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雑誌名 福井大学医学部研究雑誌

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(1)

著者 山本 達

雑誌名 福井大学医学部研究雑誌

巻 4

号 1‑2

ページ 99‑109

発行年 2003‑12‑19

URL http://hdl.handle.net/10098/942

(2)

総 説 福 井 大 学 医学 部 研 究雑 誌 第4巻 第1号 ・第2号 合 併 号(2003)

〈科 学 の 倫 理 〉とく看 護 の 倫 理 〉を考 える

J.ラ イ ター 教 授 の2つ の 講 演(翻 訳)

山 本 達

医学科 国際社会 医学講座 医療 倫理学

Ethik der Wissenschaften und Pflegeethik iiberlegen Zwei Vortrage von Prof. Johannes Reiter [Ubersetzung]—

Medical Ethics,

YAMAMOTO, Tatsu

Department of International Social and Health Sciences, School of Medicine, University of Fukui

Zusammenfassung :

Hier berichte ich die Referate der zwei Vortrage von Prof. J. Reiter, von denen der eine, d. i. "Zur Verantwortung von Wissenschaftlerinnen und Wissenschaftlern," anlasslich der "Begrill3ung der Erstsemester" an der Universitat Mainz am 23. April 2003 und der andere, d. i. "Menschlich pflegen — Anmerkungen zur Pflegeethik und Ethik in der Pflege," am 21. Mai 2003 in Saarbriicken gehalten worden ist. Meinen Wunsch, dass ich seine Schriften ins Japanisch tibersetzen mochte, hat der Professor gern im Brief von 30.

April 2003 an mich angenommen.

Der Vortrag "Zur Verantwortung von Wissenschaftlerinnen und Wissenschaftlern" erlautert zunachst den Begriff Verantwortung, und dann lasst die Verantwortung von Wissenschaftlern in folgenden hervortreten. (1) Ihre Verantwortung besteht erstens darin, neue Erkenntnis zu gewinnen. Menschheit braucht die Forschung, um ihre Zukunftsprobleme zu bewaltigen. (2) Die Verantwortung von Wissenschaftlern besteht weiterhin darin, die Folgen ihres Handelns mit zu bedenken. Darum bedarf es einer Guterabwagung. Die Wissenschaftler haben also eine Informationspflicht, die auch gegentiber der allgemeinen Offentlichkeit besteht. (3) Sie sollen mit ihren Forschungen keine ethicsh verwerflichen Ziele verfolgen. (4) Es gibt Verantwortung in der Arbeitgruppe. Dort kann der Einzelne nicht allein die Verantwortung fur das gesammte Forschunsprojekt tragen. Das ist eine Mitverantwortung aller dem Projekt Beteiligten.

Im Vortrag "Menschlich pflegen" greift der Verfasser aus dem groBen Bereich der Pflege das Elememt der Beziehung zwischen dem Pflegenden und dem Patienten heraus. Indem er ftinf Aspekte in dieser Beziehung thematisiert hat, versteht er zum Schluss unter einem ganzlichen Pflegeverstandnis den Pflegeberuf als Anruf zu qualifizierter Mitmenschlichkeit, Pflege knapp als soziale

Dienstleistung von Menschen f-iir Menschen.

Schisselworter : Verantwortung, Giiterabwagung, Informationspflicht, Pflegeethik , Beziehung, Gesprach, Intimsphare

(Received25August,2003;accepted290ctobe蔦2003)

(3)

は じめ に

こ こ に掲 載 す る翻 訳2編 は 、 ヨハ ネ ス ・ライ タ ー 氏 が2003年 春 に行 った 講演 原 稿 で あ る。'84年 以 来 、 ド イ ツ 連 邦 共 和 国 マ イ ン ツ の ヨハ ネ ス ・グ ー テ ンベ ル ク 大 学 カ トリ ック神 学 部 で 、 道 徳 神 学 の 教 授 を務 め る 氏 の活 動 は 、80年 代 後 半 か ら現 在 まで 、主 と して生 命 倫 理 、 医 療 倫 理 、 さ ら に は科 学 技 術 の倫 理 を テ ー マ に応 用 倫 理 学 研 究 に集 中 して い る。 ドイ ツ を 代 表 す る 医療 倫 理 学 関係 の雑 誌E砺 々勿4θ71晩4謝 η の編 集 者 の 一 人 で あ り、 ドイ ツ連 邦 政 府 や ライ ン ラ ン ト ・プ フ ァル ツ 州 の 生命 倫 理 委 員 会 で 有 力 メ ンバ ー と して 活 躍 し、早 くか ら、 ドイ ツ の 医 学 ・生 命 工 学 に 関す る 政 策 決 定 や 指 針 作 りに も深 く コ ミ ッ トして い る。 そ う した 経 歴 の 持 ち主 で あ る氏 は 、 日本 で も、 「遺 伝 子 工学 の十 戒 」 を 提 唱 した論 者 と して知 られ て い る。

氏 は 、2000年9月 に 、 日本 学術 振 興 会 外 国 人 招 聰 研 究 員 と して 来 日 し、 そ の 際 に 、福 井 医 科 大 学 で も学 術 講 演(倫 理 委 員 会 主 催)を 依 頼 し、 実 現 した経 緯 が あ る。 「イ ン フ ォー ム ド ・コ ンセ ン トとエ ホ バ の証 人 」 を テ ー マ と した そ の 講 演 内容 は 、「福 井 医科 大 学研 究 雑 誌 第2巻 」(2001年12月)に 筆 者(山 本)が 犬 丸 の り子 氏 と協 力 の 上 で翻 訳 発 表 す る こ とが で き た 。 以 来 、 氏 と の 交 流 の な か で 、 筆 者 に は 生 命 倫 理 学 、 医 療 倫 理 学 関 連 の 多 く の論 文 等 が 届 け られ た 。 こ う した 分 野 で の 旺 盛 な研 究 活 動 を知 るた び に 、 筆 者 は そ の 業績 の 一 端 な りを 、 本 邦 に も翻 訳 紹 介 す る こ とで 氏 へ の敬 愛 の 気 持 ち を表 した い と思 うよ うに な った 。

こ の 春 に 送 られ た 論 文 、報 告 書 、 小 冊 子 は 、 全 部 で 5編 で あ るが 、 邦 訳 の 意 向 を伝 え た とこ ろ 、 教 授 か ら 折 り返 し早 速 快 諾 の返 事 が 寄 せ られ た の で 、 そ の な か か ら、 取 りあ えず2編 を選 び 翻 訳 ・発 表 す る こ と に し た 。

『科 学者 た ちの 倫 理 的 責 任 に つ い て 』 と 『人 間 的 に 看 護 す る とは 』 の 二 つ は 、 い ず れ も、 啓 蒙 的 、教 育 的 な 意 図 で 書 か れ た 講 演 原 稿 で あ る。 前 者 は 、マ イ ン ツ 大 学 の 新 学 期 開 始 に 当 た っ て 、新 入 生 全 体 を対 象 に 、 学 部 を超 え た 大 学 全 体 の入 学 行 事(新 入 生 オ リエ ンテ ー シ ョン)と して 行 われ た も の で あ る。 大 学 で教 養 教 育 に携 わ る者 と して も 、 非 常 に参 考 に な る。 因み に 筆 者 が 、2003年 度 医学 科1年 次 生 を対 象 に 行 った 講 義 「倫

理 の 基 礎 か ら応 用 へ 」 は 、 「科 学(者)の 責 任 」 を テ ー マ にす る も の で 、図 らず も関 心 が 合 致 した 次 第 で あ る。

問 題 の捉 え 方 、 視 点 の 置 き方 に異 同 が あ る が 、 問題 意 識 は 、 共 有 す る とこ ろ が 多 い。

『人 間 的 に 看 護 す る とは 』 の ほ うは 、 専 門看 護 師 の ゼ ミナ ール に 招 か れ た 際 に 講 述 され た 講 演 の原 稿 で あ る。 看 護 の 基 本 問題 を 、 「患 者 と看 護 師 との人 間 関係 」 の1点 に絞 っ た 考 察 で あ る。 そ の基 調 が 、 氏 自身 の 揺 る ぎな い 実 存 的 信 念 に 導 か れ て い る の は 言 うま で もな い。 同 時 に 、そ の 内 容 は、東 西 文 化 の 違 い を超 え た 「看 護 の 倫 理 」 の 普 遍 的 な有 り よ うを扱 う もの で 、 素 人 に もそ れ な りに 理 解 で き る形 で 見 事 に描 い て 見 せ て くれ る。 こ う した難 しい テ ー マ を で き る だ け 平 易 に説 くの が 、氏 の モ ッ トー で あ る よ うに思 わ れ る。

(凡 例)

原 文 で 下 線 を つ け 強 調 す る 語 句 は、 ゴ シ ッ ク 体 と し た 。

原 文 の""は 、 「 」 で 表 す 。

訳 注 は 、 必 要 最 小 限度 に 、 各 編 の末 尾 に ま と め た 。

・[]内 の 語 句 は 、 訳 者 の補 足 で あ る こ と を表 す 。

(4)

〈科 学 の倫 理 〉 と〈看 護 の倫 理 〉を 考 え る

科学者 たちの倫理的責任 について

マインツの ヨハ ネス ・グー テンベ ル ク大 学 「第 一 学 期 歓 迎 式典 」で行 った 講 演 の 報 告 書(2003年4月23日)

1.テ ー マ へ の 誘 い

お そ ら くあ な た 方 の 多 くは 、 ドイ ツ語 の 授 業 で 使 わ れ て い る 次 の テ キス ト内容 は 先 刻 承 知 の こ と と思 い ま す 。 そ こ で は 、次 の よ うに書 かれ て い ま す。

「わ れ われ に は 冒 す こ と の 許 され な い リスクが 存 在 す る。 人 類 の 没 落 は 、 そ う した リス ク で あ る。 す で に 人 類 が所 有 して い る い ろい ろ な武 器 を使 って 、世 界 の 人 々が 何 を しで かす の か 、 われ われ は 知 っ て い る。[科 学 者 で あ る]わ た しが 武 器 を 利 用 で き る よ うに してや る な ら、 そ う した武 器 を使 っ て 、 世 界 が どん な 災 い を 引 き起 こす こ とに な ろ うか 、 われ わ れ は 考 え る こ とが で き る。 わ た しは 、こうした 洞 察 に 自分 の 行 為 を従 属 させ た 。 わ た しは 貧 しか っ た 。 わ た しに は 妻 と三 人 の 子 ど も が い た 。 大 学 で は名 声 が 、企 業 で は マ ネ ー が 手 招 き した。 この 二 つ の進 路 は 、危 険 で あ りす ぎ た。 わ た し が 自分 の 数 々 の研 究 成 果 を公 表 しな けれ ば な らな か っ た と した ら、 そ の 結 果 は 、 わ れ わ れ の 科 学 の 大 転 換 、 経 済 構 造 の崩 壊 で あ っ た で あ ろ う。 わ た しに別 の 進 路 を 歩 ま せ た の は 、責 任 とい うもの で あ っ た。わ た しは 、 ア カ デ ミ ック な キ ャ リア ー を 積 む の を放 棄 し、 家 族 を そ の 運 命 に委 ね た 。 わ た しは 、 道 化 帽(訳注1)を かぶ る よ う選 択 した。 わ た しの 言 い 分 は 、 ソ ロモ ン王 が わ た しに 出現 す る とい うこ とで あ った 。 ま っ た く わ た しは 精 神 病 院 に 閉 じ込 め られ た の だ。・ ・… 理 性 が この よ うな書 物 を書 か せ た。 わ れ わ れ は科 学 に身 を置 き な が ら、認 識 可 能 の 限界 に ぶ つ か っ た。 不 可 解 な諸 現 象 の 間 に い くつ か の正 確 に 把 握 で き る 法 則 や 基 本 的 関係 が あ る こ と を、 われ わ れ は 知 っ て い る。 そ れ がす べ て で あ る。 だ が 頑 強 な残 存 物 が あ り、 これ は神 秘 で あ り 続 け 、悟 性 の 手 に は届 か な い。 われ わ れ は 自分 た ち の 道 程 の 終 わ りに到 達 した 。 だ が 人類 は ま だ そ ん な に 遠 くま で 進 ん で は い な い 。 わ れ われ は 先 駆 者 と して 戦 っ て き た が 、 今 われ わ れ に続 く もの は 誰 も い な い。 わ れ われ は 空 虚 に 出 くわ して しま っ た。 わ れ われ の 科 学 は 恐 る べ き も の に 、 わ れ わ れ の研 究 は 危 険 な もの に 、 わ れ わ れ の 認 識 は命 に か か わ る もの に な っ て しま っ た 。 われ わ れ 物 理 学 者 に ま だ 残 され て い る の は 、 た だ 現 実

へ の 屈 服 だ け で あ る。 現 実 は 、 わ れ わ れ 物 理 学者 に 太 刀 打 ちで き な い。 現 実 は 、 われ わ れ の 手 に か か っ て破 滅 す る。 わ れ わ れ は 、 わ れ わ れ の 知 識 を撤 回 しな けれ ば な らず 、わ た しは これ を撤 回 して しま っ た。 ほ か に

どん な解 決 法 もな い。 ・ ・ … 」。

この テ キ ス トに ま だ 不 案 内 で あ る人 々 の た め に 断 っ て お き た い。 そ れ は 、 フ リー ドリッ ヒ ・デ ュ レンマ ッ ト(訳注2)の コメ デ ィー 『物 理 学 者 た ち』(1962年)に 由 来 します 。 この 箇 所 に登 場 す る作 中人 物 は 、 ドイ ツ の 天 才 的 な物 理 学 者 と され る ヨハ ン ・ヴ ィ ル ヘ ル ム ・メ ー ビウ ス で す 。かれ は、あ りとあ らゆる可能的発明 の 世 界 公 式 と体 系 を展 開 した の で す 。 か れ は 、 自分 流 の 話 し方 で 、 二 人 の 同僚 物 理 学 者 で あ る ニ ュー トン とア イ ン シ ュ タ イ ン に対 して 、 人 類 の安 寧 の た め に ア カデ ミ ック な キ ャ リアー を 断念 し、企 業 の 申 し出 を断 っ て 、 かれ と同 じよ うに精 神 病 院 に留 ま る よ う説 得 に努 め る の です 。

さて わ た しが 、 この テ キ ス トを選 ん だ の は 、 あ な た 方 を研 究 か ら遠 ざけ て 精 神 病 院 に 送 りた い か らで は あ りま せ ん 。 そ ん な こ と は大 学 が行 っ て よ い はず が あ り ませ ん 。 こ の テ キ ス トを使 っ て み な さん に例 示 した か っ た の は 、 と りわ けわ た したち のテー マ の 重 要 性 で す 。 す な わ ち 、科 学者 た ち の 自 らの研 究 活 動 に対 す る責 任 で あ りま す 。大 学 で 科 学 を推進 す る人 々 に数 え られ るの は 、 誰 よ り も先 ず 、 共 同研 究 者 を 含 む 教 授 た ち で す 。 あ な た 方 は これ か ら 、 日常 的 に 教 授 た ち に 出 会 うで し ょ う。だ が あ なた 方 自身 も 、科 学 に掛 か り合 う以 上 は 、 科 学 の 推 進 者 に数 え られ る ので す 。

デ ュ レ ンマ ッ トのテキストは 、ほとん ど他 に類 例 を見 な い ほ どに、そもそもな ぜ 責 任 が 問題 になるの か とい うことを よく示 して くれ ます 。か れ は、あ らゆる責 任 理 論 の核 心 点 を 指 摘 して います 。す な わち 、たび たび 主 張 され て いるような 客 観 事 態 の 強 制 力 とい うもの は けっしてものご とを完 全 に 決 定 す るわ けでも拘 束 す るわ けで もな い とい うことで す 。メ ー ビウスが示 す ように、そうした強制力 が働いている場合で も行 為 に は 、さらに ほか の 可 能 性 が依 然 として残 され てい ます 。この 可 能 性 に 向 けて 決 断 しない とす れ ば 、それ は 、

(5)

他 の 人 にも十 分 に 理 解 で きるような 個 人 的 な い ろい ろの 理 由 、例 えば 、輝 か しい 経 歴 、名 声 、家 族[の 事 情]に 起 因 す ることで す。

簡 潔 に言 い ます と、メー ビウスによる一切 の苦 労 は 、わ たした ちの 実 例 の 中 で は無 駄 で した。女 性 の 施 設 長 ドクト ー ル ・フォン ・ツァー ン ト女 史 が 、メービウスが書いた記録を コピー に収 め てしまい ました。世 界 は 、気 の 狂 った 精 神 科 女 医 の 術 中 に 陥 った ので す 。原 子 物 理 学 者 メー ビウ ス に は 、「か つ て思 考 され た 内 容 は もう撤 回 できな い 」とい う幻 滅 的認 識 しか残 され てい ませ ん 。

デ ュ レ ンマ ッ トのテ キストは 、同 時 にまた 、なぜ 責 任 が ちょうどわ た した ちの 時 代 に 差 し迫 ったもの になった のか 明 らか に します 。メー ビウ スが 確 認 す るに は 、「わ た した ちの 科 学 が 恐 るべ きもの に な り、われ われ の研 究 が 危 険 にな り、

わ れ わ れ の認 識 が命 に 関 わるもの になって しまった 」と言 う の です 。人 間 はあまりに 多くの 知 識 を所 有 す るた めに 、これ か らさき 自己 自身 に対 して安 全 に生 きることが で きない 。そ の ようにメー ビウス の 言 葉 を理 解 で きます 。過 去 の 世 紀 の 科 学 技 術 的 進 歩 は 、 ほ か の どん な 文 化 的 発 展 よ りも強 力 にわ た した ち の世 界 を 変 え て しま い ま した。 科 学 技 術 の 進 歩 は 、 人 間 に ま っ た く知 られ な か っ た よ うな[自 然 へ の]介 入 の可 能 性 を拓 き ま した。 そ の 可 能 性 は 、 人 間 に と っ て の利 益 に も な れ ば 、 損 害 に も な る の で す 。 人 間 は 大 量 破 壊 兵 器 を 手 中 に して い ま す 。 い わ ゆ る ABC兵 器 で す。 今 ち ょ うど、 イ ラ ク で 生物 兵 器 の 探 索 が行 わ れ て い ます 。 人 間 は 、 さま ざ ま な 種 の 生 存 に っ い て 決 定 を 下す こ とが で き ま す 。 人 間 は 人 間 自身 の進 化 や ヒ ト大 脳 機 能 に 対 す る洞 察 を獲 得 し、 そ の 間 に ヒ

トゲ ノム の 設 計 図 を 知 り、 ク ロー ン に よっ て 自分 自身 を新 た に創 り出 す こ とが で き るの で す 。

付 け加 えて お き ま す 。 科 学 は 、 数 々 の誓 い が あ る に もか か わ らず 、価 値 に無 関係 で はな い の です 。科 学 に は 、 有 用 性 、 効 率 性 、経 済 性 と い う よ うな価 値 が い つ も結 び つ い て い ま す 。 研 究 者 は 、 責任 を 逃 れ た い と思 う と

きは 、科 学 が価 値 に無 関係 で あるということを好 ん で 引 き 合 い に 出 しま す 。 研 究者 は これ に反 して 、研 究 資 金 を 申請 した り、 研 究 プ ロジ ェ ク トの認 可 を受 け た り した い と き は 、 科 学 の 有 用 性 や 積 極 的効 果 を好 ん で指 摘 し ま す 。 研 究 プ ロジェクトは 、 市 場 に 出す こ とが で き る成 果 が 期 待 で き る と き に 、 始 め て資 金 が 提 供 され る の は よ く あ る こ とで しょ う。 つ ま り、基 礎 研 究 に は 、 あ ら

か じめ す で に 応 用 とい うこ とが ガ ッ シ リ と織 り込 み 済 み な の で す 。 確 か に 、研 究 者 の好 奇 心 が 依 然 と して 研 究 を駆 り立 て ます 。 だ が 、 研 究 を プ ロ ジ ェ ク トす る段 に な ります と、コス ト問題 が い つ もい っ そ う重 要 に な り ま す 。 研 究 は 大 変 高価 な も の に な り、 技 術 的 な 消 費 も か さむ よ うに な りま した 。 だ か ら、 大 規 模 研 究施 設 の 中で 巨大 な科 学 プ ロジェクトと して始 め て 、科 学 は 実 現 で き る とい うの が しば しば で す 。 科 学 は サ ラ リー マ ン的 労 働 に な りま す 。 なぜ な ら、 最 終 成 果 を得 る に は 無 数 の 個 別 的 な 成 果 が 必 要 で あ る か らで す 。 こ う して 、 こ の 場 面 で 、 一 段 と進 ん だ 責 任 問題 が 浮 上 します 。 も う こ こで は 、 個 々 の 研 究者 が 自分 の 労働 の 範 囲 や 境 界 や 目標 設 定 を 決 め る の で は な くて 、 決 定 す るの はチ ー ム で あ りま す 。

わ た した ち の テ ー マ と一 緒 に提 起 され 、 科 学 者 た ち の 責任 を挑 発 す る よ うな 問題 の うち 、 わ た しは ま だ 、 そ の若 干 を素描 した だ けで す 。

わ た しは以 下 で 科 学 を推 進 す る人 た ち が 担 う責 任 の 可 能 性 と限 界 を 問 い た い の で す が 、 そ の ま え に何 よ り

も先 ず 、責 任 とい う概 念 を 明確 にす る こ とが肝 心 で す 。

皿.責 任 と は 、 そ も そ も 何 か

責 任 の語 で 一 般 に理 解 され て い る の は 、人 格 の 次 の よ うな務 め で す 。 つ ま り、 そ の人 格 に帰 せ られ る意 欲 や 行 為 に対 して しか るべ き権 限 を持 つ 審 級 の ま え で 釈 明 しな けれ ば な らな い とい う務 め で す 。 責 任 の 度 合 い は 、 人 格 の 自由の 度 合 い に左 右 され ます 。

こ う した 定 義 か ら、 責任 を帰 す る とい うこ とに は あ る種 の 条 件 が あ る とい うのが 分 か ります 。

第1の 条 件 と言 え るの は 、 帰 責 能 力[責 任 能 力 】で す 。 人 格 は 、 当該 の 行 為 を遂 行 す るの に必 要 な 身 体 的 か つ 心 理 的 な 諸 前 提 を思 うよ うに 扱 え る場 合 に 、 そ の場 合 に か ぎ って 、 そ の 行 為 とこれ か ら帰 結 す る結 果 とに 対 して 責任 が あ りま す。人 格 は[目 先 の こ とか ら]もっ と先 に進 ん で 、 行 為 を 、 行 為 か ら帰 結 す る結 果 との 連 関 で 理 解 しな けれ ば な りま せ ん。 さ らに 、 行 為 か ら帰 結 す る結 果 が 他 の 存 在 者 の 利 害 関 心 に 影 響 を 与 え ま す し、

こ の事 実 に基 づ い て行 為 は命 じ られ た り、許 され た り、

禁 じ られ た り します 。 人 格 は こ の こ と も理 解 しな けれ ば な りま せ ん 。 あ る 人 が 、 あ る行 為 に よ っ て 大 きな 災 い を人 類 に 及 ぼす とい うこ と が考 え られ ます 。 この 場

(6)

〈科 学 の 倫 理 〉 と 〈看 護 の 倫 理 〉 を考 え る

合 に も し も、 そ の人 の 身 体 的 な い しは 精 神 的 な諸 前 提 に欠 陥 が あ り、 そ の た め にか れ は 自分 の 行 為 を理 解 で き な か っ た の だ と仮 定 す る根 拠 が あ る な らば 、 そ の 場 合 に は 、 そ の 人 に そ の 行 為 に対 す る責 任 を負 わせ る こ とは 正 し く あ りませ ん 。 そ うな る と、 こ の場 合 、 そ の 人 は 禁 治 産 ・準 禁 治 産 の 宣 告 を 受 け 、 他 人 の 後 見 下 に お かれ な け れ ば な らな くな りま す 。こ の よ うな 条件 は 、 科 学 を 推 進 す る 人 々 に とっ て も、 も ち ろ ん 当 て は ま り

ま す 。 高 度 の 専 門 能 力 が 必 ず 高 度 の 道 徳 的 、 法 律 的 帰 責 能 力 と一 緒 に な っ て 、 包 括 的 な 意 味 を持 っ て 発 現 す る よ うに は 、 初 め か ら決 ま って はい ない の です 。

責任 の た め の第 二 の 条 件 は 、 特 定 の 行 為 者 が 行 為 の 自由 を持 っ て い る とい うこ とで す 。 こ の こ とは 、 当の 人 が 少 な く と も二 つ の 行 為 選 択 肢 の 間 を選 択 で き る こ と を意 味 しま す 。 そ こ で例 えば 、 誰 か が 自分 の 生 命 を 脅 され た 条 件 下 で 一 定 の仕 方 で しか行 為 で きな い で い るな ら 、 そ の 人 は 、 自分 の 行 為 に対 して 責 任 が な い の で す 。

責 任 の た め の 第 三 の 条 件 は 、 他 の 存 在 者 の 当然 の 利 益 ・関 心 が 、 行 為 な い しは そ の 行 為 の 惹 き起 こす 結 果 に影 響 を受 け る とい うこ とです 。

行 為 者 は 、 権 限 の あ る 審 級 に 向 か い 合 って 釈 明 しな けれ ば な らな い が 、そ う した 審 級 は 同 朋(Mitmenschen) で あ っ た り、 国 家 で あ った り、 そ して 個 人 の 良 心 で あ っ た り しま す 。 信 心 深 い 科 学 者 た ち に は 、権 限 の あ る 審 級 と して神 もま た存 在 しま す。

こ こま で 話 を進 め て い る うち に 、 あ な た方 は 、 責 任 とは何 を 意 味 す る の か 、 お 分 か りに な っ た で し ょ う。

わ た した ち は 、今 や 、 わ た した ち の 本 来 の 問 題 に 取 り 組 む こ とが で き ま す。 す な わ ち、何 に 対 して 、ま た どの よ うな 仕 方 で 、科 学 者 た ち は責 任 を負 って い るか とい う 問題 で す 。

皿.研 究 は 新 し い 認 識 を 目 指 す

科 学 者 た ち の 責任 は 、何 よ りも第 一 に 、社 会 が 求 め る新 しい認 識 を 、 質 の 高 い研 究 を基 盤 に獲 得 す る こ と で す 。 認 識 へ の努 力 は 、人 間 の 本 性 の うち に あ り、人 間 の 文 化 の一 部 で す 。 と りわ け 人 類 は 、未 来 の 問 題 を 乗 り越 え て行 くに は 、 研 究 を 必 要 と しま す。 世 界 に は 多 くの 問 題 が あ りま す 。 例 え ば 、 人 口の爆 発 的 増 加 、 人 類 の 三 分 の 二 を巻 き こ ん で い る社 会 的 経 済 的 悲 惨 、

気 象 変 動 、 有 害 物 質 の 累積 、 天 然 資 源 と生 活 圏 と の消 費 ・枯 渇 、 そ して これ と連 動 す る生 命 圏 全 体 の 脅 威 、 い ろ い ろ な 疾 病 の治 療(あ な た 方 は 、 た だ 癌 や エ イ ズ や サ ー ズ を 思 っ て い た だ け れ ば よ い)と い う問 題 が あ ります 。 これ ら の 問題 は 、 研 究 が 増 強 され る場 合 に 限 って 解 決 で き、 研 究 が で きな く な っ た り制 限 され た り す れ ば 、解 決 で き ませ ん。

技 術 的 な 種 類 で は な い 諸 問 題 の打 開 の た め に は 、 い っ そ うの研 究 努 力 が 必 要 と され ます 。 存 在 、思 惟 、 世 界 、 実存 そ して生 命 の 理 解 の た め に は 、 宗 教 、哲 学 、 人 間学 、人 文 科 学 に よ る多 面 的 な 貢 献 が 考 え られ ます 。

W.研 究 の 帰 結

科 学者 た ち の 責任 は 、 さ らに言 い ま す と、 自分 た ち の行 為 が 引 き起 こす 諸 結 果 を念 入 りに 考 慮 に入 れ る と い う こ とで す 。 誰 で も、 文 学 作 品 の 登 場 人 物 メ ー ビウ ス の よ うに研 究 活 動 の 最 中 に あ りな が ら、す で に 、 自 分 の 行 為 か ら生 じ る と見 込 まれ る諸 結 果 に つ い て 考 え る こ とが で き る わ け で は あ りませ ん 。 こ う した研 究 者 の 行 為 は 、地 上 で の 人 間 生 命 の 保 全 や 人 間 生命 の 尊 厳 の保 持 や 自 然 の 生 命 基 盤 の保 全 とい う 目標 に 合 うよ う に 整 え な けれ ば な りませ ん。 行 為 の 結 果 も一 緒 に考 慮

に入 れ よ とい う要 求 が過 重 に な るの は 、 次 の 事 情 に よ ります 。 す な わ ち 、新 しい 認 識 の 結 果 が 必 ず しも完 全 に 評 価 で き な い とい う こ とが 、 ほ か で もな い 新 しい認 識 の本 質 に 属 す る とい う事 情 で す 。 なぜ な ら、 自然 が 科 学 的 問 い に 予 期 しな い 答 え を与 え た り、 人 間 が 間違 っ た考 え 方 や モ デ ル を使 用 した りす る とい うこ とが あ る か ら、 わ れ われ は新 開 拓 地 に足 を踏 み 入 れ る か らで す 。 自然 へ 人 間 が介 入 す る力 が発 展 す る と 同時 に 、研 究 が及 ぼ す 影 響 の 可能 性 が 増 大 します 。 そ う した い ろ い ろ な 影 響 は 、複 合 的 に 作 用 し相 互 に 増 強 し合 う過 程 を経 る の で 、 ます ま す 見 通 す こ とが難 し くな ります 。 こ う して 、例 えば 森 の 死[森 林 破 壊]は 多 分 、種 々 の 汚 染 の 同 時 発 生 に還 元 され る こ とで し ょ う。 そ う した 汚 染 は 、 これ ま で表 立 っ て い ませ ん で した が 、 相 互 に 関係 し合 い な が ら発 生 す るの です 。 だ が 、 研 究 の結 果 が 必 ず しも 完 全 に評 価 で きず 、 ま た研 究 結 果 が誤 用 され る こ と もあ る に して も、 こ の こ とだ け で 研 究 の どん な 禁 止 も 正 当化 され は しな い の で す。 そ う した禁 止 は 、 研 究 の 自由 と両 立 しな い し、 現 に 未 来 問 題 に 直 面 して い

(7)

る こ とか らす れ ば 許 され る こ とで は あ りま せ ん。 未 来 問題 の 解 決 に は 研 究 が貢 献 し得 る か らで あ ります 。

あ る研 究 計 画 に 当 た っ て 、 科 学 者 た ち が 有 害 な諸 結 果 に 気 づ くな ら、 財 の 比 較 考 量 が 必 要 に な ります 。 こ の 場 合 、 問題 とな っ て い る財 とそ の脅 威 とが 相 互 に 比 較 され な けれ ば な りませ ん。 積 極 的 な結 果 の 方 が 消極 的 な 結 果 よ り も、 よ り重 い な ら、 そ れ は 、 〈為 す べ き こ と 〉な い しは く許 され て い る こ と 〉 と見 な され ます 。 財 の 比 較 考 量 の場 合 、 良 い 予 測 よ りも悪 い 予 測 が 優 先

され るべ き だ とい うの は 、疑 問 の 余 地 が あ りま せ ん。

だ か ら疑 わ しい とき は 、 き っ と万 事 が うま く行 く だ ろ う とい う考 え に従 うよ りも 、 む しろ逆 の考 え 、 つ ま り 大 胆 な 企 て は うま く行 か な い か も しれ な い とい う考 え に従 っ て 、 行 為 す べ きで す 。 この た め に 、例 えば 医学 で は 、 一 定 の 研 究 計 画 につ い て 決 定 を下 さな け れ ば な ら な い任 務 を持 っ 倫 理 委 員 会 は 、 次 の よ うな 考 え方 に 立 ち ます 。す な わ ち 、[医学研 究 の]有 効 性 が 認 め られ る に も か か わ らず 、 そ こに 、 あ る 著 しい リス ク が あ る な ら、 そ れ だ け で 、 そ の研 究 計 画 に 不 同 意 す る の に 十 分 な 理 由が あ る と考 え る の です 。

だ が 、 どん な リス ク も、 そ れ が そ の 研 究 計 画 を許 さ れ な い も の に す るわ け で は あ りませ ん 。 この こ と も明 らか で す 。 一般 に 研 究 が 可 能 で あ る べ き な ら、 あ る種 の リス ク は受 け 容 れ ざ る を 得 ま せ ん。 何 か 良 い こ と、

重 要 な こ とを 生 み 出 そ う とす れ ば 、 不利 な 結 果 を 引 き 起 こす か も しれ な い 作 用 を 敢 えて 冒 さ ざ る を得 な い の です 。 例 を挙 げ る と、 ま だ 十 分 に検 査 され て い な い薬 剤 で あ って も 、 治 療 が 上 手 く行 くチ ャ ン ス が あれ ば 、 そ の薬 剤 は投 与 され るで しょ う。

科 学 者 た ち は さ らに 、 かれ らの 知 る危 険 や 有 害 な結 果 を 、 お よ び 開発 を 控 えた とき の 結 果 を も 指 摘 す る よ

うに義 務 づ け られ て い ま す 。 だ か ら科 学 者 に は 、 情 報 提 供 の 義 務 が あ る の で す 。 結 果 へ の 懸 念 か らメ ー ビ ウ ス は 、 自分 の論 文 を 公 表 しませ ん で した。 そ れ は 間 違 って い ま した。[公表 して い れ ば]科学 の転 覆 、科 学 的 構 造 の 瓦解 とい う結 果 に な っ た だ ろ うと 、 メ ー ビ ウス は 言 い ます 。 科 学 者 た ち の 情 報 提 供 の 義 務 は 、 一 面 で は 科 学 の公 共 社 会 に対 して 、 他 面 で は 一 般 的 な公 共 社 会 に対 して成 り立 っ て い ます 。一 般 の公 共 社 会 に対 す る、

だ か ら住 民 に対 す る情 報 提 供 が必 要 な の です 。 な ぜ な ら、 研 究 の 倫 理 的 な評 価 は 、 単 に科 学 者 だ け の 関 心 事

で は な くて 、普 遍 性(一 般 社 会)に 関係 す るか らで す。

科 学 者 た ち は 、 自分 た ち が 批 判 的 な社 会 へ 深 く取 り込 ま れ て い る と感 じる に 違 い あ りませ ん。 責 任 性 は 、 相 互 的 で な くて は な らな い の です 。

V.研 究 は 、倫 理 的 に 非 難 され る 目標 を 追 求 し て は な ら な い

科 学 者 た ち は 自 らの研 究 を用 い て どの よ うな倫 理 的 に 非 難 され る 目標 を も 追 求 しな い とい うこ とが ま た 、 科 学 者 た ち の 責任 に属 して い ま す 。 だ が 、 非 難 され る べ き 利 用 の可 能 性 が あ る か ら とい っ て 、 そ れ だ け の 理 由 で研 究 目標 の 選 択 ・追 求 が 許 され な い こ と に な る わ け で は あ りませ ん 。 原 子 爆 弾 の 製 造 は 、 非 難 され る べ き原 子 核 研 究 の利 用 で あ りま し ょ う。 だ が 、 エ ネ ル ギ ー 産 出 は、 そ うで は あ りませ ん 。 有 毒 物 質 の 研 究 も ま た 、 この 研 究 が例 え ば 医学 で 、 あ る い は 害 虫 駆 除 の た め に 遂 行 され る べ きか ぎ りで は 、 倫 理 的 に 言 っ て 、承 認 で き な い わ け で あ りませ ん。 確 か にそ うした 有 毒 物 質 が こ う した 利 用 と並 ん で 、他 者 を 違 法 的 に殺 害 した り傷 つ け た りす る こ とが あ る か も しれ ませ ん。 例 え ば 生 物 兵 器 に よ っ て誤 用 され る こ とが あ る か も しれ ま せ ん 。 専 ら承 認 で き な い 仕 方 で の み利 用 で き る よ うな 、 そ の よ うな研 究 のみ が 禁 止 され る の で す 。 こ こで 実 例 を挙 げ て お き ま し ょ う。 キ メ ラ 、 つ ま り人 間 と動 物 と の 混 合 種 を 産 出 す る た め の 研 究 、 あ るい は拷 問・器 具 を 生 産 す るた め の研 究 が 挙 げ られ ま し ょ う。

VI.チ ー ム あ る い は 研 究 グ ル ー プ で の 責 任 科 学 者 た ち が 自分 た ち の研 究 プ ロ ジ ェ ク トを個 人 と して で は な くて 、研 究 グ ル ー プで 遂 行 す る よ うな 場 合 、 そ う した科 学 者 た ち の責 任 に つ い て は ど うで し ょ うか 。 この 場 合 に は 個 々 の 科 学 者 は 、 も ち ろ ん 全 体 に対 して 部 分 と して寄 与 す る にす ぎ ませ ん 。 そ の 全 体 の 完 全 な 射 程 を個 々人 は ま っ た く見 通 せ な い の が しば しば で す 。

プ ロ ジ ェ ク ト全 体 へ の 個 人 の 寄 与 も 、個 人 の 意 思 決 定 の力 も限 られ て い ま す 。 だ か ら個 人 は 、 プ ロ ジ ェ ク ト 全 休 に 対 す る 責 任 を ひ と りで担 うこ とは で き な い の で す 。 した が っ て 、 共 同 体 の責 任 、 な い しは そ の プ ロ ジ ェ ク トに関 与 す る 全 員 の 共 同 責任 が 成 立 しま す 。 そ う した 責任 は 、 研 究 グル ー プ の個 々 の 構 成 員 に よ って 、 個 々人 の 行 為 貢 献 や そ の 影 響 力 や 個 々 人 の介 入 ・コ ン

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〈 科 学 の 倫 理 〉 と く看 護 の 倫 理 〉 を考 え る

トロー ル の度 合 い に 応 じて 、 共 に 担 わ れ な け れ ば な り ま せ ん 。 指 図 に 従 って い る 、 つ ま り部 下 で あ る とい う 事 情 は 、 そ の 人 か ら倫 理 的 責任 を免 除 しは しな い の で す 。 指 図 す る権 限 を有 す る とい う、 つ ま りチ ー フで あ る とい う事 情 は 、 特 別 の責 任 を根 拠 づ け ま す 。 上 司 は 共 同 研 究 者 た ち の 行 為 に 、 た と え そ の行 為 に 自分 自身 で 能 動 的 に 関与 して い な くて も 、責任 を負 って い ます 。

皿.責 任 の 限 界

責 任 の 限 界 とい う も の が あ る の で し ょ うか 。 こ の 問 い に 対 して わ た し は 、 今 講演 を 終 え る に 当 た り 、 ご く 手 短 に 答 え て お き ま し ょ う。

自 ら の 責 任 と い う枠 組 み の 中 で 行 為 す る 科 学 者 た ち は 、 自 ら の 研 究 成 果 を 他 者 が 誤 用 す る こ と に 対 し て は 責 任 が な い の で す 。 研 究 成 果 の 利 用 に 対 す る 責 任 は 、 原 則 的 に 利 用 者 の 側 に あ り ま す 。 利 用 者 で あ る の は 、 個 人 で あ っ た り 、 企 業 あ る い は 政 府 で あ っ た り し ま し ょ う。 オ ッ ト ・ハ ー ン(訳 注3)、 リー ゼ ・マ イ トナ ー(訳 注 4)、 そ し て ブ リ ッ ツ ・シ ュ トラ ス マ ン(訳 注5)ら は 、1938 年 の 時 点 で 、 ベ ル リ ン ・カ イ ザ ー ・ヴ ィ ル ヘ ル ム 研 究 所 に あ っ て 核 分 裂 を 発 見 し ま し た が 、か れ ら に は 、1945 年 の 広 島 と 長 崎 へ の 原 爆 投 下 に 対 す る 責 任 は あ り ま せ ん 。 原 子 爆 弾 製 造 へ の 決 定 的 な 一一歩 は 、 ア メ リ カ 合 衆 国 で 始 ま り ま し た 。 こ れ に 関 与 し た 科 学 者 た ち の 反 応 は さ ま ざ ま で し た 。 だ が 、 当 初 味 わ っ た 輝 か し い 成 果 の 喜 び が 、 の ち に 深 刻 な 罪 感 情 に 屈 し て し ま う事 例 が 多 い の で す 。

し か し研 究 者 は 、 自 ら の 責 任 と い う枠 組 み を 守 ら な か っ た な ら 、 特 に 挙 げ る と 、 か れ ら に 課 せ ら れ て い る 諸 結 果 の 評 価 義 務 と 情 報 提 供 義 務 を 遵 守 しな か っ た な ら 、 そ の 場 合 に は 、 研 究 成 果 の 誤 用 に 対 す る 共 同 責 任 を 負 っ て い ま す 。

V皿.結 び

結 び に あ た っ て わ た しは 、 も う一 度 、 始 め に 引 用 し た テ キ ス トに立 ち返 りま す 。 デ ュ レ ンマ ッ トが か れ の 作 品 に 登 場 させ る物 理 学 者 た ち で は 、 研 究 に 関 す る命 令 と技 術 に 関 す る命 令 が 拠 り所 に な って い る の は ま っ た く明 らか です 。 研 究 に 関す る命 令 は 、研 究 に は どん な 限 界 も な い と断 じま す 。 技 術 に 関 す る命 令 は 、 〈 で き る[能 力]〉 か らは い つ も 〈べ し[義務 】〉が 生 じ る と

言 い ます 。 だ が こ の 二 つ の 命 令 は 、デ ュ レンマ ッ トの 描 く物 理 学 者 た ち の時 代 か ら40年 を経 過 した わ た した ち の現 代 社 会 で は 、 相 対 化 を被 っ て しま い ま した。 研 究 と研 究 の 技 術 応 用 とは 、 生 命 へ の 有 用 性 を 、研 究 実 施 の た め の 根 本 前 提 と しな けれ ば な りませ ん。 思 考 で き る こ と は何 で もか ん で も探 求 す るの で は な く、 ま た 技術 的 に使 用 で き る こ とは何 で も利 用 す る の で は な く て 、 広 い 意 味 で の 人 間 生 命 に厳 密 な 吟 味 の 上 で 本 当 に 役 に立 つ と思 わ れ る こ とだ け を研 究 ・利 用 す る とい う こ と を 、 人類 は 学 ば な けれ ば な ら な い の で す 。 科 学 者 た ち は 、科 学 の 自 由 が あ るに もか か わ らず 、 時 と場 合 に よ っ て は 自 らに 自発 的 な 自 己検 閲 を課 さな けれ ば な らな い の で す 。 われ われ は 、 そ う した検 閲 を用 い る こ とで 、絶 え ず わ れ われ の 自 由 を証 明 しな けれ ば な りま せ ん。自由 は プ ロセ ス で あ っ て 、所 有 で は な い の です 。 何 も 知 ろ う とはせ ず 、 運 命 の手 の 内 を こ っそ り窺 お う

と しな い 、そ う した な か で も 自由 は成 立 し得 る の です 。 こ う した[自 己検 閲 に よ る 自 由 の証 明 と い う]要求 を 満 た す こ と は 、基 本 的 に言 っ て 、 始 め に 思 うほ ど難 しい こ とで は あ りませ ん 。 なぜ な ら人 間 は 、為 す べ き こ と や 為 した い と思 うこ と 以 上 の こ と を 、 あ らか じ めい つ も為 し得 た か らで す 。 人 間 は あ らか じめ い つ も殺 す こ と も盗 む こ と もで き ま した 。 だ が 人 間 は殺 しや 盗 み を 社 会 的 あ るい は 宗 教 的 な 関 心 に 基 づ き為 さな い よ うに 、 あ るい は殺 しや 盗 み に罰 を科 す よ うに な りま した。

こ の講演 で わ た しが あ な た 方 に示 した か っ た の は 、 責 任 を 引 き受 け る こ とは 非 常 に 困難 で は あ る が 、 不 可 能 で は な い とい うこ とで す 。 ひ とは 責 任 を習 得 す る こ とが で き ます 。 この機 会 に特 に 挙 げ ま す と、人 文 科 学 の 諸 学 科 ま た 一般 教 養 講 座 や 、 この 夏 学 期 で 「第 二 の 進 化 」 をテ ー マ に す る ヨハ ネ ス ・グー テ ンベ ル ク寄 付 講座 も、次 の よ うな 行 事 を提 供 して い ま す 。す なわ ち、

科 学 者 た ち が 道 徳 的 葛 藤 や 優 先 順 序 ・最 大 効 率 化 問 題 に関 わ りを 持 ち、 倫 理 的 な判 断 能 力 を習 得 す るた め に 催 され る行 事 で あ ります 。 お そ ら く わ た した ちは 、 こ う した行 事 の 度 ご とに 、 み な さん と再 び お 会 い す る こ とに な る で し ょ う。

(訳 注1)Narrenkappe。 生 徒 に 罰 と し て か ぶ せ ら れ る 帽 子 。 昔 、 宮 中 道 化 役 が 用 い た 鈴 付 き の 道 化 帽 。

(訳 注2)FriedrichDUrrenmatt(1921‑90).ス イ ス の 劇 作 家 、 小

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説 家 。 奇 抜 な 着 想 や パ ロデ ィ を盛 り込 ん だ 寓 意 劇 を 書 き 、現 代 社 会 の 欠 陥 を 暴 い て 見 せ た 。 『物 理 学 者 た ち 』("Die Physiker")は 、 自分 の 研 究 業 績 が 人 類 の滅 亡 を招 く と して 、狂 人 を 装 う科 学 者 の喜 劇 で 、 これ に よ り国 際 的劇 作 家 とな る。

(訳注3)OttoHahn(1879‑1968).物 理 化 学 者 。1944年 ノー ベ ル 化 学 賞 を 受 賞 。 核 分 裂 の 発 見 者 で 、核 分 裂 を世 界 最 初 に 科 学 的 に 証 明 した 。

(訳 注4)LiseMeitner(1878‑1968).ス ウ ェ ー デ ン の 女 性 物 理 学 者 。 ウ ィ ー ン 大 学 で 物 理 学 を 学 び 、 ベ ル リ ン に 移 りM.プ ラ ン ク に 師 事 し た 後 、1912年 カ イ ザ ー ・ヴ ィ ル ヘ ル ム 研 究 所 に 入 り 、0.ハ ー ン と 放 射 能 の 共 同 研 究 に 従 事 し た 。

(訳 注5)FritzStrassmann(1902‑1980).(〉 ハ ー ン が1938年 に 、 ウ ラ ン に 中 性 子 を 照 射 し 核 分 裂 反 応 が 起 き る の を 発 見 し た と き の 共 同 研 究 者 。

人間的に看護するとは 看 護 倫 理(学)と 看 護 にお ける倫 理(学)へ の 所 見

(2003年5月21日 、ザ ー ル ブ リュッケ ン で の 講 演)

こ の ホ ール に お集 ま りの 皆 さん の 中 に 、病 人 看 護 の 形 態 や 自己理 解 に 関連 して 、 す で に ち ょ う ど20世 紀 の 終 末 に深 層 に ま で及 ぶ 変遷 が 起 こ った こ とに対 して 疑 い の 念 を持 つ 人 は い な い で しょ う。 病 人 看 護 は、 慈 悲 心 に よ る愛 の業 や 医 師 に従 属 的 な 援 助 者 の 業 とい う もの か ら、 固 有 の 専 門 職 へ と発 展 しま した 。 こ う した 病 人 看 護 の 変 遷 を特 徴 づ け て い る の は 、看 護 とい う職 業 に職 業 技 術 的 な 能 カ へ の要 求 が絶 えず 高 ま っ て い る とい う事 実 で す 。 看 護 の 職 業 技 術 的 な能 力 は 、 ま す ま す 要 求度 の 高 ま る教 育 に よ って 育 まれ な けれ ば な りま せ ん。 そ う した 状 況 が 進 む うち に 、看 護 職 に従 事 す る 人 々 は 、 自分 た ち を 病 院 とい う構 造 の 中で 独 立 した一 つ の柱 で あ る と理 解 す る よ うに な り、 医 師 や 管 理 機 構 と 同等 の権 限 を もつ 者 と して 並 び 立 つ よ うに な っ て い ま す 。 看 護 職 の 内部 自体 で もま す ま す 細 分 化 が 進 ん で い ま す 。 そ れ に加 え て 、病 院 は 現代 の 経 営 体 と して 、 技 術 化 ・専 門化 ・合 理 化 を増 進 して き ま した 。 こ う し た こ と を、 人 間 性 の喪 失 とい う災 い と して 経 験 した 人 は 少 な く あ りませ ん 。 決 定 的 な 問 い は こ うで す 。 病 院 は 、健 康 を産 み 出 す 生 産 基 地 と して理 解 され る の か 。 それ と も病 院 は 、 そ の 中心 に人 間 が 、 しか もま る ま る 全 体 と して の 人 間 が 居 座 る よ うな家 で あ る の か。 前者 で あれ ば 、 病 院 は 経 営 中心 の 病 院 で あ り、後 者 で あ れ ば 、患 者 中 心 の 病 院 で あ りま しょ う。

こ の講 演 で わ た しは 、 病 院 の 改 革 につ い て何 か を お 話 し した い の で は あ りま せ ん 。 ま た 、 労 働 時 間や 労 働 条 件 の規 制 とか教 育や 再 教 育 に っ い て お 話 し した い の で も あ りませ ん。 わ た しの テ ー マ は 、 人 間 的 な看 護 で

あ り、 と りわ けわ た しは そ の倫 理 的 な側 面 に 関 心 が あ ります 。 看 護倫 理 学 で わ た しが何 を理 解 して い る か と 言 い ま す と、 そ れ は 、 看 護 従 事 者 の 職 務 遂 行 とい う枠 組 み に お け る責任 あ る行 為 につ い て熟 考 す る こ とで あ ります 。 わ た しは 、病 人看 護 の領 域 で の専 門家 で あ り ませ ん 。 わ た しが み な さん に お 話 しす る こ とは 、文 献 研 究 や わ た し 自身 の経 験 と思 索 を 手 が か りに して い ま す 。 経 験 と言 い ま して も、 も う随分 と時 を経 て い ます が 、 だ か ら とい っ て そ の経 験 を ま っ た く新 た に した い

とは 思 って い ませ ん 。

最 初 に 触 れ ま した く病 人 看 護 で の深 層 に及 ぶ 変遷 〉 と密 接 に 関 連 す る こ と と して 、看 護 の 定 義 は普 遍 妥 当 的 で は な い とい う事 実 が あ りま す 。

病 人 看 護 は 、わ た した ち の 文 化 を 表 す標 識 で も あ る。

わ た した ちは病 人 の 世 話 を引 き受 け る。 い くつ か の遊 牧 民 族 の よ うに病 人 を 追 放 しな い 。 これ は ヨー ロ ッパ 文 化 圏 の類 型 を表 す 。こ の よ うに社 会 学 者 は言 い ま す 。

看 護(介 護)は 今 で は も う財 政 の 対 象 で は な い。 そ の よ うに 、看 護(介 護)保 険 の 考案 者 は 言 い ま す 。

看 護 は 、サ ー ビス 業 で あ る。 看 護 は 、 ほか の サ ー ビ ス 業 と 同 じよ うに 、市 場 に 出 な くて は な らず 、 患 者 と 対 話せ よ とい う顧 客 の要 求 に合 わせ な けれ ば な らな い と、 病 院 経 営 者 や 保 健 衛 生 機 関 の経 営 管理 コン サ ル タ ン トは 、 言 っ て い ます 。

病 人看 護 、 老 人看 護 、 障 害 者 の 世 話 は 、 キ リス ト教 的 な心 情 の 本 質 的徴 表 で あ る。 こ う した活 動 に従 事 す る人 は 、 キ リス ト教 的 な確 信 の 証 を示 す と、神 学 者 は 言 い ます 。

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〈科 学 の倫 理 〉 と〈看 護 の倫 理 〉を 考 え る

看護 は 、 注 射 を うっ た り包 帯 を巻 い た り血 圧 を は か った りす る よ うな活 動 遂 行 以上 の もの で あ る。 大 変 重 要 な こ と は 、ナ ー ス が親 切 か ど うか 、 ち ょっ と耳 を傾 けて くれ る か ど うか 、端 的 に言 っ て 時 間 を持 っ て い る か ど うか で あ る と、患 者 は言 い ます 。

看 護 は 、部 分 的 に独 自 の 責任 領 域 を持 った職 業 で あ る。 看 護 師 は 、診 断 や 治療 の 際 に 医 師 を援 助 す る。 看 護 の働 き手 は多 くの 時 間 を 直接 に 患者 に接 して過 ごす か ら、 かれ らは病 気 の認 識 や 治療 効果 の 判 定 に 対 して 有 意 義 な示 唆 を 与 え て くれ る と、 医 師 は 言 い ま す 。

看 護 は 、頭 脳 労 働 、 手 仕 事 、 そ して 人 間 関 係 的 仕 事 で あ る。看 護 は 、他 の どの よ うな 職 業 と も同 じよ うに、

習 得 す る こ とが で き る。 看護 は 独 特 の 職 業 で あ り、 こ の職 業 に は 、他 者 を 助 け 、 能 動 的 で あ り、 治 療 に役 立 つ とい う性 質 が あ る と、 看 護 職 の 教 師 は言 い ます 。

わ た しの 以 下 の 詳 述 は 、 この 最 後 に挙 げた 定 義 に結 び っ け た い と思 い ま す 。 なぜ な ら、 こ の定 義 が わ た し に は もっ と も現 実 的 だ と思 われ るか らです 。 た だ しわ た しは 、 時 間 的 な 理 由か ら、頭 脳 労 働 、手 仕 事 、人 間 関係 的 仕 事 とい う三 つ の 側 面 の うち で 、最 後 の一 つ だ け を取 り上 げて 、 お 話 し した い と思 い ます 。 そ の 定義 に従 うな ら、 看 護 を職 業 と して遂 行 で き るた め に は 、 専 門知 識 や 専 門能 力 を それ 自体 と して切 り離 して しま うの は不 十 分 で あ ります 。 患者 は 、 自分 に あ て が わ れ る看 護 を 、素 朴 に受 け身 の 立 場 で 受 け 容 れ は しな い で し ょ う。 患者 は看 護 に個 人 と して 反応 す るで しょ う。

この反 応 が ま た 、看 護 す る人 の 側 で の 反 応 を呼 び 起 こ す の です 。こ こ に人 間 関係 とい うもの が 成 り立 ち ま す 。

ナ ー ス な い しは看 護 師 と患 者 との あい だ に成 り立っ 、 こ うした 関係 は 、 い ろい ろ な面 か ら特 徴 づ け る こ とが で きま す 。 そ う した 特 徴 の うち 、 わ た しは以 下 に 五 つ を取 り上 げ ます 。

第1の 面:習 慣 化(ル ー テ ィン 化)、 だ が 習 慣(ル ー テ ィン)に あ ら ず

ル ー テ ィ ン と は 、 本 来 、 練 習 に よ っ て 身 に つ け た 熟 練 あ る い は 器 用 さ で あ りま す 。 こ れ に 対 応 し て 、 「ベ テ ラ ン 」 と は 、 自分 の 専 門 に 熟 達 し た 人 で あ りま す 。 日 常 語 で は し か し 、 そ の 語 は 、 否 定 的 な 意 味 合 い も あ り ま す 。 特 に 社 会 的 な 職 業 と の 関 連 で は そ うで す 。 何 か を 器 用 に 行 う と は 、 こ の 場 合 、 そ の こ と を 仕 事 柄 、 内

面 的 な 関 わ りを持 た ず に 行 うとい うこ と を意 味 しま す 。 病 人 に とっ て 重 要 な こ とは 、 自分 が ナ ー スや 看 護 師 に どん な に 巧 み に 世 話 され て い るか を経 験 す る こ とで す。 この こ と を経 験 す れ ば 、 病 人 は 安 全 や 庇 護 の 感 情 を持 ち ま す 。 しか しル ー テ ィ ンは 、 ル ー テ ィ ン の ま ま に 経過 す るの は 許 され ま せ ん 。 こ う した 言 葉 遊 び で 意 味 して い るの は 、 職 業 で の 最 良の 熟 練 や 器 用 さ で あ っ て も、 内 面 的 な 関 わ り、人 間 的 な思 い 遣 りや 心 遣 い が な けれ ば 何 の 役 に も立 た な い とい うこ とです 。 要 求 さ れ るの は 、関 与(ア ン ガー ジ ュ マ ン)の 態 度 で あ りま す 。 これ は 、看 護 で の人 格 的 な要 素 で あ ります 。 そ う した 看 護 で は 、援 助 者 は 、全 人 と して 呼 び か け られ 、 援 助 へ と義 務 づ け られ て い る こ とを 自覚 します 。 看 護 す る人 は 、病 人 と一 緒 に 自分 の道 の りの 一 定 部 分 を 共 に します 。 そ こ で は 、看 護 す る 人 は 、病 人 を 看護 活 動 の 客体 と して で は な くて 、独 立 の 主 体 と して 、 対 等 の 人 間 と して 、 さ らに あ る 意 味 で は パ ー トナ ー と して 見 な します 。 関 与 す る(ア ンガ ー ジ ュマ ン)と い う態 度 は 、 だ が 、 病 め る人 の 運 命 と完 全 に 一 つ にな る こ と を 意 味 しま せ ん 。 部 分 的 な 同 一 で しか あ りま せ ん 。 この 病 人 と看 護 者 との 間 の 関 係 で は 、 完 全 な 同一 化 は、 い ろん な 理 由か ら不 可 能 で あ ります 。 そ ん な わ け です か ら、 例 えば 援 助 者 は 、 も しも援 助 を必 要 とす る人 と一 緒 に、 苦 悩 と悲 嘆 の 深 海 に沈 み 込 んで しま うな ら、そ の 場 合 に は も う助 け る こ とが で き ませ ん。 だ か ら、病 人 の た め に人 格 的 に 関与 す る とい うの は 、 どん な:場合 で も病 人 が欲 す る ま ま に病 人 を助 け る とい うの で は な くて 、病 人 が必 要 とす る程 度 に病 人 を助 け る とい うこ とで あ ります 。

第2の 面:お 節 介 で は な い

看 護 に は 、看 護 の働 き手 と患 者 との 間 の 関 係 に あ っ て 中 心 的役 割 を担 うい っそ う広 い 側 面 が あ ります 。 こ れ を わ た しは 、親 の 甘 茶 が 毒 とな る(訳注1)と い う諺 で 特 徴 づ けた い と思 い ま す 。 病 ん で い る人 は 、そ れ ぞ れ の 助 けの 必 要 に応 じて 、 助 け と保 護 の諸 力 を 自分 の 同 朋 に呼 び 起 こ し、特 に病 む 人 が直 接 に信 頼 を置 い て い る人 々 に呼 び 起 こす とい うの は 、 ま っ た く 自然 な こ と で す 。 ナ ー スや 看 護 師 に とっ て は 、他 人 を助 け る とい うの は満 足 と充 実 の体 験 で もあ りま し ょ う。こ の場 合 、 た しか に お節 介 とい うこ とが 起 こる か も しれ ませ ん。

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お 節 介 を受 け る こ とで病 人 は 、他 人 に依 存 す る状 態 に 慣 れ て しま い 、本 当 は 多 くを 自分 で で き るの に 人 に し て も ら うこ と に気 を よ く して しま い ま す。こ の こ とが 、 病 人 の 幼 い 発 達 段 階 へ の退 行 、 要す るに 引 き 戻 りとい

う現 象 に まで 進 む か も しれ ませ ん。 母 の よ うに 世 話 す る とい うこ と は、 反 面 で後 見 で あ りま す。 そ うした 後 見 は例 えば 、 次 の よ うな か た ち で表 れ る こ とが あ りま す 。 す な わ ち、 患 者 の病 状 や 治 療 状 況 に つ い て 、肝 心 の 患者 自身 とは 話 し合 わ な い 、十 分 に は話 し合 わ な い とい う現 象 で す 。 けれ ど も も し患 者 が 自分 の 自立性 を 失 い 、 自分 で イ ニ シア チ ブ を発 揮 で き な くな る と、 こ の こ とは 患者 の 回復 過 程 に悪 影 響 を与 え ます 。 病 人 と 言 っ て も、 自己決 定 の 能 力 を持 つ 存 在 者 で あ ります 。 だか ら、病 人 が な し得 る意 志 決 定 を 、病 人 か ら奪 い 取 るの は許 され な い こ とで す。

第3の 面:助 け とな る 対 話

お そ ら く言 語 は 、一 切 の 人 間 的 な 能 力 の 中で 最 も人 間 的 で あ ります 。 言 語 は 、動 物 た ち が 音 声 表 示 で 為 し 得 る こ と を遙 か に超 え 出 て 、汝 と呼 び か け られ る人 間 へ の 人 格 的 で 社 会 的 な接 触 を生 み 出す こ とが で きま す。 わ た した ち は 、言 語 を媒 介 と して 、自分 自身 を表 現 し、

それ と同 時 に 、わ た した ちが 誰 で あ るか を経 験 します 。 言 語 は 基 本 的 に 二 重 の 仕 方 で 用 い られ ます 。一 つ は 、 話 や 報 告 や独 白 とい う形 で す 。 この 場 合 に は 、 た だ今

わ た しが話 して い ま す よ うに 、 一 方 の人 だ け が何 か を 話 します 。 も う一 つ は 、 対 話 とい う形 式 で す 。 対 話 は 本 質 上 、相 互 的 な 交換 を含 意 しま す 。 わ た した ち の脈 絡 で 重 要 な の は 、治 療 手 段 と して の 言 語 で あ ります 。 対 話 は そ う した手 段 と して 、 と りわ け 心 理 学 者 や 心 理 療 法 士 に よ っ て行 使 され ます 。 だ が 医 師 や 看 護 に 従 事 す る人 々 も、担 当 す る患 者 とそ う した 対 話 を行 い ます 。

しか も、 助 け、 そ して癒 す よ うな 対話 とい う意 味 で 対 話 しま す 。 そ の よ うな対 話 の重 要 性 は どん な に 強 調 し て も しす ぎ る こ とが あ りませ ん。 そ う した 対 話 は 、 担 当 す る患 者 を全 人 と して世 話 をす る とい う意 味 で 、 疑 い な くナ ー ス と看 護 師 の最 も重 要 な課 題 の 一 つ で あ り ます 。 そ の よ うな 対 話 が うま く行 く た め に は 、 二 三 の ル ー ル が 必 要 で す 。 助 け と な る対 話 で あ る た め に は 、 原 則 的 に 、 対 話 の パ ー トナ ー に耳 を傾 け る気 持 ち が あ る こ とが 前 提 と され ま す 。 助 け とな る対 話 は 、ひ とえ

に、 助 け られ るべ き 人 の い ろ い ろな 必 要 の た め に あ る ので す 。 そ の よ うな対 話 に は 、他 人 をあ るが まま に受 け容 れ る 姿勢 が整 っ て い る こ とが含 ま れ て い ま す 。 問 題 な の は 、患 者 の感 情 を 共 に感 得 す る こ と、 場 合 に よ って は患 者 の感 情 を 言葉 で 会 得 す る こ とで あ りま す 。 助 け とな る対 話 を決 定 づ け る の は 、 患 者 の い ろい ろ な 必 要 に立 ち入 る こ とです 。 だ が 、 患 者 の い ろい ろな 必 要 は 、 患 者 が 実際 に欲 して い る こ とや 、願 っ て い る こ と と必 ず しも 同 じで は あ りませ ん。 だ か ら、 ナ ー ス や 看 護 師 の立 場 に あ る人 は 、助 け とな る 対 話 を しな が ら

患者 の 願 い をい つ も 叶 え て あ げ る とい う願 望 に 右 往 左 往 す る よ うな こ とが あ っ て は な らな い の です 。

第4の 面:病 床 で の 告 知 と真 実

ナ ー ス な い しは看 護 師 と患 者 と の 間 の 関係 に あ る こ う した側 面 は 、 す で に取 り扱 った 側 面 に非 常 に似 通 っ て い ます 。 診 断 が確 定 す れ ば 、 患 者 に は直 ち に 、患 者 の病 状 につ い て真 実 が 告 げ られ るべ きで す 。 診 断 に基 づ い て 、 それ か ら先 の疾 病 経過 に つ い て 予 測 し推 論 す る こ とが で き ます 。 患 者 へ の告 知 は 、 い つ も原 則 的 に 医 師 の 義 務 です 。 医師 は この課 題 を 、 看護 す る人 に任 せ て は な りませ ん。 だ が 医 師 は 、看 護 す る人 を対 話 へ と、 これ が 有 意 義 と思 え る場 合 に は 、 引 き 寄 せ る こ と が 許 され ま す 。看 護 す る人 は 病 人 に 対 して 大 抵 の場 合 、 医 師 よ りも濃 密 な 関 係 を持 っ て い ます 。 だ か ら看 護 す る 人 は 、 む しろ、 真 実 と 向 き合 うパ ー トナ ー に な りま す 。 特 に 、 真 実 が 致 命 的 な病 気 を知 らせ る こ とに あ る とき に は 、そ うです 。病 人 が 矛 盾 した 情 報(「 こ の病 気 は治 療 で き ませ ん。」 「き っ とまた 良 くな る で し ょ

う。 希 望 を な く さな い で くだ さい よ。」)で 心 を乱 し重 荷 を背 負 う こ とが な い た め に は 、 医 師 の 発 言 と看 護 チ ー ム の発 言 とが例 外 な く一 致 して い な くて は な りませ ん 。 こ の た め に は 、 治療 チ ー ム の 内 部 に 良 好 な コ ミュ ニ ケ ー シ ョン が成 り立 っ て い る こ とが 大 切 で す 。 だ か ら患 者 は 、 自分 の病 状 を知 ら され た ま ま で 一 人 に され て は な りませ ん。 患 者 は 、深 刻 な真 実 を 最 終 的 に 受 け 容 れ る時 に こそ 、 患 者 の助 け に な る誰 か を 必 要 と しま す 。 告 知 し真 実 を告 げ る人 は 、[患 者 が]真 実 を最 終 的 に 受 け 容 れ るの を助 け 、死 に付 き添 うだ け の 心構 え が な けれ ば な りま せ ん 。

(12)

〈科 学 の 倫 理 〉 とく看 護 の倫 理 〉 を考 え る

第5の 面:内 奥 領 域 や 秘 密 を 尊 重 す る こと 看 護 者 と患者 との 間 の 関係 で は 、[患 者 の]内 奥 領 域 や 秘 密 が 尊 重 され な けれ ば な りませ ん。 人 は誰 で も 、 自己 の 実 存 の 領 域 を持 っ て い ます 。 誰 に とっ て も 自己 の 実 存 領 域 は保 護 に値 します 。ラテ ン語 に 由来 す る 「内 奥 の(intim)」は 、 「最 も内 的 な もの 」 を意 味 します 。 だ か ら、 人 が 通 常 は誰 に も 開示 しな い よ うな 人 間存 在 の 領 域 が そ う した も の と思 われ て い ます 。 この 場合 、 身 体 的 な 内奥 領 域 、精 神 的 な 内 奥領 域 、 そ して 人格 的 な 内奥 領 域 の 間 を 、 区別 で き ます 。 自分 の 内 奥領 域 に 押 し入 っ て くる の を 、人 は 絶 え ず 自己 の 人 格 性 の 脅 威 で あ る と感 じ取 ります 。 病 人看 護 の 必 要 上 、 大 抵 は 否 応 な く、看 護 す る 人 が 患者 の 身 体 的 な 内 奥 領 域 、 心 的 な 内奥 領 域 に も立 ち入 らな くて は な らな くな りま す 。 患 者 の尊 厳 を 傷 つ け な い た め に は 、そ う した 立 ち入 りは 、 細 心 の 心 配 りを 怠 らず に 、 で き るだ け控 え 目な もの で な けれ ば な りま せ ん 。 患 者 は、 ど う して も必 要 な場 合 を 除 い て は 、「裸 の ま ま に され る」こ とが許 され ませ ん。

身 体 的 に 裸 に され る こ と と並 んで 、 精 神 的 に裸 に され る とい うこ とが あ ります 。 これ は 、大 抵 は 、身 体 的 な 場 合 よ りもい っそ う不 快 で あ る と感 じ られ ます 。 精 神 的 な 裸 に も 、身 体 的 な裸 に も、 当人 は 恥 じ らい の反 応

を表 します 。

人 間 の精 神 的 な 内奥 領 域 に も秘 密 が あ りま す。 この 秘 密 を保 護 す る の は 、誰 に とっ て も大 変 重 要 で す 。 他 人 の秘 密 を 内密 に扱 う こ とは 、 人 と人 との 間 の 信 頼 を 築 き ます 。 そ う した信 頼 が あ って 初 め て 、 患 者 は 医師 と看 護 す る人 に 自分 の 心 中 を打 ち明 け る よ うに な りま す 。 こ う した 理 由か ら、 医 師 や 看 護 人 の職 業 上 の 秘 密 を絶 対 に 守 る とい うこ とが 非 常 に重 要 に な る の です 。

合 に よ っ て は そ の親 族 の個 人 的 な諸 問題 や 必 要 を把 握 し包 含 す る こ とが 問題 で す。 ま た 、 日常 的 に 新 た な 方 向づ け を 可能 にす るた め に 、 患者 に付 き添 い 、 患者 を 世 話 し、 患者 の相 談相 手 に な り、 患者 を動機 づ け る こ とが 問題 です 。 そ して 生 き る こ との 部 分 と して 人 間 的 死 に付 き 添 うこ とが 問題 で す。

全 体 的 な看 護 とい う見 方 に立 って 、 わ た しは 看 護 職 を 、 熟 練 され た 共 同 人 間 性 へ の 呼 び か けで あ る と理 解 しま す。 そ の 共 同 人 間性 の 熟 練 は 、 職 業 的 な能 力 と、

病 人 に と って の 同 朋 で あ る とい う心 の 準 備 とに よ って 媒 介 され ます 。 わ た しは 最 初 に、 看 護 につ い て の多 様 な定 義 を思 い 描 き ま した が 、これ らを 振 り返 った 上 で 、 今 、 簡 潔 に言 い表 す な ら、 い わ ば簡 単 な決 ま り文 句 、 簡 略 的 定 義 で表 す な ら、看 護 とは 人間 に よ る 人 間 の た め の 社 会 的 なサ ー ビス(奉 仕)で あ る と理 解 で き る で

し よ う。

2003年4月29日 、 マ イ ン ツ に て 執 筆 。

(訳 注1)BemutterungundBevormundung.直 訳 す る と 、

〈 母 親 の よ う に お 節 介 を や く こ と 〉 と 〈 意 の ま ま に 牛 耳 る こ と(後 見)〉 と い う 意 味 で あ る 。

さて 結 論 に入 りま し ょ う。

この 講 演 で わ た しは、 看 護 とい う広 大 な領 域 か らた だ 一 つ の 要 素 だ け を取 り上 げ ま した。す な わ ちそ れ は 、 看護 人 と患 者 との 問 の 関係 とい う要 素 で す。 この 関係 の 網 の 目細 工 につ い て 、 わ た しは 次 に 五 つ の側 面 を 主 題 に しま した。 わ た しは顧 慮 の外 に 置 きま した が 、 さ らに二 三 の側 面 が あ りま す。 この 考 察 で わ た しは 、 看 護 の 全 体 的 な理 解 か ら出発 しま した。 全 体 的 な 看 護 と い うの は 、 人 間 の身 体 、 心 、 そ して 社 会 的 環 境 を包 括 し、 そ して それ らの相 互 関係 に 注 目 しま す 。 患 者 、 場

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