1 音声学・音韻論_2010_0603 音韻論(phonology)概観 キーワード:音素、異音、自由変異形、相補分布、音声的類似、ミニマルペア、対立 音声学(phonetics) 音とそれに伴う現象を客観的に調べる分野 大きく 2 つのアプローチ: どのように発声器官を使って音を作るか(調音音声学 articulatory phonetics) 音(空気の振動)の物理的性質を機械によって測定する(音響音声学 acoustic phonetics) 音韻論(phonology) 音を言語体系の中での機能に着目して調べる分野 ある特定の言語で、意味の区別のためにどんな音(音素)が使われ、どのように機能しているか? 最小機能単位である「音素」を取り出し、音素がいくつあって(音素目録の作成)、それらがどのような体系・ 構造をなしているか?また、語においてどのような配列規則にしたがっているか(音素配列論)? 「ん」(撥音) /N/ 音素 [m] [n] [ŋ] [N] 異音 両唇音の前 歯茎音の前 軟口蓋音の前 その他 [p, b, m] [t, d, n] [k, g, ŋ] 母音[i, e]の直後で語末 cf. 円、韻 vs. 案、音、運 「ん」(撥音)/N/は、日本語話者にとって一つの音(音素 phoneme) 発音されるときには、その位置(環境)によってある特定の音(異音 allophone; より詳しくは位置変異形 positional variant)として現れる。 4つの異音は相補分布(complementary distribution)をなす。 音[x]と[y]は相補分布を成すとは、 音[x]と[y]は同一環境に現れない、すなわち、[x]が現れる所では[y]は現れず、[y]が現れる所では[x]は現れない。 cf. Superman と Clark Kent は相補分布を成し、同一人物。
4つの異音には音声的類似(phonetic similarity)が認められる。 すべて鼻音。 日本語のサ行子音 /s/ [ɕ] [s] イの前 その他 /s/は、日本語話者にとって一つの音(音素) 発音されるときには、環境によってある特定の異音として現れる。 2 つの異音は相補分布をなす。 2 つの異音には音声的類似が認められる。
2 日本語のタ行子音 /t/ [ʧ] [ʦ] [t] イの前 ウの前 その他 /t/は、日本語話者にとって一つの音(音素) 発音されるときには、環境によってある特定の異音として現れる。 3 つの異音は相補分布をなす。 3 つの異音には音声的類似が認められる。 日本語のハ行子音 /h/ [ç] [ɸ] [h] イの前 ウの前 その他 /h/は、日本語話者にとって一つの音(音素) 発音されるときには、環境によってある特定の異音として現れる。 3 つの異音は相補分布をなす。 3 つの異音には音声的類似が認められる。 「言語 A の音素」 言語 A の中で最小機能単位として扱われる「音」 音声的に類似する音の類で、言語 A の中で他の同様な類と対立するもの。 音素は言語 A の話者の脳の中に存在する。 語は音素で表示されて(音素のレベルで)長期記憶に保持されている。 言い間違いは音素レベルで起こる。(窪薗 80) さそり[sasori]/sasori/→さしろ[saɕiro]/sasiro/ 母音音素の交換 つまさき[tsumasaki]/tumasaki/→つまかし[tsumakaɕi]/tumakasi/子音音素の交換 対立する(意味を区別する働きのある)最小単位として扱われている「音」 好き [suki]([u]有声):[su∘ 日本語では、有声の[u]も無声の[u]も同じ音素/u/の異音として扱われている。 ki] ([u]無声) この違いは意味を区別しない キス[kisu] ([i]有声):[ki∘ 日本語では、有声の[i]も無声の[i]も同じ音素/i/の異音として扱われている。 su] ([u]無声) この違いは意味を区別しない すき:さき(先) [u][a]の違いは意味を区別する。/u/と/a/は、異なる音素
/i/ /u/ /a/
[i˳] [i] [ɯ˳] [ɯ] [a] [ɑ] [tai]([t]無気):[th ai] ([th 日本語では、有気の[t ]有気) この有気無気の違いは意味を区別しない。ともに「たい(鯛)」 h ]も無気の[t]も同じ音素/t/として扱われている。
3 [tai]:[dai] この有声無声の違いは意味を区別する。「鯛と「台」/t/と/d/は、異なる音素 /t/ /d/ [ʧ] [ts] [t] [th] [ʤ] [dz] [d] 自由変異形(free variant)(p. 57) 音[x]と[y]は対立することなく 音[x]と[y]は同じ音素に該当。同一音素の異なる異音。 同一環境に現れ、場合によりあるいは個人により自由に選択される。 ♦ 日本語の無声母音 ♦ 日本語の/z/ 「かぜ」のように母音間では破擦音の[dz]でも摩擦音の[z]でもよい。(服部 1960:663)(斎藤 161) 2 種類の異音(allophone) 位置変異形(positional variant) 自由変異形(free variant) 音素レベル=脳に記憶され、処理される。 異音レベル(位置変異形、自由変異形)=実際に発音される。 音素の抽出法 問題:ある言語に 2 つの音が観察されたとき、この 2 つの音はそれぞれ異なる音素に該当するのか、それとも同一 音素に該当する2つの異音なのか? ミニマルペア [異音の場合] が存在するならば、それぞれ異なる音素に該当する。 相補分布を示しかつ音声的類似 [自由変異形の場合] 2 音が対立しない(入れ替えても意味が変わらず、同じ語のまま)ならば、同一音素に該 当する。 があるのならば、同一音素に該当する。 ミニマルペア(minimal pair) 問題の 2 音が同じ位置に現れ、それ以外はまったく同一の音からなる 2 語 これら 2 音の違いだけが意味の区別に関わっている。2 音が対立する。 今[ima]と絵馬[ema];雨季[uki]、秋[aki] sin[sIn]と sing[sIŋ]
4 英語から追加例 英語の子音/l/ /l/ [ɫ] [l˳] [l] dark [ɫ] light [l] 母音の後ろ 無声子音 その他 または音節末 の後ろ free variant 英語では[h](音節頭に生起)と[ŋ](音節末に生起)は相補分布を示すが、音声的類似は見られない。したがっ て、同一の音素に該当するとは考えない。(p. 56) /h/ ≠ /ŋ/ 英語の無声両唇破裂音 /p/ [ph] [p┐ 母音の前で語頭 語末 その他 ] [p] free variant
5 three major units of analysis: feature, segment, syllable (pp. 49-50) features = the smallest building blocks of phonological structures segments = individual sounds made up of features (pp. 81-82) syllables = made up of segments (p. 65)
segments in contrast (p. 50)
Segments are said to contrast/be distinctive/be in opposition when their presence alone may distinguish forms with different meanings from each other
sip [sIp] and zip [zIp], tip, chip, dip, hip, lip, rip,
hit [hIt], hate [heIt], hot [hɑt], hat, hut, hurt, heat, heart
minimal pair (p. 51)
test for sound distinctiveness
two forms with distinct meanings that differ by only one segment found in the same position in each form (p. 51 table 2.1) minimal pair が存在 異なる音 すべての異なる音に対してすべての環境で minimal pair が見つかるわけではない。 英語の[h]と[ŋ]は異なる音だが、minimal pair が存在しない。 [h]の分布は語頭(word-initial position)に限られる。 [ŋ]の分布は語尾(word-final position)に限られる。 英語の[ʒ]と[ʤ]は異なる音だが、minimal pair が見つけにくい。 pleasure pledger
Vowel contrasts in English
English vowels 20 (cf. 竹林の表) simple vowels 12
diphthongs 8
Contrasts are language-specific. (p. 52) 音の区別の仕方は言語により異なる。
音[x]と[y]が A 語で対立していても、B 語でも対立するとは限らない。B 語では同じ音として扱われてい るかもしれない。
[ɛ][æ] 英語とトルコ(Table 2.3)