留学記念エッセイ
2014 年 Beth Israel Medical Center 内科
Preliminary Course レジデント 影本容子
2015 年 7 月より米国の Tufts Medical Center で麻酔科の Residency に従事することとな り、麻酔科研修に加えて行うことが義務づけられている1 年間の Clinical Base Year を Mount Sinai Beth Israel の Internal Medicine で行わせて頂くこととなりました。西元先 生をはじめ、お世話になった全ての方々にこの場を借りてお礼を申し上げます。麻酔科 Residency 応募に関する情報は非常に少なく、私自身が情報収集に苦労したため、今回得 た情報と体験を報告します。
麻酔科
Residency
麻酔科Residency の期間は 3 年ですが、さらに 1 年間 Clinical Base Year と称して Internal Medicine, Pediatrics, Surgery, OBGYN, Family Practice, Transitional 等の トレーニングを行うことが義務付けられています。麻酔科の他に皮膚科、放射線科、眼科でも 専門科以外のトレーニングを1 年間行う必要があるため応募様式が類似しています。
麻酔科への応募が煩雑な理由は、Clinical Base Year (Preliminary Residency)と麻酔科 Residency (Advanced)二つのポジションへ同時に応募する必要があるためです。具体的に 言うと私は2014 年度のマッチで 2014 年 7 月からの Internal Medicine のポジションと 2015 年 7 月からの麻酔科のポジションを同時に得る必要がありました。Preliminary と Advanced がセットになった Categorical というプログラムもありますが、ポジションが少ない ためCategorical と Advanced 両方に応募することが一般的です。
Preliminary Residency は上記の通り Internal Medicine に限らず様々な科で行うことが 出来ます。このうちTransitional とは日本の初期研修のように複数の科をローテートするプ ログラムであり、時間的余裕があり競争率が高い印象でした。
横須賀海軍病院
私の留学準備の第一歩は横須賀海軍病院への応募から始まりました。横須賀海軍病院は 毎年6 人の日本人医師をインターンとして雇用しており、応募には以下の書類が必要です。 • Personal Statement (PS)を含む規定の応募書類 • 英文の推薦状 2 通 • 医学部の成績 PS や英文の推薦状など慣れない書類を用意するのは一苦労でしたが、それでも毎年 50 通 程の応募があるそうです。海軍病院は病床数47 床で病院の規模としては小さく、患者さんも 比較的元気な若い軍人とその家族であり、医師としてのスキルアップは望めませんが、アメリ カ式医療や医療英会話を学ぶにはこの上ない環境でした。日本人インターンとして最も重要 な任務は横須賀海軍病院で手に負えない重症患者を近隣の病院に搬送し、医療通訳として 機能することです。6 日に一回のオンコール(24 時間の搬送待機)と近隣病院との月 1 回ペ ースの症例発表会やその他のイベントで忙しいこともありましたが、ここで同志であり最高な アドバイザーである同期の先生方に出会えたことが今回のマッチにつながりました。USMLE
2011 年の NRMP のデータによると、アメリカの医学部を卒業し麻酔科にマッチした学生の USMLE の点数平均は step1 が 226、step2CK が 235 となっています。
グラフのIndependent Applicants とはアメリカの医学部卒業生以外全ての受験生を含む
ため、必ずしも私のようなInternational Medical Graduates (IMG)に当てはまるとは言え ませんが、少なくとも確実にマッチするにはアメリカの医学生より高得点を取る必要がありま す。しかもアメリカの医学生は研究、プレゼンテーション、パブリケーションやボランティア活動 の経験もあるためそうでない私はなおさらでした。
Step 1/ Step 2CK
準備期間がなかったため、USMLE World に重点を置き、ひたすら問題を解くという方法を とりました。参考書はStep 1 は”First Aid”、Step 2CK は”Master The Boards USMLE Step 2CK”を使いました。何より役に立ったのが、NBME Self-Assessment というオンライ ンの模試です。NBME の模試は 1 回 50-60 ドルと高額であるばかりか、解答すらもらえない ため最初は半信半疑でしたが、Step 1、Step 2CK とも本番はほぼ NBME の予想点通りで あり、他の模試と比べてもかなり正確でした。
Step 2CS
アメリカのkaplan で開催されている CS 5-Day Prep Program がお勧めです。この講習で は5 日間かけて step 2CS の講義、実践、模試、復習を行います。コース内容が実践的であ ることに加え、本番までの練習相手を見つけられるのもコースを受講するメリットです。私は kaplan が終了した日から試験会場近くのホテルに移動し、クラスで出来た友達と 1 週間後 の本番まで毎日繰り返し練習をしました。この試験はStep 1 や Step 2CK とは異なり、ひた すら反復練習あるのみなので練習相手が見つからない場合もusmleforum で練習相手を見 つけてskype で練習すると良いです。 Step 3 多くの日本人がしているように、コネチカット州で申し込みをしたところ問題なくスムーズに受 験できました。受験会場はグアムを選びましたが、仕切りがありスペースの広い綺麗な会場 でした。グアムの会場付近は車以外の交通手段がなく、どこへ行くにもタクシーが必要で不便 でしたが、飛行時間が3 時間半、時差が 1 時間というのはグアム会場の大きな魅力でした。 私はH1VISA 取得のため滑り込みで 2 月に受験しましたが、同じことを考えている人は多い
ようで、2 月は予約がとりづらかったので早めの申し込みが必要です。H1VISA 申請のた め、いつまでにStep 3 の受験を済ませるか悩むところですが、Mount Sinai Beth Israel の場合はMatch day (2014 年は 3 月 21 日)の 1 週間後に Step 3 の Score Report をメー ルで提出するよう連絡があったので、結果報告までの期間を考慮すると2 月下旬か 3 月上 旬までに受験を済ませておく必要がありました。勉強法は高得点を狙わなければ、USMLE World のみで十分だと思います。
Electronic Residency Application Service
(ERAS)
ERAS とは、応募書類、推薦状、Medical Student Performance Evaluations (MSPE)、 医学部の成績、USMLE の成績、写真などを応募したプログラムに送るための online サー ビスです。麻酔のプログラムは100 以上ありますが、それぞれに固有の応募書類を作成する 必要はなく、ERAS 上に提出物一式を登録すれば、あとは簡単なクリックで各プログラムへ の応募が完了します。 医学部の成績 競争率の高い科を志望する場合は医学部の成績も大事だと言われますが、私は成績表に" 可"が並んでいたため、面接の際に成績の悪さを指摘されることが多かったです。こればかり は医学生でない限りどうしようもありませんが、「日本の医学部では良い成績を取るのが難し いんだね」と好意的に捉えてくれるProgram Director もおり、IMG の成績は相対的な評価 が難しいため、アメリカの医学生の成績よりは重用視されていないのかもしれません。 MSPE 医学部の成績に加えて、医学部での評価を書類にして提出する必要があります。MSPE の 作成例を参照すると下のように医学部の成績が教科ごとにグラフ化して表記されています が、日本の医学部でこのような成績グラフを作成してもらった方は私の周りにはいませんでし た。私は文章のみの簡素なものを提出しましたが、特に問題ありませんでした。
写真 ERAS に登録する写真は解像度やサイズについても細かい規定があるため、写真館の方に 予め要望を伝えて撮影してもらうか自分で加工する必要があります。規定ではありません が、アメリカでは真顔よりも笑っている写真が好まれるという話です。 Personal Statement (PS) 私はPS を書くのが苦手で、堅苦しい形式的な文章を書いて提出したところ面接中もあまり内 容には触れられませんでした。アドバイスは出来ませんが、有料の添削サービスを使ったの で参考にしてください。 • http://www.essayedge.com • https://www.residencystatement.com
面接
面接への招待 2014 年度マッチの ERAS 解禁日は 9 月 15 日でした。私は数日遅れて応募を開始したので すが、面接への招待メールは9 月下旬から 11 月上旬にかけて送られてきました。招待メー ルもお断りメールも日本時間の夜中から早朝にかけて送られてくるため、この期間はメール が来たら起きて内容を確認することを繰り返し、招待メールに対しては先着順で面接日が決 まるため12 時間以内には返信するようにしていました。 面接旅行 渡米には国際線の航空券代金だけでなく、アメリカ国内の航空券代金、宿泊費、食費など費 用がかさむため、面接の日程をまとめるようにスケジュールを組み、私は11 月、12 月、1 月 の計3 回渡米しました。麻酔科のプログラムは前日に夕食会があることが大半ですので、連日面接を入れると休む暇がなく、また、12 月、1 月は雪で飛行機が遅れることが頻繁にある ためなるべく1 日は面接の間隔をあけるようにしていました。 夕食会 ほとんどの麻酔科プログラムで面接前夜に現レジデントと面接受験者による夕食会がありま した。面接とは違ってカジュアルな雰囲気の中、プログラムに関する率直な意見をレジデント から聞くことの出来る機会ですが、評価に全く関係ないとも言えないためあまりリラックスしす ぎず幾つかは質問を投げかけるように心がけました。また、私が受けたPreliminary Internal Medicine プログラムでは全て夕食会がありませんでした。 面接当日 まず行くと朝ご飯が提供され、その日のスケジュールについて連絡があります。面接官は大 抵1 人または 2 人で、20-30 分程の面接がプログラムによって 2 から 5 回ありました。面接 の質問は麻酔科の志望理由やわざわざアメリカに来る理由など一般的なものが主体で、口 頭で臨床問題を出されることもまれにありました。ほとんどのプログラムの面接で、面接前に プログラムの紹介プレセンテーションがあるため、面接の最後に必ず聞かれる”Do you have any questions?”という問いに備えるようにしていました。 面接後 前半は手書きでお礼の手紙を送っていましたが、アメリカの医学生に「返事をくれるかもしれ ないからメールにしている」と聞き、途中からお礼メールに変更しました。大抵は形式的な返 事が返って来ましたが、実際個人的にfeedback を下さる面接官もいたのでメールは有用で した。面接シーズン終了後にランキングオーダーを提出すると、あとはMatch Day を待つの みでした。
Match
マッチングのシステムは日本の初期臨床研修マッチングと同じで、自分のランキングオーダ ーとプログラム側のランキングとの兼ね合いで行き先が決まります。数年前にPrematch は 廃止されたそうですが、順位を予め受験者に知らせることは禁止されていないので事前に手 紙やメールでマッチする可能性を知らせてくれるプログラムもありました。Match Day にはメ ールが送られてきて、自分がどこにマッチしたか正式に分かります。帝京大学麻酔科
私は帝京大学麻酔科に所属していたため、麻酔科のトレーニングを受けながらアメリカの Residency に応募することが出来ました。帝京大学麻酔科には年休や修練医といった留学 志願者を支えるシステムが整っています。私は面接とUSMLE Step 3 受験のために 11 月から2 月にかけて計 4 回渡米しましたが、不定期に休みを取ったり、USMLE の試験勉強が 出来たのは帝京の画期的なシステムと教授や医局員の先生方のサポートのお陰でした。麻 酔科で留学を考えている先生はぜひ一度相談に行かれることをお勧めします。
参考
1. ACGME Anesthesiology requirements
https://www.acgme.org/acgmeweb/Portals/0/PFAssets/ProgramResources/999_Speci altySpecificRequirementsPGYCBY.pdf
2. NRMP Data
http://www.nrmp.org/wp-content/uploads/2013/08/chartingoutcomes2011.pdf 3. The United States Naval Hospital, Yokosuka
http://www.med.navy.mil/sites/nhyoko/Pages/IntershipExternship.aspx 4. MSPE example
