博 士 ( 医学 ) 金 谷 聡一 郎
学 位 論 文 題 名
Long ‑ term evaluation with splenopancreatic
of distal splenorenal shunt and gastric disconnection
(膵脾周囲血行郭清及び胃離断を伴う遠位脾腎静脈吻合術における 遠隔成績の評価)
学 位 論 文 内 容 の要 旨
H.対象と方法 1.対象
対象は1970年1月から1992年12月までに施行されたシャシト手術症例124例で,S‑DSRS 55例,
DSRS‑SPD7例,DSRS‑SPGD 62例 であ る。 各群 の追 跡率 はS‑DSRS 92.8%,DSRS‑SPD 85.7
%,DSRS‑SPGD 96.8%で,平均追跡期間はS‑DSRS 95.4カ月,DSRS‑SPD 76.0カ月,DSRS‑SPGD 65.4カ 月 で , 各 群 に 有 意 差 は な い 。 血 管 造 影 は 術 前 ・ 術 後 に 全 例 で 施 行 し た 。 2.検査項目および方法
1) 術後 遠隔 成績 …術 後遠 隔成 績の 評価と して,再出血率,生存率,QOLを調査した。QOL の評価にはWHO分類によるPerformance Status(PS)を用いた。
2)門脈血行動態の評価…短期観察群と長期観察群の2群に分けて評価した。各群における手術 から血管造影施行日までの平均期間は,短期観察群・長期観察群ともに有意差はなかった。血 管造影にて上腸間膜動脈造影門脈相から門脈と上腸間膜静脈の直径を測定して,その比(以下 PV/SMV比) を 求め ,術 前術 後の 値と ,変 化率(post‑ope PV/SMV/pre‑ope PV/ SMV) を算出した。術後のシャント選択性の評価は,上腸間膜動脈造影門脈相より,門脈の側副血行 路 の 形 態 を 以 下 の3段 階 に 分 類 , Selectivity Gradeと し て 評 価 し た 。 GradeI: 遠 肝 性 側 副 血 行 路 と し て 胃 壁 血 行 路 お よ び シ ャ ン ト が 描 出 さ れ な い も の Grade II: 胃 壁 を 介 す る 遠 肝 性 側 副 血 行 路 が 明 ら か に 描 出 さ れ る も の
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Grade 11I:違肝性側副血行路を介してシャントが明らかに描出されるもの
m.結果 I)術後遠隔成績
1.再出血率…食道胃静脈瘤からの再出血率はS‑DSRS 23.6%,DSRS‑SPD 14.2%であるのに対し,
DSRS‑SPGDは6.5%で,S‑DSRSに比べて有意に低かった。胃炎からの出血率はS‑DSRS 12.7 % , DSRS‑SPGD 9.7% に 対 し て , DSRS‑SPDで は 28.6% と 高 か っ た 。 2. 生存率…S‑DSRSは5年生存 率59.7%,7年生存率44.1%であった。DSRS‑SPDの5年生存率 は75.0%,7年生存率75.0%であった。DSRS‑SPGDは5年生存率78.3%,7年生存率70.5% であり,S‑DSRSに比ぺて高い傾向にあった。
3.Performance Status (P S)…PSO.Iが 占 め る割 合 はS‑DSRSで は76.4% ,DSRS‑SPD で は 7I.4% で あ る の に 対 し て , DSRS‑SPGDで は 93.5% と 高 か っ た 。 II)門脈血行動態の評価
1. 術前 ・ 術 後のPV/SMV比と 変 化 率 …短 期 観 察群 のPV/SMV比 は |DSRS‑SPGDではS‑DSRS とDSRS‑SPDに比ぺて 有意に 高値であった。PV7SMV比の術前術後の変化率は,DSRS‑SPGD ではS‑DSRSとDSRS‑SPDに 比べて有意に高値であった。長期観察群のPV7SMV比では,S− DSRS,DSRS‑SPDで その低 下が著明 となり ,それに 対してDSRS‑SPGDでは 維持さ れ,S ーDSRS.DSRS‑SPDに比べて有意に高かった。
2.術後のシャント選択性の評価ーSelectivity Grade‑‑短期観察群のSelectivity Gradeは,S‑DSRS はシ ャント 選択性喪 失群で あるGrade IL.mが多かった。DSRS‑SPDはGradenの胃壁血行 路からのシャント選択性喪失例が多かった。それに対してDSRS‑SPGDでは大部分はGradeI であり,シャント選択性は維持されていた。長期観察群では,S‑DSRSはGrademの比率が増 加 し た。DSRS‑SPDで はGradeIは な く なり ,GradeH.m例 のみ と な っ た。DSRS‑SPGD で はGradeIが12例 で ,Grade IIを2例 に 認 め た だ け で ,Grademは な か っ た 。
1V. 考 察
選択的遠位脾腎静脈吻合術は1967年Warrenらによって提唱されたが,その後の検討で遠隔期には シャント選択性が失われていることが判明し,シャント選択性喪失の最大の原因が膵尾部膵内静脈 枝の遺残によるpancreati・csiphonにあることが究明された。1983年より開始したDSRS.SPDでは,
胃壁血行路を介する胃静脈瘤の形成や,そのルートを介するシャント選択性の喪失という新たナょ問 題点が明らかとなった。筆者はその対応策として1984年以降DSRS.SPDに胃小弯側,大弯側の血行 郭清と胃壁血行遮断を加えたDSRS.SPGDを工夫・確立した。
今回の 検討によ り,DSRS−SPGDはS‐DSRS.DSRS ̄SPDに比べて再出血率.QOL・生存率の 点で優れていることが明らかとなった。門脈血行動態では,S‐DSRSとDSRS‐SPDは術後遠隔期に PV/SMV比および 変化率 がDSRS・SPGDに比べて有意に低下し始め,特にその傾向はS_DSRSで 顕著であった。これはpancreaticsiphonにより,門脈血流が喪失したためと考えられた。DSRS−S PDでもその傾向が認められたが,その原因は胃壁血行路を介する側副血行路の発達による門脈血流 の喪失によると考えられた。それに対してDSRS.SPGDでは,術後遠隔期においてもPV/SMV比 の低下は軽度であり,本術式の門脈血流の長期維持性が証明された。
シャント選択性の点では,S‐DSRSとDSRS‐SPDでは,短期観察群よりGradeH.mのシャント 選択性の喪失群が多く,長期観察群ではS‐DSRSではシャント選択性喪失によるGrademが多く,
DSRS‐SPDでは胃壁血行路を介する側副血行路の出現によってGradeHが多くなり,この評価法 によりS‐DSRSおよびDSRS−SPDの特徴的な欠点が明らかとなった。それに対してDSRS‐SPGDで は術後 遠隔期に も,Grademは1例も なく,GradeIが大部分であり,本術式のシャント選択性 が長期的に維持されていることが証明された。
シャント手術の最終目的は,シャント選択性を維持して出血を防止し,門脈血流を維持すること によってQOLおよび生存率を向上させることにある。今回の研究によって,改良された新術式 DSRS.SPGDは,S‐DSRSとDSRS―SPDに比べて門脈血流の長期維持性の点で明らかに優れており,
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再出血率の低下とQOLおよび生存率の向上に大きく関与していることが証明された。
V. 結 語
DSRS‑SPGDは,シャント選択性と門脈血流を長期的に維持することにより,再出血率の低下と QOLおよび生存率の向上の点で,S‑DSRSおよびDSRS‑SPDに比べて明らかに優れた術式であった。
学位論文審査の要旨 主査
副査 副査
教授 教授 教授
学 位 論 文 題 名
Long ‑ term evaluation with splenopancreatic
of distal splenorenal shunt and gastric disconnection
( 膵 脾 周 囲 血 行 郭 清 及 び 胃 離 断 を 伴 う 遠 位 脾 腎 静 脈 吻 合 術 に お け る 遠 隔 成 績 の 評 価 )
食道 胃静 脈瘤 に対 す るシ ャン 卜手 術の 歴史 は, シャ ン卜 選択 性と門脈 血流を長期的に維持 す る ため の改 良の 歴史 であ った 。1970年 から1983年 まで は,standard distal splenorenal shunt(S−DSRS) を施行したが,遠隔期に門脈血流の喪失例が多くみられ た。1983年から1984 年 まで は脾 静脈か ら膵体尾部を完全に遊離するDSRS virith splenopancreatic disconnection
(DSRS−SPD)を施行したが,胃壁血行 路を介する胃静脈瘤出血例が高率に起こり新たな問題点 が 出現 した 。以 上の 問 題を 解決 する ために,1984年以降はDSRS−SPDに胃 小弯側,大弯側の血 行 郭清 と胃 壁血 行遮 断 を付 加し たDSRS with splenopancreatic and gastric disconnection
(DSRS―SPGD)を完成させた。本研究の 目的は,改良された新術式であるDSRS―SPGDが.S―DSRS およぴDSRS−SPDと比較してシ。ヤン卜 選択性と門脈血流を長期的に維持することによって.再 出血率の低 下とQuality of life(QOL)の向上をもたらせることができたかについて検討した。
対象 は1970年1月か ら1992年12月 まで に施 行さ れ たシ ャン 卜手 術症例124例で,S−DSRS 55 例 ,DSRS−SPD7例,DSRS−SPGD 62例で ある 。各 群 にお ける 平均 年齢,原疾患,Child分類,
ICG−K値, 追跡率,平均追跡期間に有意差はなぃ。
門脈 血行 動態 の評 価 はconventional angiographyに よっ て, 手術日か ら血管造影施行日ま での期間に より短期観察群と長期観察群の2群に分けて評価した。
血管 造影 にて 上腸 聞 膜動 脈造 影門 脈相 から 門脈 と上 腸聞 膜静 脈の直径 を測定して.その比
(PV/SPIV比)と術前術後の変化率(post−ope PV/SMV/pre―ope PV/SMV)を算出した。術後のシ ヤ ン 卜選 択性 の評 価は ,上 腸間 膜動 脈造 影門 脈相 よ り, 門脈 の側 副血 行路 の形 態を3段階 に 分 類 しSelectivity Gradeと し て 評 価 し た 。GradeIは 遠 肝 性側 副血 行路 とし て 胃壁 血行 路 お よ び シ ャ ン 卜 が 描 出 さ れ な ぃ もの ,Gradeuは胃 壁を 介す る違 肝性 側副 血行 路 が明 らか に 描 出 され るも の,Grade皿は 遠肝 性側 血行 路を 介し てシ ャン トが 明ら かに 描出 さ れる もの ・ と定義した 。
術後遠隔 成績は,再出血宰・高アンモニア血症発現率. Performance status(PS).生存率 にて評価し た。
門脈 血流 では ,術 前 ・術 後のPV/SlIV比と変化率は,DSRSーSPGDが短期 観察群・長期観察群 ともにS−DSRSとDSRS―SPDに比ぺて有意に高値で,S―DSRSとDSRSーSPDに有意差はなかった。術 後 の シ ャ ン 卜 選 択 性 で は .Selectivity Gradeに お ぃてS一DSRSは短 期観 察時 よ りGrademが 多 く,DSRS―SPDではGrade IIが多 かっ た。それに対してDSRS―SPGDは術 後遠隔期におぃても 大 部分 がGradeIであ っ た。 以上 ,S−DSRSで はPancreatic siphoriが,DSRSーSPDでは胃壁血
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一 之
男
純 紘
和 .
野 藤
坂
内 加
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行 路を 介す る側 副血 行路 が, シャ ン卜 選択 性喪 失の 原因 と 考え られた。それに対してDSRS‑
SPGDで は シ ャ ン 卜 選 択 性 と 門 脈 血 流 が 長 期 . 的 に 維 持 さ れ て い る こ と が 証 明 さ れ た 。 術後 遠隔 成績では,再出血率およぴ高アンモニ ア血症の発現率はDSRS−SPGDではS←DSRSに 比ぺて有意に低く,DSRS−SPDに比ぺて低い傾向にあった 。
術後遠隔期のQOLは,DSRS−SPGDではPS(0‑1)が占める比率がS―DSRSおよぴDSRS―SPDに比ぺ て 高い 傾向 にあった。DSRSーSPGDの5年・7年生存 卒はS−DSRSに比べて良好で あった。以上,
本 術式 にお ける 再出 血率 およ び高 アン モニ ア血 症発 現率 の 低下 と術後遠隔期のQOLおよぴ生 存 率 の 向 上 は , シ ャ ン 卜 選 択 性 と 門 脈 血 流 が 長 期 的 に 維 持 さ れ た 結 果 と 考 え ら れ た 。 シャ ン卜 手術 の最 終目 的は ,シ ャン 卜選択性を維持することによって出血 を防止し,門脈 血 流を 維持 する こと によ ってQOLを 向上 させ るこ とに ある 。本 研究によって ,改良された新 術 式DSRSーSPGDは, シャ ン卜 選択 性と 門脈血流を長期的に維持することによ り,再出血率の 低 下とQOLの向上の点 で,S−DSRSおよぴDSRS−SPDに比べて優れた術式である ことが証明され た。
口頭 発表 にお いて 宮坂 和男 教授 より 術前術後の門脈から肝実質までの血行 動態の変化およ ぴDSRSーSPGDに おけ るSelectivity GradeHの 症例 に死 亡例 がぃ るの かに つい て, 浅香 正 博 教 授よ り3術 式の 施行 時期 の差 によ るSupport療法 の進 歩が 与え る手 術成 績の 影響 ,本 術 式 の 肝機 能に 与え る影 響お よぴ 手術 適応 について,加藤紘之教授より患者側か らみた治療法の 選 択に つい て, 内野 純一 教授 より 直連 手術とシャン卜手術の術式の選択およ ぴ本術式の手術 手 技 の 難 易 度 に つ い て の 質 問 が あ っ た が , 申 請 者 は お お む ね 妥 当 な 回 答 を し て い た 。 食道 胃静 脈瘤 に対 するDSRS―SPGDの 遠隔成績の詳細な検討はこれまで報告 がなく,さらに 本 術式 とS−DSRSおよ びDSRS―SPDとの3術式の遠隔成績の比較検討は初めてで あり,門脈圧亢 進症における外科領域におい て本研究の意義は大きく,本論文は博士(医学)の学位授与に値 するものと判定する。
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