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岸本千佳司著『台湾半導体企業の競争戦略―戦略の進化と能力構築―』(紹介)

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Academic year: 2021

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(1)

岸本千佳司著『台湾半導体企業の競争戦略―戦略の

進化と能力構築―』(紹介)

著者

吉岡 英美

権利

Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア

経済研究所 / Institute of Developing

Economies, Japan External Trade Organization

(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp

雑誌名

アジア経済

60

1

ページ

104-105

発行年

2019-03

出版者

日本貿易振興機構アジア経済研究所

URL

http://hdl.handle.net/2344/00050759

(2)

岸本千佳司著

『台湾半導体企業の競争戦略

―戦略の進化と能力構築―

日本評論社 2017 年 vii + 326 ページ 吉 岡 英 美 半導体産業では,1980 年代から 1990 年代の日本 企業による対米キャッチアップとその後の再逆転, 1990 年代以降のアジア企業による対日キャッチ アップというダイナミックな変化が観察された。な かでも,主役のひとつである台湾企業の登場は,そ の目覚ましい成長ぶりもさることながら,ファブレ ス(設計専業)・ファウンドリ(製造請負)という新 たなビジネスモデルを切り拓き,半導体産業に組織 的な革新をもたらしたという意味で,画期をなすも のであった。 本書は,「ファブレス・ファウンドリ分業体制の詳 細な分析を行い,台湾企業の競争戦略と能力構築の 実態を明らかにする」(1 ページ)ことにより,「後発 であった台湾企業が,1990 年代以降,半導体産業で 急成長できたのは何故か」(13 ページ)という問い に迫ろうとする試みである。台湾の半導体企業が競 争優位を構築しえた外的・内的な要因それ自体は, 国内外の数多くの調査研究により,かなりの程度把 握されている。これに対して本書は,経営学者の楠 木健氏が提唱する「ストーリーとしての競争戦略」 (戦略ストーリー)という枠組みによりながら,台湾 半導体企業の競争戦略の全体像を描き出そうとする ところに特徴がある。 戦略ストーリーとは,企業が顧客に提供する基本 的な価値(コンセプト)を実現するよう,他社との 違いをつくり出す個々の構成要素(ポジショニング と組織能力)を一貫した論理で結びつけ,最終的に 意図する競争優位へとまとめ上げたものとして競争 戦略を捉える方法である。ここで重要な点は,戦略 ストーリーの一貫性の基礎となり持続的な競争優位 の源泉ともなる「クリティカル・コア」として,競 合他社からすると一見して非合理な要素が競争戦略 の中核に組み込まれることである。こうすることで 競合企業による模倣がおのずと阻止されるため,長 期にわたる競争優位の持続が可能になる。 それでは,台湾半導体企業の事例では,どのよう な戦略ストーリーが浮かび上がるのだろうか。例え ば,メディアテック社に代表される台湾のファブレ ス企業に関してみると,著者は,その成功要因とさ れる構成要素のなかでも「顧客密着,現場サポート」 を「クリティカル・コア」に位置づける。台湾のファ ブレス企業は,コスト重視の標準品に注力するにも かかわらず,場合によってはエンジニアを駐在させ るかたちで,海外も含めた顧客企業に手厚い量産支 援を提供してきた。そもそも標準品を生産する部品 企業が顧客のシステム製品の量産立ち上げに労力を 費やすこと自体,非合理にみえる。だが,きめ細か い現場密着サポートは,自らの製品開発・改良に欠 かせない顧客ニーズをつかむための情報源になると ともに,成長する新興国市場に参入するための強力 な武器にもなったのである。 こうした現場密着サポートは,台湾ファブレス企 業による合理的な選択の結果というよりも,その後 発性に起因するものとみられる。つまり,おくれて 参入した台湾ファブレス企業は事業開始当初,欧米 のファブレス企業が相対的に軽視していた台湾や中 国のローエンド・ミドルエンド市場に販路を求めざ るを得ず,また技術能力の劣る後発国の顧客企業を 開拓するには,至れり尽くせりのサポートが必要不 可欠であった。とはいえ,「災い転じて福となし」, 現場密着サポートはいまや欧米の競合企業には真似 のできない台湾独自の強みに転化した,というわけ である。 以上のファブレスの事例に加えて,本書では,台 湾のファウンドリ企業が急成長できたのはなぜか, また台湾企業の台頭と入れ替わるように日本の半導 体企業の多くが凋落したのはなぜか,という問いに 関しても,戦略ストーリーの手法で分析が行われて いる。さらに,ファブレスとファウンドリのそれぞ れの業界において,同じビジネスモデルであるにも かかわらず,台湾企業の間に大きな業績格差が生じ たのはなぜか,という問いについても検討される。 これらの多岐にわたる論点とともに,企業関係者の 多方面にわたる数々の証言から,台湾企業と日本企 業の戦略が生き生きと浮かび上がってくる点も,本 『アジア経済』LⅩ-1(2019.3) ⓒ IDE-JETRO 2019 https://doi.org/10.24765/ajiakeizai.60.1_104 紹 介

(3)

書の魅力である。本書は,いささか総花的ではある が,台湾半導体研究の集大成であり,その到達点を 知ることのできる一冊であるといえる。 文献リスト 楠木建 2010.『ストーリーとしての競争戦略―優れた 戦略の条件―』東洋経済新報社 (熊本大学法学部教授) 105 紹 介

参照

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