博士(工学)ユオノ ウィジャヤ 学位論文題名
Optical Information Processing Based on Wigner Distribution Function
(ウィグナ一分布関数に基づく光情報処理)
学位論文内容の要旨
音声などの非定常時間信号の特性を解析する方法として,従来短時間フーリエ変換法 がよく使われてきた.この方法では,解析すべき信号に短い時間幅の窓関数を掛け、それ をフーリエ変換することにより信号周波数の時間変化が求められる.この場合,窓幅の時 間内では信号は定常であるとみなされる.しかし,その時間幅は周波数分解能を決定する ため,この方法では信号の時間および周波数分解能を同時に最適化することができない.
この問題を解決する方法として,近年デイジタル信号処理の分野において,ウィグナー分 布関数が導入されている.これは,二つの互いにシフトした信号の積をフーリエ変換する ことによって得られる関数であり,信号の周波数特性を時間の関数として表すものである,
ウィグナー分布関数では,解析すべき信号自身を窓関数とすることにより窓幅が自動的に 最適化されている.
一方,光学におぃても,画像などの空間信号の解析に関して同様な問題が存在する.し かし,この分野ではウィグナー分布関数の応用に関する研究が十分に行われていない.本 論 文は, ウィ グナ ー分 布関数に基づく光情報処理を研究することを目的としている.
第1章では,光情報処理およぴウィグナー分布関数の研究の発展に関する概説を行い、
さらに本論文の目的と各章の内容について述べている.
第2章では,本論文の背景となるコヒーレント光情報処理およぴ波面再生法の基本的 物理概念をまとめ,その数学的背景を示している.
第3章では,ウィグナー分布関数の基礎的な理論がまとめられている.特に,本研究で 扱うウィグナー分布関数の諸特性について,その数学的背景を示す.さらに,具体例とし て基本的な定常および非定常時間信号のウィグナー分布関数を計算機シミュレーションに より確認している,
第4章では,スペックル写真法におけるウィグナー分布関数の応用に関する提案を行っ ている.物体の変位分布や流体の速度分布を測定するーつの方法としてスペックル写真 法がある.スペックル写真法では,スペックルグラムと呼ばれる物体の二重露光写真を用 いる.従来の手法では,このスベックルグラムを解析するために光学的フーリエ変換を用 い,得られる空間周波数の逆数から変位の大きさを求めている.しかし,この手法では物体 全体の平均的な空間周波数しか求められないとぃう欠点があり,また,局所的な変位を求 めるためには局所的な光学的フーリエ変換を多数回くり返す必要がある.これに対して、
ウィグナー分布関数による解析では,スペックルグラムが空間的に非定常な周波数を含ん でいる場合も,物体の各点の局所的な変位を同時に求めることができる.しかし,二次元 空間信号のウィグナー分布関数は四次元座標上の関数であり,光学的には実現が不可能で ある.そこで,二次元スペックルグラムを一次元スペックルグラムの集積とみなし、一次元 ‑ 590−
空間信号のウイグナー分布関数を光学的に実現することでスペックルグラムの解析を行つ ている,写真フイルムを入カとするシステムを提案し,このシステムの有効性を実験的に 確 認 す る と と も に , シ ス テ ム の 性 能 向 上 に つ い て 詳 し く 検 討 し て い る . 第4章で述べたシステムには,、写真フイルムの現像処理に時間と手間がかかるとぃう問 題が残されている.第5章ではこの問題を解決するため,写真フイルムの代りに液晶デイ スプレイを用いた実時間システムの提案を行っている,スペックルパターンをビデオカメ ラで検出しっフレームメモリ上に格納する,計算機内に構成した二次元スペックルグラム を数値的に一次元スペックルグラムに変換し,液晶デイスプレイの画面に表示する.この ようにしてっスペックル写真法におけるウイグナー分布関数の応用を実時間で実現できる.
このシステムではっ実時間性に加えて,光学系による画像の歪みを避けることができるこ と、観測する場所を計算機内で自由に選択できること,スペックルパターンの強度を2値化 することで局所的な空間周波数の表示性能を向上させることができるなどの利点がある,
光J晴報処理においては,時間的およぴ空間的に変調した光により情報が伝わる.そのよ うな光情報を実時間で処理するには,上述のように光電検出が有効である.光電検出器の 出カは基本的に一次元時間信号であり,例えばビデオカメラの場合はビデオ信号あるいは ラスター信号である.第6章では,このような時間信号をウイグナー分布関数に変換する 新しい光学的実時間処理系を提案している,このシステムでは,一つの音響光学素子を用 いて電気信号を空間信号に変換することにより時間信号のウイグナー分布関数を光学的に 実現している.このシステムは,実時間性およびコンパクトであることに加えて,デイジ タル 演算 によ るエ リア シン グ誤 差を 避け ること がで きる とい う利 点を もっ ている.
第7,8章では,ウイグナー分布関数に基づく空間的に変動する信号の処理とその光接 続等への応用に関する研究を行っている.第7章では,ウイグナー分布関数による光学的 座標変換の基本的物理概念および数学的背景を論じている.光学的座標変換を実現するた めの位相フイルターを求める方法として,従来は定常位相法およぴ近軸近似がよく使われ てきた.しかしこの方法ではっ画像の歪みを避けるためには大きい開口数をもつ光学系が 必要でありっ光学系の空間・帯域幅積が下がるという問題がある.この欠点を避けるには,
光学的座標変換を物体の各点における空間周波数の変換とみなし,ウイグナー分布関数に よる光学系の解析により位相フイルターを求めることが有効であり,これにより光学系の 空間・帯域幅積を向上させることができることが示されている.この方法に基づぃて,空 間を関数とする光学的置換ネットワークの構成を提案している.このような一対一接続に はデータの再配置が必要であるが,これは座標変換と同じような処理と考えることができ る.構成したシステムでは,計算機ホログラムを使って位相フイルターを実現している.そ の結果,従来よりもコンパクトな光学系で光接続を実現できる,さらに,クロストークお よぴ泣相フィルターの空間分解能について詳しく検討している.
第8章では、前章で提案した方法を拡張し,一対多およぴ多対一の光接続を検討してい る.並列演算処理では,このような接続がよく用いられる.例えばっ行列・ベクトルおよぴ 行列・行列積では,各ベクトルデータを行列データに分配したのち掛け算およぴt足し算が 行われる.この考えを用いて,この章では光学的行列処理の構成が提案されている.この システムではアナモルフイック光学系を使わず。二枚の位相フイルターだけで並列光演算 処 理 を 実 現 で き る こ と が 示 さ れ , シ ス テ ム の 性 能 が 理 論 的 に 論 じ ら れ て い る . 第9章 で は 。 本 研 究 で 得 ら れ た 結 果 を 総 括 し , 結 論 が 述 べ ら れ て い る .
学位論文審査の要旨 主査
副査 副査 副査 副査
′ 教授 教 授 教 授 教 授 助 教授
朝倉利光 小川吉彦 栃内香次 北島秀夫 魚住 純
学 位 論 文 題 名
Optica,l Information Processingy Based on Wigner Distribution Function
( ウ ィ グ ナ ― 分 布 関 数に 基 づ く 光情 報 処 理)
信 号 処理 の 分 野に お い て 解析 の対 象となる 時間お よび空間 信号は 、多くの 場合非定 常で あり 、 そ の周 波 数 スペ ク ト ル は時 間あるい は空間 とともに 変化して いる。 近年、デ ィジタ ル信 号 処理の 分野では 、そのよ うな信 号の周波 数スペ クト´1の時間 変化を 解析する 手法と して 、 ウィグ ナー分布 関数がi券叺 されてい る。一 方、光学 において も、画 像などの 空間信 号の 解 析 に関 し て 同様 な 問 題 が存 在する。 本論文 は、ウイ グナー分 布関数 に基づく 時間・
空間 信 号 の光 情 報 処理 の 研 究 とそ の 計 測へ の 応 用に 関 す る研 究 の 結果 を ま とめ た も ので ある 。
第1章で は 、 光情 報 処 理 およ ぴ ウ ィグ ナ ー 分布 関 数 の研 究 の発展 に関する 概説を行 い、
さら に 本 論文 の 目 的と 各 章 の 構成 に つ いて 述 べ てい る 。
第2章で は 、 本論 文 の 背 景と な る コヒ ー レ ント 光 情 報処 理 および 波面再生 法の基本 的物 理.籾 匕 瓮を ま と め、 そ の 数 学的 背 景 を述 べ て いる 。
第3章で は 、 ウィ グ ナ ー 分布 関 数 の基 礎 的 な理 論 、 特に 本 研究で 扱うウィ グナー分 布関 数の 諸 特 性に つ い て、 そ の 数 学的 背 景 が示 さ れ てい る 。
第4章で は 、 スペ ッ ク ル 写真 法 に おけ る ウ ィグ ナ ー 分布 関 数の応 用に関す る提案を 行っ てい る 。 物体 の 変 位分 布 や 流 体の 速度分布 の測定 法である スペック ル写真 法では、 スペッ クル グ ラ ムと 呼 ば れる 物 体 の 二重 露光写真 を用い る。従来 の手法で は、こ のスペッ クルグ ラム に 光 学的 フ ー リエ 変 換 を 適用 すること により 、平均的 な変位の 大きさ を求める 。これ に対 し て 、ウ ィ グ ナー 分 布 関 数を 用いて解 析する ことによ り、物体 の各点 の局所的 な変位 を同 時 に 求め る こ とが で き る こと を明らか にして いる。さ らに、写 真フイ ルムを入 カとす るシ ス テ ムを 提 案 し、 こ の シ ステ ムの有効 性を実 験的に確 認すると ともに 、システ ムの性 能向 上 に つい て 詳 しく 検 討 し てい る 。
第4章で 述 べ てい る シ ス テム に は 、写 真 フ イル ム の 現像 処 理に時 間がかか るという 問題 が残 さ れ てい る 。 第5章 で は 、こ の 問 題を 解 決 する た め 、写 真フイ ルムの 代りに液 晶ディ スプ レ イ を用 い た 実時 間 シ ス テム の提案を 行って いる。こ のシステ ムでは 、実時間 性に加 えて 、 光 学系 に よ る画 像 の 歪 みを 避けるこ とがで きること 、観測す る場所 を計算機 内で自
由 に 選 択 で き る こ と な ど の 利 点 が あ る こ と を 明 ら か に し て い る 。 第6章では、時間信号をウイグナー分布関数に変換する新しい光学的実時間処理系を提 案している。このシステムでは、一つの音響光学素子を用いて電気信号を空間信号に変換 することにより、時間信号のウイグナー分布関数を光学的に実現している。このシステム は、実時間性およぴコンパクトであることに加えて、ディジタル演算によるエリアシング 誤 差 を 避 け る こ と が で き る と い う 利 点 を も っ て い る こ と を 示 し て い る 。 第7章では、ウィグナー分布関数による光学的座標変換の設計および光学的置換ネット ワークの構成を提案している。光学的座標変換を実現するための位相フイルターを求める 方法として、従来は定常位相法および近軸近似がよく使われてきた。しかし、この方法 では、画像の歪みを避けるためには小さい開口数をもつ光学系が必要であり、光学系の空 間・帯域幅積が下がるという問題がある。ここでは、この欠点を避けるにはウイグナー分 布関数による光学系の解析により位相フイルターを求めることが有効であり、これにより 光学系の空間・帯域幅積を向上させることができることを明らかにしている。この方法に 基づぃて、空間を関数とする光学的置換ネットワークの構成を提案している。構成したシ ステムでは、計算機ホログラムを使って位相フイルターを実現しており、その結果、従来 よりもコンパクトな光学系で光接続を実現している。
第8章では、前章で提案した方法を拡張し、光学的行列処理の構成を提案している。提 案したシステムでは、アナモルフイック光学系を使わず、二枚の位相フイルターだけで並 列 光 演 算 処 理 を実 現 でき る こ とを 示 し、 シ ス テム の 性 能を 理 論的 に 論 じて い る。
第 9章 で は 、 本 研 究 で 得 ら れ た 結 果 を 総 括 し 、 結 論 を 述 べ て い る 。 これを要するに、著者は、ウイグナー分布関数の概念を光学の領域に応用することによ り、非定常信号の光学的処理、及ぴ回折光学系の設計に関する有益な新知見を得たもので あ り 、 情 報 光 学 及 ぴ 光 計 測 工 学 の 進 歩 に 貢 献 す る と こ ろ 大 な る も の が あ る 。 よって著者は、北海道大学博士(工学)の学位を授与される資格あるものと認める。