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両側外転麻痺を主徴とした多発性神経炎の1例

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Academic year: 2021

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180 (東女医大誌第54巻 第10

)

頁 1074-1077昭和59年10月

両側外転神経麻輝を主徴とした多発性神経炎の

1

東京女子医科大学脳神経センター 神経内科学教室〔主任:丸山勝一教授〕 アイカワ タ カ シ カツラ ヒラマツ

相 川 隆 司 ・ 桂 み ど り ・ 平 松 ま き

イツロウ タケミヤ ト シ コ マ ル ヤ マ シ ョ ウ イ チ 助 教 授 小 林 逸 郎 ・ 助 教 授 竹 宮 敏 子 ・ 教 授 丸 山 勝 一 〈受付昭和59年8月2日〉 緒 奮 Guillain-Barre' syndromeC以下G-B-S)')は,特 徴のある臨床症状,髄液の蛋白細胞解離を呈し, 予後良好な多発性神経炎である.Guillain2 )は, G -B-Sの臨床症状の程度の差より 4型に分類した. 1型は,四肢に限局する‘laforme inferieure',

2

型は,四肢と脳神経の両者の障害を有する‘la forme mixte spinale et mesocephalique',

3

型は 脳神経のみに限局する‘laforme mesocephalique' 4型は,多発性神経根症と精神異常を示す‘une forme de polyradiculoneurite avec troubles mentaux'で、ある. 最近, NINCDC委員会1)で, G-B-Sの診断基準 が定められ, variant formとして主に脳神経が侵 さ れ , 四 肢 麻 揮 が ほ と ん ど 認 め ら れ な い 型 を Polyneuritis Cranialris(以下P-C)としている. P-Cの報告は,本邦,諸外国を含めてきわめて少 なく,かつ脳神経麻痔は,両側多発性のことが多 い.今回,四肢の運動障害は軽微であるが,脳神 経で両側外転神経麻揮を伴った予後良好なP-C の症例を経験し,若干の知見を得たので報告する. 症 例 患者 S.N.37歳,家婦. 主訴・複視,手指のしびれ. 既往歴,家族歴:特記すべきことなし. 現病歴 昭和57年 6月21日,朝,突然複視が出現したが 放置.その後,複視が徐々に増強したため6月28 日当科受診.受診前までに,徴熱があったが,感 冒様症状,腹部症状,眼痛などは認めなかった. 初診時所見 一般理学的所見では,貧血,黄痘なく,胸腹部 にも異常を認めない. 神経学的所見として,意識は清明で,眼険下垂 はない.眼球は,正面視で両眼とも内転位にあり, 眼球運動は,両眼とも上,下,内転は十分である が,両眼の外転障害が認められた(写真1).片眼 視で行なっても同様の眼球運動制限を呈した.眼 振は,みられなかった.軽度の瞳孔不同〔右主主左〉 があるが,対光反射は,迅速であった.車高鞍は正 常であり,ベル現象は,陽性であった.左顔面の 軽度の筋力低下が認められた.その他の脳神経は, 正常範囲であった. 深部反射は,左右差なく,上肢で低下,下肢は 正常であり,病的反射は認められない.四肢の筋 力は,正常範囲であった.両手指先端に,しび 感を訴えたが,他覚的に知覚障害は認められない. 小脳症状や項部硬直は,みられなかった. 検査結果 一般生化学,血算,尿では,異常を認めない. Wa反応は陰性.空腹時血糖は,81mg/dlで糖尿病 は否定し得た.胸,腹部レ線,頭部単純レ線,脳

Takashi AIKA羽TA, M.D., Midori KATSURA, M.D., Maki HIRAMATSU, M.D., Itsuro KOBA Y ASHI, M.D., Toshiko TAKEMIYA, M.D. and Shoichi MARUYAMA, M.D. CDepartment of Neurology

(Director: prof. Shoichi MARUYAMA), Neurological Institute, Tokyo Women's Medical CollegeJ : A case report of bilateral abducence palsy in polyneuritis cranialis.

(2)

波,頭部C下scan,し、ずれも正常範囲であった.上 下肢の神経伝導速度 (MCV,SCV)は,正常範囲 であった.テンシロンテストは陰性. 髄液検査では,初圧130mmH2

0

であり, 5cc採 液後の終圧は, 30mmH2

0

であった.細胞は1/3, Nonne-Apelt, Pandyは陰性,蛋白42mg/dl,糖48 mg/dlであった. LR; Rt 181 経過 外来にて総合ビタ ミン剤の投与で、観察していた が,初診時 (6月28日〉にみられた両側外転神経 麻簿 (写真1)は 7月6日には改善傾向 (右> 左〉を示した.手指のしびれは 1週間で消失し た.

7

月20日には,右眼の外転障害は,完全に消 失したが,左眼の外転障害は残っていた(写真2). ;Lt 写真l 両側外転神経麻癖が認められる.

,.-A - 剛 嗣..

LR ; Rt

-

I

t

;

; Lt 写真2 右限の外転神経麻癖は改善し, 左限は,軽度の外転障害が認められる. -1075ー

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182 表 Polyneuritiscranialisの報告 脳 神 経 障 害 細髄液胞解の蛋離白 末神経障梢害 年 齢 性 前駆症状 予 後 右 左 Irouside (1930) 18 2 III -VI I1I,IV, VII 良 好 Masslon(1940〕 Verniory 34 ♀ lI!,IX, VI,VII III,

r

v

, V,lVII + + 良 好 豊 倉 (1959) 22 ♀ V,VlI,V田,X!-盟 V,VII,X!-XIl + 良 好 岡 嶋 (1962) 50 ♀ II, III -VI.V目 II,I1I-VI,Vsl + 良 好 近 藤 (1963) 7症例3歳 20-3 ♀23 4 1〔III-』VIl,X〕,X(,E)W,TI,3((VI,IX,X,〕4〔HI, VIl) ,5(VI, Vll),6(VI, VI,)l7(IIl-刊,IX,X) 25〔〔十〉〕 + 良 好 Munsat** (1965) 14ヵ15月症例40歳 ♀22 3 14((VIIIl)IV5(II〉IIIII, -V2(羽lIWVII3I(IIXXXX 〕〉 + 十 1-4( -) 5(:t) 良 好 Knox (1967) 18ヵ12月症例15歳 ♀26 6 全例片側のVI 6!12(+) 良 好 本 症 (1984) 37 ♀ VI VI + 良 好 一 」 *豊倉と同一症例**4例に小脳症状,症例2で水平注視障害,症例4で上方注視障害.

3

カ月後の

1

0

月には,全く複視はなく,両側外 転障害は,完全に治癒した. 考 察 両側外転神経麻痔を呈する鑑別診断として脳幹 部腫虜,脳圧充進時の随伴症状, くも膜下出血, 中枢神経系の感染,頭部外傷,多発性硬化症,

羽Ternick Korsacoff症候群, Tolosa Hunt症 候 群,重症筋無力症,糖尿病性眼筋麻癖3)-5)そして

G

-B

-

S

6

)

などヵ:ある. 本症をまとめると,中年女性で,誘因は特にな く,突然両側外転神経麻痩が出現し,初期には, 手指のしびれ感を訴えたが 1週間で消失した. 四肢の運動麻薄は,認められなかった.検査結果 では,末梢神経伝導速度は正常範囲.CT-scanで 異常なく,髄液で蛋白細胞解離がみられた.そし て,両側外転神経麻癖は 3カ月後には完全に回 復し,予後良好で、あった.以上のことより,本症 の病因として

G

-

B

-

S

のvariantformのp.Cが最 も考えられた. 1978年

Ad

Hoc NINCDO)委員会により,

G

-

B

-Sの診断基準が定められ, p-Cは,四肢の末梢神経 障害は,わずかであり,主に脳神経障害を呈し,

G

-

B

-

S

のvariantに位置づけられており,外眼筋 麻癖,失調症状,深部反射消失が認められる Fi -sher症候群と区別してあつかっている.そして

p-C

の特徴として,典型的な経過と予後良好を含め, 髄液の蛋白の上昇,急激に発症する対称的な両側 脳神経麻痔を挙げ,特に両側顔面神経麻痩が最も 多くみられるとしている. p-Cの報告は少なく,我々が調べえた範囲で6 報告1ト 11)にすぎなし、(表1). 6報告のp-cの特徴 として,発病年齢は,岡嶋9)らの50歳が最高である が,比較的若年者に多く,性差はみられない.前 駆症状は,半数近くが先行してみられている.脳 神経麻簿の発生は急であり,喋神経を除く他の11 脳神経の障害がみられている.そして特に,運動 性の脳神経が両側性におかされる傾向にある.近 藤10)らは 7症例のp-cにおいて,脳神経麻痔は

V

I

V

I

I

V

I

I

I

の順に多くみられたとしている. 髄液所見では,ほとんどの症例で蛋白細胞解離が みられており,四肢や体幹の末梢神経障害はあっ ても一過性できわめて軽微である.そして予後は 良好であり,全例で後遺症を残すことなく全治し ている.Muns以内主 5例のp-Cを報告し 4例 に失調がみられ,p-cの特徴の

1

っとしている.ま た,症例 2で水平性眼振が,症例 4で上方注視障 害がみられ,特異な症例と考えられた.Knoxll)は,

1

側の外転神経麻癖を呈した予後良好な小児の

1

5

例を報告している. 本症では,両側の外転神経麻痔がみられたが, 両側外転神経麻痔を呈した報告は,岡嶋9) 近藤10) らの各症例1,Munsat2 )の症例1,5にみられる 1076ー

(4)

が,単独に侵された症例はなく,他の外眼筋の麻 痔や,他の脳神経麻癖を伴っている症例であった. P-Cを,原因不明の多発性脳神経麻癖としてあ っかい 1つの疾患単位よりも,症候群に位置づ ける考え方8)があるが,今後,症例の積み重ねによ る検討が必要と考えられる. 結 語 両側外転神経麻簿を呈し,予後良好で、 Polyne-uritis Cranialisと考えられる 1症例を報告した. 文 献 1)Asbury

A_K.: Diagnostic considerations in Guillain-Barre's syndrome. Ann Neurol 9 1 ~5 (1981)

2) Munsat, T.L. and J.E. Barnes: Relation of multiple cranial nerve dysfunction to the Guil -lain-Barre' syndrome. J Neurol Neurosurg Psychiat 28115~ 120(1965)

3) Keane

J.R.: Bilateral sixth nerve palsy Arch Neurol 33 681~683 (1976)

4)Black, P.M. and P.H. Chaprnan: Transient

-1077-183 abducens paresis after shunting for hydroce -phalus. J Neurosurg 55 467~469 (1981)

5) Sharader, E.C. and N.S. Schlezinger: Neur o-ophthalmologic evaluation of abducens nerve paralysis. Arch Ophthal 63 108~ 114 (960) 6) Chusid

J.G. and G.H. Marquardt: Acute

infectious polyneuritis. Ann Inter Med 23 852~859 (1945)

7)Ironside, R.: Polyn巴uritiscranials, recover

-ing. Proc R Soc Med 23 94 (1930)

8)豊倉康夫・ほか:主として脳神経を侵した多発性 神経炎 (polyneuritiscranialis)の1例.内科 3 231~235 (1959) 9)岡 嶋 透 ・ ほ か 。 外 限 筋 麻 痔 を 主 徴 と し た 多 発 性神経炎の1例.内科 9 1165~ 1l 70 (1962) 10)近藤喜太郎・ほか:脳神経症状の呈する急性特発 性神経炎について.臨床神経 3 167~ 174(1963) 11)Knox, D.L., D.B., et aI.: Benign VI nerve palsies in children. Pediatrics 40560~ 564 (1967) 12)安藤一也・ほか 特発性Cranialpolyneuritis.神 経内科 3 387~ 396(1975)

参照

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