日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P2-14 324
-マインドフルトレーニングおよび注意訓練がマインドワンダリングに及ぼす影響
○梅田 亜友美1)、高橋 恵理子2)、根建 金男3) 1 )早稲田大学人間科学研究科、 2 )早稲田大学人間総合研究センター、 3 )早稲田大学人間科学学術院 問題と目的 近年,ネガティブ気分と関連する現象として,マイ ンドワンダリングが注目されている。マインドワンダ リングとは,現在遂行中の作業や課題から,それと無 関係な思考へと注意が移る,一般的かつ日常的な現象 である(Smallwood & Schooler, 2006)。マインドワ ンダリングが生じている時は生じていない時に比べ て,幸福感が低いことや(Killingsworth & Gilbert, 2010),マインドワンダリングの内容はネガティブ感 情 を 伴 い や す い こ と (Smallwood, Fitzgerald, Miles,& Phillips, 2009)が示されている。従って, 過剰なマインドワンダリングを減らすことによって, 心理的問題の改善につながると考えられる。 マインドワンダリングはマインドフルネスと対立概 念 で あ る こ と が 指 摘 さ れ て い る(Z e d e l i u s & Schooler, 2015)。マインドフルネスとは,「意図的 に,瞬間瞬間の体験に対して,評価判断することなく, 注意を向けることによって得られる気づき」と定義さ れている(Kabat-Zinn, 2003)。これまで,マインド フルネスを促進するマインドフルネストレーニング (以下,MT)によって,マインドワンダリングが減少 す る こ と が 示 さ れ て い る(Mrazek, Smallwood,& Schooler, 2012)。ただし,マインドフルネスのどの 要素がマインドワンダリングの減少に有効であるのか は明らかにされていない。 マインドフルネスは注意制御機能との関連が指摘さ れている(杉浦,2008)。注意制御機能とは,注意を 能動的にコントロールすることを指す。MTは注意制御 機能を向上させることによって,「距離をおくスキル」 を向上させ,それが症状の低減につながる可能性が示 唆されている(杉浦,2008)。 そこで,本研究ではMTと注意制御機能を向上させる トレーニング(Attention Training Technique ; 以 下ATT,Wells, 2007)がマインドワンダリングの減少 に効果があるか,MTとATTのどちらのトレーニングが よりマインドワンダリングを減少させるかについて調 べることを目的とし,実験的に検討を行った。 方法 実験参加者 首都圏の大学生および大学院生34名(男 性14名,女性20名;平均年齢21.62歳,SD =2.66)が本 実験に参加した。実験参加者は,MT群(12名),ATT群 (11名),統制群(11名)にランダムに割り振られた。 実験時期 2017年11月から12月,および2018年 5 月か ら 7 月にかけて実施した。 指標 ( 1 ) 日本語版Mind-Wandering Questionnaire (梶村・野村,2016;以下,MWQ):マインドワンダリ ング傾向を測定する質問紙である。( 2 )Sustained Attention to Response Task (Mrazek, Smallwood,& Schooler, 2012;以下SART):マインドワンダリング を間接的に測定するGO/NOGO課題である。実験参加者 は頻繁に出現する非ターゲット( 3 以外の数字)に出 来るだけ素早くキーを押して反応するように求めら れ,ターゲット(数字の 3 )が出現した場合はキーを 押さないように求められた。合計240の刺激が提示さ れ,216の非ターゲットと,24のターゲットがランダ ム に 出 現 し た。 刺 激 は2s提 示 さ れ, 刺 激 の 間 隔 は 500msで あ っ た。 パ フ ォ ー マ ン ス マ ー カ ー と し て, ターゲットに対し反応したSART errorと,反応時間の 変動係数 (reaction time [RT] CV)を算出した。 SART errorが多い,またはRTCVが高いほどマインドワ ンダリング傾向が高いことを表す。 手続き 実験はすべて,大学構内の教室において個別 に行われた。実験は 2 週間の期間をおいて,プレテス トとポストテストの 2 日間にわたって行われた。プレ テストでは,はじめに,実験参加者にMWQへの回答を 求め,SARTの練習試行(20回)を行った。そして,MT 群には20分間のMTを,ATT群には15分間のATTを,統制 群には15分間眠らずに何もしないよう求めた。MTで は,実験者の作成した音源を使用し,自発的な呼吸, 身体感覚,周囲の感覚に対して注意を広げていくよう 教示した。なお,AwarenessおよびAcceptanceの要素 の両方を含めるようにした。ATTでは,宮崎・岡田・ 松野・根建(未発表)の音源を用いた。その後,すべ ての群においてSARTの本番試行(10分間)を行った。 プレテストの後,MT群およびATT群には 2 週間毎日ト レーニングを行うよう求めた。プレテストとポストテ ストは,同様の手続きをとった。 倫理的配慮 本調査は,早稲田大学人を対象とする研 究に関する倫理審査委員会の承認を得て行われた(申 請番号:2017-196)。 結果 MTおよびATTによるマインドワンダリングの変化を 検討するため,MWQ得点およびSART error,SART RTCV をそれぞれ従属変数として,群(MT群,ATT群,統制群) と時期(プレテスト,ポストテスト)の 2 要因の分散 分析を行った(Table1)。MWQ得点を従属変数としたと日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P2-14 325 -こ ろ, 群 の 主 効 果 が 有 意 で あ っ た た め(F(2,34) =4.765,p <.05),Tukey法による多重比較を行ったと ころ,ATT群は統制群に比べて有意にMWQ得点が高かっ た。なお,時期の主効果(F(2,34)=0.013,ns )と,交 互作用(F(2,34)=0.095,ns )は有意ではなかった。次 に,SART errorを従属変数としたところ,群の主効果 (F(2,34)=0.752,ns ) と, 時 期 の 主 効 果(F(2,34) =1.195,ns ),交互作用(F(2,34)=1.255,ns )はいずれ も有意ではなかった。また,SART RTCVを従属変数と したところ,群の主効果(F(2,34)=0.564,ns )と,時 期の主効果(F(2,34)=0.321,ns ),交互作用(F(2,34) =0.975,ns )はいずれも有意ではなかった。 考察 本研究の目的は,MTとATTがマインドワンダリング の減少に効果があるか,MTとATTのどちらのトレーニ ングがよりマインドワンダリングを減少させるか検討 す る こ と で あ っ た。 実 験 の 結 果,MWQ得 点,SART error,SART RTCVのいずれも交互作用に有意でなく, 本研究において実施したMTおよびATTはマインドワン ダリングの減少に影響を及ぼさなかった。 本研究において結果が示されなかった要因につい て,第 1 に実験参加者の人数が考えられる。MTによっ てマインドワンダリングが減少することをSARTを用い て示したMrazek, Smallwood,& Schooler(2012)の実 験では60名のデータを分析対象としており,本研究に おいても実験参加者を増やすことによって結果が変わ る可能性が考えられる。第 2 に,本研究において行っ たMTは意図したように行われていなかった可能性が考 えられる。本研究で行ったMTでは,呼吸から周囲の感 覚へ注意を広げていくよう教示し,さらにAwareness およびAcceptanceの要素も含めたため,実験参加者に とってトレーニングの難易度が高かった可能性が考え られる。 このように,MTの実施には課題が残るものの,本研 究においてATTはマインドワンダリングの減少に影響 を及ぼさなかった。したがって,マインドワンダリン グの減少には必ずしも注意機能は関与していない可能 性が示唆された。MTは今後より簡単に習得可能な教示 を行うことによって,マインドワンダリングと関連を 検証していく必要があると考えられる。