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2013 年 7 月 5 日 17:50 更新

中国の未来に影を落とす”闇の金融システム”

[橘玲の世界投資見聞録]

2008 年のリーマンショックの直後、中国は「内需拡大による経済成長促進」のため 4 兆元(約 60 兆 円)の大規模な景気対策事業を敢行し、世界じゅうから高い評価を得た。世界金融危機をアメリカを 中心とする「グローバル資本主義の終わり」だと囃し立てたひとたちは、国家が市場を管理する“赤 い資本主義”の方が優れているとして、これを(アメリカ中心のワシントンコンセンサスならぬ)“北 京コンセンサス”と呼んだ。 その中国で、金融市場の混乱が続いている。いったいなにが起きているのだろう。 外国人でも簡単に開ける人民元預金口座 私が中国で銀行口座を開設してみたのは 10 年ほど前のことだ。その当時の中国経済は破竹の勢いで、 多くの専門家は「2008 年の北京オリンピックか、遅くとも 2010 年の上海万博までには人民元は自由 化されるだろう」と予想していた。 周知のように人民元は管理通貨で、アメリカなどから「人為的に為替を安くすることで輸出を不当に 有利にしている」ときびしく批判されていた。そのため中国政府は、為替の変動幅を管理しつつも、 人民元高を容認せざるを得なくなっていた。すなわち、人民元を持っているだけでドルベースでは必 ず儲かることになる。 そのうえ中国のインフレ率は日本よりもはるかに高いから、当然、預金金利も高くなるはずだ。そう 考えると、人民元預金は(ドルベースでは)為替リスクがなく、日本円より金利も高いという、経済学 ではあり得ないフリーランチが成立していることになる。投資においてこれほど有利な機会はめった にないから、とりあえず試してみようと思ったのだ。 オフショア(タックスヘイヴン)を除き、先進国の多くは居住ビザを持たない外国人の銀行口座開設を 原則として認めていない(カナダ、オーストラリア、ニュージーランドなど移民国家は敷居が低い)。 新興国でも同様の規制をするところは多いが、中国は株式市場を外貨(米ドル、香港ドル)建てと人民 元建てに分離し、外国人投資家の人民元建て株式取引を認めない一方で、銀行の人民元口座はビザな しでもパスポートのみで自由に開設させている。 中国の人民元口座の特徴は、アリ地獄型になっていることだ。 名目上はさまざまな制約がついているものの、外貨から人民元への両替は比較的自由に行なえる。こ れは中国の経済発展が外資に依存していたためで、外貨の両替ができなければ外資系企業は中国に投 資できないし、従業員への賃金も払えない。

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しかしその一方で、人民元を外貨に両替することは原則として禁止されている。貿易などの実需に関 しては例外措置が定められているものの、中国国内の人民元をドルや円などの外貨に換えて海外送金 するには中央銀行の許可が必要だから、個人には事実上不可能だ(海外送金できない特別な口座で外 貨に両替することは可能)。 こうした規制はおそらくはアジア通貨危機の教訓で、金融不安をきっかけに外国人投資家がいっせい に資金を引き上げ、体制転覆を招いた現実を目の当たりにして、その対策として、中国への投資資金 を海外に戻せないようにしてしまえばいい、と考えたのだろう。 もっとも少額の預金者にとっては、こうした規制はなんら障害にはならない。中国の金融機関は銀聯 (Union Pay)という決済システムを使っているが、中国人旅行者の増加にともない、いまでは日本で も銀聯カードで支払ができるし、ATM から現金(日本円)を引き出すことも可能だ。あるいは、香港に 行ったついでに深センまで足を延ばし、銀行窓口で人民元を下ろして香港に持ち帰り、銀行や町の両 替商でドルや円に両替することも簡単にできる。 人民元の持ち込み、持ち出しは 2 万元(約 30 万円)までに制限されており、香港と深セン の間は出入国管理と税関検査があるが、税関はほぼフリーパスだ。その結果、中国国内から 持ち出された人民元の現金が香港の不動産に投資され、地価が異常なまでに高騰することに なった(もっとも、私は多額の人民元を持ち出したことはないから成功は保障しない)。

人民元預金は実質マイナス金利

このようになにもかも有利に見えた人民元預金だが、オリンピックや万博が終わっても厳し い為替管理はほとんど変わらず、あいかわらず中国国内の資金を海外送金できないままだ。 人民元の為替レートは予想どおり元高/ドル安に一方的に進んだが、リーマンショック後の “超円高”によって、対円では人民元安になってしまった。とはいえ、対米ドルで 4 割も切 り上がった円相場は、対人民元では 15%ほど高くなっただけだから、投資戦略として間違っ ていたわけではない(現在はアベノミクスによる円安で、元は 2000 年以降の最高値圏にあ る)。 10 年前の予想のなかで大きく外れたのが金利だ。 高度経済成長のさなかの中国のインフレ率は比較的落ち着いているものの、3%前後と日本よ りはるかに高い。その一方で、物価上昇率を反映するはずの預金金利はずっと 2%前後で、 インフレ率が 5%を越えた 2011 年でも 3.5%までしか上がらなかった。

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日本のゼロ金利を考えれば年利 3.5%ならはるかにマシだといえるかもしれないが、物価が 年率 5%で上がっているのだから、中国のひとびとからすれば実質金利はマイナス 1.5%で、 銀行に貯金しても損するだけという理不尽なことになっている。 なぜこのようなことが起きるかというと、中国では人民銀行(中国政府=共産党)が預金基 準金利と貸出基準金利を決めており、銀行間で競争が起きないようにしているからだ。銀行 は預金基準金利でお金を集め、貸出基準金利で融資することで確実に 3%程度の利ざやを得 ることができる。日本の金融業界はずっと大蔵省(現財務省)の護送船団方式といわれてき たが、それをはるかに上回る過保護ぶりだ。

(Photo:©Alt 時価総額で世界最大となった ICBC 中国工商銀行 Invest Com)

こうした金利政策は、預金者の(マイナス金利という)犠牲のうえに貸出金利を低く抑える 効果がある。たとえば 2011 年の貸出基準金利は 6.3%で、インフレ率が 5%なのだから、実 質金利は 1%程度しかない。 その結果、中国で公共投資の爆発的な拡大が起きた。 北京や上海は 10 年ほど前にようやく最初の地下鉄が開通したが、いまでは東京に匹敵する 地下鉄網ができている。中国の高速鉄道は列車事故でさんざん批判されたが、北京・上海を 中心に日本の新幹線を上回る広域ネットワークを築いた(運行も正確で、北京・上海間でも 高速鉄道を利用するひとが増えている)。高速道路はすでに内陸部の奥地にまで到達し、8 車線も当たり前だ。 公共事業を請け負う側からすれば、銀行から低金利で資金調達し、工事代金は政府(地方政 府)が払ってくれるのだから、こんなにおいしい話はない。このようにして、わずか 10 年 で中国の景観は大きく変わった。

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もちろん、こうした「赤い資本主義」には代償もともなう。人民元の為替レートを管理し、 金利を人為的に低く抑えようとすると、自由な資本移動を放棄しなければならない。これが 「国際金融のトリレンマ」で、中国がこれまでの成功方程式にこだわるかぎり、何年待って も人民元を自由に海外送金できるようになるはずはなかったのだ。 さらに、このおいしすぎる話にはもうひとつ大きな問題がある。 人民銀行(=共産党)の金利政策によって、中国のひとびとは常にマイナス金利を余儀なく されている。しかしこれは「銀行預金しても損するだけ」ということだから、放っておくと 預金者はいなくなってしまう。しかしその一方で、銀行は預金金利を引き上げて顧客を勧誘 することが認められていない。中国の銀行は政府によって過剰に守られているようにみえて、 実際にはこのままでは経営が成り立たなくなってしまうのだ。 こうして、預金とは別に資金調達する方法として、陰の銀行(シャドーバンキング)が登場 することになる。

拡大する「闇の銀行」

中国のシャドーバンキングは、もともとは政府の認可を受けていない闇銀行として始まった。 貸出金利が決められているということは、銀行にとってはリスクに応じた金利を設定できな いということだ。そのため融資は回収の確実な大企業や国有企業(央企)に偏ることになり、 ベンチャー企業や中小企業のようなハイリスクな融資先は金融システムから排除されてし まう。 そこで、民間から銀行預金よりも高い金利でお金を預かり、こうしたハイリスク企業に高利 で融資するビジネスが急速に拡大した。これが闇銀行で、一時、その存在感は表の銀行シス テムを脅かすまでになった。 この闇銀行は政府の管理下になく、金融システムを混乱させる要因になるので、けっきょく は厳しい取締りによってほとんど消滅してしまう。とはいえ、闇銀行が担ってきた融資機能 は市場には必要不可欠だ。それでどうなったかというと、あろうことか、表の銀行が闇銀行 を取り込んでしまったのだ。 闇銀行が一掃されるのと、「理財商品」と呼ばれる高金利のファンド(のようなもの)を中 国の銀行が我先に販売し始めるのはほぼ同じ時期だ。理財商品の仕組みは闇銀行と同じで、

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高い金利(年利 5~10%)でお金を集め、それを中小企業などに融資するのだ(その後、融 資先は地方政府の不動産開発事業にシフトしていく)。

(Photo:©Alt 深センの中国銀行。理財中心(資産運用センター)の大きな看板 Invest Com)

ところでこの理財商品には、誰がリスクをとっているのかわからない、という大きな問題が ある。 ファンドや債券であれば、融資先の破綻などで資金が回収できないときの損失は購入者が負 うことになる。これは、ハイイールド債(ジャンクボンド)と同じだ。 ところが理財商品の多くは、顧客に「元本保証」と説明して販売されているという。もしこ れが本当だとするならば、融資先の破綻リスクは理財商品を組成した信託会社が負うことに なる。もっとも信託会社にはリスクを引き受けるだけの財務基盤がなく、金融機関の子会社 の場合も多いので、最終的には販売した金融機関の責任が問われることになるだろう。 さらには、理財商品は実質的に地方政府の保証がついている、という見方もある。 融資先から資金回収できなくなれば「元本保証」していた金融機関も連鎖破綻してしまう。 しかし中国の金融機関は実質的に地方政府の管轄化にあり、金融機関が破綻すれば地方政府 の共産党幹部にとって大きな失点になる。彼らは出世の妨げになるような事態が起こらない ようどんなことでもするだろうから、理財商品のリスクは最終的には地方政府が負っている、 という理屈だ。 このように理財商品は、誰にとっても都合のいいように、わざとリスクの引き受け手をあい まいにしたまま販売されているきわめて特殊な金融商品だ。中国の銀行業監督管理委員会に よれば、そんな理財商品の残高が 2013 年 3 月末現在で 130 兆円もあるという(日経新聞 6 月 30 日朝刊)。これは中国の GDP の 16%、人民元預金残高(67 兆元)の 12%に匹敵する。

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さらに米金融大手 JP モルガンのアナリストは、「影の銀行」の融資残高は中国の GDP の約 7割にあたる 36 兆元(約 583 兆円)にのぼると試算している(朝日新聞 7 月 3 日朝刊)。 こちらのほうが実態に近いとすれば、とてつもない金額になる。 中国経済は、インフレ率に比べて人為的に金利を低く保つことで経済成長にターボチャージ ャーをつけることに成功した。しかしそれは同時に、銀行とは異なる巨大な“闇の金融シス テム”を生み出してしまった。 6 月 20 日、中国の短期金利(翌日物指標金利)が 1 日で 7%台から過去最高の 13%台に跳 ね上がるという異常な事態が起きた。中国の金融当局が、膨張する“闇の金融システム”を 制御しようと資金供給を絞ったためとされている。その後、金融市場の動揺を受けて資金供 給が再開された模様だが、そうなれば“官製闇銀行”はふたたび膨張を始めることになる。 中国の金融当局はいま、“闇の金融システム”を破綻させずに縮小するという綱渡りのよう な金融政策に取り組んでいる。しかしこれは、「人類史上最大」といわれる中国の不動産バ ブルを直撃することになるだろう。その構図については、また稿を改めて書いてみたい。

(Photo:©Alt 上海・外灘(バンド)の夜景。サーチライトのビルの手前が租界時代の中国銀行上海本店 Invest Com)

< 執筆・橘 玲(たちばな あきら)> 作家。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。2002 年、金融小説『マネーロンダ リング』(幻冬舎文庫)でデビュー。「新世紀の資本論」と評された『お金持ちになれる黄金 の羽根の拾い方』(幻冬舎)が 30 万部の大ベストセラーに。著書に究極の資産運用編』 『黄 金の扉を開ける賢者の海外投資術至高の銀行・証券編』 『黄金の扉を開ける賢者の海外投 資術(以上ダイヤモンド社)などがある。ザイ・オンラインとの共同サイト『橘玲の海外投資 の歩き方』にて、お金、投資についての考え方を連載中。

参照

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