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[巻頭言]パリ同時多発テロ事件と地域研究者(臼杵陽)

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Academic year: 2021

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005 パリ同時多発テロ事件と地域研究者 004 米社会の価値観への挑戦だと受け止められることになった。あるいはスペインのマドリードで二〇〇四 年 に 列 車 が 爆 破 さ れ、 一 九 一 人 が 死 亡、 二 〇 〇 〇 人 以 上 が 負 傷 し た「 三 ・ 一 一 事 件 」 ( ス ペ イ ン で は そ の ように呼ばれているらしいが) をもこの一連のテロ事件の流れに含むべきなのかもしれない。 オランド大統領の口からテロという野蛮な行為に対して 「文明」 という言葉が発せられたのであるが、 二 〇 〇 一 年 の 九 ・ 一 一 事 件 時 に ブ ッ シ ュ・ ジ ュ ニ ア 大 統 領 が「 十 字 軍 」 と 口 走 っ た こ と と 相 通 ず る も の が あ る。 換 言 す れ ば、 今 回 は N A T O ( 北 大 西 洋 条 約 機 構 ) へ の「 グ ロ ー バ ル・ ジ ハ ー ド 」 の 挑 戦 と い う 対 立 図 式 が 作 ら れ て、 か つ て の「 文 明 の 衝 突 」 論 が 再 現 さ れ た よ う な か た ち に な っ た。 九 ・ 一 一 時 に はアメリカ対イスラームであったが、その後、その衝突はヨーロッパにまで波及し、西洋対イスラーム ( the West v.s. Islam ) といった拡大した二項対立になりつつある。その「西洋」の内実は限りなくイス ラームに対するキリスト教の防御的性格を帯びて、簡単にキリスト教対イスラームに転化しかねない危 険性もはらんでいるようにも思われる。 こ の 再 版「 文 明 の 衝 突 」 論 で は 九 ・ 一 一 事 件 の 時 よ り も、 よ り 深 刻 な 様 相 を 帯 び て い る。 パ リ で の テ ロ 実 行 犯 の 一 人 が ギ リ シ ア 経 由 で フ ラ ン ス に 入 っ た「 難 民 」 で あ っ た た め で あ る。 「 ア ラ ブ の 春 」 あ る い は シ リ ア 内 戦 以 降、 シ リ ア や リ ビ ア か ら 難 民 が ヨ ー ロ ッ パ 諸 国 に 大 量 に 流 れ 込 ん で い る。 と 同 時 に、 この難民問題は欧米社会におけるムスリム移民の問題にも連動し、新たなかたちでのイスラモフォビア ( イ ス ラ ー ム 恐 怖 症 ) 、 す な わ ち イ ス ラ ー ム あ る い は ム ス リ ム へ の 嫌 悪 が 欧 米 社 会 で 蔓 延 す る こ と に な っ た。その相乗効果によってマスメディアで 「ホーム ・ グローン (現地育ち) 」 の 「ローン ・ ウルフ (一匹狼) 」 と称される組織的背景を持たない個人テロを生み出しているという特徴もある。アメリカのカリフォル ニア州において起きた事件はその典型例であろう。 さ ら に、 事 件 後 の 一 二 月 に フ ラ ン ス で 行 わ れ た 州 議 会 選 挙 で は 極 右 政 党 の 国 民 戦 線 が 勝 利 を 収 め て、 二 〇 一 五 年 一 一 月 一 三 日、 「 パ リ 同 時 多 発 テ ロ 事 件 」 が 起 こ っ た。 風 刺 紙『 シ ャ ル リ ー・ エ ブ ド 』 編 集事務所が襲撃されたのが一月七日だったので、二〇一五年という年はパリというヨーロッパの中心都 市で起きた連続テロ事件に象徴されるといってもいいのかもしれない。同時に、二〇一五年は第二次世 界大戦が終結してから七〇周年でもあった。二〇〇一年のアメリカでの「同時多発テロ事件」以来、 「テ ロとの戦い」あるいは「対テロ戦争」という名前の国家主体対非国家主体という非対称的な戦争が敢行 されたが、 それへの反発はグローバルなレベルにまで拡散し、 以後ムスリムによるテロ行為が頻発して、 「グローバル・ジハード」というような表現がメディアでも頻繁に使用されるようになった。 さて、オランド・フランス大統領はテロ事件を受けて、フランスは「戦争状態にある」とし、非常事 態 宣 言 を 行 っ た。 そ し て フ ラ ン ス は I S ( イ ス ラ ー ム 国 ) が テ ロ に か か わ っ た と し て I S に 対 す る 空 爆 をいっそう激化させたのである。まさにフランス版「対テロ戦争」の狼煙を上げたといってもいいだろ う。だからこそ、今回の事件は二一世紀に入って起こった二〇〇一年のニューヨークとワシントンにお ける「同時多発テロ事件」との連続性をもって語ることのできる事態でもある。 今 回 の パ リ に お け る「 同 時 多 発 テ ロ 事 件 」 は、 二 〇 〇 一 年 の ニ ュ ー ヨ ー ク お よ び ワ シ ン ト ン で の 九・ 一 一 事 件、 二 〇 〇 五 年 の ロ ン ド ン で の 七 ・ 七 事 件 に 続 く も の で あ り、 ム ス リ ム に よ る 大 西 洋 を 挟 ん だ 欧 [巻頭言]

同時多発

事件

地域研究者

臼杵

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006 とりわけムスリム移民排斥の流れが促進されると同時に、イスラモフォビアもさらに拡大していくとい う悪循環も出てきている。人種主義は深刻化しているのである。 今回のパリでのテロ事件を少しばかり距離を置いて観察してみると、二〇一五年九月末から開始され たロシア軍によるシリア内戦への軍事介入が契機となって事態が動き始めていることが指摘できるであ ろう。というのも、ロシア軍はISを空爆するという名目で介入を開始し、地上戦ではアサド政権を支 援するイランの革命防衛隊とレバノンのシーア派民兵組織ヒズブッラーがロシア軍と共同歩調をとるか たちで行動し、ISから現シリア体制の失地を回復したとも報じられているからである。 そのため、ISは劣勢におかれ、それまでの戦術を転換して、グローバル・ジハードも行うようにな ったという指摘もある。同時に、ISに忠誠を誓うテロ組織によるロシアへの報復が行われたりしてい る。エジプトのシナイ半島に拠点を置く「エルサレムの支援者 (アンサール ・ バイト ・ アルマクディス) 」 と称するグループがロシア機墜落の犯行声明を行ったところにも表れている。世界はいよいよ新たな局 面に入ったともいうことができ、今こそ地域研究者の同時代を見る眼が問われているということなのか もしれない。 [表紙写真] (大)ロシア/上海協力機構(SCO)首脳会議 (二〇一五年七月一〇日、 ©Photoshot /時事通信フォト) (小)ロシア・ヴォルゴグラードの戦勝記念館にて (二〇一〇年三月二六日、塩谷昌史撮影) [目次写真] 上海の外灘から眺める浦東新区の夜景 (二〇一二年九月二三日、中山大将撮影)

参照

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