カーゴバイク構造についての基礎的考察 : コンジ
ョイント分析に基づいた使用者の嗜好分析
著者名
原 優人, 黄 ロビン
雑誌名
名古屋学芸大学メディア造形学部研究紀要
巻
14
ページ
4-7
発行年
2021-03-31
URL
http://id.nii.ac.jp/1095/00001575/
はじめに
手軽な移動手段として、自転車は古くから世界中で普及し てきた。近代になって原付や自動車など乗り物が多様化し てきたが、ここ数年では環境意識の台頭から自転車の存在が 見直され、再び注目を浴びている。欧州をはじめ、通勤通学 路の自転車道路の整備も世界中で進んでいる。 また、昨今COVID-19の影響で、感染予防の観点から公共交 通機関の利用を控える流れがあり、金銭的な余裕もないため 自転車を利用する人が相当に増えたと報道されている。 しかしながら、この背景の中に、自転車の負荷容量が制限 されていることが問題点になり、如何に運べる荷物などを拡 大・拡張することはデザインの課題であった。 本研究の目的は、一番負荷容量が要求される、子どもを送 迎するバイクの最適形態・構造を解明することである。数 ある自転車の種類から比較的に負荷容量の大きいカーゴバ イクに着目し、設計者の知見ではなく、使用者の嗜好による シートの位置・向きや車輪の数・配置などを調査・解析する基 礎的考察である。1 概要
1.1 研究プロセス
本研究では商品企画・開発の現場で製品の仕様・規格を決 定する際によく使われる「コンジョイント分析」を利用した。 先ずは、カーゴバイクの構造に関わる形態構成要素(=「属 性」)を分解・抽出し、次に各属性に対して、いくつかの可能な デザイン選択肢(=「水準」)を設定し、コンジョイントで計算 して調査用の組合せ見本・サンプル(=「コンセプト・パター ン」)を算出。 そして、三次元CADソフト「Rhinoceros」を用いて、各コン セプトパターンを立体化・可視化し、それを元にアンケート 調査を実施した。調査結果をコンジョイント分析にかけ、効 用値と寄与率などを算出し、ユーザーが重視する形態属性 (寄与率が高い属性)と、最適解の構造(効用値が高い水準の 組合せ)を得た。 最後に、その最適解の結果を元に、最適なカーゴバイク構 造のプロトタイプ模型の制作を行った。1.2 コンジョイント分析とは
ユーザーが望む商品の要素項目は様々あり、しかも決定 的な「唯一の決め手」という項目が殆どない。多くの場合は、 ユーザーの自覚なしで複数の項目が複雑に絡み合っている。 コンジョイント分析(conjoint analysis)は、商品の持つ複数01
カーゴバイク構造についての基礎的考察
コンジョイント分析に基づいた使用者の嗜好分析
Fundamental Consideration about Freight Bicycle
Structure
User preference analysis based on the "Conjoint Analysis"
大学院 メディア造形研究科・大学院生
Guraduate school of Media and design・guraduate student
原 優人
Yuto HARAデザイン学科・教授
Department of Desgin・Professor
論 文 の要素について、ユーザーはどの要素に関心の重きを置いて いるのか、また最も好まれるような要素の組み合わせはどれ かを統計的に算出可能な多変量解析手法である。 本研究では、RICOHが開発したコンジョイント分析ソフ トを使用。
2 考察
2.1 属性抽出と水準設定
ユーザーが求める、カーゴバイクの最適な構造を導き出す 為に、形態構成要素の属性を4つに抽出・設定した。 ①シート向き: 子どもが前向きで乗った場合と対面で乗った場合、感 覚が違う為、シートの向きを属性として抽出した。 (a)「対面」(後ろ向き、顔が見える)と、(b)「前向き」(子ど もの顔が見えない)2種類の水準を設定した。 ②シート高さ: シートが高いと子どもの顔が近くに来る為、様子がよ く見えるが、重心が上がる為、安定性が低くなる。一方、 低い場所になると安定性は上がるが、飛び石や埃を吸 い込むリスクが上がり、子どもの体感速度も上がる為、 怖いと感じる可能性もある。 この属性に、シートの高さを(a)「中間」、(b)「低い」、(c)「高 い」の三つの水準に設定。 ③シート位置: 子どもが乗るシートの前後位置を決める属性だ。前輪 の前、またはハンドルと前輪の間であれば、子どもの様 子がよく見えるが視野妨害の恐れが出る。一方、後輪と サドルの間、あるいは後輪の後ろでは、様子は良く分か らないが、自転車のステアリング構造が通常の自転車 と類似する。 この属性に、シートの相対位置を(a)「前輪の前」、(b)「ハ ンドルと前輪の間」、(c)「後輪とサドルの間」、(d)「後輪 の後ろ」の四つの水準に設定。 ④車輪位置(車輪配置): カーゴバイクの車輪数は2つから4つまで考えられる。 3輪タイプでは前方が2輪のタイプと後方が2輪のタイ プに別れ、前2輪の場合では前輪にステアリング機構が つく事が多い、後2輪の場合ではステアリング機構は通 常の自転車と同じ構造だ。また、2輪は現状日本で流通 しているタイプの自転車であり、3輪、4輪と車輪が増 えるほど安定感やグリップ力が増すが、重量が重くな り、取り回しが悪くなる。 この属性の水準を(a)「2,1」(前2後1)、(b)「1,2」(前1後2)、 (c)「2,2」(前2後2)、(d)「1,1」(前1後1)に設定・表記した。2.2 コンセプトパターンの作成
分析にかけるデータを収集する為、アンケートに使用する コンセプトパターン(コンセプト表、直交表とも言われる)を 算出・作成した(表1)。カーゴバイクの4つ属性、それぞれの 水準を組合せて、A〜Pまで16個のコンセプトパターンが出 来た。 コンセプト表 表1:コンセプト表2.3 アンケート実施
コンセプトパターンと属性・水準の解説を元に、Google formを用い、アンケート調査の実施・集計を行った。 3次元CAD「Rhinoceros」を使用し、各コンセプトの概略な パーツの位置関係イメージCGと写真を提示し(図1,2)、嗜好 評価を1点から5点まで、16のコンセプトパターンに点数を 付けて貰った。 女性18名、男性16名、合計34名分の回答が集まった。なお、 回答者の内16名は子育て中の親、又は子育て経験者。 図1:3DCG2.4 結果と考察
アンケートの結果によって、コンセプトの平均順位は、青 字のA「対面」、「中間」、「ハンドルとサドルの間」、「2 1」の組み 合わせデザイン案が最高好感度となった。一方、最低好感度 は、赤字のNの「対面」、「低い」、「ハンドルとサドルの間」、「1 2」の組み合わせだった。(表2) そして、16のコンセプト全てに対する34名の回答者の評 価を集計し、コンジョイント分析で計算・解析する。コン ジョイント分析では属性の全体における寄与率を算出し、各 水準の効用値も出る。 寄与率の計算結果の順位は「シート位置」>「車輪位置」> 「シート高さ」>「シート向き」だった。特に属性③「シート位 置」が69.9%、ユーザーが最も重視する要素であることが分 かった。次の属性④「車輪位置」が18.7%で、この属性もユー ザーの嗜好に相当影響している。一方、「シート向き」は2.1% だけで、ユーザーはあまり関心を示しておらず、無視しても いい形態要素だ。 各属性の効用値が一番高い水準を組み合わせると、ユー ザー嗜好にとって、最適なカーゴバイクの構造になる。今回 の調査ではシート位置が「前輪とサドルの間」、シートの高さ が「中間」、シートの向きが「対面」で、車輪配置が前方2輪・後 方1輪の3輪タイプカーゴバイクが最も人気だったことが判 明した。(表3)3 結果に基づいたプロトタイプ製作
3.1 3Dモデルの作成
コンジョイント分析の結果に基づき、最適構造のプロトタ イプの製作を行った。最終的に3Dプリンターに出力する為、 平面のスケッチや図面だけではなく、3DCADRhinocerosで カーゴバイクの構造を考えていた。(図3) 効用値、寄与率で数値が高かった、シート位置を中心に設 計し、3輪タイプで、シート向きの変更や、人数にも対応が可 能な様に設計した。JIDAが発刊している「子どもの身体図 鑑」の1歳から6歳までのデータを参考に人型のデータも入 れ、3DCADの画面内でもサイズ検討をしながら、設計を進 めた。[1]3.2 3Dプリンターでの試作
今回は3Dプリンターでプロトタイプ模型を複数制作し た。過去では割り箸やスチレンボードなどを使用し、アナロ グな手法で試作・検討した。手作業で製作する模型と比べ、 図2:3DCG 青字 最高好感度 赤字 最低高感度 4.09 3.35 2.18 2.76 2.38 3.00 2.50 3.76 2.12 1.97 3.85 2.85 2.50 1.91 2.82 3.76 A B C D E F G H I J K L M N O P コンセプトの平均順位 コンセプト 好感度 表2:コンセプト平均順位 効用値、寄与率表 表3:効用値 寄与率表 図3:3D3CAD Rhinoceros論 文 プリントまでの時間はかかるが、手間がかからず、CADで 設計した通りの、クオリティの高い模型を作る事が出来た。 1台ずつプリント、検討を繰り返しながら行った。
3.3 プロトタイプ製作
フィージビリティスタディ(feasibility study=「実行可能性 調査」)分析・検討のために、プロトタイピングが必要だった。 自転車の車道が狭く、道が入り組んだ日本の道路環境に合 わせ、プロトタイプ製作を行った。全長2m横幅60cm以上あ る海外製の大型カーゴバイクと比較して、今回は日本の風土 に適したコンパクトなサイズで設計を実施した。 子どもをも乗せるため、全長185cm、幅60cm以内で日本の 道路交通法でも歩道が走行可能なサイズを目指し、空気抵抗 も考え前方投影面積も考慮し、基本はコンジョイント分析の 結果に基づき、設計を行った。 1台目では、子ども2人を横並びで、自転車に乗せられる様 に設計し、向きは対面での固定にした。 しかし横並びの場合、前方投影面積が広がり、空気抵抗が 大きくなるため、向かい風が強い場所では前に進むことが困 難になることが予想できる。(図4) 2台目は、シートを縦2列の設計にする事で、前方投影面積 を減らすことを目的として設計を行った。スタイリングが シャープになり、1台目と比較し空気抵抗が大きくなる問題 は解決した。(図5) 3台目は、1台目と2台目のアイデアを使い、シート縦2列、 1台目でデッドスペースになっていた足元に、荷台を増設し スペースの有効活用を行った。(図6)4 まとめ・展望
カーゴバイク構造についての本研究は、筆者が大学時代の 卒業制作を見越したものである。将来は、時代の進歩によ り、自動運転の電気自動車や、様々なモビリティが登場する と思われるが、エコで健康的な乗り物である自転車は、これ からも相変わらず更に普及して愛用されるであろう。 今回の調査研究によって、カーゴバイクのシート部分や車 輪の位置関係など、様々なパターンがある中、被験者の回答 を取り入れ分析する事で、ユーザーが望む最適な組み合わせ を導き出すことができた。 プロトタイプ製作ではまだまだ改善点は多々あるかもし れないが、今回調査研究の結果によって、カーゴバイクの最 適な基本的構造と形態が解明・決着し、今後のデザイン提案 と制作において、良い参考となった。5 謝辞
まずはアンケート調査にご協力・ご回答して下さった方々 に御礼を申し上げます。 つきましては、データ解析などに無料で使用させていただ きました株式会社リコー・CS調査センターにも感謝いたし ます。 参考文献 [1] 日本インダストリアルデザイン協会 ワークスコーポレーション 発行・編集/ CHILDREN'S BODY GUIDE/子どものからだ図鑑,(2013)図4:プロトタイプ模型
図6:プロトタイプ模型