Title
牛の発育不良に関する研究( 本文(Fulltext) )
Author(s)
髙須, 正規
Report No.(Doctoral
Degree)
博士(獣医学) 甲第209号
Issue Date
2006-09-15
Type
博士論文
Version
publisher
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12099/21392
※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。やJ.・小 フ㌢ん一り腐好 .ヾ†ノ ヂ.〃ti8 舟 7.斬 笥凡月」-川』 訊 ㍉小Uノ
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牛の発育不良に関する研究
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目 次 序 論 ………1 第1章:発育不良牛とは ………‥3 第1節発育不良牛の体格と発育関連ホルモン 第2節発育不良牛の体格と発育曲線 第1章のまとめ 第2章:発育不良牛の飼料摂取 ………・19 第2章のまとめ 25 第3章:発育不良牛の栄養評価 ………・26 第1節 代謝プロファイルテスト 第2節 負荷試験 1グルコース負荷試験 2インスリン負荷試験 3 プロピオン酸負荷試験およびアルギニン負荷試験 第3章のまとめ 26 l 1 5 0ノ ーJ つJ つJ つJ 45 結 論 ………47 謝 辞 ………50 文 献 ………5l
序 論 牛において、虚弱・発育不良症候群は世界各国で多発し、その発生率は6から15%といわれて いる(43)。虚弱・発育不良症候群の症状は様々で、生後数時間で死亡する虚弱から体格が小さい 以外に異常が認められない発育不良まである。 わが国において、正常牛と比べて体重が軽く、体高の低い牛は、全で`発育不良牛''と呼ばれ、 その発生率は2から5%と言われている(35)。北海道や一部の地域を除いて小規模農家の多いわ が国では、発育不良の発生が農家に与える経済的な損失は大きく、特に小規模肉牛繁殖農家にお いて発育不良が発生した場合、その被害は甚大である。わが国では、遺伝性疾患である尿細管形成 不全(37)や軟骨異形成性燻小体躯症、ウイルス性疾患であるアカバネ病やチュウザン病(44)な どの中枢神経異常を伴う疾患(13)や牛ウイルス性下痢粘膜病などが牛の発育不良の原因として知 られている。これらが原因の発育不良牛の場合、それぞれの疾患に特徴的な臨床症状や骨格異常 を示すので、治療または早期の淘汰が可能である。また、新生子期の下痢や肺炎などの慢性消耗性 疾患に篠息する発育不良牛(虚弱牛)(12,16,21)の場合、発育不良牛(虚弱牛)は虚弱、沈うつ、 食欲不振、体温の不整、起立不能などを示し、その多くが治療に反応せず死亡するため、経済的損 失は拡大しない。しかし、黒毛和種牛では、元気があり、食欲が良好で、原因が特定できない発育不 良牛が、ホルスタイン種などの他品種牛より多く認められる(23,36)。このような元気・食欲があり、下 痢や肺炎を示さない発育不良子牛の場合、畜主は、発育不良牛が正常に近い体格まで発育する望 みを捨てきれず、飼育を続けることが多い。この場合、子牛を市場に出荷できないための経済的損失 に加えて、発育不良牛を長期間飼育することによって損失が拡大するので、特に問題視されている。 黒毛和種の肉質は、筋間にきめこまやかな脂肪が入る、いわゆる霜降り牛肉として知られ、その 品質の高さは世界的に見ても類を見ない。この肉質の向上のために、和牛では育種改良が進められ てきた。特に、兵庫、滋賀、山形などの和牛の産地では、銘柄牛を確立させ、他の産地との差別化を 図るために、育種改良を進めている。このような肉質改良を目的に、産地によっては特定の種雄牛を 集中的に用いているため、一部の和牛では近交化が進み、近交係数が20%を超えることも珍しくは
なくなっている。岐阜県においても、昭和63年、岐阜県の和牛名柄が飛騨牛と統一されて以来、飛 騨牛の祖というべき種雄牛の家系を中心に改良が行われてきた(53)。その結果、飛騨牛は様々な 品評会において、優秀な成凍を残し、その肉質の良さは全国的にも知られるようになった。このような 背景もあって、黒毛和種牛で多く認められる元気・食欲のある発育不良の発生に対する遺伝的要因 に着目する研究者も多い(36)。確かに、近交化の進んだ動物における特定の疾患の原因として、 遺伝病または遺伝的影響を考える必要はある。しかし、これまでの研究では、発育不良の発生に対 する遺伝的要因の影響を言及するための根拠は乏しいため、安易に発育不良と遺伝的要因を結び つけてはならない。 一般に、黒毛和種牛における発育不良の原因は、若齢期における感染症と、それに伴う慢性消 耗の結果であると言われている。しかし、これには明確な根拠がなく、下痢や肺炎の認められない発 育不良の原因を説明できない。発育不良牛は畜主が見切りをつけた時点で、原因究明のための病 理解剖すらされずに淘汰されてきた。したがって、黒毛和種牛における発育不良の病態に関する知 見は乏しく、原因を探るための研究は少ない。このため、現状では黒毛和種牛の発育不良による経 済的損失を軽減するための対策は全くとられていない。それどころか、畜産農家および臨床獣医師 の間では、発育不良が一定の割合で出現することが当たり前にさえなっている。 この研究の最終目的は、黒毛和種牛における発育不良の原因を明らかにし、発育不良による 経済的損失を軽減することである。しかし、これまでに黒毛和種牛の発育不良に関して、遺伝的要因 や発育にかかわる代謝・内分泌学的な特徴だけでなく、体格が小さい以外の身体的特徴さえも充分 に検討されていなかった。したがって、発育不良の原因を言及する前に、発育不良牛とはどのような 牛なのかを明らかにする必要があった。この研究では、黒毛和種の発育不良牛とはどのような牛なの かを明らかにし、発育不良の原因を解明するための第一歩とすることを目的とした。
第1書∴発育不良牛とは 標準的な体格を大きく下回る牛、外見的に体格が小さい牛は、全て発育不良牛と呼ばれ、原因 究明のための病理解剖すらされずに淘汰されていた。このため、黒毛和種牛における発育不良に関 する研究報告はほとんどない。一般に、動物の発育不良の原因は、成長ホルモン(GH)、甲状腺ホ ルモン、コルチゾール、インスリンなどの発育に関わるホルモン分泌異常である内分泌疾患と、飢餓、 栄養失調、腎疾患、肝疾患、肺炎、寄生虫感染症、下痢などの慢性疾患による消耗である非内分泌 疾患に分けられる(51)。第1章では、黒毛和種牛における発育不良の原因が内分泌疾患であるの か、それとも非内分泌疾患であるのかを特定するために、第1節では発育不良牛の発育関連ホルモ ンを測定し、発育不良牛の内分泌的特徴を検討した。また、第2節では発育不良牛の体格の特徴と 発育曲線を検討した。 ♯1節 発育不良牛の体格と発育開連ホルモン 動物の発育に最も重要な役割を果たすのは、GHとGE刺激によって肝臓で作られる成長因子 であるインスリン様成長因子(IGF)-1のGIi・IGF-1軸である(51)。一般に、発育不良の原因が内分 泌疾患または非内分泌疾患のどちらであっても、発育不良の動物ではGH・IGト1軸の破綻、特に IGF-1濃度の低下が認められる(50)。これまでの研究において、黒毛和種の発育不良牛はIGト1濃 度が低いにも関わらずGE濃度が高いという特徴的な内分泌パターンを示すことが報告されている (22∼23)。このパターンを示す発育不良の原因となる内分泌疾患には、GHの分子異常、ヒトではラロ ン型壊小症として知られているGHレセプター欠損症、ヒトではピグミー型燻小症として知られている GHレセプター以降のIGF-1産生異常などがある(51)。これらの異常の場合、GHによるGHレセプ ター以降のIGF-1産生シグナルが低下するため、血中IGト1濃度が低くなる。血中IGF-1濃度が低 下するとIGト1による下垂体へのGH産生抑制機構が働かないので、GH濃度は高くなり、特徴的な
高GH一低IGF-1のパターンを示す。また、この高GH-低IGF-1のパターンは、上記に加えて、ほとん どの非内分泌疾患による発育不良でも認められる(51)。発育不良の原因となる非内分泌疾患として 挙げられる慢性的な腎疾患、肝疾患、呼吸器疾患などによる消耗や栄養失調などでは、エネルギー 不足が生じる。このエネルギー不足によって肝臓のGHレセプター発現は低下するので、IGF-1産生 シグナルは低下し、血中IGf■-1濃度は低下する。この血中IGト1濃度の低下によって、GH産生抑 制機構は抑制され、GH濃度は上昇するので、高G路低IGF-1のパターンとなる(33)。 第1節では、黒毛和種の発育不良牛の発育関連ホルモンの動態から、発育不良の原因が内分 泌疾患であるのか、それとも非内分泌疾患であるのかを特定するために、血清GIi、IGト1、甲状腺ホ ルモンおよびコルチゾール濃度を測定した。また、これまでに黒毛和種牛の発育不良の発生に家系 が強く関与していると言われている(36)。そこで、発育不良の発生と家系との関係を明らかにするた めに、MHOを父とするMHO系発育不良牛(MHO系牛)とⅢSKを父とするHSK系発育不良牛 (ⅢSK系牛)の間の発育関連ホルモンおよび体格(体重および体高)の特徴を比較した。 材 料 と 方 法 好一紆牛 黒毛和種の発育不良牛13頭(雄4頭、雌6頭、去勢3頭)を供試した。その内、$ 頭(雄1頭、雌5頭、去勢2頭)の父親はMHOであり、5頭(雄3頭、雌1頭、去勢1頭)の父親 はH∫Kであった。この研究では、発育不良牛を日本飼料標準(1$)に記されている黒毛和種牛の 体重および体高の下限を満たさない牛と定義した。正常発育を示す黒毛和種牛6頭(雄3頭、雌3 頭)を正常対照とした。供試時の発育不良牛は平均9.0土5.7か月齢(MⅢ0系牛は平均9・4土6・5 か月齢、HSK系牛は平均9.1土5.0か月齢)であり、正常牛は平均1仇9土1.1か月齢であった。 鹿貯炭査抗凝固剤にヘパリンナトリウムを用いて供試牛から採血し、血液検査(Celltac,日 本光電,東京)を行った。また、血液検査用とは別に採血し、得られた血液を4℃、3,000回転で10 分間遠心して血清を分離した。血清を血液化学検査(FDC3500V富士メディカルシステム,東京) まで-30℃で保存した。供試前に、発育不良の原因となる尿細管形成不全(37,38)の遺伝子診断と 牛ウイルス性下痢粘膜病ウイルスの検出(44)を行い、発育不良牛がこれらの疾患を持たないことを
確認した。 G打舵 GHはパルス状分泌を示すため、GH分泌評価のために長時間頻回(15分毎、10 時間)採血法を用いた。ヘパリン処理したシリンジで血液を採取した後、直ちにサンプルを4℃、 3,000回転で10分間遠心して血祭を分離した。得られた血渠を測定まで一30℃で保存した。血祭GH 濃度を二抗体法(25)を用いて測定し、GH分泌評価のためにGH濃度曲線下面積 (GH-AUCo_600min)を算出した。 忍声グヨードゲイウニン1廊サイロ辛シン1JGトJおよび曳ル′デブール彪爵 血液化学検査用に採 取した血清の一部を用いて、血清総トリヨードサイロニン(T3)、総サイロキシン(T4)、IGト1および コルチゾール濃度を測定した。供試牛の血清T3濃度をT3測定キット(SPACT3RIAKit,第一ラ ジオアイソトープ研究所,東京)で測定し、血清T4濃度をT4測定キット(SPACT4RIAKit,第一 ラジオアイソトープ研究所,東京)で測定した。また、供試牛の血清IGト1濃度をIGト1測定キット (SomatomedinCIIBayer,ユカ・メディアス,茨城)で測定した(15)。さらに、供試牛の血清コルチ ゾール濃度をコルチゾール測定キット(TFBCortisoIKit,TFB,東京)で測定した。 噺それぞれの検査項目結果における発育不良牛と正常牛の群間の比較には、StudentのJ 検定を行った。また、MHO系牛、HSK系牛および正常牛の群間の比較にはScbe飴のF検定を行 った。発育関連ホルモンと体格(体重と体高)の相関を明らかにするために、Piasonの順位相関係 数を用いた。P<0.05の場合を統計学的に有意とした。 結 果 磨全ての発育不良牛の妊娠期間と分娩は正常であった。また、発育不良牛の出生時体重 は正常または若干軽かった。発育不良牛13頭のうち$頭(61.6%)は、軽度の肺炎症状または下痢 を示した。しかし、その他の5頭(3$.5%)は、下痢や肺炎の病歴はなかった。発育不良牛を剖検す ると、肺炎の痕跡など発育不良の原因となり得る病変は肉眼的に認められなかった。 身動鮫蒼、血尿および虚藤倉学務査・発育不良牛の体重充足率と体高充足率は、正常牛より有 意に低かった(図1-1)。発育不良牛を家系間で比較すると、MⅢ0系牛の体重充足率はHSK系牛よ
り低い傾向にあった。また、MHO系牛の体高充足率は、充足率が70%前後の2頭が平均値を引き 下げていることを考えると、HSE.系牛と差がなかった。供試牛の血液および血液化学検査結果を表 1_1に示す。MⅢ0系牛のヘマトクリット値が低かった以外は、供試牛群間において有意な差はなかっ た。 (邑掛嘩摂瑚造 20 00 l l 0 0 2 1 1 1 (㌔) 0 0 0 9 掛増祇腫遣 正常牛 MHO系牛 HSK.系牛 正常牛 MHO系牛 HSK系牛 95.2±17.6 36.5±11.3 41.0±12.4 101.7±4.7 85.4±9.6 紗.0±5.2 図1-1供試牛の体重充足率(左)および体高充足率(右).日本飼料標準に示されている正常牛の体重および体 高に対する正常牛(n=6),MHO系牛(n=S)およびHSK系牛(n=5)の体重および体高充足率(%)を算出した・ 発育不良牛の体重充足率,体高充足率共に正常牛より有意に低かった.MHO系牛の体重充足率は,HSR系牛 より低い傾向にあった.■:アスタリスクは、それぞれMHO系牛またはESK系牛と正常牛との間に有意差があること を示す(P<0.05).各群の右側には,平均値を示すプロットと標準偏差を示すバーを記す・ 表1-1.供試牛における血液および血液化学検査結果. 項目 正常牛(肝葡) MHO系牛(『甚) HSK系牛(n=5) 赤血球数(×104小1) ヘマトクリット値(%) 白血球数(小1) 総タンパク濃度(釘dl) アルブミン濃度(帥1) アスパラギン酸トランスアミナーゼ活性(Ⅳの アルカリフォスファターゼ活性(M) 尿素窒素濃度(m帥l) クレアチニン濃度(m釘dl) グルコース濃度(m釘dl) 総コレステロール濃度(mg川1) カルシウム濃度(mg舟1) 無機リン濃度(m釘dl) 855 土 391 32.8 土 3.1 8,217 士1577 5.9 土 0.6 2.7 土 0.5 66.4 土13.g 292 土159 16.6 土 6.6 l.2 土 0.4 $3.9 士 23.4 8さ.8 士 33.3 9.8 土 2.3 6.1土1.3 941土134 936 土20g 27.4 士2.4● 31.4 土2.5 9,350士3129 6.0 士 0.4 2.S 土 0.3 66.0 土10.7 252 土 54 14.4 土 3.6 0.9 土 0.2 79.8 土19.0 69.2 土15.1 10.6 土 0.6 6.5 土1.8 5,900 土374 6.4 土 0.3 2.6 士 0.2 66.0 土 20.4 398 土125 10.3 土11.2 1.1 土 0.3 $5.0 士 5.9 89.7 土 21.4 11.1土 0.5 7.2 土0.4 1)アスタリスクは, 2)数値は平均値土標準偏差を示す. 牛との間に 差があることを示 (P<0.05).
G打分必図ト2に例を示すように、発育不良牛の血祭GH濃度は正常牛より常に高い傾向に あった。特にMHO系牛の血僚GH濃度は、H∫K系牛および正常牛より高い傾向にあった。したがっ て、MHO系牛のGH-AUC。_600minはHSK系牛および正常牛より高い傾向を示した(図1-3)。 0 0 0 0 nV 凸V O Oノ 00 7 `V 5 4 つJ (-己旬且髄堪エ0螺眉 O 100 200 300 400 500 600 時間(min) 図1-2.正常牛(○)とMHO系牛(◆)およびHSK系牛(■)におけるGH分泌パターン・発育不良のMHO 系牛,ESK系牛共に正常牛よりGⅢ濃度が高く維持されていた.この傾向は特にMEO系牛で顕著であった・血 液サンプルは,午前9暗から午後7時までの10時間,15分毎に採取した. 脚 ㈱ ㈱ 0 0 0
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正常牛 MHO系牛 HSK系牛 2,Sll±1,275 22,210±柑,9517,各島7±6,340 図ト3.供試牛3群間のGH-AUC。_6。0minの比較.正常牛(n=4),MHO系牛(n=6),HSK系牛(n=5)・発育不良 牛のGH-AUC。.6。。minは,正常牛より高い傾向にあった.特にMHO系牛のGH-AUCo_600minはHSK系牛や正常牛よ り高い傾向を示した.グラフ下の数値は平均値±標準偏差を示す.虎潜脳Lノ、乃、四およびコルチゾ「ル慶庶・表ト2に血清IGF-1、T3、T4およびコルチゾー ル濃度を示す。発育不良牛の血清IGF-1濃度は正常牛より有意に低かった。特にMEO系牛の血 清IGF-1濃度は正常牛の1/10であった。MHO系牛の血清T3濃度は正常牛より有意に低かった。 また、H∫K系牛の血清T3濃度は正常牛より低い傾向を示した。発育不良牛(MHO系牛とHSK系 牛)の血清T4濃度は、正常牛より低い傾向を示した。MHO系牛の血清コルチゾール濃度は、正常 牛より有意に低かった。血清コルチゾール濃度が検出限界の1.0叫釘dl以下であった例が、正常牛で は1/6頭、ESK系牛では2/5頭であったのに対して、MHO系牛では6/7頭であった。 〟打0虜牛と月蕊左虜牛の度数MIlO系牛とⅢSK系牛の発育関連ホルモンを比較すると、 MHO系牛の血清IGF-1、T3、T4濃度はHSK系牛より低かった。また、MHO系牛のGH-AUCo_600min はH∫K系牛より高い傾向を示した。 表1-2.供試牛3群間の血清IGト1、T3、T4およびコルチゾール濃度の比較. 項目 正常牛(肝6) MHO系牛匝=釘 ESK系牛匝=5) IGF-1濃度(n釘血1) 耶濃度(n釘ml) 刊濃度(帽血1) コルチゾール濃度(P釘dl) 314.7土197.2 31.1土20.7● 64.9 土47.6● 140.2 土21.3 73.9土51.9● 97.8 土40.7 5.8 土1.7 2.9土2.9 4.1士2.1 3.0士1.4 1.3士0.7● 1.g 士1.1 1)アスタリスクはMHO系牛またはHSK系牛と正常牛との間に有意差があることを示す(P<0・05)・ 2)数値は平均値土標準偏差を示す. 3)MHO系牛のコルチゾール濃度の測定は7頭行った・ 4)MHO系牛のコルチゾール値は低く、7頭中6頭は検出限界以下であった(<1・0帽旭)・ 5)検出限界以下のコルチゾール濃度は1.0膵/dlであった・ 煤星充遅率および執豪君居率と脳LJ慶度の鰍供試牛の体重充足率と体高充足率は、 血清IGF-1濃度と正の相関を示した(図ト4)。しかし、供試牛の体重充足率および体高充足率と血 清T3、T4およびコルチゾール濃度との相関は認められなかった。
(邑称嘆椙嘲せ (邑掛増昭博せ ◆ MHO系牛(IF8) ■HSE系牛(『5) △正常牛(n芸名) 0 200 400 600 0 200 400 600 血清IGF-1濃度(n釘ml) 血清IGF-1濃度(喝血1) 図ト4.供試牛の体重充足率(左)および体高充足率(右)と血清IGF-1濃度の関鼠供試牛(n=19)の体重充 足率または体高充足率と血清IGF-1濃度に正の相関が認められた. 考 察 臨床症状と血液および血液生化学検査の結果から、発育不良牛の健康状態は良好であると考 えられた。MHO系牛のヘマトクリット値は正常牛より低かった。また、MⅢ0系牛の赤血球数は、正常 牛と有意差がなかった。したがってMHO系牛は小球性貧血を呈していた可能性が考えられたが、 MHO系牛は可視粘膜蒼白、元気喪失、沈うつなどの貧血の症状を示さなかった。また、MHO系牛 のヘマトクリット値は正常値範囲内(24.0-46.0%)(45)にあったので、MHO系牛のヘマトクリット値 (27.4±2.4%)は臨床的に異常な値ではないと考えられた。一般に、慢性的な感染症が発育不良の 原因であると言われているが、この研究で用いた発育不良牛においては、発育不良の原因となる他 の要因が存在すると考えられた。 甲状腺機能低下症は、発育不良の原因の一つとして挙げられる(8,51)。東北地方および九州 で認められた黒毛和種牛の発育不良の原因として、家族性甲状腺機能低下症を挙げる研究者が
いる(34,36)。しかし、中部地方で認められた発育不良牛に甲状腺ホルモン刺激ホルモン放出ホル モン(TRH)刺激試験を行うと、甲状腺ホルモン濃度はTRH刺激に正常に応答した ので、発育 不良の甲状腺ホルモン濃度が低い原因は、甲状腺機能低下症ではなく、正常甲状腺症候群であり、 発育不良牛の甲状腺機能は正常であると報告されている(22)。また、甲状腺機能低下症の場合、 T3およびT4ホルモンが揃って低下するが、正常甲状腺症候群の場合、まず始めにT3濃度が低下 し、その後状態が悪くなるとT4濃度が低下すると言われている(51)。この研究で用いた発育不良 牛の血清T3濃度は正常牛より有意に低かったが、発育不良牛の血清T4濃度は正常牛と差がなか ったことは、発育不良牛の甲状腺ホルモンの低下は甲状腺機能低下症が原因ではないことを示唆 していた。加えて、発育不良牛は、発育不良の他には甲状腺機能低下症の症状を示さなかった。こ れらのことから、発育不良牛は甲状腺機能低下症ではなく、正常甲状腺症候群のために、血清T3、 T4濃度が低かったと考えられた。 GH濃度が高いのにも関わらず、IGF-1濃度が低いことが発育不良牛の内分泌的な特徴であっ た。このような高GH一低IGF-1のパターンを示す発育不良の原因となる内分泌疾患としては、GH分 子異常、GHレセプター異常であるラロン型壊小症、GHレセプター以降のIGF-1産生異常によるピグ ミー型壊小症などが考えられた(24,27,51)。これらGIlやIGF-1分泌の異常などの発育に関わる内 分泌疾患は、遺伝子異常であることが多い(51)と言われている。このような内分泌疾患をもたらす 遺伝子異常では、その遺伝子異常の表現型としてGH(GH-AUCo_600min)またはIGF-1分泌に一定 の傾向が認められる。発育不良牛は高GH一低IGト1のパターンを示したが、個々の発育不良牛をみ るとGH-AUCo_600minが極端に高い牛や血清IGF-1濃度が極端に低い牛が認められ、 GH-AUC。_6。0minまたは血清IGF-1濃度は個体間で大きく異なっていたので、発育不良牛の GH-AUCo_600minが高い傾向があったこと、または血清IGF-1濃度が低かったことは内分泌異常をもた らす遺伝子異常の表現型である可能性は低いと考えられた。したがって、遺伝子異常が主な原因で ある内分泌疾患は黒毛和種牛における発育不良の原因ではないと考えられた。 しかし、黒毛和種牛における発育不良の原因が非内分泌疾患であると言えるデータはまだない。 このため、第2節で発育不良牛の体格の特徴から発育不良の原因が非内分泌疾患であるかどうかを
検討することとした。 MHO系牛の内分泌パターンは、高GH一低IGF-1、低T3およびT4、低コルチゾールであり、 HSK系牛の内分泌パターンと類似していた。しかし、MHO系牛の血清IGF-1、T3、T4、コルチゾー ル濃度はHSK系牛より低く、GH-AUCo_600minはHSK系牛より高かった。また、MHO系牛の体重充 足率はHSE系牛より低い傾向にあったが、MⅢ0系牛とHSK系牛の体高充足率に差はなかったの で、MⅢ0系牛の体格はH∫K系牛の体格より削痩していることが示された。この体格の差は、MHO 系牛とHSK系牛の発育関連ホルモン動態の差、特に体重および体格の間に正の相関が認められた IGF_1濃度の差に関連している可能性が考えられた。黒毛和種牛では、肉質改良のため近交化が 進んでおり、近交係数が20%を超えることも珍しくはないので、近交化による肉質の特徴と同様に内 分泌的特徴が家系内で固定されたとしてもおかしくはない。これまでに、黒毛和種の発育不良の発 生は、家系または遺伝的な素因が関連すると言われている(23,34,36)。この研究で発育不良牛の内 分泌パターンや体格が家系間で異なる傾向が認められたことは、それらの主張を支持する可能性が あると考えられた。しかし、発育不良の発生と家系または遺伝的な素因が関連すると断言するために は、詳細な疫学調査や家系解析に基づくさらなる根拠が必要であると考えられた。
第2節 発育不良牛の体格と発育曲線 第1節では、黒毛和種牛における発育不良の原因が内分泌疾患であるのか、それとも非内分 泌疾患であるのかを発育関連ホルモンの動態から検討した。その結果、発育不良の原因は内分泌 疾患ではなく、非内分泌疾患である可能性が示唆された。発育不良の動物の体格は、その発育不 良の原因によって異なるため、第2節では発育不良牛の体格の特徴から発育不良の原因が非内分 泌疾患である可能性を検討した。 下痢や肺炎により早期に衰弱または死亡する虚弱牛の場合、早期の淘汰が可能である。しかし、 元気・食欲が正常である発育不良牛の場合、子牛市場へ出荷できないための経済的損失だけでなく、 正常発育を示さない牛を長期間飼育することで飼養費が重なり、発育不良による被害が拡大する場 合がある。これまでに発育不良牛の体重や体高を経時的に測定した報告はないので、下痢や肺炎 症状のない発育不良牛が認められた場合、その発育不良牛を飼い続ければ正常な発育を示すのか、 それとも一向に大きくならないのかは判断できない。この研究では、発育不良牛を長期間飼育し、毎 月の体重および体高測定の結果から、発育不良牛の体重および体高増加パターンを明らかをごした。 また、これまでに発育不良牛のIGト1濃度は正常牛より有意に低いと報告されている(17,23,53)の で、発育不良牛の発育とIGト1濃度の関係を検討し、IGト1は発育不良牛の発育を予測する因子、 つまり、肉用牛としての予後診断因子として有用かどうかを検討した。 材 料 と 方 法 免許牛ご 試験には下痢および肺炎症状を示していない黒毛和種の発育不良牛17頭(雄8頭、 雌8頭、去勢1頭)を用いた。また、供試前に、発育不良の原因となる尿細管形成不全(37∼3S)の 遺伝子診断と牛ウイルス性下痢粘膜病ウイルスの検出(44)を行い、発育不良牛がこれらの疾患を 持たないことを確認した。 煤富、座席およびJG声ノ慶庶発育不良牛を飼育し、臨床経過を観察した。発育不良牛の供 試開始月齢の平均は6.9±2.3か月齢であり、平均供試期間は6.1土4.2か月であった。供試牛の
体重および体高を1か月毎に測定し、日本飼料標準(18)に示されている黒毛和種牛の正常値に 対する体重および体高充足率を算出した。また、体重および体高測定目に抗凝固剤としてEDTAを 用いて採血し、血液検査(Celltac,MEK5258,日本光電,東京)を行った。また、血液検査用とは 別に採血し、得られた血液を4℃、3,000回転で10分間遠心して血清を分離した。血清をIGト1の 測定まで_80℃で保存した。発育不良牛の供試開始時および終了時における血清IGF-1濃度を IGF-1測定キット(SomatomedinCⅡBayer,ユかメディアス,茨城)で測定した。正常発育を示す 0.5_20か月齢の黒毛和種牛24頭(雄12頭、雌12頭)の血清IGF-1濃度を測定し、正常対照とし た。 結 果 発育不良牛は正常な食欲を示し、発咳、発熱、呼吸速迫などの肺炎症状や下痢を示さなかっ た。体重および体高の測定日における白血球数、赤血球数および血紫総タンパク濃度を図ト5に示 す。供試開始時に白血球数が14,500小1を示した発育不良牛が1頭いたが、その牛の臨床症状に 異常はなく、翌月の白血球数は6,500小1まで低下した。発育不良牛の赤血球数は、一時的に牛の 正常値(45)より高値を示す牛はいたが、常に高値を示す牛はいなかったロまた、血衆総タンパク濃 度が一時的に低値を示す牛はいたが、常に低値を示す牛はいなかった。 .6 J (一三もtX) ZO 00 凝徴召聴 0 5 10 15 20 〔〉 5 10 月齢 月齢 (苛\β惚癌へγ\ヽや畢欝屈 0 5 10 15 20 月l綜 図ト5.発育不良牛の白血球数(左),赤血球数(中央)および血焚総タンパク濃度(右)の変化・供試期間 を通じて,発育不良牛の一般状態は良好で,下痢や肺炎症状を示す発育不良牛は認められなかった・また,常に 異常な白血球数,赤血球数および血膜タンパ夕波度を示した牛はいなかった・色帯は牛の正常値(45)を示す・
発育不良牛の体重および体高の変化を囲1-6に示す。発育不良牛の全供試期間を通じた平均 体重充足率は、わずか31.7±6.7%であった。また、発育不良牛の平均日増体重は、全供試期間を 通じて0.29土0.10kgと、育成期における正常牛の目標目増体重Ot8∼1・Okg(1g)より低かったD 発育不良牛の全供試期間を通じた平均体高充足率は弧1士5.6%であり、正常の下限以下であっ た。発育不良牛の体型は、体重、体高共に小さい壕ノト型ではなく、体重充足率が正常牛の約1/3、 体高充足率が正常牛の約4/5と、体重に比べて体高が高い削痩型であった。 (茸)晒せ 0 0 0 0 6 5 20 20 図ト6.発育不良牛の体重(左)と体高の変化(右).色付部分は正常範囲を示す・発育不良牛の体重は供試期 間を通じて常に正常牛の約1/3であった.また,発育不良牛の体高は供試期間を通じて常に正常牛の約4/5であっ た.正常牛の上限および下限は日本飼料標準(18)から引用した. 発育不良牛の供試開始時と終了時における血清IGF-1濃度を図1-7に示す。正常牛と同様に、 発育不良牛の血清IGト1濃度は、月齢の増加に伴って上昇する傾向にあったが、供試開始時、終 了時共に正常牛より低かった。
(l長里応感t・』営磨烏 ハU O n> 0 0 0 4 3 2 0 5 10 15 20 月齢 図ト7.発育不良牛の血清IGF-1濃度の変化.発育不良牛の血清IGF-1濃度は,供試開始時,終了時共に正常 牛より低かった.△:正常雄牛(n=12)○:正常雌牛(n=12)▲:発育不良雄牛(n=5)●:発育不良雌牛 (n=6)■:発育不良去勢牛(n=1)・ 考 察 発育不良牛は、供試期間を通じて正常な食欲があったにもかかわらず、体重充足率は正常牛 の約1/3、体高充足率は約4/5と、常に削痩体型を示していた。ヒトにおいて、削痩型の発育不良は 栄養失調状態において特徴的であり(51)、体高に対する体重の比が正常に近い内分泌疾患による 発育不良とは異なる(51)。このように、発育不良牛が削痩体型を示したことと日増体重が同時期の 正常牛と比較して低かったことから、発育不良牛は飼料摂取を効率的に体重・体高の増加に反映で きない牛、つまり、食べてさせてもー向に大きくならない牛であることが示された。 一般に牛における発育不良の原因は、下痢や肺炎に起因する消耗であると言われている。しか し、この場合、原因となる疾患が除去され栄養供給が充分であれば、体重および体高が正常に近づ く、いわゆる"追いつき成長,,を示すことが知られている(Ⅰ6)。しかし、発育不良牛は下痢や肺炎がな く、食欲は正常であり、毎月の血液検査および聴診や触診などの臨床検査でも異常は認められなか
ったにもかかわらず、追いつき成長を示さなかった。したがって、発育不良牛を長期間飼育しても正 常発育を示さないことが示されたので、発育不良牛が認められた場合、被害を拡大させないために、 早期の淘汰が必要であると考えられた。 IGF-1は、成長を促進する主要な因子であり(50)、IGF-1濃度と体重には正の相関が認められ る(52)。また、発育期において体重が直線的に増加するためには、IGF-1濃度が高く維持されなけ ればならない(52)。しかし、発育不良牛の血清IGト1濃度は供試開始時、終了時共に正常牛より低 かった。したがって、発育不良牛のIGF-1濃度は、直線的な体重増加に必要な高い濃度で維持され ていないことが示された。このため、この研究で用いた発育不良牛のように、下痢や肺炎のような発育 不良の原因がなく、正常な食欲を示す発育不良牛であっても、IGF-1濃度が高く維持されていない 場合、その後、正常な体格に近づくことはないと考えられた。したがって、IGF-1は発育不良牛の肉用 牛としての予後診断因子として、有用であると考えられた。
第1辛のまとめ この章では、黒毛和種牛における発育不良の原因が内分泌疾患であるのか、それとも非内分泌 疾患であるのかを特定するために、第1節では、発育関連ホルモンの動態を、第2節では発育不良 牛の体格の特徴を明らかにした。加えて、第1節では発育不良牛における発育関連ホルモンの動態 が家系間で差があるかどうかを検討した。また、第2節では発育不良牛の肉用牛としての予後診断因 子としてのIGF-1の有用性を検討した。 発育不良牛は特徴的な高G払低IGト1パターンを示した。このパターンをもたらす内分泌疾患 として、GHの分子異常、GHレセプター異常、GHレセプター以降のIGF-1産生異常が考えられた。 このような発育不良をもたらす内分泌疾患は、遺伝子異常であることが多く、表現型としてGHまたは IGF-1分泌に一定の異常が認められる。しかし、発育不良のGH-AUC。_600minやIGF-1濃度は個体間 で大きく異なっていたので、GH-AUCo_600minが高いこと、または血清IGF-1濃度低いことが内分泌疾 患をもたらす遺伝子異常の表現型である可能性は低いと考えられた。このことから、遺伝子異常が主 な原因である内分泌疾患が黒毛和種牛の発育不良の原因である可能性は低いと考えられた。 内分泌疾患による発育不良の場合、体高に対する体重の比が正常に近く、均整の取れた体格 を示す。しかし、発育不良牛は、非内分泌疾患、特に栄養失調において特徴的に認められる削痩型 の体型を示したので、発育不良の原因は非内分泌疾患である可能性が高いと考えられた。また、下 痢や肺炎などの発育不良の原因となる消耗性疾患がなかったにもかかわらず、発育不良牛の日増 体重は約0.3kgと低かった。このことは、発育不良牛は摂取した飼料を効率よく体重・体高の増加 に反映できない牛、つまり、食べさせてもなかなか大きくならない牛である可能性を示していた。 これら発育関連ホルモンの動態および発育不良牛の体格の特徴から判断すると、黒毛和種の 発育不良の原因は、非内分泌疾患であると考えられた。 発育不良牛は、血清IGF-1、甲状腺ホルモンおよびコルチゾール濃度が低く、GH-AUCo_600min が高いという特徴的な内分泌パターンを示した。発育不良牛を2つの家系で比較すると、MHO系牛、 HSK系牛共に同じ分泌パターンを示したが、MHO系牛の血清IGト1、甲状腺ホルモン、コルチゾー ル濃度はHSK系牛より低く、また、MHO系牛のGH-AUCo_600minはHSK系牛より高いことが示され
た。このことから、発育不良牛の発育関連ホルモンの動態は、父系家系間に差があることが明らかに なり、発育不良の発生と家系、または遺伝的素因に関係がある可能性が示唆された。 発育不良牛は長期間飼養しても正常な体格に追いつく、いわゆる"追いつき成長Mを示さなかっ た。また、発育不良牛の血清IGF-1濃度は、供試開始時、終了時共に正常牛より低かった。このこと は、発育不良牛では、発育期に高い値で維持されなければならないIGF-1濃度は高く維持されてい ないことを示していた。このような発育不良牛の場合、追いつき成長を示さず、発育不良牛の肉用牛 としての予後は悪いと考えられた。したがって、IGト1は発育不良牛の肉用牛としての予後診断因子 として有用であると考えられた。
第2キト発育不良牛の飼料摂取 第1節では、黒毛和種牛における発育不良の原因は非内分泌疾患であることが示された。また、 食欲があり、下痢や肺炎症状のない発育不良牛を長期間飼育しても、正常発育を示さないことが明 らかになった。このような、食欲があり、下痢や肺炎症状のない動物における発育不良の原因となる 非内分泌疾患としては、1)飼料組成の異常、2)飼料摂取(採食量と消化率)の低下、3)吸収異 常、4)肝臓での代謝異常などが考えられた。これまでの報告で、発育不良牛の食欲は正常であると されている(23)。しかし、これらの報告における食欲は、主観的な食欲であって、飼養学的な手技を 用いて定量的に測定した採食量ではない。したがって、発育不良の原因を検討するための基本事項 として、発育不良牛が正常発育に充分な量を食べているのか、また、それらの飼料は正常に消化さ れているのかを検討する必要があった。この章では、消化試験を行い、飼料摂取の低下が発育不良 の原因であるかどうかを検討した。 材 料 と 方 法 好評牛発育不良牛4頭(雄1頭、雌3頭、平均12.0土3.3か月齢)を供試した。正常発育を 示す黒毛和種の去勢牛6頭(平均13.6士1.8か月齢)を正常対照とした。供試前に、発育不良の原 因となる尿細管形成不全(37∼3S)の遺伝子診断と牛ウイルス性下痢粘膜病ウイルスの検出(44)を 行い、発育不良牛がこれらの疾患を持たないことを確認した。また、発育不良牛は発咳、鼻汁、呼吸 速迫などの肺炎および下痢の症状はなく、発育不良の原因となる疾患は見当たらなかった。 廊群風評射び翻身各供試牛の全糞を採取するため、供試牛を代謝ケージ(図2-1) に入れて飼育した。試験に先立って、供試牛を代謝ケージと飼料に馴らすための期間(馴致期間) を7日間設け、その後の7日間を供試期間とした。供試牛に給与した飼料の養分含有量を表2-1に、 飼料給与量と給与飼料の成分構成を表2-2に示す。供試牛の飼料給与量は、日本飼養標準(柑) に基づき、粗タンパク(CP)および代謝エネルギー(ME)が日増体重0.6kgを満たすように設定し た。日本飼養標準では、体重150kg以下の牛は哺乳子牛として扱われている。しかし、供試した発
育不良牛は、すでに離乳しているので、発育不良牛を肉用種去勢肥育牛または育成雌牛として養 分要求量を算出した。発育不良牛の体重に合わせて、′ト麦ストロー0.5-0.7kg、小麦ふすま0・6-0・8 kg、配合飼料(NRフォー,協同飼札横浜)2.4-3.5kgを朝(8時30分)、夕(16時30分)に 分けて給与した。水と鉱塩(固形カウストン,日本全薬,福島)は自由摂取とした。食べ残した飼料 を飼料給与前に回収し、その重量を測定した。給与した飼料量と残飼量の差を採食量とした。 図2_1.消化試験風景.供試牛を代謝ケージで飼育し,試験期間中(7日間)の全糞を採取した・摂取した飼料 成分と排泄した糞成分から消化率を算出した, 表2-t.給与飼料中の養分含有量. 栄養成分 配合飼料 小麦ふすま 小麦ストロー 乾物(%) 87・g 88・4 有機物(%) 96・7 94・5 粗タンパク(%) 11・7 17・3 中性デクージェント繊維(%) 19.9 43.0 酸性デタージェント繊維(%) 7.9 13.2 粗繊維(%) 5▲6 9・5 粗脂肪(%) 3・8 5・3 灰分(%) 3・3 5・5 非繊細性炭水化物(%) 引.4 2写・8 総エネルギー 24.0 25.0
表2-2.供試牛の飼料給与量と給与飼料の成分構成. 給与量(kg)体重あたりの給与i(%BW)構成比(%) 給与i(短) 体重あたりの給与皇(%BW) 構成比(%) 料 `.00 1.62士0.22 57.14 2.90 土0.5$ 小麦ふすま 1.50 0.41士0.α56 14.29 0.00 土0.16 小麦ストロー 3.00 0.81土 0.11 28.57 0.`0 土0.12 総量 10・.50 2.84土0.}9 100.00 4.10 土0.73 2.10 士 0.082 70.54 士 3.05 0.44 土 0.12 14.84 土 3.87 0.44 土 0.023 14.62 土 0.$7 2.98 土 0.029 100.00 重が0.6kgとなるための乾物亀 タンパク および代謝エ たすように設計した. 2)日本飼養標準では,体重150kg以下の牛は哺乳子牛として扱われている.しかし,この試験に用いた発育不良牛は,すでに離乳している ため,発育不良牛を肉用種去勢肥育牛または育成雌牛として養分要求量を算出した. 3)数値は平均値土標準偏差を示す. 正常牛に、小麦ストロー3.Okg、小麦ふすま1.5kg、配合飼料6.Okgを、発育不良牛と同様に、 朝夕に分けて給与した。しかし、正常牛では馴致期間において残飼量が多かった。給与頻度は消化 率に影響しない(46)ので、正常牛の採食量を増やすために、飼料給与を8時、12時、16時および 20時の1日4回とした。 蒼の靡靡ご 供試牛が試験期間中に排泄した全ての糞を採取した。発育不良牛が排泄した糞を 13時、16時30分、20時および翌朝の給餌前($時)に回収した。糞の成分を均一にするために、 プラスチックコンテナに集めた1日分の糞を混合し、その内の約500gを採取した。分析までサンプル を-30℃で保存した。正常牛においては、排泄した糞をS時から24時まで1から2時間毎、翌朝6 時と8時に回収した。発育不良牛と同様に1日分の糞を混合し、その内の約500gを採取し、-30℃ で保存した。試験終了後、各供試牛の7日分の糞を混合し、その内の約500gを分析試料とした。 成分分節および汐倍率の昇叙・飼料および糞中の乾物(DM)、灰分(Asb)、粗脂肪(EE)、 CP、中性デタージェント繊維(NDF)、酸性デタージェント繊維(ADF)および総エネルギー(GE) 含有量をAssociationofOfncialAnaliticalChemists(2)の方法に従って測定した。有機物(OM) および非繊維性炭水化物(NFC)は、OM(%)=100-AshおよびNFC(%)=OM-(CP+NDF+ EE)から算出した。また、各成分の消化率は、消化率(%)=(1-(糞中含有量/飼料中含有量)) ×100から算出した。Mann-WhitneyのU検定を用いて2群間の差を解析し、P<0.05を有意とした。
結 果 腐食鼻 飼料成分および採食量を表2-3に示す。正常牛は濃厚飼料(配合飼料+小麦ふす ま)および小麦ストローを食べきれず、全量で6.36土0.77kg、濃厚飼料を5.43土0.63kg-、小麦ストロ ーを0.93土0.26kg摂取した。発育不良牛は給与した小麦ストローを少量残したが、濃厚飼料は完食 した。発育不良牛は、全量で3.47士0.63kg、濃厚飼料を3.04土0.59kg、小麦ストローを0.44士0.06 kg摂取した。 表2-3.供試牛の飼料成分および採食量. 項目 正常牛(n=`) 発育不良牛(n=4) 乾物摂取量(k釘頭) 総摂取量 濃厚飼料(配合飼料+小麦ふすま) 小麦ストロー 要求量に対する充足率(%) CP M五 体重あたりの乾物摂取量(%) 総摂取量 6.36 土 0.77 5.43 士 0.63 0.93 士 0.26 125.2 土14.$ 8`.3 土11.6 1.72 士 0.28 3.47 土 0.63 3.04 土 0.59 0.44 土 0.06 119.0 土 7.$ 118.8 士 6.7 2.52 土 0.05 濃厚飼料(配合飼料+小麦ふすま) l.47 士0.27 2.20 土0.08 小麦ストロー 0.25 士 0.06 0.32 土 0.04 濃厚飼料(配合飼料+小麦ふすま)/小麦ストロー比 6.19 土1.74 石.99 土1.加 1)発育不良牛は,日増体重0.蝕gに対するCPおよびME要求量を満たす採食量を示した.しかし,正常牛の採食量は,同日標増体重に対す るCP要求量を満たしていたが,ME要求量を満たしていなかった. 2)発育不良牛の体重あたりの乾物摂取量は,総摂取量,濃厚飼料および小麦ストローにおいて,正常牛より多かった. 3)発育不良牛の濃厚飼料/小麦ストローの比は,正常牛と差がなかった. 4)数値は,平均値土標準偏差を示す. 残飼中の配合飼料と小麦ふすまを分けて計量できないので、正常牛の配合飼料と小麦ふすま 摂取比を給与と同じ4:1として正常牛のCPとMEの充足率を算定すると、正常牛は日増体重0.6kg を満たすCP(濃厚飼料中の配合飼料と小麦ふすまの比から推定すると平均125.2土14.$%)を摂取 したが、日増体重0.6kgに必要なMEを摂取していなかった(同推定で平均S6.3土11.6%)。発育 不良牛は日増体重0.6kgに対するCP要求量を平均119.0土7.8%、ME要求量を平均118.8土6.7% 摂取していた。 正常牛の体重あたりの乾物摂取量は平均1.72土0.28%であった。一方、発育不良牛の体重あ たりの乾物摂取量は平均2.52士0.05%であった。正常な黒毛和種牛の体重あたりの乾物摂取量は、 1.4∼3.0%(18)であるので、発育不良牛の採食量は正常の範囲内であった。 体重あたりの正常牛の採食量は発育不良牛より少なかったが、濃厚飼料と小麦ストローの構成
比(濃厚飼料/小麦ストロー比)は、発育不良牛(平均6.99土1.20)と正常牛(平均6.19土1.74)と の間に差がなかった。 好掛率 発育不良牛と正常牛のDM、OM、CP、NDF、ADF、EE、NFCおよびGEの消化率を 図2-2に示す。正常牛の平均消化率は、DMで70.5土1.2%、OMで72.1士1.3%、CPで62.6士 3.0%、NDFで43.5士4.3%、ADFで31.9士5.6%、EEで69.9j=4.0%、NFCで93.8土1.3%、GE で70.0土2.2%であった。発育不良牛の平均消化率は、DMで73.1土1.9%、OMで74.0土1.S%、 CPで64.0土2.7%、NDFで47.8士4.1%、ADFで41.4土3.5%、EEで71.9土5.2%、NFCで90.1士 Ⅰ.6%.、GEで70.9土2.0%であり、正常牛との間に有意な差はなかった。 (求) 掛空蛮 0 0 8 7 0 0 6 5 DM OM CP NDF ADF EE NFC GE 図2-2.正常牛と発育不良牛の消化率.□:正常牛(n=6),■:発育不良牛(n=4).正常牛と発育不良牛の各成 分の消化率において差はなかった. 考 察 正常発育の黒毛和種牛の標準的な乾物摂取量は、体重の1.4-3.0%と言われている(1S)。この研 究に用いた発育不良牛は、体重1kgあたり平均2.52土0.05%の乾物を摂取し、正常な採食量を示し た。また、日増体重0.6kgに対する養分充足率も、CPおよびME共に正常発育に充分であった。こ れらの結果から、発育不良牛は正常な採食量を示し、採食量の低下が発育不良の原因ではないと
考えられた。 牛の消化率には2つの飼料側の因子が影響する。第1に飼料組成(5,28∼29,46∼47,54)、第2 に採食量である(6,10,40)。粗飼料摂取の割合が増えるほど、粗飼料は濃厚飼料より硬く、消化しに くいために、消化率は低下する。しかし、発育不良牛と正常牛の濃厚飼料/ストロー比には差がなかっ たため、飼料組成が発育不良と正常牛の消化率にもたらす影響はないと考えられた。 発育不良牛は正常牛より体重あたりの採食量は多かった。採食量が多くなれば、消化率は低下 すると言われている(46)。したがって、この研究で得られた発育不良牛と正常牛の各成分の消化率 の結果は同じであっても、発育不良牛の採食量は正常牛より多かったため、実際の発育不良牛の消 化率は正常牛より高い可能性が考えられた。 このように、牛の消化率に影響を与える飼料側の因子(飼料組成と採食量)を考慮しても、発育 不良牛の消化率は正常牛より高くなることはあっても、発育不良の原因となるほど低くなることはない。 したがって、食欲があり、下痢や肺炎症状のない動物における発育不良の原因となる非内分泌疾患 である1)飼料組成の異常、2)飼料摂取(採食量と消化率)の低下、3)吸収異常、4)肝臓での代 謝異常などのうち、飼料組成の異常および飼料摂取の低下を黒毛和種牛の発育不良の原因から除 外できた。 また、発育不良牛の吸収機能に異常があるとは考えにくい。発育不良牛の吸収機能が正常であ ると言うためには、門脈血(31)の分析が必要である。しかし、この試験で調べた消化率とは、飼料 中のある成分が消化管を通過する過程で、どれだけ消失したかを示す値であり、飼料中のある成分 が消化管を通過する過程で吸収されずに消失することはないので、発育不良牛は消化機能だけで なく、吸収機能も正常であると考えられた。したがって、黒毛和種牛の発育不良の原因は、肝臓での 代謝異常である可能性が高いと考えられた。
第2手のまとめ 第1、章で発育不良牛の原因として非内分泌疾患に着目した。肺炎や下痢などの慢性疾患以外の 非内分泌疾患による発育不良の原因は、1)飼料組成の異常、2)飼料摂取(採食量と消化率)の 低下、3)吸収異常、4)肝臓での代謝異常などが考えられた。これまでの報告で、黒毛和種の発育 不良牛の食欲は正常であったとされているが、この食欲は主観的であり、定量的な採食量ではない。 したがって、発育不良牛の代謝・内分泌学的な特徴を検討する前に、発育不良牛は正常な飼料摂 取があることを定量的に検証する必要があった。 この章では消化試験を行い、発育不良牛の採食量と消化率を検討した。その結果、発育不良牛 は、正常発育に充分な採食量および消化率を示したので、飼料摂取の低下は発育不良の原因では ないことが明らかになった。また、この研究で求めた消化率、すなわち飼料成分の消失率が正常であ るにもかかわらず、吸収機能に異常があるとは考えにくいため、発育不良の原因は肝臓での代謝異 常である可能性が高いと考えられた。
葉音章:!腋育不良牛の栄♯評価 下痢や肺炎のない牛の非内分泌疾患による発育不良の原因として、1)飼料組成の異常、2) 飼料摂取(採食量と消化率)の低下、3)吸収異常、4-)肝臓での代謝異常などが考えられたが、第 2章で発育不良牛の飼料摂取は正常であった。また、発育不良牛の吸収機能に異常がある可能性 は低いと考えられたので、発育不良の原因は肝臓での代謝異常であると考えられた。 第1節では、a)エネルギー代謝、b)タンパク代謝、C)ミネラル代謝、d)ルーメンコンディション をプロファイル項目として設定し、いずれの項目が発育不良の原因に関与しているのかを明らかにす るために代謝プロファイルテスト(1,4,20,39)を行った。その結果、発育不良牛のエネルギー代謝に 着目した。第2節では発育不良牛のエネルギー代謝状態を明らかにするために負荷試験を行った。 羊1節代謝プロファイルテスト 代謝プロファイルテストとは、飼料として摂取した各栄養成分(input)と搾乳牛における牛乳生 産、育成牛における発育、繁殖牛における胎子の成長や妊娠の維持などの生産のために消費した 各栄養成分(outp山)のバランスを血液性状から評価する試験である(4ト42)。この試験は、通常、 産後起立不能症、繁殖障害、ケトーシスなどの生産病に陥る前の代謝の乱れを検出し、適切な飼養 管理を行うことを目的に行われている。発育不良牛の場合、inputに当たる採食量および消化率は正 常であるにもかかわらず、0山putに当たる発育に異常がある。そこで、発育不良牛に与える飼料を整 え、発育不良の原因となる要因が飼料摂取(input)不足である可能性を除外する。このように発育 不良牛の飼料摂取(inpnt)を整えた上で代謝プロファイルテストを行えば、発育不良牛の原因とな っている異常が、プロファイル項目として設定するa)エネルギー代謝、b)タンパク代謝、C)ミネラル 代謝、d)ルーメンコンディションのいずれに関与しているかを明らかにすることができる。この節では、 一般に乳牛の飼料評価として用いられる代謝プロファイルテストを発育不良牛に応用し、発育不良
牛の原因となっている異常が上記aトd)の内、どの項目に関与しているかを検討した。 材 料 と 方 法 好評牛・黒毛和種の発育不良牛S頭(雄5頭、雌2頭、去勢1頭、平均10.2土1.7か月齢)を 供試した。発育不良牛の体重は、正常牛の平均35.3土7.6%であった(18)。発育不良の原因となる 尿細管形成不全(37∼38)の遺伝子診断と牛ウイルス性下痢粘膜病ウイルスの検出(44)を行い、 発育不良牛がこれらに羅患していないことを確認した。発育不良牛の飼料を日増体重が0.6kgとな るように設計した。一般農場で育成された健康な黒毛和種牛10頭(去勢牛、平均11.5土0.9か月 齢)を正常対象とした。 御ファイルテヌ入代謝プロファイルテストが正確な栄養状態を反映するには、1か月間の 飼養が必要であるので(41)、目標増体重0.6kgの設計飼料下で1か月間、発育不良牛を飼育した 後に代謝プロファイルテストを行った。代謝プロファイルテストのための血液採取は、朝の給餌4時間 後に行った。供試牛の頚静脈から採血し、得られた血液を4℃、3,000回転で10分間遠心して血清 を分離した。また、正確な乳酸測定値およびアンモニア測定値を得るために、これらの測定用血祭の 除タンパク処理を行った。全血を採取後直ちに0.8N過塩素酸(DeterminerLA,協和メディックス, 東京)と1:1で混和し、4度で3,000回転5分間遠心して乳酸測定用の血紫を分離した。また、全血 とタングステン酸ナトリウムリン酸含有除タンパク液(アンモニアーテストワコー,和光純薬,大阪)を 4:1で混和し、4℃で3,000回転5分間遠心してアンモニア測定用の血祭を分離した。全てのサンプ ルは、測定まで-80℃で保存した。正常牛の採血は、発育不良牛の採血と同じ時期(2005年1月)、 時刻(給餌後4時間)および手技で行った。 プロファイルテストは、4つの項目、すなわちa)エネルギー代謝、b)タンパク代謝、C)ミネラル代 謝、d)ルーメンコンディションに関して行った。a)エネルギー代謝の指標にはグルコース濃度、遊離 脂肪酸(FFA)濃度、β-ヒドロキシ酪酸濃度、アセト酢酸濃度、低比重リポタンパク質(LDL)コレステ ロール濃度および総コレステロール濃度、b)タンパク代謝の指標には尿素窒素濃度、アルブミン濃 度および血紫アンモニア濃度、C)ミネラル代謝の指標にはカルシウム濃度および無機リン濃度、d)
ルーメンコンディションの指標には血渠アンモニア濃度および血紫乳酸濃度を用いた。血祭アンモニ ア濃度はアンモニア測定キット(AmmoniaMicroplateReader,日本モレキュラーデバイス,東京)で 測定した。その他の項目は、オートアナライザー(Clinicalanalyzer7710,日立ハイテク,東京)で測 定した。StudentのJ検定を用いて2群間の差を解析し、P<0.05を有意とした。 結 果 発育不良牛は良好な食欲を示し、飼育期間を通じて給与飼料をほぼ完食した。発育不良牛の乾 物摂取量は2.7-4.1%(平均3.1%)であり、日増体重0.6kgのためのCPおよびME要求量を100% 以上満たしていた。 代謝プロファイルテストの結果を表3-1に示す。発育不良牛において、エネルギー代謝の指標で ある血清グルコース、FEAおよび総コレステロール値は正常牛と差がなかったが、発育不良牛のケト ン体(アセト酢酸とβ-ヒドロキシ酪酸)濃度は正常牛より有意に高かった。また、発育不良牛の血清 LDLコレステロール濃度は正常牛より有意に低かった。タンパク代謝において、発育不良牛の血清 尿素窒素濃度は正常牛より有意に高く、発育不良牛の血清アルブミン濃度は正常牛より有意に低か った。また、血祭アンモニア濃度は、発育不良と正常牛において差がなかった。ミネラル代謝の指標 である血清カルシウムおよび無機リン濃度は、発育不良および正常牛において差がなかった。また、 ルーメンコンディションの指標である血祭アンモニアおよび乳酸濃度は発育不良と正常牛において差 がなかった。
表3-1.供試牛における代謝プロファイルテスト 項目 正常牛 発育不良牛(肝瑠) 月齢(月) グルコース濃度(m釘dl) FFA濃度(pEq/1) 総コレステロール濃度(mg旭) アセト酢酸濃度(岬M肌) β-ヒドロキシ酪酸濃度(PmO∽) LDLコレステロール濃度(m釘( 尿素窒素濃度(m針山) アルブミン濃度(♂dり アンモニア濃度(ト釘d) カルシウム濃度(m釘dl) 無機リン濃度(m釘dl) 乳酸濃度(m少dl) 1l.5 土 0.9 84.8 士 3.3 84.6 土 29.0 104.5 土 22.1 10.0 土 4.7 363.3 土140.0 9.3 土 3.1 9.4 土 4.0 3.6 土 0.2 83.g 士 30.6 10.3 土 0.3 7.3 土 0.4 13.6 土 3.4 10.2 土1.7 S6.6 土 5.5 91.8 土 31.5 9仇3 土13.4 19.5 士 4.4■■ 544.9 土 S9.4… 5.8 土1.5* 19.4 土 3.5*■ 3.1 土 0.3** 69.3 土 4.6 10.0 土 0.3 7.0 土 0.9 19.6 土16.1 1)アスタリスクは,発育不良牛と正常牛との間に有意差があることを示す;■:P<0.05,■■:P<0.Ol. 2)数値は平均値土標準偏差を示す. 考 察 代謝プロファイルテストにおける発育不良牛の特徴的なパターンは、飼料摂取の指標である血 清グルコース、FEAおよび総コレステロール濃度が正常牛と差がないにもかかわらず、血清βヒドロキ シ酪酸とアセト酢酸濃度、すなわちケトン体濃度が有意に高いことであった。これは、飼料摂取は良 好であるにもかかわらず、発育不良牛はケトン血症であることを示している(41)。ケトン血症は肝臓で の処理能力を超える長鎖脂肪酸の流入、すなわちアセチルーCoAがTCAサイクルに入ることが困難 であることを意味している(55)。このような状態はエネルギー不足に由来する、またはエネルギー不 足の原因となる(55)と考えられ、発育不良牛はエネルギー不足の状態にあることが示唆された。 発育不良牛の血清尿素窒素濃度は、正常牛より有意に高かった。尿素窒素濃度を上昇させる 原因として、短期間の濃厚飼料・高タンパク食の給与またはエネルギー不足が考えられる(55)。また、 発育不良牛の血清アルブミン濃度は低かった。アルブミン濃度は長期のタンパク代謝を反映する (55)指標であり、アルブミン濃度を低下させる要因としては、給与飼料中のタンパク不足と肝機能の 低下が挙げられる(55)。しかし、この研究では、代謝プロファイルテストの結果を安定させるために発 育不良牛を設計飼料下で1か月間飼育しているので、尿素窒素濃度を上昇させる要因およびアル
ブミン濃度を低下させる要因が、給与飼料組成の変化にあるとは考えられない。したがって、ケトン血 症が示唆するエネルギー不足の状態が、尿素窒素濃度の上昇ならびにアルブミン濃度の低下をもた らしたと考えることが妥当である。つまり、このエネルギー不足の状態が、糖新生を活性化させるため にタンパク異化を完進させた(42)結果、発育不良牛の尿素窒素濃度は正常牛より有意に高くなっ た(42)と考えられた。また、このタンパク異化の克進は、アルブミンやアポリポタンパク合成の材料不 足をもたらし、アルブミン濃度およびLDLコレステロール濃度の低下を引き起こしたと考えられた。 発育不良牛のミネラル代謝の指標となる血清カルシウムおよび無機リン濃度は、正常牛と差が なかった。また、発育不良牛のルーメンコンディションの指標となる血祭アンモニアおよび乳酸濃度は 正常牛と差がなかった。したがって、発育不良牛のそれらの機能は正常であると考えられた。
策2節負荷試験 第1飾の代謝プロファイルテストでは、発育不良牛がエネルギー不足の状態にあることが示唆さ れた。そこで、第2節では発育不良牛のエネルギー状態を明らかにするために、第2節1では肝蔵 でのグルコース吸収、グルコース利用およびインスリン分泌を評価するグルコース負荷試験を、第2 節2ではインスリン感受性を評価するインスリン負荷試験を、さらに第2飾3ではプロピオン酸および アルギニンに対するインスリンとグルカゴンの分泌比からエネルギー状態を評価するプロピオン酸負 荷試験とアルギニン負荷試験を行った。 1.グルコース負荷試験 グルコースは体組織の最も一般的なエネルギー源であり、その利用効率は妊娠、泌乳などの生 体の状態によって変化する。第1章で、発育不良牛は長期間飼育しても正常発育を示さず、日増体 重は0.3kgと正常牛より低かったことから、摂取したエネルギーが効率良く利用されていないことが示 された。また、第3章l節で、発育不良牛はエネルギー不足の状態にあることが示唆された。このよう なエネルギー不足の場合には、速やかにエネルギー源であるグルコースを細胞内へ供給する必要が あるので、グルコース利用効率は克進している(11)。そこで、発育不良牛のエネルギー利用効率を 検討するために、グルコース負荷試験を行った。 また、牛において、インスリン分泌が低い場合には、エネルギーとなるグルコースの蓄積が効率 的に行われず、肥育や発育に適さない(49)ことが知られているので、グルコース負荷試験に対する 発育不良牛のインスリン分泌を評価した。 材料と方法 銘計牛 黒毛和種の発育不良牛5・頭(雄2頭、雌}頭、平均7.6士1.6-か月齢)・を供試した。
正常発育を示す黒毛和種牛4頭(雌3頭、去勢1頭、平均10.5士0.暴か月齢)を正常対照とした。 供試した発育不良牛の一般状態は良好であった。また、供試前に、発育不良の原因となる尿細管形 成不全(37∼3釘の遺伝子診断と牛ウイルス性下痢粘膜病ウイルスの検出(44)を行い、発育不良 牛がこれらの疾患を持たないことを確認した。 クル′コース負荷線グルコース溶液(50%グルコース液,テルモ,東京)1.Om比gを頚静脈 から投与した(19)。供試牛の血液をグルコース投与直前、投与後5、15、25、35、45、60および120 分に頚静脈からヘパリン処理したシリンジで採取した。得られた血液を4℃、3,000回転で10分間遠 心して血祭を分離した。血衆をグルコースとインスリン濃度の測定まで-80℃で保存した。グルコース 濃度をドライケミストリー法(FDC3500V,富士メディカルシステム,東京)で測定し、インスリン濃度 を牛インスリン湘定キット(MercodiaBovineInsulinELISA,Uppsala,スウェーデン)で測定した。 屠蘇 グルコース負荷に対するインスリン分泌の指標として、インスリン濃度曲線下面積(インスリ ンーAUCo_12。nin)を算出した。また、供試牛のグルコース利用効率を検討するために、グルコース半減 期(Tlr2)を算出した。Mann-WhitneyのU検定を用いて2群間の差を解析し、P<0・05を有意とした。 結 果 グルコース負荷試験における血衆グルコースとインスリン濃度の変化を図3-1に示す。発育不 良牛、正常牛共に、グルコース投与後5分で最大血祭グルコース濃度を示し、その後、徐々に低下 した。発育不良牛の血祭グルコース濃度は正常牛より低かった。特にグルコース投与後5、15、25、 35、45分の血祭グルコース濃度は正常牛より有意に低かった。 発育不良牛のグルコース負荷に対するインスリン分泌は正常牛より低かった。発育不良牛の血 祭インスリン濃度はグルコース投与に反応して、投与後25から35分で最大を示した。一方、正常牛 の血祭インスリン濃度は投与後15分で最大となった。発育不良牛の最大血紫インスリン濃度は正常 牛の約2/3であった。発育不良牛の血紫インスリン濃度は試験を通じて正常牛より低く、特に投与前 と投与後60および120分の血祭インスリン濃度は正常牛より有意iこ低かった。
600 相 川 卸 皿 (t勺も旦世態咋1nミも螺眉 0 20 40 60 80 100 120 時間(mh)
(一息旦世態ヽユK∴ヽ蛙眉
0 20 40 60 80 100 120 140 時間(mh) 図3-1.グルコース負荷試験における血兼グルコース(左)およびインスリン(右)濃度の変化.発育不良牛の血躾 グルコース濃度は試験を通じて,正常牛より常に低かった.また,グルコース負荷試験に対する発育不良牛の血衆イ ンスリン分泌も試験を通じて正常牛よりも低かった.0:正常牛の平均値(n=4)●:発育不良牛の平均値(n=5) ■:アスタリスクは,発育不良牛と正常牛との間に有意差があることを示す(P<0.05).バーは標準偏差を示す・ 発育不良牛と正常牛のグルコース投与前の血衆インスリン濃度、最大血衆グルコース濃度、イ ンスリンーAUCo_120minおよびグルコース半減期を表3-2に示す。発育不良牛のグルコース投与前の血 紫インスリン濃度は正常牛より有意に低かった。発育不良牛の最大グルコース濃度は正常牛の約 2/3と有意に低かった。発育不良牛のインスリンーAUC。_120minは正常牛より有意に低かった。また、発 育不良牛のグルコース半減期は正常牛と差がなかった。 表3_2.グルコース負荷試験における投与前血祭インスリン濃度、最大血祭グルコース濃度、インスリンーAUCo_120nin およびグルコース半減期. 正常牛(n〒4) 発 不良牛(肝弓) 投与前血祭インスリン濃度(ng/ml) 最大血祭グルコース濃度(mg/dl) インスリンーAUC。_12。血(min・ng/mI) グルコース半減期(min) 0.6 土 0.1 4g7.0 土 71.2 345.5 土 61.0 33.9 土 9.4 0.3 土 0.1■ 321.4 土 34.0* 212.4 士 65.4* 29.6 士 4.6 1)アスタリスクは,発育不良牛と正常牛との間に有意差があることを示す(P<0.05). 2)数値は平均値土標準偏差を示す.考 察 発育不良牛のグルコース投与前の血祭インスリン濃度は正常牛より有意に低かった。インスリン 濃度は飢餓や悪疫質などエネルギー状態が悪化したときに低下する(32)。実際、牛を長期間絶食 させるとインスリン濃度が低下すること(48)や泌乳期のホルスタインにおいてインスリン濃度が低いこ と(49)が知られている。発育不良牛のグルコース投与前の血衆インスリン濃度が低かったので、発 育不良牛がエネルギー不足の状態にあることが考えられた。 グルコース負荷試験において、発育不良牛、正常牛共に体重1kgあたり等量のグルコースを投 与したにもかかわらず、発育不良牛の最大グルコース濃度は正常牛の約2/3と低かった。このことは、 発育不良牛の肝臓でのグルコース吸収の克進、すなわちグルコース利用効率の克進を示しており、 発育不良牛がエネルギー不足の状態にあること示唆している。なぜならば、エネルギー不足の状態 では、肝臓のグリコーゲン貯蔵量は低下しており、このような状態で大量のグルコースを負荷した場合 には、負荷したグルコースは速やかに肝臓にトラップされるので、血中のグルコース濃度の上昇は抑 えられるからである。 発育不良牛のインスリン分泌は正常牛より低かった。この原因として、発育不良牛のグルコース 濃度が正常牛より低かったことが考えられた。つまり、インスリンはグルコース刺激を介して膵臓から分 泌される(11)ので、発育不良牛のインスリン分泌は、正常牛より低いグルコース刺激に応答した結 果、正常牛より低い値を示したと考えられた。 グルコース負荷試験においてグルコース利用効率を評価する指標として、グルコース半減期が ある。グルコース半減期はグルコース負荷に対して分泌されたインスリンによる血中グルコース濃度低 下速度を評価する指標である(19)。この研究の発育不良牛の最大グルコース濃度とインスリン分泌 は正常牛より低かった。このため、発育不良牛と正常牛の間でグルコース半減期の比較はできず、発 育不良牛のグルコース半減期が正常であるかどうかは判断できなかった。