域 は ク レ ジ ッ ト カ ー ド が 選 択 さ れ る こ と が わ か る 。 次 に 、 電 子 マ ネ ー 決 済 の 取 引 費 用 に つ い て 検 討 す る 。 電 子 マ ネ ー 決 済 の 最 大 の 特 徴 は 、非 接 触 型 IC チ ッ プ を リ ー ダ ー に か ざ す だ け で 決 済 が 完 了 す る「 即 時 性 」に あ る 。つ ま り 、固 定 費 の う ち 時 間 コ ス ト は 限 り な く ゼ ロ に 近 い 。し か し 、 電 子 マ ネ ー の 登 場 当 初 は 利 用 可 能 店 舗 が 少 な く 、 ア ベ イ ラ ビ リ テ ィ ・ コ ス ト は 非 常 に 大 き か っ た と い え る 。ま た 、電 子 マ ネ ー は 新 し い 決 済 手 段 で あ り 、か つ 、

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も っ ぱ ら 民 間 事 業 者 に よ っ て 提 供 さ れ 、 預 金 口 座 と も リ ン ク し な い ( つ ま り 、 銀 行 の 信 用 か ら 独 立 し て い る ) こ と か ら 、 ス キ ー ム と し て の 信 頼 性 に 心 理 的 な 不 安 を 覚 え る 人 も い る か も し れ な い 。 こ う し た い わ ば 「 ク レ デ ィ ビ リ テ ィ ・ コ ス ト 」 と 呼 べ る 費 用 は 、 新 し い 決 済 手 段 に 固 有 の 固 定 費 と い え る だ ろ う 。 一 方 、非 接 触 型 IC チ ッ プ を 搭 載 し た カ ー ド( な い し 携 帯 電 話 )は 携 帯 性 に 優 れ 、 ハ ン ド リ ン グ ・ コ ス ト は 微 小 で あ る 。 し か し 、 ク レ ジ ッ ト カ ー ド や デ ビ ッ ト カ ー ド と 違 い 、電 子 マ ネ ー の 場 合 に は 電 子 的 金 銭 価 値 が 非 接 触 型 IC チ ッ プ に 格 納 さ れ る た め 、 特 に 無 記 名 式 の 電 子 マ ネ ー の 場 合 に は 盗 難 や 紛 失 の リ ス ク に さ ら さ れ る 。 利 用 者 が 取 引 金 額 に 応 じ て 電 子 マ ネ ー に 電 子 的 金 銭 価 値 を チ ャ ー ジ す る こ と を 前 提 と す れ ば 、 こ う し た セ キ ュ リ テ ィ ・ コ ス ト は 取 引 額 と 正 相 関 す る 。 ま た 、チ ャ ー ジ に 際 し て 現 金 が 必 要 で あ り 、現 金 を 用 意 す る に は 預 金 口 座 か ら 資 金 を 引 き 出 さ ね ば な ら な い 。 よ っ て 、 電 子 マ ネ ー 決 済 時 に は 取 引 金 額 に 応 じ た 金 利 逸 失 コ ス ト も 発 生 す る 。 図 11 に は 、サ ー ビ ス 開 始 当 初 の 電 子 マ ネ ー 決 済 の 取 引 費 用 関 数 が 示 さ れ て い る 。 切 片 が 大 き く な っ て い る の は 、 電 子 マ ネ ー の サ ー ビ ス 開 始 当 初 は 利 用 可 能 店 舗 が 少 な く 、ア ベ イ ラ ビ リ テ ィ ・コ ス ト か ら 構 成 さ れ る 固 定 費 は か な り 高 か っ た と 考 え ら れ る た め で あ る 。 図 11. 電 子 マ ネ ー の 取 引 費 用 ① 図 12. 電 子 マ ネ ー の 取 引 費 用 ② ( サ ー ビ ス 開 始 当 初 ) ( サ ー ビ ス 普 及 の 影 響 ) も っ と も 、 電 子 マ ネ ー 決 済 は こ の と こ ろ 様 々 な 点 で サ ー ビ ス の 改 善 が 進 ん で い る 。 ま ず 、 図 2 に 示 さ れ る よ う に 電 子 マ ネ ー に 対 応 し た 端 末 は 増 加 を 続 け て お り 、 ア ベ イ ラ ビ リ テ ィ ・コ ス ト は 確 実 に 低 下 し て い る 。 こ れ は 図 12 に 示 さ れ る よ う に 切 片 の 低 下 と し て 解 釈 す る こ と が で き る 。 ま た 、 技 術 進 歩 に よ っ て 記 名 式 の 電 子 マ ネ ー が 登 場 し 、 一 定 の 普 及 を 見 せ て 1 回当たり 取引金額 取 引 費 用 ア ベ イ ラ ビ リ テ ィ ・ コ ス ト 【参考】現金決済の取引費用 電子マネー決済の取引費用 1 回当たり 取引金額 取 引 費 用 利 用 可 能 店 舗 の 増 加 に よ る ア ベ イ ラ ビ リ テ ィ ・ コ ス ト の 低 下 技術進歩、ポイント付与等による 傾きの減少 ク レ デ ィ ビ リ テ ィ コ ス ト

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い る 。こ れ は 、手 数 料 を 払 っ た う え で 非 接 触 型 IC チ ッ プ に 氏 名 等 の 個 人 情 報 を 記 録 さ せ れ ば 、 盗 難 ・ 紛 失 時 に 電 子 的 金 銭 価 値 が 補 償 さ れ る サ ー ビ ス で あ り 、 セ キ ュ リ テ ィ ・ コ ス ト を 低 下 さ せ る 効 果 を 有 す る 。 加 え て 、 複 数 の 電 子 マ ネ ー 事 業 者 は 、 決 済 金 額 の 一 定 割 合 を ポ イ ン ト と し て 付 与 し 、 貯 ま っ た ポ イ ン ト を 電 子 マ ネ ー 等 に 交 換 で き る よ う な プ ロ グ ラ ム を 提 供 し て い る 。 こ れ ら は い ず れ も 、図 12 に 示 さ れ る よ う に 、電 子 マ ネ ー の 取 引 費 用 関 数 の「 傾 き 」を 小 さ く す る 効 果 を も つ 。 ゆ え に 、 電 子 マ ネ ー の 普 及 が 既 存 の 決 済 手 段 の 棲 み 分 け に 及 ぼ す 影 響 に 関 し て は 、図 12 に お け る 切 片 や 傾 き の 低 下 の 度 合 い に 応 じ て さ ま ざ ま な シ ナ リ オ を 考 え る こ と が で き る 。第 1 に 、電 子 マ ネ ー に 対 す る 主 観 的 な ク レ デ ィ ビ リ テ ィ・ コ ス ト が 非 常 に 大 き い 消 費 者 に つ い て は 、 た と え ア ベ イ ラ ビ リ テ ィ ・ コ ス ト が 低 下 し て も 切 片 の 低 下 が 不 十 分 な た め 、 電 子 マ ネ ー 決 済 を 利 用 す る に は 至 ら な い で あ ろ う 。 第 2 に 、 例 え ば ポ イ ン ト 付 与 等 の 恩 恵 を 十 分 に 受 け な い 、 な い し は 主 観 的 に ポ イ ン ト ・ プ ロ グ ラ ム に 魅 力 を 感 じ な い 消 費 者 の 場 合 、 切 片 が 低 下 す る だ け で 傾 き が 小 さ く な ら な い た め 、図 13 の [A]に 示 さ れ る よ う に 、電 子 マ ネ ー は こ れ ま で 現 金 決 済 が 担 っ て い た 最 小 取 引 金 額 の レ ン ジ を 侵 食 す る こ と に な る だ ろ う 。 図 13. 電 子 マ ネ ー の 普 及 が 小 額 決 済 に 及 ぼ す 影 響 [A] 最 小 取 引 額 レ ン ジ を 侵 食 [B] 現 金 と ク レ ジ ッ ト 決 済 の 境 界 を 侵 食 第 3 に 、 例 え ば 記 名 式 の 電 子 マ ネ ー を 利 用 し て セ キ ュ リ テ ィ を 強 化 し た り 、 ポ イ ン ト ・ プ ロ グ ラ ム に 主 観 的 に 強 い 魅 力 を 感 じ る 消 費 者 の 場 合 、 図 13 の [B] に 示 さ れ る よ う に 、 現 金 決 済 と ク レ ジ ッ ト カ ー ド 決 済 の 境 界 と な っ て い る 取 引 金 額 の 領 域 に お い て 、電 子 マ ネ ー 決 済 が そ の 双 方 を 侵 食 し て い く こ と に な ろ う 。 1 回当たり 取引金額 取 引 費 用 現金 クレジットカード デビットカード 電子マネー 普及後の電子マネー決済の取引費用

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な お 、 小 額 決 済 を め ぐ る 近 年 の 動 き と し て 、 ク レ ジ ッ ト カ ー ド が よ り 小 額 の 取 引 領 域 に 対 応 し つ つ あ る こ と に 留 意 す る 必 要 が あ る 。 例 え ば 、 一 定 金 額 未 満 の ク レ ジ ッ ト カ ー ド 決 済 で あ れ ば 、 署 名 を 求 め な い 小 売 店 も 増 え て い る 。 さ ら に 、 電 子 マ ネ ー と 同 様 に IC チ ッ プ を 端 末 に か ざ す だ け で 決 済 が 完 了 す る QUICPay や iD な ど の サ ー ビ ス も 提 供 さ れ 、 利 用 可 能 店 舗 が 増 加 し て い る 。 こ れ ら の 動 き は 、 ク レ ジ ッ ト カ ー ド の 時 間 費 用 の 低 下 と し て と ら え る こ と が 可 能 で あ る 。 図 14 は こ れ を 図 示 し た も の で あ る 。 図 14. ク レ ジ ッ ト カ ー ド 決 済 の 時 間 コ ス ト の 低 下 1 回当たり 取引金額 取 引 費 用 現金 クレジットカード デビットカード 電子マネー 実 際 に は 、 こ の よ う に ク レ ジ ッ ト カ ー ド 決 済 に よ る 電 子 マ ネ ー 決 済 の 侵 食 も 一 部 で 生 じ て い る と 考 え ら れ る 。 一 方 、 一 部 の 電 子 マ ネ ー で は ク レ ジ ッ ト カ ー ド か ら の チ ャ ー ジ が 可 能 に な っ て い る 。 こ の サ ー ビ ス を 利 用 し た 場 合 、 電 子 マ ネ ー 決 済 を 利 用 し た 場 合 で も 、 実 質 的 に 「 金 利 獲 得 ベ ネ フ ィ ッ ト 」 を 享 受 す る こ と が で き る 。 よ っ て 、 電 子 マ ネ ー 決 済 と ク レ ジ ッ ト カ ー ド 決 済 の 境 界 に つ い て は 、 今 後 は あ い ま い に な っ て い く こ と も 考 え ら れ る 。 5. デ ー タ : 電 子 マ ネ ー の 利 用 実 態 に 関 す る ア ン ケ ー ト 調 査 の 概 要 電 子 マ ネ ー 決 済 を 頻 繁 に 利 用 す る 消 費 者 と そ う で な い 消 費 者 の 差 異 は 、 前 節 で 提 示 さ れ た 各 種 の 取 引 コ ス ト の 違 い と し て 説 明 で き る で あ ろ う か 。 こ の 点 を 明 ら か に す る こ と を 主 た る 目 的 と し て 、 筆 者 は 2009 年 3 月 と 2010 年 3 月 に 2 回 に わ た り 、福 岡 県 在 住 の 消 費 者 を 対 象 と し た ア ン ケ ー ト 調 査(「 電 子 マ ネ ー の 利 用 実 態 に 関 す る ア ン ケ ー ト 」) を 実 施 し た 。 福 岡 県 で は 、 九 州 で 最 大 の 鉄 道 ・ バ ス の ネ ッ ト ワ ー ク を も つ 西 日 本 鉄 道 が 2008 年 5 月 か ら 電 子 マ ネ ー サ ー ビ ス nimoca を ス タ ー ト さ せ た 。 続 け て 、 2009

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年 3 月 か ら は JR 九 州 が 前 述 の SUGOCA、福 岡 市 絵 地 下 鉄 が IC 交 通 乗 車 券 サ ー ビ ス「 は や か け ん 」の 発 行 を 始 め た 。も っ と も 、こ の う ち nimoca の 使 用 可 能 エ リ ア は 、 電 車 の 乗 車 券 と し て の 利 用 を 除 け ば 、 当 初 は 福 岡 県 の 中 心 部 な ど ご く 一 部 に 限 ら れ て お り 、 サ ー ビ ス 開 始 か ら 約 1 年 半 か け て ほ ぼ 福 岡 県 の 全 域 で バ ス で の 運 賃 支 払 い に 利 用 す る こ と が 可 能 に な っ た 。 こ れ に と も な っ て 一 般 店 舗 で も 導 入 が 進 ん で い る 。さ ら に 、2010 年 3 月 か ら は nimoca、SUGOCA、は や か け ん( お よ び Suica)に よ る 電 子 マ ネ ー サ ー ビ ス の 相 互 乗 入 れ も 始 ま っ て い る 。

も ち ろ ん 、Edy、 nanaco、 WAON と い っ た 全 国 展 開 の 電 子 マ ネ ー は そ れ 以 前 か ら 福 岡 県 で も 利 用 で き た 。 し か し 、 関 東 地 方 に お い て も Suica や Pasmo と い っ た 交 通 系 の 電 子 マ ネ ー の 登 場 に よ っ て 普 及 が 加 速 さ れ た 経 緯 が あ り 、 福 岡 県 で も 同 様 の こ と が 生 じ る と 予 想 さ れ る 。 こ う し た 前 提 に た て ば 、1 回 目 の 調 査 の 実 施 時 期(2009 年 3 月 )は 福 岡 県 に お け る 交 通 系 電 子 マ ネ ー 登 場 の 初 期 段 階 、 2 回 目 の 調 査 の 実 施 時 期 ( 2010 年 3 月 ) は そ れ ら の 交 通 系 電 子 マ ネ ー の 浸 透 後 と お お ま か に 位 置 づ け ら れ よ う 。 そ し て 、 こ の 2 回 の ア ン ケ ー ト 調 査 で は 可 能 な 限 り 同 一 の 消 費 者 に 回 答 依 頼 し 、2 回 に わ た っ て 同 一 の 質 問 を し て い る も の に つ い て は 、 パ ネ ル 分 析 が 行 え る こ と が 最 大 の 特 徴 で あ る 。 調 査 方 法 は イ ン タ ー ネ ッ ト 調 査 で あ り 、実 施 は NTT レ ゾ ナ ン ト 株 式 会 社 に 依 頼 し た 。 具 体 的 に は 、 同 社 の ネ ッ ト リ サ ー チ サ ー ビ ス 「goo リ サ ー チ 」 に 登 録 し て い る お よ そ 58 万 人 の モ ニ タ ー の う ち 、福 岡 県 在 住 す る 人 向 け に 調 査 票 を 送 信 し た 。調 査 票 の 送 信 に あ た っ て は 、男 女 別 に 年 齢 階 級 を 5 つ 設 定( 16~ 19 歳 、 20~ 29 歳 、 30~ 39 歳 、 40~ 49 歳 、 50 歳 以 上 ) し た う え で 、 原 則 と し て 各 階 級 で 同 数 の 調 査 票 を 送 信 し た 。た だ し 、10 歳 代 は モ ニ タ ー 数 が 少 な い た め に 送 信 数 が 少 な く 、こ れ を 補 完 す る た め に 20 歳 代 へ の 送 信 数 が 多 め に な っ て い る 。ま た 、 第 2 回 の 調 査 で は パ ネ ル ・ デ ー タ の 構 築 が 念 頭 に お か れ て い る た め 、 ま ず 1 回 目 の ア ン ケ ー ト の 回 答 者 に の み 調 査 票 を 配 信 し 、 一 定 期 間 の 後 、 全 体 の 標 本 数 を 確 保 す る た め に 1 回 目 の ア ン ケ ー ト に は 未 回 答 の モ ニ タ ー に も 調 査 票 を 配 信 す る 方 法 を と っ た 。 表 1 に は 、 2 回 の 調 査 に お け る 回 収 率 が 性 別 ・ 年 齢 階 級 別 に ま と め ら れ て い る 。10 歳 代 の 回 収 率 が 低 い も の の 他 の 年 齢 階 級 で は 男 女 と も に 回 収 率 の 差 は 小 さ く 、 全 体 と し て は 、 第 1 回 の 調 査 で は 約 25% の 回 収 率 で 1,145 の 標 本 、 第 2 回 調 査 で は 約 37.1% の 回 収 率 で 1,111 の 標 本 が 得 ら れ た 。 第 2 回 調 査 の 回 収 率 が 全 体 と し て 第 1 回 調 査 よ り も 高 く な っ て い る の は 、 既 に 第 1 回 の ア ン ケ ー ト に 回 答 し た 消 費 者 を 中 心 に 調 査 票 を 配 布 し た た め だ と 考 え ら れ る 。 な お 、 第 2 回 調 査 で 集 ま っ た 1,111 の 標 本 の う ち 、768 名 の 消 費 者 に つ い て は 第 1 回 目 調 査 か ら の 連 続 回 答 者 で あ る 。

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表 1. ア ン ケ ー ト 調 査 の 回 収 率 [A] 第 1 回 調 査 ( 2009 年 3 月 ) モニター数 配信数 回収数 削除 標本数 採用 標本数 最終 回収率 男性 243 243 36 2 34 14.0% 女性 223 223 47 2 45 20.2% 男性 1229 600 157 12 145 24.2% 女性 2163 600 161 5 156 26.0% 男性 1798 500 130 10 120 24.0% 女性 3058 500 130 4 126 25.2% 男性 1338 500 133 4 129 25.8% 女性 1404 500 134 5 129 25.8% 男性 1098 500 136 4 132 26.4% 女性 527 500 132 3 129 25.8% 男性 5706 2343 592 32 560 23.9% 女性 7375 2323 604 19 585 25.2% 13081 4666 1196 51 1145 24.5% 50歳以上 性別合計 全体合計 10~19歳 20~29歳 30~39歳 40~49歳 [B] 第 2 回 調 査 ( 2010 年 3 月 ) モニター数 配信数 回収数 削除 標本数 採用 標本数 最終 回収率 男性 183 183 36 4 32 17.5% 女性 161 161 43 4 39 24.2% 男性 1139 512 125 8 117 22.9% 女性 2084 534 135 4 131 24.5% 男性 1681 336 133 4 129 38.4% 女性 3173 360 132 0 132 36.7% 男性 1369 226 135 0 135 59.7% 女性 1611 239 130 3 127 53.1% 男性 1270 218 136 4 132 60.6% 女性 684 226 139 2 137 60.6% 男性 5642 1475 565 20 545 36.9% 女性 7713 1520 579 13 566 37.2% 13355 2995 1144 33 1111 37.1% 50歳以上 性別合計 全体合計 10~19歳 20~29歳 30~39歳 40~49歳 次 に 、回 収 標 本 の 年 齢 構 成 を 実 際 の 福 岡 県 民 の 年 齢 構 成(2010 年 3 月 末 現 在 、 住 民 基 本 台 帳 ベ ー ス )と 比 較 し た も の が 表 2 で あ る 。本 調 査 で は 、委 託 先 の 10 歳 代 の モ ニ タ ー 数 が 少 な く 、 調 査 テ ー マ の 関 係 で そ の 回 収 率 も 低 い た め 、 結 果 と し て 男 女 と も に 10 歳 代 の 占 め る 割 合 が 低 く な っ て い る 。一 方 、実 際 の 福 岡 県 民 の 年 齢 構 成 を 確 認 す る と 、50 歳 以 上 人 口 の 占 め る 比 率 が 男 女 と も に か な り 高 い こ と が わ か る 。

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表 2. 回 収 標 本 の 年 齢 構 成 と 福 岡 県 民 の 年 齢 構 成 の 比 較 A) 第 1 回 調 査 の 回 収 標 本 福岡県 標本 (人) 20歳未満 20~29歳 30~39歳 40~49歳 50歳以上 合計 1145 6.9% 26.3% 21.5% 22.5% 22.8% 男 560 3.0% 12.7% 10.5% 11.3% 11.5% 女 585 3.9% 13.6% 11.0% 11.3% 11.3% B) 第 2 回 調 査 の 回 収 標 本 福岡県 標本 (人) 20歳未満 20~29歳 30~39歳 40~49歳 50歳以上 合計 1111 5.7% 19.3% 26.3% 23.5% 25.3% 男 545 2.4% 9.0% 13.1% 12.2% 12.2% 女 566 3.2% 10.3% 13.1% 11.3% 13.1% C) 2010 年 3 月 末 現 在 の 福 岡 県 民 の 年 齢 構 成 福岡県 標本 (人) 20歳未満 20~29歳 30~39歳 40~49歳 50歳以上 合計 504 18.7% 11.8% 14.3% 12.3% 42.9% 男 239 9.6% 5.8% 7.1% 6.0% 19.0% 女 265 9.2% 6.0% 7.2% 6.3% 23.9% 以 上 、(1) 調 査 手 法 の 特 質 と し て イ ン タ ー ネ ッ ト に ア ク セ ス で き る 消 費 者 が 母 集 団 と な っ て い る 点 、(2)50 歳 以 上 人 口 の 構 成 比 率 が 現 実 の 人 口 構 成 と 比 較 し て 低 い と い う 点 に お い て 、 本 調 査 の 標 本 は 必 ず し も 現 実 の 福 岡 の す が た を 反 映 す る も の に は な っ て い な い 。 ま し て や 、 全 国 の 消 費 者 の 平 均 的 な す が た を 反 映 し た 標 本 で も な い 。 し か し な が ら 、 電 子 マ ネ ー の 利 用 実 態 に 関 す る パ ネ ル ・ サ ー ベ イ デ ー タ が ほ と ん ど 存 在 し な い 日 本 の 現 状 を ふ ま え る 限 り 、 電 子 マ ネ ー 決 済 の 利 用 に 関 す る 消 費 者 の 意 思 決 定 に 影 響 を 与 え る 諸 要 因 を 定 量 分 析 で き る ミ ク ロ デ ー タ が 構 築 さ れ た こ と 自 体 に 、 一 定 の 意 義 を 見 出 す こ と が で き る と 思 わ れ る 。 以 下 で は 、 ま ず い く つ か の 表 や グ ラ フ を 示 し な が ら 、 本 調 査 の 結 果 の 概 要 を 説 明 す る 。 電 子 マ ネ ー 普 及 の 現 状 本 調 査 で は 、 電 子 マ ネ ー の 利 用 頻 度 を 尋 ね る 質 問 に つ い て 「 ほ ぼ 毎 日 」 も し く は「 週 5 日 程 度 」と 回 答 し た 消 費 者 を「 高 頻 度 利 用 者 」、同 じ 質 問 に「 週 2~ 3 日 」 と 回 答 し た 消 費 者 を 「 中 頻 度 利 用 者 」、「 週 1 日 以 下 」 と 回 答 し た 消 費 者

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